18 シンポジウム 論 考 投稿原稿 会務報告 大会報告 要旨 韓国の現行の教育課程は 2015 年に改訂された内容であり,日本の現行の教育課程は 2011 年に小学校から 改訂された学習指導要領に基づいている。高等学校までで学習する経済分野は市民経済教育として重要な役 割を果たすが,改訂ごとに学習内容やその授業方法が見直される必要がある。今後の経済教育では発問や能 動的学習の手法がますます重視されるようになり,日本・韓国両国の経済教育学会が果たす役割も大きくな ると思われる。 キーワード:経済教育,統合社会,社会科,公民,学習指導要領
Ⅰ.はじめに
経済教育学会第 34 回全国大会は,「新世代に求めら れる経済教育とは,どのようなものであるべきか─日 本の新学習指導要領と韓国の新教育課程における経済 教育の新たな展開を踏まえて─」を全体テーマとして 開催された。その基調講演・シンポジウムにおいて, 筆者は日本の経済教育の視点からパネリストを務めた が,本稿では当日のシンポジウムの内容も勘案しなが ら今後の学会の役割を含めた展望について述べたい。Ⅱ.日本・韓国両国の現行の教育課程
現行の日本の教育課程は,2011 年に小学校から改 訂が始まった学習指導要領に則っている。2012 年に は中学校で,2013 年からは学年進行で高等学校の改 訂が行われた。その直前の課程に比べ,総じて授業時 間数が増加している。経済教育に関しては,中学校で は社会科公民的分野で学習し,また高等学校では公民 科目の「現代社会」か「政治・経済」いずれかの選択 必修科目で学習される。小学校の社会科では経済分野 と明示されることはないが,税金や自治体の予算につ いて学習する。 金氏の基調講演からは,韓国の経済教育課程の変遷 の特徴と現代的課題について解説された。韓国の現行 の教育課程は,2015 年に改訂されたものである。中 学校の社会では,経済学の基礎・ミクロ経済学・マク ロ経済学・国際経済の 4 分野を学習することになった が,内容の多さが懸念されている。また,高等学校で は,「統合社会」で経済学を学習するが,経済知識の 充実だけではなく,社会変化に柔軟に対応した思考力 や現実に起こる問題への解決力の養成が重視されてい る。 この教育課程の中で,第 4 次産業革命時代における 経済の意味・重要性を理解し,また現実の経済問題に ついて批判的側面も含めて判断し,実際の生活で経済 行動を実践できる市民の養成が必要となっている。そ のためには,経済学的な考え方や経済制度の理解以外 にも,参加と体験を重視した経済教育が実践されなけ ればならない。Ⅲ.発問と双方向的授業の重要性
岩田氏の基調講演からは,経済教育に関する発問の 重要性について解説された。学生が考えたくなったり, 調べたくなったりする発問の教育効果が主張されてい る。また,本学会において,大学教員は「何を教える学習指導要領改訂と
今後の経済教育
The Journal of Economic Education No.38, September, 2019Revision of the course of study and the future of economic education
KANEKO, Kouichi
経済教育38号 19 か」という教育内容への関心が強く,小中高の教員は 「どのように教えるか」という教育方法への関心が強 いことも指摘されている。 たとえば,GDP に関する発問の事例について解説 された。大まかな「GDP とは何か」という発問がな されれば,学生の誤解も理解しながら,正確な定義を 教えることが可能である。典型的な誤りは GDP を売 上高とみなすことであるが,この誤りから,財・サー ビスの生産には費用がかかっていることを想起させ, GDP は付加価値の集計であることを自然と考えさせ る過程が説明されていた。これにより,その GDP が 企業の利潤や労働者の賃金になっていくことも想像さ せることができる。教員が単方向的に定義を説明する だけの教授法では学生が考えるプロセスがなくなるが, 誤りも含め生徒・学生が自由に発言し,教員がその状 況も踏まえ説明できる点が発問の利点の一つであり, 生徒の確かな知識へとつながっていく。 金氏と岩田氏の基調講演から,経済教育における発 問や双方向的授業を通し,何らかの問題に対して代案 を提起できる柔軟性を養成することが重要であると感 じられた。現代の日本では課題探求型の学習が重視さ れるようになっているが,常に変化する社会情勢を対 象とする経済教育は様々なテーマを提供しうる。以下 では,筆者の講義での事例も踏まえ,GDP を用いた 日本の学校段階での双方向授業の例を検討したい。 中学校の社会科公民では,現行課程の教科書におい て GDP については必ず言及されている。一部の教科 書では,それが付加価値の集計であることを数値例で 示して解説される。この定義については,掲載してい ない教科書を用いている場合でも,教えるべきである と思われる。ここでは,単純に売上高と付加価値のど ちらが GDP になるかを質問し,生徒に考えさせると よい。その後,売上高で集計すると二重計算の問題が 生じることに気付かせることで,より深い理解につな がる。 高校の公民科目では,三面等価の概念が図解される ことが多い。その中で,生産面,支出面,分配面の内 訳について,生徒は暗記しようと努めるおそれがある。 それを回避するには,一方的に定義を説明するのでは なく,モノやカネの循環を生徒に説明させるようにす るとよい。定義を覚えることなく,経済の流れに即し た内訳について自然に考える習慣がつく。 なお,筆者の大学の講義の事例では,内閣府の GDP のデータを示して考察させている。「統計上の不 突合」が三面のうち二面でのみ掲出されるのはなぜか と発問し,集計方法について検討させるように努めて いる。