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セシウムと高等植物

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はじめに

 2011 年 3 月 11 日に生じた東日本大震災は福島第一原子 力発電所に損害を与え,原子炉の爆発による放射性核種の 環境中への放出という深刻な環境問題を引き起こすに至っ た.放出された放射性核種の総量は最終的には後年になら なければ評価できないが,1986 年の旧ソ連(現在のウク ライナ,ベラルーシ国境付近)のチェルノブイリ原子力発 電所の爆発事故以来最大の放出量であり,汚染は全地球規 模で広がっている.今回の事故では広範囲の農地・放牧地 で高濃度の放射性核種の汚染が生じたため,被害住民の暮 らしだけでなく日本の食糧生産の確保という点からも,1 日も早い放射性核種の除去が望まれる.  原子炉の爆発事故により放出される放射性核種のなかで は,セシウム 137(137Cs)とセシウム 134(134Cs),ストロン チウム 90(90Sr)およびヨウ素 131(131I)が量も多く人の健 康に悪影響を及ぼす核種として重要視されている.これら のうち131I は半減期が約 8 日と短く,汚染が発生した場合 はヨウ素を摂取して131I の甲状腺蓄積を防ぐという対策が 取られている.一方,137Cs,134Cs と90Sr は土壌中に拡散 して吸着され,根や葉から植物に吸収され最終的に食品の 中に取り込まれて人体中で内部被曝源となる危険性があ る.しかも,これらの核種は半減期が約 2 年(134Cs)およ び約 30 年(137Cs と90Sr)と長いので,その除去が汚染地の 復旧のために必須である.  放射性核種の除去で重要な点は,除去作業だけでなく除 去した汚染土壌等の放射能が安全なレベルに低下するまで 保管しなければならないことである.屋外に放射性核種を 放置するのは論外として,地中に埋めて地表の線量を低下 させることは,地下水汚染を引き起こす危険性が大きい. 汚染土壌の放射性核種を濃縮し,遮蔽された施設内で長期 間保管することがもっとも現実的な対策と考えられる.汚 染土壌からの放射性核種の抽出と濃縮については様々な方 法が提案されているが,物理・化学的な方法は処理に大量 のエネルギーが必要である.一方,Cs と Sr はともに植物 の必須元素ではないが,それぞれ 1 価と 2 価のカチオンと して他の同族の栄養元素とともに植物に吸収される.この ことを利用して,植物を用いて土壌中や水中の汚染物質を 除去するファイトレメディエーションの手法が放射性の Cs と Sr の除去にも有効であると考えられている.福島第 一原子力発電所の事故以後にも汚染地でさまざまなファイ トレメディエーションの取り組みがなされているとの報道 があるが,取り組みが報じられても,その結果が報道され ることはほとんどない.このため植物の放射性 Cs と Sr の 除去能力についての誤解も生まれているようである.たと え ば, チ ェ ル ノ ブ イ リ 事 故 後 に ヒ マ ワ リ(Helianthus annuus)による137Cs 除去が有効であったと考えている人 も多いと思われる.しかしながら,植物の Cs 吸収や転流 に関して,実験室内や小規模なポット試験などの基礎研究 データは多く発表されているが,現地におけるファイトレ メディエーションによる137Cs の除去効果については不確 かな点が多い.少なくとも,ヒマワリには137Cs の超集積 効果は認められていない(Soudek et al. 2006,2011 年 9 月 14 日付朝日新聞による).  原子力発電所の事故で放出される放射性の Cs と Sr では, 放出量と半減期の点から放射性 Cs への対応が最重要であ るとされる.本稿では Cs が植物に与える影響と植物の放 射性 Cs の吸収と蓄積に関するこれまでの研究を概観し, 植物を用いた放射性核種の除去の可能性と問題点,さらに 作物栽培への影響について論じる.

セシウムと高等植物

長谷川 博

滋賀県立大学環境科学部(〒 522 − 8533 滋賀県彦根市八坂町 2500) 要旨:原子力発電所の爆発事故により放出された放射性セシウム(Cs)の環境への影響を理解し,環境中か ら除去するための基礎として,Cs が植物の生育に及ぼす影響と放射性 Cs の吸収と蓄積に関する遺伝変異を 明らかにした.Cs はカリウム(K)のアナログとして挙動するが,10μM という低濃度で植物の生育を阻害 する.Cs は K と拮抗的に作用することから,Cs の生育阻害効果は K の存在下では低減すること,Cs の吸 収が K の存在下では低下するなどの現象が報告されている.放射性 Cs の蓄積に関して種間差異が認められ ており,テンサイなどアカザ科の作物の Cs 含有率が高かったという報告がある.根から吸収された Cs は茎 葉部,ことに若い葉に多く分配される.以上の報告を考えあわせてファイトレメディエーションを利用した 放射性 Cs の環境中からの除去の可能性と問題点について考察した. キーワード:セシウム,放射能汚染,高等植物,ファイトレメディエーション 2012 年 2 月 7 日受理 連絡責任者:長谷川 博([email protected]

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セシウムが植物の生育に及ぼす影響

 Cs は1価カチオン(Cs+)として植物に吸収されるが,

植物にとって有害である.Cs 塩単独の溶液としてはシロ イヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Sheahan et al. 1993)で

は 50μM,イネ(Oryza sativa)(Hasegawa 1996)では 10μM

という低濃度で生育阻害を示すことが報告されている.Cs+ は同じ 1 価カチオンであるカリウムイオン(K+)と拮抗 的に作用する.Cs+の生育阻害効果は 100μM 以上の K 共存するとき軽減されるが,このような K+の効果は,同 じ 1 価カチオンであるナトリウムイオン(Na+)やリチウ ムイオン(Li+)の生育阻害効果に対しては認められない (Sheahan et al. 1993).イネにおいて Csの生育阻害効果の 遺伝子型間差異が報告されている.イネの幼植物を 50μM の CsCl 溶液で播種時より 2 週間栽培したとき,第 1 葉の 長さにはほとんど影響が認められない遺伝子型から,対照 区比が 10%台という著しく生育が阻害される遺伝子型ま で存在した.Cs 感受性に関して日本型とインド型間に差 異はなく,変異の幅は両品種群内でほぼ同じであった (Hasegawa and Okumoto 1999).イネの低硝酸吸収突然変

異体には弱い Cs 抵抗性が認められ,このことは同突然変 異体が細胞膜電位に関係した突然変異体であることの間接 的な証拠であると考えられている(Hasegawa 1996).Cs 抵抗性突然変異体がシロイヌナズナ(Sheahan et al. 1993) とイネ(長谷川ら 1998)で分離されている.シロイヌナ ズナの Cs 抵抗性突然変異体 csi52 について,Kが十分量 存在する条件で育った植物体では K+吸収が阻害される, K+飢餓条件では高親和性 K吸収システムが回復するなど の特性が膜電位の変化とともに解析された結果,csi52 は Cs+と Kの拮抗作用に伴って全般的な K吸収システムが 変 化 し た 突 然 変 異 体 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た (Maathuis and Sanders 1996).しかしながら,現在までに

Cs 抵抗性遺伝子は同定されていない.  K+は細胞の生体膜電位や pH 維持に中心的役割を果たし ており,細胞膜に存在する多様なチャネルやトランスポー ターを介して K+の細胞内への流入と細胞外への流出が生 じている(水谷ら 2003).Cs+は Kのアナログとして挙動 し,一部の K チャネルを利用して細胞内に吸収される (White and Broadley 2000).このような事実に基づいて,

Cs+の生育阻害効果は酵母から高等植物までを材料として,

Cs+が細胞膜電位に及ぼす影響に起因する K吸収の阻害

という観点から検討されてきた(Tester 1988, Bellando et al. 1995, Ichida et al. 1999, Broadley et al. 2001).しかしながら,

Hampton et al.(2004)はシュートの K 含量が培地中の Cs+ の有無によりどのように影響されるのかを詳細に検討し, Cs+の生育阻害効果は K吸収阻害から生じる K 飢餓によ るものではなく,K+と結合するタンパク質に Csが拮抗 的に作用するためと報告している.150μM の Cs+を含む MS 培地で 3 日間培養したシロイヌナズナにおいて,Cs+ 処理により特異的に発現する遺伝子のスクリーニングが行 われている.しかしながら,Cs+により誘導されるのは一 般的な非生物学的ストレス条件で発現する遺伝子のみで, Cs+に特異的に発現する遺伝子は認められなかった(Sahr et al. 2005).  以上のように Cs+は植物に生育阻害をもたらすが,原子 力発電所の爆発事故で放出された Cs は,事故現場近くの 極度の汚染土壌を除いて周辺地域では植物に影響を及ぼす 濃度に達していないと考えられる.したがって,放出され た Cs の環境への影響は137Cs の崩壊で生じる放射線による ものと考えてよい.

セシウムの同位体と環境中の存在について

 Cs は CsAlSi2O6(ポルックス石)のような形態で土壌の アルカリ鉱物中に微量含有されている.Cs には原子量が 123 ∼ 144 までの多くの同位体が存在しているが,自然に 存在する Cs の同位体存在比は安定同位体である133Cs が 100%である(日本アイソトープ協会 1970).他の同位体 はすべて核反応により生成する放射性同位体であり 、 環境 中で133Cs 以外の同位体が見出された場合は核実験や原子 炉事故により生成したものと断定できる(天然の238U の 核分裂により生じる分は無視できる).133Cs より軽い同位 体のなかには半減期の短い陽電子放出を行うものもある が,ごく微量であり半減期も短く,人体や環境に及ぼす影 響は無視できる.一方,133Cs より重い放射性同位体の中 では134Cs と137Cs が原子炉の核分裂生成物として大量に放 出されて深刻な放射能汚染を引き起こす.134Cs と137Cs の 放射能強度比(両者のベクレル数の比)は 0.4 ∼ 1.5 とさ れるが,134Cs の半減期が 2.05 年であることを考慮すると 137Cs の方が環境に与える影響が大きい.137Cs は β崩壊を 生じて半減期約 30 年で137mBa に変換され,137mBa はさら に半減期 2.55 分で137Ba に変化する.これらの過程で γ線 も放出される(日本アイソトープ協会 1970 および原子力 資 料 情 報 室 HP http://cnic.jp/modules/radioactivity/index. php/12.html).したがって,137Cs 汚染については内部被曝 だけでなく外部被曝にも対策が必要である.  世界の土壌中には 1950 ∼ 1960 年代に大気圏内核実験が 実施されていた当時に拡散した137Cs が蓄積していること

が知られている(Walling and Quine 1991).また,チェル ノブイリ原子力発電所の爆発も世界中に放射性物質を拡散 させ,各地の土壌や当年に収穫された穀物中に137Cs が検 出されている(駒村ら 2006).土壌中では,137Cs は90Sr と 異なり地表面近くに蓄積することが知られているが,これ は Cs+が水との親和性が低いため,水和して土壌深部に浸 透しにくいためである(塚田ら 2011).チェルノブイリ事 故の 5 年後のイングランドの農地における137Cs の量は土 壌表面で 150 ∼ 350 mBq cm−2(1.5 ∼ 3.5 kBq m−2)と報告

されている(Walling and Quine 1991).福島第一原子力発 電所の事故より 3 か月が経った 2011 年 6 月中旬の調査に よると(文部科学省報道発表 2011),事故現場から 30 km 離

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れた地点において土壌中の134Csと137Csはともに1 MBq m−2 と非常に高い値を示し,80 km 以上離れた土地でも 100 kBq m−2以上が検出されている.事故現場から 100 km 離れた地 点ではほとんど 10 kBq m−2以下であること(文部科学省報 道発表 2011),また 2011 年 3 月から 6 月の134Cs と137Cs の降下物量は原子力発電所の事故の影響がほとんどないと 思われる地域では数 10 Bq m−2以下であることが文部科学 省の調査で明らかになっている(2011 年 11 月 26 日付朝 日新聞による).21 世紀前半の時点における環境中の137Cs が植物に移行する量に関して,イタリアの原子力発電所の 敷地内で非汚染の土と水でトマト(Solanum lycopersicum) を栽培した実験例があり,137Cs のレベルは葉では 1 ∼ 4 Bq kg−1,果実と茎では 1 Bq kg−1以下であり根ではトレー ス 程 度 し か 検 出 さ れ な か っ た こ と が 報 告 さ れ て い る

(Sabbarese et al. 2002a).同報告では放射性の40K は植物体

全体に分布し,その量は約 500 ∼ 1,860 Bq kg−1であること が述べられている.40K は地殻に存在する自然放射線源で あり,40K による放射線の強さは137Cs が農産物等で検出さ れた場合の安全性論議に参考になるデータである.農業環 境技術研究所(農業技術研究所時代を含む)ではイネとコ ムギ(Triticum aestivum)の穀粒中の137Cs と90Sr の量に関 する長期モニタリングが行われている(駒村ら 2006). 2000 年代はじめまでのデータをみると,イネ穀粒中の 137Cs は大気圏内核実験が頻繁に実施されていた 1950 年代 後半から 1960 年代前半にかけて数 Bq kg−1の値を示し, それ以後は漸減して 21 世紀初めには数 10 mBq kg−1程度 まで低下していた.コムギの穀粒中の137Cs の変化もイネ とほぼ同じ傾向を示しているが,1986 年産のコムギにつ いては数 10 Bq kg−1と高い値になっている.これは日本の コムギの収穫時期の直前に起こったチェルノブイリ原子力 発電所の爆発による大気中の137Cs 汚染を反映している. 一方,土壌中の137Cs の減衰は緩やかであり,1960 年代始 めに数 10 Bq kg−1であったものが 2000 年に約 10 Bq kg−1 で低下したに過ぎない.1996 ∼ 1997年における青森県の 水田土壌からは2.1∼21 Bq kg−1,収穫後精米された米から は 2.5 ∼ 8.5 mBq kg−1137Cs が検出されている(Tsukada et al. 2002a).2011 年に福島県の一部で収穫された米穀中 から 500 Bq kg−1以上の137Cs が検出されている(2011 年 11 月 29 日付朝日新聞による).今後同じような事故が生 じたときに備えて,この汚染が爆発直後の拡散による土壌 吸着によるものと,その後も継続して生じている降下物に 由来するものとを分けて評価する必要がある.  以上の報告や報道をみれば,今回の福島第一原子力発電 所爆発事故による放射性 Cs 汚染の深刻さは明白である. 除染を行わなければこれらの土地の137Cs による放射能レ ベルが事故以前に戻るには長年を要することになる.国民 的合意が得られる除染技術の開発とその実行が望まれる.

放射性セシウムの吸収と蓄積について

 チェルノブイリ原子力発電所の事故以来,土壌中に拡散 した137Cs や90Sr の除去にファイトレメディエーションの 有効性が注目されてきた.しかしながら,137Cs の吸収や 蓄積に関するこれまでの報告をみると,基礎研究段階のも のであり,事業として成功したという報告はないようであ る.

 Broadley and Willey(1997)は 25 種,計 30 ジェノタイプ

の幼植物の根を134Cs でラベルした 10μM の CsCl 溶液 20ml 中に入れて,6 時間後のシュートにおける Cs 量(単 位重量当たり)を評価した.その結果,キノア(Chenopodium quinoa),テンサイ(Beta vulgaris)という大型のアカザ科 作物の Cs 吸収量が大きく,イネ科の牧草類は吸収量が小 さかったことを報告している.さらに,Broadley らの研究 グループ(Payne et al. 2004)はシロイヌナズナの自然集団 のなかにシュートにおける Cs 蓄積量に 1.5 倍強の種内変 異があることを認め,第 1 染色体上に 2 か所,第 5 染色体 に 1 か所の Cs 蓄積に関する QTL が存在することを報告し ている.重金属超集積植物として知られるグンバイナズナ の一種 Thlaspi caerulescens,ハクザンハタザオ(Arabidopsis halleri)(Cosio et al. 2004)およびシダ植物ヘビノネゴザ

(Athyrium yokoscense)(Yoshihara et al. 2005)のような種に ついて Cs 吸収に関する報告はない.1 価と 2 価以上のカ チオンをつくる金属元素という違いはあるが,カドミウム などの重金属の超集積植物の Cs の吸収能についてはさら に検討の必要がある.  農地や森林の土壌が汚染された際に,植物が137Cs など の放射性核種をどれだけ吸収し,蓄積するかの基礎データ がコムギ(Smolders et al. 1996a, 1996b),イネ(Tsukada et

al. 2002b),トマト(Sabbarese et al. 2002a),レタス(Lactuca sativa)(Sabbarese et al. 2002b),ヒマワリ(Soudek et al.

2006)などの農作物,湿地植物のワタスゲ(Eriophorum

vaginatum)(Jones et al. 1998),コケ植物の浮遊植物である

ウキゴケ(Riccia fluitans)(Heredia et al. 2002),さらに針 葉樹類(Irlweck et al. 1999, Thiry et al. 2002)など,様々な 植物について実験室内および自然条件下で得られている. しかしながら,これらの報告では調査方法や放射能強度の 表し方に一貫性がなく,137Cs の吸収と蓄積の種間比較を 困難にしている.奥・長谷川(2003)はイネの幼植物にお ける Cs 吸収に品種間差異があるという予備実験の結果を 得ているが,CsCl 溶液からの吸収を評価したものであっ て,土壌条件しかも極低濃度の Cs 条件でこのような差異 が再現できる保証はない.  137Cs は葉からも吸収されることがブドウ(Vitis spp.)で

確認されている(Zehnder et al. 1999).Sabbarese et al.

(2002a)は137Cs を含む水を散水灌漑と地表灌漑としてト

マトに与えて栽培し,散水灌漑をおこなった時には地表灌

漑に比べて葉や果実中に 5 ∼ 8 倍の137Cs が検出されたこ

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染には雨や霧の影響が大きいことを示している.

 Cs+は Kと競合することから,K の存在下では Cs の吸

収が低下する.K 肥料の投与は Cs 吸収を低下させること がコムギを用いた水耕栽培試験(Smolders et al. 1996a, Zhu 2001)とポットを用いた土耕栽培試験(Smolders et al. 1996b) の両方で確かめられている.これらの報告は低レベルの汚 染地における作物栽培では K 施肥を増やすことで Cs 吸収 を減少させる可能性を示唆しているが,40K による自然放 射能のバックグラウンドが高くなることに注意しなければ ならない.  根から吸収された137Cs は木部導管を通じて転流される. Cs は根にとどまらず主に若い葉に分配されることがヒマ ワリ(Soudek et al. 2006)で報告されている.シロイヌナ ズナでは主にロゼット葉に蓄積される(Sahr et al. 2005). トマトでは吸収された137Cs は主に葉と茎に蓄積し,果実 の蓄積量は葉の約 1/ 10 から 1 / 5 であることが報告され

ている(Sabbarese et al. 2002a).青森県の水田土壌で栽培 された水稲について根から吸収された非放射性の Cs の分 布が調査されており,吸収された Cs の 73%は稈と葉に, 24%が種子に,残り 3%は根に存在したと報告されている (Tsukada et al. 2002b).種子のうち精米部分に蓄積されてい たのは吸収されたCsの 7%であった(Tsukada et al. 2002b). 133Cs と137Cs の間にアイソトープ効果はないので,これら の結果は汚染土壌で作物栽培を行った場合は果実や種子中 でも137Cs が蓄積することを示しているだけでなく,果実 や穀粒中の137Cs 量の予測に重要である.  以上のように,農作物への137Cs 蓄積の評価,ファイト レメディエーション利用による137Cs の除去についてはま だ基礎データを蓄積する研究段階である.ファイトレメ ディエーション利用による放射性 Cs を除去するためには, さらに多くの植物における137Cs の吸収,転流,蓄積に関 するデータを積み重ねる必要がある.汚染地における137Cs の濃度は放射線量がバックグラウンドの 1,000 ∼ 10,000 倍 になったとしても,Cs 濃度としては非常に低いレベルで ある.ファイトレメディエーションによる放射性核種の除 去に関する試験研究が進まないのは放射性 Cs を野外で用 いた実験が現在では不可能であるためである.極低濃度の Cs(および Sr)の土壌と植物体内における挙動を知るため には,低濃度の Cs や Sr を検出できる実験技術の確立もあ わせて行わなければならない.

まとめ

 根から吸収された Cs は効率的に茎葉部へ転流されるこ とは,一部は葉から排出されて土壌に戻るものもあっても, ファイトレメディエーションが放射性 Cs の除去に有効で あることを示している.ファイトレメディエーションを効 率的に行うためには,137Cs や90Sr に関する超集積体を用い ることが必要であるが,137Cs や90Sr を特異的に集積する植 物はまだ知られていない.超集積植物が得られない場合, 吸収能は低くても再生能が大きく年間を通じて生育できる 栄養繁殖植物の利用が適していると考えられる.植物の選 択に当たっては刈取りの回数も考慮して単位面積あたり 1 年間の吸収・蓄積量で評価すべきである.ヨシ(Phragmites australis)やセイタカアワダチソウ(Solidago altissima)のよ うにシュートのバイオマスが大きく,生育期間中に地上部 を刈り取っても再生能力の高い栄養繁殖植物の利用を検討 すべきである.ヒマワリのように象徴的な植物の栽培でな く,汚染地に生える野草の利用を考えるべきだろう.水圏 が汚染された場合は沈水植物の利用を図るべきである.た とえば,オオカナダモはシュートから硝酸イオンを吸収し ているので(Takayanagi et al. 2012),Kおよび Csもシュー トから吸収されると考えられる.  ファイトレメディエーションでは吸収させた植物体の処 置も重要な問題である.シュートを刈り取り,放射線管理 区域において植物体を灰化させ,濃縮した形で放射性核種 を封じ込めて保管するシステムの構築が望まれる.  なお,Cs はあらゆる植物に吸収され茎葉部に転流され, 詳細なメカニズムは不明であるが Cs は葉から排出される (Jones et al. 1998).葉に到達した Cs は雨とともに再び土 壌に戻る,あるいは霧に付着するか枯葉となって拡散し, 二次汚染を引き起こす可能性もある.土壌と植物間の Cs の動態についてさらに研究を深める必要がある.  本稿では放射性 Cs の除去という観点で論じてきたが, 農地の放射性 Cs が低下し農耕を再開するときに Cs 吸収が 欠失あるいはきわめて小さい作物を導入すれば消費者の安 心感をもたらすことになるだろう.そのような作物を開発

するために Cs+と Kの吸収(White and Broadley 2000)や

Cs の毒性(Hampton et al. 2004)に関する基礎研究の応用 面への展開が望まれる.

 筆者は 1998 年 8 月にデンマークで開催された国際シン ポジウム,Sixth International Symposium on Genetics and Molecular Biology of Plant Nutrition,においてCsがイネの生育 に及ぼす影響に関する講演を行った(Hasegawa and Okumoto 1999).その際に「日本の原子力発電所は危険なのか?」 という質問を受け,「安全と信じているが,日本には地震 があるので潜在的な危険性はある」と答えた.まさか,そ の質疑応答の内容が現実になるとは当時は考えられなかっ た.ゼロでないが非常に低い確率で生じる災害・事故に対 する地道な基礎研究の重要性を改めて認識しなければなら ない.  最後に,福井県若狭湾沿岸は原子力発電所の密集地帯で ある.これらの発電所においてもし福島第一原子力発電所 のような事故が生じた場合は,滋賀県と京都府を中心に近 畿地方にも放射能汚染が広がるはずである.ことに琵琶湖 の水が汚染された場合の影響ははかり知れない.もし事故 が生じた場合に備えて総合的な対策とともに,汚染を受け た地域の農業について近畿に在住する作物,育種学研究者 が果たすべき役割を明確にして,それを将来に伝えること が必要である.

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Cesium and higher plants

Hiroshi Hasegawa

School of Environmental Science, the University of Shiga Prefecture(2500 Hassaka-cho, Hikone, Shiga 522 − 8533, Japan) Summary: Effects of cesium (Cs) on plant growth and accumulation of radioactive Cs by higher plants are surveyed as the first step of phytoremediation for radionuclide removal from contaminated soil and water environments. Cs is taken up dominantly from roots and translocated to shoot as an analog for potassium (K). Cs is a strong inhibitor of plant growth at the concentration of more than 10μM and an antagonistic agent to K. There are interspecific differences in radioactive Cs accumulation and several Chenopodiaceae species such as qinoa and beet accumulate higher radioactive cesium in shoots. These results indicate that radioactive Cs can be removed by plants from contaminated soil, but it is important how plant materials which were absorbed radioactive Cs are processed. The facts that external K application reduces Cs toxicity and uptake suggest the avoidance of Cs contamination in crops by excess K nutrition.

Key words: cesium, radionuclide, higher plants, phytoremediation

Journal of Crop Research 57 : 1 − 6(2012) Correspondence : Hiroshi Hasegawa([email protected]

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