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文献から見る認知症告知の現状と課題

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121 *1 自治医科大学看護学部 *2 国立大学法人神戸大学大学院保健学研究科 *3 自治医科大学附属病院 地域医療連携 ・ 患者支援部 (連絡先)浜端賢次 〒329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-159 自治医科大学      E-mail : [email protected] 資 料

文献から見る認知症告知の現状と課題

浜端賢次

*1,2

 安藤恵

*3

 宮林幸江

*1 1.緒言  日本は超高齢社会を迎え,認知症高齢者数は増加 傾向をたどっている.厚生労働省研究班によると「全 国の認知症高齢者数は,2025年には最大で730万人 に上り,65歳以上の5人に1人にまで増加する」1) とが報告された.このように,認知症高齢者数の増 加は避けられない現状があり,政府・関係機関をは じめとした認知症対策が急務であることは言うまで もない.  このような背景の中,厚生労働省は2015年1月27日 「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさ しい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」2) を公表し,161億円の予算配分を行っている.新オ レンジプランの基本的な考え方は,「認知症の人の 意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい 環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の 実現を目指す」ことである.したがって,新オレン ジプランの基本的考え方にある「住み慣れた地域で 自分らしく暮らし続ける」ためには,認知症はどの ように告知され,さらにその後の生活をどのように していくかを考えることが鍵となる.認知症と診断 された以降の生活を考えると,告知を行った方が良 いとする考え方はここに依拠することが多い.一方 で,「真の病名や症状をありのまま告げることが患 者に対して過大の精神的打撃を与えるということか ら,病名告知を行わない」3)という意見も存在して いる.このように告知を行った方が良いとする意見 と反対意見が存在することも明らかである.  認知症告知に関連する先行研究を概観しても2010 年に鈴木3)が行っている研究以外,総じて認知症の 告知についてまとめた研究は散見する程度である. そのため,認知症と診断された後に,その事実を本 人と家族にどのように告げ,そして告知以降,本人 と家族にどのように関わったら良いのか等について は依然多くの課題が残されている.  そこで本研究は,認知症の診断・治療が進む中で, 認知症告知がどのように考えられてきたのかについ て文献から得られた知見を踏まえ,今後の課題を検 討することを目的とする. 2.研究方法 2. 1 研究対象  文献整理のために使用したデータベースは,国内 医学文献情報データベースの医学中央雑誌 web 版 (http://www.jamas.or.jp/)を用い,1990~ 2014年までの文献を検討した(閲覧日:2014年11月 2日).1990年から設定した理由は,高齢者保健福祉 推進十ヵ年戦略(ゴールドプラン)が開始され,本 格的な認知症の治療・研究が開始されたからである.  キーワードは「認知症」「告知」とし,さらに文 献の中から認知症告知についての具体的な記載内容 のある文献を抽出した.また,文献中に認知症告知 という言葉はあるが,その内容の記載や説明が不足 していると判断された文献については今回の研究対 象から除外した.なお,「痴呆症」の告知に関する 文献は,全て「認知症」のキーワードで網羅するこ とができた. 2. 2 分析方法  文献ごとに,タイトル,筆頭著者名,雑誌名,ペー ジ,刊行年,研究概要・研究目的,標本数,研究方 法,認知症告知に関する現状と課題に関する概要を アブストラクトフォーム(表1)に作成した. 2. 3 用語の操作的定義  認知症告知:本研究では,認知症であることを本 人に告げる場合も家族に告げる場合でも認知症告知 として取り扱うこととする.

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分類 タイトル 筆頭著者名 雑誌名 ページ 発行年 研究概要・研究目的 標本数 研究方法 認知症告知に関する現状と課題 医療者側の立場から、どのように告知を したら良いか検討している文献     認知症患者への 病名告知に関す る研究 山口登 公衆衛生70巻9号 690-691 2006年 認知症患者の人権擁護の立 場から医療を提供するため にはどうしたら良いか. 文献 ・資料による検討のため なし 文献検討 認知症患者にはインフォームド ・コンセントが必須であるとし ,病名告知に関する問題点を 5つ指摘している .① 判断能力が低下している可能性があるため ,法的側面の整備が不足している .②初期段階の臨床診断の精度が低 いことが推定される .③病名告知に伴い ,本人 ・家族に強い衝撃を与える恐れがある .④患者本人と家族の意向 に隔たりがあることがある .⑤告知後の患者の反応に対する個別対応が必要である .そのため ,意思能力低下時 の IC 取得の在り方と法整備の検討が必要である .いつどのタイミングで誰から誰に話すのか ,患者の個別化の検 討と家族, コメディカルスタッフを含めた告知から告知後のサポートシステムの構築に取り組んでいく必要がある. 認知症をいかに 本人と家族に伝 えるか 髙橋幸男 治療第89巻11号 2994- 3000 2007年 認知症外来を受診する認知 症高齢者や家族に対して , 知見に基づいて認知症の説 明を行っている .認知症の 初期の事例を中心に ,病院 の外来受診者の告知の実際 や認知症高齢者へのかかわ りを検討している. 文献検討のためなし 文献検討 認知症を本人と家族に説明するためには ,認知症を病むとはどういう事態なのかを心理社会的病理を知る必要が ある .現状では ,認知症は誤解や偏見によるマイナスイメージが強く ,認知症を病むことで ,周囲から疎外され やすく ,本人は ,不安 ・焦燥 ・寂寥 ・よるべなさで ,自尊心は低下し混乱しやすくなっている .認知症も個別的 なもので経過も十人十色である .ほとんどの認知症高齢者は ,心理社会的病理を示しているため ,認知症の初期 から中期の過程で ,本人と家族へ認知症の症状に対する説明が重要な視点となってくる .また ,薬物療法による 沈静化や家族の支援を受けるためにも認知症前段階の場合から家族を含めた話し合いを行う必要がある .このよ うに ,認知症を病んでもその人らしく生きていけるように ,特に認知症の初期には ,具体的な対処や本人 ・家族 にも納得のいく説明が必要であると言える. 認知症患者に薬 物療法を始める 際の病名告知に ついて 今井幸充 治療第93号9巻 1830- 1834 2011年 認知症患者へ病名告知と治 療ならびに介護サービスを 提供する際の説明と同意に ついて考察し ,告知の意義 について論じている. 文献 ・資料による検討のため なし 文献・資料による検討 認知症患者は ,本人の意思意向を正確に伝えられないため ,病名告知や薬物投与の説明と同意 ( IC )に疑問をも つ臨床家も少なくない .しかし ,認知症患者や家族自身のニーズに即した医療 ・介護サービスを提供するために IC は欠 か せ な い .ま た , 患 者へ の 説 明 義 務は , 認 知 症患 者 に お い ても 同 じ 義務 を 有 し , 医師 が 独 自に IC を 必 要 としないと決めることは患者の権利侵害ともいえる. AD 患者へ IC を実施する上では, 初診の際に安心感を与え, 治療への意欲を引き出す対応が必要だと考える.また, 医師は IC のメリット ・ デメリットについて家族と協議し, 不安解消に努めることが望まれる .さらに , IC 後も受診の度に ,受診の意味を説明し ,服薬の重要性や日常生活 の注意 ,過ごし方 ,社会サービスの利用について関わることが必要である .認知症患者への IC は ,医療が患者や 家族とともに ,認知症におかされても変わらない日常生活を送るための支援を行うことの宣言であり ,医師と患 者のラポールにもつながる .そして ,アルツハイマー型認知症初期や軽度認知障害 (MCI)の患者には抗認知 症薬が有効である報告が多く ,服薬コンプライアンスの実行のためにも必要である .患者自身が認知症に立ち向 かうエンパワメントを生み出すためにも IC は欠かせないと言える. 本人と家族・地域住民への調査を踏まえ、    どのように告知したら良いか検討している文献 アルツハイマー 病の病名告知に 関する健常成人 の意識調査 山下真理子 老年精神医学会雑 誌第13巻12号 1433- 1445 2002年 一般成人を対象にアルツ ハイマー病 ( A D )の病名 告知に関するアンケートを 行った. 正常知能を有する成人 23 1人 ( 女 性121人, 男 性110人 ) を 対象としてアンケート調査を 実施した .対象者は看護師 , 施設職員 ,痴呆性老人家族の 会の出席者 ,製薬会社等であ る. 疾患が A D の場合とがんの場合を想定し , それぞれの具体例の記述を読んだ後 ,自分 自身が罹患した場合と家族が罹患した場合, 告知の希望の有無を選択する .また ,回答 理由を提示された 7項目から複数回答で選択 する .告知の是非やその理由に関して ,疾 患差 ,性差 ,介護経験の有無による差を検 討した. 告知の希望について, 自分自身の場合は91%, 家族の場合は71%であった.AD の告知希望の理由として, 大事な ことを言い残しておきたい ,情報を得て治療法を自分で決めたいという理由が多く ,希望しない理由として精神 的に傷つく, 告知内容を理解できない, 病気の悪化が心配という理由が挙がった.AD の病名告知は診断の不確実 性や患者の知的判断能力の喪失など様々な問題がある .しかし ,今回のアンケート結果より ,告知の仕方には十 分な検討が必要であるが,告知後に患者 ・ 家族と医師との本当の関係が始まる.患者 ・ 家族へ十分配慮しながら, 常に患者の利益を優先した患者への全人格的対応が望まれる .また ,情報開示に基づく治療の自己決定権を促す ことが必要とされる. 地域高齢者家族 の痴呆の告知に 対する態度 杉山美香 日本痴呆ケア学会 誌第2巻2号 140-149 2003年 一般の地域に在住する高齢 者の家族が ,自分や家族に 対する痴呆の診断の告知を 望んでいるかを検討し ,そ の理由を明らかにする. 65歳 以 上 の 高 齢 者2018名. ま た ,その家族である 15 75 名を 対象とした. 平成15年2~3月に沖縄県北中城村において, 留め置き法による訪問面接調査を実施した. また ,家族に対して高齢者の健康や痴呆に 対する対策のための調査を実施した .加え て, 自由回答から, カテゴリー分類を行った. 告知に肯定的であるとしたのは ,自分の告知の場合で , 56 .8% ,家族の告知の場合は 29 .9% ,否定的であるとした のは自分の場合で 2. 0% ,家族の場合で , 16 .3%であった .また ,自分の場合で約 4割 ,家族の場合では約半数以上 が告知の是非を明らかに指定なった .告知に対する肯定的理由で最も多かったのは ,自分 ・家族の場合とも治療 や対応を行うためという理由であった .また ,家族への告知に対する否定的理由では ,感情的反応に対する概念 が最も多かった .さらに ,告知に対する是非に関する結果で ,わからないという回答の多さが顕著であった .背 景には ,告知の問題を現実の問題として考えが及ばないということが考えられる .また ,認識の低さを反映した 結果とも取れる .多くの一般的高齢者の家族では ,積極的なコーピング行動が可能であることを理由として ,告 知を求める割合が多いことが明らかとなった. 痴呆患者への病 名告知の研究ー アルツハイマー 型痴呆患者本人 の意向ー 髙橋忍 老年精神医学会雑 誌第16巻4号 471-476 2005年 アルツハイマー型痴呆 (A D )患者本人が ,自身 に対して告知される場合 に,痴呆の告知をどのよう に捉え ,意向を示すのかを 明らかにし , A D 患者本人 の告知を含めた医療ニーズ とサポート提供者側の課題 を検討している. もの忘れを主訴として聖マリ アンナ医科大学病院神経精神 科外来を受診し , D SM -Ⅳの 診断基準に基づき A D と診断 され ,かつ調査研究の説明に 書面にて同意した男性患者 24 人(平均年齢72.9±9.2歳) ,女 性患者70人 (平均年齢77.0±5.7 歳) ,計94人を対象とした. 臨 床 心 理 士 に よ る 半構 造 化 面 接 に よ る 面 接 調査を行った .統計解析方法は , H D S-R , ST M -C O M E T ,面接調査の数値結果に関し て分散分析を用いた量的分析を行った .面 接調査の記述回答に関しては , K J 法を用い た質的分析を行った . K J 法においては面接 調 査 の 回 答 か ら 分 析に よ っ て 集 約 さ れ た 項 目数を個数として示した. 病気の説明を希望した者 90 人 ( 96 % ),希望しない者 4人 ( 4% )であった .さらに ,希望した 90 人のうち ,病気が AD であった場合に自分への告知を希望したものが80%, 家族の意向に任せることを希望したものが13%, 説明を 希望しないものは 4%であった .また ,意向の理由を分析した結果 ,自分への告知希望の理由として 「自分のこと だから今の状態についてきちんと知りたい」に多くが集約されており, AD 患者の多くが自分への告知を希望する 傾向にあることが示された .また ,患者は自分自身の変化を自覚し不安を抱えており ,家族にも自分を理解して ほしいなどの意向があると考える. 今後は各事例の家族との関係をさらに考察する必要がある. AD 患者一人一人 がその人らしく生活をしていくためには, 彼らを取り巻く環境を考慮し, 支援するサービスの提供が必要と考える. 告知が与える影響について詳細な検討が今後も必要であり ,告知時期や告知方法ならびに告知後の衝撃を緩和す る心理的サポートシステムの確立が望まれる. 法的な側面から、どのよう に告知をしたら良いか検討 している文献       認知症病名告知 課題に対するイ ンフォームドコ ンセントの法理 的検討ー信託 ・ 信認関係からと らえる医師 ・患 者関係ー 鈴木道代 北星学園大学大学 院論集 35-53 2010年 IC の 法 理 的 側 面 か ら 認 知 症病名告知を行うための原 則確立に向けた根拠づけを 行うことを目的としている. 文献検討のためなし 第一に, IC の法理的検討を行う意義を述べ, 第二に ,認知症病名告知に関する先行研究 レ ビ ュ ー よ り 導 き 出さ れ た 認 知 症 病 名 告 知 課題 ,つまり ,認知症患者本人に病名告知 をするということを等閑視させている 3説を 整理し ,第三に ,それらをふまえて ,認知 症病名告知課題を IC の法理的側面から検討 する上で, 一視点となると考えられる 「信託 ・ 信認関係」の概念を整理し ,認知症病名告 知 を 行 う た め の 原 則確 立 に 向 け た 根 拠 づ け を行う. 個人の倫理的側面から 「認知症病名告知」の是非を検討すると ,患者本人に病名告知しない条件としての 「個人 的側面」や病期と診断精度の関係から ,初期の診断精度は不確実であるため ,その段階で病名告知を行うと医師 -患者関係が崩壊するという懸念, 重度の診断精度は確実だが, その時点では, 理解力との関係から意味がないといっ た 「医学的 ・医療的側面」が考慮されてしまい ,医師が認知症患者に対して病名告知を行わなければならないと い う 態度 が 揺 ら ぎ , 従来 の 議 論 が 繰り 返 さ れ るこ と に な る . 認知 症 病 名 告 知に お い て は ,「 医療 契 約 」 の 中で 従 来 まで言われてきた「契約関係」ではなく, 「信認関係」が必要とされる領域としてとらえ, 「信認義務(忠実義務) 」 を一法理として IC の法的根拠に加えることが今後義務化されるのではないだろうか .従来の医療における IC の 法理だけでなく ,「一方の当事者が意思無能力であっても理論的に信認義務を課すことができる」 ,「信託」あるい は 「信認」という法的観点を IC の法理として位置付けることが認知症病名告知義務の基礎付けにおいて有用であ ると考えられる. 専門職への調査を踏まえ、 どのように告知をしたら良 いか検討している文献   アルツハイマー 病の病名告知に 対する専門職集 団の態度に関す る研究 渡邉浩文 目白大学総合科学 研究第2号 165-173 2006年 患者本人への A D 告知に対 する人々の態度を社会的態 度と位置づけ ,それを測定 するための態度尺度を作成 することとした .また ,そ れを用いて ,専門職集団へ 調査を行い ,専門職集団の 態度のありようについて明 らかにすることとした. 意見項目評定は 23 8名の高齢 者とかかわる看護職 ・介護 職らに行った .有効回答数は 20 8名であった .項目選定の 対象となった集団は ,平均年 齢 が35.55歳, 性 別 は, 男 性 が 7名, 女 性 が192名 で あ っ た. (無回答9名)職種の内訳は, 介護 職17人, 看 護 職173人, ケアマネージャー 2名 ,その 他6人, 無回答10名であった. 尺 度 構 成 は T hu rs to ne に よ る 等 現 間 隔 法 に 従 っ て 行 っ た . A D 患 者 へ の 病 名 告 知 や 一 般の病名告知に関する記事を集め ,そこか ら A D の病名告知への態度を表明する意見 項目 80 個を作成した .次に ,それぞれの意 見が持つ態度の強さを決定するため ,意見 項目評定を高齢者とかかわる看護職 ・介護 職らに行った. また, 作成した尺度を用いて, 介護職 ,看護師 ,ケアマネージャー , PT , O T ,医師の専門職に対して調査を行った . 分析は SP SS を用いて ,クロス集計表を作 成した後, コレスポンデンス分析を行った. 各職種の態度得点の平均値を見ると ,介護職が最も高く , O T が最も低い結果となった .  従って ,介護職が最も 告知に否定的な態度を示している. 反対に, 医師, PT, OT は肯定的な態度を示す集団であることが示された. また, 標準偏差からは ,看護職 ・介護職は様々な態度を示す集団であることがわかった .反対に医師 , PT , O T は ,態 度の一貫性が認められた .コレスポンデンス分析から ,看護師 ・医師 ・ PT ・ O T らの付近には ,「患者本人への病 名告知への肯定的態度」のクラスターが布置されていた .また ,介護職は医師らと比較して ,病名告知に対して 否定的な態度を示している職種であることが明らかとなった. しかし, 介護職の付近に位置されたクラスターから, 「すべき」 「すべきでない」ありきでなく ,その患者の状況を踏まえたうえで病名告知の是非を考えたいという柔 軟な態度を示していることも示唆された. 本研究から A D 患者本人への病名告知に対する専門職の態度には差があることが示唆された .これは ,専門職の 受けた教育期間や ,認知症に対するイメージ ・意識等に関連することも考えられる .専門職集団ごとの態度の差 の意味を具体的に分析していくことは,専門職養成の在り方の知見にもつながると考える. 表1 認知症告知に関する文献の一例

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3.研究結果 3. 1 文献数  「認知症告知」に関する総文献数は,「認知症」「告 知」で196編であった.なお,「痴呆」という言葉もキー ワードに使用したが,検索された文献は同様であっ たため,最終的に「認知症」と「告知」で検索した. 196編の文献のうち,認知症告知についての具体的 記載内容と説明があった16編を検討対象とした.な お文献は,過去10年間に相当する2006年までに報告 されたものが6編,それ以前の報告が10編であった. 3. 2 認知症告知の分類  16編の文献は,以下の(1)から(4)に分類すること ができた. (1) 医療者側の立場から,どのように告知をしたら 良いか検討している文献5編 (2) 本人と家族・地域住民への調査を踏まえ,どの ように告知をしたら良いか検討している文献6編, (3) 法的な側面から,どのように告知をしたら良い か検討している文献3編 (4) 専門職への調査を踏まえ,どのように告知をし たら良いか検討している文献2編 3. 2. 1 医療者側の立場から,どのように告知を したら良いか検討している文献  山口4)は,認知症患者にはインフォームド・コン セントが必須であるとし,病名告知に関する問題点 を5つ指摘している.①判断能力が低下している可 能性があるため,法的側面の整備が不足している. ②初期段階の臨床診断の精度が低いことが推定され る.③病名告知に伴い,本人・家族に強い衝撃を与 える恐れがある.④患者本人と家族の意向に隔た りがあることがある.⑤告知後の患者の反応に対す る個別対応が必要である.加えて,松田5)も「イン フォームド・コンセントの理念は常に尊重されるべ きとし,患者には正しい病名を告知すべきである」 としている.山口と同じ立場からの見解ではあるが, 同時に「安易な告知で患者を苦しめることは避ける べきであり,全人的な視点から患者のニーズを見極 めるべきである」との警笛も鳴らしている.  高橋6)は,「ほとんどの認知症高齢者は心理社会 的病理を示しているため,認知症の初期から中期の 過程で本人と家族へ認知症の症状に対する説明が重 要な視点となる」と述べている.また,「薬物療法 による沈静化や家族の支援を受けるためにも認知症 の前段階から家族を含めた話し合いを行う必要があ る.特に認知症の初期には,具体的な対処や本人・ 家族にも納得のいく説明が必要である」と指摘して いる.加えて,今井7)は「アルツハイマー型認知症 (AD)患者へインフォームド・コンセント(IC) を実施する上では,初診の際に安心感を与え,治療 への意欲を引き出す対応が必要だと考える.さらに, アルツハイマー型認知症初期や軽度認知障害(MCI) の患者には抗認知症薬が有効である報告が多く,服 薬コンプライアンスの実行のためにも必要である.」 と述べている. 3. 2. 2 本人と家族・地域住民への調査を踏まえ, どのように告知をしたら良いか検討し ている文献  山下ら8)は,健康な成人231名を調査し,「自分自 身に対する告知を希望する場合が91%,家族が告知 を受けることに対する希望は71%であった」と報告 している.さらに,「アルツハイマー病(AD)の 告知希望の理由として,大事なことを言い残してお きたい,情報を得て治療法を自分で決めたいという 理由が多く,希望しない理由として精神的に傷つく, 告知内容を理解できない,病気の悪化が心配という 理由が挙がった」と述べている.  一方で,杉山ら9)は沖縄県に住む65歳以上の認知 症と診断されていない高齢者2018名に調査をした. その結果,「告知に肯定的であるとしたのは自分へ の告知の場合で56.8%,家族が告知を受ける場合は 29.9%,否定的であるとしたのは自分の場合で2.0%, 家族の場合で,16.3%であった」と報告しており, 成人を対象とした場合よりも告知に消極的な結果が 示された.この調査で注目したいのは,告知に対す る是非に対し,わからないという回答の多さが顕著 であったことであり,著者は告知の問題を「現実の 問題として考えが及ばない」ことを要因として挙げ ていた.  これに対し髙橋ら10)は,アルツハイマー型痴呆(原 文ママ)の患者本人を対象として病名告知の意向と その理由を尋ね報告している.この結果,対象者94 人のうち,病気の説明を希望した者は90人(96%) であった.また告知を希望した90人のうち「自分へ の告知を希望した者が80%,家族の意向に任せるこ とを希望した者が13%」であり , 高齢者であっても, 実際に認知症を患った場合であると健康な成人を対 象とした調査9)と同様に,告知に積極的な意向が示 された.なお,髙橋ら10)の調査において,告知を希 望する理由として「自分のことだから今の状態につ いてきちんと知りたい」というのが大半を占めてい た.ただし著者は,積極的に告知をすることが必要 であるとしつつ,「告知が与える影響につい詳細な 検討が今後も必要であり,告知時期や告知方法なら びに告知後の衝撃を緩和する心理的サポートシステ ムの確立が望まれる」ことを付言している.  ところで,告知の意向調査は家族に対しても行わ

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れている.今井ら11)は,もの忘れ外来を受診するア ルツハイマー病と診断された20名の患者の家族ある いはその主たる介護者に告知をすべきか尋ねた.そ の結果,告知の賛否については半々であったことを 報告している.告知した方が良いと答えた理由の半 数は,「薬物を使用するためには必要だから」であっ た.一方で,告知を望まないと答えた理由の半数は, 「病名を告げることで患者が落ち込んだり,動揺す るであろうから」であった.自分自身への告知は積 極的な場合が多いが,家族が本人の告知について考 えなければならない状況では,及び腰になっていた.   3. 2. 3 法的な側面から,どのように告知をした ら良いか検討している文献  今井ら12)は「病名告知は医療法で定められた行為 であり,インフォームド・コンセント(IC)はあ らゆるサービス提供時に不可欠な行為である」と し,「IC がスムーズに実施されるためには,認知症 の人や家族への支援体制を整備し,告知後でも安心 して生活を継続できるような環境を作ることが重要 である」と述べている.さらに,病名告知実施に伴 う課題として,①本人の判断能力の評価と判定のシ ステム化,②代理人・家族への病名告知に関する課 題:後見人の存在が欠かせないが法的には未整理の 現状がある,③病名告知後の患者・家族への生活支 援,④人権擁護体制の未整備があることを指摘して いる.住田13)は,弁護士の立場から認知症告知のメ リット・デメリットについて説明し,「診療報酬明 細書等の詳細記載の義務づけにより,未告知の人が 認知症を察知し自殺に至った場合でも医師の法的責 任は問題ない」ことを述べている.加えて,告知後 の支援体制整備について,「①医療面,②社会生活 面,③法律面,④経済面,⑤介護保険制度のさらな る拡充と制度外のインフォーマルサービスの整備が 必要」だと述べている.さらに,鈴木3)は認知症病 名告知に関する諸研究の「評価」「立場」の分類を 行い,告知をする・しないという両方の見解につい て説明を加えている.その中で,以下の①から⑮に ついては本人・家族に確認し,告知をするかしない かに影響を与える因子となることを指摘している. ①病識があるか,②精神的衝撃は生じるか,③家族 は望んでいるか,④生活指導は可能か,⑤関係性は 崩壊しないか,⑥理解力が保たれているか,⑦診断 精度の確実性はどうか,⑧進行性はどうか,⑨根治 的治療法はあるか,⑩医療体制の整備状況はどうか, ⑪説明義務の範囲はどうか,⑫知る権利,⑬社会的 偏見・差別による影響はどうか,⑭婉曲な説明によ る介入はないか,⑮介護の基本的態度はどうか. 3. 2. 4 専門職への調査を踏まえ,どのように告 知をしたら良いか検討している文献  渡邉ら14)は,作成した尺度を用いて,介護職,看 護師,ケアマネジャー,理学療法士(PT),作業療 法士(OT),医師の専門職に対して調査を行った. その結果,「介護職が最も告知に否定的な態度を示 しており,標準偏差から看護職と介護職は様々な態 度を示す集団であることが分かった.また,医師, PT,OT 集団にはばらつきがなく,告知には肯定 的であることが分かった」と報告している.このこ とから,「専門職集団ごとの態度の差の意味を具体 的に分析していくことは,専門職養成の在り方の知 見にもつながる」と述べている.さらに,今井15) 医師および介護専門職員を対象に,告知に対する聞 き取り調査を実施した.「もし自分が AD 患者の立 場であれば,告知をしてほしいですか」という問い に対しては,告知を希望すると意見が多かった.し かし,「患者に告知をすべきかの質問では賛否両論 であった.」と報告している. 4.考察 4. 1 医療者の立場から見た認知症の告知  本研究で取り扱った文献の多くは,2000年以降に 報告されていた.この背景には,平成12年(2000) に介護保険法が施行され,併せて平成16年(2004年) に厚生労働省16)が「痴呆症」から「認知症」への名 称変更を行ったことに伴って人々の認知症に対する 権利擁護への関心が高まり,認知症告知についての 議論が本格的に始まったと推測される.  医療の場で告知が課題となるのは,専ら認知症と 診断された場に早期に適切な治療,特に薬物療法を 開始するためや,服薬コンプライアンスの実行の ために,本人に説明する必要性に迫られることにあ る7,11).痴呆症と呼ばれていたころの抗認知症薬は, 1999年に発売されたドネペジル1種類だけであった が,現在は2011年に新たな3種類の薬(リバスチグ ミン・ガランタミン・メマンチン)が承認され,治 療の説明が避けられない現状が生じている.山口4) はインフォームド・コンセント後の早期治療介入が 重要であり,前もって明らかにすることが将来的対 処につながるメリットを生むと述べている.加えて, 松田5)もインフォームド・コンセントの理念は尊重 されるべきであって,その意味では患者に正しい病 名を告知すべきであるとしている.今井12)の文献か らも,インフォームド・コンセントをスムーズに実 行するための指摘がなされており,告知することが 前提となっていることがわかる.これと同時に,薬 物治療を開始する際は,「認知症の初期から中期の

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過程で本人と家族へ認知症の症状に対する説明が重 要な視点となる」6),「インフォームド・コンセント (IC)を実施する上では,初診の際に安心感を与え, 治療への意欲を引き出す対応が必要だと考える.」7) という指摘もなされており,告知を行うタイミング が重要であることも分かる.  他方,山口ら4)が指摘するような複数の課題も生 じることになる.この課題には,本人の判断能力の 低下の問題だけでなく,本人と家族の意向の齟齬や 告知後に支援する家族の問題が関連していると考え られるため,認知症の告知を本人および家族にどの ように行い,今後どのようにサポートしていくのか という検討を十分に行った上で説明することが求め られる.  したがって医療の現場においては,認知症の告知 をなすことを前提としつつ,そのタイミングや,示 される心理社会的病理6)を踏まえ,周りの家族も含 めたインフォームド・コンセントの体制づくりが喫 緊の課題となっている. 4. 2 認知症を告知する上で重要になること  前項に見たとおり,医療者にとって,認知症告知 を行うことは必須となるが,告知をするためには患 者本人が病名を知りたいと望んでいるかが重要とな る.これについては,健康な成人を対象とした場合8) でも認知症高齢者においても10),積極的な告知を望 んでいることがわかる.他方で,杉山9)らの研究で は半数しか告知を望んでいないが,この要因として 一般の人の知識が乏しく,最終的に自己決定できな いことがあるとの見解が示されており,知識の提供 によって告知を望む者が増える可能性はある.一方 で,山下ら8)の研究では,回答者の91% が告知され たいと回答していたが,家族が告知を受けることを 希望する者は71% に留まっており,今井らの研究11) においても,家族が告知を受けることには消極的に なる傾向が示されている.平原17)は「診断をシェア する意味として,本人と家族に何を伝えるのか,何 のために伝えるのか,どう伝えるのか」が大事であ ると述べている.たしかに家族内に認知症を有する 者が現れた場合,事前にどのように対応するかとい うことを話し合っておくことは大切なことである が,本人が受けたい気持ちとは別に家族の苦悩も理 解することも非常に重要な検討事項になる.  併せて,法的な側面からは人権擁護が前提とされ ていなければならない.鈴木3)は,認知症の告知に おいては,契約関係ではなく「信頼関係」が必要と される領域であると捉え,この「信認業務」を一法 理としてインフォームド・コンセントに加えること を提言している.このように,今後は法的な側面を 追いながらも人間関係を重視した支援体制が必要に なると考える . また,告知後のメリット・デメリッ トをはじめとして,告知を希望しなかった者が告知 をされたことにより,自殺する危険性があることも 頭に入れておかなければならない13).私たちは認知 症告知の是非を問うのではなく,認知症を患った者 の一人ひとりの個性に目を向け,その人の人権が護 られる支援体制やシステム作りを強化していく必要 性がある.住田13)はインフォーマルサービスの整備 を家族ならびに地域住民がどのように展開できるか が今後の課題となると述べている.そして認知症告 知を行うのであれば,鈴木3)が論じた①から⑮を家 族内でよく検討し,その後の生活の質(QOL)を 守ることが本人には大切となる. 4. 3 認知症の告知の今後について  本研究では,先行研究から認知症の告知がどのよ うに考えられてきたかを示した.認知症の告知に は,おおよそ薬物療法に絡むインフォームド・コン セントの時期や内容,家族の意向も踏まえた支援体 制作り,正しい知識の提供,法的な側面として,人 権擁護体制作りの4つの課題が抽出されたと言える であろう.これらの課題に対しては,医療者だけで なく,介護する専門職が共通の認識を持っていかな ければならない14).しかし,今井15)が明らかにして いるように,患者に告知をすべきかについても専門 職種間で意見の分かれる傾向がある.職種間の差異 は,同じ認知症患者を診ても捉え方が違うという認 識を持ち,多職種協働・連携(IPW)の中で認知症 告知を検討する課題がある.平原17)は「診断をシェ アする」ということを提起しているが,これは認知 症の告知についても同様のことが言える.職種間で 共有し,家族や地域住民と支援体制作りを行ってい くために,まずは異なる認識があることを前提とし たケア会議の機能の充実と発展が望まれる.  今回の研究では,限られた文献からの内容であり 限界がある.そのため,今後は認知症告知の実情を さらに追及し,告知後の支援体制がどのように展開 されているか検討する課題が残されている.  本論文の一部は,第16回日本認知症ケア学会(札 幌)で発表した. 文    献 1) 二宮利治:厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業「日本における認知症の高齢者人口の将来推計 に関する研究」報告書.2015.

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2) 厚生労働省:「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」 について.http://www.mhlw.go.jp/st8/houdou/0000072246.html, 2015(2015.9.15確認) 3) 鈴木道代:認知症病名告知課題に対するインフォームド・コンセントの法理的検討―信託・信任関係から捉える医 師・患者関係―.北星学園大学大学院論集,1,35-53,2010. 4) 山口登:認知症患者への病名告知に関する研究.公衆衛生,70(9),690-691,2006. 5) 松田実:インフォームド・コンセント,病名告知.Modern Physician,25(9),1083-1086,2005. 6) 高橋幸男:認知症をいかに本人と家族に伝えるか.治療,89(11),2994-3000,2007. 7) 今井幸充:認知症患者に薬物療法を始める際の病名告知について.治療,93(9),1830-1834,2011. 8) 山下真理子,小林敏子,藤野久美子:アルツハイマー病の病名告知に関する健康成人の意識調査.13(12),1433-1445,2002. 9) 杉山美香,矢冨直美,宇良千秋,本間昭:地域高齢者家族の痴呆の告知に対する態度.日本痴呆ケア学会誌,2(2), 140-149,2003. 10) 髙橋忍,新妻加奈子,小野寺敦志,山口登,伊藤幸恵,下垣光,渡部廣行,柳田浩,杉山恒之,森嶋友紀子,青葉 安里:痴呆患者への病名告知の研究―アルツハイマー型痴呆患者本人の意向―.老年精神医学雑誌,16(4),471-477,2005. 11) 今井幸充,杉山美香,北村世都:アルツハイマー病告知の現状と問題点.老年精神医学雑誌,11(11),1225-1232, 2000. 12) 今井幸充,渡邉浩文:認知症の病名告知とインフォームド・コンセント(IC).日本認知症ケア学会誌,10(4), 421-428,2012. 13) 住田裕子:認知症の告知の問題.老年精神医学雑誌,22(増刊号-Ⅰ),138-142,2011. 14) 渡邉浩文,今井幸充,北村世都:アルツハイマー病の病名告知に対する専門職集団の態度に関する研究.目白大学 総合化学研究,(2),165-173,2006. 15) 今井幸充:アルツハイマー病患者のケア,とくに社会的サポートと告知を中心に.老年精神医学雑誌,16(6), 718-719,2005. 16) 厚生労働省老健局計画課痴呆対策推進室:「『痴呆』に替わる用語に関する検討会」報告書.2004. 17) 平原佐斗司:診断をシェアするプロセス.平原佐斗司,認知症ステージアプローチ入門,第1版,中央法規,東京, 106-115,2013. (平成28年2月5日受理)

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A Literary Review of the Actual Status and Problems of Dementia Notification

Kenji HAMABATA, Megumi ANDO and Sachie MIYABAYASHI

(Accepted Feb. 5,2016)

Keywords : dementia, dementia notification, literature Correspondence to : Kenji HAMABATA     Jichi Medical University School of Nursing

Shimotsuke, 329-0498, Japan E-mail :[email protected]

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