教員養成課程における理科の指導法改善 (I)
小 田 切 真
Improvement of the Quality of Science Education in Pre-service
Teacher Training Course (I)
Makoto ODAGIRI
2016 年 11 月 15 日受理 抄 録 次期学習指導要領等に向けた審議等が最終段階に入っている。理科という教科にお いても、どのような知識をどの程度の内容で指導していくのか、また、どのような資 質 ・ 能力及び見方・考え方をどのような方法で身に付けさせていくのか等、大きな改 訂が実施されると予測されている。教員養成課程においては、これらの改訂に対応す べく、各学校段階別の理科の指導法を検討していく責務がある。 ここでは、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会がまとめた「次期学習 指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を基調資料として設定し、学習指導要 領等改訂の基本的な方向性に準拠した理科の指導法の改善、及び、理科の指導法にお ける領域別・学校段階別の改善策を検討するとともに、その成果としてモデルとなる 理科の指導法のシラバスを作成した。 キーワード:社会に開かれた教育課程、カリキュラム・マネジメント、資質・能力の 3 つの柱、理科の見方・考え方、主体的・対話的で深い学び 1.はじめに 平成 28 年8月、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会において「次期 学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」(以下、「審議のまとめ」という。) が取りまとめられた。その第1部では「学習指導要領等改訂の基本的な方向性」、第 2部では「各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性」がまとめられている。 新しい学習指導要領は、これまでの慣例から考えれば(例えば小学校では)2020 年から 2030 年までの学びの地図となる。教員養成課程においては、この地図を正確 に理解させるとともに、子供たちとともに歩み続ける教員の育成が喫緊の課題となる。 ここでは、教員養成課程における理科の指導法の在り方について、新しい学習指導 要領の基本的な方向性、そして、小学校から高等学校までを見通した理科における改訂の具体的方向性に準拠した改善策を検討していく。 2.学習指導要領等改訂の基本的な方向性に準拠した理科の指導法の改善 ⑴ 社会に開かれた教育課程に関する改善* 1 審議のまとめでは、これからの教育課程を「社会に開かれた」という言葉で表現し ている。社会の変化に目を向け、教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変 化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」こそが期待されているという 背景から教育理念として位置付けたのである。この理念に基づく今回の改訂を含めた 変遷を[表1]にまとめたが、「社会」に教育課程を「開いていく」という理念はこ れまでに例のない画期的なものである。 そして、この教育理念に基づく具体的な方向として次の3点が掲げられている。 〇社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創ると いう目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していく。 〇これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自分の 人生を切り拓いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化 し育んでいく。 〇教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活 用した社会教育との連携を図ったりすることにより、学校教育を学校内に閉じずに、その 目指すところを社会と共有・連携しながら実現させる。 [表1]学習指導要領改訂のこれまでとこれから(イメージ) 改訂年 改訂の理念と考えられる事項 具体的な改訂内容例 昭和 33 ~ 35 年 教育課程の基準としての性格の明確化 ○道徳の時間の新設、基礎学力の充実、科 学的技術教育の向上等 ○系統的な学習を重視 昭和 43 ~ 45 年 教育内容の一層の向上 -教育内容の現代化 ○時代の進展に対応した教育内容の導入 ○算数における集合の導入 昭和 52 ~ 53 年 ゆとりある充実した学校生活の実現 -学習負担の適正化 ○各教科等の目標・内容を中核的事項に絞 る 平成元年 社会の変化に自ら対応できる心豊かな 人間の育成 ○生活科の新設、道徳教育の充実 平成 10 ~ 11 年 基礎・基本を確実に身に付けさせ、自 ら考える力などの「生きる力」の育成 ○教育内容の厳選、道徳教育の充実 平成 15 年 一部改正 学習指導要領のねらいの一層の実現 ○学習指導要領に示していない内容を指導 できることを明確化、個に応じた指導の 例示に小学校の習熟度別指導や小・中学 校の補充・発展学習を追加 平成 20 ~ 21 年 「生きる力」の育成、基礎的・基本的な 知識・技能の習得、思考力・判断力・ 表現力等の育成のバランス ○授業時数の増、指導内容の充実、小学校 外国語活動の導入 平成 28 ~ 29 年 (※イメージ) 社会に開かれた教育課程、学びの地図、 主体的・対話的で深い学び、カリキュ ラム・マネジメント ○小学校の外国語教育の教科化、高校の新 科目「公共(仮称)」の新設、各教科等 で育む資質・能力を明確化し、目標や内 容を構造的に示す等 ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 補足資料」を参考に「学習指導要領のこれまでとこれから」をイメージとしてまとめた。
これらを到達目標的に示すことにより、各学校段階において子供たち一人一人の可 能性を伸ばすとともに、新しい時代に求められる資質・能力を確実に育成する教育活 動を充実させながら、社会に開かれた学校の在り方を探究する文化の形成を目指して いることを強調している。 ここには、2030 年を見通した未来社会において、グローバル化の進展やAIの飛 躍的な発展など、社会の加速度的な変化を受け止め、将来の予測が難しい社会の中で も、伝統や文化に立脚した広い視野を持ち、志を持ち続けながら、未来を創り出して いく子供を育てたい-そのために必要な資質・能力を子供たち一人一人に確実に育む 学校教育を実現したいという強い願い(方針)が価値付いている。 教員養成課程においては(意識的には全ての科目において)この方向性や方針に準 拠した授業を構成する必要がある。まず、全ての学校段階に共通した科目において、 また、重要な事項については何度も繰り返しながら、カリキュラム全体で理解を深め させていく。そして、次の段階として(あるいは同時並行的に)小学校の教員あるい は中学校・高等学校の理科の教員免許状取得を目指す学生を対象とした理科の指導法 においても、「学習指導要領(教育課程)の変遷」について、各科目とも1単位時間 程度を配当し、「これまでの理科とこれからの理科」について理解させていく。 ⑵ 学習指導要領の枠組みの見直しに関する改善* 2 審議のまとめでは、新しい学習指導要領の枠組みを大きく見直している。「社会に 開かれた教育課程」の教育理念に基づき、学校教育を通じて育む「生きる力」を具体 化した資質・能力を育んでいくこと、社会とのつながりや各学校の特色づくりの軸と なっていくこと、子供たちの豊かな学びを実現していくことなどを学習指導要領の役 割として、[表2]に示すような方向性と枠組みを想定している。これが、今回の改 訂における「学習指導要・総則で示す具体的な改善内容」として「総則」に示される ことになる。 [表2]新しい学習指導要領総則の構造及びカリキュラム・マネジメントのイメージ ⅰ) ● 「何ができるようになるか」(新しい時代に必要となる資質・能力の三つの柱) ……育成を目指す資質・能力 ⅱ) ● 「何を学ぶか」(各教科等で育む資質・能力の明確化、目標や内容の構造化) ……教科等を学ぶ意義と、教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教育課程の編成 ⅲ) ● 「どのように学ぶか」(主体的・対話的で深い学び:「アクティブ・ラーニング」の視点) ……各教科等の指導計画の作成と実施、学習・指導の改善・充実 ⅳ) ● 「子供一人一人の発達をどのように支援するか」(各学校段階における発達の支援) ……子供の発達を踏まえた指導、特別な配慮を必要とする子供への指導 ⅴ) ● 「何が身に付いたか(各学校段階における学校教育の基本) ……学習評価の充実、学習評価を通じた学習指導の改善 ⅵ) ● 「実施するために何が必要か」(学校の指導体制の充実、家庭・地域との連携・協働) ……学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策 ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「学習指導要領総則の構造」を枠組みとしてまとめた。
こうした方向性と改善内容を実現するためには、社会に開かれた教育課程に沿って、 各学校の特色づくりや学校経営の改善が促されなければならない。[表2]の項目を 重点項目として必要な事項を整理しながら各科目等に位置付けていくことが求められ る。まずは、教員養成課程として基礎・基本的な内容を理解させることが必要となる だろう。これについては、初年次に開講される教職科目等のいくつかに位置付けるこ とを検討するとともに、カリキュラム・ポリシーと照合しながら、段階的に「総則」 等の深い読解を重視していく方向が最適ではないかと考える。 各学校段階における理科においても、育成を目指す資質・能力の三つの柱を重視し、 理科の教育目標や理科の教育内容を整理するとともに、理科の特質・特徴・特性に応 じた学びの過程及び各学校における理科指導上の創意工夫を確認することが必要とな る。そのため、各学校段階における理科の指導法においても、「学習指導要領改訂の 方向性と枠組み」について1単位時間程度を配当し、「学習指導要領の読み方」につ いて理解させていく。 ⑶ カリキュラム・マネジメントの実現に関する改善* 3 審議のまとめによれば、子供たちが未来の創り手となるために求められる資質・能 力を育んでいくためには、学習指導要領等に基づき、「今、目の前に居る」子供たち の現状を正確に把握した具体的な目標の設定や指導の在り方について、学校や教員の 裁量に基づく多様な創意工夫が検討され、自由度の高い活動が実現されていくことが 前提となっている。そして、新しい時代に求められる資質・能力の育成や各学校の創 意工夫に基づいた指導の改善といった大きな方向性を共有しつつ、その実現に向けた 多様な工夫や改善の取り組みを活性化させようとすることを、「カリキュラム・マネ ジメント」の基本理念としている。 各学校には、学習指導要領等の方向性を十分理解した上で、学校に通う子供たちの 姿や学校が位置する地域の実状等を踏まえながら、学校教育目標を実現するために教 育課程を編成・実施・評価・改善していくことが求められる。このように考えれば、 教育課程を観点としたPDCAサイクルをカリキュラム・マネジメントとひとつと価 値付けることもできる。 「社会に開かれた教育課程」の実現を通じて子供たちに必要な資質・能力を育成す るという新しい学習指導要領等の理念を踏まえれば、[表2]のⅰ~ⅵの事項を各学 校が組み立て、家庭や地域と連携あるいは協働しながら実施していくことが求められ る。このような背景により、審議のまとめではカリキュラム・マネジメントに関す る重点項目として、以下に示す三つの側面を示している。 〇各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校教育目標を踏まえた教科等横断的な視点で、 その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。 〇教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等 に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確
立すること。 〇教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用し ながら効果的に組み合わせること。 ここでは、各学校が「持つ」と想定する時間、人員、予算、社会資源等を洗い出し、 必要なところに必要な資源を重点的に割り当て、さらにそのマネジメント・実践の評 価・改善という一連サイクルを日々推進していくことを求めている。これを実現する ためには、管理職や教務主任だけでなく全ての教職員がカリキュラム・マネジメント の必要性を理解し、日々の授業等についても、教育課程全体の中での位置付けを意識 しながら取り組む必要が生じる。 このような、カリキュラム・マネジメントに取り組むための知識や技能は、ある特 定の科目で身に付けることができるようなものではない。教員養成課程全体として、 4年間のカリキュラムを通して、その基礎・基本的な意味合いを理解させるとともに、 教職実践演習等で実感を伴った活動ができるように検討していく必要がある。教育学 部初等教育課程のディプロマ・ポリシーも再確認しなければならないだろう。学部生 を教員として育成する課程においては、相当に重い内容(課題)である。 各学校段階における理科においても、学習指導要領及び同解説等の趣旨や枠組みを 生かしながら、各学校が位置する地域の実状や子供たちの実態と理科の教育目標や理 科の教育内容を見比べたり関連付けたりしながら、効果的な年間指導計画・栽培計画・ 飼育計画等を立てることになる。その基本的な知識と技能を身に付けさせるため、各 学校段階別の理科の指導法においても、「教育課程全体に位置付く今日の1時間」を 強く意識させるとともに、各科目とも1単位時間程度を配当し、「理科におけるカリ キュラム・マネジメントの在り方」について理解させていく。 ⑷ 資質・能力の育成及び見方・考え方に関する改善* 4 審議のまとめによると、今回の改定では、[表2]のⅰ~ⅵの事項に沿って、学習 指導要領等の枠組みを再整理し、学校の創意工夫のもと「学びの地図」としての充実 した教育課程の編成と質の高い教育活動の展開を図ることを重視している。特に、育 成を目指す資質・能力については、知識に関するもの、スキルに関するもの、情意(人 間性など)に関するものに分類することを出発点に、学力の三要素との整合性を取り ながら[表3]に示す三つの項目を柱(案)として整理している。 [表3]育成を目指す「資質・能力」の三つの柱(イメージ) ● 学びに向かう力 人間性等 「確かな学力」 「健やかな身体」 「豊かな心」を 総合的にとらえて構造化 どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか ● 知識・技能 何を理解しているか・何ができるか ●思考力・判断力・表現力等 理解していること・できることをどう使うか ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「育成を目指す資質・能力の三つの柱」をイメージとしてまとめた。
また、資質・能力が、学習や生活の場面で道具として活用されているのを「見方・ 考え方」と位置付け、具体的な課題について考えたり探究したりする際に必要な手段 として捉えている。この見方・考え方を支えるのは、各教科等の学習において習得し た知識や思考力等になる。知識が豊かになれば見方も確かなものになり、思考力や人 間性が深まれば考え方も豊かになるという論理による。 子供たちの見方・考え方は、それぞれの学校段階における様々な学習活動等の過程 の中で、物事を捉える視点や考え方として鍛えられていく。どのような視点で物事を 捉え・どのように思考していくのかという見方・考え方は、各教科等の学習の中で活 用されるだけではなく、社会人として未来を拓いていく営みにおいて重要な働きをす ることになる。審議のまとめにおいて、各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすの が「見方・考え方」であり、教科等の教育と社会をつなぐものと位置付けられた背景 はここにあると推察する。 以上のような、「資質・能力の育成」及び「見方・考え方」については、各学校段 階別・各教科等別に教育目標に準じて構成されることになる。そこで、理科という教 科の特性上分けて考えなければならない「領域別の見方・考え方」については、第3 章で、学校段階別の「教育のイメージ」については第4章でまとめることとして、こ こでは各学校各教科等に共通する資質・能力の三つの柱について整理しておく。 まず、学びに向かう力・人間性等の柱は、どのように社会・世界と関わり、よりよ い人生を送るかであり、学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間 性等」を涵養することを目指している。この資質・能力は、他の資質・能力をどのよ うな方向で働かせていくかを決定付ける重要な柱であり、情意や態度等に関わるもの が含まれることになる。 主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制 する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力など、いわゆる「メタ認知」に関 するものが挙げられている。これは、一人一人が幸福な人生を自ら創り出していくた めには、情意面や態度面について、自己の感情や行動を統制する力や、よりよい生活 や人間関係を自主的に形成する態度等を育むことが必要との背景による。また、多様 性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向け た態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に 関するものなどを情意や態度の中に含むとも述べている。 次に、知識・理解の柱は、何を理解しているか、何ができるかであり、生きて働く 「知識・技能」の習得を目指している。実際には理科を含む各教科等において習得す る知識や技能になるが、個別の事実的な知識のみを指すものではなく、それらが相互 に関連付けられ、社会の中で生きて働く知識となるものとして想定されている。 暗記的・羅列的な知識ではなく、知識相互がつながり関連付けられながら習得され ていくことにより、各教科等の本質を深く理解するために不可欠となる主要な概念の 習得が求められている。各教科等の基礎的・基本的な知識を着実に習得させながら、 既存の知識と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、学習内容の深い理解
と、社会における様々な場面で活用できる概念が身に付くのである。 最後に、思考力・判断力・表現力等の柱は、理解していること・できることをどう 使うかであり、未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成を目 指している。将来の予測が困難な社会の中でも、未来を切り拓いていくために必要な 思考力・判断力・表現力等の問題解決力を身に付けていれば、2030 年には大人になっ ている子供たちの可能性が大きく広がるだろうという考え方である。 問題解決力の育成は、理科においては大きな改訂ではない。自然の事物現象の中か ら問題を見いだし、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画 を立て、結果を予測しながら見通しを持って実行し、振り返って次の問題発見・解決 につなげていく過程は理科そのものである。今後は、観察や実験の予想や結果等を基 に自分の考えを形成し、文章や発表によって表現したり、目的や場面・状況等に応じ てお互いの考えを伝え合ったり、班や全体で対話を深めながら集団としての考えを形 成したりしていく学習活動の充実が求められる。また、理科等で得た知識や技能を活 用して、各個人の想いや願いや考えを基に「学びたいこと」を構想し、知識の知識化 を実現していく学習活動など、教科等横断的な展開を創造していくことが重要となる。 さて、資質・能力の三つの柱をまとめてきたが、その順序性に筆者の意図が込めら れている。[表3]にも示した通り「学びに向かう力・人間性」を第一の柱として位 置付けた。「人間として社会で生きていくための判断規準を持ち、時代の変化に即応 しながら自分の未来を主体的に切り拓いていく力」こそ、予測できない社会をたくま しく生き抜く力になると想定するからである。この柱は各教科等を貫く性質のもので あるため、ひとつの科目で身に付けることができるようなものではない。また、講義 や演習等によって身に付けることが可能な事項なのか、その評価方法すら確立してい ない現況では判断することが困難である。だからこそ、教員養成課程全体で人間性や 価値観・豊かな感性を培う4年間のカリキュラムを再検討するとともに、正課外での 学びの過程を分析することによって、より有効的な教育課程の構築が必要になる。さ らに、新しい入試制度の確立とともに、教育学部初等教育課程のアドミッション・ポ リシーを見直す機会として価値付けていく。 他の二つの柱の具体的位置付けについては、各教科の指導法等を中心としながら教 職科目全体で螺旋的に繰り返しながら理解を深めさせていく。各学校段階における理 科の指導法においても、育成を目指す資質・能力については、理科の「目標」に位置 付いていることを理解させる。そして、「内容」に関しては、科学的な概念の理解な どの定着を図る観点から、「エネルギー」、「粒子」、「生命」、「地球」などの基本的な「見 方・考え方」を柱として、どのような「知識・技能」及び「思考力・判断力・表現力 等」を身に付けさせていくのか、学習過程の関連がより明確となるように小・中・高 等学校のつながりを意識した構成、配列になっていることを講義していくことになる。 このような検討を踏まえた場合、まずは、理科の特徴的な「見方・考え方」と、理 科で育成する「資質・能力」として、各科目とも1単位時間程度を配当し、それぞれ を各自で整理する活動等を通しながらその概要を実感的に捉えさせていく。
⑸ 主体的・対話的で深い学びの実現に関する改善* 5 審議のまとめでは、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの学びをいかに実現 するかを重視している。子供たちが、学習内容を人生や社会の在り方と結びつけて深 く理解し、これからの時代に求められる資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動 的に学び続けたりすることができるようにするためには、子供たちが「どのように学 ぶか」という「学びの質」が重要になるという論理である。 ここで述べられている学びの質は、子供たちが主体的に学ぶことの意味と自分の人 生や社会の在り方を結びつけたり、多様な人との対話で考えを広げたり、理科等で身 に付けた資質・能力を様々な課題の解決に生かすよう学びを深めたりすることによっ て高まるものである。このような主体的・対話的で深い学びが実現するように、日々 の授業を改善していくための視点を共有し、授業改善に向けた取組を活性化しようと するのが、これまで盛んに発信されていたアクティブ・ラーニングの視点である。 この授業改善の視点は、形式的に話し合いや伝え合いを取り入れた授業や、「これ がアクティブ ・ ラーニングの型である」というような特定の指導の型を目指した指導 技術の改善ではない。子供たちそれぞれの興味や関心を基に、一人一人の個性に応じ た多様で質の高い学びを引き出すことを意図するものであり、さらに、それを通して どのような資質・能力を育むかという観点から、学習の在り方そのものの問い直しを 目指すものである。 このように、「学びの質」や「学習の在り方」そのものの改善が求められているこ とを重視すれば、前述してきた項目同様に各教科の指導法等を核として教員養成課程 全体で取り組んでいく必要が生じる。理科の指導法においても、まずは、「主体的・ 対話的で深い学びの実現」について1単位時間程度を配当し、学校段階別に概要を理 解させていく。さらに、2~4単位時間程度を配当して、学習指導要領の読解から教 材研究・学習指導案の執筆・模擬授業・相互評価・講評という一連の「指導法研究」 を各学校段階に即して位置付け、理科授業の改善について「体得・納得・会得」でき るようにする。その際、共通的な授業改善の視点として次の 3 点を到達目標的に示す ことで、学修活動全体に見通しを持たせることを意識する。 ○自然事象に興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを 持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」を 実現させるための理科の授業ができるようになる。 ○カリキュラム・マネジメントを取り入れ、子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、 先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」 を実現させるための理科の授業ができるようになる。 ○理科で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ、問いを見いだして解 決したり自己の考えを形成したり、思いを基に構想したりすることに向かう「深い学び」 を実現させるための理科の授業ができるようになる。 この項目に関する授業改善については、次期学習指導要領の告示を待ち、必要に応 じて「教員養成課程における理科の指導法改善 (II)」で具体的に論ずることとする。
3.理科の指導法における領域別の改善事項* 6 * 7 ⑴ エネルギー領域について 小学校から高等学校までのエネルギー領域における特徴的な見方について、審議の まとめを参考にしながら[表4]に整理した。 エネルギー領域では、自然の事物・現象を主として量的・関係的な視点で捉えるこ とが特徴的な視点となっている。また、学校段階における内容の階層的な広がりを見 ると、小学校では「見える(可視)レベル」であるものが、中学校及び高等学校では 「見える(可視)~見えない(不可視)レベル」となり、高等学校では事象をより包 括的・高次的に捉えることが「違い」として明示されている。 これらに関連する知識及び教育技術を理科教育法あるいは理科指導法等の授業で養 うためには、まず、「量的 ・ 関係的な視点」について十分に理解させ納得させる必要 が生じる。現行の学習指導要領で考えれば、小学校で「手回し発電機などの実験を通 して,電気はつくりだしたり蓄えたりすることができること」を学び、中学校で「コ イルと磁石の相互運動で誘導電流が得られること」を見いださせ、高等学校で「交流 の発生,送電及び利用について」の基本的な仕組みを理解させる学習などを一例とし て紹介しながら、学校段階に該当する科目の教材研究や模擬授業を取り入れていく。 また、いくつかの単元を取り上げ、「量的に捉えるとはどういうことか」「関係的に 捉えるとはどういうことか」について討論させるとともに、エネルギー領域の内容を 「量的・関係的な視点」で系統的に深め続けていくことで、どのような資質 ・ 能力が 身に付くのか、学校段階別に整理させながら統合的なイメージを描かせていく。 ただし、小学校の教員免許状取得を希望する学生にとってのエネルギー領域は、そ の内容を理解する時間を十分に確保する必要がある。よって、それに該当する科目に ついては、苦手意識を払拭させ自信を持って理科の指導ができるように、電気や磁気 の単元などの教材研究と合わせながら、授業と課題を組み合わせることにより効率的 で有効的な学修指導を展開していく。具体的には各学校段階別に2~3単位時間程度 を配当し、エネルギー領域の知識等を十分理解させながら、模擬授業や評価を位置付 けた「指導法研究」と組み合わせて指導していく。 [表4]小学校から高等学校までのエネルギー領域における特徴的な見方 エネルギー 見方 自然の事物・現象を主として量的・関係的な視点で捉える 小学校 自然の事物・現象を「見える(可視)レベル」において、主として量的・関係的 な視点で捉える 中学校 自然の事物・現象を「見える(可視)~見えない(不可視レベル)」において、 主として量的・関係的な視点で捉える 高等学校 自然の事物・現象を「見える(可視)~見えない(不可視レベル)」において、 主として量的・関係的な視点で捉えるとともに、より包括的・高次的に捉える ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「エネルギー領域」部分を抽出して表にまとめた。
⑵ 粒子領域について 小学校から高等学校までの粒子領域における特徴的な見方について、審議のまとめ を参考にしながら[表5]に整理した。 粒子領域では、自然の事物・現象を主として質的・実体的な視点で捉えることが特 徴的な視点となっている。また、学校段階における内容の階層的な広がりを見ると、 小学校では「物レベル」であるものが、中学校では「物~物質レベル」となり、高等 学校では、「物質レベル」(マクロとミクロの視点)となり、中学校では実体はあるが 見えない(不可視)レベルの原子,分子レベルで事象を捉えること、そして、高等学 校では,事象をより包括的・高次的に捉えることが「違い」として明示されている。 これらに関連する知識及び教育技術を理科教育法あるいは理科指導法等の授業で養 うためには、まず、「質的・実体的な視点」について十分に理解させ納得させる必要 が生じる。現行の学習指導要領で考えれば、小学校で「物が水に溶けても,水と物と を合わせた重さは変わらないこと」を学び、中学校で「水溶液においては溶質が均一 に分散していることを粒子のモデルと関連付けて」理解させ、高等学校で「水溶液を 調製しモル濃度と質量パーセント濃度との関係」を求める学習などを一例として紹介 しながら、学校段階に該当する科目の教材研究や模擬授業を取り入れていく。 また、いくつかの単元を取り上げ、「質的に捉えるとはどういうことか」「実体的に 捉えるとはどういうことか」について討論させるとともに、粒子領域の内容を「質的・ 実体的な視点」で系統的に深め続けていくことで、どのような資質 ・ 能力が身に付く のか、学校段階別に整理させながら統合的なイメージを描かせていく。 ただし、粒子領域の知識的な内容については、理科専攻の学生であっても実感を伴っ た理解に到達することが困難であり、高次的な内容に進むほど暗記的な事柄として処 理されている。このような状況であるからこそ、粒子(原子や分子、原子の構造や電 子配置など)の見方で理科を指導する方法等について十分に議論させながら、的確な 指導ができるような教員力を身に付けるべく学修指導を展開していく。具体的には各 学校段階別に2~3単位時間程度を配当し、粒子領域の知識と実験技能を定着させな がら、模擬授業や評価を位置付けた「指導法研究」と組み合わせて指導していく。 [表5]小学校から高等学校までの粒子領域における特徴的な見方 粒 子 見方 自然の事物・現象を主として質的・実体的な視点で捉える 小学校 自然の事物・現象を「物レベル」において、主として質的・実体的な視点で捉え る 中学校 自然の事物・現象を「物~物質レベル」において、主として質的・実体的な視点 で捉える 高等学校 自然の事物・現象を「物質レベル」において、主として質的・実体的な視点で捉 えるとともに、より包括的・高次的に捉える ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「粒子領域」部分を抽出して表にまとめた。
⑶ 生命領域について 小学校から高等学校までの生命領域における特徴的な見方について、審議のまとめ を参考にしながら[表6]に整理した。 生命領域では、生命に関する自然の事物・現象を主として多様性と共通性の視点で 捉えることが特徴的な視点となっている。また、学校段階における内容の階層的な広 がりを見ると、小学校では「個体~生態系レベル」であるものが、中学校では「細胞 ~個体~生態系レベル」となり、高等学校では、「分子~細胞~個体~生態系レベル」 と明確な階層性があり、小学校、中学校、高等学校と上がるにつれて「分子~「細胞 ~「個体~生態系レベル」」」の通り扱う階層が広がっていく。 これらに関連する知識及び教育技術を理科教育法あるいは理科指導法等の授業で養 うためには、まず、「多様性と共通性の視点」について十分に理解させ納得させる必 要が生じる。現行の学習指導要領で考えれば、小学校で「昆虫や植物の成長のきまり や体のつくりについての見方や考え方」を養い、中学校で「地球上の多様な生物には 共通性があり,それらに基づいて分類できること」を学び、高等学校で「細胞の働き 及びDNAの構造と機能の概要を理解させ,生物についての共通性と多様性の視点」 を身に付けていく学習などを一例として紹介しながら、学校段階に該当する科目の教 材研究や模擬授業を取り入れていく。 また、いくつかの単元を取り上げ、「多様性と共通性の視点で捉えるとはどういう ことか」について討論させるとともに、生命領域の内容を「多様性と共通性の視点」 で系統的に深め続けていくことで、どのような資質 ・ 能力が身に付くのか、学校段階 別に整理させながら統合的なイメージを描かせていく。 生命領域に関しては、4領域の中では比較的得意としている学生が少なくない。ま た、高等学校での履修状況からもある程度の知識を身に付けていると考えられる。よっ て、優先的・意識的に取り組みやすい学修環境を構成しながら、自信の持てる領域と して教員力を身に付けるべく学修指導を展開していく。具体的には各学校段階別に2 ~3単位時間程度を配当し、生命領域の見方や知識等を身に付けさせるとともに、模 擬授業や評価を位置付けた「指導法研究」と組み合わせて指導していく。 [表6]小学校から高等学校までの生命領域における特徴的な見方 生 命 見方 生命に関する自然の事物・現象を主として多様性と共通性の視点で捉える 小学校 生命に関する自然の事物・現象を「個体~生態系レベル」において、主として多 様性と共通性の視点で捉える 中学校 生命に関する自然の事物・現象を「細胞~個体~生態系レベル」において、主と して多様性と共通性の視点で捉える 高等学校 生命に関する自然の事物・現象を「分子~細胞~個体~生態系レベル」において、 主として多様性と共通性の視点で捉える ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「生命領域」部分を抽出して表にまとめた。
⑷ 地球領域について 小学校から高等学校までの地球領域における特徴的な見方について、審議のまとめ を参考にしながら[表7]に整理した。 地球領域では、地球や宇宙に関する自然の事物・現象を主として時間的・空間的な 視点で捉えることが特徴的な視点となっている。また、学校段階における内容の階層 的な広がりを見ると、小学校では「身のまわり(見える)レベル」であるものが、中 学校では「身のまわり(見える)~地球(地球周辺)レベル」となり、高等学校では、 「身のまわり(見える)~地球(地球周辺)~宇宙レベル」と明確な階層性があり、 小学校、中学校、高等学校と上がるにつれて「身のまわり~「地球~「宇宙レベル」」」 の通り扱う階層が広がっていく。 これらに関連する知識及び教育技術を理科教育法あるいは理科指導法等の授業で養 うためには、まず、「時間的・空間的な視点」について十分に理解させ納得させる必 要が生じる。現行の学習指導要領で考えれば、小学校で「土地は,火山の噴火や地震 によって変化すること」を学び、中学校で「火山の形,活動の様子及びその噴出物を 調べ,それらを地下のマグマの性質と関連付けて」とらえ、高等学校で「火山分布を プレートの運動と関連付けて理解し,プレート境界における火山活動の特徴について」 学習していく系統性を一例として紹介しながら、学校段階に該当する科目の教材研究 や模擬授業を取り入れていく。 また、いくつかの単元を取り上げ、「時間的・空間的な視点で捉えるとはどういう ことか」について討論させるとともに、地球領域の内容を「時間的・空間的な視点」 で系統的に深め続けていくことで、どのような資質 ・ 能力が身に付くのか、学校段階 別に整理させながら統合的なイメージを描かせていく。 しかしながら、地球領域に関しては中学校までの学習で留まっている学生がほとん どであるため、対話的に学びを深める活動は困難となる。よって、知識的側面を補う 資料等を活用しながら、不安を感じることなく指導ができるような理科教育力を身に 付けさせていく。具体的には各学校段階別に2~3単位時間程度を配当し、模擬授業 や評価を位置付けた「指導法研究」と組み合わせて指導していく。 [表7]小学校から高等学校までの地球領域における特徴的な見方 地 球 見方 地球や宇宙に関する事物・現象を主として時間的・空間的な視点で捉える 小学校 地球や宇宙に関する自然の事物・現象を「身のまわり(見える)レベルにおいて、 主として時間的・空間的な視点で捉える 中学校 地球や宇宙に関する自然の事物・現象を「身のまわり(見える)~地球(地球周 辺)レベルにおいて、主として時間的・空間的な視点で捉える 高等学校 地球や宇宙に関する自然の事物・現象を「身のまわり(見える)~地球(地球周 辺)~宇宙レベル」において、主として時間的・空間的な視点で捉える ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「地球領域」部分を抽出して表にまとめた。
4.理科の指導法における学校段階別の改善事項*8*9 ⑴ 小学校理科について 審議のまとめを参考に、小学校理科の「見方・考え方」及び理科の「教育目標」に 準ずる内容、そして、「育成を目指す資質・能力」について、今後の検討材料的なイメー ジとして[表8]に整理した。 [表8]小学校理科教育のイメージ 小学校理科教育のイメージ 見方・考え方 身近な自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係など の科学的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの問題解決の方 法を用いて考えること 教育目標 理科の見方・考え方を働かせて、自然にかかわり、問題を見いだし、見通し をもって観察・実験などを行い、より妥当な考えを導き出す過程を通して、 自然の事物・現象についての問題を科学的に解決するために必要な資質・能 力を次のとおり育成することを目指す。 育成を目指す資質・能力 知識・技能 自然の事物・現象に対する基本的な概念や性質・規則性の理解を図り、観察・ 実験等の基本的な技能を養う。 思考力・判断力・ 表現力等 見通しをもって観察・実験などを行い、問題を解決する力を養う。 学びに向かう 力・人間性等 自然を大切にし、学んだことを日常生活などに生かそうとするとともに、根 拠に基づき判断する態度を養う。 ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「小学校理科」に関する部分を理科教育のイメージとして表にまとめた。 小学校段階では、従来通り「身近な自然の事物 ・ 現象」を科学的な視点で捉えるこ とが基本となる。その一方で、これまでと大きく異なり、「量的 ・ 関係的」「質的 ・ 実 体的」「多様性と共通性」「時間的 ・ 空間的」という「見方」で事象を捉えることが重 視される。しかしながら、教員を目指す学生自身が「見方」を学んできたという認識 がないため、授業をイメージするのが困難であることが推察される。また、学習の前 提となる「見方」そのものを育成する指導法等については「審議のまとめ」では言及 されていない。 このような状況を踏まえて、小学校教員の普通免許状取得を目指す学生を対象とし た理科の指導法に関する科目の改善を検討すれば、 各学年各単元の内容において、どのような「見方」を働かせることにより、どのような「知 識・技能」及び「思考力・判断力・表現力等」を身に付けることを目指すのかを理解させる。 (「学びに向かう力・人間性等」については、単元毎に指導法が異なるものではないことから、 各学年の「目標」に即して共通的に扱う。) ことを重点項目として、事象を分節化しないことに十分留意しながら、領域毎に2単 位時間程度を配当し、模擬授業とその評価を位置付けた「指導法研究(教材研究・指 導計画立案・評価観点作成・模擬授業・評価)」を取り入れ、小学校教員としての理 科教育力を身に付けさせていく。
⑵ 中学校理科について 審議のまとめを参考に、中学校理科の「見方・考え方」及び理科の「教育目標」に 準ずる内容、そして、「育成を目指す資質・能力」について、今後の検討材料的なイメー ジとして[表9]に整理した。 [表9]中学校理科教育のイメージ 中学校理科教育のイメージ 見方・考え方 自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学 的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの科学的に探究する方 法を用いて考えること 教育目標 理科の見方・考え方を働かせて、問題を見いだし、見通しをもって課題や仮 説を設定し、観察・実験などを行い、根拠に基づく結論を出す過程を通して、 自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり 育成することを目指す。 育成を目指す資質・能力 知識・技能 自然の事物・現象に対する概念や原理・法則の基本的な理解と科学的探究に ついての基本的な理解や観察・実験等の基本的な技能を養う。 思考力・判断力・ 表現力等 見通しをもって観察・実験などを行い、科学的に探究したり、科学的な根拠 を基に表現したりする力を養う。 学びに向かう力・ 人間性等 自然を敬い、自然の事物・現象に進んでかかわり、科学することの面白さや 有用性に気付くとともに、科学的根拠に基づき判断する態度を養う。 ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「中学校理科」に関する部分を理科教育のイメージとして表にまとめた。 中学校段階では、小学校段階で身に付けた「身近な自然の事物 ・ 現象」に対する科 学的な視点(「量的 ・ 関係的」「質的 ・ 実体的」「多様性と共通性」「時間的 ・ 空間的」) による「見方という能力」を更に高め、根拠に基づく結論を導き出す過程を通して, 自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を育成することが重視 される。よって、中学校の理科教員を目指す学生には、これまで以上に系統的な理解 を深めさせる必要が生じる。さらに、小学校段階から価値付けられている「学んだこ とを日常生活に活かそう」とする学びに向かう力を、「自然の事象に進んでかかわる 主体的な学習態度」として高めていく。 このような状況を踏まえて、中学校の理科の教員免許状取得を目指す学生を対象と した理科の指導法に関する科目の改善を検討すれば、 各学年各分野各単元の内容において、どの「見方」を能力として高めていくのかを意識さ せながら、自然事象の把握、課題の設定、予想・仮説の設定、検証計画の立案、観察・実験 の実施、結果の処理、考察・推論、表現等の学習活動を充実させる指導法を理解させるとと もに必要な授業技術を習得させる。 ことを重点項目として、現行通り2分野になることを想定すれば、分野毎2~3単位 時間程度を配当し、模擬授業とその評価を位置付けた「指導法研究(教材研究・指導 計画立案・評価観点作成・模擬授業・評価)」を取り入れ、中学校の理科教員として の教育力を身に付けさせていく。
⑶ 高等学校理科(基礎)について 審議のまとめを参考に、高等学校理科(基礎)の「見方・考え方」及び理科の「教 育目標」に準ずる内容、そして、「育成を目指す資質・能力」について、今後の検討 材料的なイメージとして[表 10]に整理した。 [表 10]高等学校理科教育のイメージ 高等学校理科(基礎)教育のイメージ 見方・考え方 自然の事物・現象を、質的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学 的な視点で捉え、比較したり、関係付けたりするなどの科学的に探究する方 法を用いて考えること 教育目標 理科の見方・考え方を働かせて、見通しをもって課題や仮説を設定し、観察・ 実験などを行い、根拠に基づく結論を導き出す過程を通して、事象を科学的 に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 育成を目指す資質・能力 知識・技能 自然の事物・現象に対する概念や原理・法則の理解と科学的探究についての 理解や、探究のために必要な観察・実験等の技能を養う。 思考力・判断力・ 表現力等 見通しをもって観察・実験などを行い、科学的に探究したり、科学的な根拠 を基に表現したりする力を養う。 学びに向かう 力・人間性等 自然に対する畏敬の念を持ち、科学の必要性や有用性を認識するとともに、 科学的根拠に基づき、多面的・総合的に判断する態度を養う。 ※「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」を参考に「高等学校理科(基礎)」に関する部分を理科教育のイメージとして表にまとめた。 高等学校理科(基礎)段階では、小学校から中学校段階で身に付けた「自然の事物・ 現象」に対する科学的な視点(「量的 ・ 関係的」「質的 ・ 実体的」「多様性と共通性」「時 間的 ・ 空間的」)による「見方という能力」を更に高め、科学的探究についての理解や, 探究のために必要な観察・実験等の技能、科学的な根拠を基に表現したりする力、科 学の必要性や有用性を認識するとともに,科学的根拠に基づき,多面的・総合的に判 断する態度を養い、領域別の基礎としての完成を目指すことが重視される。よって、 高等学校の理科教員を目指す学生には、理科の各領域に関する内容はもちろんのこと、 これまで以上に多面的・総合的な知識・理解を深めさせる必要が生じる。 このような状況を踏まえて、高等学校の理科の教員免許状取得を目指す学生を対象 とした理科の指導法に関する科目の改善を検討すれば、 「観察・実験」や「探究活動」を前提とした授業を充実させようとする揺るぎない意志を 育てる。次に、観察・実験が扱えない場合も、論理的に検討を行うなど探究の過程を重視す る教育理念を培う。そして、理科で学んだ内容を日常生活や他教科(数学、情報、保健体育、 地理など)と関連させるための知識習得方法を養う。 ことを重点項目として、領域毎に2単位時間程度を配当し、知識や実験技能の確認と 並行させながら、模擬授業と評価を位置付けた「指導法研究」を取り入れ、高等学校 の理科教員としての教育力と自信を身に付けさせていく。(本稿では、新設が想定さ れる探究的科目については検討に含めていない)
5.審議のまとめに準拠した理科の指導法のシラバス案(小学校理科指導法) これまでの検討結果を踏まえ、本稿のまとめとして次期学習指導要領に対応すべく シラバスを作成した。ここでは、平成 32 年度に全面実施が想定されている小学校教 員養成における「理科の指導法」を一例として[表 11]に示しておく。 [表 11]理科の指導法シラバスモデル(小学校理科指導法の例) 授業の目標 小学校理科教育の理念及び指導法を学ぶとともに理科の見方・考え方を活用する活動を通して、 小学校で理科を指導するために必要な資質・能力を身に付けながら教員力を高め続けていく。 到達目標 ⑴ 社会に開かれた教育課程について小学校理科の観点から説明することができる。 ⑵ 学びの地図としての小学校学習指導要領-理科を読み取ることができる。 ⑶ 理科の観点としたカリキュラム・マネジメントのイメージを描くことができる。 ⑷ 理科の特徴的な見方・考え方を活用した授業展開を構築することができる。 ⑸ 小学校理科で身に付ける資質・能力の三つの柱を理解することができる。 ⑹ 主体的・対話的で深い学びを小学校理科に位置付けることができる。 ⑺ 小学校理科における資質・能力の観点別評価法について考えることができる。 ⑻ 小学校理科を実践するために必要な科学的知識・実験技能等を身に付けることができる。 ⑼ 小学校理科の学習指導案を作成して模擬授業及びその評価を行うことができる。 回 授業の概要及び授業時間外学修(次回までの課題) ※印の付く回は振り返り小テストを実施 1 これまでの理科とこれからの理科(学習指導要領(教育課程)の変遷)を理解する。 ※ 課題:「社会に開かれた教育課程と理科の指導」についてまとめる。 2 学習指導要領の読み方を学ぶとともに、今回の改定の方向性と枠組みを理解する。 ※ 課題:「理科における学びの地図=学習指導要領の枠組み」についてまとめる。 3 教科横断的な視点から捉えた理科の指導計画(年間から本時まで)をイメージする。 ※ 課題:「理科におけるカリキュラム・マネジメント」についてまとめる。 4 理科の特徴的な「見方・考え方」と、理科で育成する「資質・能力」について整理する。 ※ 課題:「科学的な見方や考え方と理科の見方・考え方」についてまとめる。 5 理科における「主体的・対話的で深い学び」について理想的な授業像を描く。 ※ 課題:「小学校理科におけるアクティブ・ラーニング」についてまとめる。 6 理科における「目標に準拠した評価」の観点やその評価方法について理解する。 ※ 課題:「資質・能力の三つの柱を踏まえた小学校理科の評価の在り方」についてまとめる。 7 小学校理科3-6年「エネルギー領域」の科学的知識と実験技能等を再確認する。 ※ 課題:小学校から中学校までの理科「エネルギー領域」の系統的な関連図を作成する。 8 小学校理科3- 6 年「粒子領域」の科学的知識と実験技能等を再確認する。 ※ 課題:小学校から中学校までの理科「粒子領域」の系統的な関連図を作成する。 9 小学校理科3-6年「生命領域」の科学的知識と実験技能等を再確認する。 ※ 課題:小学校から中学校までの理科「生命領域」の系統的な関連図を作成する。 10 小学校理科3-6年「地球領域」の科学的知識と実験技能等を再確認する。 ※ 課題:小学校から中学校までの理科「地球領域」の系統的な関連図を作成する。 11 小学校理科授業の作り方①=学習指導要領(単元の内容等)の読み取り方について理解する。 課題:エネルギー領域「磁石の働き(例)」の教材を研究して授業構想をまとめる。
12 小学校理科授業の作り方②=学習指導案(細案)の書き方について理解する。 課題:エネルギー領域「磁石の働き(例)」の学習指導案を作成する。(次回:模擬授業) 13 模擬授業と相互評価・講評①=各自 15 分間の模擬授業を行い理科授業のイメージを体得する。 課題:「模擬授業を通して学んだこと」についてまとめる。 14 教材研究から発問・板書計画・評価の観点等を短時間で作成するノート活用型学習指導案を学ぶ。 課題:分担した領域・学年・単元の学習指導案を作成する。(次回:模擬授業) 15 模擬授業と相互評価・講評②=各自 15 分間の模擬授業を行い理科授業の在り方を理解する。 課題:「領域別の模擬授業を通して学んだこと」についてまとめる。 ※「講義全体の概要」「教科書の該当ページ」「成績評価の方法及び基準」「定期テスト」等については省略した。 6.おわりに 平成 28 年度の入学生は、順調に進めば平成 32 年度から教壇に立つ。小学校の教員 になる者については、次期学習指導要領全面実施の年に新規採用教員としての第一歩 を踏み出すことになる。また、学校段階毎に平成 30 ~ 31 年度から先行実施(移行期 間)も位置付けられるだろう。教員養成課程においては、そのようなスケジュールを 意識した学修の実現が使命であり責務である。ここでは、次年度からの理科の指導法 を視点として、教員養成課程全体をイメージした改善の在り方を論じてきた。 本稿をまとめている平成 28 年 11 月現在、「次期学習指導要領等に向けたこれまで の審議のまとめ」に続く情報は入っていない。今後、年末には答申、年度末には改訂 へと進むだろう。それを受けて各学校段階別各科目等のシラバス及び資料等の準備を 開始することになる。教育目標及び内容等を組み入れた具体的な検討は、次期学習指 導要領解説理科編等を待つことになるが、それについては随時授業に取り入れて対応 していくことになる。これら一連の検討及びその結果や課題については「教員養成課 程における理科の指導法改善 (II)」で必要に応じて報告する。 基調資料 *1 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 (2016): 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)、pp.16-17 *2 同上、pp.17-20 *3 同上、pp.20-23 *4 同上、pp.25-28 *5 同上、pp.43-49 *6 同上、pp.172-176 *7 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会理科ワーキンググループ (2016): 理科ワーキンググループにおける審議の取りまとめ(報告)、pp.1-5 *8 同上、pp.3-8 *9 前掲報告、審議のまとめについて、pp.166-176
参考資料等 前掲報告、次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 別紙 前掲報告、次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ 補足資料 文部科学省 (2008):小学校学習指導要領解説 理科編 文部科学省 (2008):中学校学習指導要領解説 理科編 文部科学省 (2009):高等学校学習指導要領解説 理科編