空間認知特性に着眼した高齢運転者が加害者となる
出会い頭事故対策に関する応用的研究
― 2019年度 タカタ財団助成研究論文 ―
ISSN 2185-8950
研究実施メンバー
研究代表者
公益財団法人豊田都市交通研究所
研究部
主席研究員
三村
泰広
研究協力者
公益財団法人豊田都市交通研究所
研究部長兼主幹研究員
安藤
良輔
大同大学工学部
講師
樋口
恵一
公益財団法人豊田都市交通研究所
主任研究員
楊 甲
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報告書概要
高齢運転者は,無信号交差点における出会い頭事故の多さが特徴として知られる.無信号 出会い頭事故においては,視認性の観点からカメラやレーダが主流となっている ASV(先進安 全自動車)単独による解決に課題が予想されるなかで,交差点空間のあり方について政策論 的観点から議論を重ねることが重要である. 本研究は,2018 年度に高齢運転者が加害者となる出会い頭事故が発生する無信号交差点の 空間特性を定量的に明らかにするとともに,交差点空間特性からみた高齢運転者が加害者と なる出会い頭事故の予測モデルを構築している.2019 年度は,当該予測モデルより導出され た高齢運転者が出合い頭事故の加害者となりやすい空間特性を有する無信号交差点における 高齢運転者の空間認知特性について VR 映像を用いた実験室実験を通じて明らかにした. 選定された2交差点を対象に,高齢者 29 名(73.4±3.9 歳),非高齢者 14 名(34.3±12.7 歳)の計 43 名を対象に実施した結果,性差や身体機能の差の調整がなされたなかで,高齢運 転者は「停止中」及び「停止線から隅切り」の区間において,有意に水平方向の視線移動距離 が少ない,すなわち,空間認知に課題のある可能性が高いことがわかった.また,無信号交 差点における水平方向の視線移動距離の多さは,視力といった視機能に関連する能力より, むしろ柔軟性や平衡性や敏捷性といった全身の運動機能に有意に関連していることがわかっ た.3
目 次
1. はじめに ··· 4 背景と目的 ··· 4 研究体制 ··· 5 2. 高齢者の空間認知特性に関する基礎的知見の把握 ··· 6 3. 交差点空間における高齢運転者の空間認知特性の把握 ··· 8 方法 ··· 8 3.1.1. 対象交差点の選定 ··· 8 3.1.2. 対象交差点の VR 映像の作成 ··· 10 3.1.3. 被験者の募集 ··· 12 3.1.4. 注視挙動の把握 ··· 12 3.1.5. 身体機能の把握 ··· 16 結果 ··· 19 3.2.1. 実験実施内容の妥当性 ··· 19 3.2.2. 視線移動距離 ··· 21 3.2.3. 身体機能の低下と視線移動距離の関係 ··· 25 4. 高齢運転者の空間認知特性からみた無信号交差点における対策案の検討 ··· 30 本研究の成果と対策案の検討 ··· 30 本研究の課題 ··· 304
1.はじめに
背景と目的 高齢運転者は,無信号交差点における出会い頭事故の多さが特徴として知られる.この原 因として自動車技術会が発行する「高齢者運転適性ハンドブック」(2005)によれば,相手の 車の見落とし,速度誤認,信号・標識の見落とし,小さな移動体の見落としなど,認知機能, 特に視力に起因する能力の低下が関与しているものとされている.無信号出会い頭事故にお いては,視認性の観点からカメラやレーダが主流となっている ASV(先進安全自動車)単独に よる解決に課題が予想されるなかで,交差点空間のあり方について政策論的観点から議論を 重ねることが重要である. 図 1.1 我が国の交差点種別・年齢別事故類型の傾向(平成 29 年)1 本研究は,2018 年度に高齢運転者が加害者となる出会い頭事故が発生する無信号交差点の 空間特性を定量的に明らかにするとともに,交差点空間特性からみた高齢運転者が加害者と なる出会い頭事故の予測モデルを構築している.2019 年度は,当該予測モデルより導出され た高齢運転者が出合い頭事故の加害者となりやすい空間特性を有する無信号交差点における 高齢運転者の空間認知特性について実験室実験を通じて明らかにする. 本研究の構成は以下のとおりである. (1)高齢者の空間認知特性に関する基礎的知見の把握 特に運転時の高齢者の空間認知に関する一般的傾向についてとりまとめる. 1 交通事故総合分析センター「交通事故集計ツール」より作成 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 非高齢者(N=51771) 前期高齢者(N=11446) 後期高齢者(N=6238) 非高齢者(N=73583) 前期高齢者(N=16941) 後期高齢者(N=8836) 信号交差点 無信号交差点 人対車両 正面衝突 追突 出会い頭 右折時 左折時 車両相互その他 車両単独5 (2)交差点空間における高齢運転者の空間認知特性の把握 2018 年度に構築した事故予測モデルから,特に高齢運転者が出合い頭事故の加害者になり やすい無信号交差点を選定し,当該空間の VR(ヴァーチャル・リアリティ)映像を作成し, 当該 VR による交差点通過時の注視挙動の傾向をアイトラッキング技術を活用することで把 握する. (3)高齢運転者の空間認知特性からみた無信号交差点における対策案の検討 (2)で把握した特に危険誘発が予想される挙動特性からみた空間的課題を考察し,その 解消につながる対策案を検討する. 研究体制 本研究の研究体制は以下のとおりである. 研究代表者 三村泰広 公益財団法人豊田都市交通研究所 主席研究員 安藤良輔 公益財団法人豊田都市交通研究所 研究部長兼主幹研究員 樋口恵一 大同大学工学部 講師 楊 甲 公益財団法人豊田都市交通研究所 主任研究員
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2.高齢者の空間認知特性に関する基礎的知見の把握
空間認知において,最も重要な身体機能は視機能であろう.中でも,注視等の眼球運動に
よる空間情報収集については,これまで多くの研究蓄積がある23.ここで,特に高齢運転者の
交差点での注視特性をみた研究に着眼すると,I Hong, et al.4はパソコンモニター前で操作
する簡易なドライビングシミュレータを用いて高齢運転者の注視点挙動の特徴および,信号 交差点における交通量の多い状況での反応を捉えている.結果,高齢になるとリスク認知と その回避までの間のインターバルが増加すること,高齢者は交通量が増えると若年者に比べ て注視が少なくなり,注視時間が短くなり,注視速度が遅くなることなどを明らかにしてい
る.Boseong Kim, et al.5は,高齢者,若年者のT 字タイプと,十字タイプの交差点での右左
折時の方向別の注視時間の差異について検証し,高齢者特有の注視傾向を明示している.
Young-Chang Lee, et al.6は,シミュレータで構築したビデオクリップの視聴を通じて高齢
運転者の信号交差点通過時/停止時の信号の注視状況について把握している.結果,信号の注 視時間は交差点の進入前の方が進入後より長いこと,黄色信号のとき,交差点進入前により 多く信号を注視することなどを明らかにしている. このような注視特性を理解するうえでは,加齢による基本的な視機能の変化を踏まえるこ とが重要であろう.無信号交差点の通過時に重要となる視機能には,一般によく使用される 静止視力や動体視力のみならず,広範囲の情報取得に関わる視野なども重要な指標となるだ ろう.このような高齢者の視機能について,加齢により「静止視力」「水平視野」が有意に低 下すること7,高齢者は緑内障等を原因とする視野障害者が多くなり,安全運転に悪影響を与 える可能性があること8,特に,「水平視野」はその能力低下に対して,運転者が不安を感じづ らいこと9などが示されている. 以上からも,高齢者の空間認知特性を把握するうえで,静止視力,水平視野,緑内障等に よる視野狭窄がみられないかどうかを把握することは重要であるといえよう. また,特に注意すべき点の多い無信号交差点における空間認知においては,視機能に加え, 短い時間で多くの空間の状況を認知するために俊敏な首振りや体を曲げるなど自身の身体的 2 村田隆裕:注視行動の統計的性質,土木学会論文報告集,213,pp.55-63,1973 3 萩原 亨, 加来 照俊:運転者の注視点とその評価に関する研究,土木計画学研究・論文集,6,pp.121-128, 1988
4 I Hong, T Kurihara, M Iwasaki, Older drivers' perceptions, responses, and driving behaviours during
complex traffic conditions at a signalized intersection, Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part D: Journal of Automobile Engineering, Volume: 222 issue: 11, page(s): 2063-2076, 2008.
5 Boseong Kim, Hyun-Woo Kim, Dong-Hoon Lim, Byung-Chan Min, Yoon-Ki Min, The differences of eye
movement according to turn conditions in driving situation: Comparison of older and younger drivers, International Conference on Mechatronics and Automation, 2009
6 Young-Chang Lee, Hyun-Woo Kim, Dong-Hoon Lim, Jinwoo Bae, Yoojin Chang, Boseong Kim, Byung-Chan
Min, Yoon-Ki Min, Elderly drivers' eye movement response to a yellow light presented at the intersection, The 13th Japan-Korea Joint Symposium on Ergonomics, 2011
7 三村,樋口,安藤,楊:高齢運転者の運転能力と不安感の関係,土木学会論文集 D3(計画学),Vol.75 No.5,
2019
8 警察庁「視野と安全運転の関係に関する調査研究」報告書,2014
9 三村,樋口,安藤,楊:高齢運転者の運転能力と不安感の関係,土木学会論文集 D3(計画学),Vol.75 No.5,
7 動作が可能か否か,すなわち身体機能が重要になるであろうことが想定される.加齢による 身体機能の変化について,特に,「柔軟性」「平衡性」「敏捷性」が大きく低下することが知ら れている1011.柔軟性については,加齢による首の可動域の変化が運転者の知覚範囲に影響を 与えるといった研究がみられる1213.他方で,平衡性や敏捷性といった身体機能が空間認知特 性とどのような関連性があるかについてみられた研究は筆者らの知るかぎり見当たらない. 以上を踏まえ,本研究では,視線挙動とともに,静止視力,視野といった視機能及び柔軟 性,平衡性,敏捷性といった身体機能を把握し,それらの関係性を踏まえた分析を行うこと とした.なお,特に身体機能の計測に際しては,高齢者を対象とする場合,テストの「安全 性」や被験者の負荷が少ない「簡易性」が重要との指摘14もあることから,比較的計測が容易 かつ高齢者にとって安全な方法を採用することとした. 10 東京都立大学体力標準研究会「新・日本人の体力標準値」,不昧堂,2000
11 木村みかさ:高齢者への運動負荷と体力の加齢変化および運動習慣,Japanese Journal of Sports
Sciences,10,722-728,1991
12 T.Dukic, T.Broberg, Older drivers’ visual search behaviour at intersections, Transportation
Research Part F: Traffic Psychology and Behaviour Volume 15, Issue 4, July 2012, Pages 462-470
13 Robert B.IslerBarry S.ParsonsonGlenn J.Hansson, Age related effects of restricted head movements
on the useful field of view of drivers, Accident Analysis & Prevention Volume 29, Issue 6, November 1997, Pages 793-801
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3.交差点空間における高齢運転者の空間認知特性の把握
2018 年度に構築した事故予測モデルから,特に高齢運転者が出合い頭事故の加害者になり やすい無信号交差点を選定し,当該空間の VR(ヴァーチャル・リアリティ)映像を作成し, 当該 VR による交差点通過時の注視挙動の傾向をアイトラッキング技術を活用することで把 握する. 方法 3.1.1.対象交差点の選定 2018 年度に構築した事故予測モデルを用い,特に高齢運転者が出合い頭事故の加害者にな りやすい無信号交差点を選定する.選定に際して,高齢運転者による事故が多いことは重要 である一方,高齢運転者が苦手とする特徴を捉えようとするのであれば,一般(64 歳以下) 運転者による事故も同様に多い箇所を選定してしまうと,傾向が不鮮明になる可能性がある. よって,高齢運転者による事故が多く,一般によるものが比較的少ない箇所を以下の方法を 用いて選定した. ・特に身体機能の低下等により交通事故の危険性が指摘される後期高齢者に着眼し,後期 高齢者が加害者となる無信号交差点出会い頭事故予測モデル(後期高齢モデル)におい て推定された事故件数が上位 20 位以内であること ・64 歳以下が加害者となる無信号交差点出会い頭事故予測モデル(一般モデル)において 推定された事故件数が平均以下であること 結果を表 3.2 に示す.本モデルは男女別に件数を推定するものとなっているが,それぞれ 6 箇所ずつの合計 12 箇所が選定された.このうち,既往対策の実施状況(空間認知特性に影 響を与えることが予想されるカラー舗装などの対策が実施されていない),および VR 映像作 成の容易性(周辺交通状況から安全に必要な映像が構築しやすい)を踏まえ,対象を 2 箇所 に絞り込んだ.結果を図 3.1 に示す. 男性 7 位の交差点(OBJECTID=132049)は,名古屋市中区小塚町に所在する 4 差路交差点で あり,従方向道路が鋭角/鈍角に接続する.従方向道路は中央線のない双方向通行で狭車道幅 員(5m)である.歩道は整備されていない.いずれも一時停止の道路標識と路面表示が設定 されている.主方向道路は,150m 北部で接続する県道 29 号が分離帯の整備される 4 車線道 路であり,そこから流入する交通量が比較的多い.片側 1 車線で中央線(黄色)が整備され ており,車道幅員は 7m,両側に歩道が整備されている. 男性 10 位の交差点(OBJECTID=129518)は,津島市百島町献上に所在する 5 差路交差点で あり,接続する 1 枝の従方向道路が鋭角に接続する.接続する道路はいずれも中央線がなく, 北側流入部のみ一方通行規制(南進)となっている.車道幅員は北東方向から鋭角に接続す る道路のみ 3.2m で,それ以外の接続する道路はいずれも 4.2mである.主方向道路を含め, 歩道は整備されていない.従方向道路はいずれも一時停止の道路標識と路面表示が設定され9 ている. 表 3.1 本研究で用いた無信号交差点出会い頭事故予測モデル(参考) 男性 女性 一般 前期高齢 後期高齢 一般 前期高齢 後期高齢 定数項 0.7351 ** -0.8293 -2.9100 ** 0.3058 -3.2318 ** -21.9500 空間構造 交差点近傍施設面積 -0.0002 *** 0.0001 0.0001 -0.0001 0.0002 . -0.0003 直角からの偏差角総和 0.0006 0.0015 -0.0004 0.0001 -0.0008 -0.0007 交差点枝数 0.0742 * 0.0990 0.3430 *** 0.1632 *** 0.4359 *** 0.3535 * 小小交差点ダミー -0.3029 -0.7238 0.1145 -0.6033 * 0.0346 18.1600 小中交差点ダミー -0.2498 -0.4124 0.3626 -0.5817 * 0.2180 18.5200 小大交差点ダミー -0.2664 -0.4601 0.4060 -0.5751 * 0.2337 18.1600 中中交差点ダミー -0.1906 -0.2711 0.4808 -0.5070 . 0.3285 18.6500 中大交差点ダミー -0.3070 -0.3299 0.4159 -0.5061 . 0.2343 17.9400 周辺土地 利用( 用 途地域) 第一種低層住居専用地域ダミー -0.2098 ** -0.0603 -0.1405 0.0891 -0.2483 -0.2881 第二種低層住居専用地域ダミー -0.1887 -0.7197 -0.0451 -0.2791 0.2907 0.6265 第一種中高層住居専用地域ダミー -0.1481 ** -0.2011 . -0.0452 0.1761 ** 0.1171 -0.1625 第二種中高層住居専用地域ダミー -0.2098 * -0.4311 * -0.4158 . 0.0784 -0.6248 * 0.0449 第一種住居地域ダミー -0.0360 -0.0428 -0.2481 * 0.0298 -0.0389 -0.1572 第二種住居地域ダミー -0.0422 -0.0740 -0.3486 * 0.0016 -0.1844 -0.2926 準住居地域ダミー 0.0474 -0.3731 . 0.0212 0.2390 ** -0.2396 -0.0290 近隣商業地域ダミー 0.0749 -0.0865 -0.2957 * 0.0097 -0.2294 -0.2045 商業地域ダミー 0.2474 *** 0.0466 -0.2455 -0.2648 *** -0.4833 ** -0.4918 . 準工業地域ダミー 0.0406 -0.1607 -0.0521 0.0538 -0.0166 -0.3894 . 工業地域ダミー 0.1026 -0.0198 -0.6225 ** -0.2208 ** -0.1687 -0.7599 * 工業専用地域ダミー 0.1331 -0.7966 . -0.5700 -0.2990 -0.4592 -0.9655 サンプル数 3,942 残差逸脱度 4071.4 3651.3 2870.3 4300.2 2797.1 1506.7 AIC 13665 6490.9 4963.8 11926 4972 2403.9 疑似決定係数 0.027 0.013 0.017 0.022 0.022 0.023 表 3.2 無信号交差点出会い頭事故推定結果と選定区間 順位 (75 歳以上) 男性 女性 OBJECTID 推定事故件数 選定区間 OBJECTID 推定事故件数 選定区間 後期高齢 前期高齢 一般 後期高齢 前期高齢 一般 1 573777 0.624 0.481 2.423 413895 0.428 0.864 1.508 2 267001 0.618 0.530 1.903 ○ 178562 0.256 0.635 2.032 3 463993 0.617 0.583 2.612 328948 0.256 0.435 1.162 ○ 4 178562 0.596 0.581 2.638 227488 0.224 0.384 1.082 ○ 5 295806 0.586 0.510 2.124 329290 0.222 0.411 1.065 ○ 6 413895 0.575 0.313 2.109 537852 0.219 0.417 1.059 ○ 7 132049 0.476 0.532 1.891 ○ 418090 0.210 0.419 1.052 ○ 8 267899 0.467 0.580 1.988 ○ 540969 0.209 0.430 1.045 ○ 9 224899 0.465 0.524 2.554 295806 0.193 0.754 2.355
10 10 129518 0.447 0.438 1.733 ○ 379258 0.181 0.429 1.711 11 367351 0.446 0.482 1.712 ○ 134748 0.175 0.399 1.731 12 274351 0.446 0.560 2.186 461195 0.175 0.419 1.712 13 484078 0.444 0.457 2.089 300080 0.175 0.427 1.705 14 660119 0.442 0.565 2.220 463993 0.173 0.635 2.042 15 463659 0.433 0.531 2.330 268587 0.172 0.243 1.803 16 660021 0.433 0.449 1.832 ○ 463659 0.171 0.430 1.696 17 379258 0.432 0.501 2.362 267001 0.169 0.833 2.263 18 300080 0.431 0.521 2.357 573783 0.168 0.420 1.701 19 573783 0.428 0.554 2.371 660119 0.155 0.446 1.661 20 461195 0.427 0.530 2.397 274351 0.154 0.454 1.653 average 0.255 0.403 1.992 0.087 0.256 1.408 median 0.251 0.419 1.998 0.087 0.264 1.433 σ 0.059 0.071 0.261 0.029 0.068 0.192 Median-2σ 0.138 0.260 1.470 0.030 0.121 1.023 図 3.1 選定区間と対象区間(赤枠:男性 7 位(名古屋市中区小塚町)および 10 位(津島市 百島町献上)) 3.1.2.対象交差点の VR 映像の作成 映像は 360 度カメラにより現地状況を撮影することで作成した.撮影は,空間のみの影響 を捉えるべく,他者(歩行者・車両等)の影響のない早朝に実施した. 今回交差点の選定に用いたモデルは,交差点での出会い頭事故の発生件数は推定できるも のの,発生時の車両の進入方向は推定できない.そのため,作成する映像について,本来で 男性候補(OBJECTID) 女性候補(OBJECTID) ©google ©google ©google ©google ©google ©google ©google ©google ©google ©google ©google ©google 男性8位 男性2位 男性10位 男性7位 女性7位 男性11位 女性4位 女性6位 女性8位 女性3位 女性5位 男性16位
11 あれば,すべての枝からの進入映像を作成するなどし,包括的傾向に捉えることが望ましい と考えるが,本研究では,映像作成,実験実施にかかる諸費用の制約から,図 3.2,図 3.3 に 示す名古屋市中区小塚町の交差点で 3 方向,津島市百島町献上で 2 方向からの映像を作成す るにとどまった.いずれも箇所においても少なくとも主方向・従方向の映像を 1 つ以上含む ものとし,主従関係の違いによる傾向を捉えることができる配慮を行うこととした. 図 3.2 選定した VR 映像作成区間(津島市百島町献上) 図 3.3 選定した VR 映像作成区間(名古屋市中区小塚町) 撮影方法 停車状態から対象交差点を通過するまでの映像を撮影した.撮影には 360 度カメラ(リコー 製シータ)を使用した.VR 映像視聴時の被験者の没入感を高めるために,撮影時の解像度は 映像A(一時停止) 映像B(一時停止) 映像C(優先) 映像E(一時停止・一方通行) 映像D(優先)
12 1920×1080/29.97fps といった高解像度のものを採用した.カメラは図 3.4 のように,運転者 の目線に近くづくよう,視線の高さに設置(三脚で固定)した.撮影に際しては,保安(安全 確認)のため同乗者が後部座席に同乗するとともに,対象交差点に調査員がたち,当該交差 点に接近する車両や歩行者等に関する情報のやりとりをリアルタイムに行いながら,安全性 を確保した. 調査員は他交通(車,歩行者,自転車等)がいない状況を見計らって発進し,規制速度で対 象交差点に接近し,優先方向側からの映像はそのまま通過,非優先方向側は一時停止手前で 減速,一時停止で停車し,安全を確認したのち発進した. 図 3.4 VR 映像撮影の様子 3.1.3.被験者の募集 被験者は日常的に運転をしており,高齢者は 70 歳以上,非高齢者は 65 歳未満とし,実験 で用いる VR ヘッドセット仕様から眼鏡を使用せず運転ができる方を対象とした.高齢被験者 は実験室実験(大同大学工学部白水キャンパス)近隣の高齢者クラブ及び,名古屋市のシル バー人材派遣センターを通じて募集した.非高齢者は大同大学の学生,及び実験実施者らが 所属する機関の職員ならびにその家族に声がけした.実験に際しては,倫理審査を行うとと もに,被験者に対して事前に実験内容や参加者の意思で自由に中断,中止ができる旨を説明 し,同意書への記名を依頼した. 結果,高齢者 29 名(73.4±3.9 歳),非高齢者 14 名(34.3±12.7 歳)の計 43 名が本実験 に参加した. 3.1.4.注視挙動の把握 使用機器 VR 空間視聴中の視線を計測するため,FOVE 社製 VR ヘッドマウントディスプレイ(FOVE0) を使用した.本機器は,前額部部分に NeU 社製の携帯型脳活動計測装置 HOT-2000 を取り付け られている.FOVE015は,図 3.5 に示すように,赤外線視線追跡機能が付与された VR ヘッドセ ットである(トラッキング精度<1 度,フレームレート=120fps).HOT-2000 は,脳活動に関連 する血流量変化を近赤外光を用いてモニタリングするウェアラブルデバイスである. 15 FOVE 0, https://www.getfove.com/
13 図 3.5 計測機器 分析項目 視線挙動については,走行空間と視線挙動の関係性を把握するため,各映像を 1 秒毎に分 割し,1 秒単位で視線の移動距離を垂直,水平方向で視線(注視点)移動距離(1 秒間の積算) を算出した.VR 空間は図 3.6 に示すように,VR 空間は周長 3,610pixel で表現される.単位 時間での注視点 pixel での総移動距離を水平成分と垂直成分に分けて分析した. 脳活動については,映像視聴前後のレスト(安静)画面時の脳活動をベースラインとして, メディアンフィルタによるスパイクノイズ除去,ハイパスフィルタによる揺らぎ除去,およ び体動ノイズデータ除外後,評価対象区間の平均値を評価した. 図 3.6 視線挙動分析で用いる VR 空間の概要 ②アイトラッキング ③脳活動計測 (HOTー2000) ①視線計測
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360映像を2D映像にした画面↓
360度 全長3,610Pixel
被検者 ※14 実験の流れ 図 3.7 に実験の流れを示す.事前説明では,実験および VR ヘッドセットに関する説明に加 え,映像を視聴する際に普段の運転と同じような確認行動をするよう依頼した.実験では, 順序効果を考慮し,条件の呈示順序を以下の 3 パターン用意し,被験者毎にランダムに変更 した.実験終了後には,実験内容に関するアンケート調査を実施した. ・A ⇒ B ⇒ C ⇒ D ⇒ E ・B ⇒ E ⇒ C ⇒ A ⇒ D ・E ⇒ D ⇒ C ⇒ B ⇒ A 図 3.7 実験の流れ 視線挙動について,視線キャリブレーションがうまくいかなかった被験者については,解 析対象から除外とした.また,実際に視聴された時間と視線遷移時間の同期がとれなかった 計測データに関しては解析対象から除外した.同様に,脳活動が計測できなかった被験者に ついては,解析対象から除外するとともに,体動ノイズが大きいデータに関しては,解析対 象から除外した. これらを踏まえた有効データを表 3.3,3.4 に示す.視線計測の有効データ率は 70~80%, 脳活動計測の有効データ率は 80~90%となった.なお,本研究は視線計測のデータを用いた 整理のみを行う. 表 3.3 有効データ(高齢者) 有効視線計測データ 有効脳活動計測データ Sub No 性別 年齢 視聴映像(順番) 映像 A 映像 B 映像 C 映像 D 映像 E 映像 A 映像 B 映像 C 映像 D 映像 E 1 女性 70 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 2 女性 70 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 3 女性 79 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 4 女性 70 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 5 男性 75 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 6 女性 74 ABCDE - - - 〇 〇 〇 〇 〇 7 男性 71 EDCBA 〇 - 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 8 男性 70 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 - 〇 - 〇 - 9 男性 76 BECAD - - 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 10 女性 - 未実施 - - - - 11 男性 72 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 12 女性 75 ABCDE - - - 〇 〇 〇 〇 〇 5分 事前説明 装置装着 25秒 安静 25~30秒 VR映像 視聴 25秒 安静 終了 5分 装置取外し アンケート 5条件 繰り返し 5分 視線キャリブ レーション 計測開始 25秒 ダミー 映像
15 13 女性 74 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 14 男性 70 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 15 男性 70 EDCBA - 〇 - 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 16 男性 73 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 17 男性 75 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 20 男性 79 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 - 24 男性 72 EDCBA - - - 〇 〇 〇 〇 〇 25 男性 72 ABCDE - - - 〇 〇 〇 〇 〇 26 男性 71 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 29 男性 85 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 30 男性 80 EDCBA 〇 - 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 31 男性 74 ABCDE - - - 〇 - 〇 〇 〇 35 男性 70 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 - 〇 〇 〇 〇 38 女性 72 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 39 女性 77 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 40 男性 70 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 - - - - - 41 女性 69 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 有効データ率(%) 72.4 69.0 75.9 79.3 79.3 86.2 89.7 89.7 93.1 86.2 表 3.4 有効データ(非高齢者) 有効視線計測データ 有効脳活動計測データ Sub No 性別 年齢 視聴映像(順番) 映像 A 映像 B 映像 C 映像 D 映像 E 映像 A 映像 B 映像 C 映像 D 映像 E 18 男性 64 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 - 〇 〇 〇 〇 19 女性 44 ABCDE - - - 〇 〇 〇 〇 〇 21 男性 43 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 22 女性 45 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 23 男性 22 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 - - 〇 〇 〇 27 女性 46 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 28 男性 22 ABCDE - - - 〇 - 〇 〇 32 女性 22 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 33 男性 29 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 - 〇 〇 〇 〇 34 女性 37 EDCBA 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 36 男性 33 ABCDE 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇 37 男性 22 EDCBA - - - - 42 男性 23 BECAD 〇 〇 〇 〇 〇 - - 〇 〇 - 43 女性 28 EDCBA - - - - 有効データ率(%) 71.4 71.4 71.4 71.4 71.4 50.0 71.4 78.6 85.7 78.6
16 3.1.5.身体機能の把握 静止視力 日本において最も広く用いられるランドルト環を使用した.本研究では遠方をみる際に必 要な視力とされる遠点視力を測定した.計測に際しての条件は,日本眼科医会「眼科学校保 健資料集-5.視力」16を参考とした. 視野 水平視野 水平視野について,本来であれば,専用の計測器で測定するのが望ましいものの,実験会 場の制約等によりここでは,図 3.8 に示す簡便な調査で代用した.具体的には壁にスケール を記載した空間を用意し,注視点(赤色)をみたまま,刺激(ポインタの光等)を水平方向 (左(右))にずらし,どこまで認識できるかを計測した.そして視認できた水平方向の距離 と,壁までの距離から三角関数より水平視野(角度)を算定した.計測は片目ずつ,左右方向 の値を測定した.計測は 2 回ずつ行い,より良い成績のものを採用した. 図 3.8 水平視野の計測方法 視野狭窄 視野狭窄の計測に際して,ここでは,簡便に視野狭窄の状況が計測できる Matsumoto, et al.1716)の開発した「CLOCK CHART®」を使用した.本チャートは,89%の特異度(陰性のもの
を正しく陰性と判定する確率)といった精度であり,本研究において,注視に影響が予想さ れる視野狭窄が生じている被験者を高い確率で判別することができる.調査では,Pfizer よ
16 日本眼科医会「眼科学校保健資料集-5.視力」
,https://www.gankaikai.or.jp/school-health/3da61df5c0c07a1365092b83670e9395.pdf (2019.9.3 閲覧)
17 Matsumoto C1, Eura M, Okuyama S, Takada S, Arimura-Koike E, Hashimoto S, Tanabe F, Shimomura Y.,
CLOCK CHART(®): a novel multi-stimulus self-check visual field screener., Jpn J Ophthalmol. 2015 May;59(3):187-93
0.5m
0.5m 0.5m 45° 63° 71° 0.5m 0.5m 0.5m 75° 0.5m 78° 80° 0.5m 45° ポインタ で投影 注視点17 り提供される「緑内障の情報サイト」18内にある「回して確認,「視野の欠け」チェック」を 使用した. 柔軟性 長座体前屈 長座体前屈は,長座位から上半身を前屈させ,腰部から大腿部にかけての筋群(大腿二頭筋・ 大臀筋・腓腹筋・股関節など)の柔軟性を評価するものである19.腰痛などの障害予防に関連 した体力要素として我が国20をはじめ諸外国21でも採用されている.測定は,トーエイライト 製の測定器を使用し,文部科学省の「新体力テスト」の実施要領に準じて実施した.
Middle finger-Middle finger-Distance(MMD:中指-中指間距離)
上肢の柔軟性を評価する指標はほとんどないとされるが,本研究では,特に肩関節可動域 との関連がみられる MMD を採用する.MMD は,古後ら22の提案する背中で両手指を上方からと 下方から斜めに近付けた際の中指と中指の間の距離である.本研究では,中でも肩関節可動 域と有意な関連が認められるとされる「左下位 MMD」を採用した. 図 3.9 MMD23 18 「緑内障の情報サイト」,https://www.ntg40.jp/selfcheck/howtouse02.html(2019.9.3 閲覧) 19 国立スポーツ科学センター「フィットネス・チェック マニュアル-19.長座体前屈(柔軟性)」, https://www.jpnsport.go.jp/jiss/fc/tabid/1142/Default.aspx (2019.9.3 閲覧) 20 文部科学省「新体力テスト実施要項(65~79 歳対象)」, http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/stamina/03040901.htm (2019.9.3 閲覧)
21 Wells K, Dillon E. The sit and reach, a test of back and leg flexibility. Res Q Exerc Sport.
23:115-118, 1952.
22 古後 他:一側優位性が身体柔軟性に及ぼす影響 中指-中指間距離を身体柔軟性の指標として,Japanese
Journal of Health Promotion and Physical Therapy Vol.4,No.1:19-24,2014
23 古後 他:一側優位性が身体柔軟性に及ぼす影響 中指-中指間距離を身体柔軟性の指標として,Japanese
18 平衡性 片足立ちは開眼で 30 秒以上起立できない場合,閉眼で 30 秒以内に 3 回以上床に足をつく 場合異常とされる24など,長年の基礎データが蓄積されている.片足立ち保持能力の低下が, 高齢者の転倒を引き起こす可能性が報告されており252627,高齢者の身体機能評価として欠く ことのできない検査項目となっているとされる28.本研究では,文部科学省の「新体力テスト」 の実施要領に準じて実施した. 敏捷性 棒反応時間 棒反応時間は,任意のタイミングで自由落下する棒を掴むまでの速さを計測する調査であ り,敏捷性を計測する簡易試験として広く使用されている.棒反応時間は,単純反応時間と の関係性2930や,高齢者(女性)の歩行速度との関係性31が報告されている.また,計測回数が 少ない場合では,結果の妥当性・再現性に課題があることが指摘3233されている.本研究では, 「福山YMCA国際ビジネス専門学校」で実施されている方法34に準拠し,測定回数を 7 回の うち,最低を最高の値を除いた 5 回の平均値を使用した. 座位両足開閉ステッピングテスト 座位両足開閉ステッピングテストは,下肢敏捷性を安全・簡易に計測できる方法として開発 された.3536座位両足開閉ステッピングテストは,転倒との関係性が指摘されている37既往の下 肢敏捷性指標(立位ステッピング・座位ステッピング)との関連性も報告38されているなど, 24 竹森節子:平衡機能検査,理学療法,7,173-181,1990 25 島田裕之,内山 靖,加倉井周一:21 カ月間の縦断研究による虚弱高齢者の転倒頻度と身体機能変化との関 係. 総合リハ,2002, 30:935-941.
26 Haga H, Shibata H, Shichita K, et al.: Falls in the institutionalized elderly in Japan. Arch
Gerontol Geriatr, 1986, 5: 1-9.
27 de Rekeneire N, Visser M, Peila R, et al.: Is a fall just a fall: correlates of falling in healthy
older persons. The Health, Aging and Body Composition Study. J Am Geriatr Soc, 2003, 51: 841-846.
28 村田伸:開眼片足立ち位での重心動揺と足部機能との関連─健常女性を対象とした検討─,理学療法科学,
19 ,3,p. 245-249,2004
29 HIMARU, Tetsuya, et al. A STUDY ON THE BARGRIPPING REACTION TIME., Research Journal of Physical
Education, 1968, 12, 3, 183‒189.
30 田中 整佳:棒反応時間の研究,木更津工業高等専門学校紀要 (10), p93-96, 1977-03
31 吴 婷琦:高齢女性の歩行能力と基礎的体力要因との関連,広島大学大学院教育学研究科紀要,第二部,52
号,2003,279-286
32 HIMARU, Tetsuya, et al. A STUDY ON THE BARGRIPPING REACTION TIME., Research Journal of Physical
Education, 1968, 12, 3, 183‒189. 33 重松 良祐, 金 憲経, 金 禧植, 田中 喜代次:高齢者の自立に必要な身体機能を測定するテスト項目の評価 : 信頼性,客観性からみた検討,日本生理人類学会誌,3 巻,1 号,1998,13-18 34 敏捷性の測定,ウェルネス・プロモーション健康と体力の支援,http://www.wellness-promotion.info/test/t60.html (2019.9.25 閲覧) 35 木村 みさか, 平川 和文, 奥野 直, 小田 慶喜, 森本 武利, 木谷 輝夫, 藤田 大祐, 永田 久紀:体力診断バ ッテリーテストからみた高齢者の体力測定値の分布および年齢との関連,体力科学,38,5,175-185,1989 36 小林 薰,丸山 仁司,柊 幸伸:座位両足開閉ステッピングテストの考案と作成─測定値の信頼性について ─,理学療法科学 27(2):109–114,2012 37 池添 冬芽, 市橋 則明, 島 浩人, 浅川 康吉:高齢者の転倒を予測するためのステッピングテストの有効性, 理学療法ジャーナル 43 巻 11 号,2009 38 小林 薰,柊 幸伸,丸山 仁司:下肢反復開閉運動と既存の敏捷性指標との基準関連妥当性,国際医療福祉大 学学会誌 18(2), 85-90, 2013
19 その有用性は確認されている.他方で,高齢者によっては両足を同時に開閉するのが困難と なる場合もあることが指摘3940されている.ここで,本研究で扱う自動車運転においては,主 に右足によって操作(アクセル/ブレーキ)が行われることから,片足によるデータの重要性 も高いと考えられる.片足ずつの敏捷性を計測している例41もあることから,ここでは大サン プル(895 名)でのデータが蓄積されている木村ら42の方法を採用しつつ,両足,片足(右足 のみ)でのデータを取得した. 図 3.10 座位両足開閉ステッピングテストの実施方法43 結果 3.2.1.実験実施内容の妥当性 図 3.11~3.14 に実験実施内容の妥当性に関する意識調査の結果を示す.図 3.11 の自身の 運転との近しさでは,非高齢運転者の 9 割以上,高齢運転者の 6 割以上が「実際の自身の運 転と近い」もしくは「ある程度自身の運転と近い」と回答している.やや高齢運転者の割合 が低いが,他方で,図 3.12 に示す視線挙動の再現性をみると,8 割の高齢運転者が視線挙動 の再現性をある程度以上はできていたと回答している.また,図 3.13 に示す映像の速度感に ついては,概ね「適切だと感じた」と回答しており,「非常に速く感じた」など強い違和感を 感じたのは,高齢運転者の約 10%にとどまっている.図 3.14 は映像のブレーキタイミング の印象であるが,こちらも概ね「適切だと感じた」と回答しており,「非常に遅く感じた」な ど強い違和感を感じたのは,高齢運転者の約 5%にとどまっている. 以上より,一部の高齢運転者において,映像の運転が自身の運転との差を意識しているも のの,視線挙動の再現性に関しては,概ねできていると回答していること,映像の速度感, ブレーキタイミングにおいても際立った違和感を感じてはいないことからも,ある程度良好 なデータが取得されていると判断し,以下の分析を行うこととした. 39 小池 武則,小林 薫:座位両足開閉ステッピングテストと座位交互開閉ステッピングテストとの関係,理学 療法―臨床・研究・教育 第 20 巻,第 1 号,34-36,2013 40 三宅他:高齢者の体力測定,総合都市研究,43,1991 41 三宅他:高齢者の体力測定,総合都市研究,43,1991 42 木村 みさか, 平川 和文, 奥野 直, 小田 慶喜, 森本 武利, 木谷 輝夫, 藤田 大祐, 永田 久紀:体力診断バ ッテリーテストからみた高齢者の体力測定値の分布および年齢との関連,体力科学,38,5,175-185,1989 43 小林 薰,柊 幸伸,丸山 仁司:下肢反復開閉運動と既存の敏捷性指標との基準関連妥当性,国際医療福祉大 学学会誌 18(2), 85-90, 2013
20 図 3.11 自身の運転との近しさ 図 3.12 視線挙動の再現性 図 3.13 映像の速度感 0% 20% 40% 60% 80% 100% 高齢運転者(n=28) 非高齢運転者(n=14) 実際の自身の運転と近い ある程度自身の運転と近い あまり自身の運転と思えない 全く自身の運転と思えない 0% 20% 40% 60% 80% 100% 高齢運転者(n=28) 非高齢運転者(n=14) できていた ある程度はできていた あまりできていなかった 全くできていなかった 0% 20% 40% 60% 80% 100% 高齢運転者(n=28) 非高齢運転者(n=14) 非常に速く感じた やや速く感じた 適切だと感じた やや遅く感じた 非常に遅く感じた
21 図 3.14 映像のブレーキタイミング 3.2.2.視線移動距離 全体的傾向 図 3.15 に水平方向,図 3.16 に垂直方向の映像別高齢・非高齢運転者別の視線移動距離を 示す.垂直方向の映像 C を除き,いずれも非高齢者の視線移動距離の値が大きいことがわか る.特に,水平方向の映像 A,B,E,垂直方向の映像 B は有意(p<0.05)に非高齢運転者の値 が大きい.映像 A,B,E はいずれも一時停止のある非優先道路の映像であることからも,高 齢運転者は特に一時停止のある交差点の水平方向の視線移動による空間探索挙動がより少な くなっていることがわかる. **:p<0.05 図 3.15 視線移動距離(水平方向) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 高齢運転者(n=28) 非高齢運転者(n=14) 非常に速く感じた やや速く感じた 適切だと感じた やや遅く感じた 非常に遅く感じた 0 100 200 300 400 500 600 A B C D E 非高齢者 高齢者 ** ** 映像 **
22 **:p<0.05 図 3.16 視線移動距離(垂直方向) 映像別傾向 映像別走行位置別の視線移動距離の変化について図 3.17~図 3.21 に示す.高齢運転者, 非高齢運転者で視線移動距離に有意差(p<0.05)が出ているのは,主に非優先道路における 一時停止での停車前(映像 A 及び B)もしくは停車中(映像 E),および停車後の交差点通過 時(映像 A 及び E)であることがわかる.非優先道路における一時停止での停車前及び停車中 は,枝方向からの交通状況を把握する上で重要なタイミングであるし,交差点通過時は停止 線から実際に交差点に進入する,より慎重な判断が求められるタイミングである.ところで, 全体的傾向で差のみられなかった優先方向でも一部有意差(p<0.05)が出ている区間がある. 映像 D は対象交差点の手前における枝方向への注視であることが容易に推察できる.映像 C については,参考までに示す図 3.22 及び 3.23 の注視点のヒートマップのように,対象交差 点の手前にあった枝方向への注視,およびバックミラーへの注視が非高齢者でみられたこと による. このように,高齢運転者は特に安全を担保する上に置いてより多くの注意を配分すべきタ イミングで注意を配分していないといった傾向があることがわかる. 移動距離[pixel] 映像 0 100 200 300 400 500 600 A B C D E 非高齢者 高齢者 **
23 図 3.17 走行位置別の視線移動距離の変化(映像 A) 図 3.18 走行位置別の視線移動距離の変化(映像 B) 図 3.19 走行位置別の視線移動距離の変化(映像 C) 0 200 400 600 800 1000 1200 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 視線移動距離 [p ix el] 時間(s) 映像A 高齢者 非高齢者 (秒) ※:P<0.05 高齢者:21 非高齢者:10 停車 交差点通過前 高齢者:25 非高齢者: 7 交差点通過 ※ ※ ※ ※ ※ 区間 0 200 400 600 800 1000 1200 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 視線移動距離 [p ix el] 時間(s) 映像B 高齢者 非高齢者 (秒) ※ 停車 交差点通過前 交差点通過 ※ ※ ※:P<0.05 高齢者:20 非高齢者:10 区間 ※:P<0.05 高齢者:22 非高齢者:10 交差点通過前 交差点通過 交差点通過後 区間 ※ ※ 0 200 400 600 800 1000 1200 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 視線移動距離 [p ix el] 時間(s) 映像C 高齢者 非高齢者
24 図 3.20 走行位置別の視線移動距離の変化(映像 D) 図 3.21 走行位置別の視線移動距離の変化(映像 E) 高齢運転者 非高齢運転者 図 3.22 映像 C の 0~1 秒における注視位置(ヒートマップ,暖色(黄色・赤)ほど注視が 多い) 高齢運転者 非高齢運転者 0 200 400 600 800 1000 1200 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 視線移動距離 [p ix el] 時間(s) 映像D 高齢者交差点通過前非高齢者 交差点 通過 交差点通過後 ※:P<0.05 高齢者:23 非高齢者:10 ※ 0 200 400 600 800 1000 1200 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 視線移動距離 [p ix el] 時間(s) 映像E 高齢者 非高齢者 停車 交差点通過前 交差点通過 交差点通過後 ※ ※ ※ ※:P<0.05 高齢者:23 非高齢者:10
25 図 3.23 映像 C の 3~4 秒における注視位置(ヒートマップ,暖色(黄色・赤)ほど注視が 多い) 3.2.3.身体機能の低下と視線移動距離の関係 表 3.5 に高齢・非高齢運転者別の身体機能について示す.これまでの知見同様,概ねほと んどの項目において有意に高齢運転者で値が低くなっている.他方,他の項目同様,高齢者 の値は低いものの,視野角は有意とはならなかった.これは上述のように調査を簡易的な方 法で実施した影響も考えられるが,いずれにせよ,本研究における視野角の扱いには留意が 必要となろう. 表 3.5 身体機能 高齢運転者 非高齢運転者 判定 視機能 静止視力(矯正) 左 0.8 1.0 * 右 0.7 1.0 ** 視野角(度) 左 66.2 68.0 右 66.2 69.1 両眼 132.4 137.1 視野欠損率(%) 左(中心からの距離) 10 度 0.4 0.0 15 度 1.6 0.0 20 度 6.7 1.2 25 度 9.5 0.0 * 右(中心からの距離) 10 度 1.6 0.0 15 度 2.4 0.0 20 度 4.8 0.6 25 度 7.1 0.0 + 柔軟性 長座体前屈(cm) 35.4 44.7 * MMD(cm) 14.0 3.7 ** 平衡性 開眼片足立ち(秒) 46.6 116.1 *** 敏捷性 ステッピングテスト(回) 両足 23.9 35.9 *** 片足 28.1 40.7 *** 棒反応時間(cm) 27.0 21.8 ** ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05, +:p<0.1 このような身体機能の差異と視線移動距離の関係性についてみたのが,表 3.6~3.10 であ る.先の整理も踏まえ,各映像について非優先方向であり,一時停止のある映像 A,B,E は 「徐行前」「徐行中」「停止中」「停止線から隅切り」「交差点進入後」の 5 場面に,優先方向 である映像 C,D は「通過前」「通過直前」「通過中」「通過後」の 4 場面に分割し,それぞれ の傾向を整理した.なお,「徐行中」はスピードメータの速度がおおよそ 10km/h となった区 間を意味し,「通過直前」は対象交差点進入直前の 1 秒間を意味する.目的変数は視線移動距
26 離(単位:pixel),説明変数は個人属性及び身体機能である.分析には,重回帰モデルを用い た.説明変数の選択には,変数間の相関係数及び高齢,非高齢者の差の傾向を踏まえた調整 の後,AIC を用いた変数増減法により行った.これらの解析は,R version 3.6.2 により行っ た. モデルの精度を示す調整済み決定係数について,まず非優先道路で一時停止のある映像を みると,映像 A では「徐行中」(R2=0.56),「停止線から隅切り」(R2=0.38),映像 B では「徐 行前」(R2=0.49),「徐行中」(R2=0.41),「停止中」(R2=0.50),映像 E では「停止線から隅切 り」(R2=0.36)の値が比較的高いことがわかる.複数の映像で値が高かったのは「徐行中」(映 像 A,B),「停止線から隅切り」(映像 A,E)であり,これらの区間は他の区間に比べて個人 属性もしくは身体機能によって視線移動距離が説明しやすい,すなわちそれらの影響を受け やすい区間であると判断できる.他方で,「交差点進入後」は,いずれの映像でも調整済み決 定係数は低く,当該区間は個人属性や身体機能では説明しづらい,それらの影響を受けづら い区間であると判断できる. ここからは,決定係数の比較的高かったモデルに着眼しながら個別要因の傾向を見る.ま ず個人属性に着目すると,「男性ダミー」では「徐行中」(映像 A,p<0.05),「停止中」(映像 B,p<0.01)において有意であることがわかる.推定値の符号はこれら 2 区間で異なっており, 「徐行中」に少なく,「停止中」に多いという傾向にある.次に「高齢ダミー」では,「停止 中」(映像 B,p<0.05),「停止線から隅切り」(映像 A,p<0.05)において有意であることがわ かる.推定値の符号からいずれも当該区間で高齢運転者の視線移動距離が少ないといった傾 向を示している. 次に身体機能の視力をみると,「静止視力」では,「停止中」(映像 B,p<0.1),「視野角」で は,「徐行前」(映像 B,p<0.01)において有意であることがわかる.推定値の符号からいずれ も当該区間で視力が高いと視線移動距離が多いといった傾向を示している. 次に,柔軟性をみると,「長座体前屈」では,「徐行中」(映像 B,p<0.1),「停止線から隅切 り」(映像 E,p<0.1)において有意であることがわかる.推定値の符号はこれら 2 区間で異な っており,長座体前屈の値が大きい,すなわち柔軟性が高いほど視線移動距離が「徐行中」 では少なく,「停止線から隅切り」では多いという傾向にある.他方で,MMD は映像 B の「交 差点進入後」で有意とはなっているが,先にふれたように,当該モデルの精度は高いとはい えず(R2=0.25),解釈に留意が必要である. 次に平衡性の「開眼片足立ち」をみると,「徐行前」(映像 B,p<0.05),「徐行中」(映像 A, B,p<0.1,p<0.01)において有意であることがわかる.推定値の符号からいずれも当該区間で 平衡性が高いと視線移動距離が多いといった傾向を示している. 最後に敏捷性をみると,「ステッピングテスト」では,「徐行前」(映像 B,p<0.05),「徐行 中」(映像 B,p<0.05),「停止線から隅切り」(映像 A,p<0.05)において有意であることがわ かる.推定値の符号からいずれも当該区間でステッピング回数が多い,すなわち下半身の敏 捷性が高いと視線移動距離が多いといった傾向を示している.また,「棒反応時間」では,「徐 行前」(映像 B,p<0.01),「徐行中」(映像 A,映像 B,p<0.01,p<0.1),「停止線から隅切り」 (映像 E,p<0.01)において有意であることがわかる.推定値の符号は映像間で異なってお り,映像 A 及び E では,「棒反応時間」の値が大きい,すなわち柔軟性が低いほど視線移動距 離が少なく,映像 B では逆に多くなっている.この理由について,映像 A 及び E と映像 B の
27 「棒反応時間」と「視線移動距離」の単相関を見たところ,映像 B は,映像 A 及び E に比べ 両群の単相関の値が低く,モデル化に際して符号の逆転現象が生じた可能性が示唆される. (映像 A:R=0.60(徐行中),映像 B:R=0.07(徐行前),-0.07(徐行中),映像 E:R=-0.47 (停止線から隅切り))よって,映像 B の結果の解釈には留意が必要であるといえよう. 表 3.6 視線移動距離の要因分析(映像 A) A 徐行前 徐行中 停止中 停止線から隅切り 交差点進入後 定数項 829.09 * 1539.72 ** 892.11 *** 347.19 * 695.96 *** 個人属性 男性ダミー - - -137.41 * - - - - 高齢ダミー - - - -186.70 * -83.52 + 視力 静止視力(両眼平均) - - - -84.12 視野角(両眼) -2.96 -4.90 - - - - 柔軟性 長座体前屈 - - - -2.39 MMD -2.39 - - - -2.58 平衡性 開眼片足立ち - - 1.47 + - - - - 敏捷性 ステッピングテスト(片足) - - 6.51 - - 8.21 * -3.02 棒反応時間 -4.17 -18.66 ** -16.15 * - - -4.74 サンプル数 31 調整済み決定係数 0.09 0.56 0.11 0.38 0.14 ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05, +:p<0.1 表 3.7 視線移動距離の要因分析(映像 B) B 徐行前 徐行中 停止中 停止線から隅切り 交差点進入後 定数項 -669.17 ** 135.87 274.80 -862.99 352.87 *** 個人属性 男性ダミー - - -114.14 267.33 ** -149.46 121.64 * 高齢ダミー - - - - -232.51 * - - - - 視力 静止視力(両眼平均) - - -217.50 300.42 + - - - - 視野角(両眼) 4.19 ** - - - - 7.61 - - 柔軟性 長座体前屈 - - -6.57 + - - - - MMD - - - - -5.42 - - -5.75 ** 平衡性 開眼片足立ち 0.70 * 3.04 ** - - 1.60 - - 敏捷性 ステッピングテスト(片足) 4.22 * 11.49 * - - - - 棒反応時間 7.92 ** 10.92 + - - 13.29 - - サンプル数 30 調整済み決定係数 0.49 0.41 0.50 0.13 0.25 ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05, +:p<0.1
28 表 3.8 視線移動距離の要因分析(映像 E) E 徐行前 徐行中 停止中 停止線から隅切り 交差点進入後 定数項 187.13 * 718.22 ** 592.44 * 1825.33 * 345.58 * 個人属性 男性ダミー - - - - 高齢ダミー - - 200.00 - - - - 視力 静止視力(両眼平均) 79.49 - - 253.95 - - - - 視野角(両眼) - - - -7.67 - - 柔軟性 長座体前屈 2.20 + - - 6.67 + 7.03 + - - MMD - - - -6.00 - - 平衡性 開眼片足立ち -0.50 2.12 + - - - - 敏捷性 ステッピングテスト(片足) - - - - -8.04 - - 3.62 棒反応時間 -3.03 -17.03 * -12.42 + -18.03 ** -6.85 + サンプル数 31 調整済み決定係数 0.09 0.18 0.09 0.36 0.22 ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05, +:p<0.1 次に優先道路の映像についてみる.モデルの精度を示す調整済み決定係数をみると,総じ て低く,最も高い値でも映像 C の「通過前」の R2=0.23 であった.説明変数が選択されなかっ たモデルも散見され,優先道路の視線移動距離は,個人属性及び身体機能のみでは説明がし づらいものであることがわかる. モデル精度が低いという結果に留意しつつ,ここからは,特に有意となった個別要因の傾 向を見る.まず個人属性に着目すると,「高齢ダミー」では,「通過前」(映像 C,p<0.05),「通 過直前」(映像 D,p<0.05)において有意であることがわかる.推定値の符号からいずれも当 該区間で高齢運転者の視線移動距離が少ないといった傾向を示している. 次に身体機能の視力をみると,「静止視力」では,「通過前」(映像 C,p<0.05),「通過直前」 (映像 D,p<0.1)において有意もしくは有意傾向であることがわかる.推定値の符号からい ずれも当該区間で静止視力が高いと視線移動距離が少ないといった傾向を示している.優先 方向の走行時では進行方向の情報を収集するための視線挙動が中心となることが予想され, 静止視力が高いほど,遠方の進行方向の情報が収集しやすくなるため,このような傾向が導 出された可能性がある. 次に,柔軟性をみると,「長座体前屈」では,「通過直前」(映像 C,p<0.1)において有意傾 向であることがわかる.長座体前屈の値が大きい,すなわち柔軟性が高いほど視線移動距離 が多いという傾向にある. また,敏捷性の「ステッピングテスト」では,「通過中」(映像 C,p<0.05)において有意で あることがわかる.推定値の符号から当該区間でステッピング回数が多い,すなわち下半身 の敏捷性が高いと視線移動距離が多いといった傾向を示している. 以上のように,加齢により低下する身体機能と視線移動距離に関係性があることが明示さ れ,これらを踏まえた対策の重要性が示唆されたといえよう.
29 表 3.9 視線移動距離の要因分析(映像 C) C 通過前 通過直前 通過中 定数項 390.31 *** 42.25 48.21 個人属性 男性ダミー - - - - 高齢ダミー -80.59 * - - - - 視力 静止視力(両眼平均) -122.73 * - - - - 視野角(両眼) - - - - 柔軟性 長座体前屈 - - 6.17 + - - MMD - - - - 平衡性 開眼片足立ち - - - - 敏捷性 ステッピングテスト(片足) - - - - 4.84 * 棒反応時間 -3.31 - - - - サンプル数 32 調整済み決定係数 0.23 0.07 0.10 ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05, +:p<0.1 表 3.10 視線移動距離の要因分析(映像 D) D 通過前 通過直前 通過中 通過後 定数項 205.24 *** 643.52 *** 169.64 *** 110.55 *** 個人属性 男性ダミー - - - - 高齢ダミー - - -195.74 * - - - - 視力 静止視力(両眼平均) - - -239.94 + - - - - 視野角(両眼) - - - - 柔軟性 長座体前屈 - - - - MMD - - - - 平衡性 開眼片足立ち - - - - 敏捷性 ステッピングテスト(片足) - - - - 棒反応時間 - - - - サンプル数 33 調整済み決定係数 - 0.13 - - ***:p<0.001, **:p<0.01, *:p<0.05, +:p<0.1
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4.高齢運転者の空間認知特性からみた無信号交差点における
対策案の検討
本研究の成果と対策案の検討 本章では,本研究で得られた知見を踏まえた,高齢運転者に対する無信号交差点における 対策案の検討を行う. 本研究では,高齢運転者が特に加害者となりやすい特徴を有する無信号交差点において, 注視点の挙動を水平方向成分と垂直方向成分に分け,視線移動距離の多さ=空間認知の高さ という仮説を置いて,分析を進めた. 水平方向成分と垂直方向成分でみた場合,特に,高齢運転者で,一時停止のある非優先道 路側での水平方向成分の少なさが顕著であった.この傾向について,重回帰分析を通じた性 差や身体機能の差の調整がなされた結果から,高齢運転者は「停止中」及び「停止線から隅 切り」の区間において,有意に水平方向の視線移動距離が少ない,すなわち,空間認知に課 題のある可能性が高いことがわかった.非優先道路における「停止中」並びに「停止線から 隅切り」という区間は,直後に優先方向交通や徒歩や自転車といった交通と交錯することか ら,安全な通行に向けて他の区間に比べ多くの情報を収集する必要がある.このような区間 において,自覚の有無にかかわらず空間認知が非高齢者に比べて有意に少ないという高齢運 転者の傾向は,走行安全上,極めて大きな課題があると判断できよう. これらの状況を踏まえると,特に交差点における停止線およびそこから隅切り部に至る範 囲において,車載カメラや進行方向に設置するなどした路側情報板等を通じて特に水平方向 に広がる空間状況の情報提供を行うことは,高齢者の安全な通行を促す上において有効であ るといえよう. また,本研究では特に,水平方向の視線移動距離と身体機能の関係性に着眼した分析を進 めてきた.無信号交差点における水平方向の視線移動距離の多さは,視力といった視機能に 関連する能力より,むしろ柔軟性や平衡性や敏捷性といった全身の運動機能に有意に関連し ていた.特に注意すべき点の多い無信号交差点では,短い時間で多くの空間の状況を認知す るために俊敏な首振りや体を曲げるなど自身の身体的動作が重要になってくる.本研究の成 果は,このような動作が適切にできないことが,交差点通過に必要な情報を十分に獲得でき ないことに直接的につながっていることを示唆している. これらの状況を踏まえると,高齢者の運転適性を考える上では,視機能に加えてこれら柔 軟性,平衡性,敏捷性といった身体機能も併せて把握していくことが望ましいものと考える. 安全かつ簡便にできる運転適性チェックとして,このような項目をベースとしたプログラム を作成することは,高齢運転者自身の能力確認,将来的には運転継続におけるひとつの判断 基準として有用となるのではないかと考える. 本研究の課題 本研究の成果は,予算制約等により限定的な規模(2 交差点,5 条件(映像),被験者 43 名) での実験結果にもとづいたものとなっている.本成果を一般化させる上では,被験者,対象31 空間の多様化を含め,実験規模の拡大は不可欠である.また,視野角など視機能に関わる身 体機能については,今回の実験環境では適切に取得できなかった可能性がある.これらの精 度向上も結果の妥当性を高める上で重要であると考える. 今後の研究の発展性として,注視傾向の詳細分析および,注意の実態との関連があろう. 本研究では,高齢運転者の空間認知特性として視線移動距離を指標とする分析を中心に展開 したが,本指標は単位時間当たりの空間全体における認知状況の代替指標としては機能する ものの,安全上重要となる任意の範囲(例えば,枝方向にある横断歩道の範囲など)におけ る注視傾向を把握できるものではない.よりきめ細やかな対策検討を進める上において,こ のような注視点の傾向分析の重要性は高いものと考える.さらに,注視と認知は同一概念で はなく,注意しつつ注視することで認知されると考えるのが一般的であろう.本研究の調査 では,映像視聴時の視線挙動に加えて,注意を司る前頭前野の脳活動の実態も把握している. これらの分析を引き続き継続していくことで,より有益な成果が導出できるものと考えてい る. 謝辞 本研究の遂行に当たり,大同大学工学部4年の中村陸氏,本多昭貴氏に多大なる協力を得 た.ここに記し,感謝の意を表す.