日本認知・行動療法学会 第44回大会 79
-重大事案・危機への支援を考える〜その時に対応出来る支援者になるために〜
○(企画・話題提供)田中 恒彦1,2)、(話題提供)斎藤 梓3)、(話題提供)福地 成4)、(企画・司会)佐 藤 友哉5) 1 )新潟大学、 2 )滋賀医科大学精神医学講座、 3 )目白大学、 4 )みやぎ心のケアセンター、 5 )比治山大学 危機介入とは,個人や集団が日常生活において従来 行われてきた対処方法では対応出来ないような問題や 課題に直面し不均衡状態に陥っている状況に対して, 危機状況からの回復を目的に積極的・直接的に行われ る介入のことを指す。本邦でも近年群発している自然 災害をはじめとして,犯罪被害,突発的な死別事故, 近しい関係にある者の自殺など,危機を引き起こす出 来事は様々あり,その支援のひとつとして心理社会的 介入が重要になってくる。危機への介入や緊急支援に おいて認知行動療法が果たす役割は少なくないことが 知られているが本学会においてこのテーマを挙げたシ ンポジウムが行われたことは未だない。そこで,危機 介入・緊急支援をテーマに,犯罪被害者支援,子ども の死に対する周囲への支援,周産期死亡への支援の実 際について話題提供をいただく。本シンポジウムを通 して認知行動療法が危機介入・緊急支援に対して提供 できることについて考えていきたい。犯罪被害者支援 の実際 被害者支援都民センターの実践から目白大学 齋藤梓 犯罪被害は、被害者にとって日常が分断され る体験であり、衝撃的で、これまでの経験では対処で きないような体験である。被害後に生じる刑事手続や 生活の変化、精神的反応に、被害者は困惑し、危機的 状況におかれる。発表者は、民間の被害者支援団体で ある公益社団法人被害者支援都民センター(以下都民 センター)にて、臨床心理士として、犯罪被害者の精 神的ケアに携わっている。対象は、殺人や性犯罪、交 通事件、暴行傷害、強盗等、身体犯と言われる犯罪の 被害者及びご家族、ご遺族である。都民センターで は、刑事手続中の被害者やご遺族の支援を行うことが 多い。この時期には、刑事手続支援や生活支援、関係 機関連携といった実際的支援と、危機介入的な精神的 ケアとが、両輪で行われていくことが重要である。精 神的ケアでまず実施することは、丁寧な傾聴と、心理 教育である。被害者やご遺族は、ご自身の心や身体の 変化に戸惑っており、「自分が弱いからこのような状 態になっている」「このまま自分はおかしくなってし まうのではないか」と不安を抱いていることも少なく ない。早期の段階で、トラウマ反応について伝え不安 を緩和することは、その後の回復に必要である。ま た、被害者やご遺族は強い自責の念を抱いていること も多く、この段階での認知への介入は難しいものの、 「事件の責任は加害者にある」ことを伝えることも重 要である。その他、リラクセーションや、刑事手続を 超えていくための支持的面接を継続していく。多くの 被害者やご遺族は、支持的面接を継続する中で、安定 されていく。しかし中には、心的外傷後ストレス障害 や複雑性悲嘆を呈する場合もある。その場合、刑事手 続との兼ね合いをみながらトラウマ焦点化認知行動療 法を導入する。当日の発表では、都民センターにおけ る精神的支援の実際および刑事手続支援等との連携を 報告し、犯罪被害における危機介入の在り方について 考えたい。子どもの死に向き合うとき〜周囲への支援 の実際〜みやぎ心のケアセンター 福地成 身近な 子どもが亡くなったとき、友達や家族を含めた周囲の 人々にはさまざまな心理的な影響が広がる。子どもの 亡くなり方によってその影響は異なり、1.病死などの あらかじめ死期が予測されるような場合、2.事故死や 自死などの周囲の準備が不十分な場合が考えられる。 また、影響を受けやすく、専門職の支援を必要とする 対象としては、1.亡くなった子どもの友達やクラスメ イト、2.親きょうだいを含めた家族が考えられる。友 達やクラスメイトが支援対象となる場合、その子ども たちの発達年齢を念頭に置いて支援手法を検討する必 要がある。子どもの死の概念は発達年齢により異なる ことが知られており(J.Piaget, C.R.Pfeffer)、その 認知に沿った支援を実施することが必要である。強い 影響を受けるだろう子どもを対象として個別で面接を 重ねる場合と、クラス全体など集団を対象とした支援 とが想定される。きょうだいの支援をする場合、上記 の発達年齢への配慮のほか、同胞の死を悲しみ・怒る 親を目の当たりにすることの影響への配慮も重要であ る。適切な支援がないとき、きょうだいは親の顔色を うかがい、過剰適応となって生活する事例も多くみら れる。一方、親の支援をする場合、全例に該当する訳 ではないがJ.W.Wordenが提唱した『悲嘆の 4 つの課 題』がその心理を理解する上で有用である。一般的に 親に生じる感情としては自責感であり、専門職として は根気強く寄り添い、誤った認知を解いていく姿勢が 要求される。不測の自然災害などでは、遺体が発見さ れないことも多くあり、周囲の人々にとっては死が受 け止め難い状況となる。このような場合、家族が受容 できないために葬儀を実施せず、あたかも生きている かのような生活を続けることがある。こうした事例で は、 複 雑 な 喪(complicated grief) や 慢 性 悲 嘆 大会企画シンポジウム 2日本認知・行動療法学会 第44回大会 80 -(chronic grief)に陥りやすく、特別な配慮を要する。 シンポジウム当日は、上記のポイントに焦点を当て、 実際の支援について若干の考察を加えて話題提供した い。ペリネイタル・ロスに対する支援について考える 田中恒彦 新潟大学ペリネイタル・ロスとは死産・流 産など周産期に起こる喪失体験のことで,流産・死産 という妊娠週数を問わず,子ども(胎児)を産み,そ の子を亡くした両親の体験を示す。わが国では,2000 年代に入って「周産期の死」の代用語としてペリネイ タル・ロスが紹介され,流産・死産・新生児の死を包 括した用語として定着し始めている。死産・新生児死 亡は,年間 3 万件と非常に多く,母親やその家族に大 きな悲嘆,時には心的外傷後ストレス障害(PTSD)を 引き起こすことが知られてきた。近年では,ペリネイ タル・ロスの引き起こす問題は単純な悲嘆やPTSDとは 異なる強い自責感と罪悪感の存在が示唆されており, 母親や家族の精神的健康に及ぼす重大性からみても, 重要な健康問題である(太田,2011)。死産を経験し た本人・家族へのケアは,欧米では先行研究からガイ ドライン(AAP & ACOG, 1997; Bartellas et al. 1997; Kohner, 1995)も作成されており,現時点では 支援の方法として悲嘆・トラウマへの心理療法が推奨 されているものの,効果研究の数は少なく支援方法は 模索されている段階である。本邦においては,ペリネ イタル・ロスへのケアは主として助産師・看護師によ る心理教育的支援を中心に行われている。本発表で は,死産や周産期喪失がもたらす心理的問題について 紹介し,CBTをベースにした支援の実際について事例 をもとに紹介する。死産は当人だけでなく家族にもつ らい経験となる。特に父親などパートナーとの関係が 与える影響は大きく,支援をする上でも家族力動を考 慮することが重要となる。当日の発表では,基本通り のCBTでできること,問題特有の工夫についてなどを 紹介しつつ,効果的な支援の在り方について検討した い。 大会企画シンポジウム 2