障害の早期発見とその対応に関する一考察 : 就学前後の諸機関における支援と連携の状況から 利用統計を見る
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(2) Ⅲ.地域保健事業・母子保健事業の役割. 1.県の様子 子どもの生命と成長,健康は,「児童福祉法」「母子保健法」「地域保健法」などの法令を根 拠として,市町村を主体とした地域保健事業により保障されている。妊婦・新生児訪問, 妊婦・乳幼児健診,発達・発育相談などの母子保健事業の中で,家庭環境,母子関係,本人 の心身の問題などが発見される。そこで問題視された様々な障害や困難に適切に対応する ことが,親を子育ての困難から解放し,子ども自身の生活上の問題を解決することになる。 地域保健について,多くの自治体が「保健福祉部」「福祉保健部」「市民部」などの部 署の中に「健康増進課」または「健康づくり課」,あるいは「係」として位置づけ,「子育 て支援課」「児童課」などが並列しておかれている。「健康増進」課・係の中に「母子保 健担当」があり,「児童課」の中に,子育て支援担当や児童担当などが位置づけられ,母 子保健事業から子育て支援事業へとつながる仕組みができている。 名称の違いはあるものの,おおよそ, 「保健福祉」部門の中で「母子・保健指導」 「児童・ 子育て支援」「成人健診・健康増進」「介護福祉・高齢者福祉」「社会福祉・障害福祉」の 業務が行われている。聴き取りにて「地域保健が対象とする個人は,乳児から高齢者にな ............... るまで,ひとりの人としてつながっている」という回答を得た。地域保健にかかわる保健 師の意識を象徴している。 平成17年7月から19年3月まで,厚生労働省健康局総務課保健指導室によって『市町村保 健活動の再構築に関する検討会』が開かれた。この報告書によれば,地域保健法の制定以 来,地域保健を担う部署では業務の拡大が生じ,専門職の分散配置によって本来の業務, 保健師の専門性を活かした業務が行われにくくなっていると指摘されている。そのような 状況にもかかわらず,地域保健は効率化と経済化が求められている。この現状の中,子ど もたちすべてが健やかに発育し,子育ての困難さから保護者が解放されるための療育活動 はどう位置づけられるのか。同報告書によれば,保健師の中核的業務は,担当地区として 割り当てられた家庭(妊産婦や乳幼児)への訪問,育児環境や家庭の問題の把握,健診に よって把握された課題への対応などである。 6市の聴き取りの結果でも,地域保健が担っていく事業の多様さと量,求められる質の 高さなど,負担があまりに大きいことが,現実問題として憂慮される。上述の同報告書に は「地域住民組織,NPO等と役割を分担しながら協働して保健活動を推進することが求め られている。」とある。 しかし,地域保健や母子保健には「ひとりの人としてつながっている」個人を市町村の 住人として見守り続ける支援のキーパーソンが必要であり,人のつながりで運用される地 域のシステムが必要である。大きな負担が一部に集中することなく,地域を支える大切な 役割がそれぞれの部分において機能すること,そしてそれが自治体全体としてのシステム として機能すること,そういう展望をもって地域をつくるという意識をもっていたい。 - 124 -.
(3) 2.乳幼児健診について 乳幼児健診は各自治体で大差ない方法で行われているが,「健康診査票」といわれる記録 用紙は多種多様であった。しかし,市町村の合併を機に改善がなされている。「乳幼児健 診マニュアル第3版」(福岡地区小児科医会乳幼児保健委員会編,医学書院,2002)によ れば,乳児健診の個別健診は毎月,集団健診は最も異常が発見されやすい月齢(key month) に行うのがよいとされる。発達神経学的には4か月,7か月,10か月,幼児期では1.6歳,3 歳,5歳とのことである。生育歴の把握も重要としている。そして,一般理学的検査,そ れに続き発達診断学的診察を行うという流れが適切に行われる。デンバー式発達スクリー ニング検査が推奨されている。本県では,「遠城寺式乳幼児分析的発達検査法」が一般的 なようだ。その他,「日本版デンバー式スクリーニング検査」「津守式乳幼児精神発達質 問紙」「早期発達診断検査」「ゲゼル検査法」「ブラゼルトン新生児行動評価法」「ミュン ヘン機能的発達診断法」「ベイリー乳幼児発達検査」などが使用されている。 いずれにしても大切なのは,子どもに発達上の遅れがないか,親に子育ての不安がない か,親の不適切な養育はないかなどを把握することが重要である。それらを踏まえた第三 者による適切な介入が,乳幼児が地域で安心して暮らし,成長・発達する上で欠かせない。 健診には,保健師,地域の医師,心理士,自治体によっては保育士,子育て支援の関係 者が参加する。健診とその後のカンファレンスの内容,具体的な支援の手だてや経過など を記録することで,支援が必要な限り継続され,子どもを支えることになる。記録するた めの「健康診査票」あるいはその総括としての「母子保健カード」のような記録が大切な 生育歴であり,就学時の支援にも不可欠になる。母子保健事業・母子保健福祉活動の要と なる乳幼児健診とその記録としての資料が有効に活用されることに注目したい。. Ⅳ.地域保健・母子保健事業の実際と教育の連携. 1.聴き取り調査に関する考察 聴き取り項目は以下の(1)-(6)である。誕生から就学までの生活年齢の変化に応じた支 援にかかわる質問である。聴き取りの結果は省略して,総括的に考察する。 (1)乳幼児健診の方針・重視していくこと ○平成6年の「地域保健法」の制定により,母子保健サービスやその他の地域住民に身近 で頻度の高い保健事業の中心的な役割を市町村が担うことになった。保健センターを拠点 として地域住民に対する健康相談や保健指導などの保健サービスが行われている。調査対 象のほとんどが,保健センターに地域保健事業が集約されていた。 乳幼児健診は地域保健事業として,地域に生まれた子どもに対しての公的な支援の始ま りである。妊娠届,乳幼児健診をきっかけとした関係づくりによって家庭や母親や子ども の状況が把握される。地域担当といわれる保健師と家族(特に母親)との信頼関係を築く ことに各自治体は努力していた。自治体の合併が進み規模が大きくなっているものの,顔 - 125 -.
(4) が思い浮かぶ地域担当者がおり,人口規模も保健面で掌握しやすいという回答は示唆的で あった。 ○乳幼児健診の方針や重点についての質問に対して,子どもが将来にわたって心身ともに 健康に育つことを考える保健事業,病気や事故の予防と子育てにおけるリスクの排除,子 育てへのサポートと回答したところがほとんどであった。健診は子どもが育つ家庭環境や 母親の子育ての様々な不安や困難を支援することという重要な意味をもつ。把握された子 どもについての問題点を母親が受けいれ,そしてその問題点にたち向かう気持ちを時間を かけてつくるためにも,健診が不可欠である。 (2)療育への支援・キーパーソン ○すべての自治体で,発達・発育相談教室が実施され,乳幼児健診を踏まえて子育て相談 を実施している。しかし,自治体によって手厚さという点ではかなり差があった。保育所 への入園以前に状態を把握しておくことで,保育所での3年間の過ごし方が変わってくる。 保育士の対応も変わるし,障害児をもつ母の関係にも介入できる。保育所での発達への関 与が重要である,という方針で入園までの期間を一つの目安として,医師や心理士などに よる視点も加えながら幅広く子どもの状況をつかもうとする市がある。一方,保護者が自 分から相談先を見つけ,訪問して,その後のつながりも自分から開拓するという市もある。 この市では,一目でわかる支援連携図がつくられ,実際に動く保護者にわかりやすい。自 治体が積極的に手を差し伸べるか,待ちの姿勢に徹するかにより,当然,障害や問題の発 見には差が出てくる。 ○発達への疑問や育てにくさなどへの母親の気づきを促していくことで専門的な相談が確 実に実施されれば,3歳児健診をその後の育ちに対する支援の見直し,もしくは積極的な 働きかけのきっかけにできるのではないか。そのためには,自治体が健診と保育の場をつ なげるという方針を明確に打ち出し,健診で得た情報を踏まえて具体的に保育の場でどん な生活をつくったらいいかを親に対して提案し,子育ての協働を図るべきである。『保育 所保育指針』によれば子育て支援や親へのサポートは保育所に求められている。 (3)保育所・幼稚園での支援 ○家庭では見えにくい,集団場面での問題を母親に認識してほしいとの要望が保育士には あり,そこから,5歳児健診を望む声が多い。保育場面での子どもの問題についての保育 士からの言葉を,母親は受けいれにくい。しかし,健診を行うことで,保健・医療の専門 家からの意見としてはっきりと子どもの問題について伝えていくことが母親の受けいれと いう点では有効だと考えているようである。 ある市では,保育士の問題意識が高く,保育所で療育の役割を意識した活動を行ってい る。保育士は積極的に研修を行い,保育上の問題や課題を抱える子どもへの対応を改善し ようと努力している。他に療育機関がない,というのがその自治体の実態のようだが,む しろ統合保育という実践に学ぶところが大きいと感じる。国や県からの助成制度がなく なったが,障害児保育に関する条例に従い,独自に障害児加配の制度をつくった市もある。 - 126 -.
(5) ○保育所での生活に課題があると判断された子どもに対し,保育士が保健師に情報の交換 を求めたり,健診で課題が発見された子どもに対し保健師が保育所に訪問して実態を確認 するというように相互に乗り入れながら連携しているケースは多く見られた。子どもとか かわる人の視点を広げることは重要である。子どもへの具体的な支援を考えることが生活 上の困難の克服につながり,その後の育ちや家庭での対応にも影響を与える。 (4)就学までの支援 ○就学時健康診断(以下,就学時健診)の前の5歳児健診の実施について,年中児スクリー ニング票の活用を実施している市,小児科医による発達上の問題の発見を重視している市 もあった。行動上の問題も顕在化しやすく,家族も問題意識をもち始める時期であるため, 健診の結果を踏まえて対策を考えるには重要な時期と捉えている。そのような意味で,こ の時期の健診を実施していない自治体の保育士からは実施を希望する声が多いということ だが,自治体に5歳児健診実施後のサポート体制ができているとは断言しにくく,現在も 保育所に療育機能を担ってもらっていることから,積極的な療育に結びつけるのは困難と される。実施するにしても,スタッフ不足が課題という回答があった。健診後の対応につ いての具体策がなければ実施の意義は薄いと考えているようである。人員や場所,あるい は療育事業の展開については課題が多く,全国的な問題であり,ほとんどは予算にかかわ るようである。 ○就学時健診の資料として,子どもたちの情報を就学先の小学校に提出することが保育所 などに義務付けられている。自治体によってはチェックリストのように細かな項目を設定 しているところもある。就学時健診の方式についても,保護者が子どもを連れて検査室を 回る形式,少人数のグループに分け,教育委員会の職員が付き添って検査室を回る形式な どがある。会場に小学校を使うか,あるいは特別な場所を設けるか,検査に教師が携わる か,教育委員会関係の職員が携わるか,方法や手段は,各自治体の諸条件によって様々で ある。しかし,就学後の支援のために,具体的な場面での問題点や反応の特徴など,子ど もの実態を詳細に把握することが必要となれば,実施の仕方についての検討は必要である。 ○学校生活の開始からの適切な対応により,その子どもが感じる困難さや二次的な障害を 減らせる。そのためには,子どもの実態の把握とそれについての学校と保護者の共通理解 に基づいた話し合いが繰り返され,納得のいく学習環境が用意されることが重要である。 中学校入学でも同様である。しかし,自治体によっては小学校から中学校への情報提供や 連携さえもまだ十分でないのが現実のようである。小学校も中学校も情報の共有の必要性 を感じている。管轄の教育委員会への積極的な要望が必要である。 (5)就学後(小学校・中学校)の支援 ○「子どもは一つながりの子ども,成長の過程で二次障害を起こすことのないような支援 が必要。教育機関などとはこれから共通意識をもって連携していく必要性を感じている。」 という回答からは保健と教育間の連続性は課題であるといえる。就学時に合理的な配慮が なされないまま,学校生活を送る中で様々な問題が生じる例は多い。小・中学校は限られ - 127 -.
(6) た人員配置で対応を工夫している。市単独雇用の支援員や教員などは,かなり多く配置さ れている。ある小学校は,学校だけのかかわりでは難しい児童に関して,校内で協議の後, 校長から市の子育て支援課,家庭相談員などに対応を依頼するなど柔軟で多角的な支援を 実行していた。学校づくりは管理職の考え方で大きく左右される。誰のための学校か,そ のための管理職とは,また教師とはどういう役目をするのかを教えられる取り組みであっ た。 ○保健師と養護教諭の連絡会の実施は必要性を感じつつ,保健分野から学校現場への直接 乗り入れには困難さがあるのが現実である。 (6)現時点での課題 ○各自治体が抱える課題は様々である。しかし,子どもたちが豊かで幸福な生活を送るた めに専門職として何をなすべきか。各専門職は各立場に基づき,最大限の仕事をしている。 その中で彼らが感じている現状の中での課題を筆者は以下のように大別して捉えた。 1)共通意識をもった地域ネットワークの構築 2)障害の早期発見と療育機関の充実 3)親の障害受容,家族の状況に応じた支援のあり方 4)二次障害を起こさないための支援 5)情報の共有と情報保護のあり方 6)保健業務の拡大への対応 特にこの1),2),4)の3つの事項について,以下に提案を試みる。. 2.課題に関する提案 (1)共通意識をもった地域ネットワークの構築について 聴き取りで得られた回答から,各市における保健,保育,教育分野での取り組みの現状 と目指すところが見えてきた。そして,それに向かって業務を果たそうとする人々はみな 自分の専門性を活かし努力している。『対人専門職における限定性』(三井,2004)の中 でできる最大限のことをしている。その最大限の努力を本当の意味で実らせるには,他の 専門職とつながることが重要である。一つの自治体,一つの社会の中で,すべての業務が 有効にかつ円滑に行われるためにはそれぞれが専門的な技能や知識をもつ担当者によって 管轄されることは至極当然のことである。元は一つの自治体の業務の有効性という点から 発した分割化だからこそ連携することでさらに有効に作用するというのも当然であろう。 保健,保育,教育の分野では特に必要とされる連携である。まず,それぞれの分野が管轄 領域を明確にすることで,その分野として他分野とかかわり,補い合う必要のある部分も 見えてくるだろう。そこが連携のポイントである。 問題は,連携システムがその力を発揮し,有効に機能するためには何が必要か,である。 . ある機関からは「大事なのは人であり,その人が積極的に動くことで必要な支援機関に働 きかけること」との回答を得た。またある人からは「時間をかけて後継者に連携や支援の - 128 -.
(7) 実際を体験してもらい,仕事を覚えてもらうこと。それによって人を育てる。そのために .. は,一緒に活動するので手間と時間がかかる。組織としてその時間も保障してくれる必要 がある。」との回答を得た。 連携システムを行政が制度として整備した場合,それが有効に活用されるためには,役 割を負った人が自ら足を運んで動かなければならない。手から手へ結ばれたシステムが, かかわる人に手法として引き継がれるためには,その人も実践の場を踏んで手法を身につ けていく必要があり,そのための時間と労力も業務の一環として保障される必要がある。 有効なシステム運用には,人が必要である。人を育てるには時間と手間がかかる。例え ば,特別支援教育の担い手とされるコーディネーターを指名しただけで特別支援教育が有 効に実践につながらないと聞くが,それも同じ理屈であろう。 (2)障害の早期発見と療育機関の充実 健診や発達相談で,育てにくさのある子ども,特に発達障害や軽度の知的障害などが疑 われる子どもを見いだしていく上で重要なのはその後の支援である。子どもと親の適切な かかわり方を支援するという点で,ペアレントトレーニングや父母学級,祖父母学級を行 うところもある。県外のある自治体では,保健師が見いだした家庭あるいは要望がある家 庭に対して,自治体が契約した地域の育児の経験者が該当の家庭へ出向いて,子育ての不 安や悩みを聴く,家事の手伝いを行うなどの支援をしていると聞く。1回2時間までで3回 は無料で使える支援だという。特別な場所での療育が必要な場合ももちろんあるが,生活 する地域で友達と一緒に育つことの方が大切ではないだろうか。統合保育の有効性につい ては,社会性の成長やコミュニケーション能力の獲得,人とかかわり将来の生活を見通し ての観点からも認められるところである。そのためには,保育の場の充実が重要である。 保育士が専門性をもって,保育内容を充実させ,他機関との協働による保育が実現するこ とで,理想的な療育が可能だと考える。こういった保育士の努力や保健師との連携につい て,実践している自治体を参考にすべきであり,自治体内部でも取り組みを正当に評価し, 人員配置との予算配分の面でのさらなる充実を図るべきではないだろうか。 (3)二次障害を起こさないための支援について ①教育の充実 例えば,『新たなやまなし障害者プラン』の第3章の「自らの力を高め地域でいきいき と活動するために」に「早期の段階から一人ひとりの障害の特性に応じたきめ細やかな教 育を受けることが必要であること」とある。このため,乳幼児期から学校卒業後まで一貫 した相談支援体制の整備が重要であり,その具体策として,冒頭に記した「個別の教育支 援計画」を策定することになった。だからこそ,教育,福祉,医療,労働等の関係機関の 連携協力体制の構築が望まれているのである。 ②就学前の支援 母子保健は,子どもの出生前からの見守りである。保育所からの要請があればこれまで の親子の様子を踏まえて対応の仕方を伝えていく。決して計画に沿った支援ではないが, - 129 -.
(8) これらの支援は記録されていく。学校教育の発想と大きく異なるところである。聴き取り の結果より,教育機関などとはこれから共通意識をもって連携していく必要性を感じてい ることが理解される。保健の立場からの障害に関する啓発活動を推進したいという意見や, 保健師は親の立場に立った支援を行おうとしているという意見,学校とは立場の違いを感 じるという意見もあった。では,何を手だてとして連携していけるか。 大切なのは支援の記録である。生じていた困難やこれまで受けてきた支援の記録を踏ま えて,現在の困難を切り抜ける手だてや支援について考えるための情報として記録が必要 である。「支援計画という言葉からその子の将来を決定してしまうという印象を受ける」 との回答があった。 「支援計画」というとまるで手厚い支援を準備しているようであるが, 進む道を本人以外の誰かが決めてしまうようでもある。大切にすべきは,そのつど対処し てきた,医師,看護師,保健師,保育士などの人々の支援の記録であり,それを使って今 の困難に対処する指針を得ることこそが重要である。学校教育の中で,新たな困難に直面 する親と子を支援することは,この記録を受け継ぐことから始まるのではないかと思う。 ③子どもの姿に沿った支援 佐藤(2000)は学校のカリキュラムは教育目標のチャートでも,指導計画の一覧でもな いと述べている。カリキュラムづくりは一つの活動により進行するが,それは3つの要素, 「学びの経験のデザイン」「学びの経験を創造する教室の実践」「その学びの経験の省察 と評価」からなるとしている。子どもに沿った学びをつくりだすことで,その子どもの姿 が大きく変容する。明日の子どもの姿は今と違う。よって,計画は毎日書き変えられなけ ればならない。授業実践を省察し,評価することでその子どもの成長や変容を理解し,次 の授業実践がより適切なものになる。その記録はその子どもの成長の記録であり,これか らの学びや生活をつくっていくための基になる。さらに学校においては他の子どもたちの 指導にも役に立つ記録となる。これこそがカリキュラムであると考えてよいであろう。 支援計画には教育計画という発想に重なるものがある。目標とそれに至るための道をつ くり,そこに導くことは一つの方法であるかもしれない。しかし,子どもはもてる力も, 抱える困難も大人の予想を超えることがある。今,子どもが出そうとしている力や,子ど もがぶつかっている壁に気づきながら,育ちや学びに必要な手だてを考えていくことこそ が重要である。保健師や福祉関係者,子育て支援員などが障害への支援と共に子育ての支 援という視点をもって見守ってきた記録としての情報を『育ちのカリキュラム』として引 き継ぐことで,学校生活での二次障害の予防の手だてが考え出せるのではないだろうか。 学校を卒業した子どもたちは,引き続き地域で暮らす。学校時代が地域生活の空白であっ ていいはずがない。その意味でも,学校における地域との協働は不可欠である。. Ⅴ.まとめ. 今回の研究により,障害,言い換えると,子どもが生きる上での困難は早く見いだされ, - 130 -.
(9) 適切な対応と必要な支援を受けることは重要あると確認した。そのためには,地域の生活 者として健やかに育てられる環境が整えられることが不可欠である。どの形態の学校教育 を選択するにせよ,就学後も地域の同年代の子ども達とつながりをもった生活を保障する ことが重要だ。そのためには自治体のそれぞれの部署,保健・医療,保育・療育,学校教 育,福祉が役割を果たしつつ,補い合い,積極的につながりあえる生活環境が大切である。 この環境としての支援の輪に教師も加わっていくという意識を持っていたい。教師の専門 性が第一に求められるのは教科指導であるが,学校生活の中での子どもの姿を理解するこ とも専門性の一つだろう。しかし子どもの背景にある暮らしや事情には対処しきれないも のも出てくる。そこで必要なのが機関連携,育ちを支える支援の協働である。 子どものそれぞれの発達段階を支える専門職が,「戦略的限定性」ともいえる明確な専 門性を発揮しその役割を果たすことで,自ずと,自分がかかわれない分野が見える。そこ について協力を仰ぐことも専門職の役割と認識すべきである。その協働こそが連携であり, そのつながりが子どもたちの育ちを支え,学びを促す。学校はこの連携の中にあることを 自覚し,子どもの育ちやこれまでの支援のあり方やかかわりを含めて子どもをまるごと捉 えるという発想をもっていくべきである。 河合(1995)は教師には研修が必要であるが,むしろ訓練という言い方がふさわしいと 指摘する。事例に当たりそのつど最善の方法を考えていくことである。まだ解決されない 課題をもちつつ,新たに見えてくる問題を検討し続けたい。. 文献 1)福岡地区小児科医会乳幼児保健委員会編(2002)乳幼児健診マニュアル第3版.医学 書院. 2)厚生労働省(2007)市町村保健活動の再構築に関する検討会報告書. 3)佐藤学(2000)授業を変える学校が変わる-総合学習からカリキュラムの創造へ.小 学館. 4)三井さよ(2004)ケアの社会学-臨床現場との対話-.頸草書房. 5)河合隼雄(1995)臨床教育学入門.岩波書店.. - 131 -.
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