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IRUCAA@TDC : 研究と社会貢献の観点から

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Academic year: 2021

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

研究と社会貢献の観点から

Author(s)

柴原, 孝彦

Journal

歯科学報, 109(2): 153-157

URL

http://hdl.handle.net/10130/1869

Right

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増え続ける口腔がんを制御するため,教室では 「予防する」を第一に掲げ取り組んできた。本項で は,一次予防として口腔がんの特性を見抜く分子生 物学的アプローチ,二次予防として口腔がんを早期 発見して治療へ導く検診システムの構築,について 解説する。 ⑴ 研究の変遷 本学口腔外科学教室は,大正12年に遠藤至六郎教 授によって開設され,今年で創立85年を迎える。歴 代教授の薫陶のもと着実な発展を遂げ,実績および 業績ともに常に学界をリードしてきた。そして当初 より教室は,『口腔がん』に対しても臨床と研究の 両面から積極的に取り組んできた。遠藤教授が昭和 2年に執筆された『口腔外科診療の実際』には,口 腔がんについて多くの臨床統計を呈示し診断から手 術手順に至るまでの詳細な記載がすでにみられる。 今日まで長い時間を掛け,脈々とテーマは継承さ れてきたが,医学の進歩に併せ口腔がん医療の理念 は少しずつ変化をしてきた。治療面での医療コンセ プトは,最初は口腔がんを致命的な疾患と考え姑息 的な摘出に留めることから,周囲組織を含めた根治 的切除手術,機能的な再建を加えた拡大手術,そし て現在,選択的な縮小手術へと推移してきた。研究 面での医学的アプローチは,組織形態学的観察から 始まり,細胞動態の解析,DNA と RNA を含めた分 子生物学的解析,タンパク機能をみるプロテオミク ス,そして最近では細胞内情報ネットワーク解析へ とシフトしてきた(図1)。 近年の分子生物学の進歩により,がんの発生は後 天的な遺伝子異常が原因であることが明らかになっ た。口腔がんは,口腔粘膜が外来刺激を直接受けて DNA が傷害され,また多段階の積み重なった遺伝 子変化も加わりがん化していくと考えられている。 がん抑制遺伝子の欠損や変異は,がんに至る道のり のほんの一段階にすぎない。正常細胞を致命的なが ん細胞に変化させるには,複数の遺伝子変異が必要 となる。具体的にはがん遺伝子,がん抑制遺伝子, 修復遺伝子や細胞内シグナル伝達,アポトーシス, 細胞周期,薬物代謝,免疫応答に関係する遺伝子な どについての研究が進められてきた。 一部の遺伝性がんを除き,特定の数少ない責任遺 伝子変異だけが原因なのはわずかであり,現在で は,がんは多くの遺伝子が関与する多因子疾患と考 えられている。このような現状を踏まえ教室では臨 床に直結したトランスレーショナルリサーチを目指 している。 ⑵ Update な口腔がんの研究 a.高密度 SNP Genotyping アレイを用いた全ゲノ ムコピー数とヘテロ接合性消失の解析 発がんの探索は,ゲノムコピー数の異常(CNA: copy number abnormality)やヘテロ接合性消失(L-OH:loss of heterozygosity)など細胞が自ら抑制不 能となり,無秩序に成長する原因である遺伝子変化 を検出することから始まった。多くのがんの場合, このような変化はがん化を促進するがん遺伝子の活 性化もしくは,がん抑制遺伝子の不活化によって起

4.研究と社会貢献の観点から

柴 原 孝 彦

口腔外科学講座主任教授 図1 口腔がんの細胞分子生物学的な解析法 153 ― 51 ―

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こる。われわれは,これまで,口腔扁平上皮癌の発 生過程について第2番,3番,21番染色体上の欠失 状況を LOH 法を用いてアレル不均衡の解析を行っ てきた。その結果,口腔扁平上皮癌患者から2q で 2か所,3p で3か所,21q で4か所に共通欠失領 域の同定を明らかにし,これらの染色体座位には本 腫瘍の発生に関与している重要ながん抑制遺伝子が 存在していることを明らかにした(図2)。 最近,大規模な一塩基多型(SNP:single nucleo-tide polymorphism)タイピング用に高密度オリゴヌ ク レ オ チ ド(Affymetrix 社 製 GeneChipⓇ Mapping 10K Array)が開発され,がん細胞ゲノムに生じる 様々な変化を全染色体上で網羅的に解析することが 可能になった。個々の人間の遺伝子配列は99.9%ま で同一で,残り0.1%が異なる。この違いは,一塩 基多型(SNP)とよばれ,DNA 塩基配列が一塩基だ け置換されている変異に由来するものであり,発が んに関連する遺伝的変異または遺伝的差異のパター ンを明確にするのに有効な情報である。ヒトゲノム には1000万か所の SNP が含まれると推定されてい る。これは,300塩基ごとに1か所存在する割合に なる。GeneChipⓇ Mapping 10K Array における

SNP プ ロ ー ブ の 平 均 間 隔 は210kb ご と で あ り , 10,204個 の SNP が 測 定 可 能 で,従 来 の CGH 法 (Comparative Genomic Hybridization)に比べ,極 めて高い解像度と分解能で染色体コピー数の変化を 検出することが可能である。全ゲノム上の CNA と LOH について検討した結果,いくつかの候補遺伝 子を同定することができた。 b.口腔がん関連タンパクのプロテオミクス解析 ヒト全ゲノム塩基配列が明らかになり,次の段階 として遺伝子の翻訳産物と生体機能の関係を解明す るプロテオミクス研究に関心が集まった。一般にプ ロテオミクスは,遺伝子情報のもつ意味を最終産物 であるタンパクレベルで理解し,細胞の生命活動を シュミレートするために不可欠な情報を提供する。 口腔がん細胞に対してもこのプロテオミクスを応用 し,口腔がん関連タンパクの抽出と生物学的な解析 を試みた。 口腔がん培養細胞より抽出したタンパク(100μg) を二次元電気泳動法の試料とした。二次元電気泳動 法とは,一次元目に,分子のもつ電荷が0となる pH の違いによってタンパクを分離する等電点電気 泳動法と,二次元目に,分子量の違いによってタン パクを分離する SDS-PAGE の二回の電気泳動を行 い,タンパクを分離する方法である。二次元電気泳 動後,ゲルを銀染色することで,個々のタンパクは タンパクスッポットとしてカタログ化される(図3)。 得られたプロテオームをスキャナーで取り込み, 専用の解析ソフトにより,発現差異のあるタンパク スポットを検出する。発現差の大きいスポットはゲ ルから切り抜き,MALDI-TOF MS による質量分析 を行い,ペプチドマスデータベースと比較して同定 した。次に正常細胞と比較して,口腔がん細胞で特 図3 二次元電気泳動法を応用したプロテオミクス解析 NOK は正常細胞,Ca9-22 は口腔がん細胞を現す。Ca 9-22 で発現が低下しているタンパクが抽出された。 図2 教室で抽出した口腔がん抑制遺伝子

本学におけるがん治療の取り組みに関する現状と将来 154

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異的に発現低下しているこのタンパクに注目し, Real-Time PCR 法 に よ る mRNA の 定 量,PCR-SS-CP, Direct sequencing に よ る DNA の 構 造 変 化, Methylation assa, Demethylation assayによるDNA の エ ピ ジ ェ ネ テ ッ ク な 変 化,Transient transfec-tion による遺伝子機能解析,及び,免疫組織化学染 色,Real-Time PCR による臨床検体を用いて検証 実験を行った。

質量分析とペプチドマスフィンガープリンティン グの結果から,Ubiquitous Mitochondrial Creatine Kinase(CKMT1)を口腔癌細胞に特異的に発現低下 しているがん抑制機能タンパクの一つとして同定す ることができた(図4)。 c.唾液タンパクを用いた口腔がんスクリーニング 従来の分子生物学的解析に用いられる資料は,が ん細胞または患者血液などが主流であった。簡便で 非侵襲的に反復して採取できる全唾液を資料とした 口腔がんのスクリーニング検査の可能性について検 討した。現在までに口腔がん患者の唾液中で IL-6 と8が特異的に上昇することは報告されている。前 述のプロテオミクスにより網羅的に全唾液中のタン パク発現変化を解析したところ口腔がんで特異的に 出現・欠失するタンパクが存在することが明らかに なった。すなわち二次元電気泳動法,MALDI-TOF MS 法を用いて口腔がん患者の唾液中から,特異的 に出現し新規分子標的となる口腔がん関連タンパク 群の同定を試みた。画像解析の結果,各々のプロテ オーム上に約700∼1200個のタンパクスポットが検 出された。口腔がん患者の術前唾液に特異的に発現 し,術後消失したタンパクスポットは132∼296個認 められた。これらのうち,全例共通して特異的に発 現しているタンパクスポットは18個に至った。また 口腔がん患者の全唾液に特異的に発現し,健常者で は発現のないタンパクスポットは283∼572個認めら れ,これらのうち全症例共通して特異的に発現して いるタンパクスポットは39個であった(図5)。 口腔がん患者の術前全唾液に特異的に発現し,術 後の全唾液および健常者全唾液から検出されないタ ンパクスポットは7個に絞ることができた。 今後これらタンパクの同定と組織における局在の 確認をし,口腔がんのバイオマーカーとしての精度 の検証を行う予定である。そしてチェアーサイドで も検査可能なキット(プロテインチップ)の開発も視 野に入れている(図5)。 ⑶ 地域歯科医師会と行っている口腔がん検診 わが国では,1981年(昭和56年)にがんが死亡原因 の第一位を示すようになった。以来,死亡者数は 年々増加し,2000年には1年間29万人を越えた。口 腔がんは全がんの約4%を占め,残念ながら罹患者 数,死亡者数ともに顕著な増加を示している。がん 対策の一つとして,胃癌,子宮癌,乳癌,肺癌,大 腸癌においては集団検診がすでに実施されており, 集団検診による発見癌の予後は非集団検診群に対し て極めて良好であることはよく知られている。口腔 がんにおいても,他臓器と同様に早期に発見し,早 期に治療することが治癒率向上のための最善策であ る。この観点から教室では,口腔がんの早期発見と 早期治療に寄与できる検診システムを全国の医療従 事者へ提示し,『歯科医院が口腔がんの早期発見・ 早期治療の新しいゲートとなる』予防システムの普 及に取り組んでいる。1992年より地域歯科医師会と 協力し,毎年口腔がん検診を実施し,併せて口腔保 健の啓発活動も行っている。ここでは,従来から 行っている口腔がん検診と,一般歯科診療所が参加 する個別検診のやり方について報告する。 a.口腔がん検診の実施と普及 1992年から口腔がんの二次予防に向けて,『口腔 がん検診』を千葉県下で年に4回,2008年までの17 年間で延べ4048名の県民に対して実施してきた(図 図4 MALDI-TOF MS による質量解析(A) アミノ酸シクエンスを示す(下線が共通部位,B) 歯科学報 Vol.109,No.2(2009) 155 ― 53 ―

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6)。その結果,口腔がん患者4例,0.098%の発見 率を得ることができた。母集団の数に大幅な差はあ るが,他臓器癌の検診の発見率と比較しても遜色の ない値を示している。さらに,特筆すべきは口腔が ん以外の治療を要する粘膜疾患の抽出も行うことが でき,これを加えれば0.9%となり,このような口 腔がん(粘膜疾患)検診の重要性がいっそう伺われ た。 被検診者の年齢分布をみると,中高年の女性がほ とんどで,男女比で男性の3倍も多いことが判明し た。この集団検診は,口腔がんの好発年齢層(60代 以降の男性)から逸脱した群の対象であり,国民の 口腔がんの罹患実態および大勢を把握していない可 能性がある。そのため,各歯科医師会が主導となっ て一般歯科医が行う個別検診システムの構築の必要 性を提案した。われわれが行ってきている手段は, 検診法のマニュアル化,検診を実施する一般歯科医 の定期的な育成,ビデオ・ホームページ等の媒体を 駆使した各歯科医師会員の教育,検診技術の手技の 講習,定期的に検診レベルをチェックする公開セミ ナーの企画,そして精度の高い検診ができるよう drop out のない細胞診手技の開発,である。 また,教室ホームページから一般国民向けの web の開設,パンフレット・ビデオなど広報としての媒 体作成,一般国民,開業医への公開講座なども考 え,啓発活動にも努めている(図6)。 b.検診精度の向上と開発 粘膜疾患の診断を導く,簡便でかつ確実な方法と して細胞診が推奨されるが,従来の細胞診では採取 者の技量によってエラーがでることがある。そこ で,教室では細胞を簡便に採ったのちに固定液中に 沈査して行う Thin layer 法を応用している。本法 は非侵襲的な細胞採取が可能である。備え付けのブ ラシで擦過後直ちにブラシ部を固定液に浸漬し病理 部へ搬送するデリバリーシステムも検討中である。 この検査方法を普及させることによって,一般診療 所においても細胞診を簡潔に行え,精度の高い検診 が患者へ提供できる。 検診精度を上げるため,手技だけでなくツールの 開発にも着手している。生体発色法と拡大内視鏡検 査を応用して,超早期がんの発見法を検証してい る。まず,VEL scope を用いて病変部を抽出し, 図5 唾液を用いたプロテオーム解析 口腔がん患者で強発現しているタンパクを抽出(A□内) 唾液を用いた口腔がん簡易検査の原理とデバイス(B) 本学におけるがん治療の取り組みに関する現状と将来 156 ― 54 ―

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そ の 後 同 部 を Narrow Band Imaging(NBI)シ ス テ ムを搭載したデジタル内視鏡検査で診断を確実に行 う。すなわち上皮下乳頭部毛細血管のループの形態 と分布を測定することでがんが抽出できる方法であ る。このような電子工学機器を歯科医学の分野に新 たに応用することで,今までにない新しい診断技術 を確立できる。 ⑷ 今後の展開 口腔がんの発生は後天的な遺伝子異常が原因であ ることが明らかになった。がん関連遺伝子の発現・ 低下の現象を組み合わせることによって,局所に留 まり浸潤がない低悪性,再発や転移を速やかにきた す超悪性など,がんの特性を読み取ることができ る。さらに口腔がんになり易いヒト,または治療後 の予後判定も推測が可能となってきた。通常は,試 料として血液,がん組織が一般的なため侵襲的な検 査となっていたが,非侵襲性に採取できる唾液から の抽出も可能性が示された。今後も,臨床に直結し たトランスレーショナルリサーチを発展させたいと 考えている。 一方,日本の口腔がん患者は増加して来ている。 諸外国と比較しても,その死亡率は増加の一途を 辿っている。国民の口腔疾患の治療と予防を管理す るわれわれにとって,口腔がんの予防も重要な責務 と考える。本稿では,従前より予防に重点をおいて きた教室の活動,『口腔がん検診』についても紹介 した。日本では国民の8割が歯科医へ受診すると言 われている。そのため臨床の最前線にいる歯科開業 医が発見する機会は高いはずである。効率かつ精度 良く診査できる個別検診システムの構築についても 取り組んでいる。 歯科医療の分限の確保を図りつつ,職種の特殊性 を生かし,そして病診連携を重視し,大学病院とし ての機能を全うしながら,口腔がんの制御に向けて 貢献したいと考えている。 図6 口腔がん検診 受診者数(A),検診状況(B),個別検診事業(C) 歯科学報 Vol.109,No.2(2009) 157 ― 55 ―

参照

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