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IRUCAA@TDC : 歯科における審美の数量化への試み : 一対比較法による未手術口唇裂患児の審美度

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(1)Title Author(s) Journal URL. 歯科における審美の数量化への試み : 一対比較法による 未手術口唇裂患児の審美度 内山, 健志 歯科学報, 102(11): 869-877 http://hdl.handle.net/10130/637. Right. Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/.

(2) 8 6 9. ―――― 歯学の進歩・現状 ――――. 歯科における審美の数量化への試み ― 一対比較法による未手術口唇裂患児の審美度 ― 内 山 健 志 東京歯科大学口腔外科学第二講座. はじめに,歯科審美数量化への模索. 1)を形成することにつきる。しかし,これがそ. 最近,Quality of life や感覚的な良否,好き嫌. う簡単ではなく,不完全口唇裂ではともかく完全. いなど単純な物理的手段では捉えることが困難と. 口唇裂では結果を維持することがことに難しい. 思われる対象でも統計的に数量化して扱う方法が. (図2,3)。この手術は術者に冷徹な見識に加. 様々な分野で 広 く 行 わ れ て い る1)∼3)。産 業 界 で. え,豊かな感性と精緻な craftsmanship が他の手. は,さらに数値に影響を及ぼす因子を統計的に抽. 術と比べて特に求められると思う。また術中のみ. 出し,その結果を製品の開発や向上に還元してい. ならず術前の診断から,術後の評価までも,厳し. るといわれている。一方,歯科界では歯科治療の. い審美観が術者に求められるので,口唇形成術は. 大きな目標として,歯や歯槽部さらに顔面形態の. 一面ではきわめて芸術的であるといえよう。した. 回復あるいは獲得には審美を同時に満たすことが. がって熟練者には審美観が存分に発揮される。し. 要求されるが,形態に付随する美的障害や審美に. かし,それに基づく評価は必ずしも客観的でな. 対しては,今まで感覚的な表現が主体の質的記述. く,時に独善的ですらある。. のみがもっぱら行われてきた。しかし,これから. 上述のような経緯から術前の口唇裂患児の顔面. は審美において質的記述だけでなく,客観的に評 価する量的記述すなわち万人が納得できる数値を 与えることも必要になってくると考えられる4)。 未手術口唇裂患児の審美数量化への 着想と研究目的 歯科には,体表奇形で最も多いといわれている 口唇裂患児が来院する。口唇裂は先天異常の体表 奇形であるから,根本的治療は手術ということに なる。口唇裂に対して初回に行われる手術は口唇 形成術と呼ばれ,その究極的な目標は左右対称で 自然に見える5)機能的な口唇と人中および外鼻(図. 図1. 外鼻口唇の表面解剖. Takeshi UCHIYAMA : Statistical Aesthetic Analysis in Dentistry ― The scale of the facial attractiveness of the un operated UCL infants by the method of paired comparison ―(The 2nd Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Dental College) 別刷請求先:〒2 6 1 ‐ 8 5 0 2 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学口腔外科学第二講座 内山健志 ― 17 ―.

(3) 8 7 0. 内山:歯科における審美の数量化への試み. 図2. 不完全口唇裂の術前術後. 図3. 完全口唇裂の術前術後. 変形から受け取れる感覚的な審美の程度を定量的. 拠となる何らかの示唆を得ることを目的として. に求め,次いでそれに及ぼす因子を抽出できれば. 行ったが,ひいては口唇裂患児と家族の幸せを. 口唇形成術の結果予測や手術手技に必要な何らか. 願ってのことであることを付記しておく。. の示唆が得られるのではないかとの着想を得た。 Thurstone の一対比較法による数量化の実際. そこで,この目的を達成するため以下のような3 つの実験を計画した。. 1.資. 料. 実験1.未手術口唇裂患児の顔面変形から受け. 研究で使用した資料はすべて口唇裂一次手術直. 取れる感覚的な審美の程度,すなわち審美度を数. 前に印象採得した教室所蔵の左側不完全口唇裂患. 量的に尺度化する。. 児の顔面模型である。レジン製の顔面トレイにア. 実験2.三次元デジタイザを用いて同一模型を 非接触的に各種の計測を行う。. ルギン酸印象剤を盛り,できるだけ無圧化に患児 顔面の印象採得を行い,直ちに硬石膏を注入し. 実験3.最後に審美度を目的変数に,顔面の計. た。一対比較実験に用いた模型は,1 00を越す左. 測値を説明変数にして重回帰分析を行う。すなわ. 側不完全口唇裂患児の顔面模型から破裂の程度と. ち感覚的な審美の数値に及ぼす顔面の形態的因子. 変形に偏りのない均一できれいな模型30個を選択. が何であるかを統計学的に追究し,検討する。. した。. 以上のような実験を試み分析したところ,ある. 2.Thurstone の一対比較法. 知見を得た。現在,実験はすべて終了している. 感覚的判定を数値として表す方法に,二つずつ. が,本稿では特に実験1について述べる。本研究. 対にして比較する実験,すなわち一対比較実験が. は,口唇形成術の結果予測や手術手技に必要な根. ある。ここでは数量化が距離尺度として求められ. ― 18 ―.

(4) 歯科学報. Vol.1 0 2,No.1 1(2 0 0 2). 8 7 1. る こ と か ら 官 能 検 査 に 広 く 使 用 さ れ て い る3) Thurstone の一対比較法6),7)を用いた。 1)Thurstone の一対比較実験 実験は,あらかじめ決めておいた順番通り机の 上に二つの模型の一対を著者が置き,調査表 (図 4)に基づいて判定者に判断してもらうことから はじまる。すなわち判定者が左右二つの模型を見 て,模型から受け取れる醜形の度合いが感覚的に 強い方に丸を,判断しがたい場合には「どちらと もいえない」に丸をつける。 2)一対比較法による数量化のステップ 本研究における一対比較実験は3ステップから なっている。この一対比較実験に携わった者 (判 定者)は,不完全口唇裂患児の手術や全身麻酔に 関わったことのある本学口腔外科医と歯科麻酔科 医の20名で,患者の名前など一切の情報は与えて いないが,実験の意図を十分説明したうえで判定 してもらった。 !まず30個の顔面模型を審美度に差がありそう な5個ずつ6グループに著者が分類し,各グルー プから代表模型1個を選択して6個の模型におけ. 図4. 調査表. る一対比較実験を行って数量化を行う。この際の 一対比較実験は6C2で15回となる。 "ついで代表模型を各グループに戻し,6グ. 対比較実験について述べる。. ループにおける一対比較実験を行う。この際の一. !グループ代表模型を使用した一対比較実験に. 対比較実験は5C2×6で60回となる。つまり合計. おける判定者の判定表を集計し,度数として一括. 75回の一対比較実験を行うことになる。. した (表1)。「どちらともいえない」と回答した. #最後にそれらから求められた数値を総合的に. 度数は0. 5とした。 "次に度数を判定者数2 0で除した比率 pij を求. 調整して数量化をはかるものである。 3)一対比較法における統計的分析過程. め,標準正規分布表を用いて Z<zij となる確率. AからFの六つのグループ代表模型における一 表1 j i 1C橋 本 2A小 山 3D佐 藤 4E市 川 5B佐々木 6F清 水. が pij で あ る よ う な zij の 値 を 求 め る Z 変 換 を. 基本グループにおける Thurstone の一対比較実験. 1 C橋本 1. 5 1 1 0 0. 5. 2 A小山. 3 D佐藤. 4 E市川. 1 8. 5. 1 9 1 1. 1 9 1 4 1 0. 5. 9 6 4 1 0. 9. 5 5 1 0 ― 19 ―. 9 1 2. 5. 度数 fij j>i 5 B佐々木 2 0 1 6 1 5 1 1 1 7. 6 F清水 1 9. 5 1 0 1 0 7. 5 3.

(5) 8 7 2. 内山:歯科における審美の数量化への試み 表2. j. 表3. 基本グループにおける Thurstone の一対比較実験 Z 変換;z ij (標準正規分布表より). i. 1 C橋本. 2 A小山. 3 D佐藤. 4 E市川. 6 F清水. 1C橋 本 2A小 山 3D佐 藤 4E市 川 5B佐々木 6F清 水. 0. 0 0 0 −1. 4 4 0 −1. 6 4 5 −1. 6 4 5 ―― −1. 9 6 0. 1. 4 4 0 0. 0 0 0 −0. 1 2 6 −0. 5 2 4 −0. 8 4 2 0. 0 0 0. 1. 6 4 5 0. 1 2 6 0. 0 0 0 −0. 0 6 3 −0. 6 7 4 0. 0 0 0. 1. 6 4 5 0. 5 2 4 0. 0 6 3 0. 0 0 0 −0. 1 2 6 0. 3 1 9. ―― 0. 8 4 2 0. 6 7 4 0. 1 2 6 0. 0 0 0 1. 0 3 6. 1. 9 6 0 0. 0 0 0 0. 0 0 0 −0. 3 1 9 −1. 0 3 6 0. 0 0 0. Σz ij. −6. 6 9 0. −0. 0 5 2. 1. 0 3 4. 2. 4 2 5. 2. 6 7 8. 0. 6 0 5. Z変換した表2の列をΣzij の小さい順に並 べ変えてから隣接する二つの列の距離絶対値 djk をもとめた表 d1 2. d2 6. d6 3. d3 4. d4 5. 1 2 3. 1. 4 4 0 1. 4 4 0 1. 5 1 9. 0. 5 2 0 0. 0 0 0 0. 1 2 6. 0. 3 1 5 0. 1 2 6 0. 0 0 0. 0. 0 0 0 0. 3 9 8 0. 0 6 3. ―― 0. 3 1 8 0. 6 1 1. 4 5 6. 1. 1 2 1 ―― 1. 9 6 0. 0. 2 0 5 0. 1 9 4 0. 0 0 0. 0. 2 5 6 0. 3 6 2 0. 0 0 0. 0. 0 6 3 0. 5 4 8 0. 3 1 9. 0. 1 2 6 0. 1 2 6 0. 7 1 7. Σdjk ni. 7. 4 8 0 5. 1. 0 4 5 6. 1. 0 5 9 6. 1. 3 9 1 6. 1. 8 9 8 5. i. di. 5 B佐々木. 図5. 基本グループにおける尺度値の計算. 表模型で求められた尺度値(表4)と各グループ間 における尺度値を総合的に調整した。 4)一対比較法で得られた尺度値. 1. 4 9 6 0 0. 1 7 4 2 0. 1 7 6 5 0. 2 3 1 8 0. 3 7 9 6. 代表グループで求められた尺度値とAからFの 六つのグループにおける尺度値の調整を行い,30 行った(表2)。. 個の左側不完全口唇裂患児の模型から受け取れる. !比率が1と0を示すブロックの場合には,正. 審美度の数量化が完成した(表5)。その値は最小. 規分布で∞と−∞が対応し,zij の値が確定しな. が0,最大が5. 06の数値の間で連続的な数値とし. いので,田中8)の方法を適用して,尺度値を求め. て求められた。実際の顔面模型と得られた審美度. た(表3)。このようにして六つのグループ代表模. を示す(図6∼9)。. 型の尺度値が得られ,第1段階の数量化が終了し 口唇形成術における審美の追究と本研究対象. た。Cグループの代表模型がもっとも小さい値を 示したので,この尺度値を0とすると,各グルー. 著者は口唇裂の手術に携わってきて,不完全口. プ 代 表 の 値 は,Aが1. 490,Fが1. 670,Dが. 唇裂に対しては,ほぼ満足すべき結果が得られる. 1. 847,Eが2. 079,B が2. 458となる数値が得ら. ようになった(図2)。しかし破裂が鼻孔底から口. れた(図5)。. 唇,顎,口蓋へとおよんでいる完全口唇顎口蓋裂. "グループの代表模型を各グループに戻し,A. に対する口唇形成術は,変形が複合的であるがゆ. からFの六つのグループにおいても同様の実験と. えに難しく,手術結果はいまだ完璧とはいえな. 統計計算を行った。. い。また著者だけでなく完全口唇裂に対しては,. #最後にAからFの六つのグループにおける代. 世界的にも多くの術者が新たな術式を模索しなが. ― 20 ―.

(6) 歯科学報. Vol.1 0 2,No.1 1(2 0 0 2). 8 7 3. 表4 各グループ内での数量化 各グループとも試料t=5,判定者n=2 0 グループ. A. B. C. D. E. F. 尺度値. A2=0 A1=0. 1 7 A5=1. 0 5 A4=1. 4 0 A3=2. 0 0. B5=0 B1=0. 0 4 5 B4=0. 0 7 6 B2=0. 2 6 6 B3=0. 3 0 9. C3=0 C4=0. 4 6 C1=0. 6 3 C2=0. 7 9 C5=1. 4 9. D1=0 D2=0. 4 1 D3=0. 4 7 D5=0. 6 2 D4=1. 3 0. E1=0 E4=0. 1 8 E5=1. 1 6 E2=1. 5 6 E3=1. 7 9. F3=0 F4=0. 1 0 F2=0. 4 5 F5=0. 5 2 F1=1. 9 2. 適合度 χ2値. χ2=1 1. 0 4. χ2=3. 0 9 2. χ2=1. 1 1 4. χ2=2. 0 7 6. χ2=1 1. 4 5. χ2=8. 9 9 4. 判断の 一致性 一致性あり (Kendall の検定). 一致性なし または 試料に差なし. 一致性あり. 一致性あり. 一致性あり. 一致性あり. 表5 3 0個の顔面模型における審美度 順位. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 1 0. 試料 数値. C3 0. C4 0. 4 6. C1 0. 6 3. C2 0. 7 9. A2 0. 9 9. A1 1. 1 6. C5 1. 4 9. E1 1. 7 8. E4 1. 9 6. A5 2. 0 4. 順位. 1 1. 1 2. 1 3. 1 4. 1 5. 1 6. 1 7. 1 8. 1 9. 2 0. 試料 数値. D1 2. 0 4. A4 2. 3 9. D2 2. 4 5. D3 2. 5 1. D5 2. 6 6. E5 2. 9 4. A3 2. 9 9. F3 3. 1 6. F4 3. 2 6. D4 3. 3 4. 順位. 2 1. 2 2. 2 3. 2 4. 2 5. 2 6. 2 7. 2 8. 2 9. 3 0. 試料 数値. E2 3. 3 4. E3 3. 5 7. F2 3. 6 1. B5 3. 6 4. F5 3. 6 8. B1 3. 6 9. B4 3. 7 2. B2 3. 9 1. B3 3. 9 5. F1 5. 0 8. 図6. 審美度0. 6 3を示す顔面模型. 図7. ― 21 ―. 審美度1. 7 8を示す顔面模型.

(7) 8 7 4. 内山:歯科における審美の数量化への試み. 図8. 審美度2. 0 4を示す顔面模型. 図9. 審美度5. 0 8を示す顔面模型. を見慣れた群と見慣れない群における違いは見出. ら開拓を試みている。 口蓋裂の初回手術が functional surgery と言わ. せず,ほぼ同様な結果を示していたと報告してい. れるのに対し,口唇裂のそれが cosmetic surgery. る。しかし,この研究における破裂の程度は片側. と呼ばれていることから,顔面のしかも人目につ. 不完全口唇裂から両側完全唇顎口蓋裂まで破裂の. く正中部に発症する先天異常である口唇裂は,審. タイプを順に重症度で分けたもので,きわめて単. 美の問題に深く関わっている。口唇裂の審美に関. 純であり,標本も12例と少なく,一対比較に関す. しては,破裂の程度と顔貌写真から受けとれる審. るスコアの求め方に関しても詳述していない。本. 美の程度との関係について検討する研究がなされ. 研究のように模型を用い,不完全口唇裂のみの模. ている。口唇裂患者の顔面の人目を引く要因が破. 型を多数用いて微妙な変形の違いを求めた報告は. 裂の特徴と一致するかどうかを調査した実験的研. 全くみられない。. 究によると,それらは一致することが言われてい. 本研究では対象として,未手術の不完全口唇裂. る。また破裂の程度が軽くなれば negative な社. の顔面模型を使用した。この理由として口唇裂未. 会的な認知もやわらげられると Tobiasen ら9)は. 手術患児の顔面から受け取れる感覚的な審美度を. 報告している。. 得るためには,変形が軽度の方が要因は少なく,. 10). Slade ら は未手術の口唇裂新生児の審美と破. また誤差が少なくなると判断したからである。ま. 裂の重症度との関係についての研究を行ってい. た破裂が重度な完全口唇顎口蓋裂では,その術後. る。審美についての検討は,12枚の写真を一対に. にしばしば認められる変形が軽度の不完全裂と類. して比較する66通りのセットをつくり,それより. 似していることがある。そこで完全口唇裂手術の. 審美度の平均値を求めるとともに,審美度を7段. 完璧を目指し,それにフィードバックするため未. 階の尺度に設け,それに当てはめる Likert 法に. 手術の不完全口唇裂の顔面模型を使用した。. よる試みを行った。そしてそれらと破裂の程度を 一対比較法による数量化の有用性について. 臨床的に八つに分類したものとの関連について検 討した。さらに外科医とナースのように口唇裂児. 数量化とは単純な物理的手段では数値として表. を良く見慣れている群と口唇裂児をまったく見て. すことができない,あるいは困難であると思われ. いない心理学者と補助者からなる群との比較も. る対象とかその性質を統計学的に数値として捉え. 行っている。その結果,審美度と破裂の程度とは. ることと定義される4)。品質に対する感覚や嗜好. 有意に一致し,また一対比較の結果と Likert 法. そのものを順番に格付けしたり数値にしたりする. との値とは高い相関を示していた。さらに口唇裂. 際,次から次へと行うと最初と途中さらに最後で. ― 22 ―.

(8) 歯科学報. Vol.1 0 2,No.1 1(2 0 0 2). 8 7 5. は審査する者の判断基準が異なってくるといわれ. は,各人によって異なるが,集団としてみれば人. ている。つまり審査員の選択や疲労などの問題が. 間の種々な属性,例えば身長,知能,音感などと. 生じる1)。そのようなことから,正確な結果を得. 同様に正規分布になるとみなされている。すなわ. るためには,二つずつ対にして対象を比較する一. ち Thurstone の方法では,試料が人に与える心. 対比較法が多く用いられている。一対比較実験な. 理的影響の強さXは正規分布になると仮定されて. いし一対比較法は,心理学の分野で最初に考案さ. いる4)。. れ試みられてきた方法論である。一対比較法は Scheff’ e,Bradly および Terry らの方法がある1),2) 7). が,Thurston が一対比較と統計的解析とをはじ. 本研究での一対比較実験についての考察 1)判定者. 11). めて結びつけ,さらに Mosteller によって発展 してきたといわれている1),2)。. 判定者は口唇裂患児の全身麻酔や手術に関わっ たことのある本学歯科麻酔科医と口腔外科医であ. 最近,種々な分野における対象を数量化し,し. り,未手術の口唇裂児をよくみなれた者で専門集. かもそれに及ぼす因子が何であるかを追究する試. 団ということになる。審美の観点からは一般の集. みが広くなされるようになった。産業界ではメッ. 団に属する人も判定者に加えるか,もしくは別途. 2). 2). キ製品の美観 ,髭剃りの剃り味 ,インスタント. に行うかという疑問も生じる。試料対象が前述し. ラーメンのスープ味2)や日本酒の味1),作曲家の好. たスープ味のような生活に密着したのとは異な. 3). み など人の感覚や嗜好に基づく品質の優劣が数. り,日常性から逸脱しており,生理的嫌悪感を覚. 値化されている。さらに IQ や人の能力,偏差値. えた場合,正確な方向性をもった判断ができない. や組織の格付け,Quality of Life,最近では職業. と考え,ほぼ日常的にみなれた専門集団とした。. 人としての組織に対する評価や貢献度など社会科. しかし判定者は,数が少ないと判定者の癖により. 学に関する抽象的なものまで広く試みられてい. 偏りが生じるので,20名と多く採用した。. 12). る 。これらの多くは,一対比較法による数量化. 2)無作為化と一対比較実験数. がなされているといわれている。. 一対比較実験に際し,二つの模型をあらかじめ. 一対比較法はペア・テストと呼ばれ,まず二つ. 決めておいた順番通り机の上に著者が置き,判定. ずつの対を総当たりに作る。ついで文字通り各対. 者に判定してもらうが,比較する模型の左右の置. ごとに比較して実験意図に沿った判定を下す。最. き方と置く順番は,良質なデータを得るため,す. 後に,その結果を総合して実験対象の順位を統計. べて乱数表とサイコロを用いて決定した13)。. 学的に決める。また,比較する二つが同程度であ. 数量化後に多変量解析による要因分析を行うの. る情報も科学的に貴重で,得点として採用され. で,データの個数をある程度確保する必要から実. る。したがって,この方法は公平な評価がなさ. 験対象を3 0個とした。しかし Thurstone の一対. れ,得られた結果は順位だけでなく,試料間の相. 比較実験を30個の模型に行うと,総当たりの組み. 対的な距離として与えられる間隔尺度であること. 合わせは435通りになる。不可能でないまでも実. も利点として挙げられている。なんといっても,. 験時間が延長して判定者が疲労し,判定意欲の減. 最大の利点は判断が容易であるので,一般の消費. 退により誤った判定が増えて正確性を失うと考. 者を対象にした嗜好検査でも,今日よく用いられ. え,一対比較実験による数量化を2段階に行うこ. ている。. ととした。ついで,その後に総合的に数値を調整. そこで本実験における審美に対する感覚ないし 感性を数量化することにおいても Thurstone の. することにした。その結果,一対比較実験は75回 ですんだ。. 一対比較法を用いた。本実験で求められる審美に 対する感覚ないし感性などの心理的影響の強さ ― 23 ―.

(9) 8 7 6. 内山:歯科における審美の数量化への試み 表6. j i. 1C. 1C 2A 3D 4E 5B 6F. 2A 1. 5. z’ ij=z’ j−z’ i. 表7 j. 3D. 4E. 5B. 6F. 1. 8 5 0. 3 5. 2. 0 8 0. 5 8 0. 2 3. 2. 4 6 1. 6 7 0. 9 6 0. 1 7 0. 6 1 −0. 1 8 0. 3 8 −0. 4 1 −0. 7 9. i 1C 2A 3D 4E 5B 6F. 1C. 2A. ij 期待比率 p’ 3D. 4E. 5B. 0. 9 3 3 0. 9 6 8 0. 9 8 1 0. 9 9 3 0. 6 3 7 0. 7 1 9 0. 8 3 2 0. 5 9 1 0. 7 2 9 0. 6 4 8. 6F 0. 9 5 3 0. 5 6 8 0. 4 2 9 0. 3 4 1 0. 2 1 5. 求めたこの数値を標準正規分布表から確率を求める. 表8 j i 1C 2A 3D 4E. 1C. 2A. 観測比率 pij 3D. 0. 9 2 5 0. 9 5 0. 5 5. 4E. えないことが判明した。 5B. 0. 9 5 1 0. 7 0. 8 0. 5 2 5 0. 7 5 0. 5 5. 5B 6F. 2)判定者相互間の判定基準の一致性. 6F. 判定者を多くしたものの判定者間で判定基準が. 0. 9 7 5 0. 5 0. 5 0. 3 7 5. ばらばらで勝手に判定していないか,一定の方向. 0. 1 5. ろ,グループごとにおける判定の一致性はBグ. 性をもった基準で判定しているか,判定者相互間 の一致性の検定を Kendall の方法14)で行ったとこ ループを除いて有意であった。その意味するとこ ろは20名の判定者間に判断の一致性がある,つま り,やみくもに判定しているのではないことがわ. 本研究における統計的分析過程の考察. かった(表4)。Bグループのみが判断の一致性が. 一対比較実験から得られた度数からの数量化 8). 有意にならなかったことについては,判定者間に. は,すべて Thurstone の一対比較法の手順 にし. 判断根拠あるいは基準に一致性がないか,模型間. たがって行い,審美度の数値を求めた。30個すべ. に差が見られないかのどちらかであると考えられ. ての尺度値が得られた後,以下のような過程が必. た。生データの集計表を判定者ごとにチェックし. 要といわれている8)ので,検討を行った。それは. てみたところ,判定者間で逆の判定またはどちら. 得られた尺度値における妥当性の有無と判定者相. とも言えないと選択したのが多数みとめられた。. 互間の判定基準の一致性である。. 著者も実際に比較実験を試みたところ,判断が付. 1)得られた尺度値の妥当性. きかねず,ほかの判定者より時間がかかってい 2. モデルのデータに対する適合度検定をχ 値か. た。したがって感覚的な判断の一致性はあるもの. ら調べた。まず表6に示すように得られた尺度値. のBグループにおける模型間の差が小さいために. ごとの差を求め,その値から標準正規分布表を用. 判断がむずかしいと考えられた。. いて期待比率を求めた(表7)。ついで度数を判定. 3)得られた結果の臨床的検討. 者20で除した値を観測比率(表8)とし,これら二. 得られた数値の順に顔面模型30個を横一線に並. つの値からさらに逆正弦変換を行った。最後に. べて模型を観察した。その定性的所見つまり専門. 11). 2. Mosteller の方法 により,χ 統計検定量を求め. 分野を担当する者の経験をもとにした判断では,. た。その値は,5. 088となり自由度1 0のχ2分布上. 審美度の数値が上がるほど,外鼻の変形の度合. 側5%点は1 8. 31であるので,食い違うことは著. い,破裂幅径の量が増す印象であった。しかし外. しく少なく,適合度はかなりよいといえた。つま. 鼻や破裂の部位,その強さ,関連性などは特定す. りえられた尺度値は妥当性があるといって差し支. ることをできなかった。. ― 24 ―.

(10) 歯科学報. ま. と. Vol.1 0 2,No.1 1(2 0 0 2). 参. め. Thurstone の一対比較法を用い,左側不完全口 唇裂未手術患児の30個の顔面模型から受け取れる 感覚的審美を0から5. 06の間で連続的な変数とし て数量化することができた。 その数値の順にしたがい実験対象の顔面模型を 並べて観察したところ,審美度の数値が上がるほ ど,外鼻の変形の度合い,破裂幅径の量が増す印 象であった。しかし外鼻や破裂のどの部位である かを特定することはできなかった。定性的な観察 では,以上が限界であり,ここに審美度を目的変 数にし,形態的数量を説明変数にした重回帰分析 を応用する意味があると思われる。この結果は得 られているが,現在,原著論文として纏めている ところである。 今 後 の 展 望 Thurstone の一対比較法を用いることにより, 審美だけでなく,感覚的判定を数値として表すこ とができるので,今後この方法が各方面において 応用されるものと期待している。 本報告の要旨は第2 6 4回東京歯科大学学会例会(平成 1 0年6月6日) において学長奨励研究報告として発表し た。さらに日本口腔外科学会(平成1 0年1 0月) ,第2 3回 日本口蓋裂学会(平成1 1年7月) においても発表した。. 謝. 8 7 7. 辞. 考. 文. 献. 1)品質管理誌編集委員会:QC シリーズ,新しい統計 手法集,6 3∼9 0,日科技連,東京,1 9 6 7. 2)佐 藤 信:官 能 検 査 入 門,8 0∼9 1,日 科 技 連,東 京,1 9 7 6. 3)日科技連官能検査委員会,西原哲郎:新版官能検査 ハンドブック,4 7 3∼時に独善的であり,1 1 4 8 1,日科 技連,東京,1 9 7 6. 4)菅野隆三:歯科データの統計的分析について.歯科 学報,1 0 1:2 0 5∼2 1 8,2 0 0 1. 5)Millard, D. R. : Cleft Craft, The evolution of its surgery, I. The unilateral deformity, 449∼485, Little Brown, Boston,1 9 7 6. 6)Thurstone, L. L. : Psychophysical analysis, Amer Jour Psychol,3 8:3 6 8∼3 8 9,1 9 2 7. 7)Thurstone, L. L. : A law of comparative judgement, Psychol Rev,3 4:2 7 3∼2 8 6,1 9 2 7. 8)田中良久:心理学的測定法,1 3 2∼1 3 5,東京大学出 版会,東京,1 9 7 4. 9)Tobiasen, J. M., and Hiebert, J. M. : Combined effects of severity of cleft impairment and facial attractiveness on social perception : An experimental study, Cleft Palate Cranio-fac J.3 0:8 2∼8 6,1 9 9 3. 1 0)Slade, P. B., Bishop, S. c., and Jowett, R. A. : Relationship between cleft severity and attractiveness of newborns with unrepaired clefts, Cleft Palate Craniofac J.3 2:3 1 8∼3 2 2,1 9 9 5. 1 1)Mosteller, F. : A test of significance for paired comparisons when equal standard deviations and equal correlations are assumed, Psychometrika, 1 6: 2 0 7∼2 1 8,1 9 5 1. 1 2)大村 平:統計のはなし ― 基礎・応用・娯楽 ―, 日科技連,東京,1 9 9 7. 1 3)菅野隆三:統計的データ解析法,1∼3,産図テク スト,東京,1 9 9 4. 1 4)Kendall, M. G., and Smith, B. : On the method of paired comparisons, Biometrika,3 1:3 2 4∼3 4 5, 1 9 3 9.. 研究を遂行するにあたり,統計解析に関して終始ご 懇篤なるご指導を賜りました元東京歯科大学数学研究 室教授の菅野隆三先生 (現本学名誉教授) に深甚なる謝 意を表します。 また一対比較実験に際し御協力をしてい ただきました本学口腔外科学第一講座,歯科麻酔学講 座の方々に厚く御礼申し上げます。また資料整理から 三次元デジタイザによるデータ採取に協力してもらっ た当講座の山本貴和子元大学院生他,実験に参加協力 を頂いた当講座の教室員の方々に礼を申し上げます。 最後に,本研究と発表の機会をいただきました本学学 長石川達也教授に感謝を捧げます。. ― 25 ―.

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