IRUCAA@TDC : 顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性を探る
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(2) 1 3. 歯学の進歩・現状. 顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性を探る. 野村武史. は じ め. 適応説) が知られている4)。すなわち骨は増殖因子に. に. 富む肥沃な環境であり,一般的に癌細胞が定着し増. 口腔扁平上皮癌は強い局所浸潤能を有し,特に顎. 殖するために都合の良い組織と考えられている。し. 骨への浸潤は臨床的に重要な問題点となっている。. かし実際すべての癌が骨浸潤,転移するわけではな. 歯肉癌は,発生した歯肉粘膜の直下に顎骨が存在し. い。癌細胞はもともとへテロの細胞集団であるた. ているため,容易に骨表面に到達する。このため顎. め,高頻度に骨転移する癌はもともと転移能の高い. 骨浸潤の有無,あるいは顎骨浸潤の範囲について詳. 細胞集団を数多く含んでおり,その細胞集団が骨に. 1, 2). 細な診断が必要となる. 。通常口腔癌の治療は手術. 療法と放射線療法が主体となるが,顎骨に浸潤した 場合放射線抵抗性を示すことが多く,手術療法単独 か手術を含めた併用療法を選択することが多い。顎 骨の過剰な切除は咀嚼機能が失われるばかりでな く,顔貌の変形,発音障害もきたし社会復帰を妨げ る大きな要因のひとつとなる。顎骨の切除範囲につ いては今のところ画像検査で決定するしかないが, 正確な予測が困難なため大きく切除せざるを得な い。柴原らは過去の顎骨切除症例を臨床・病理学的 に検討した結果,敢えて辺縁切除を行わなくても, 骨膜までの切除で制御できたであろう症例や,下顎 管に沿って近遠心的に拡大していたため,取り残し をした症例があり,腫瘍の根治性と QOL を両立さ. 図1. せるためには新しい診断法を開発することが不可欠 であると述べている3)。 癌細胞の骨浸潤,骨転移が成立するメカニズムと して Paget の提唱する Seed and Soil theory(環境. キーワード:歯肉癌,顎骨浸潤,破骨細胞,サイトカイン, Bisphosphonate 東京歯科大学口腔外科学第一講座 (2 0 0 4年9月2 9日受付) (2 0 0 4年1 1月1日受理) 別刷請求先:〒2 6 1 ‐ 8 5 0 2 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学口腔外科学第一講座 野村武史. 癌の骨転移成立メカニズム(仮設) 米田らの文献4)より改変,引用 A:a,b,c の癌細胞のうち,b のみ骨転移能を有して いる。 B:a,b,c すべての癌細胞が骨内に到達することがで きるが,b の細胞だけが定着,生存,増殖すること ができる。. Takeshi NOMURA : A characteristic of the oral squamous cell carcinoma with mandible bone invasion (The First Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Dental College). ― 13 ―.
(3) 1 4. 野村:顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性. 図2. 歯肉癌が顎骨に浸潤する経路 A:歯根膜より髄腔内に浸潤する経路 B:皮質骨より髄腔内に浸潤する経路 C:髄腔内から下顎管に到達した後近遠心方向に拡大,浸潤する経路. 転移するという考え方がある(図1) 。特に骨に高頻. 上皮癌の診断下に顎骨切除術を併用した3 8症例で,. 度に転移するものとして,乳癌,前立腺癌,肺癌な. 各々病理組織学的に検鏡をおこない,顎骨に浸潤し. 5). どが知られている 。もう一つの考え方として全て. ていなかった群1 5例(男性1 2例,女性3例,平均年. の癌細胞は骨に到達する能力を持っており,後天的. 齢5 9. 0歳) と顎骨に浸潤していた群2 3例(男性1 0例,. に骨内の環境で定着,生存,増殖することのできる. 女性1 3例,平均年齢6 4. 0歳) の間で比較検討をおこ. 癌細胞のみが残るというもので,恐らく歯肉癌の顎. なった。解析項目は"原発腫瘍の大きさ,#頸部リ. 骨浸潤は両方のメカニズムが関与していると思われ. ンパ節転移の有無,$分化度,%浸潤様式,&オル. る。またこれには歯根膜や下歯槽神経が進展経路と. ソパントモグラムよる骨吸収の有無,'累積5年生. して一役かっていると考えられる(図2) 。. 存率の6項目とした。結果は,従来の歯肉癌の臨床. 近年,骨浸潤,骨転移における骨破壊は癌細胞に. 的指標とされている腫瘍の大きさ,頸部リンパ節転. より直接引き起こされるのではなく破骨細胞を介し. 移,分化度,浸潤様式においていずれも顎骨浸潤の. て起こる破骨細胞性骨吸収が重要な役割を演じてい. 有無とは関連を認めなかった(表1) 。また顎骨浸潤. 6). る事が明らかとなっている 。一方骨・骨代謝研究. 癌の多くはレントゲン所見で骨吸収,破壊像を認め. において,骨芽細胞と破骨細胞をとりまくサイトカ. たが,4症例(1 7. 4%) に明確な骨吸収像がみられな. イン・ネットワークや分化の調節にかかわる転写因. かった(表2) 。このことから,現在の臨床的指標の. 7). 子の解明が基礎分野で進んでいる 。また破骨細胞 の活性を抑制する特異的な作用を有する Bisphosph onate 製剤(以下 BP と略す) を Paget 病や高カルシ. 表1. 顎骨浸潤と従来の臨床病理学的指標との関係. ウム血症,さらには乳癌の骨転移治療薬として臨床. 顎骨浸潤群(%) 顎骨非浸潤群(%) N=2 3 N=1 5. 8, 9). 応用され,その成果が報告されている. 。. このように骨吸収性疾患をめぐる基礎研究と臨床 研究とが急速な発展をみせるなか,歯肉癌における 顎骨浸潤のメカニズムの解明は,今までにない大き な転機を迎えようとしている。本稿では現在まで 我々がおこなってきた顎骨浸潤癌に関する研究内容 とその成果について紹介する。. 1.顎骨浸潤癌の臨床統計学的検討10) 対象は東京歯科大学口腔外科を受診し,歯肉扁平 ― 14 ―. 腫瘍の大きさ(>4!) pN(+). NS 1 4 (6 0. 9). 9 (6 0. 0). NS. 7 (4 6. 7). 6 (2 6. 1). 分化度 高分化度型 中分化型 低分化型. NS 2 0 (8 7. 0) NS 2 ( 8. 7) NS 1 ( 4. 3). 1 2 (8 0. 0) 3 (2 0. 0) 0 (0). 山本・小浜の分類 1型 2型 3型 4c型 4d型. NS 0 (0) NS 3 (1 3. 0) NS 1 4 (1 6. 0) NS 5 (2 1. 7) NS 1 (4. 3). 4 (2 6. 6) 0 (0) 9 (6 0. 0) 1 ( 6. 7) 1 ( 6. 7). NS:No significantly(VS 顎骨非浸潤群,student t-test).
(4) 歯科学報 表2. Vol.1 0 5,No.1(2 0 0 5). レントゲン所見と顎骨浸潤との関係. 2.破骨細胞関連サイトカインの発現に関する 免疫組織化学的解析10). 顎骨浸潤群(%) 顎骨非浸潤群(%) N=2 3 N=1 5 骨吸収(+) 破壊性骨吸収 圧迫性骨吸収 骨吸収(−). 1 5. * 1 9 (8 2. 6) 1 6 (8 4. 2) 3 (1 5. 8). * 4 (1 7. 4). 3 (2 0. 0) 0 (0) 3 (1 0 0). るなら,破骨細胞の制御に関わるサイトカインの発. 1 2 (8 0. 0). 現が重要な役割を果たすことが推察される。今回. 歯肉癌の顎骨浸潤が破骨細胞を介しておこなわれ. 我々は,前述の臨床研究で用いた3 8症例のパラフィ. *p<0. 0 1 (VS 顎骨非浸潤群,student t-test). ン切片を用い,顎骨浸潤群1 5例と顎骨非浸潤群2 3例 について免疫組織化学的染色をおこなった。今回検 索したサイトカインはインターロイキン(IL) ‐1 α,IL‐1β,IL‐6,IL‐ 1 1,IL‐ 1 8,副 甲 状 腺 ホ ル モン関連蛋白(PTHrP) ,腫瘍壊死因子(TNF) ‐α, Transforming Growth Factor (TGF) ‐β の8種類で あり,それぞれ一次抗体としてラビット抗ヒト IL‐ 1α ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体(ENDOGEN 社 製) ,ラ ビット抗ヒト IL‐1β ポリクローナル抗体(ENDOG EN 社製) ,ゴート抗ヒト IL‐6 体(Santa 図3. Cruz 社製) ,ゴート抗ヒト IL‐6. クローナル抗体(Santa. Kaplan-Mayer 法による5年累積生存率. ポリクローナル抗 ポリ. Cruz 社製) ,ゴート抗ヒト. IL‐ 1 8 ポリクローナル抗体(Santa Cruz 社製) ,マ みでは歯肉癌の顎骨浸潤の程度を正確に把握するこ. ウス抗ヒト PTHLP モノクローナル抗体(CALBIO-. とは極めて困難であることが確認された。また顎骨. CHEM 社製) ,ゴート抗ヒト TNF‐α ポリクローナ. 浸潤癌の5年累積生存率は6 9. 6%であり,顎骨非浸. ル抗体(R&D 社製) ,ラビット抗ヒト TGF‐β ポリ. 潤群の8 6. 7%と比較して明らかな有意差は認めな. クローナル抗体(Santa. かったものの低い結果となった(図3) 。したがって. 組織化学的染色は VECTASTAIN 社製 ABC kit を. Cruz 社製) を用いた。免疫. 口腔扁平上皮癌の顎骨浸潤は予後不良因子と考えら. 用い,マイクロウェーブ7分3 0秒で処理した後染色. れ,顎骨浸潤を同定する新たな臨床的指標の確立が. をおこなった。染色態度の評価は,それぞれの標本. 急務であると考えられた。. に対し,無作為に1 0視野を選択し,各々1 0 0個の細 表3. 顎骨浸潤に関与すると考えられたサイトカイン PTHrP (−). 顎骨浸潤群(%) (N=2 3). 0 (0). 顎骨非浸潤群(%) 9 (6 0. 0) (N=1 5). TNF-α. (+−) ∼(+++) (−) (+−) ∼(+++) * 2 1 (1 0 0). 6 (4 0. 0). 0 (0) 6 (4 0. 0). IL‐6 (−) 顎骨浸潤群(%) 3) (N=2. 0 (0). (6 4. 3) 顎骨非浸潤群(%) 9 5) (N=1. * 2 1 (1 0 0). 7 (5 3. 8). IL‐ 1 1. (+−) ∼(+++) (−) (+−) ∼(+++) * 2 3 (1 0 0). 5 (3 5. 7) *. 1 ( 4. 5). * 2 1 (9 5. 5). 9 (6 4. 3). 5 (3 5. 7). p<0. 0 1 (VS 顎骨非浸潤群,student t-test). ― 15 ―.
(5) 1 6. 野村:顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性. 胞にお い て 抗 原 陽 性 細 胞 数 を 計 測 し た。そ し て. 側 咬 筋 内 に5 0µl 注 入 し,3週 間 通 常 飼 育 を お こ. Gratas らの方法11)に準じて(−) から(+−) ∼(++. なった。コントロール群はマウスの左側咬筋内に生. +) の5段階に評価した。結果として,今回解析し. 理 食 塩 水 を5 0µl 注 入 し,3週 間 通 常 飼 育 を お こ. た8種類のサイトカインのうち顎骨浸潤癌で強い発. な っ た(図4) 。試 料 の 解 析 は!H‐E 染 色 お よ び. 現 を み と め た の は IL‐6,IL‐ 1 1,PTHrP お よ び. Tartrate‐Resistant Acid Phosphatases (TRAP) 染. TNF‐α であり,歯肉癌の顎骨浸潤にこれらサイト. 色による 病 理 組 織 学 的 観 察,"IL‐6,TNF‐α,. カインの発現が関与している可能性が強く示唆され. PTHrP mRNA の 発 現 と し た。TRAP 染 色 は1 0%. た(表3) 。しかしIL‐1α,IL‐1β,TGF‐β および. EDTA 水溶液で脱灰した後 パ ラ フ ィ ン 包 埋 し,. IL‐ 1 8の発現については明らかな差異を認めなかっ. TRAP Kit (Hokudo社製) を用いて お こ な っ た。ま. た。この中で特に強い発現を認めた IL‐6,PTHrP. た SCC Ⅶ培養細胞,control 群,SCC Ⅶ移植群より. および TNF‐α は破骨細胞の誘導,分化に促進的に. 試料を採取し,AGPC 法で RNA を抽出した。5分. 働くサイトカインとして知られている。すなわち口. 間加熱後,RNA 1µg を逆転写酵素反応液と混合. 腔扁平上皮癌の顎骨浸潤に,サイトカインの発現を. し,3 7℃,6 0分反応させることにより cDNA を合. 介した破骨細胞性骨吸収が重要な役割を担っている. 成した。そして IL‐6,TNF‐α,PTHrP について. と考えられた。. PCR 法で増幅させ,1. 5%アガロースゲル上に電気 泳動し,DNA 産物を確認した。結果は SCC Ⅶ細胞. 3.マウス顎骨浸潤癌モデルの確立12). 株を C3H/HeN マウス咬筋に移植して3週後に著. 顎骨浸潤のメカニズムをより詳細に解析するた. 明な腫瘍の増殖が認められた。また病理組織学的所. め,マウス顎骨浸潤癌モデルの作成を試みた。移植. 見では,すべての SCC Ⅶ移植群で顎骨内に腫瘍細. 癌細胞株として,マウス口底部扁平上皮癌由来の細. 胞が索状に浸潤し,据歯状の骨吸収像を示していた. 1 3, 1 4). 胞株である SCC Ⅶを実験に供した. 。基本培地は. (図5) 。TRAP 染色の所見では,吸収された顎骨. Dulbecco Modified Eagle Medium(DMEM) に1 0%. 周囲に多数の破骨細胞の集積を認めた(図6) 。さら. fetal bovine serum(FBS) を加えて用いた。これを. に SCC Ⅶ細胞株や移植癌組織において IL‐6, TNF. 1 0 0mm dish で静置し,3 7℃,5%CO2の条件下で. ‐α, PTHrP の mRNA レベルでの発現が認められ,. 培養した。使用動物は体重2 0g 前後の雄性 C3H/. これら3つのサイトカインの発現が本モデルの顎骨. HeN マウス(三共ラボ) 6匹であり,3匹をコント. 浸潤に深く関わっているものと推察された(図7) 。. ロール群,3匹を SCC Ⅶ移植群として通常飼育を. 以上より本モデルは,ヒトにおける顎骨浸潤のメカ. おこなった。実験動物の取り扱いは東京歯科大学動. ニズムを解明するために極めて有用であり,臨床的. 物実験指針に従った。SCC Ⅶ移植群は無血清培地. 特長をよく反映しているものと考えられた。. 7. で2×1 0 /ml に調整した SCC Ⅶ細胞をマウスの左. 図4. マウス顎骨浸潤モデルの作成 ― 16 ―.
(6) 歯科学報. 図5. 図6. Vol.1 0 5,No.1(2 0 0 5). 1 7. H-E 染色による形態学的観察 T:歯牙,B:骨,TM:癌細胞. 顎骨浸潤モデルにおける破骨細胞の発現(TRAP 染色,弱拡大) T:歯牙,B:骨,TM:癌細胞. 4.BP の顎骨浸潤抑制効果とサイトカインの発 現について12) 骨吸収抑制剤である BP は現在第1世代から第3 世代まで開発されており,その効力,作用機序は種 類により多少異なるが,細胞レベルでのターゲット は主として破骨細胞である8)。今回我々は,マウス 顎骨浸潤モデルを用いて第2世代 BP である Pamid ronate の投与実験をおこなった。実験方法はマウ ス顎骨浸潤癌モデルに対して移植直後より生理食塩 水を腹部皮下注したコントロール群と Pamidronate 1 0 0µg/mouse/day を3週間腹部皮下注し た BP 投 図7. RT-PCR 法による破骨細胞関連サイトカインの発現解析. 与群について比較検討した。解析項目は!マイクロ. ― 17 ―.
(7) 1 8. 野村:顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性. CT(極微小焦点 X 線 CT 装置,KMS‐ 7 5 5,樫村) に. る頭蓋骨の三次元画像では,コントロール群におい. よる三次元画像解析,!破骨細胞の占有面積率,". て下顎骨や顔面骨に対し著明な吸収を認めた。これ. IL‐6,TNF‐α,PTHrP に加え,破骨細胞分化因. に対し Pamidronate 投与群では腫瘍が増大してい. 子 receptor activator of nuclear factor‐κβ ligand. るにもかかわらず骨破壊,吸収は抑制されていた. (以下RANKL と略す),receptor activator of nuclear. (図8) 。また TRAP 染色による破骨細胞の占有面. factor‐κβ (以下 RANK と略す) , Osteoprotegerin(以. 積 率 を 比 較 す る と コ ン ト ロ ー ル 群3 4. 2%に 対 し. 下 OPG と 略 す) の mRNA の 発 現 に つ い て,と し. Pamidronate 投与群では8. 1%と有意に低い値を示. た。マイクロ CT の撮影条件は管電圧4 5. 0kV,管. し,破骨細胞の発現が抑制されていた(図9) 。すな. 電流1 0 0. 0µA,倍率2. 0倍でおこなった。そして得. わち Pamidronate は顎骨浸潤の予防,治療に有効. られた画像から,Back Projection 法により2次元. である可能性が示唆された。また,破骨細胞関連サ. スライスデータを作成した後,三次元立体構築ソフ. イトカインにおける mRNA の発現については,IL. ト(VoxBlast, VayTek inc) を用いて立体構築をおこ. ‐6,TNF‐α,PTHrP,RANK,RANKL の発現率. なった。また TRAP 染色により暗紫色に染色され. がコントロール群で5 6. 3%,6 8. 8%,9 3. 8%,7 5. 0. た破骨細胞を Digital 処理し,Image‐Pro Plus (Me-. %,6 8. 8%と高値であるのに対して,BP 投与群で. 社) を用いて顎骨表面上の4 0 0µm. は0%,1 2. 5%,1 8. 8%,3 7. 5%,5 6. 3%と 低 値 を. ×1 0 0µm の範囲を任意に選択し,破骨細胞の占有. 示した(表4) 。すなわち RANK‐RANKL 発現経路. 面積率を算出した。結果として,マイクロ CT によ. から破骨細胞の活性化,骨吸収にいたるプロセスの. dia Cybernetics. 図8. マイクロ CT による三次元画像 ― 18 ―.
(8) 歯科学報. Vol.1 0 5,No.1(2 0 0 5). 1 9. , 図9. 単位面積あたりの破骨細胞占有面積率. 顎骨浸潤における破骨細胞関連サイトカインの発現. ることが明らかとなった18)。そして RANKL の受容. IL‐6 TNF‐α PTHrP RANK RANKL OPG. 体である RANK と構造が類似していることからお. Control 群. 5 6. 3. 6 8. 8. 9 3. 8. 7 5. 0. 6 8. 8. 5 0. 0. とり受容体(decoy. BP 投与群. 0. 1 2. 5. 1 8. 8. 3 7. 5. 5 6. 3. 5 6. 3. の活 性 を 強 力 に 抑 制 す る OPG も 同 定 さ れ た19)。. 表4. receptor) として働き, RANKL. 我々が種々の破骨細胞関連サイトカインについて免 中で,これに関わるサイトカインの多くを阻害する. 疫組織化 学 的 に 解 析 し た 結 果,PTHrP,IL‐6,. BP の新たな薬理作用が示唆された。また破骨細胞. TNF‐α が少なくともヒト歯肉癌の顎骨浸潤に関与. に 対 し て 抑 制 的 に 働 く OPG15)は コ ン ト ロ ー ル 群. している可能性を示唆した。またこれらのサイトカ. 5 0. 0%に対して,BP 投与群では5 6. 3%と影響を受. インを産生する細胞株 SCC Ⅶでも同様の顎骨浸潤. けないことが示唆された。以上より BP は破骨細胞. をきたし,さらに多数の破骨細胞を認めたことか. に関連する種々の液性因子に作用する特異的かつ有. ら,おそらく口腔扁平上皮癌自身がサイトカインを. 用な薬剤であると考えられた。. 産生することにより顎骨浸潤するのではないかと思. ま. と. われた。また本研究から,口腔扁平上皮癌の顎骨浸. め. 潤は他のサイトカインの発現が RANK‐RANKL 経. 顎骨浸潤のメカニズムの解明は,近年急速に発. 路を経て破骨細胞に働きかけるのではないかと考え. 展した骨代謝の基礎研究によるところが大きい。. られた。そして OPG も口腔癌の顎骨浸潤の抑制に. 特に癌に伴う高カルシウム血症の原因因子である. 関わっている可能性が示唆された。以上のことか. PTHrP の単離,同定が骨転移,骨浸潤研究を発展. ら,歯肉癌の顎骨浸潤の診断,治療法を確立するた. 1 6). させる大きな契機となった 。また岡本らは,口腔. めに,サイトカインネットワークを解明することが. 癌の顎骨浸潤に IL‐6が関与していることを in vitro. 戦略上重要であることは間違いない。将来的には,. 1 7). の研究で明らかにした 。最近,破骨細胞の分化と. 術前に顎骨浸潤の程度を把握するため生検材料より. 機能は,骨芽細胞あるいは骨髄間質細胞の細胞膜上. サイトカイン発現の有無を検索することが,EBM. に発現する RANKL によって厳格に調節されてい. にもとづく治療計画となりうる可能性がある。また. ― 19 ―.
(9) 2 0. 野村:顎骨浸潤能を獲得した口腔扁平上皮癌の特性. OPG 製剤や抗サイトカ イ ン 抗 体 な ど の,モ ノ ク. 謝. ローナルな作用機序を有する薬剤の開発につながる 可能性もある20)。 Semba らは以前より口腔扁平上皮癌の顎骨浸潤 に破骨細胞性骨吸収が関与している事を報告してい る21)。顎骨浸潤の治療に,破骨細胞の働きを抑える ことが有効な治療手段と成り得る可能性がある。こ のことから,現在臨床で用いられている BP は理に. 辞. 稿を終えるにあたり,本研究を学長奨励研究にご推挙くだ さいました石川達也前学長に深謝いたします。また SCC Ⅶ 細胞株を供与くださった徳島大学第2口腔外科学講座岡本正 人先生に謝意を表します。また本研究に貴重なご意見,ご協 力を賜った徳島大学第2口腔外科学講座原田耕志先生,HRC TEP グループの諸先生方,本学口腔外科学第一講座野間弘康 名誉教授,柴原孝彦教授ならびに教室員各兄に心から感謝の 意を表します。. かなったユニークな薬剤であるといえる。BP の作 用機序は実に多彩で,!前駆破骨細胞への作用," メバロチン酸の代謝抑制,#骨芽細胞への作用,$ 破骨細胞のアポトーシス促進,などを介することに よって破骨細胞の発現を抑制している22)。本研究で 用 い た Pamidronate は 乳 癌 の 骨 転 移 治 療 薬 と し て,BP 療法が確立している23)。その治療効果は! 骨転移の予防,"骨破壊の進行の抑制,#骨転移部 の腫瘍量の減少,$内臓転移発生率の減少,%末期 癌患者の疼痛,&病的骨折の改善,'末期癌患者の 生存期間の延長,(高 Ca 血症の改善24),などであ る。現時点で口腔癌の臨床応用に関する報告はない が,基礎的研究は幾つか報告されている25∼27)。これ らの研究はいずれも動物モデルを用いているが,口 腔扁平上皮癌細胞株を用いた顎骨浸潤モデルは当教 室で確立したものだけである。すなわち,SCCⅦを 用いた顎骨浸潤モデルが臨床的特長を最もよく反映 しており,今後のメカニズムや治療法の解明に有効 であると考えられる。将来は副作用などあらゆる観 点から考慮して,適切な BP 療法における歯肉癌治 療のプロトコール作成が必要であろう。現在我々 は,Pamidronate に比べさらに強力な骨浸潤抑制効 果が期待される,第3世代 BP である Minodronate (YM5 2 9,山之内製薬) を用いた解析を進めている。 我々歯科医学の分野で,顎骨に関する研究が大き な柱となっていることは間違いない。口腔癌領域に おける,顎骨浸潤のより詳細なメカニズムを解明す ることが,歯科医学の発展に大きな恩恵となり得る ことを強調して本稿の結びとしたい。 本稿は平成1 4年度東京歯科大学学長奨励研究報告として, 第2 7 6回東京歯科大学学会総会(2 0 0 3年1 0月1 8日,千葉) にお いて発表した。 また本稿の一部は平成1 5年度文部省科学研究補助金(若手 B) によりおこなった。. 参. 考. 文. 献. 1)Fujibayashi, T., Kanda, S., Ohashi, Y. : New proposal on T classification of gingival carcinomas of the mandible. In : Ravirdranathan N, ed. : Proceedings of the 3 rd Asian Congress on Oral and Maxillofacial Surgery, Bologna : Monduzzi Editore:4 5 1∼4 5 5,1 9 9 6. 2)Sasaki, T., Imai, Y., Fujibayashi, T. : New proposal for T classification of gingival carcinomas arising in the maxilla. Int J. Oral Maxillofac. Surg,3 3:3 4 9∼3 5 2,2 0 0 4. 3)柴原孝彦,野間弘康,新井一男,野村武史,横尾恵子, 山本信治,橋本貞充,大鶴洋:下顎骨切除法別にみた下顎 歯肉扁平上皮癌の顎骨浸潤に関する臨床・病理組織学的検 討.日口腔外会誌,4 8:1 2 9∼1 3 4,2 0 0 2. 4)Yoneda T.: Cellular and molecular mechanisms of breast and prostate cancer metastasis. Eur. J. Cancer, 3 4:2 4 0∼2 4 5,1 9 9 8. 5)Coleman RE. : Skeletal complications of malignancy. Cancer,8 0:1 5 8 8∼1 5 9 4,1 9 9 7. 6)Aoki, J., Yamamoto, I., Hino, M., Shigeno, C., Kitamura, N., Sone, T., Shiomi, K., Konishi, J. : Osteoclast-mediated osteolysis in bone metastasis from renal cell carcinoma. Cancer,6 2:9 8∼1 0 4,1 9 8 8. 7)松本俊夫:新・骨代謝と骨粗鬆症,メディカルレビュー 社,東京,2 0 0 1. 8)伊東将広,江尻貞一:ビスフォスフォネートの作用メカ ニ ズ ム と 骨 転 移 動 物 モ デ ル に 対 す る 治 療 効 果.THE BONE,1 7:1 6 1∼1 7 0,2 0 0 3. 9)尾浦正二:ビスフォスフォネートによる骨転移治療. THE BONE,1 7:1 6 1∼1 7 0,2 0 0 3. 1 0)柴原孝彦,野間弘康,野村武史,高木 亮,横尾恵子, 原田耕志,岡本正人,佐藤光信:歯肉癌によって引き起 こされる下顎骨浸潤−特に破骨細胞誘導サイトカインの役 割−.日口腔外会誌,4 9:1 7 1∼1 7 8,2 0 0 3. 1 1)Gratas. C., Tohma. Y., Barnas. C., Taniere. P., Hainaut. P., Ohgaki. H. : Up-regulation of Fas (APO-1/CD 95) ligand and down-regulation of Fas expression in human esophageal cancer. Cancer Res,5 8:2 0 5 7∼2 0 6 2,1 9 9 8. 1 2)Nomura, T., Noma, H., Sato, M., Shibahara, T., Okamoto, M., Katakura, A., Harada, K., Takagi, R., Yamamoto, N., Numasawa, H. : Effects of bisphosphonate on mandible invasion model in mice. 5 th Asian Conference on Oral and Maxillofacial Surgery :1 1 1∼ 1 1 5,2 0 0 2. 1 3)O'malley, BW Jr., Cope, KA., Chen, S-H., Li, D., Schwartz, MR., Woo, SLC. : Combination gene therapy for oral cancer in a murine model. Cancer Res, 5 6:1 7 3 7 ∼1 7 4 1,1 9 9 6.. ― 20 ―.
(10) 歯科学報. Vol.1 0 5,No.1(2 0 0 5). 1 4)Bert, W., O'malley, Jr., Daqing, LI. : Combination gene therapy for salivary grand cancer. Annals new york academy of sciences:1 6 3∼1 7 0,1 9 9 8. 1 5)Simonet, WS., Lacey, DL., Dunstan, CR., Kelley, M., Chang, MS., Luthy, R., Nguyen, HQ., Wooden, S., Bennett, L., Boone, T., Shimamoto, G., DeRose, M., Elliott, R., Colombero, A., Tan, HL., Trail, G., Sullivan, J., Davy, E., Bucay, N., Renshaw-Gegg, L., Hughes, TM., Hill, D., Pattison, W., Campbell, P., Boyle, WJ., et al. : Osteoprotegerin : a novel secreted protein involved in the regulation of bone density. Cell,8 9:3 0 9∼3 1 9,1 9 9 7. 1 6)Yin, JJ., Selander, K., Chirgwin, JM., Dallas, M., Grubbs, BG., Wieser, R., Massague, J., Mundy, GR., Guise, TA. : TGF-beta signaling blockade inhibits PTHrP secretion by breast cancer cells and bone metastases development. J Clin Invest.1 0 3:1 9 7∼2 0 6,1 9 9 9. 1 7)Okamoto, M., Hiura, K., Ohe, G., Ohba, Y., Terai, K., Oshikawa, T., Furuichi, S., Nishikawa, H., Moriyama, K., Yoshida, H., Sato, M. : Mechanism for bone invasion of oral cancer cells mediated by interleukin-6 in vitro and in vivo. Cancer,8 9:1 9 6 6∼1 9 7 5,2 0 0 0. 1 8)Yasuda, H., Shima, N., Nakagawa, N., Yamaguchi, K., Kinosaki, M., Mochizuki, S., Tomoyasu, A., Yano, K., Goto, M., Murakami, A., Tsuda, E., Morinaga, T., Higashio, K., Udagawa, N., Takahashi, N., Suda, T. : Osteoclast differentiation factor is a ligand for osteoprotegerin/ osteoclastogenesis-inhibitory factor and is identical to TRANCE/RANKL. Proc Natl Acad Sci USA, 9 5:3 5 9 7∼ 3 6 0 2,1 9 9 8. 1 9)Simonet, WS., Lacey, DL., Dunstan, CR., Kelley, M., Chang, MS., Luthy, R., Nguyen, HQ., Wooden, S., Bennett, L., Boone, T., Shimamoto, G., DeRose, M., Elliott, R., Colombero, A., Tan, HL., Trail, G., Sullivan, J., Davy, E., Bu-. 2 1. cay, N., Renshaw-Gegg, L., Hughes, TM., Hill, D., Pattison, W., Campbell, P., Boyle, WJ., et al. : Osteoprotegerin : a novel secreted protein involved in the regulation of bone density. Cell,8 9:3 0 9∼3 1 9,1 9 9 7. 2 0)津田英資:破骨細胞形成促進因子 OCIF/OPG(骨代謝異 常症の新しい治療薬としての可能性) .日本臨床,6 0:6 7 9 ∼6 8 7,2 0 0 2. 2 1)Semba, I., Matsuuchi, H., Miura Y. : Histomorphometric analysis of osteoclastic resorption in bone directly invated by gingival squamous cell carcinoma. J Oral Pathol Med,2 5:4 2 9∼4 3 5,1 9 9 6. 2 2)米田俊之:ビスフォスフォネート総論−作用機序.医薬 ジャーナル,3 4:2 4 1 1∼2 4 1 8,1 9 9 8. 2 3)君島伊造,竹之下誠一:ビスフォスフォネートによる骨 転 移 の 治 療−乳 癌 を 中 心 に−.臨 床 医,2 7:3 7 4∼ 3 7 7,2 0 0 1. 2 4)Hiraga, T., Takada, M., Nakajima, T., Ozawa, H. : Effects of bisphosphonate (Pamidronate) on bone resorption resulting from metastasis of a squamous cell carcinoma. J Oral Maxillofac Surg. 54 : 1 3 2 7∼1 3 3 3,1 9 9 6. 2 5)Sasaki, A., Kitamura, K., Alcalde, RE., Tanaka, T., Suzuki, A., Etoh, Y., Matsumura, T. : Effect of a newly developed bisphosphonate, YH 529, on osteolytic bone metastasis in nude mice. Int. J. Cancer, 77 : 279∼285, 1 9 9 8. 2 6)Sasaki, A., Nishimiya, A., Alcalde, RE., Lim, DJ., Mese, H., Nakayama, S., Yokoyama, S., Matsumura, T. : Effects of bisphosphonate on experimental jaw metastasis model in nude mice. Oral Oncol,3 5:5 2 3∼5 2 9,1 9 9 9. 2 7)Takahashi, H., Inokuchi, T., Ikeda, H., Sekine, J., Irie, A. : Experimental transplantation of carcinoma to tooth extraction sockets : A bone invasion model. Oral Med Pathol, 8:6 1∼6 9,2 0 0 3.. ― 21 ―.
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