アジアの若年労働者の就労事情 : 日本と韓国 (<特
集>シンポジウム : アジアの若年労働者の就労事情
: 日本と韓国)
著者名(日)
西山 茂
雑誌名
九州国際大学経営経済論集
巻
17
号
2
ページ
1-4
発行年
2011-01
URL
http://id.nii.ac.jp/1265/00000185/
特集 シンポジウム
〔序 文〕
アジアの若年労働者の就労事情 日本と韓国
Employment and Working Conditions of Young Workers in Japan and Korea
西 山 茂
九州国際大学経済学部における組織的な研究活動の基幹となっている経済研 究センターは、経済学部の研究を多面的に支援するとともに、研究成果の内外 への還元を主眼として、種々の学術企画を継続的に開催している。2009年度に は北九州市学術・研究振興事業調査研究助成金による後援を得て、労働経済 学・社会保障論・労務管理論の若手研究者を国内外からパネリストに招聘し、 国際シンポジウム「アジアの若年労働者の就労事情 日本と韓国」を11月 25日に開催することができた。本号はこのシンポジウムを内容とする特集で ある。 この度の国際シンポジウム「アジアの若年労働者の就労事情 日本と韓 国」では、今日の日本において焦眉の経済問題の一つとなっている非正規雇用 の拡大と雇用の不安定化を主題とし、とりわけ若年層における就労と雇用の現 状に即して、韓国を中心とするアジアとの国際比較の観点から理論的かつ実証 的な分析を進めることが意図されていた。また同時に就職活動を間近に控えた 学生諸君に対し、直面する就労と雇用の現状を踏まえて各自が就職をどのよう に捉えるか、またどのような就職活動の方法が有効であり、どのような姿勢で 取り組んでいくべきか、といった実践的な提言をこうした分析に基づいて行っ ていくことも当初より構想されていた。このようなテーマと問題意識のもとに、このシンポジウムでは、いずれも気 鋭の研究者である浦川邦夫氏(九州大学大学院経済学研究院経済工学部門講 師)、許棟翰氏(明知大学校経営学科副教授)、井村直恵氏(京都産業大学大学 院マネジメント研究科准教授)、本間利通氏(流通科学大学情報学部講師)の 四名(登壇順、文中の所属等は開催時のもの)をパネリストとして、三島重顕 氏(大阪経済大学経営学部准教授)をコーディネータとしてそれぞれ招聘して いる。またシンポジウムの形式にも十分配慮し、現代の日韓における若年労働 者の就労状況を分析する第1部「アジアの若年労働者の現状」と、今日におけ る就職の意味とその効果的な方法を考察する第2部「就職支援講座」の二部構 成とすることによって、上記の趣旨を一層明確にすることとした。 当日は、まず第1部で、浦川邦夫氏の報告「日本の若年労働者の就労状況と 社会保障政策」により、日本の若年労働者の就労事情が全般的にどのように推 移し、どのような特徴を有しているか、就労世代に対して社会保障政策がどの ように作用し、そこにどのような問題が含まれるか、という論点を中心に、労 働政策のあり方、労働行政の諸問題、日本の経済格差・貧困問題をもカバーし た考察が示された。次いで許棟翰氏の報告「韓国の若年労働者の動向」では、 非正規雇用の拡大を含む韓国の若年労働者の就労状況、それを規定する韓国経 済のマクロ的な動向、韓国における労働供給の特徴、韓国に独自な雇用慣行と 労働政策の問題点が明らかにされ、企業間格差の是正と教育制度の改革を内容 とする政策提言とご自身の滞日経験を踏まえた日韓比較が併せて示された。続 いて第2部では就職の意味とその方法について実践的な観点も含めた考察が進 められ、まず井村直恵氏の報告「効果的な就職活動支援」では、就職活動を開 始するまでの大学生活の過ごし方、採用する側である企業が学生の何をみる か、就職するために何が求められるか、といった論点について、“competency” という新しい概念を適用した経営学的な分析とそれに基づく実践の方法が具体 的に提示された。最後に本間利通氏の報告「働く意味の再考」では、就労に よって各自が帰属する組織の概念について興味深い事例を豊富に用いた考察が
示され、とりわけ“span of control”の概念に即して、水平・垂直といった組織構 造や組織の境界が曖昧になっている現代の組織ではどのような職務に従事してど のような業績をあげるかという点こそが重視されなければならないと論じられた。 現代における若年労働者の就労と雇用に関する以上の四つの報告を受けて行 われたディスカッションは、主として学生諸君から提起された質問とそれへの 回答を中心として進められ、若年労働者とその雇用状況の日韓比較、日韓両国 における非正規雇用の拡大とそれがもたらす就労へのインパクト、労働市場の 実態と労働政策、企業の人事政策とそれを捉えた就職活動支援、組織の機能と そこにおける労働の意義など、極めて現代的な論点が多面的なアプローチに基 づいて深く検討され、緊密な意見交換を通じて問題がさらに掘り下げられたと いえる。 以上のシンポジウムの全体を通じて、現代の若年労働者の就労と雇用に関す る理論的・実証的諸問題について深い理解を共有し、学術的な成果としてだけ でなく、これから就職活動を実際に進めていく学生諸君にとっても、また直接 その指導に携わる教職員の認識の深化という観点からも、一定の意義を有する 考察と提言が鋭く提示されたと思われる。何よりも参加した多くの学生諸君が 自らにとっての就職と労働の意味を問い、改めて捉え直す好機となったのでは ないであろうか。実際、シンポジウムの終了後にもパネリストに熱心に質問 し、時間が経つのも忘れたように真剣に討論する学生がみられた。さらに今回 のシンポジウムでは、テーマに対する社会的な関心の高さを反映して、一般参 加者を含めて300名を超える参加者が得られ、北九州地域において本学が担う べき基幹的な役割という観点からも有意義な企画であったといえよう。 この度の特集ではパネリストの方々に当日の所論を踏まえてより一層充実し た内容でご見解と論点を提示していただくこととした。労働経済学や労務管理 論に限らず、現代経済社会の問題に関心を持つ多くの方々にご披見いただき、 シンポジウムの趣旨をご理解いただくとともに、その意義を幅広く共有化でき ればと考えている。
最後になったが、パネリストをご快諾いただき、貴重な報告を賜った浦川邦 夫、許棟翰、井村直恵、本間利通の各氏、コーディネータとして企画の当初か らご尽力いただいた三島重顕氏に厚く御礼申し上げる。またこの度の企画に関 連して、最後までご支援くださった後藤勝喜学長、助成金の渉外業務を担当さ れた湯淺墾道副学長、門外漢のオルガナイザである私を強力にサポートしてく ださった西堀喜久夫企業政策研究科長と野村政修経済学部長、各種の準備作業 を担当された経済学部の山口秋義副学部長と三笘利幸准教授、数々のご協力を 賜った学務事務室スタッフに深謝申し上げる。 (2009年度経済研究センター運営委員)