日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-59 238
-大学生用ひきこもり親和性尺度の作成
○下野 有紀1)、長谷川 晃2)、土原 浩平3)、国里 愛彦4) 1 )東海学院大学大学院人間関係学研究科、 2 )東海学院大学人間関係学部、 3 )専修大学大学院文学研究科、 4 )専修大 学人間科学部 【目的】 近年,ひきこもり親和群というひきこもりの予備軍 とも言える群の存在が指摘されている。ひきこもり親 和群とは,「実際にはひきこもっていないにもかかわ らず,ひきこもる人の気持ちがわかるとか,自分でも ひきこもりたいと思う人々」であり,ひきこもり親和 性は,この傾向を表す用語である(内閣府政策統括官, 2010)。先行研究では,ひきこもり親和性の規定因と して,抑うつ・罪悪感や強迫症状(渡部他, 2010), 社交不安の感情的側面(新井他, 2015),およびスト レスコーピングと援助要請行動,及び学業での失敗経 験(下野・長谷川, 2018)が挙げられている。以上の 先行研究ではひきこもり親和性尺度(東京都青少年・ 治安対策本部, 2008)が用いられている。本尺度は, ひきこもりの専門家である心理臨床家や精神科医から の指摘を踏まえて作成され,ひきこもることへの願望 を表す項目とひきこもる人への共感を表す項目から構 成される。しかし,本尺度の項目は 4 項目と少なく, また,複数の因子から構成される可能性について検討 が行われていない。次に,先行研究ではひきこもり親 和性尺度の妥当性の確認が行われていない。更に,ひ きこもり親和性が不適応的な状態であるかの検討が不 十分である。最後に,ひきこもり親和性が高い者に認 められる友人関係の特徴については検討が不十分であ る。そこで本研究では,まず既存のひきこもり親和性 尺度の限界点を改善した新たな尺度を作成する。な お,ひきこもり親和性に関する研究では大学生が対象 とされることが多いため,大学生のひきこもり親和性 を測定することを念頭に置き,項目の追加を行う。次 に,授業の欠席回数や過去の不登校経験との関連を検 討し,その妥当性の検討を行う。続いて,ひきこもり 親和性と不適応の関連について,不適応の指標として 抑うつ,Quality of Life,および友人関係満足感を 取り上げ,検討を行う。更に,ひきこもり親和性と関 連する友人関係の特徴について探索を行う。 【方法】 2 大学の学生267名(男性108名,女性155名,不明 4 名;平均年齢20.20歳,SD = 2.80)に以下の質問紙 に回答を求めた。1.大学生用ひきこもり親和性尺度の 項目原案:ひきこもり親和性の定義に含まれる「ひき こもりへの願望」と「ひきこもる人への共感」に合致 すると思われる項目を,大学院生と大学教員の 2 名が 作成した。作成した質問項目について各項目の意味内 容と,各カテゴリーに該当する項目として妥当である かどうかを,心理学を専門とする大学教員,臨床心理 士と心理士,及び臨床心理学を専攻する大学院生計13 名に確認を依頼した。13名から受けた指摘を踏まえ, 項目の修正を行い,最終的に16項目が作成された。 2.大学の授業の欠席回数を尋ねる項目群:後期に受講 している全授業の平均欠席回数から就職活動などの公 認欠席として認められる理由での欠席(公欠抜き)と, 公認欠席には含まれないが風邪などの軽度の疾病によ る欠席回数を引いた値(公欠・病欠抜き)を授業の欠 席回数として扱った。3.過去の不登校経験を尋ねる質 問項目:小学校から高校までの在学期間に不登校を経 験したことがあるかについて 2 件法で回答を求めた。 4.Beck Depression Inventory-Second Edition日本語 版(小嶋・古川, 2003):抑うつの程度を測定する尺 度である。5.Quality of Life26(QOL26;田崎・中根, 2007):身体的領域,心理的領域,社会的関係,環境 領域における生活の質と,全体的なQOLを評価する尺 度である。6.友人関係満足感尺度(加藤, 2001):友 人関係についての主観的満足感を測定する尺度であ る。7.友人関係尺度(岡田, 2007):普段の同性の友 人との付き合い方について尋ねる尺度であり,自己閉 鎖,傷つけられることの回避,傷つけることの回避, 快活的関係という 4 因子から構成される。本研究で は,調査期間を統制するため,大学の後期授業の最終 週である2018年 1 月に調査を実施した。なお,本研究 は東海学院大学の倫理審査委員会の承認を得てとり行 われた。 【結果】 大学生用ひきこもり親和性尺度の項目原案16項目に ついて最尤法プロマックス回転による因子分析を 行った結果, 2 因子が抽出された。第 1 因子は当初ひ きこもる人への共感の項目群として想定されていた 2 項目も含まれていたが,残りの 8 項目がひきこもるこ とへの願望を反映する項目から構成されたため,「ひ きこもることへの願望」と命名した。第 2 因子は当初 ひきこもる人への共感の項目群として想定された項目 から構成されていたため,「ひきこもる人への共感」 と命名した。因子間相関は.48であった。 次に,作成された尺度と他の尺度の相関を検討した (Table 1)。ひきこもることへの願望と尺度の合計得日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-59 239 -点は,欠席回数(公欠抜き)との間に正の有意な相関 が認められ,ひきこもることへの願望は欠席回数(公 欠・病欠抜き)との間に正の有意な相関が認められ た。次に,ひきこもることへの願望と尺度の合計得点 は抑うつと友人関係尺度の自己閉鎖,傷つけられるこ との回避と正の有意な相関が認められ,また,QOL26 の環境領域以外の側面,及び友人関係満足感と負の有 意な相関が認められた。更に,不登校経験群と不登校 未経験群の各尺度の得点を比較した結果,不登校経験 群の方がひきこもり親和性すべての下位尺度得点や合 計得点が高いことが示された(Table 2)。 【考察】 大学生用ひきこもり親和性尺度の下位尺度であるひ きこもりへの願望と合計得点は,公欠を抜いた欠席回 数との間に正の有意な関連が認められた。また,不登 校経験群と不登校未経験群とを比較した結果,不登校 経験群の方が,大学生用ひきこもり親和性尺度の下位 尺度得点や合計得点が有意に高かった。ひきこもり親 和性が高い者はひきこもりの予備軍的存在であるとさ れ(東京都青少年・治安対策本部, 2008),長期的な ひきこもり状態は示さないものの,大学の授業の欠席 や過去に不登校といった形で,軽微なひきこもり状態 を示すと考えられる。これらの結果は,本下位尺度の 構成概念妥当性を示す根拠であると考えられる。 不適応との関連については,ひきこもることへの願 望と尺度の合計得点は,抑うつと正の相関が認めら れ,QOL26の環境領域以外の側面や友人関係満足感と 負の相関が認められた。以上の結果から,ひきこもり 親和性が高い者,特にひきこもりたいという願望を抱 いている者は日常生活において不適応を起こしている ことが示唆された。 友人関係の諸側面との関連については,大学生用ひ きこもり親和性尺度の合計得点とひきこもることへの 願望は,自己閉鎖および傷つけられることの回避と正 の相関が認められた。つまり,ひきこもり親和性の不 適応的側面である,ひきこもることへの願望を抱いて いる者は,自分の内面を開示するような関わりを避 け,相手から心理的に傷つけられないように振舞って おり,自分が傷つかないような行動をとりやすいこと が示唆される。