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特集特集 ビジネス視点から見たロシア社会ビジネス視点から見たロシア社会 MINI REPORT ロシアの禁煙政策最前線 はじめに 2013 年 2 月 23 日付けで承認された連邦法 たばこの煙による影響および喫煙に起因する疾病から国民の健康を保護する法律 ( 以下 たばこ制限法 ) 1) が同年

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特集◆ビジネス視点から見たロシア社会

はじめに

2013年2月23日付けで承認された連邦法「た ばこの煙による影響および喫煙に起因する疾 病から国民の健康を保護する法律」(以下、「た ばこ制限法」)1)が同年6月1日より施行され たことに伴い、喫煙およびたばこ製品の取扱い に対する規制が強化されたロシア。街自体が巨 大な灰皿であった牧歌的な時代に留学生活を 送った筆者(喫煙者)は、昨年夏に駐在員とし て再びモスクワに戻ったものの、当地の喫煙事 情の変化を目の当たりにし、まさに浦島太郎的 な心境である。本稿では、当該法律が制定され た経緯および禁煙政策の概要、その市場への影 響についてご紹介したい。

「たばこ制限法」誕生の背景

2012年5月の就任直後、プーチン大統領は 「ロシア国民の平均寿命を、2018年までに74歳 にまで引き上げる」旨の大統領令2)を発布して いる。ロシア国民の平均寿命は安定した伸びを 見せてはいるものの、その水準は依然として低 い。特に男性の平均寿命は世界平均を下回るな ど改善の余地は残されており、国民の健康促進 を謳う現政権にとっても喫緊の課題である。そ の3大要因として飲酒、喫煙、食生活の乱れが 挙げられ、なかでも飲酒と喫煙は、その依存性、 相互関係の強さから、ともに規制強化の対象と されている。世界保健機関(WHO)が2013年に 発表した統計3)によると、ロシア国内の喫煙率 は男性60.2%、女性21.7%、総合39.1%と、世界 的に見ても極めて高い水準にある。 2003年にWHOにて採択された「たばこの規 制に関する枠組条約」4)にロシアが加盟したの は2008年のこと。同条約に連動し、連邦政府は 「2010年から2015年にかけてのたばこ消費の 抑制」を政策として掲げ、国民の喫煙およびメ ーカー、販売店によるたばこ製品の取扱いに対 し、段階的かつ緩やかな法規制を講じてきた。 筆者がモスクワにて留学生活を送っていた 2010年秋の時点で、すでに地下鉄エスカレータ ーの広告スペースには「Курение уже не модно! (喫煙はもはや流行ではない!)」などといっ た政府発信のスローガンがデカデカと貼り出 されていたことが思い出される。2013年6月、 上述の「たばこ制限法」が施行され、さらに2014 年6月には同法による規制が一層強化された ことにより、ロシア国民の喫煙事情は大きな変 化を遂げることとなった。

公共スペースでの禁煙

革新的な禁煙政策の第1ステップとして、連 邦政府は2013年6月1日より、国内すべての教 育施設や医療施設、公共交通機関といった多く の公共スペースでの全面禁煙を定めた。さらに センセーショナルな出来事が起こったのはそ の1年後。2014年6月1日からは、国内すべて の宿泊施設、飲食店も全面禁煙の対象となり、 出入口には「禁煙」マークを掲示することが義 務づけられることとなった。これらに違反した 場合、喫煙者本人へは500~1,500ルーブル、物 件や敷地の管理者側へは3万~9万ルーブル の罰金が科せられる。

ロシアの禁煙政策最前線

MINI REPORT

特 集

ビジネス視点から見たロシア社会

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図表1 4カ国の平均寿命の推移(男女総合)

(出所)世界銀行統計データ(2015年現在)。

図表2 4カ国の平均寿命の推移(男性)

(出所)世界銀行統計データ(2015年現在)。

図表3 5カ国の喫煙率(2013 年、%)

(出所)「WHO report on the global tobacco epidemic, 2013 年版」。

2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 日本 81.9 82.3 82.5 82.6 82.9 82.8 82.6 83.1 83.3 米国 77.3 77.6 77.8 77.9 78.1 78.5 78.6 78.7 78.8 中国 74.1 74.3 74.4 74.6 74.7 74.9 75.0 75.2 75.4 ロシア 65.5 66.6 67.5 67.8 68.6 68.9 69.7 70.4 71.1 60 65 70 75 80 85 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 日本 78.5 79.0 79.2 79.3 79.6 79.6 79.4 79.9 80.2 米国 74.9 75.1 75.4 75.5 75.7 76.2 76.3 76.4 76.5 中国 72.8 73.0 73.2 73.3 73.5 73.6 73.8 73.9 74.1 ロシア 58.9 60.4 61.4 61.8 62.8 63.1 64.0 65.0 66.0 55 60 65 70 75 80 85 ロシア フランス 中国 ドイツ 日本 男性 60.2 37.4 52.9 30.5 32.4 女性 21.7 30.2 2.4 21.2 9.7 総合 39.1 33.7 28.1 25.7 20.1 0 10 20 30 40 50 60 70

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例外として、フロアに喫煙ルームを設けてい るオフィスビル等も稀に存在するが、これは物 件所有者の許可のもと、しかるべき換気システ ムの整備が可能な場合のみ認められる。とはい え、敢えて建物内に喫煙ルームを設けることで 当局からマークされることを懸念してか、それ とも必要な換気システムを整備するための資 金がないのか、はたまた建物の所有者自身が嫌 煙家なのかは不明だが、モスクワ市内のオフィ スビル、特に外資系企業が多く入居するような モダンなビジネスセンター等はほぼ全館禁煙 となっており、1階出入口付近に設けられてい る灰皿の周辺には多くのスモーカーがたむろ している。 しかし、「法は破るためにある」とはよく言 ったもので、空港(特に国内線ターミナル)へ 行けば搭乗ゲート付近のトイレに多くのスモ ーカーが集い、洗面台の前で堂々と煙を吐いて いたり、飲食店によっては店の奥に灰皿を備え た隠し部屋があったり、地方都市のホテルの窓 から外を眺めていると、上の階から吸殻が降っ てきたりと、現状、国全体として統制が取れて いるとは言い難いようだ。

たばこの販売規制も強化

たばこ制限法の施行においては、喫煙に対し てのみならず、たばこ製品の取扱いに関する規 制も強化されている。同法が施行された2013年 6月より、パッケージに記される警告文は欧米 諸 国 の 「Smoking kills」と同義の「Курение убивает(吸うと死ぬ)」という文言に統一され た。また、主に若年層のたばこ離れの促進を目 的とした連邦保健省令490号「グラフィック効 果による、たばこの有害性に関する警告の義務 化」5)にもとづき、パッケージの裏側には喫煙 の有害性を強調する写真、イラストを掲載する ことが義務付けられることとなった。真っ黒に なった肺や、歯周病のアップ画像、呼吸困難で 苦しむ患者の写真といったビジュアルに訴え る描写のほか、「依存性」、「早期老化」、「勃 起不全」などの弊害を暗示的に表現する類のも のも存在し、そのデザインはバラエティに富ん でいる。筆者の個人的観点から述べると、モノ によっては不快極まりないグラフィックもあ り、多少なりとも喫煙率低下の一助となるもの として期待できる模様だ。 さらに着目すべきは、たばこの販売場所に一 定の制限が設けられたことである。2014年6月 1日より、一般的に「マガジン(магазин)」と 呼ばれる小中規模以上の商店、もしくは「パビ リオン(павильон)」と呼ばれる簡易店舗以外 でのたばこの販売は違法と定められており、従 来道端に設置されていたキオスクでのたばこ 販売も認められないこととなった。パビリオン とキオスクの差異がやや不明瞭ではあるもの の、同法19条1項では、少なくとも店員1人分 の販売スペースを含む店舗設備が完備されて いれば、たばこの取扱いが可能と定めている。 また、販売に対する規制も強化された。同法 19条5項により、取扱い店舗でのたばこ関連広 告の掲示は全面禁止となり、スーパーマーケッ ト等では従来レジ付近に設けられていたショ ーケースがスクリーンで覆われている。購入す る際は、ケースの側面に小さく張られた銘柄リ スト(たばこを連想させるグラフィック等は一 切なし)から選んで店員に申告しなければなら ない。当地に数多く存在するコンビニ風のマガ ジンにおいても、死角となる店の奥にたばこを 置く、もしくは、たばこを陳列してある棚をカ ーテンで覆うといった手法を取っている。つま り、可能な限り国民の視界からたばこの存在を 排除し、喫煙の機会をなくすことが政府の狙い なのである。言わずもがなだが、かつてショッ ピングセンター等で頻繁に開催されていた新 製品のサンプリング等も同法により禁止され ることとなった。

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図表4 全面禁煙となった公共スペースの一覧 2013年6月1日~ 2014年6月1日~ ●教育施設、文化施設、スポーツ関連施設 ●医療施設、療養施設 ●すべての公共交通機関、およびその出入口から15m以内の範囲 ●役所 ●政府・自治体の所有地 ●オフィス内 ●集合住宅のエレベーターおよび共用部分 ●児童公園、海岸 ●ガソリンスタンド敷地内 ●旅客用の長距離列車、長距離船舶 ●宿泊施設 ●商業施設、飲食店 (出所)ロシア連邦大統領府ポータルサイト。

市場への影響

たばこ制限法により大きな被害を被ってい るのが飲食店である。なかでもカフェやバー等、 食事よりも喫茶、飲酒がメインである店舗での 収益の減少は著しく、全ロシア飲食・ホテル業 協会の発表によると、2014年6月以降、国内の 飲食店では20%の収益減が見られており、今後 は最大30%までの落ち込みが予測されるとの ことだ。時折、夏場のテラス席で灰皿を提供す る店舗も見受けられるが、これも厳密には違法 であり、店舗側がリスクを背負っての営業形態 である。また、全ロシア中小企業団体「オポー ラ・ロシア」によると、飲食店が全面禁煙とな った直後に「公正ロシア」党より、飲食店のテ ラス席での喫煙を許可する旨の法案が下院に 提出されたとのこと(『Finmarket』誌、2014.06. 24)。しかし、2015年6月時点では法改正への 具体的な動きは見られていない。 小売店でのたばこ販売には大きな増減は見 られず、小売りチェーンのヴィクトリア、ディ クシにて2013年6月(販売規制前)と2014年6 月(規制後)の売上げデータの比較を行ったが、 たばこの売上げは5%程度の微増となった。ハ イパーマーケットのアシャンでは、たばこの売 上げ自体に大きな変化は見られないものの、カ ートンで購入する客が増加している。従来、国 内における販売の20%程度を占めていた露店 やキオスクからたばこが消えたことにより、購 入までのプロセスが大なり小なり面倒となっ たことから、買える場所で買い溜めする消費者 が増加している模様だ(『RBC』誌、2015.04. 27)。 政府予算案においては、2015年から2017年に かけての段階的なたばこ増税が計画されてお り、価格の上昇とともに消費量は減少するもの と予測される。喫煙習慣に起因する疾病を対象 とした医療費の支出削減が増税の大きな目的 であり、現状たばこ価格の40%を占める税率を 順次引き上げる方針である。なお、2014年10月 にモスクワにて開催された「たばこの規制に関 する枠組条約」第6回締約国会議において、た ばこの税率を70%にまで引き上げる旨のガイ ドラインが採択されたことに伴い、加盟国であ るロシアにおいても、今後たばこ税率が大幅に 引き上げられる可能性は高い。ちなみに、税率 が70%に引き上げられた暁には、たばこ1箱の 国内平均価格が現状の64ルーブルから216ルー ブルにまで高騰すると予測されている(『イズ ヴェスチヤ』誌、2014.10.16)。 これまでも段階的に進められてきた税率の 引き上げに加え、2014年6月以降の販売規制の 影響もあり、ロシアのたばこ市場は縮小傾向に ある。フィリップモリス・インターナショナル 社(PMI)では、2014年の自社製品のロシア国

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内出荷が前年比3.5%減、JTインターナショナ ル社(JTI)においても前年比13.6%減となった。 PMI社の予測によれば、ロシアのたばこ市場は 今後も縮小を続け、2015年には前年比8~10% の市場縮小が予測されるとのこと(『ヴェード モスチ』誌、2015.02.06)。また、規制強化に より、たばこメーカーの各種イベントへの協賛 活動も禁じられるなど、ロシア市場でのメーカ ーの立場は厳しいものとなっている。

おわりに

全ロシア世論調査センター(VTsIOM)の調 査によると、2010年から2013年にかけての人口 に占める喫煙者の割合は毎年40%程度で安定 していたものの、2014年の調査結果では全体の 34%と一定の減少が見られる。また、1日に少 なくとも1箱以上のたばこを吸ういわゆるヘ ビースモーカーの占める割合も、2013年の24% から2014年には20%と減少した。一方、喫煙を やめたと回答した人は全体の10%から13%に 増加、さらに、喫煙したことがないと答えた人 は48%から52%と増加を見せるなど、少なから ず政策が実を結んでいることが伺える(『イン タファクス』誌、2015.05.28)。特に若年層の たばこ離れは着実に進んでいる模様で、同年代 のロシア人数人と集まった際に、たばこを吸う のは筆者のみというケースも多く、ポケットか らたばこを取り出した途端、あからさまに嫌な 顔をされたり、喫煙の有害性を説かれたりと、 肩身の狭い思いをすることが少なくない。 しかし日常生活に目を向ければ、当地の喫煙 者数は依然として多く、また体感的には女性の 喫煙率が数字以上に高い印象を受ける。喫煙と いう国民の習慣・文化に対する政府の「宣戦布 告」がどのような結果を生むのか、本法施行か ら間もない現在では定かではないが、当地の規 制強化に戸惑う喫煙者の一人として、今後も引 き続き考察を続けていきたい。

【注】

1)Федеральный Закон «Об охране здоровья граждан от воздействия окружающего табачного дыма и последствий потребления табака»:大統領府データバンク (http://www.kremlin.ru/acts/bank/36838)にて 閲覧可。 2)Указ Президента Российской Федерации «О мерах по реализации демографической политики Российской Федерации» :大統領府 データバンク (http://www.kremlin.ru/acts/bank/35270)にて 閲覧可。 3)世界保健機関サイト (http://www.who.int/tobacco/global_report/2013/ en/)にて閲覧可。 4)世界保健機関サイト (http://www.who.int/fctc/en/)にて閲覧可。 5)2012年5月5日付けで、当時の連邦保健・社 会発展省により公布(«Об утверждении предупредительных надписей о вреде курения, сопровождаемых рисунками»)。連邦保健省デ ータバンク (https://www.rosminzdrav.ru/documents/6841- prikaz-minzdravsotsrazvitiya-rossii-490n-ot-5-maya-2012-g)にて閲覧可。 (大渡 耕三) 棚をブラインドで隠しての販売

参照

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