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ミストを利用した薄膜成長技術及び加工技術の開発。

川原村 敏幸1, 平尾 孝1, 藤田 静雄2, 吉田 章男3, 織田 容征3, 白幡 孝洋3, 畑野 良3, 森 一晴3 1高知工科大学 ナノデバイス研究所 〒782-8502 高知県香美市土佐山田町宮ノ口 185 2京都大学大学院 工学研究科電子工学専攻 〒615-8502 京都市西京区京都大学桂 2 ローム記念館 315 3東芝三菱電機産業システム株式会社 〒650-0047 神戸市中央区港島南町 5-5-2 KIBC 608 1.緒言 1.1. ミストとは 我々が現在主力を尽くして開発に取り組んでいるのが、ミスト化した原料溶液を基板上に搬送し反応させ る手法「ミスト法」である。本報ではこのミスト法に関して、その原理や特性について説明し、ミスト法を 用いて作製した透明導電膜(Transparent Conductive Film: TCF)の電気特性や光学特性について簡単に紹介 する。 さて、この技術を説明するに当たって、まずはミストについて語らなければいけない。最近、加湿器や美 容器などに、ミストという言葉がよく用いられているが、材料のどのような状態を表すかご存じであろうか。 ミストとは、速度を持たず空中に浮遊している液滴もしくはその集合体のことを言う。同意語としてスプレ ー等の言葉が存在するが、スプレーとは、スプレーする等の意味が表すように、液滴を吹き付けるという意 味を持つ。両方とも液滴のことを意味するが、その状態については大きな差異が存在する。一般にこの差異 は軽視されがちであるが、薄膜成長に適応させるときは非常に重要な要素となり、我々はこの性質を重宝し ている。本報では、このことに関して深く理解して頂こうと思う。 1.2. ミスト法とその歴史 ミスト法は、I. 溶液を何らかの手法で「ミスト(霧)状」とし、II. キャリアガス等によって搬送し、III. 熱 などを加え反応させる、という非常に単純なプロセスからなる手法である(図 1)1)。これを成膜に用いるとき

ミスト化学気相成長(mist Chemical Vapor Deposition: mist CVD)法やミスト気相エピタキシー(mist Vapor Phase Epitaxy: mist VPE)法等と呼び、エッチング加工に用いるときミストエッチング(mist etching)法と呼 ぶ。装置としては、特殊な部品や真空を必要とせず簡単な構成が可能で、汎用高純度試薬を原料として用い ることができる。そのため、高エネルギー付与を必要としない、安全で低コストで環境負荷の少ない手法で ある。 本手法は古くは1980 年頃より開発がされていたようである2)が、2003 年頃より京都大学藤田研究室にお いて著者らが、ミストガスの整流を工夫することによって大面積に渡り均質な薄膜を作製する為の技術開発 に取り組みだして以降、多くの研究が進められ、最近になってミスト法の原理などが判明してきた 3)。その 中でも最大の特徴が、マイクロサイズ・サブマイクロサイズの液滴、つまり「ミスト」を扱うことにある。こ の程度のサイズであるミストは、液体であるが搬送が可能であり、僅かな雰囲気の変化で簡単に気化するた め、液及びガスの両方の性質を兼ね備えている。この両性質が薄膜の成長や加工に対して非常に特異な性質 を発揮する。 本報では、まずミストの発生技術を説明し、ミスト法の位置づけを明確にし、スプレー法との差異につい て論及し、ミスト法を利用した薄膜成長として酸化亜鉛(ZnO)透明導電膜の開発について紹介する。

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2.液滴について 2.1. 液滴の発生技術 ミスト法について説明する前に、ここではミストやスプレーなどの液滴を発生させる技術について説明す る。液滴を発生させる技術は大別すると、熱によって蒸気化したガスを凝縮させる方法と、物理的に液を千 切り液滴を発生させる手法の2 種に分類することができる(図 2)4)。前者は、揮発性成分と不揮発性成分を分 離することができるが、逆に言えば、不揮発性成分が溶解した溶液を原料として用いるような薄膜成長には 適応することができない。また、加熱が必要であり液滴サイズの制御が直接的には難しい。後者はスプレー や超音波噴霧などに代表され、揮発性成分だけではなく不揮発性成分も同時に液滴とすることが可能であり、 サイズや温度を制御する事ができる。 薄膜成長に用いられる各種液滴発生方式について、その発生時の液滴サイズと一滴あたりの液適量、液滴 サイズの標準偏差、発生液滴を空中へ滞留させられるか否かを表にした(図 2 右下)。水蒸気が凝結する場合(ス チーム式)も比較として掲示した。加圧式は現在最も一般的に用いられている手法であり、圧縮した空気や高 圧ガスを用いて、液体を霧状とし飛散させる方法である。液滴サイズは10m 以上でありその分散も比較的 大きい。加圧式には、邪魔板や邪魔壁を用いることによって大きな液滴を捉え分級するという手法も有り、 サブミクロンオーダの液滴を生み出す方法もある。ただし分級によりその発生量は非常に少なくなる。回転 ディスク式は、高速回転しているディスク上に液体を滴下し、遠心力によってディスク端で霧状にして飛散 させる方法である。いずれの方法もスプレー法として良く用いられている。ピエゾ式やサーマル式はインク ジェット法などで用いられる様に、サイズの揃った液滴を位置制御して供給することが可能であるが、10m 以下のサイズの液滴を生成するのは困難だとされている。超音波式は超音波振動子を用いて液滴を大量に発 生させる方法であり、数m 程度の均一な液滴を得ることが得きる。静電式は、液滴を噴霧する細管に直流 もしくは交流の電圧をかけて液体を霧状とする手法であり、その液滴サイズはサブミクロンオーダと非常に 希釈ガス 原料供給部 搬送ガス 反応部 基板 熱 超音波 振動子 排ガス アシスト ガス II I III 図1 ミスト法の概略図 図2 各種液滴生成技術とその比較 液を物理的に 微小液滴化 冷えて凝結した液滴 水蒸気 ・液、固(微粒子)を同時に霧化可能。 ・液体の温度を一定にできる。 ・液滴サイズの制御が可能。 注意:ウィルス・微生物なども混入 注意:熱い 加圧式 加圧式+ 分級 回転ディスク式 ピエゾ式 サーマル式 超音波式 静電式 スチーム式 液滴サイズ [mm] > 10 0.7 - 6 3 - 150 10~ 10~ 1-10 0.3-4 5~1000 標準偏差 - ≒1.5 ≒1.1 - - ≒1.5 - - 発生液滴滞留 の可否 × × × × × ○ ○ × 液滴量 [L] 数p 数百a~数p 数十f~数p 数p~ 数p~ 数百a~数p 数十a~数十f 数十f~数m ・揮発成分、不揮発成分を分離できる。(蒸留) ・加熱が必要。 ・液滴サイズ制御の機構は別に必要。

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小さいが、その一方で発生量は非常に少なくなる。 それぞれの液滴発生技術は、発生した液滴を空中に滞留させられるか否かで分類することができる。加圧 式や回転ディスク式等は、液滴発生時に大きな初速度を有し、同時に液滴サイズが比較的大きく重力空間で はすぐに落下してしまう為、空中に滞留させることができない。一方で、超音波式や静電式は発生時の初速 度は非常に小さく、液滴サイズが比較的小さい為、空中で滞留することが可能である。この違いは原料の取 り扱い方法として大きな差異を生じる。つまり、加圧式等の場合(スプレー)では、直接基板に対して原料を 吹き付けなければならず、液滴が空中に滞留できる超音波式等の場合(ミスト)は、整流することが可能であ る。これがスプレーとミストの違いであり、スプレーとミストでは均質膜を作製する為の技術開発が異なっ てくる。我々が開発しているミスト法では液滴が空中に滞留することが可能である超音波噴霧を利用してお り、これまでに整流技術を工夫することによって均質膜を作製することに成功してきた。 2.2. 超音波噴霧によるミストの発生 ところで、超音波噴霧の原理について簡単に紹介しておこう。超音波の振動エネルギーを液体に与えると、 液面や液内部に周波数固有のキャピラリ波(毛細表面波,capillary wave)やキャビテーション(空洞現象, cavitation)が発生し、液面に無数の毛細表面波ができる。このときその振幅が液の表面張力や重力よりも大 きくなると、液の規則的分裂が起こり、液体が噴霧する(図 3)5)。加えて、毛細表面波によって水の表面張力 が減少し、霧状になりやすくなると言う報告もある。超音波による液体噴霧の原理は様々な説が提唱されて いるが、上述した原理はそれらの中でも最も有力な説である。また、一般に音源は面状であるため、周波数 に応じて空間的に音圧の強弱が生じ、指向性が生じる(図 4)。このため可聴音よりも遙かに効率よく音が集約 し、効率よくミスト化できる。我々が通常用いている周波数(2.4 MHz)であれば、理論的には 3m 程度の液 滴が発生していることになる6) 3.ミスト法の位置づけ 以上で記載したように、発生した液滴を空中に滞留させることが可能な液滴発生技術を利用しているミス ト法であるが、各種薄膜作製法と区別するとどういった利点があるのであろうか。本節ではそれに関して説 明する。 3.1. 薄膜成長法の分類 我々の身の回りに存在する電子機器には、機能薄膜から構成された電子デバイスが用いられている。その 為これらの機能薄膜を作製する方法は、これまでに多くの手法が提案されてきている。よく教科書などで見 0 atm 1 atm 0 atmを下回る。 高音圧 低音圧 分子間の急激な分裂や破裂 等を引き起こす 超音波の 振動エネルギー 表面キャピラリー波 ミスト 液柱 液滴が千切られ飛散する。 図3 超音波による噴霧メカニズム概念 2.0rc 1.0rc 0 [kg·s/m2] 20 10 0 [cm] 5 0 図4 超音波の指向性

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られる薄膜作製手法の分類は、図5 に示す様に、気相成長、液相成長法と反応時の原料の状態で大別され、 気相成長法は更に原料をどのように反応させるかによって、物理気相成長(Physical Vapor Deposition: PVD) 法と化学気相成長(CVD)法とに大別される。物理気相成長(PVD)法は、固体原料を、熱や、プラズマ、イオ ンビーム、電子線などによって、昇華、原子化、分子化、イオン化して基板上に薄膜を形成する手法で、基 本的には真空プロセスで、巨大で複雑で緻密性の高い装置が必要である。一方で化学気相成長(CVD)法では、 ガス状の原料を基板に供給し化学反応により薄膜を成長させる。原料が液体であれば気化させ、固体であれ ば溶媒に溶解した後気化させ、薄膜を成長する。 これらの手法は反応の観点から考えると、平衡反応系と非平衡反応系に分けられる。全ての物理気相成長 (PVD)法と一部の化学気相成長(CVD)法は非平衡反応系であり、一般的な化学気相成長(CVD)法や液相成長 法は平衡反応系である。非平衡反応系では反応を無視できる為、原料の組成、ガス種、圧力、印加電力など の成膜条件が、均質な薄膜や結晶性の高い薄膜の決め手となる。一方で平衡反応系では、化学反応について も考慮しなければいけないため、均質な薄膜や結晶性の高い薄膜を作製するのは非平衡反応系に比べ難しく なる。しかしながら、平衡反応系は非平衡反応系に比べ穏やかに成長が進み、歪み(ストレス)やダメージの 少ない薄膜が作製できる等の利点がある。 3.2. 平衡反応系におけるミスト法 一般に平衡反応系では原料の状態を操作することは重要な要素である。つまり、供給時には安定で反応時 には高活性な材料が理想的である。しかしながら温度や圧力や雰囲気等を変化させることなしに、自発的に その状態を変化させる材料は存在しない。そこで、原料に関して全く対照的な二つの手法が考案された。非 常に活性力が強い材料を用いる手法と、標準状態で安定な材料を用いる手法である。前者は熱化学気相成長 (CVD)法や有機金属化学気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法等に当たり、非常 に活性力が強く蒸気圧の高い材料を真空下や不活性ガス中で保持し、反応炉にて活性ガス等と混合させる事 により基板表面もしくは気相で反応させ、薄膜を成長させる手法である。後者は、ゾル・ゲル法や塗布法等の 液相成長法(ソルーションプロセス)であり、標準状態で安定な原料を基板上に塗布もしくは噴射し、熱や電 界等のエネルギーを付加し基板表面にて反応させ、薄膜を成長させる手法である。その為一般に熱化学気相 成長(CVD)法や有機金属化学気相成長(MOCVD)法等では、用いられる原料は危険性を伴い、安全に対する装 置構成やシステム設計が必要になるが、不純物の混入が少なく結晶性の高い薄膜を得られる。一方で、標準 状態で安定な原料を扱う液相法では、溶液中に存在する不活性成分が薄膜中へ残留することや、反応に伴う 液から固への体積変化によって生じるクラックや剥離などの発生が避けられないが、装置構成が非常に簡単 図5 各種薄膜成長法 気相成長法 物理気相成長 (PVD) 化学気相成長 (CVD) 真空蒸着法 抵抗加熱・電子ビーム・電磁誘導加熱 MBE法 蒸着重合法 イオンプレーティング法 高周波・ホロカソード(HCD)・反応性 ALD 容量結合・誘導結合・マイクロ波 メッキ法 ゾル・ゲル法 塗布法 スピンコート・ディップコート スプレー法・印刷法 インクジェット法 プラズマCVD スパッタ法 DC・RF・マイクロ波・マルチアーク イオンビーム 反応性 熱CVD MOCVD 液相成長法 (ソルーション プロセス) ミスト法,ミストCVD法 非平衡反応 平衡反応 活性力の高い原料 気化しやすい原料 安定な原料

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になり汎用試薬を用いることができ、環境負荷が少なく初期投資コスト維持コスト共に安価になる。 ミスト法では基本的に、標準状態で安定な原料の溶液をミスト化させる。ところが、ミストは先にも述べ た通り僅かな雰囲気の変化で簡単に気化する。つまりミスト法は、安定な原料をミスト化することによって 活性力の高い状態にし反応炉にて薄膜を成長させる、まさに両者の特徴を生かした手法である。 3.3. ミスト法とスプレー法の差異 ミスト法とスプレー法の大きな違いは、空中に滞留させることが可能な液滴(ミスト)を用いているか、滞 留させられない液滴(スプレー)を用いるかである。実際に液滴のサイズからすると、ミストはスプレーより も更に一桁以上小さい。このためミストは重力空間中でも落下速度が非常に遅くなり、空中に滞留させるこ とが可能になる(図 6)7)。その為、ミスト法では搬送が可能となり、整流することにより均質な薄膜を作製す る事ができるようになる。つまりスプレー法よりも原料の取扱について一つ自由度が高いわけである。この 自由度の高さは、単にそれだけでは終わらない。スプレー法では一般に、原料液を基板上に直接塗布させた 後反応させるか、原料を基板到達前に気化させ反応させるかである。ところが、ミスト法では、整流を工夫 させることにより、液滴を基板近傍まで搬送させることができ、ライデンフロストという加熱基板上に接触 する直前瞬時に液滴表面がガス化し液滴自身が直接基板に付着せず浮遊する現象を用いて、気相で反応させ ることも可能となる(図 7)8)。我々が開発しているミスト化学気相成長(CVD)法では、この原理を大いに利用 している。実はミスト法で扱うサイズの液滴の蒸発速度は、想像よりも遙かに遅く数~数百ms ほどかかる。 これらの液滴が反応空間に対して1 秒間に数億個も供給されるため、液滴自体がマイクロサイズの超微細な 分散型原料供給源とも言える。そのため、原料消費による膜厚ムラの発生を抑制することが可能となる。一 般的な化学気相成長(CVD)法では、原料供給側から下流側に向けてムラが発生するため基板を回転させる等 の工夫を行っている。 つまりミスト法は、スプレー法のように汎用的な試薬を扱え、化学気相成長(CVD)法のように均質な薄膜 を作製できるため、スプレー法と化学気相成長(CVD)法の中間的手法であると定義できる。 4.ミスト化学気相成長(CVD)法による透明導電膜の作製 4.1. 透明導電膜(TCF)の現状と各種問題及びその解決策

透明導電膜(TCF)は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display: LCD)やプラズマディスプレイ(Plasma Display Panel: PDP)などのフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display: FPD)や、各種太陽電池、タッ

図6 液滴落下速度と滞留時間液滴サイズ(mm) 10-2 100 102 落 下 速 度 v (m m /s ) 10-6 10-3 100 103 v ミスト (一般)スプレー ミスト法 (超音波式) スプレー法 質量速 熱 流 速 局所的な高圧状態 高効率な反応 基板近傍での液滴の挙動 図7 ミストの挙動 加熱 + 蒸発 蒸発 + 拡散 加熱 1 ~ 100 ms 気相中での液滴の挙動 5mm 程度の場合 加熱基板上ではミスト液滴は瞬時にガス化し 液滴が基板に付着せず気相に浮遊する。 ( ライデンフロスト現象 )

J.G. Leidenfrost, Duisburg on Rhine (1756)

薄膜 基板

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チパネルや電子ペーパー、有機EL(ElectroLuminescence)ディスプレイ・照明等のフレキシブルデバイス等、 あらゆる電子デバイスに対して利用されており、現代社会にとって非常に重要な材料である。現在最も良く 用いられている透明導電膜(TCF)は、酸化インジウム錫(Indium Tin Oxide: ITO)、酸化錫弗素(Fluorite Tin Oxide: FTO)、酸化亜鉛(Zinc Oxide: ZnO)等の酸化物であり、これらは透明導電酸化膜(Transparent Conductive Oxide film: TCO)と呼ばれる。この中でも酸化インジウム錫(ITO)は、最も導電性が良く、スパ ッタリング(Sputtering: SPT)などの手法で作製でき簡便で再現性が良い等の理由から、現在非常に多くの電 子デバイスに用いられている。しかしながらその主原料であるインジウム(In)は希少金属(レアメタル)であり、 価格や供給の安定性に関して大きな問題を抱えている。図8 に各金属の価格の推移を示すが、インジウム(In) の価格は非常に高く、需要の変動により価格が激しく変動していることが分かる。そこで最近は、その代替 材料を用いた透明導電酸化膜(TCO)に注目が集まっている。 その一つに酸化錫弗素(FTO)がある。酸化錫弗素(FTO)は主材料である錫(Sn)はインジウムと比較し豊富に 存在し、資源問題が無く酸化インジウム錫(ITO)と同等の性能を発揮できる為、各種電子デバイスへの適用を 期待されている。しかしながら、スパッタリング用のターゲットの作製が難しい点や、弗素(F)を用いている 事による環境負荷の高さなどに課題がある。 また、酸化亜鉛(ZnO)も FTO 同様、亜鉛(Zn)がインジウムと比較し資源問題が無く、簡便で再現性の高い スパッタリング(SPT)9)の他、イオンプレーティング 10)、パルスレーザーデポジション(Pulsed Laser Deposition: PLD)11)などの手法が用いられ、酸化インジウム錫(ITO)と同等の性能を発揮できる等、各種電子 デバイスへの適用を期待されている。特に錫(Sn)を含む酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫弗素(FTO)等の透明 導電酸化膜(TCO)の適応が不可能な CIS 系太陽電池の透明導電酸化膜として実用化されている。 一方でこれらの透明導電酸化膜(TCO)を作製するための技術は、スパッタリング(SPT)、イオンプレーティ ング、パルスレーザーデポジション(PLD)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、プラズマ化学気相成長 (Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition: PE-CVD)法等と、非常に多くの手法が開発され、それぞれ の製品に適した手法が選択されている。一般にこれらの方法の全てが真空状態で行われている。これは不純

物の混入の予防や、反応性が高く危険な原料の使用、プラズマの安定的な発生等の為であり、特に 1980 年

代後半からは真空状態での薄膜作製技術が主体となってきた。しかし常に真空状態を保つ必要があり、運転 コストが非常に高く、安全面やメンテナンス等、近年の環境保全に対して非常にマイナスな点を有している。 また同時に、酸化物薄膜を真空中で作製すると酸素欠陥(Oxide Vacancy: Vo)が発生しやすく、酸化インジウ ム錫(ITO)、酸化錫弗素(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)に関してもそれらの欠陥が問題となり、高結晶化の妨げや電 気特性の低下、透過率の低下などの要因となっている。そのため最近では、透明導電酸化膜(TCO)の作製手 法として大気圧中での薄膜成長技術「ソルーションプロセス(液相成長法)」が再び脚光を浴びている。ソル ーションプロセス(液相成長法)は、装置構成が単純で汎用性の高い汎用試薬を原料として利用でき安全性が 高い等の利点がある。かつては不純物の混入やダスト発生などの問題、熱対流の発生による均一な薄膜作製 図8 インジウム (In)、錫 (Sn)、亜鉛 (Zn) の価格の推移 1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 10-1 1 101 102 103 西暦( 年 ) 価 格 ($ /k g) インジウム(In) 錫(Sn) 亜鉛(Zn) * U.S. Geological Survey

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が困難であるなどの欠点が無視できなかったが、最近では技術の発展によりこれらの欠点を解決する手法が 考案されてきており、非常に高品質な薄膜が作製できるようになってきている。 そこで我々は、透明導電酸化膜(TCO)として資源問題や環境問題の少ない酸化亜鉛(ZnO)薄膜を作製する為 に、環境負荷が少なく運転経費の節約が可能な新規技術として、ミスト化学気相成長(CVD)法に着目し開発 してきた。 4.2. ミスト化学気相成長(CVD)法で作製した酸化亜鉛(ZnO)薄膜の特性 現在我々が開発を行っているミスト化学気相成長(CVD)法は、大別すると 3 つのタイプがある 3)。その中 でも最も効率よく薄膜を作製する事が可能であるファインチャネル(Fine Channel: FC)式のミスト化学気相成 長(CVD)システムやそれを応用したシステムを用いて酸化亜鉛薄膜を作製している。システムの外観図と高 知工科大学で実際に用いている装置の写真を図 9 に載せる。本システムを用いて酸化亜鉛薄膜に対して Al や Ga 等をドーピングしたり、溶液を工夫したり、支援ガスなどの供給により、低温化及び赤外領域におけ る透過率の制御などに成功している。2007 年頃から現在に至るミスト化学気相成長(CVD)法で作製した酸化 亜鉛透明導電膜の研究成果について、図10 にまとめた。ミスト化学気相成長(CVD)法による酸化亜鉛透明導 電膜の最終的な開発目標は、基板温度200°C 以下の条件で透過率:90%以上、シート抵抗値:10 /□以下で ある。また面内膜厚均一性については、600 mm × 1200 mm 基板へ±10%以下を目標としている。2011 年度現 在で基板温度、透過率、シート抵抗値は、200°C にて 90%、50 /□、面内膜厚均一性は 200 mm 角基板に± 10%以下を達成しており、まもなく本技術を事業化へ転用できる見込みが立ってきた。 図9 ファインチャネル (FC) 式ミスト化学気相成長 (CVD) システムの概略図及び実装置写真 高知工科大学ナノテクノロジー研究所 にある卓上簡易FC型ミストCVDシステム 希釈 ガス 排ガス ヒーター 反応炉 高さ1 mm 基板 ミスト混合部 Fine Channel構造 原料供給部 薄膜成長部 ミスト 超音波振動子 原料溶液 キャリア ガス 支援ガス 図10 ミスト CVD 法で作製した酸化亜鉛薄膜とその特性 赤外領域における透過率の制御 Add.2 支援量 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 10.0 500 1000 1500 2000 2500 Wavelength [nm] T ra nc em it ta nc e [% ] 100 80 60 40 20 0 Ga-doped ZnO Add.2 支援量の調整により 赤外の透過率を制御可 可視光透過率 90% 以上 シート抵抗の制御 Ga-dope + Add.1 & Add.2

Ga-dope + Add.2 Al-dope double mist 100 200 300 400 500 107 106 105 104 103 102 101 S he et R es is ta nc e [W /□ ] Substrate Temperature [°C] 120°C から 製膜が可能! 現在開発中! (2007) (2008) (2008) (2010) 開発目標! 200 mm 角基板上に成長 した酸化亜鉛(ZnO) 薄膜

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5.まとめ 速度を持たず大気中に滞留させられ自由度の高い「ミスト」を整流することによって均質な薄膜の作製が 可能であるミスト化学気相成長(CVD)法について、理論面から実用まで簡単に紹介した。より詳しく本技術 に関する情報を入手したい時は、参考文献3 や著者の Web ページ(http://www.nano.kochi-tech.ac.jp/tosiyu ki/index.html)を参照して頂けたらと思う。また、本技術に関する相談などがあれば、連絡頂ければ幸いであ る。

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参考文献

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図 6 液滴落下速度と滞留時間 液滴サイズ (mm)10-2100102落下速度v(mm/s)10-610-3100103vミスト(一般)スプレーミスト法(超音波式) スプレー法 質 量 流 速 熱 流 速 局所的な高圧状態高効率な反応基板近傍での液滴の挙動図 7 ミストの挙動加熱+蒸発 蒸発+加熱拡散 1 ~ 100 ms気相中での液滴の挙動5mm 程度の場合 加熱基板上ではミスト液滴は瞬時にガス化し液滴が基板に付着せず気相に浮遊する。( ライデンフロスト現象 )

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