気管、気管支に転移を来たした悪性黒色腫の1例
国立療養所富士病院 呼吸器外科 小室信人 天白典秀 平野竜史 西海昇 霜多広 堤正人 石原重樹 並河尚二 要旨 症例は72歳の男性、主訴は胸部異常陰影。精査にて悪性黒色腫の気管、 気管支への転移と診断した。悪性黒色腫の気管転移は非常に稀で約2%と の報告がある〔1)〔2〕。また早期に多彩な転移を呈し、本症例も剖検により、 大脳、脳幹、肺、気管、心臓、腹膜、腸間膜などの転移巣を確認した。 Key Word:悪性黒色腫 気管支転移 気管転移 はじめに 悪性黒色腫は早期に全身に広範な血行性、リンパ行性転移を来たす予後 不良な疾患である。今回我々は、気管、気管支に転移を来たした悪性黒色 腫の1例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。 症例症例:72歳男性
主訴:胸部異常陰影
既往歴:平成5年 クモ膜下出血。平成11年11月26日右第5趾悪性黒色腫にて第3.4.5趾を
他院にて切断。 現病歴:悪性黒色腫の経過観察中、胸部X−Pにて右中肺野に異常陰影が 認められたため平成12年10月4日精査目的にて当院入院となる。 入院時検査所見〔Table 1〕TP、 Albの軽度低下。 ALP、 LDHの軽度上昇、 軽度の貧血と血小板の低下が認められる。 経過 胸部単純X線〔Fig 1〕にて右中肺野に径4.7x2.2cmの腫瘤影、胸部 CT〔Fig2〕では右S4に径4.5x2,7cmの不正形の腫瘤が認められ、 右B4を閉塞していた。以上より原発性肺癌、転移性肺癌との鑑別のため 気管支鏡検査を施行した〔Fig 3〕。気管分岐部に黒褐色の腫瘤が認められ、また右B4には内腔を閉塞するように黒褐色の腫瘤が認められた。 その際の病理所見は〔Fig 4〕、メラニンを含まない紡錘形の細胞と、粗大 メラニンを含む類円形の細胞が認められ、また包巣の形成、核分裂像が見 られ悪性黒色腫と診断された。検査終了後退院となったが、痙攣発作、意
識障害が出現したため平成12年10月15日再入院した。
再入院時の頭部CT〔Fig5〕にて最大径2、5×2.O×2.Ocmの多発
転移が認められた。この後呼吸障害が進行し再入院2週間後に死亡した。 またその際の剖検所見では、大脳、中脳、橋、延髄、小脳、肺、気管、 気管支、心臓、胸膜、十二指腸、空腸、腹膜、腸間膜、脾臓、副腎、前立 腺に多発転移巣が認められた。 考察 悪性黒色腫は神経堤由来のメラノサイトから発生し、皮膚、粘膜、眼球に 好発する悪性腫瘍であり、極めて早期から血行性、リンパ行性に遠隔転移 する予後不良な疾患である。肺転移、気管支転移についてHarpoleらはそ れぞれ12%、2%〔1〕、Taf畑らは16%、2%〔2jに認められたと報告 している。胸腔内転移巣は、画像上、孤立結節、多発結節、粟粒状結節、 癌性リンパ管症、胸水貯留など種々の形態を呈するが、多発結節の頻度が 最も多いとされているf3〕。治療は、原発巣の切除、全身化学療法、また 局所にはレー・一・・一ザー一治療[4〕及びINF一β注入〔5〕が行われている。特に肺転 移、気管支転移による呼吸不全は悪性黒色腫の死亡率の40%を占めると の報告があり〔6〕これらの病変のコントロールは重要である。 Table l Laboratory findings Hematology Bbchemi甜yWBC
5200/mm3TP
6.49/dlLDH
3201U/1R8C
397x10/mm3 Alb 3.19/dlBUN
25mg/dl Hb 1tO9/dl T−Bi6 0.47mg/dl Crtn 0.9mg/dl結語 気管、気管支に転移を来たした悪性黒色腫の1例を経験した。若干の文 献的考察を加えて報告した。 文献 〔1〕:Harpole DH, Johnson CM, Wolfe WG, et aL Analy8おof 945 ca8e8 0f pulmonary meta8tatic melanoma. J Thorac Cardiovasc Surg 1992;103:743・50 〔2〕:Tafra L, Dale PS, Wanek L氏et aL Re8ection and adjuvant immunotherapy for melanoma metastatic to the lung and thorax. 」 Thorac Cardiovasc Surg 1995;110:119−28 〔3〕:Webb WR, Gamsu G. Thoracic metastasiS in malignant melanoma:a radiographic survery of 65 p atie nt. Che8t 1977;71: 176・81 〔4〕:吉村信行、東條尚子、月本光一、ほか。レーザー治療が奏効した 悪性黒色腫気管内転移の1例。気管支学 1994;16:170・8 〔5〕:新島真文、角坂育英、藤澤武彦、ほか。経気管支的Nd−YAG レーザー一照射に加え、β一インターフェロンの局所注入が有効であ った気管支内転移悪性黒色腫の1例。気管支学 1998;20:348・52 〔6〕:山本明史、石原和之。悪性黒色腫242例の統計学的検討。 岐阜大医紀 1987;35:207−37