日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-06 132
-開胸術後疼痛症候群の疼痛管理を目的とした
認知行動療法の一事例≪エチゾラム調節事例≫
○横地 歩1)、上條 史絵2)、伊藤 温志3)、丸山 淳子1,4)、中 優太5)、丸山 一男1,2)、三上 勇気5) 1 )三重大学医学部附属病院麻酔科ペインクリニック外来、 2 )三重大学医学部附属病院麻酔科慢性疼痛心理外来、 3 )三 重大学医学部附属病院呼吸器外科、 4 )鈴鹿医療科学大学臨床工学科、 5 )一般社団法人あいち保健管理センター 【目的】 胸部の外科手術後に,長引く痛みを認めることがあ り開胸術後疼痛症候群と称される.発生率は20〜70% で, 患 者 の 日 常 生 活 へ の 復 帰 を 遅 ら せ る 要 因 と な る1 ).その一事例で,疼痛管理を目的として,認知行 動療法を併用したので報告する.なお,本事例では, エチゾラムの離脱症状の合併を認めた.以前の半量で 再開し漸減を試みたので,あわせて報告する. 【研究倫理】 報告に際し趣旨と目的を説明し,患者の理解と同意 を得た. 【事例概要】 70代女性 ≪既往歴≫盲腸,胆石症,変形性股関節症,不眠症 ≪現病歴≫肺癌に対し,当院呼吸器外科で胸腔鏡下右 上葉S1区域切除(小開胸追加)を施行.術後経過は順 調で,痛みも鎮静化していた.術後 8 日目に退院.退 院後,病棟に右乳房の痛みで電話があった.退院 7 日 後の外科外来受診で,手持ちの鎮痛剤が効かないとの 訴えがあり,新たにプレガバリン等の鎮痛薬が処方さ れた.退院10日後,右胸の痛みと過呼吸で救急搬送と なり,追加でトラマドール&アセトアミノフェン配合 錠を処方され帰宅した.退院14日後,当ペインクリ ニック外来を受診.胸壁にアロディニアを伴う術後痛 があり,不眠と,不安緊張状態を認めた.痛みの訴え は激しく,新規に処方されていた鎮痛剤は,内服後の 体調変化を理由に,中止されていた.話を続けていく と,エチゾラム(20年以上継続使用)の他院処方を, 今回の手術入院の前に辞退していたことが判明.在庫 が切れている状況であり,エチゾラムの離脱症状の合 併例として対応した. 【事例の見立て】 ≪行動分析≫(図 A )通常,鎮痛剤の内服では,「こ の薬を飲むと痛みが減る」とタクトする.本事例で は,「新たな鎮痛剤で体調が悪化する」と,より強く タクトされており,内服する行動が不安の出現で弱化 されていた. 【介入方法】 ≪フレーム変換≫今回の体験には,術後の体調変化, 開胸術後疼痛症候群,エチゾラムの離脱症状等,いつ もと違う状況が含まれていることを指摘.経験的な痛 みへの対処法に加え,新たな考え方や知識が必要と説 明した. ≪行動活性化≫痛みが遷延する可能性を考慮し,痛み が続く場合でも,本来の日常活動を再開するなど,行 動を増やしていくことで,痛みによる日常生活への支 障を減らしていける可能性を説明した. ≪離脱症状への対処≫離脱症状を解説.不安緊張状態 の一因になっていることを指摘し,一旦,エチゾラム を過去の使用量の半量で再開することとした. ≪体調変化への配慮≫術後の回復途上の体力であり, 体調変化が起こりやすく,単に上乗せで鎮痛剤を開 始・増量すると,鎮痛作用より体調悪化が前面に出る ことが危惧された.鎮痛剤の開始・増量に,エチゾラ ム等の減量を組み合わせることで,体調に配慮できる ことを説明した. ≪薬物の調節;行動分析≫当科で用いていく薬剤は, 特徴を説明後,少量で開始し漸増することを基本とし た.プレガバリン(神経障害性疼痛治療薬),トラマ ドール(オピオイド鎮痛薬),ミルタザピン(少量か ら眠れるタイプの抗うつ薬;抗不安作用あり;下行性 疼痛抑制系への作用あり)等を用いた.(他に,アセ トアミノフェン,スボレキサント等を併用した.)エ チゾラムは習慣性に配慮し,粉末化して,ゆっくり漸 減した2 ) .それぞれ,薬剤の調節については,患者の 変更への承諾を得て進めた(図 B , C , D ). B , C については,一回の承諾に対する結果(好子の出現) が小さすぎる可能性があり,薬剤調節について,「動 機の明確化」,及び,進捗状況の「こまめな説明」に 努めた.また, D については,減量幅や減量頻度が過 大にならないよう配慮することで,不安定な体調下で も体調変化を許容範囲内にしておくことが可能である と説明した.薬剤の調節は,初期は,その進捗に対し, 労いや賞賛の言葉をかけ,途中からは,行動内在性強 化随伴性に期待した. ≪その他の心理教育≫慢性疼痛,リラクゼーション等 について知識を供給した.日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-06 133 -【結果の測定】 痛みと不安の影響や,痛みの推移を, 5 項目で記録 し,薬物療法と認知行動療法の総合的な効果を観察し た.項目は,一月あたりの受診回数と電話相談回数, 及び,痛みの強さに関する表現(スコアでの表現が得 られなかったため), 6 種類の薬剤の調節状況,再開 できている好ましい日常活動の項目数,である. 【結果】 (図 E )エチゾラムの減量の話をするうちに,ゾル ピデムの連用が判明したため,その減量・中止を先行 させた. 2 ヶ月目までは,「息苦しい」,「眠れない」, 「薬を飲み続けて大丈夫か」,「何も出来ない」等の訴 えが目立ち,受診頻度や電話相談の頻度が多かった. 知識の再確認や,リラクゼーションの指導を行った. プレガバリン,トラマドール,ミルタザピンの増量が 進んだ 3 ヶ月目には,幾分痛みがやわらぎ,むしろ, 昼間の眠気や倦怠感の訴えが出てきた.エチゾラムの 減量で改善する可能性を説明しつつ,薬剤の調節を進 めた.日常活動の再開は,編み物や友人とのおしゃべ りで始まり,やがて,その項目数が増えていった.途 中,間質性肺炎を疑われた(画像検査時の深呼吸の失 敗に伴うものか)ため,念のため,合併症として間質 性肺炎の記載があるプレガバリンを,ガバペンチンに 変更した(一旦,鎮痛薬としての力価は低下).一時 的に不安が増え,パッチワークが出来なくなった等と 訴える時期があったが,回復した. 7 ヶ月目でも,疼 痛は残存しているが,日常活動が増え,睡眠が改善し ており,日常活動への支障が減っている状況がうかが われた.報告された活動の項目は、編み物,パッチ ワーク,犬の散歩,畑仕事,友人とのおしゃべりや会 食,家族や友人との遠出などである.この間,問題と なるような薬剤の中断は起きなかった. 【考察】 70代の患者の,術後の限られた体力のなかで,慢性 疼痛に対し,薬剤調節を行う必要が生じた事例であ る.フレーム変換,心理教育,行動活性化を行った. 薬剤調節においては,変更の承諾という行動について 機能分析を行い,その確立操作に注目することで,あ る程度,行動内在性強化随伴性の出現を導けたのでは ないかと推察する.外来受診や電話相談の頻度の低下 は、服薬後の体調変化や痛みに伴う恐怖や不安が減少 したことの傍証と考える.本事例では痛みは完治して いない.しかし,日常生活への支障が減少し,友人ら と食事や手芸を楽しむなど,以前の生活を取り戻しつ つある様子がうかがえる.一般的に,痛みの治療では 鎮痛剤やブロックが用いられる.本事例では,鎮痛剤 に加え,認知行動療法を併用し,薬剤の調節と鎮痛に 有用であったと推察する. 【引用・参考文献】
1 )Romero A, et al. The state of the art in preventing postthoracotomy pain. Semin Thorac Cardiovasc Surg. 25( 2 ):116-24, 2013
2 )関口直樹, 稲田健, 石郷岡純.睡眠薬の適切な中 止方法.ねむりとマネージメント 1( 1 ): 28-32, 2014