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産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因

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Academic year: 2021

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(1)

原  著

*1

筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻(University of Tsukuba)

*2

茨城県立医療大学(Ibaraki Prefectural University of Health Sciences)

*3

茨城キリスト教大学(Ibaraki Christian University)

2007年5月7日受付 2007年10月29日採用

産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因

The relationship between the passage of time and

factors associated with back pain in postpartum

楠 見 由里子(Yuriko KUSUMI)

*1

加 納 尚 美(Naomi KANO)

*2

小 松 美穂子(Mihoko KOMATSU)

*3 抄  録 目 的  産褥期における腰痛の経日的変化と関連する要因を明らかにすることを目的とした。 対象と方法  初産の褥婦を産後1日・5日・1ヵ月の3回追跡し,構造式面接調査およびアンケート調査を実施した。 結 果  産後1ヵ月まで追跡できた褥婦67名を分析の対象とした。腰痛保有率は妊娠末期58名(86.6%),産後 1日31名(46.3%),産後5日35名(52.2%),産後1ヵ月32名(47.8%)であった。腰痛は産褥早期に5割程 度まで有意に減少したが(p<0.001),それ以降の産褥1ヶ月間は有意な減少はないまま腰痛は残存した。  産後5日の腰痛強度は妊娠中の体重増加量が多いほど強かった(r=0.392, p<0.01)。産後5日の腰痛 による日常生活困難度は,分娩期の身体的な困難度(r=0.381, p<0.01),会陰切開・会陰裂傷による日 常生活の困難度(r=0.513, p<0.01)が大きいほど大きかった。また産後5日の腰痛保有者は妊娠中に軽 労働の就労に従事していたものほど少なかった(p<0.05)。産後1ヵ月の腰痛強度は体重減少率が小さ いほど強かった(r=­0.336, p<0.01)。 結 論  腰痛の多くは産褥早期に減少したが,産後1ヵ月経過してもなお40%以上の褥婦に腰痛が残存した。 妊娠中の適正以上の体重増加,分娩による身体的負荷(仰臥位の持続と会陰損傷),産褥期の体重減少 率の低さが産褥期の腰痛残存に関連していた。 キーワード:腰痛,骨盤痛,産褥,会陰裂傷 Abstract Purpose

The purpose of this study was to determine the relationship between back pain and the length of time in post-partum, and to identify the factors associated with those pain symptoms.

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産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因

Methods

The data were collected three times for postpartum women; one day; five days and one month after delivery. A questionnaire was carried out and the investigation was based on the results of this.

Results

There were a total of 67 postpartum women who were able to provide follow-up data until one month after de-livery. The prevalence of back pain of those who completed a full term pregnancy were 58 (86.6%), one day after delivery there were 31 (46.3%), five days after delivery there were 35 (52.2%); one month after childbirth there were 32 (47.8%). Significantly, back pain decreased to around 50% for early postpartum (p<0.001). However, during the following month postpartum there was no significant decrease, and low back pain tended to be persistent.

The back pain intensity five days after delivery was strong so there was much pregnant body weight gain (r=0.392, p<0.01). The degree of difficulty in daily living due to back pain five days after delivery was great, and the physical difficulty of being in labor was great (r=0.381, p<0.01), and therefore the degree of distress in daily living by episiotomy and perineal laceration were also great (r=0.513, p<0.01). In addition, those who suffered with back pain five days after delivery, tended to have only engaged in light labor during pregnancy (p<0.05). If the back pain intensity one month after delivery is strong, the loss of weight rate is small (r=-0.336, p<0.01).

Conclusion

In many cases back pain decreased in early postpartum. However, one month after delivery, back pain per-sisted in more than 40% of postpartum women. The persistence of back pain in postpartum was associated to the above-mentioned weight gain during pregnancy, physical stress during delivery (supine persistence and perineal breakdown), and the slow rate of weight loss postpartum.

Key Words: back pain, pelvic pain, postpartum, perineal laceration

Ⅰ.緒   言

 妊婦のおよそ50∼70%が腰痛を体験するといわれ (Fast, 1987 ; Ostgaard, 1991 ; Wang, 2004),日本でも 田代(1996),村井(2005)によって同様の結果が報告 されている。ここ10年,妊婦の腰痛は腰背部痛low

back pain(以下LBPと略す)と仙腸関節・臀部・鼠径

部・恥骨結合・大腿前面の痺れや鈍痛をもたらす骨盤 痛posterior pelvic pain(以下PPPと略す)の2つに分類 された(Ostgaard, 1991)。前者は子宮の増大による腰 椎前弯から腰背部の筋肉や脊柱に負荷がかかること, また後者は妊娠によって分泌されるリラキシンホルモ ンによる骨盤周辺の筋・関節・靭帯の弛緩が成因とさ れる。  腰痛の原因となる子宮増大は分娩の終了によって消 失する。産褥期の腰痛は妊娠中からの継続的な腰痛で あり,ほとんどは分娩後1ヵ月以内に自然消失すると いわれている(Ostgaad, 1997)。そのため産褥期の腰 痛は妊娠期の腰痛が消失する過渡期とみなされ注目さ れることは少ない。  しかし分娩後数ヶ月から6年におよぶ長期間の腰痛 残存の存在も多数報告されている(Nilsson-Wikmar, 2003 ; Ostgaard, 1992/1996b/1997 ; Noren, 2002)。 測 定方法や定義の違いから結果には差がみられるが,お よそ20%の女性に腰痛が残存するという。そのうち のおよそ10%は妊娠前からの腰痛の持続であるとい われ(Biering, 1982),妊娠・出産を機に産後長期に 腰痛残存した女性が10%存在することになる。また Ostgaard(1996a)は産後3ヶ月以後の腰痛改善は少な いといっており,産後3ヶ月が腰痛固定化のターニン グ・ポイントといえる。  腰痛が産後長期に残存する要因として,To(2003) は妊娠前・前回妊娠時からの腰痛の存在,産後の体 重増加,高齢での妊娠を報告した。分娩による影響 に関しては硬膜外麻酔を使用する欧米の出産事情によ り産褥期の腰痛と硬膜外麻酔との関連を調査した研究 が多いが,その関連は少ないといわれている(Breen, 1994)。分娩時の硬膜外麻酔の施行の少ない日本にお いても産後の腰痛残存率は欧米と大差ないことから硬 膜外麻酔との関連はないと考えられる。Mens(1996) は分娩前後のPPPの関連要因として,双胎妊娠,初産 婦,初産時の高年齢,出生児体重,鉗子・吸引分娩, 分娩時の腹部圧迫を報告しており骨盤への加重負荷が 示唆された。研究者の臨床経験でも分娩直後に腰痛が 悪化したり,妊娠中と産後では腰痛部位が変化したり するなど妊娠期の腰痛が単に消失していく過程とはい いきれない事例がみられた。産褥期は分娩による負荷 や育児という様々な要因が腰痛に影響を及ぼす可能性 が考えられる。産後長期に残存する腰痛を予防する ためには産後早期の回復を促進することが重要であり,

(3)

 本研究の目的は初産の褥婦を対象に産褥期における 腰痛の経日的変化と,それらに関連する要因を明らか にすることである。本研究では関連要因を検討するに あたり,妊娠期,分娩期および産褥期の活動に関する 自作尺度を用いた。初産の褥婦を対象に焦点としたの は,先行研究により経産婦の場合は過去の妊娠分娩経 過の影響が混在していると考えられるため,初産の褥 婦のみを対象とすることで関連要因が抽出しやすいと 考えられたからである。 〔用語の操作的定義〕 産褥期:分娩後から1ヵ月までの期間を産褥期とする。 妊産婦の腰痛:妊娠および分娩による生理的変化に よって生じる腰痛で,腰背部だけでなく仙腸関節・ 恥骨・尾骨・大腿部といった骨盤周辺の痛みを含む ものとする。分娩開始の前駆症状と考えられる痛み でも,症状が1週間以上持続し日常生活に困難を感 じる程度の場合は腰痛とする。

Ⅱ.方   法

 研究デザインは,経日的に研究対象を追跡する前向 き調査の手法を用いて,産褥期の腰痛の経日的変化と それらに関連する要因を検証した関連検証型研究であ る。 1 .研究対象者  研究対象者は単胎の経膣分娩をした初産の褥婦とし た。また褥婦および出生児の経過が良好であり,産後 1日目に母子同室となって育児が開始できることを条 件とした。調査場所は同一県内にある医療施設2施設 で実施した。2施設ともに,分娩件数は月平均50∼60 件である。分娩体位は分娩台を使用した仰臥位で,下 肢はあぶみに置き背中は産婦の希望に応じて挙上して いる。研究協力を依頼する手順として施設側から選択 基準を満たす研究対象者の紹介を受け研究者が直接依 頼した。研究者に直接断りにくいことを考慮し,看護 師長に訴えの窓口となることを依頼した。 2 .調査方法  データ収集は研究者が入院中の褥婦を訪室し研究協 力の同意を得た後,構造式面接調査およびアンケート 調査を行った。面接は①産後1日(入院中),②産後5 日(入院中),③産後1ヵ月(1ヵ月健診時)の3回実施 3 .測定用具 1 )腰痛の部位 pain drawing  面接調査にて①妊娠末期,②産後1日,③産後5日, ④産後1ヵ月の腰痛部位を質問した。腰痛部位の図 示には腰背部・骨盤部の前面・後面を組み合わせた Mens(1996)の図を引用した(図1)。Ostgaard(1991) の分類に従い,腰背部のみの疼痛部位を示すものを LBP,それ以外の骨盤部から大腿部にかけて疼痛部 位を示すものをPPP,両方の部位にまたがる場合は mixed pain(以下MPと略す)とした。

2 )腰痛の程度 VAS(Visual Analog Scale)

 面接調査にて①妊娠末期,②産後1日,③産後5日, ④産後1ヵ月の腰痛部位を質問した。 腰痛の程度を測 る尺度としてVAS (Visual Analog Scale)を用いた(図 2)。使用方法は「痛みなし」を0点,最大の痛みを10 点として被験者が記した位置を0点から測り得点とし た。 3 )自作尺度  腰痛による活動制限に関する既存の尺度は安静期間 中の産褥期の女性には適用できない項目が多く,産褥 期の女性の生活活動に合った質問項目が必要であった ため,本研究には5種類の自作尺度を使用した。回答 方法はリッカート尺度を用いて「全くそうでない」「い くぶんそうである」「ほぼそうである」「全くそうであ る」の4段階とし困難度が高いほど得点が高くなるよ 図1 腰痛部位の図示(pain drawing) Mens (1996)より引用・改変

LBP (low back pain) PPP (posterior pelvic pain)

腰背部 仙骨部

臀部・尾骨部 恥骨部 骨盤周辺部

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産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因 う配点した。因子分析には主因子法、プロマックス回 転を使用した。 a.妊娠末期の腰痛による日常生活の困難度  産後1日の面接調査時に実施した。因子分析を 行った結果,一次元10項目の尺度となった(表1)。 Cronbachのα係数は0.885であり信頼性が確認できた。 質問項目は,Salen(1994)の作成したDisability rating index(以下DRIと略す)を参考に,妊娠期を考慮した 活動内容に修正し,LBPとPPPから生じる日常生活 での困難感で構成されている。 b.分娩期の身体的な困難度  産後1日の面接調査時に実施した。因子分析を 行 っ た 結 果, 一 次 元7項 目 の 尺 度 と な っ た(表2)。 Cronbachのα係数は0.798であり信頼性が確認できた。 質問項目は,分娩台での仰臥位姿勢に関わる困難,分 娩台の昇降,点滴や分娩監視装置装着による拘束感で 構成されている。 c.会陰裂傷・会陰切開による日常生活の困難度  産後5日の面接調査時に実施した。因子分析を 行 っ た 結 果, 一 次 元4項 目 の 尺 度 と な っ た(表3)。 Cronbachのα係数は0.836であり信頼性が確認できた。 質問項目は会陰部の痛みによる日常生活の困難を表す 内容で構成されている。 d.産後5日の腰痛による日常生活の困難度  産後5日の面接調査時に実施した。因子分析を 行 っ た 結 果, 一 次 元7項 目 の 尺 度 と な っ た(表4)。 Cronbachのα係数は0.883であり信頼性が確認できた。 質問項目はDRIを参考に,育児に付随する活動内容に 修正し,LBPおよびPPPによる日常生活の困難感で 構成されている。 e.産後1ヵ月の腰痛による日常生活の困難度  産後1ヵ月の面接調査時に実施した。因子分析の 結果「腰痛による日常生活の困難感」4項目と,「育 児に伴う困難感」4項目の2因子が抽出された(表5)。 あなたが感じた痛みの程度をマークしてください。 痛みなし 最も強い痛み想像できる 0 5 10

図2 VAS(visual analog scale)

表1 妊娠末期の腰痛による日常生活の困難度の因子分析 α=0.885 因子1 共通性 ①立つ姿勢をずっと続けているとつらくなる。 ②他の人より腰・骨盤の痛みがあると感じる。 ③座る姿勢をずっと続けているとつらくなる。 ④ズボンや下着をはくとき,片足立ちになれない。 ⑤台所での立ち仕事がつらい。 ⑥腰・骨盤の痛みがあるために外出するのが億劫になる。 ⑦寝返りをすると腰がパキパキ,ミシミシする。 ⑧洗面のときなど,中腰になる姿勢がつらい。 ⑨腰・骨盤の痛みがあるために妊娠生活が早く終わればいいなと感じる。 ⑩長時間歩行しているとつらくなる。 0.739 0.723 0.707 0.654 0.647 0.645 0.644 0.641 0.614 0.607 0.651 0.574 0.545 0.363 0.430 0.406 0.424 0.588 0.493 0.562 因 子 寄 与 寄 与 率(%) 44.6654.467 表2 分娩期の身体的な困難度の因子分析 α=0.798 因子1 共通性 ①分娩台で仰向けになる姿勢がつらい。 ②分娩台でヒップアップがつらい。 ③分娩台で仰向けになり両足を足台にのせた姿勢がつらい。 ④分娩台にいると動きづらい。 ⑤モニターをつけていると動きづらい。 ⑥分娩台の昇り降りがつらい。 ⑦点滴をしていると動きづらい。 0.736 0.703 0.668 0.602 0.574 0.545 0.358 0.615 0.467 0.551 0.427 0.550 0.302 0.480 因 子 寄 与 寄 与 率(%) 37.1242.599

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Cronbachのα係数はそれぞれ0.855と0.867であり両 者とも信頼性が高かった。質問項目は産後5日の腰痛 による日常生活の困難度と同様の構成であったが,因 子分析により2因子となった。 4 )研究対象者の背景  産後1日・1ヵ月の面接調査時に実施した。質問項 目は年齢,身長,非妊時体重,体重増加,分娩週数, 出生時体重,分娩所要時間,分娩様式,妊娠中の就労 状況,家族構成,産後1ヵ月の体重減少量であった。 4 .分析方法  分析は統計ソフトウエアSPSS 13.0J for Windowsを 用いた。間隔尺度のデータには対応のあるt検定,独 立したt検定,一般線形モデル,比率に関する検定に はχ2検定,相関分析にはピアソンの積率相関係数を 算出し,有意水準は5%とした。 5 .倫理的配慮  研究対象者に承諾を得るにあたり研究協力依頼書を 提示し,辞退の権利および同意後の辞退の権利,辞 退がケアをうけるうえで不利益をもたらすことはな いこと,データは研究以外に使用しないこと,分析・ 発表に際し個人が特定されることはないこと,プライ バシーは保護されることを説明し文書にて同意を得た。 対象者の体調に留意するとともに,対象者の受ける診 療やケアに差し障りのないように配慮した。尚,研究 ①会陰の痛みや違和感が気になってよく眠れない。 ②会陰の痛みが育児をするうえで支障になっている。 ③会陰の痛みがいつまで続くのかと不安である。 ④会陰の傷のために,いつものように排尿できない。 0.790 0.776 0.744 0.714 0.623 0.603 0.553 0.509 因 子 寄 与 寄 与 率(%) 57.2122.288 表4 産後5日の腰痛による日常生活の困難度の因子分析 α=0.883 因子1 共通性 ①他の人より腰・骨盤の痛みがあるのではないかと感じる。 ②腰・骨盤の痛みによる日常生活の不自由さを感じる。 ③寝返りをすると腰がパキパキ,ミシミシする。 ④ズボンや下着をはくとき,片足立ちになれない。 ⑤赤ちゃんを抱いたまま椅子から立ち上がるときがつらい。 ⑥赤ちゃんのオムツ交換をする姿勢がつらい。 ⑦赤ちゃんを抱き上げるときの姿勢がつらい。 0.868 0.867 0.845 0.680 0.666 0.590 0.519 0.754 0.751 0.714 0.463 0.443 0.348 0.269 因 子 寄 与 寄 与 率(%) 53.4503.742 表5 産後1ヵ月の腰痛による日常生活の困難度の因子分析 因子1 因子2 共通性 【腰痛による日常生活の困難感】 α=0.867 ①他の人より腰・骨盤の痛みがあると感じる。 ②腰・骨盤の痛みによる日常生活の不自由さを感じる。 ③寝返りをすると腰がパキパキ,ミシミシする。 ④ズボンや下着をはくとき,片足立ちになれない。 【育児に伴う困難】 α=0.867 ⑤赤ちゃんを抱き上げるときの姿勢がつらい。 ⑥赤ちゃんの沐浴をする姿勢がつらい。 ⑦赤ちゃんを抱きながら椅子から立ち上がるときがつらい。 ⑧赤ちゃんのオムツ交換をする姿勢がつらい。 0.973 0.890 0.781 0.444 0.083 ­0.246 0.173 0.183 ­0.153 0.071 0.031 0.079 0.916 0.882 0.685 0.625 0.817 0.863 0.632 0.239 0.924 0.615 0.622 0.543 因 子 寄 与 寄 与 率(%) 因 子 間 相 関 4.039 50.492 0.516 1.221 15.264

(6)

産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因 産褥期間においてはいずれにも有意差はなかった。妊 娠末期の腰痛は産褥早期に減少するが,その後の産褥 経過中はほとんど変化せず産後1ヵ月経過しても残存 する傾向にあることを示した。また産後1ヵ月での腰 痛残存は妊娠初期と比較しても有意に多く(t(66)= 4.40, p<0.001),産後1ヵ月経過しても妊娠初期の状 況には戻っていなかった。分娩直後に悪化・新たに発 症したものは67名中13名(19.4%)あり,5人に1人は 産褥早期に腰痛が悪化していた。産後1ヵ月に腰痛が 残存した32名中15名(46.8%)は,産褥期間中に一時 腰痛が消失し再発した腰痛であった。 2 )腰痛部位の変化  pain drawingによって図示された部位を5領域に分 類(腰背部,仙骨部,恥骨,鼠径部・大転子部・大腿 部を含む骨盤周辺部,臀部および尾骨部)し,67名中 に占める割合を時系列ごとに表した(表7)。一時期に 複数の領域に痛みのある者は複数回答として集計した。 その結果産後1日は妊娠末期と比べてほとんどの領域 で腰痛保有率が減少する中,臀部・尾骨部だけが増加 していた。また産後1ヵ月は腰背部が再度増加していた。 5領域に分類した腰痛部位の比率を時系列ごとにχ2検 定を行った結果,妊娠末期と産後1日の比較(p<.01), 妊娠末期と産後5日の比較(p<.001),妊娠末期と産 後1ヵ月の比較(p<.001),産後1日と産後1ヵ月の比 較(p<.01)において有意差がみられた。この結果か ら妊娠末期から産褥期の腰痛部位は妊娠末期,産褥早 期,産褥1ヵ月の3つの時期に変化がみられたことを 示していた。 3 .産褥期の腰痛に関連する要因 1 )産後1日における腰痛に関連する要因  産後1日の腰痛強度に対して「妊娠中の体重増加量 (r=0.325, p<0.05)」,「妊娠前の標準体重からの体 重増加量(r=0.270, p<0.05)」に有意な相関があった。 計画書は茨城県立医療大学倫理委員会の審査を受け, 承認を得て調査を開始した。

Ⅲ.結   果

1 .研究対象者の追跡と属性  産後1日に研究協力の承諾を得たのは2施設を合わ せて74名であった。母児の体調不良や外来受診日変 更による追跡困難によって6名を除外し,産後1ヵ月 までの全データを得た67名を分析の対象とした。デー タ収集期間は2005年9月1日∼11月23日で,面接時間 は1回20分程度であった。研究対象者の属性は,年齢 28.0 4.2才,身長158.3 4.9cm,非妊時BMIは20.2 2.2kg,体重増加は11.2 4.0kg,出生児体重は3134 358g,分娩所要時間は12.9 10.0時間,産後1ヵ月の 体重減少量は7.8 2.2kg,体重減少率は75.3 23.8%で あった。分娩様式の内訳は「正常分娩」 65名,「吸引 分娩」 2名であった。妊娠中の就労状況は「なし」 29名, 「軽労働」 19名,「重労働」 19名であった。家族構成は 「核家族」 52名,「拡大家族」 15名であった。 2 .産褥期の腰痛の経日的変化 1 )腰痛保有率の変化  腰痛部位によって「PPP」「LBP」「MP」「腰痛なし」に 分類し,妊娠産褥経過による推移を表6に示した。妊 娠する以前に腰痛の既往があったものは7名(10.4%), 妊娠前から腰痛が持続していた者が4名(6.0%)で あった。妊娠初期には11名(16.4%),妊娠中期には 40(59.7%),妊娠末期には58名(86.6%),産後1日に は31名(46.3%), 産 後5日 に は35名(52.2%), 産 後 1ヵ月には32名(47.8%)であった。一般線形モデルの 検定により①妊娠末期と産後1日の比較,②妊娠末期 と産後5日の比較,③妊娠末期と産後1ヵ月の比較に は有意な差があった(F(3,264)=13.19, p<0.001)が, 表6 腰痛保有率の変化 腰痛なし 腰痛あり (腰痛ありの内訳) PPP LBP MP 妊 娠 前 63(94.0%) 4( 6.0%) 妊 娠 中 期 27(40.2%) 40(59.7%) 妊 娠 末 期 9(13.4%) 58(86.6%) 52(77.6%) 1(1.5%) 5(7.5%) 産 後 1 日 36(53.7%) 31(46.3%) 29(43.2%) 1(1.5%) 1(1.5%) 産 後 5 日 32(47.8%) 35(52.2%) 31(46.2%) 4(6.0%) 0(0.0%) 産 後1ヵ 月 35(52.2%) 32(47.8%) 24(35.8%) 6(9.0%) 2(3.0%) 検定法:一般線形モデル   ***p<0.001 *** *** ***

(7)

妊娠中の体重増加量が大きいほど産後1日における腰 痛は強くなることを示した。 2 )産後5日における腰痛に関連する要因  産後5日の腰痛強度および腰痛による日常生活の困 難度の2つを従属変数とし相関のみられた独立変数の 項目を抽出した(表8)。妊娠期との関連では「妊娠中 の体重増加量(VAS:r=0.392, p<0.01)(困難度:r= 0.308, p<0.05)」,「妊娠末期の腰痛による日常生活の 困難度(VAS:r=0.426, p<0.01)(困難度:r=0.466, p<0.01)」に相関があった。妊娠前の妊娠中の体重増 加量が大きく,妊娠末期の腰痛による日常生活の困難 度が強度であるほど産後5日における腰痛が強いこと を示した。分娩期との関連では「分娩期の身体的な困 難 度(VAS:r=0.297, p<0.05)(困 難 度:r=0.381, p <0.01)」,「会陰裂傷・会陰切開による日常生活の困 難度(VAS:r=0.278, p<0.05)(困難度:r=0.51, p< 0.01)」に相関があった。分娩時の身体的困難度および 会陰裂傷・会陰切開による困難度が大きいほど産後5 日における腰痛は強いことを示していた。また妊娠中 の就労状況に関して,産後5日に腰痛がなかったもの は「軽労働の就労」と答えたものが有意に多かった(p <0.05)(表9)。 3 )産後1ヵ月における腰痛に関連する要因  産後1ヵ月の腰痛強度および腰痛による日常生活の 困難度の2つを従属変数とし相関のみられた独立変数 の項目を抽出した(表10)。妊娠期との関連では「妊娠 中の体重増加量(VAS:r=0.489, p<0.01)(困難度:r =0.498, p<0.01)」,「妊娠末期の腰痛による日常生活 の困難度(VAS:r=0.379, p<0.01)(困難度:r=0.463, p<0.01)」に相関があった。産褥早期と同様に妊娠中 の体重増加量が大きく,妊娠末期の腰痛による日常生 活の困難度が強度であるほど産褥1ヵ月における腰痛 も強いことを示していた。分娩期における要因との関 連では「分娩期の身体的な困難度(困難度:r=0.381, p<0.01)」,「会陰裂傷・会陰切開による日常生活の 困難度(困難度:r=0.407, p<0.01)」に関連がみられ た。分娩時の身体的困難度および会陰裂傷・会陰切開 による困難度が強いほど産後1ヵ月においても腰痛に よる困難度は強いことを示していた。産褥期における 要因との関連では「産後1ヵ月の体重減少率(VAS:r =­0.336, p<0.01)(困難度:r=­0.345, p<0.01)」「産 後5日の腰痛強度(VAS:r=0.482, p<0.01)(困難度: r=0.485, p<0.01)」に相関があった。体重減少率が小 さく産後5日の腰痛が強度であるほど産後1ヵ月にお ける腰痛は強いことを示していた。  以上から産褥期の腰痛は,「妊娠期の体重増加」「妊 娠中の就労状況」「分娩による身体的負荷」「産後1ヵ月 妊 娠 末 期 66(65.7%) 34(34.3%) 13(13.4%) 12(11.9%) 6( 9.0%) 産 後 1 日 22(32.8%) 3( 4.5%) 1( 1.5%) 11(16.4%) 2( 3.0%) 産 後 5 日 26(38.8%) 0( 0.0%) 2( 3.0%) 7(10.4%) 3( 4.5%) 産 後1ヵ 月 23(34.3%) 0( 0.0%) 2( 3.0%) 2( 3.0%) 8(11.9%) 検定法:χ2検定  **p<0.01 ***p<0.001 ** *** *** ** 表8 産後5日における腰痛関連因子と腰痛強度・日常生活の困難度との相関 産 後 5 日 (VAS)腰痛強度 腰痛による日常生活の困難度  【妊娠との関連】   妊娠中の体重増加量   妊娠末期の腰痛による日常生活の困難度 rr=0.392**=0.426** rr=0.308*=0.466** 【分娩との関連】   分娩期の身体的な困難度   会陰裂傷・切開による日常生活の困難度 rr=0.297*=0.278* rr=0.381**=0.513** 検定法:ピアソンの積率相関係数  *p<0.05 **p<0.01 表9 産後5日における腰痛の有無に関連する要因 妊娠中の就労状況 就労なし 就労あり軽労働 就労あり重労働 産後5日腰痛あり(n=34) 17 5 12 産後5日腰痛なし(n=36) 12 15 9 検定法:χ2検定  *p<0.05

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産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因 の体重減少率」に関連があった。なお身長や年齢など の身体的特性,分娩様式,分娩所要時間,出生児体重 には関連はみられなかった。

Ⅳ.考   察

1.産褥期の腰痛の経日的変化  妊娠期の腰痛保有率は先行研究と比較すると全期間 にわたり上限または上回る結果となった。産後1ヵ月 の腰痛保有率はBreen(1994)の44%,大藤(1996)の 44.4%と比較するとおおむね先行研究と一致する。妊 娠末期の腰痛保有率は通常6∼7割程度といわれるが, 今回の87%と高い値を示した理由として胎児下降感 の症状といわれる鼠径部痛等も含まれていたことが考 えられる。本研究では1週間以上痛みが続く場合は生 活上の困難があると定義し,腰痛ありと判断した。妊 産婦の場合何をもって腰痛ありとするかの判断は難し く,アンケート調査が多い先行研究では把握しきれて いないと考えられる。また本研究では初産婦を対象と 限定しており,経産婦が含まれる先行研究との差異が 生じている可能性も考えられる。産褥早期に腰痛保有 率及び腰痛強度は有意に減少するが,それ以降有意な 減少はなく持続傾向であるという結果が示されたこと は,大藤(1996)の報告と一致する。  腰痛部位の変化に関しては妊娠末期・産褥早期・産 褥1ヵ月と3つの時期に変化していたことが示された。 産褥早期における臀部・尾骨部の腰痛残存は,分娩中 仰臥位など同一姿勢の長時間持続による圧迫刺激,及 び分娩時に胎児が骨盤通過する際の影響と推察される。 また産褥1ヵ月における腰背部の増加は,中腰から児 を抱き上げる姿勢や児を長時間抱くなどの育児活動に よって,腰背部の筋肉の疲労を惹き起こしたものと推 察される。産褥期は骨盤靭帯のゆるみや骨盤底筋群・ 腹筋が回復する過渡期であり姿勢変化から来る圧力に 影響を受けやすい時期である。産褥期の腰痛の速やか な消失を促すにはこれらの影響要因を少なくすること が必要である。 2 .産褥期の腰痛に関連する要因 1 )妊娠期・産褥期の体重変化  妊娠末期から産褥期間全期における腰痛と妊娠中 の体重増加は関連がみられ,体重増加量が多いほど 腰部・骨盤への負担が大きく腰痛が残存しやすいこと が明らかとなった。先行研究では妊娠期の体重増加お よび妊娠前の肥満度と腰痛残存との関連は明確にされ ていない。Breen(1994)は妊娠中の体重増加の多さと 低身長,大藤(1996)・村井(2005)は痩せ型の体形と 長身の人が産後に腰痛残存しやすいと報告した。田 代(1996)は妊娠期の腰痛発症率と体重増加,肥満度, 出生児体重は関連がないと報告した。調査対象や調査 方法の違いから一概に先行研究と比較することはで きないが,妊娠中の体重増加に関連ありとするBreen (1994)の報告と一致し,体型・身長・出生児体重と は関連がなかった。  さらに産後1ヵ月の腰痛は妊娠前の体重を基準とし た体重減少率と関連があり,体重が妊娠前の状態に近 くなるほど腰痛の強度は軽減することが明らかとなっ た。妊娠中の適正以上の体重増加や産後の体重減少が 少ない場合は,脊柱・骨盤への加重負荷が残り,産 褥期の腰痛消失にも時間がかかると考えられる。To (2003)は産後2年に腰痛が残存する者の要因として産 後の体重増加を報告したが,本研究では産後1ヵ月と いう分娩後の短期間の調査においても体重減少の少な さが産褥期の腰痛残存の要因となっていたことが示さ 表10 産後1ヵ月における腰痛関連因子と腰痛強度・日常生活の困難度との相関 産 後 1 ヵ 月 (VAS)腰痛強度 腰痛による日常生活の困難度  【妊娠との関連】   妊娠中の体重増加量   妊娠末期の腰痛による日常生活の困難度 rr=0.489**=0.379** r=0.498**r=0.463** 【分娩との関連】   分娩期の身体的な困難度   会陰裂傷・切開による日常生活の困難度 nsns r=0.381**r=0.407** 【産褥との関連】   産後5日の腰痛強度   産後1ヵ月の体重減少率 rr=0.482**=­0.336** r=0.485**r=­0.345** 検定法:ピアソンの積率相関係数  **p<0.01  ns:no significant

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 産褥期の腰痛は「分娩期の身体的な困難度」と「会陰 裂傷・会陰切開による日常生活の困難度」が高いほど 腰痛が残存しやすいという結果となった。本研究では 正常分娩の多い対象であったが,そのような条件下に おいても分娩時の困難度が腰痛に影響を及ぼすことが 明らかとなった。また腰痛部位の変化においても産褥 早期における臀部・尾骨部の疼痛が残存していた。こ のことから仰臥位・砕石位など同一姿勢の長時間持続 による圧迫が臀部・尾骨部への疼痛をもたらしたと推 察される。腰に負担のかからない姿勢での出産という 視点をもつ必要がある。  また会陰裂傷・会陰切開による腰痛への影響が明ら かとなった。一見すると腰痛とは何の関係もないよう に感じられるが,その機序として2点考えられる。ま ず1つは創部痛による姿勢の変化である。会陰の損傷 が大きく創部痛が強い女性は,立位の姿勢をとるとき 左右の足の幅を大きくとり前傾姿勢で歩行する。両足 の幅をとることで会陰部が重なり創部痛を誘発するの を防ぐのである。また前傾姿勢をとると臀部中央の重 なりが広がり会陰部の刺激を少なくできる。両足を開 いた前かがみの姿勢で歩行することは,姿勢を保持す る筋肉の負担となり腰痛を惹起していると考えられる。 2つめには会陰損傷による骨盤底筋の回復遅延である。 Rockner(1991)は,会陰切開群は自然裂傷群・裂傷な し群と比べて骨盤底筋の強さの低下が大きく,重度の 会陰損傷は骨盤底筋の回復を遅延させると報告した。 会陰の損傷よって,骨盤底筋群とともに骨盤臓器を支 持する腹筋や背筋および骨盤の関節に負担がかかり腰 痛の消失を遅延させると推察される。会陰損傷による 姿勢の変化および骨盤底筋の回復遅延が産褥期の腰痛 消失にも関連していたことは産褥期の回復を考えるう えで重要である。  腰痛は不定愁訴の一つとくくられがちであるが,妊 娠と分娩による身体の生理的変化と腰痛の発生機序を 再考することにより産褥期における腰痛の悪化予防と 早期消失を促進できると考えられる。  本研究の限界として,今回の調査は分娩後1日より 行われており,妊娠期・分娩期のデータは後ろ向き調 査によるものである。妊娠期の影響を分析するには妊 娠期からの調査を行うのがより確実な方法である。 施にご協力いただきました施設の皆様に深く感謝申し 上げます。  なお本研究は,2005年度茨城県立医療大学大学院保 健医療科学研究科修士論文に加筆・修正したものであ る。 文 献

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産褥期の腰痛の経日的変化と関連要因

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