Title
目的税としての環境税への支払意思とソーシャル・キャピタル :
ネット調査を用いた実証研究
Author(s)
大石太郎, 立福家徳
Citation
福岡工業大学研究論集 第46巻2号(通巻71号) P83-P87
Issue Date
2014-2
URI
http://hdl.handle.net/11478/1270
Right
Type
Departmental Bulletin Paper
Textversion Publisher
福岡工業大学 機関リポジトリ
FITREPO
目的税としての環境税への支払意思とソーシャル・キャピタル
―ネット調査を用いた実証研究―
大
石
太
郎
(社会環境学科)立
福
家
徳
( 合研究機構ポスト・ドクター研究員)Study on Willingness to Pay for Environmental Tax for Specific Purpose and
Social Capital
―Based on an Internet Survey―
Taro O
ISHI(Department of Socio-Environmental Studies)
Ienori T
ATEFUKU(Comprehensive Research Organization;Postdoctoral Fellow)
Abstract
Using a binary probit model, we analyze the factors influencing peoples attitudes towards paying environmental tax. Results show that age, household income of over 10 million yen, and social capital variables (a sense of neighborhood community,citizenship status,and desire for a stable lifestyle) are significant predictors of willingness to pay for environmental tax. They also suggest that global as well as local activities are essential for environmental protection.
Key words:environmental tax, willingness to pay, probit regression, community
1. はじめに 環境税とは,課税を通じて自然環境が保全されるよう働 きかけるものであるが,一般に2種類の異なる働きかけ方 があることが知られている。1つは環境負荷の高い財・サー ビスに対して課税することで,環境負荷の高い財・サービ スの魅力を減退させ,人々の消費行動が環境に配慮した 財・サービスへと向かうように誘導しようとする方法であ る。もう1つは課税から得られた税収を って,環境保全 のための取り組みを行おうとするものであり,環境を守る ために必要な財源を確保しようとする方法である。 前者は,経済的インセンティブ(誘因)を活かして環境 の解決を効率的に行おうとするものであり,効率性を重視 する経済学者によって長年にわたって研究が進められてき た。このような環境税をはじめて経済学に位置づけたのは 20世紀初頭に活躍したイギリスの経済学者 A. C. ピグー であり,外部不経済を内部化し経済厚生を最大化するよう な税は「ピグー税」と呼ばれる。 しかしピグー税は,その税率の設定の際に企業の限界費 用や社会の限界費用の情報を必要とするため,実際の実施 は困難であるとされる。そこで,環境目標の費用最小化を 目指したものが「ボーモル・オーツ税」であるが,この税 制度も諸富(2006)によれば,税率水準や運用税率によっ て望ましくない結果をもたらしている。 そうした背景もあり,近年,後者の環境保全の財源とし ての環境税という側面にも関心が集まってきている。その 代表的な例が2003年の高知県を皮切りに多くの都道府県で 導入されることになった森林環境税である。現在多くの都 道府県で採用されている森林環境税は1人当たりの県民の 負担が等しい県民税 等割方式であり,得られた税収は森 林保全や水源涵養を 途として用いられる。 今若等(2008,p.80)によれば,こうした森林環境税は「市 民や森林所有者の意識向上には効果が期待される」一方で, 「県の林務財政に対して税収は資金的に少ないこと」など から森林や林業への直接的な効果は少ないとされている。 そのため,今後,十 な環境保全効果が得られるための財 源を得るために,どのような要因が人々の環境税への支払 意思(Willingness To Pay)を高めるのかを明らかにする必 要があると えられる。 特に,森林環境税が目的税として県民税に上乗せされる 根拠は,地域社会全体が地域全体の共有資源としての森林 平成25年10月24日受付
の恵みの受益者となっていることがその理由として挙げら れる。そのため,ソーシャル・キャピタルのような地域の つながりが環境税への支払意思の要因の1つになっている ことが えられる。 森林環境税のように消費者に金銭的負担を生じさせる制 度として,地元のスーパーマーケットの買い物袋の有料化 や登山者に対する富士山の入山料の徴収もまた挙げられ る。これらの環境への支払のケースにおいても,近年社会 科学全般に注目されるようになってきたソーシャル・キャ ピタルが関係していることが えられるが,そうした関係 はこれまでに十 に検証されていない。 本研究の目的は,アンケート調査に基づいた統計的な検 証を通じて,ソーシャル・キャピタルのような地域のつな がりが環境税に対する支払意思に与える影響を定量的に明 らかにすることである。 2. 先行研究 2.1 環境税の経済学的意味 地域の自然環境から恩恵を受けている地域住民がその維 持・管理の費用をまかなうための税金を支払うという制度 を確立するとき,地域住民間でそうした制度を確立するた めのコンセンサスが必要になる。しかしながら,そのよう な税金は地域住民にとっては増税にほかならないことや, これまでに地域の自然環境の恵みを無料で享受してきたと いう背景から,その導入・維持をしていくにあたっては住 民の理解を得ることは必ずしも容易とは言えない。 事実,環境問題においては,人々が環境保全の取り組み への支払に対して必ずしも積極的ではないとする え方が 存在する。それは,経済学の 野でフリーライド(タダ乗 り)といわれる問題に関係している。自然環境は競合性や 排除性を持たない財・サービスといえる。つまり,良い環 境から得られる,新鮮な空気や静かな住環境等の環境資源 にはそれを維持するために受益者がいくら増えても追加的 な費用は発生しないし,それを受けるための利用料金を必 要としない。この場合,環境からの 益を受けていながら, その費用を負担しないという状態が可能であり,フリーラ イドして 益だけを享受することが個人にとって最適な選 択となってしまうのである。 そこで,本研究では,環境税の支払意思に注目する。支 払意思とは,行動経済学などで多く用いられている概念で, 実際に価格付けの困難なもの,実際には導入前の制度の評 価などに有用であるとされる。ここでは,どのような人が フリーライドせず,環境維持のための追加的な税負担を受 け入れようとしているのかを明らかにする。 2.2 ソーシャル・キャピタルと環境 次に,本研究が 析において注目するソーシャル・キャ ピタルについて,その概念と環境とのかかわりについて先 行研究を参 に整理する。 ソーシャル・キャピタル(Social Capital)」とは,「信頼」 「規範」「ネットワーク」といったその地域の特徴であると される。Putnam(1993)は,イタリアの各州のデータを用 いた 析で,行政パフォーマンスと各州の「市民度」 (civic-ness)に相関関係があることを示した。またその後,Putnam (2000)は,アメリカで一人黙々とボーリングを行う人々 を取り上げ,それがソーシャル・キャピタルの減退してい る証であると指摘し,コミュニティの崩壊と再生について 警鐘をならした。これらの Putnamによる研究が大きな きっかけとなり,ソーシャル・キャピタルという概念が, この10年世界的に政策研究者を中心として注目を集めてき た。例えば,世界銀行はソーシャル・キャピタルを「社会 構造全般と対人関係にかかわる個人の行動を規定する規範 全体」とより広く解釈しており,途上国の 困撲滅のため に経済開発とソーシャル・キャピタルの関係を明らかにし ようとしている。また OECD(経済協力開発機構)は,ソー シャル・キャピタルを「集団内部または集団間の協力を円 滑にする共通の規範,価値観及び理解を伴うネットワーク」 と定義し,社会の発展を支える資源として人的資本ととも に取り上げている(内閣府2003)。 こうした中で,環境問題についてもソーシャル・キャピ タルに注目した研究が行われている。ソーシャル・キャピ タルと環境 野に限ってその関係性を実証的に明らかにし ようとした試みについて見てみると,川本(2010)は,ソー シャル・キャピタルの豊かな地域では省エネリフォームに 関する意識が高いという結果を得ている。また,上田(2011) では,各都道府県についての重回帰 析の結果から,可処 所得を 慮してもなお省エネリフォームとハイブリッド 自動車の普及についてソーシャル・キャピタルが影響を与 えていることを示した。さらに大石等(2012)では消費者 の 康・環境配慮型の購買行動に対してソーシャル・キャ ピタルが正の影響を与えていることが明らかにされた。こ れらの結果から,ソーシャル・キャピタルと環境行動につ いてわが国でも一定の関係性があることが示されていると いえる。 これらの先行研究に対する本研究のオリジナリティは, 環境問題に対する消費者意識の中でも特に環境税への支払 意思に焦点を当ててソーシャル・キャピタルの関係につい て独自データを用いて明らかにしたことである。 3. 析方法 3.1 データ 析には2013年9月に筆者たちが行った『環境と 康に 関するアンケート』から得られたデータセットを用いた。 このアンケート調査では,調査会社に登録されている約 1,100,000名のモニターの中から,性別,年代が人口推計に 比例するように割付(按 )した上で20代∼60代の男女420 目的税としての環境税への支払意思とソーシャル・キャピタル(大石・立福) 84
名を無作為に抽出し,インターネット上で実施した 。環境 税への支払意思に関する質問項目は,「あなたは,環境を守 るためなら,かなり高い税金でも払うつもりがありますか」 という問いに対して,調査対象者から「すすんで払う」「あ る程度払ってもよい」「どちらともいえない」「あまり払い たくない」「払いたくない」という5段階の回答を得た。環 境税への支払意思に関する質問に対する回答結果の単純集 計を示したものが図1である。この集計結果から,「払いた くない」(19%),「あまり払いたくない」(31%)と答えた 回答者の割合は約半数に上る一方で,「すすんで払う」 (1%),「ある程度は払ってもよい」(19%)と答えた回答 者は全体の2割と少なかった。 3.2 モデル 析では,この環境税への支払意思について「すすんで 払う」「ある程度払ってもよい」を1,それ以外を0とした 2値変数を被説明変数として,⑴式のようなモデルを構築 し,プロビット 析を行った。 = β+ , =1 if 0, =0 if <0. ⑴ ここで, は環境税への支払意思に影響を及ぼす説明変 数のベクトル,β はその説明変数に対応する係数のベクト ル, は誤差項である。 は潜在変数であり,実際に観察 できるのは被説明変数 の2値変数である。 説明変数としては以下のものを投入した。まずモデル1 として対象者の個人属性を 慮する変数に,年齢,性別, 婚姻状況,学歴,所得を 析に用いた。なお,所得につい ては「200万円未満,200∼400万円未満,400∼600万円未満, 600∼800万円未満,800∼1000万円未満,1000万円以上,無 回答」のカテゴリーデータであり,200万円未満に対するダ ミー変数を 析に用いた。 次に,モデル2では,モデル1の個人属性に加え,社会 参加の指標として, 地縁組織への参加,趣味・文化サーク ルへの参加,県人会・同窓会への参加,政治団体・後援会 への参加,市民団体について参加している場合を1とする ダミー変数をそれぞれについて作成し, 析を行った。 さらに,モデル3では,モデル1の個人属性に居住地域 とのかかわりの指標として,道で会ったときに挨拶を わ すか,継続してその地域に居住したいかという2つのダ ミー変数を加えて 析を行った。 最後にモデル1∼3で用いた変数をすべて加えて,モデ ル4として 析を行った。 それぞれの変数の定義と,記述統計量は表1に示した通 りである(サンプルサイズはすべて420)。 記述統計量を見ると,個人属性については 析対象者の 平 年齢は45.3歳で59%が既婚者である。また,約4割が 大学卒以上の最終学歴を持っている。社会参加の指標につ いて見てみると,地縁組織には約4 の1の対象者が参加 しており,以下,趣味・文化サークル,県人会・同窓会, 政治団体・講演会,市民団体の順で参加の割合が高くなっ ている。さらに,居住地域とのかかわりについてみてみる と,道で会ったときに必ず挨拶を わすのは対象者の82%, 将来も近隣に住み続けたいという居住継続の意向を持つ対 象者は44%となっている。 4. 推定結果 推定結果は表2に示したとおりである。対数尤度および Mcfadden s R2の値から,推定された4つのモデルの中でモ デル4が最も説明力の高いモデルであることが かる。 個別の説明変数の影響について,まず個人属性について みてみると,モデル1からモデル4すべてで年齢と所得 (1000万円∼)が統計的に有意であるという結果が得られ た。その影響は,最も説明力が高いモデル4でみた場合, 年齢が1歳上がるごとに支払意思の確率が0.3%上昇し,所 得が1000万円以上の場合,200万円未満と比べて27.4%それ が上昇するという結果になっている。この結果を整理する と,年齢が高い方が環境税への支払意思が高いことと,所 得が1000万円を超える高額所得者が環境税への支払意思を 持つ確率が高いということが言える。 次に,組織への参加についてみてみるとモデル2とモデ ル4から地縁組織への参加と市民団体への参加が環境税へ の支払意思に影響を与えていることが かった。モデル4 では,それぞれの影響は,地縁組織への参加が支払意思の 確率を8.5%上昇させており,市民団体への参加は63.7%上 昇させている。これは,地縁組織では地域活動の中で,環 境へ取り組む機会も多いことから,環境税への支払の意思 を示す割合が高くなったものと えられる。また,市民団 図1 環境税への支払意思
体への参加もそれ自体が環境活動と深く関わっていること が想定され,支払意思に大きな影響を与えていると推察さ れる。 最後に,居住地域とのかかわりについては,モデル3と モデル4から,居住継続の意識が環境税への支払意思に影 響を与えていることが示された。その影響は,モデル4で は,居住継続意思のある方が10.2%支払意思の確率を引き 上げる結果となっている。この結果から,現在住んでいる 地域に継続して住む意向を持つ人は環境を守る意識も高 く,そのための金銭的負担についても受け入れやすいとい う傾向が えられる。 5. まとめ 本論文では,環境税への支払意思に社会参加や地域の特 徴といった,ソーシャル・キャピタルが影響を与えるのか について,個人属性を 慮した上でプロビットモデルを用 いた実証 析を行った。 析には独自に実施したインター ネット調査の個票データをモデルに適用することで推定を 行った。 析の結果から,年齢が高くなるほど支払意思を持つ確 率が高く,所得が1000万円以上の場合に支払意思が高いと いう事実が明らかとなった。 また,それらの要素をコントロールしても,居住継続意 向と地縁組織への参加,市民団体への参加が環境税の支払 を高めるという結果が得られた。 これらの結果から,第一に,本来,環境からの直接的な 益を得る期間が短いはずの年長者の方が環境保全に積極 的な姿勢が存在し,次世代に対する利他的意識がその背景 にあることが窺われる。これは環境が個人にとって遺産な どと同質的な意味を持っている可能性を示している。 第二に,居住継続意向に注目すると,その地域への愛着 表1 記述統計量 表2 推定結果(限界効果) ( )内は標準誤差, , , はそれぞれ1%水準,5% 水準,10%水準で統計的に有意であることを示す。 86 目的税としての環境税への支払意思とソーシャル・キャピタル(大石・立福)
がある方が環境保全への意識が高く,その の費用負担に も積極的だということが見て取れる。これについては,地 縁組織への参加も同様の解釈が出来る。 今日までの環境税の議論はその多くが, 害などの負の 外部性に関するものであり,負担者は企業である場合が多 かった。しかし,富士山の入山料の導入に関する社会実験 などに見られるように,美しい環境は「無料(タダ)」とい う時代は終わりを迎え,個人も環境に関する金銭的負担を 求められるようになってきている。 こうした点について,本研究の結果から言えることは, 環境への金銭的負担は市民団体に参加しているような著し く環境への意識の高い人だけでなく,地域への居住継続意 向や,地縁組織への参加といった居住地域への愛着が影響 しているということである。地域において環境保全のため の合意形成を一層円滑にしていく上では,グローバルな活 動だけでなく,環境に限らず地域への愛を育む活動も重要 だということが示唆される。 参 文献 1) 今若慎太郎・佐藤宣子(2008)「「森林環境税」による 新たな森林整備に関する研究」『九州大学農学部演習林報 告』,Vol.89,pp.75-126. 2) 川本清美(2010)地域環境管理におけるソーシャル・ キャピタルの役割に関する研究―温暖化対策における市 民意識の地域差との関係―,地域学研究,Vol.40(1),pp. 41-55. 3) 諸富徹(2006)「環境税」環境経済・政策学会編『環境 経済・政策学の基礎知識』pp.200-201. 4) 内閣府(2003)生活局編『ソーシャル・キャピタル』 国立印刷局 5) 大石太郎・大石卓 ・大南絢一(2012)「環境・ 康配 慮型の購買行動に関する一 察―共 散構造 析による アプローチ―」『消費者教育』,Vol.32,pp.41-49. 6) Putnam R. (1993) Making Democracy Work: Civic
Traditions in Modern Italy , Princeton: Princeton Uni-versity Press.
7) Putnam R. (2000) Bowling Alone:The Collapse and Revival of American Community New York:Simon & Schuster. 8) 務省[編](2012)『平成24年度版 情報通信白書』, 務省。 9) 上田嘉紀(2011)「第20章 ソーシャル・キャピタルと 地球温暖化問題」山内直人・田中敬文・奥山尚子編『ソー シャル・キャピタルの実証 析』,大阪大学大学院国際 共政策研究科 NPO研究情報センター,pp.195-208. 注 務省(2012,p.311)によると,平成23年末におけるイ ンターネット利用率は,20歳代∼50歳代では9割以上,60 歳代では6割以上である一方で,70歳以上では42.6%と5 割を切っている。そのため,本研究では,70歳以上のイン ターネット利用者は,70歳以上の人口全体を代表しないと えて 析から除外した。