「ドラッカー」と行政経営改革の実践(5)
淡路富男 行政経営総合研究所 UR:http://members.jcom.home.ne.jp/igover/ ※ 未定稿につき誤字などはご容赦下さい。 公的組織の役割を高く評価するドラッカーの現行 政への指摘は厳しい。 「もはや行政は、これまでたどってきた道をさら に進むことはできない。その道で得られるものは、 さらなる官僚化であって、さらなる成果 ではない。税を上げることはできるかも しれないが、国民の献身、支持、信頼を 得ることはできない。これまでの道の先にあるものは、行政の病の 悪化であり、行政への幻滅の増大だけである」とする(断絶の時代)。 同時に、行政は成果をあげる能力を取り戻さなくてはならないとし、再建の ヒントも明示する。それは無給のボランティアと協働するNPOの活動にある として、「使命を明らかにし、人材を的確に配置し、継続して学習し、目標に よるマネジメントを行い、要求水準を高くし、責任をそれに見合うものとし、 自らの仕事ぶりと成果に責任を持たせることである」とする。 さらに「20年前、NPOの関係者にとって、経営は金儲けを意味する汚い言 葉であった。しかし今日、NPOのほとんどが、まさに収支という基準がない からこそ、企業以上に経営が必要なことを認識している(未来企 業)」と付け加える。 公的組織の代表格である行政は遅れてはならない。「経営」の目 的は利益の追求であるから「経営」は行政には不要といって改革ドラッカーの知見
ドラッカーから見た
公的(行政)
組織の
リーダー
の役割と選定基準
を避ける姿勢を払拭しなければならない。地域経営を担う行政にとって大事な ことは、前回掲載の住民基点の最適発想に立脚し、使命に基づいて設定した目 標を実現できる、卓越した行政経営の仕組みを構築することである。
1.徹底して理解する住民基点の改革
己改革を直接的な目的としない これまでの行政経営導入に関するコンサルティング経験からす ると、行政経営改革に取り組む前と後では、行政経営に関する基 本的な考え方、それを実現する方法、全体をマネジメントするやり方などに大 きな違いがでる。 住民基点の考え方が浸透し、職員の住民対応が変わる。自らの理念とビジョ ンを明らかにし、地域社会の発展や地域経済の活性化に一定の責任を持つよう になる。住民が支払った税金を効果的、効率的に活用することを強く意識し、 自治体職員としての使命を体現した、地域独自の社会政策や経済政策が出てく るようになる。 但し注意も必要である。「自己改革」や「意識改革」を改革の主要ねらいと する改革運動の場合は「頓挫」していることが多い。改革には「内発性」が必 要であるが、それは「意識改革」と称して人の自己改革を求めるものではない。 人の価値観や信条はそう簡単に変わるものではない。それを目的とした改革は 「素人の改革」であり、成果に結びつくことはない。 人の行動様式は、組織の風土、仕事の 仕組み、そして顧客からの評価に影響さ れる。個人に「意識を変えないとダメだ」 と権威と威厳でただ「改宗」を迫るよう な改革は、組織に深い傷を与える無謀な 方法である。 人を魅了する美しく丈夫な花は、土を 掘り起こし、丁寧に種をまき、雑草をこ まめに刈り取り、適度な風と光、水を与 えることで、自力で芽を出し、成長して 社会に大きな安らぎを与えてくる(図表 参照)。細心の注意で正しい環境を構築で きれば、成果は後からついてくる。 人の改革を直接的な目的とするのでは なく、「経営」といった人が働く仕組みの花には
風光土水を
花には
風光土水を
自
改革による内発的な威力を活用することが組織改革の定石である。ここに組織 のリーダーの役割があり、これが住民を魅了し自発的な協働を獲得できる行政 の出現を可能にする。 果とプロセスの良さの両立 「最適発想」による創造的な行政を実現する行政経営改革の基本 理念と、それを具体化する最適行政経営モデルが重要になる。ドラ ッカーは「人は何かを,しかもかなり多くの何かを成し遂げたがる。自らの得 意なことにおいて、何かを成し遂げたがる(現代の経営)」とする。これを受 けとめる仕組みを構築することがリーダーの役割である。 住民基点の最適行政の実現をめざす行政経営改革は、政策の良し悪しと同様 に、住民ニーズを的確に把握する仕組み、ニーズ実現のために重要課題を設定 しそれを推進する戦略策定と展開の仕組み、価値ある政策を立案する業務プロ セスのあり方、これらの業務を担当する人材育成の仕組み、そして、経営資源 を組織化して、これらを効果的に産出する全体の仕組みを構築することを重視 する(図表参照)。行政経営とは自ら組織を機能させ社会に貢献できるように することである。
-住民の支持を獲得できる行政の仕組み-
・「住民基点の行政」に関する基本的な考え方(使命・ビジョン)を 明らかにして、 ・そこで明確にした組織目的を達成するために ・環境変化に対応して戦略を策定し ・人材を中心とした内部の経営資源を最大限活用できる仕組みや ・行政サ—ビス企画・提供プロセスを構築する。 ・仕組みと活動の成果を把握して評価し、必要に応じて改善できる仕 組みを構築する。2.住民・国民の生活破綻・反乱の前に
働が得られる組織が必要 この仕組みやプロセス改革の内容は、サービスの受け手である住 民から見て最適と評価されるものでなければならない。住民の参画 や協働を得ることなしでは、価値ある行政サービスを継続的に産出することは協
成
できない。住民や国民の協働なしでは、公的組織の使命を実現することができ なくなった現在では、住民や国民から信頼や支持がない組織や人物では、改革 を担う資格はない。人気に頼るリーダーは迎合的になり、カリスマ性を武器に するリーダーは、支持者が内向き志向のヒラメ型になり、住民・国民の意見を 軽視するようになる。 人気やカリスマ性などは本質的なことではなく、これに頼るリーダーは、住 民・国民に大損害をもたらすことは、民公問わず、古今東西にわたる常識的な ことである。ドラッカーは、カリスマ性は人々に害をもたらすとして強く否定 する。「老衰」現象が現れている日本で、カリスマの登場を許してはならない。 クラーをつけるお金が浪費され、「熱中症」で体力がもたなくなる。 評価され協働が得られる組織は、実力や成果だけでは不十分である。偶然の 場合もあり、それだけではその組織の考え方や仕組みが良好と評価することは できない。成果を生みだした仕組みやプロセスの点検が必要になる。また、逆 もあり、考え方や仕組みやプロセスの評価が得られても、成果に不足がある場 合は仕組みやプロセスを再度点検しなければならない。 ドラッカーは、成果とそれを実現する資源の組織化活動を経営の機能とし、 この機能発揮はリーダーの役割の一つであるとする。 ドラッカーの知見 ドラッカーは達成すべき成果を明確にし、それを実 現する体制を構築すべきとして、「まず経営が行うべ きことは,自らの組織があげるべき成果を明らかにすることである。 これは、実際に取り組んでみれば明らかなように,最も難しく、最も 重要な仕事である。組織の外部に成果を生みだすために資源を組織化 することこそ、経営に特有の機能である」とする。 変化の時代では、現状維持では成果が持続することはない。また、完璧な仕 組みやプロセスなども存在しない。成果の良さと仕組み・プロセスの良さの両 方を実現することが当たり前とする経営の仕組みを構築することが、組織の機 能発揮を最高に高め、住民の支持を獲得し、協働が得られる環境条件を整備す ることができるようになる。 大の教師はリーダーではなく住民 また住民と現場で対話し協働することを通じて、自らの考え方や 行動の巧拙を自覚できるようになる。住民から仕事を委託されてい る公的組織にとって、最大の教師は組織のリーダーではなく住民であることは
最
いつも変わらない。自らの組織のリーダーを信奉し教師とする公的組織は危う い。自らの本質を間違えている。 公的組織の業務認識の根幹は、行政サービスを受ける人を「恵み」を受ける 人と見ないことである、「申し上げたいことがあります」ではなく、「お聴き しておくべきことはありませんか」と問いかけなくてはならない。 それば応接間で腕を組んで住民の陳情を受けるのではなく、自分から外に出 て、常に住民に敬意を払い、住民のニーズを聴き出し、自らの業務を見直すこ とでそれを実現する行動になる。組織の内部には成果はない。成果は組織外に あり、それはニーズに始まり満足の実現で得られることを学ぶ。 こうした徹底した内省的業務姿勢を通じてこそ、自発的な「自己改革」の道 が開けるようになる。自発的な自己改革が発芽した組織の変革は、一気に速度 を上げる。その先に「地域の未来」が現れる。住民を魅了し住民との協働を可 能にする美しい丈夫な花(行政)には、適度な風光(マーケティングとイノベ ーション)、適切な土水(経営)が必要なのである。この整備を担当するのが リーダーである。 的組織のリーダーの選定基準 反対にリーダーが目立ちすぎる組織は、組織構成員の関心がリー ダーに向けられ、「ボスは何を考えているか」といった発想が蔓延し、 組織の自立性が失われる。組織の多くがこの悪癖でその役割を果たすことがで きず、自らの立場を失っている。 ドラッカーの知見 ドラッカーはこの自立性の喪失に大きな危機感を抱 き、「組織が自立性を失うならば,個人はありえず、自 己実現を可能とする社会もあり得ない」とする(ドラッカー365の金言)。 さらに「リーダーシップとは人を惹きつける資質ではない。そのよう なものは煽動的な資質にすぎない。リーダーシップとは、仲間をつくり 人に影響を与えることでもない。そのようなものはセールスマンシップ にすぎない」。リーダーシップの基礎とは、「組織の使命を考え抜き、 それを目に見える形で明確に定義し、それを確立することである」とす る。 失業することがない公的組織の内発性に乏しい改革は、意義も意味も参加し た当事者のためにもならない。権威や権力といった強制力がなくなると、その 組織は必ず「ガタガタ」になり、社会に害をもたらす。
公
しかし、公的組織が失敗と責任を認めることはないことから、その失政の大 きな負担を背負うのは住民・国民になる。91年のバブル崩壊から20年弱にわ たるこの集積が、現在の住民・国民の深刻な疲弊と日本の衰退を招いている。 既に将来の働き手である若者の生活破綻が始まり、日本の未来を暗いものにし ている。これが高齢者に移行し、そして現在の働き手の中心である生産人口に 及ぶ。 公的組織は、住民・国民生活の破綻、もしくは反乱になる前に、ドラッカー が推奨する条件にかなう公的組織のリーダーを選定(下図参照)し、今日から でも内発的な改革を始めなければならない。 -ドラッカーから見た公的組織のリーダー像- 【前提】 非営利組織ではリーダーたる者、並みの仕事ぶりで満足 するわけにいかない。大義にコミットしているのであるか らして、並外れて優れた仕事ぶりを要求される。組織の役 割について大きなビジョンをもち、自らではなく、自らの 役割について考えることができなければならない。自らを 重視するリーダーは、自らを殺し、自らの組織を殺す。 (ドラッカー:非営利組織の経営) 【条件】 ・「常に住民(国民)と納税者を第一に考える人」 ・「自らへの関心を中心に置かない人」 ・「組織内の個性を恐れない人」 ・「自己陶酔と虚栄のとりこにならない人」 ・「住民(国民)の模範になる人」 ・「住民(国民)が納得する成果を出す人」 本文や上記の条件に可能な限りあてはまる人は誰であろ うか。名乗り出た候補者自身の自覚と責任は当然であるが、 選択する側の見識と責任も問われる事例である。
ミッションとビジョンを明らかにし、組織の機能とそこで働く組織構成員の 能力を最大限に発揮し、住民・国民の協働が得られる改革に邁進しなければな らない。 ドラッカーは、リーダーがしてはならないことの最後に「手柄を一人占めに しない」ことをあげ、「有能なリーダーがいた。しかし一度でも一緒に働いた 者は再び一緒に働こうとはしなかった。彼は人の弱みばかり気にするたちだっ た。褒めることもできなかった」とする。 さらにリーダーは重要であるが、神秘的なことではないとする。真摯さを見 ること、模範となること、若い人たちがまねをするに値する人を選ぶこと、こ れが人事の判断基準だとする。リーダーの選出を間違えたら地域や日本の未来 の道は、さらに細く険しいものになる。 ※ドラッカーの言葉は「マネジメント」「チェンジリーダーの条件」 「明日を支配するもの」「非営利組織の経営」「ドラッカー365の 金言」「経営の哲学」(全てダイヤモンド社)などからの引用です。 ー著者紹介ー