日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-85 288
-職場の問題に焦点化した集団認知行動療法の長期的効果の検証
○渡邊 明寿香1)、伊藤 大輔1)、仲座 舞姫2)、石原 綾子2)、山本 和儀2) 1 )兵庫教育大学大学院学校教育研究科、 2 )山本クリニック 【目的】 本邦において,うつ病による休職者の増加は社会問 題化しており,近年では心療内科やデイケアにおいて うつ病に対する効果が実証されている認知行動療法 (APA, 2010)が復職支援として積極的に導入されてき た。しかしながら,復職支援を受け,復職に至るもの の,再発・再休職するケースも少なくない。そのた め,患者の復職自体を目標とするのではなく,復職後 再発せずに就労環境に適応することを目標とした支援 を行う必要がある。 この点に関して,田上ら(2012)は,休職中のうつ 症状や一般的な社会機能の改善のみならず,復職後に 想定される困難感を低減することが円滑な職場復帰や 再発予防のためには重要であると指摘している。そこ でIto et al.(2018)は従来型のうつ病に対する認知 行動的技法に加えて,復職後に想定される問題や職場 復帰の不安に焦点づけた対処スキルを身につけるため の要素を付加したプログラムを開発している。その結 果,社会適応状態や抑うつや不安症状の改善のみなら ず,部分的には職場復帰の困難感を低減させることを 示している。しかしながら,Ito et al.(2018)では, 復職後の問題に焦点を当てた認知行動療法が,復職後 の状態に及ぼす長期的効果に関しては明らかにされて いない。 そこで,本研究では,復職後の問題に焦点化した認 知行動療法が,復職 3 か月後の状態に及ぼす長期的効 果を検討することを目的とした。 【方法】 1 . 対象者 A 県内の精神科を標榜するクリニックにて参加者を 募集した。適格基準は,( 1 )20歳以上の成人,( 2 ) うつ病が主診断である,あるいは診断はつかないまで もうつ症状の影響により職業生活に支障をきたしてい ると主治医が判断した者,( 3 )現在,うつ症状によっ て休職中であるが復職を希望している者,( 4 )復職 後連絡の取れた者,( 5 )主治医から本研究への参加 の許可が得られている者であった。除外基準は,( 1 ) 希死念慮が強い,またはうつ症状が重篤である者, ( 2 )重度の身体合併症がある者,( 3 )日本語の読み 書きに問題がある者,( 4 )60歳以上の者であった。 適格および除外基準を用いたところ,25名が該当し たが, 3 名がドロップアウトしたため,最終的に22名 (男性13名,女性 9 名,平均年齢41.73±8.56歳を対象 とした。 また,ショートケア開始日から復職日(試し出勤を 含む)までの平均日数は,138.86(SD =61.40)日であっ た。 2 . 調査材料 ( 1 )デモグラフィックデータ 年齢,性別,勤労状況等についてフェイスシートに 記載。 ( 2 )自動思考Automatic thought Questionnaire-Revised (ATQ- R )の短縮版(坂本ら, 2004)
( 3 )認知的統制
認知的統制尺度(Cognitive Control; CC) (杉浦, 2007)
( 4 )行動活性化
The Behavioral Activation for Depression Scale (BADS)の日本語版(高垣ら,2013)
( 5 )環境中の報酬知覚
Environmental Reward Observation Scale(EROS) の日本語版(国里ら,2011)
( 6 )被受容感と被拒絶感
被受容感と被拒絶感尺度(Sense of acceptance and rejection; SOA)(杉山・坂本,2006)
( 7 )抑うつ,不安 K6質問紙票日本語版(Furukawa et al., 2008) なお,重症精神障害を予測するカットオフ点として 13+が(Kessler et al. 2003),また一般住民の心理 的ストレスを評価するカットオフ点として 5+が提案 されている。 ( 8 )社会適応
Social Adaptation Self-evaluation Scale(SASS) の日本語版(後藤ら,2005) ( 9 )職場復帰の困難感 職場復帰の困難感尺度(Difficulty in Returning to Work Inventory; DRW)(田上ら,2012) 3 . 手続き 研究参加の承諾が得られた者に対して,集団認知行 動療法の実施前と復職前,復職 3 か月後に質問紙調査 を実施した。 集団認知行動療法は,週に 1 回150分の全 8 セッ ションから構成され, 1 グループ 3 名〜 5 名程度で実 施された。アセスメントやプログラムの実施は,認知 行動療法のトレーニングを受けた臨床心理士 1 名と臨
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-85 289 -床心理学を専攻するクリニックスタッフ 1 〜 2 名が実 施した。プログラムの前半は,( 1 )行動に伴う随伴 性 知 覚 の 再 獲 得 を 目 的 と し て 行 動 活 性 化 療 法 (Jacobson et al., 1996)を参考にした活動記録表を 用いたセルフモニタリングや,( 2 )思考の柔軟性を 高めることを目的とした認知再構成法(Beck et al., 1976)や脱フュージョン(Hays et al., 2012),( 3 ) 日常生活上の困難に焦点をあてた問題解決療法(Nezu et al., 1989)が実施された。さらに,プログラムの 後半では,休職中の生活だけではなく,復職後の生活 に生じると想定される問題に対する問題解決療法の応 用と復職に関連する不安や脅威刺激に対する段階的な エクスポージャー課題などを中心に行った。 4 .倫理的配慮 本研究は,筆者の所属する倫理委員会の承諾を得て 行われた。対象者に対して,インフォームド・コンセ ントを実施し,研究協力は任意であり,参加を拒否し ても不利益はないことを伝える等の倫理的配慮を 行った。 【結果と考察】 本研究の参加者における介入前のK6の平均得点は 11.82点であったが,一般住民の心理的ストレスを評 価するカットオフ値( 5 点)を超えており, 重症精神 障害を予測するカットオフ値(13点) に近い値であっ た。また,SASSの平均点は28.77点であった。SASSで 測 定 さ れ る 一 般 的 な 社 会 機 能 に つ い て は, 後 藤 ら (2005)の研究では,健常者の平均が36.5±5.7点,う つ病患者の平均が32.2±8.5点であった。このことか ら,本研究の参加者は,抑うつ,不安に関する重症度 は一定程度高く,社会適応状態は低いことが示唆され た。 次に,認知行動療法の効果が復職 3 か月後まで持続 しているかを検討するため,時期(介入前‐復職前‐ 復職後)を独立変数,測定尺度を従属変数とした 1 要 因分散分析を実施した(Table1)。その結果,介入前 ‐復職前間,介入前‐復職後間の両期間で自動思考 (ポジティブ思考)や認知的統制,行動活性化(合計), 環境中の報酬知覚,被受容感などのプロセス変数の改 善が見られ,効果の維持が示唆された。また,うつ症 状や社会適応(合計),職場復帰の困難感(合計)で も同様に効果の維持が見られ,概ね復職後の問題に焦 点化した集団認知行動療法の効果は実際に復職した後 も維持されていると考えられる。したがって,職場復 帰後に想定される問題をプログラムの中で扱うこと は,復職した後の良好な状態を維持し,再発・再休職 の防止に寄与する可能性が示唆された。 本研究の限界点として,第一に,統制群が設定され ていないことが挙げられる。今後は,統制群を設け, より厳密なデザインで効果を検討していく必要があ る。第二に,本研究では,フォローアップの期間が短 かったことが挙げられる。五十嵐(2012)はリワーク プログラムを終了して復職した対象者の生存分析を行 い, 1 年後の就労継続の推定値は77%, 2 年後は63% であったと報告している。このことからも,さらに長 期的なフォローアップ調査を行い,効果を検討してい く必要があると考えられる。