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状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 : 「分」「くらい」を中心に

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(1)

状態変化動詞との共起から見る複文における程度表

現 : 「分」「くらい」を中心に

著者

察 薫捷

雑誌名

言語科学論集

18

ページ

51-62

発行年

2014-12-01

URL

http://hdl.handle.net/10097/58223

(2)

状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現

一「分」「くらい」を中心にー

薫 捷

キーワード:状態変化、程度、従属接続詞、限界動詞、くらい、分 要旨 この論文は程度の従属接続詞「分」と「くらい」が状態変化動詞文に出現する場合 を調査し、これらが主節の述語動調の程度をどのように描き出すかを明らかにす るものである。程度を事象のー側面という考え方に基づき、調査結果から次の三つ を主張する。一、状態変化動詞の自他と関係なく、「分」「くらい」がこれらと共起す る場合主節事象の程度を表す。二、程度の表し方が異なり、「分」は状態変化の落差 を持ち出すことによって程度を描き出すのに対し、「くらい」は事象の情態・様子を 描くことによって程度を描写する。三、程度と量の対極において、「状態変化の落 差jという修飾法はより量に近いことが明らかになった。

1

.

はじめに 主節事象の程度を表すのに、(

1

)のように「くらいjなどの程度の従属接続調lを用 いる方法や、(2)のように「非常に」などの程度副詞を用いる方法がある。 (1)担当車はその隊員が責任を持って整備清掃していて、それこそホイールに顔が

堕金三主主2

、ぴかぴかに磨き上げられている。(

BCCWJ

/日明恩(著)/『鎮火報』) (2)北海道は雪も多く皇賞

ι

冷える地域です。 どちらも述語動調にかかり、副詞(的)機能を果たしながら主節事象の程度を表す が、(

1

)にある「くらい」節を「圭童ζ磨き上げられている」に置き換えると座りが悪く なる。このことから、程度の従属接続調を程度副調と完全に同一視すべきではないよ うに思われ、「くらいjなどが用いられた副調節は程度副調と異なる方法で主節事象 の程度を描き出すと言えよう。「磨き上げられる」という事象には、「どのくらいピカ ピカになったjという程度的側面のほか、「磨き上げ

J

という動作的要素もあり、「汚い 状態、から締麗になった

J

という変化の側面もある。程度副調は純粋に程度的側面にか かり、その度合を描き出すのであるが、「くらい」は程度だけではなく、磨き上げたこ

(3)

52 状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 一「分」「くらい」を中心にー とによって顔が映るように締麗になったという事象の変化や様子にも触れていると 思われる(cf.仁田2002)。この違いを念頭に、程度の従属接続詞が用いられる場合、ど のようにして主節事象の程度を描き出すかを明らかにすることを目的とする。2節で 先行研究をまとめながら研究の背景を述べ、調査方法も説明する。3節で考察し、 4で 調査結果の持つ文法的意味を論じる。

2

.

先行研究 本稿では複文における程度表現のあり方を探ろうとし、「分」と「くらい」が状態変 化動調文に出現する場合、どのように主節事象の程度を表すかを調査するが、本論に 入る前に、「分」と「くらい

J

を対象にした理由および状態変化動調文に限る理由、とい う二点について先行研究と関連づけながら説明しておきたい。 程度の従属接続詞はいくつかあるが、「程度」の意味合いがもっとも一般的に認識 されるのは「くらい」「ほど」だろう。ほかには、(3)( 4)に示す「分

J

「以上(に)」などもあ げられる。これらも「くらい」と同様に下線部で主節事象の程度を修飾している。修飾 される部分は波線で示す。 (3)会話に注意を向ける分だけ、運転への注意が減る。(毎日新聞2007/02/02) (4)宝培は日本語を話せるという以上に芳幸に興味を持っているようには思えな かりた。(

BCCWJ

/遠藤町子(著)/『サイト出版いのちのことば社(発売)

J

)

詳細は3節で改めて述べるが、「分」と「くらいjは異なる描写法で主節事象の程度を 表し出す。この違いは程度の従属接続詞を体系的にまとめるためのガイドラインを 示唆する。今後は程度の従属接続詞を調査していくことでその体系を明らかにする が、今回は体系的に対極に位置するように思われるとの理由で「くらい」と「分」を対 象に調査した結果を本稿にまとめる。 複文においては、事象の程度的側面がどのように表されるかを検討するにあたっ て、全ての事象が程度という側面を持つわけではないことを把握しておきたい。 (5)主 堂ζ

通主交

(6)彬庭に桜の木が主 主

ι

室生。(cf.庭に桜の木がたくさん/三本全長。) (5)は状態変化動詞「温まる」を述語に取る状態変化事象であるが、温度の変化があ り、その程度を「非常にjで表す。一方、(6)は「ある

J

で表す存在事象であり、桜の木の 「量

J

はあるものの、程度はない。程度的側面を持つ事象を対象にすることが重要であ るが、課題は「程度」という概念の定義がなされていないようである。程度副詞の研究

(4)

を調べたところ、程度副調の定義はあるが、程度の定義は記されていないようであ る。代わりに、工藤(1983)・仁田(2002)における程度副詞の記述から、程度という概 念がどのように考えられたか一瞥することができる。 (7)程度副調とは「(相対的な)状態性の意味をもっ語にかかって、その程度を限定す る副調(工藤(1983:177)」である (8)「程度の副調は、形容詞に係り、その属性・状態の程度限定を行うが、それに対し て、量の副調は、形容詞に係りその属性・状態の程度限定を行うことができない。 (仁田2002:162」) (7) (8)から、程度はある種の「状態・属性」みたいなものだと理解して良いだろう。 また、(

8

)にあるように程度と対照的に量という概念が存在する。程度および量はそ れぞれ異なる副詞でもって表現される。言い換えれば、言語活動において事象の程度 を描き出すか、事象の量を描き出すかによって異なる統語的手段が取られる。後に

3

-1で改めて言及するが、動調文では事象の程度と事象の量がかなり接近する場合が ある。このことを重ねて、程度という概念を規定することが一段と難しくなる。従っ て、本稿は敢えて程度の定義をせず、実例から読み取れた程度表現のあり様を記述す ることを試みる。また、よく知られているように、名調丈・形容調文は動調文と異なる 文法的振る舞いを見せることが多い。なお、従来の文法研究は動詞丈を中心に検討し てきた。程度をある種の「状態・属性」みたいなものだと理解する上で、属性を表すの が基本的には名詞文・形容調文であることを考慮し、本稿の調査対象を状態性のある 事象を表す動調丈とする。いわゆる状態動調で表す状態性事象は(

5

)のような状態 変化事象や(6)のような存在事象ほか、「できる」「ーられる」に代表される可能文が ある。本稿は議論をしやすくするために(

9

)の構文を取り、[事象

2

)は状態変化動詞を

f

半っているもののみ検討する。 (9)[事象 l]+程度の従属接続調、[事象 2) 状態変化動詞文を調査するにあたって、状態動調のリストを工藤(1995)から収集 する。工藤(1995)ではアスペクトの観点から動調を分類し、そのうち状態変化と関連 する動調もまとめられている。状態変化事象を表す動調が二つある。一つは「主体変 化動調」に属する「ものの無意志的(状態・位置)変化動調」であり、もう一つは「主体動 作・客体変化動調」の「客体の状態変化・位置変化をひきおこす動詞」である。紙幅の関 係で[表l]に一部の動調のみ示す。また、工藤(1995)のリストに位置変化をも状態変化 動詞のーっと捉えているが、これに関して3-1で「温める」が表す温度変化(いわゆる

(5)

54 状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 一「分」「くらい」を中心にー 一般的に認識している状態変化)と「落とす」が表す位置変化が同一視できる理由を 述べる(cf.

(

1

3

))。 表l 工藤(1995)の動調リスト あたたまる、あく、うれる、おれる、かたずく、かたまる、かれ る、かわく、かわる、きれる、くさる、くずれる、くだける、く もる、きえる、こわれる、さける、さめる、しぬ、しぼむ、しま ものの無意志 る、すむ、そまる、そろう、たおれる、ただれる、ちらかる、つ 的(状態・位置) ぶれる、とける、とまる、なおる、にえる、にごる、ぬれる、は 変化動詞 げる、はれる、ひえる、ひろがる、ふける、ふさがる、ふとる、 ほどける、まがる、むくむ、むける、やせる、やける、やつれる、 やぶれる、ょう、わく、わかれる、われる、よごれる… あたためる、あける、あむ、いためる、おる、かえる、かたずけ る、かためる、かわかす、きざむ、きる、くずす、くだく、けす、 客体の状態変 けずる、ころす、こわす、さく、さます、しばる、しぼる、しめ 化・位置変化を る、そめる、そろえる、たおす、たく、たたむ、たばねる、ちら ひきおこす動 かす、つぶす、とく、とじる、とめる、なおす、にる、ぬう、ぬ 詞 らす、ひやす、ひらく、ひろげる、ふさぐ、ほる、ほどく、まげ る、まくる、まとめる、みがく、むく、むすぶ、ゃく、やぶる、 ゆでる、わかす、わける、わる、よごす、ゆるめる… [表1]で分かるように両者が対になっており、前者は自動調で後者は他動詞である。 そこで、便宜的に「ものの無意志的(状態・位置)変化動詞

J

を状態変化自動詞と呼ぴ、 「客体の状態変化・位置変化をひきおこす動詞

J

を状態変化他動詞と呼ぶことにする。

3

.

考 察

3-1.

「分」について 「分」はいくつかの用法があるが、察(

2

0

1

3

)を参考にして(

1

0

)のように主節の程度 を示す用法を対象とする20

(

1

0

)そのポンプが熱を移動させるので、室外側が温まるぶん、本体側が冷えます。

(BCCWJ

/Y

a

h

o

o

l

知恵袋) まずは主節が状態変化自動詞を述語に取る倒をみる。

(6)

(11)サイクリングはウォーキングよりも行動範囲が広く、あちこちの自然を観察し て回るには MTBでちょいちょい乗りまわすのがいい。フィールド半径も大きく 主亘金、自然観察の楽しみも広史ヱ支いく。(

BCCWJ

/瀬戸圭祐(著)/『家族で楽 しむ!アウトドア大研究J) 状態変化自動詞が表す事象には「状態性」「変化」という側面を含まれるというよう に分析することができる。動的事象は時間の進行とともに進行していくが、[図ー]に (11)「広がる」の進行を示す。 図一 時凋の進行 一−−

.

W

}

L

___一註ii~ll一一一端~!L___地.~!L____当戸1]… 状態変化の進行

!All [A]

[A2=Bl] [B]

[B2=Cl] [C]

時一」i

l

l

[C2=Dl] [Dl=El]

… 「広がる」とは少しでも広がったら、それだけ状態変化が達成されるため、「「変化達 成が漸次的に累加され、そのたびに程度の異なる結果状態が成立する

J

という原理的 には無限に起こりうる変化(佐野1998・:9)」である。そのため、事象の進行は状態変化 の進行となる。少しずつ進行していく事象を分解してみれば、その一つ一つを[A][B]

[

C

J

...のように捉えることができる。「変化」とは時点[a2]から見ればそれに対応する [A2]の状態は[Al]のと違い、変わったということである。状態変化事象にある「変化j は状態の変化であり、この変化は時点[al]から時点[a2]という時間の幅において「状態 の落差」が存在することを意味する。こういった意味で状態変化事象を「変化

J

と「状 態性

J

に分析するのは厳密ではない。正確には「状態の変化([A2]が[Al]と違うこと)」 と「状態の落差([

A

]という幅があるとのこと)」に分析すべきだろう。更に言うと、状 態変化動詞が表す「状態」そのものは従来の程度副調の研究で言及される状態性とは 異なる(cf.(7) (8))。程度副調が係る典型的な状態性は「明るい一明るくない」という ような相補対立の概念である。[図二]に示すようにこれが非離散的で計量できないも のである。

(7)

56 明るくない 状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 −「分」「くらいJを中心にー 図二 明るい あま_?,明るくない 玄-~支良明るい 来危!_;_明るい このような非離散的な状態性に対して「程度」は現状がスケールのどこかに位置す るかを指示するものである。こういった意味で程度は一つ幅のある状態(スケールと も言える)に存在する概念と言えよう。一方、状態変化事象に見られる状態とは、時間 とともに変化する物事の、その時その時の様子であるが、[図一]では[Al][A2]・・・で示 している。ある時点の状態を基本的に計量できるものとして捉えているようである。 例えば、「デング熱が代々木公園から新宿中央公固までに広がった」という時、数値が 明示されていないが、距離が確実に捉えられる。状態変化事象にある「程度」という のは、時点[a2]で、の広がる状態[A2]が[Al]に比べてどれくらい違うかということであ る。要するに、事象が進行している聞に任意の二つの時点において「状態の落差

J

が存 在し、程度はその「状態の落差」がどのくらいあるのかを指し示す概念である。[

A

]で 示す「状態の落差jという幅に係る点から言うと、[図二]に示す非離散的状態性との共 通点がみられる。主節の事象に「状態の落差」が存在することで程度の読みが捉えら れると述べたが、問題は前件の「分」節がどのようにして主節事象の程度を描き出す か。まず(11)の前後件事象の関係に注目したい。フィールドが大きくならなければ、 楽しみも広がらない。「分」を取る複文では前件事象の先行が必要である。この点は後 に検討する「くらい」とは異なる。仮にフィールドが

10%

大きくなったら、楽しみもそ れに相応して増加するが、フィールドがどんどん大きくなっていけば、楽しみもどん どん増幅していくと読み取れる。楽しみの広がり具合がフィールドの増加具合に対 応している。従って、後件にのみ状態の落差が存在するのではなく、前件にも同じよ うに状態の落差が存在することが指摘できる。さらに、前件と後件の「状態の落差

J

が相当することこそ、「分」節の意味するところである。まとめると、「分」は後件事象 の成立が前件事象の成立に依存するという条件付きのもとで、前件事象が進行する 間にある任意の二つの時点における状態の落差を計算して後件にかかるが、前件事 象の「状態の落差」に後件事象のそれが相当することで後件事象の程度が描き出され る。 以下に参考として状態変化自動調文を二例ほどあげておく。

(8)

(12)ドニ鈴木がニヤリと笑い、その笑いに気がついた安部渡も、見えない飛沫を浴 びたように、額から鼻にかけての線を青く明瞭にした。目の力が強まるぶん、口 元は旦三立支くる。(BCCWJ/高樹のぶ子(著)/『ナポリ魔の風』) (13)人聞が自然から恵みをもらう分だけ自然は豊住生。(BCCWJ/武田邦彦(著)/ 『二つの環境いのちは続いている』) (12) (13)にも前件が後件に先行して成立することが観察され、前後件にみられる 「状態の落差

J

が相当することが認めもれる。補足的に状態変化動調ではない(13)の 前件の「状態の落差jがどう考えるかを説明する。「(恵みを)もらう」は所有関係の変 化を引き起こす動詞であるが、こういった動詞も[図ー]のように分析できる。時間と ともに進行していく事象において、仮に[al]は動作の開始時点とすれば[Al]の状態は 何ももらっていないことになる。そして、[A勾はいくらかが分からないが、もらった 状態である。このように所有関係において、[A勾が[Al]と異なるという「状態の変化」 があり、それにより[

A

]という「状態の落差」が生じる。自然の破壊状態がこの落差に ー相当するということである。[図ー]のような考え方により、「広がる」「壊れる」などい わゆる一般的に認識されている状態変化事象だけではなく、「もらう」「借りる」など の所有事象や「落とす」「離すjなど位置変化事象をも同様に分析することができ、さ まざまな事象から程度的側面との関連を洗い出せると思われる。 次は主状態変化他動詞を述語に取る例をみる。 (14)だから、商人に対しては、非常な高率の課税をしたのである。しかし、その重税 は、必ず商品の値段にはねかえる。商人が、課税された分、値段を上げるのは、あ たりまえである。(BCCWJ/加地伸行(著)/『時を越えて新しく孔子』) (15)通勤に使う無駄な時間を節約できる分、仕事やプライベートの時間に当てられ 主主。(BCCWJ/伊藤華子(著)/高橋慈子(著)/『スモールオフィスを始めたい女 性のための家庭をオフィスにする

SOHO

読本.I) 状態変化他動調は状態変化自動詞と異なり、漸次的な変化ではない。そのため、一 つの時間軸においては[A][B][C]・ ・ ・のように何回も事象の完了が捉えられるわけでは ない。[図三]に示すように、開始時点[al]と終了時点[a2]がある。それに対応して状態 [Al]と[A勾があり、(14)の「(値段を)上げる」で言えば、[Al]は上げていない状態で、 [A勾は上げた状態になるが、これにより「状態の変化

J

が生じ、両者の聞に[A]という 「状態の落差」がある。従って、状態変化他動詞文も同じく「状態の落差」という幅が捉 えられる。

(9)

58 状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 「分」「くらい」を中心にー 図三 時間の遂行

_

J

J

ふ一一一一一一一一一一一一一一一___

Li:~一一歩

事象の遂行 且 [A] [Al] [A2] また、前件事象が後件事象に先行して成立し、主節事象にある「状態の落差」が前件 事象のそれに相当することも変わりはない。しかし、状態変化他動調においては後件 事象にある状態の落差を程度と規定していいかが問題になる。例えば、(15)にある 「当てる」は「主i主ム当てる」が言えて、「主主

ι

当てるJが言えないのである。「たく さん」は、程度のみならず量をも修飾できる量程度副詞であるが、「非常に」は程度し か修飾できない純粋程度副調である。つまり、「たくさん」がかかり、「非常に」がかか らないものは量である(cf.工藤

1

9

8

3

、仁田2

0

0

2

)。量程度副調としか共起できないこ とは、「分」節が修飾するのが主節の「量的変化」であることの傍証になろう。ただし、 この「量的変化」が「(当てられる)時間の量」とも捉えるし、「当てるという動作の量」 とも捉えられる。一方、「非常に長い時間」が言えることからも分かるように、時間量 は程度と捉えることもできそうである。また、「当てるという動作の量」に関しでも程 度に似通った部分がある。状態変化他動詞が他動調ということで「状態の変化」−「状 態の落差」のほかに「動作」という要素が加わってくる。動作という側面を持つこと は、事象進行の聞の、二つの時点における計算は「状態の落差」だけではなく、動作量 の計算や時間量の計算もできるようになると意味する。(14)(15)もそうだが、これは 動作動調に特に顕著に観察される。例えば、「走るスビートが早くなる分、同じ時間で 遠く走ってしまう」では、主節の走行距離がスビートの早くなる度合に相応して長く なることであるが、主節事象の動作量が「分」節の変化の程度に相当することである。 また、「若いころ怠けていた分、大人になってから勉強に時間をかけたJは「分」節で主 節の時間量を修飾限定している。このように、動調によっては状態の落差の計算は動 作量や時間量の計算に平行して存在するが、この平行性は「程度Jと「量」の連続性に 深く関連する。状態変化他動詞事象に見られる状態の落差は純粋な程度から少し量 に逸脱しているように見受けられるが、程度も量もその概念の定義を明確に提示す ることができない現状では、本稿ではひとまず(14)(15)も程度としておく。程度と量 の連続性についての議論は今後の機会に譲る。

(10)

本節の考察をまとめると、「分」は自他と関係なく、状態変化動調と共起すれば主節 事象の程度を描き出すが、主節事象の程度が前件事象の程度に相当する。また、事象 の程度は二つの時点における落差の計算によって描き出されることを述べた。「分」 に見られる程度は、状態の落差がどれくらいあるか、その落差の幅を描写するもので ある

3-2.

「くらい」について 「くらい」はいくつかの用法があるが、高橋(2

0

0

5

)を参考にして、主節の程度性を表 す(1

6

)を対象とし、検討する。

(

1

6

)だいたいこの裁判は、田中一人をのぞいて、関係被告人、関係証人が、検事調 ベの段階で、次から次へしゃべってしまい、検事調書の信用性が評価された ら、それだけで裁判が終わってしまうくらい、調書がそろっているのである。

(BCCWJ

/立花隆(著)/『ロッキード裁判とその時代.I) まずは主節が状態変化自動詞を述語に取る例をみる。

(

1

7

)彼女を眺めていると必ず、瞳孔がほとんど笑えるくらい巨大にひろがってしま うのを意識せずにはいられなかった。(BCCWJ/ニツク・ホーンピイ(著)/森田義 信(訳)/『アバウト・ア・ボーイj)

(

1

8

)「夕暮れどきなんかね、虫も人も景色も、どこまでが誰でどこからが誰だか全企 らなくなってしまうくらい、み旦涯五三三しまうの」(BCCWJ/畑山博(著)/『神 よりも尊き者たち』)

(

1

9

)ひげがまた毛づくろいできるくらい伸びるころには、グロッグは一時間ほど起 き上がって、手紙を書いたり話したりできるようになっていた。(BCCWJ/ピー ター・デイキンスン(著)/唐沢則幸(訳)/『エヴァが目ざめるときJ) これらの例を観察すると、「くらい」と「分」の違いが二点指摘できる。第一、「くら い」節の主節に対する修飾法は「分」節と異なる。「分」節は二つの時点における状態 変化の落差を程度として提示するのだが、「くらいJ節は事象の様子でもって程度を 描き出す。(1

7

)を例にして言えば、「くらい」節が述語「広がる」の度合を修飾している が、笑える時と笑えない時の、瞳の聞き具合の違いで「広がる

J

度合を描写しているの ではなく、どのように広がるかを提示することで程度を描写している。そのために

(

2

0

)に示すとおり、(1

7

)を様態の「ように」置き換えても適格な文である。(1

8

)(

1

9

)も 同様で「ように」に置き換えられる。文脈との繋ぎ合わせの都合で多少座りが悪くな

(11)

60 状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 一「分」「くらい」を中心にー るが、意味的には大きく変わらないように思われる。 (20)瞳孔がほとんど笑えるよ主主巨大にひろがって (21)分からなくなってしまう主主主入り混じって (22)毛づくろいできる主主主伸びる 第二、「くらい」にみられる前後件事象の関係も「分」と異なる。既述したように、 「分」の場合は前件が後件に先行して成立することが必要であり、「前件−後件」は「原 因・理由一結果」の結び付きで成り立っている。一方、「くらい」の場合はむしろその逆 で「結果−原因・理由」の結び付きになっている。(17)は「巨大に広がっているから、ほ とんど笑えるように見える」ことだし、(18)は「入り交じっているから、わからなく なってしまう」ことだし、(19)は「伸びるから、毛づくろいできる」ことである。ただ、 これは前件事象という結果が実際に生じたという意味ではない。後件事象が進行し ていけば、前件事象まで引き起こされるとのことである。したがって、「くらい」では 「死ぬくらい疲れる」のような比聡表現を取ることができる。この点は、前後件が事実 関係を成す「分」と違う。 次は主節が状態変化他動調を述語に取る例をみる。 (23)担当車はその隊員が責任を持って整備清掃していて、それこそホイールJこ顔が 堕金三主主三、ぴかぴかに軍主よ~主主いる。(BCCWJ/日明恩(著)/『鎮火報J) (24)あ、笑ってくれたのかなと思うくらい、かすかに表情を良主主くれた。 (BCCWJ/鈴木健二(著)/『気くばりのすすめ』) (25)これを注文すると、うんざりするくらい、どっさり皿に盛ってくれる。 (BCCWJ/マツモトヨーコ(著)/『マツモトヨーコの脱日常紀行旅する絵描き

.

l

)

「くらい」節は主節が状態変化他動調を取る場合も状態変化自動詞と同様で、想定 される結果である前件事象を用いてどのように変わったか、という変化の変わり様 で程度を描き出す。例えば、(23)は「ホイールに顔が映るよ_

2

J

三ぴかぴかに磨き上げ られて」に置き換えられる。以上の考察をまとめると、「くらい」は主節が状態変化動 詞であれば、主節事象の程度を表し、状態変化自動詞か状態変化他動詞かによって変 わることがないようである。なお、程度の表し方は「分」と異なり、状態変化の様子・情 態を描写することによって程度を描き出す。「くらい」に見られる程度は、状態がどの ように変わったか、その変わり様を描写するものである。 ‘ ・ 』

(12)

4

.

結論

3

では「分」「くらい」を考察したが、その結果を[表2]にまとめる。本稿は事象をいく つかの側面に分析できる複合体という考え方に基づき、程度を事象のー側面と見な す。複文においてはこの側面がどのように描き出されるかに注目し、「分

J

と「くらい」 の表現を検討した。最後に、[表2]にまとめた結果はどのような文法的意味を持っかを 考えてみたい。 表2 主節の程度を修飾する場合 程度の表し方 前後件の関係 分 状態の落差を計算し 原因ー結果の事実 状態変化自動詞・他動詞文両方 て主節に係る 関係で結び付く く 想定の結果を用いて、 ら 想定の結果一原因 し、 状態変化自動詞・他動詞文両方 変わり様を描き出す の結び付き ことで程度を表す 第一、程度の表し方が異なるとの結果は程度の従属接続調を少なくとも二種類に 分けることができると示唆する。これにより、程度の従属接続調を体系的にまとめる ためのガイドラインが見えてきたと思われる。 第二に、「分」にみられる程度の表し方は程度と量の連続性を示す現象である。結論 を言っておくと「状態変化の落差」というのは不可算な状態変化を「数量的に」捉える ことである。( 10)を(26)として再掲する。 (26)そのポンプが熱を移動させるので、室外側が温まるぶん、本体側が冷えます。 例えば室外側と本体側の温度変化が1度対1度の関係で変わるとする。仮に室外側 が25度から26度にl度温まると、本体側も26度から25度に変わって1度冷えることに なる。「分」節自体は明確な数値を示さないが、このように主節動調の程度を描き出し ている。この解釈原理は数量詞の連用用法と同じである。北原(1994:8戸 9)では数量 詞がどのように主節動調の数量的変動を描き出すかについて、(

2

7

)を例にこう述べ ている。(

2

7

)「の数量詞は、述部の表す<変動>の、開始以前と完了以後との間の数量 差を示すことが本来であり(中略)く変動〉とは、その開始以前と完了以後との聞の先 行調の数量に変化が招来される、ということ」である。

(

2

7

)

a.(後期の)平均点が(前期の平均点より)

!

2

.

主上がる。 b.(今日の)出席者が(昨日の出席者より) 3人減る。(北原1994:8(32))

(13)

62 状態変化動詞との共起から見る複文における程度表現 一「分」「くらいJを中心にー

(

2

6

)と(2

7

)は、下線部で述語動詞の変化を連用修飾する点に共通しているが、これ だけではない。数量詞をとる(2

7

)は事象の開始時点と完了時点における数量的変化 を計算して述語にかかるのだが、「分」をとる(2

6

)は開始時点と完了時点とは限らず、 事象が進行する聞の任意の二つの時点における状態変化の差を計算して主節にかか るのである。要するに「分」節の解釈原理は基本的に数量詞と共通している。程度と量 は連続性のある対極的な概念として捉えれば、その連続性内実を突き詰めるカギは 「二つの時点における計算」だと考えられる。なお、この計算は限界点を要するとも意 味する。程度の従属接続詞が状態変化動詞のような限界動詞と共起しやすいのもこ のためであろう。今後は限界点との関係を含めて検討することが求められる。 引用文献 北原博雄(1994)「数量詞の連用修飾機能ー数量調と先行詞との関係一」『文芸研究』第137号pp.1-10 村木新次郎(2012)『日本語の品詞体系とその周辺』ひつじ書房 工 藤 浩 (1983)「程度副詞をめぐって」『副用語の研究Jpp.176-198 工藤真由美(1995)『アスペクト・テンス体系とテクストー現代日本語の時間の表現ー』ひつじ書房 佐野由紀子(1998)「程度目j詞と主体変化動詞との共起」『日本語科学J3pp.7-22 察 蕪 嬢 (2013)「形式fill調「分」の用法記述一一副調節を形成する場合を対象に」『日本語/日本語教育研究 [4Uココ出版pp.93-108 高橋太郎(2005)『日本語の文法』ひつじ書房 t二回義雄(2002)「程度量の副詞J『副調的表現の諸相』pp.145-200くろしお出版 1.村木(2012:136-13のは「従属接続詞とみなさなければならいもの」という節では、従属接続調の特徴とし て次の4つをあげている。「①語業的意味をもたず、文法的な意味をもっている。②格の体系を持たない。語 形が固定している。③(擬似)連体節をうける。④時間・原因・理由・目的などの状況成分としてもちいられ る。」本稿ではこの村木(2012)に従い、これらの特徴を備え、程度の状況成分としてもちいられるものを程 度の従属接続調と呼ぶ。 2.前件全体が主節を連用修飾するもののみ対象とする。表面上同じく(9)の構文を取っていても前件全 体が述語動詞の項だと思われる場合は除多する。例えば「やはり使う分だけ液体用の密閉容器に移す。 (BCCWJ/IDNO. LBk4.ー

α

め55)Jでは、「使う分だけ主容器に移す」とのことなので対象から外す。また、豪 (2013)で(3)を「分」の比例用法としたが、本稿では[主節事象の程度]を修飾する用法とする。その理由はこ のような例では「噛めば噛むほど、味が出る」のように必ず比例と読み取れる必然性はなく、あくまでも「比 例と解釈することができる」とのことにある。 一東北大学大学院生ー .._

参照

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