9歳児のライフスタイルとメディア
箕浦康子
はじめに
発達的には、9歳前後は自他をより客観的に比較して自己像を作り変えていくことが始まる時 期である。他者の能力の個人差や成績の相対的位置を認める基本的認知能力は6歳頃までに発達 しているが、7~9歳ころに急激に始まる認知機能の発達は、学校生活で同年齢の子どもとの交 渉が多くなることとあいまち、類似した他者との比較による自己評価を可能にする(高田、 2011)。算数教育においても9歳の壁といわれているものがあり、認知機能の発達が分数概念の 理解を可能にし、9歳の壁を乗り越えて次の段階へ進むと言われている。また、欧米人の自己主 張的行動に対して、日本人に多い自己抑制的な自己呈示の仕方や関係志向的な人間関係が姿を現 し始めるのも9歳前後という知見がある(箕浦、 1984;先崎・柴山、 2010)。 9歳5カ月から9歳 11 ヶ月の子どもを対象とした第 10 回調査(2012 年1月)からは、子ど も本人が一人で記入する調査票が本格的に導入された。読み書き能力がアンケート調査に自力で 回答できる水準に達したということ自体が、発達の一時期を画するメルクマールである。 こうした児童期の9歳は、身体的精神的な発達に支えられて、自分なりの世界、ライフスタイ ルをつくっていく時期と思われる。学校で過ごす時間には子どもの自由裁量が働く余地がほとん どないので、個人の自由がきく学校外の時間の使い方に焦点を合わせて9歳児のライフスタイル を探ることにした。放課後や週末の自由時間のなかで、メディアがどのような位置を占めている かに注意を払いつつ、そうしたさまざまなライフスタイルが分化してくる背景要因を探った。方法
対象者は、子どもによい放送プロジェクトに登録して 2012 年の調査に参加した 835 人のうち クラスター分析に使用した5変数(テレビやビデオの視聴時間、ゲーム接触時間、外遊び時間、 家庭学習・塾などの勉強時間、本(絵本)を読む時間)に欠損値がない 575 人である。分析結果
1.放課後の過ごし方の5類型 9歳児の学校外の時間の過ごし方のなかでメディアはどのような位置を占めているのかを知る ために、一週間の視聴日誌の記載より、テレビやビデオの視聴時間、ゲーム接触時間、外遊び時 間、家庭学習・塾などの勉強時間、本(絵本)を読んでいる時間の5変数を取り上げて、クラス ター分析を試みた。それぞれの変数の分布を調べ、それらの活動に費やす時間の多少を大中小の3群に分けて3、 2、1とし、最近隣法による階層クラスター分析を実施した。クラスター数を4、5に指定し て、それぞれの結果を比較したところクラスター5にしたときのライフスタイル類型が一番解釈 しやすかったので、この結果を9歳児のライフスタイルの5類型とする。 時間の使い方からみた5類型の特徴は以下のようになる(表1)。 表1 視聴日誌による学校外時間の使い方(類型別基礎データ)n¨pjAu¾ÅÇ*H&Cy¿«?ð{"#`Ùï×ñ { " =F O 6 }O ĂĉÿĆ6 *vD s gG {" > ăĈąĉýąĉăĉā 0! pjCy KS . ~~~~~¢ ăĈąĉĂĉÿĆ 0! Cy KS . ~~~~~¢ &ªµÁ 0! Cy KS . ~~~~~¢ *iî$ 0! Cy KS . ~~~~~¢ vD 0! Cy KS . ~~~~~¢ n~~M¿éÌßÔ×ÌëðY(ñ {¨¨¨¨" s O 6 }O ĂĉÿĆ6 *vD Y 1> ~ ( 1> ~ s 1> ~ ¦ô©üû 第1類型(23 人、4.0%):低活動 本も読まず、勉強もせず、外遊びもせず、テレビゲームもせず、ただテレビをみている時間が 長い子どものグループである。 第2類型(271 人、47.1%):テレビ志向 勉強時間も外遊びも、テレビゲーム時間も平均に近いが、テレビの画面をみている時間(テレ ビ+ビデオ)が5類型中最大、読書時間は平均よりやや少ない。9歳児のもっとも普通の姿。 第3類型(66 人、11.5%):高活動 勉強はほどほどだが、外あそびと読書に費やす時間は多く、テレビゲームにもテレビ・ビデオ にも平均以上の時間を費やしているグループ。 第4類型(35 人、6.1%):テレビゲーム志向 テレビやビデオ視聴にも読書にも時間を使わないが、テレビゲームに時間を一番多く費やして いる。外遊びや勉強に使う時間も平均以下である。 第5類型(180 人、31.3%):勉学・読書志向 学習と読書に費やす時間が5類型中一番多く、テレビやビデオに費やす時間が最小。外遊び時 間は平均値と同じであるがテレビゲーム時間は第1類型の次に少ない。勉強や読書に気がむい ている子どもたち。
表2 9歳児のライフスタイル(男女別) n¨pjAu¾ÅÇ*H&Cy¿«?ð{"#`Ùï×ñ { " =F O 6 }O ĂĉÿĆ6 *vD s gG {" > ăĈąĉýąĉăĉā 0! pjCy KS . ~~~~~¢ ăĈąĉĂĉÿĆ 0! Cy KS . ~~~~~¢ &ªµÁ 0! Cy KS . ~~~~~¢ *iî$ 0! Cy KS . ~~~~~¢ vD 0! Cy KS . ~~~~~¢ n~~M¿éÌßÔ×ÌëðY(ñ {¨¨¨¨" s O 6 }O ĂĉÿĆ6 *vD Y 1> ~ ( 1> ~ s 1> ~ ¦ô©üû これら5類型の分布の仕方には男女差があり(χ2=16.2,p=.003)、第2類型には女子の 53 %が入るが、3、4、5類型には男子の比率が高い(表2)。 第2、第5類型は、小学校卒業する頃には、テレビゲームから抜けていくと思われるが、第 3、4類型の子どものテレビゲームとの接し方は、学年進行とともにどのように変化していく か、観察を続ける必要がある。「子どもにとってテレビのない生活は寂しいと思うか」という質 問に対して、類型5の母は類型2、3、4の母よりもそのようなことはないと回答している (F=7.68,p<.000)。類型5の子どもはテレビに左右されないライフスタイルを築きつつあると いえそうである。 2.家庭のメディア環境と9歳児のライフスタイルの関係 家庭内のテレビの台数には子どものライフスタイルによる有意差(F=2.43,p<.05)がみられ た。テレビに放課後時間の多くを費やしている子(類型2)の家には、テレビをあまり見ない子 (類型5)の家より有意にテレビの台数が多かった。テレビを持たないと回答した家庭が3軒あ ったが、内2軒は類型5の子どもの家であった(表3上段参照)。ビデオや DVD 機、パソコン の所持に関しては類型間に有意差は見られなかったが、ゲーム機所有台数には有意差(F=3.19, p<.013)があり、類型3の子どもの家庭は他の家庭よりゲーム機を多く所有していた。 テレビ、ビデオや DVD などの録画機器、パソコン、ゲーム機などの所有台数と家庭の経済的 ゆとりとの間には有意な連関はみられなかったことより、どのようなメディア機器を購入するか は、家庭の経済力以外の要因によると推定された。 9歳児に携帯電話を持たしていると回答している母親は 24%であるが、類型別に有意差 (χ2=14.5,p<.006)があり、類型5は 32.6%の子が所持しているのに、類型1、3は、13% である。しかし、携帯電話を持たす理由には類型による差はなかった。 今調査における平均専業主婦率は 38.9%、類型4では 54.3%、類型1では 30.4%であるが、母 の就労状況と類型の間には有意な連関はなかった。 母親のテレビ視聴時間も子どものライフスタイル類型に関係しており(F=11.76,p<.000)、 テレビを相対的にあまり見ない類型4、5の子どもの母親は、他の類型の母親が1日平均2ない し3時間テレビを見ているのに、2時間以下である。母のテレビ視聴が子どものテレビ視聴に影
響することはつとに知られていたが、9歳児においてもそのことが確認された。 調査対象者の9歳児が誰と一緒にゲームをして遊んでいるかにも類型による違いが見られた。 母と一緒にゲームをする子は 17.4%で類型別の有意差はなかったが、父とゲームをする子(平均 31.1%)の割合は類型によって異なり(χ2=9.26,p<.055)、類型3と4の子は 40%強が父と遊 んでいるが、類型1は 13%のみである。兄や姉とゲームをしている子の割合(平均 38.2%)に 類型間の差はなかったが、弟や妹とゲームを一緒にしている9歳児は類型4では 62.9%、類型 2、3、5は 30%強、類型1は 26%で、有意差がある(χ2=14.30,p<.006)。類型3、4では 60%以上の子が、また類型2、5では 55%前後の子が友達とゲームを一緒にしているが、類型 1ではそうした子どもは 30%にとどまる(χ2=9.56,p<.046)。一人でもゲームで遊ぶという 子は類型3では 56.1%であるが、ほかの類型では 40%以下である(χ2=14.29,p<.006)。テレ ビゲームで遊ぶ時間の多い類型3、4の子は、友達同志でゲーム遊びをするのみならず、きょう だいたちや父と一緒にゲームを楽しめる家庭環境である場合が多いことがわかった。 習い事の多少や習い事の種類には類型による差はみられなかったが、母親のゲームへの関わり 方には有意差があり、類型3の子の母親は、子どもと一緒にゲームをすることを楽しむ度合いが 類型1や5の母親より有意に大きい(F=5.38,p<.000)(表3中段)。また、母がテレビゲーム に費やす時間や使い方を統制しようとする度合いにも類型による有意差があり(F=3.07, p<.016)、ゲームをあまりやらない類型1の母親は、2、3、4の各類型の母ほど子どものテレ 表3 家庭のメディア環境(類型別)
ビゲームへの接触を統制していなかった。類型1の子は、統制が必要なほどテレビゲームをして いない、すなわちテレビゲームに苦手意識のつよい子どもらである。類型3は、子どものみなら ず父母ともゲームを楽しむ家庭であった。 母親の TV の見せ方の指導には、類型による有意差は見られなかったが、類型1の家庭では 母と子が一緒に TV をみる時間が少ない傾向があった(F=2.16,p<.07)(表3下段)。 3.ライフスタイル別のテレビ番組ジャンルの選好 母親への質問 12 への回答のうち、類型による有意差が見られた番組ジャンルは、ドラマ、笑 いやコントなどのバラエティ、クイズ・ゲーム、アニメ・マンガ、子ども向け番組の5つであっ たので、この5つを取り上げて類型別の割合を表示した(表4)。この表より類型1、2の子 がよく見ているのは、ドラマやバラエティであること、クイズ・ゲーム番組やアニメ・マンガ は多くの子どもが見ているが、類型5の子どもの視聴は有意に少ない。類型5の子どもは、テ レビをあまり見ない子どもであるが、他の類型の子に比べ子供向け番組やクイズ・ゲームやバ ラエティの視聴が特に少ない。テレビゲーム志向の類型4はあまりテレビドラマを見ない子た ちであるが、バラエティはよく見ているようである。 表4 ライフスタイル類型別よく見るテレビ番組ジャンル(有意差のあったもののみ)qù«ìÏâ×ÚÏî~$ȳrÊÛïá\iÖéðîóG<0º¹ÇÂÂÆô« ~$ G<0 ~$V7 Q Ûïá9" Q §¨ćĎĂċ9" ,ĀyF K-«Þìå wGÉ ªÂ@ ©÷ ¥ g®À¿  wGÉ ªÂ@ ©÷ ĉĎČĄĈāĂ ¥ ÑÏØñ wGÉ ªÂ@ ©÷ ćĎĂċ ¥ Íßèñ wGÉ ªÂ@ ©÷ åðÐ ¥ +¿Ç"´ wGÉ ªÂ@ ©÷ \i ¥ ~$@ 4.母のメディア観と子どものライフスタイル 保護者1対象の質問紙の Q20 は、テレビ、ビデオ(DVD を含む)、テレビゲーム、ポータブ ルゲーム、携帯電話、パソコンなどのメディアが子どもにどのような影響を及ぼすかについて 「よい影響のほうが多い」から「悪い影響のほうが多い」まで5件法で聞いている。携帯とパソ コンに関しては子どものライフスタイル類型別の有意差は検出されなかったが、他の4つのメデ ィアに関しては類型間に有意差があった(表5)。類型5の子どもの母親は、テレビへの肯定度 が他の類型の母親より有意に低い(F 値 =2.72,p<.03)。ビデオ・DVD についても有意差はな いが、やはり類型5の母親の肯定度は低い傾向(F 値 =2.03,p<.09)がみられた。テレビゲー
ム(F 値 =5.15,p<000)やポータブルゲーム(F 値 =7.32,p<000)に関しても、類型5の母 親は、類型3や2の母親にくらべ、有意にどちらかというと悪い影響があるとみていることがわ かった(表5)。 表5 母親は、各種メディアの子どもへの影響をどう見ているのか ポータブル ゲーム 母親のテレビゲーム観をたずねた Q21 に関しては、8項目中類型間に有意差がなかったのは 3項目、有意差があったのが3項目、傾向差(有意確率5%から 10%以下)が2項目であった (表6)。ゲームをよくやる類型3、4の子どもの母親は、ゲームがストレス発散に役立っている と考えているのに、類型1と5の母親はどちらでもないと考えている(F 値 =5.6,p<000)。 「ゲームは友達や家族とのコミュニケーションに役立っている」に関しても、類型3、4は肯定 的、類型1、2、5の肯定度は有意に低い(F 値 =6.79,p<000)。「ゲームは空想と現実の区別 をつかなくさせる」という意見について、類型1、5よりも類型3、4の母親は強く否定してい る(F 値 =2.38,p<0.05)。
表6 母親のテレビゲーム観の類型別相違 5.ライフスタイル類型別の子どもの特性 学校外での時間のすごし方は、心身面やゲームへののめりこみ度、キレやすさ、学校への適応 度と関係があるのであろうか? 類型3が他の類型よりテレビゲームへの夢中度が高く、なおかつテレビゲームが何か他のこと の代償として使われているのではないかと疑われた(表7)。第1類型の子どもはテレビゲーム が下手でテレビゲームをあまりやっていないが、人数が少ないために有意差を析出するにいたっ てない。 学校生活へのポジティブ度に5%水準に届かなかったが有意差傾向があり、第4、5類型は高 く、第1類型はもっとも低い(表7)。類型1の子は、学校のみならず、家庭でも孤立しがち で、ただただ一人でテレビを見ている寂しい子どものようである。 キレやすさや疲労感、学校への不満、学校への否定的な感情、母による生活自立度の判定につ いては類型による有意差は析出されなかった。
表7 類型別の 9 歳児の行動特性 ÷òXO¿ 0! êÕä´ KS . ¨ øòÌéÌé© 0! ÔÚìÔlb KS . ùòc9» 0! V,¿P KS . ú¨xî-@ 0! »¿ÑãçQ KS . nù¨}"¿M¿mT8 }" =FgG }"T5 O ØìÞ7 O ĂĉÿĆ7 *ýwD s > \ 0! £ KS . > ÈB³ 0! £ KS . ăĈąĉĂĉÿĆ > ¾' 0! ¢ KS . ăĈąĉĂĉÿĆ® > ¿²»¿ 0! ¢ KS . ăĈąĉĂĉÿĆ > ; 0! £ KS . *H¾ > ¤¥ 0! £ KS . *H¾ > ¢¡£¤¥ 0! KS . *H¾ > R 0! £ KS . N¾ÅÇ > XOkd 0! £ 1+ KS .
まとめ
9歳児のライフスタイル、特に放課後の生活に占めるメディアとの付き合い方は、父母のメデ ィアとの関わり方やメディア観に強く影響されていた。子ども本人が読書好きかどうかも映像メ ディアとの関わりに大きく影響していた。母がテレビをよく見ている家庭の子はテレビ視聴時間 がながく、親がテレビゲームを楽しむ家庭の子のゲーム時間は長くなる。親が映像メディアにあ まり肯定的でない家庭の子はゲームやテレビ(DVD を含む)には時間を費やさないで、読書や 勉強に時間を振り向ける。しかしながら、携帯電話やパソコンはまだ多くの9歳児が使うに至っ てないが、映像メディアとは別のものとして認識されているようであった。これらが、テレビや テレビゲームとどのような相対的関係におかれるかは今後の調査で見きわめる必要がある。 9歳児の放課後のメディア接触態様からみたライフスタイルは、親の考え方やメディア行動を 反映しており、子ども独自のライフスタイルはいまだ出現していないようであった。引用文献
箕浦康子 1984 『子供の異文化体験―人格形成過程の心理人類学的研究』思索社 高田利武 2011 新版『他者と比べる自分:社会的比較の心理学』 サイエンス社
先崎真奈美・柴山真琴 2010「体操教室における児童期の自己制御行動のエスノグラフィー:日 本学校通学児と国際学校通学児の行動方略」『発達心理学研究』20:406-418.