堆肥の特性
堆肥の特性について
堆肥化?
家畜ふん等に含まれる繊維などの有機物は、「分解されやすい有機物(易分解性有機物)」 と「分解され難い有機物(難分解性有機物)」に分けられます。 堆肥化とは、家畜ふん等に含まれる易分解性有機物が空気の十分存在する好気的条件下 (例外有)で微生物の力によりスムーズに分解され汚物感のない安定した性状となること といえます。堆肥化の必要性
土壌に施したときに作物に悪影響を及ぼさない程度まで、事前に「分解されやすい有機 物を」分解してやることだといえます。堆肥化の条件
堆肥化の主役である好気性微生物が活発に活動できる条件、すなわち空気=酸素を材料 内部に行きわたらせることが重要となります。つまり何らかの方法で比重調整し空隙率を 高めた膨軟な状態にすることによって通気性を確保し好気性微生物の活躍を活発にしてや ることが必要です。 要するに、空気を通りやすくして分の内部を好気的な状態にしてやることです。 (C/N比 20~30程度)堆肥の役割
肥料としての役割
堆肥の中に含まれる養分が農作物の肥料として利用されます。 堆肥の養分は化学肥料に含まれる養分の他に、作物に取って必要不可欠な鉄やマンガン などの微量要素が含まれています。これらの微量要素は多量には必要としませんが、無い と作物が順調に生育しない養分で、化学肥料では供給できない養分です。腐植(有機物)として作物に対する土壌環境をよくする役割
肥沃な土壌に無くてはならないものが腐植です。 土壌には空気と水分が一定の割合で含まれることが必要ですが、腐植が減少すると土の 団粒構造が壊れ空気の入る部分が減り、根に酸素が充分供給されなくなったり、水はけが 悪くなったり、栄養分を土壌中に保持する力が弱くなるなど土壌環境が悪化します。堆肥には、衝撃をやわらげる作用がある。
堆肥には、①三要素の供給、②微量要素の給源、③緩効性肥料、④生育促進物質がある、 ⑤微生物の給源、⑥土壌の物理性の改善、⑦肥料成分の保持など、いろいろな効果があり ますが、注目すべき効果は衝撃をやわらげる作用があることです。 雨の多い日本では、土からカルシウム分が洗い流されて土のPHが酸性になりやすくなっ ています。腐植はこのPHを上げたり、下げたりする安定化作用があります。土壌の腐食を 増やしてやれば、土の緩衝作用は大きくなります。 腐食はPHの変動を少なくする作用の他に、肥料分のやりすぎの害や重金属の害を防いだ り、水分の不足のときに植物の枯れるのをやわらげたり、低温のときの被害をやわらげた りする見逃せない作用があることが知られています。肥料としての家畜ふん堆肥の特性
堆肥の性質は、家畜ふんの種類やオガクズなど木質資材の混合の有無によって大きく異 なりますので、施用する目的によって種類を選ぶ必要があります。家畜ふんだけで作られ た牛ふん堆肥は、物理性の改良と肥料の効果が期待できますが、豚ふんや鶏ふんは、肥料 効果は大きいものの物理性改善の効果はあまり期待できません。木質資材を混合した堆肥 は、肥料効果よりも物理性の改良効果が大きくなります。 堆肥の種類 施用効果 肥料成分量(%) 肥料的 物理性改良 PH チッソ リンサン カリ カルシウム ケイサン マグネシウム マンガン 稲わら堆肥 中 中 7.8 1.64 0.77 1.76 1.99 32.5 0.55 0.164 家畜 牛ふん 中 中 8.1 2.10 2.06 2.19 2.31 20.8 0.99 0.080 ふん 豚ふん 大 小 7.6 2.86 4.31 2.23 3.90 11.4 1.35 0.063 堆肥 鶏ふん 大 小 8.0 2.89 5.13 2.68 11.32 12.4 1.36 0.059 木質 牛ふん 小 大 8.0 1.66 1.59 1.70 1.91 9.0 0.75 0.042 混合 豚ふん 中 大 7.8 2.11 3.37 1.84 3.35 7.3 1.08 0.047 堆肥 鶏ふん 中 大 8.1 1.93 4.09 2.14 9.12 7.2 0.96 0.051 バーク堆肥 小 大 7.4 1.21 0.84 0.72 2.72 14.6 0.42 0.053 もみがら堆肥 小 大 7.1 1.12 1.24 1.04 1.53 17.0 0.32 0.047鶏ふん堆肥
肥料の3要素である窒素、りん酸、加里や石灰が多く含まれ有機質肥料としての特性が 強い堆肥です。豚ふん堆肥
鶏ふん堆肥と牛ふん堆肥の中間の性質を持ちますが、やや牛ふん堆肥に近い特性を示し ます。牛ふん堆肥
窒素の肥効が緩慢で、土壌の持つ地力窒素と似た効き方をします。また、土壌の有機物 補給にも効果が大きい堆肥です。地力構成要素からみたよい堆肥
地力構成要素と地力維持対策の関係
化学肥料は、作物に必要な栄養分を供給するた めに開発し たものですから、養分供給には大きな効果があり ますが、それ以外の要素には関係しません。 無機質の土壌改良資材には、石灰質資材のよう にpHを改良するもの、ゼオライトのように保肥力 や保水性を改善するもの、バーミキュライトのよ う に 物 理 性 を 改 善 す る も の な ど い ろ い ろ あ り ま す。このため、種類を選べば、かなり多様な効果 があります。 客土や深耕は、土壌の化学性や物理性が悪化したときに行う工法ですが、物理性改善効 果とともに、化学性の改善効果もあります。また、新しい土を入れたり混合することによ り病虫害も抑制できる可能性があります。 輪作は、同じ種類の作物を連続して栽培すると化学性や微生物性が悪化し、農作物が生 育不良になることがあり、これを連作障害といいます。連作障害を防ぐためには異なった 種類の作物を栽培することが必要で、これを輪作といいます。輪作は、有用微生物の増加 による病害の抑止に効果があります。 これに対し、堆肥の効果をみますと、すべての項目に効果がみられます。いわば、堆肥 は土壌の万能薬のような働きをします。このことから、農作物の栽培に、いかに堆肥の施 用が重要であるか理解できると思います。堆肥の効果
耕種農家が堆肥の効果をあげるとき、作物の増収効果や品質向上効果とともに安定した 生産の維持をあげます。この効果を具体的に考察すると次のようになります。「農作物の増収効果」
生育促進効果と同じであり、肥料効果が主となります。肥料成分の供給は、多量要素だ けでなく、微量要素の適正供給にも効果があります。増収効果は、化学性改良効果とも言 えます。 これ以外に、堆肥から出るホルモン様物質による生育促進効果もあります。このホルモ ン効果については、現在まだじゅうぶんな解明が行われていません。「農作物の品質向上」
肥料成分(主として窒素)と水分の適切なコントロールにあると言われます。根のまわ りの環境条件(根圏環境)を良好にし、土壌の緩衝能を増大させることが重要です。この ためには、土壌を団粒化促進により軟らかくし、作物根がじゅうぶんに伸び、根圏土壌の 養水分保持力を増大させることが必要です。これは、土壌物理性改良と言いかえることも できます。「農作物の安定生産」
漠然とした表現ですが、永続的農業生産を意図した表現といえます。これは、土壌環境 の改善により作物が栽培しやすくなるとともに、安定生産を阻害する要因である連作障害 の回避も重要な要因です。連作障害は土壌微生物によることが多く、生産安定のためには 土壌生物性の改良が重要な要因と言えます。 農業において堆肥に期待する効果の、「増収」、「品質向上」、「生産安定」は、土壌の化 学性、物理性、生物性の改良と言いかえることができます。化学性の改善によいのは?
化学性の改善効果は、主として肥料成分(窒素、リン酸、カリ)の供給です。家畜ふん はこれらの肥料成分が多く含まれているため、家畜ふん堆肥は化学性の改善効果には優れ ています。しかし、家畜ふんの種類によって肥料成分に違いがあります。このことに注意 して使用しないとかえって作物生育に悪い環境をつくることになります。 家畜ふん堆肥に含まれる養分の事例牛ふん堆肥
は、乾物含量で窒素、リン酸、カリともに2%程度あります。この量は乾物の ため現物量に換算すると、現物(含水率66%)1t当たり、窒素、リン酸、カリが約7kg 含まれていることになります。豚ぷん堆肥
では養分が多く、乾物含量で窒素2.9%、リン酸4.0%、カリ2.2%です。この 量を現物量換算すると、現物(含水率53%)1t当り、窒素、リン酸、カリがともに10kg 以上含まれています。鶏ふん堆肥
ではリン酸と石灰が多くなります。乾物含量で窒素2.9%、リン酸5.1%、カリ 2.7%です。この量は、現物(含水率39%)1t当り、窒素8kg、リン酸15kg、カリ8kg、 石灰33kgに相当します。 このように、肥料成分は、鶏ふん>豚ぷん>牛ふんとなります。特に採卵鶏では石灰が 多く含まれているのでpHが高く、施用するときに注意が必要です。物理性の改善によいのは?
物理性の改善は、粗大有機物を含み、肥料効果の少ないものが適しています。図では全 炭素(T-C)と炭素率(C/N)が大きいものが、物理性の改良に効果があります。鶏ふんに 比較すると牛ふんでははるかに大きな値となり、オガクズの混合の有無で比較すると、オ ガクズを混合することによって全炭素が1割、炭素率が5割増加しています。 このように、牛ふんやオガクズのように繊維質的な堆肥が物理性の改善効果に優れてい ますが、炭素率が小さい堆肥でも、連用していると、有機物分解に関わる土壌微生物が増 殖し、微生物の生産する粘質物によって土壌が団粒化し、物理性を改善することができま す。 また、堆肥が土壌中で急激に分解するのではなく、ゆっくりと長期間にわたって分解す ることも物理性の改善に役立ちます。このような観点からみると、物理性の改善には、牛 ふん堆肥やオガクズ混合堆肥が優れていると言えます。生物性の改善によいのは?
生物性の改善は、土壌中に有用微生物を増加させることが基本です。土壌中には非常に 多種類の微生物が数多く存在しています。その数は、土壌1g中に約1億個の微生物が存 在すると言われています。これらの微生物は、養分の少ない土壌中では、活動を停止して 休んでいますが、一度、堆肥などの微生物の餌になる物質が入ってくると、それから栄養 をとり、急激に増殖します。このためには、栄養分の多い堆肥が微生物を増やすのに役立 ちます。 微生物の栄養分は、窒素、リン酸、カリなどの肥料成分だけでなく、炭素も影響します。 これは、植物は炭素を空気中の二酸化炭素から取るのに対し、微生物は餌となる有機化 合物から炭素を取るためです。図をみると、豚ぷん堆肥は全炭素も肥料成分も多く含まれ ていますので、微生物活性力の増加と言う点では、このような堆肥が優れています。地力を向上させる堆肥とは
いままで紹介したなかで、地力は、土壌の化学性、物理性、生物性に区分して考える ことができること、それぞれの改良に適した堆肥の種類を紹介しました。これをみると、 化学性の改良のためには鶏ふん堆肥、物理性改良のためには牛ふん堆肥、生物性改良のた めには豚ぷん堆肥とそれぞれが分かれてしまいました。 これは、目的によって適した堆肥の種類が異なることを示しています。このことが、良 い堆肥のイメージの固定を困難にしている要因です。化学性、物理性、生物性の改良につ いて、それぞれの平均的な点がとれるのが牛ふん堆肥です。だからこそ、牛ふんが堆肥原 料の基本になっているのです。しかし、用途を限定すれば、他の資材の方が良いことがわ かります。このように、良い堆肥とは、使用目的によって異なってくるものなのです。施用上の留意点
未熟な家畜ふん堆肥の施用
土壌との混和によって微生物の活性が高くなり、一時的に多量のガスが発生し生育障害 が心配されますので注意してください。急激なガスの発生量は、鶏ふんが一番多く、次に 豚ぶん、牛ふんの順となるため、生育初期の障害発生の危険性は鶏ふんが大きいことにな ります。なお、急激なガスの発生は、施用後15~20日間で、30~45日でガスの発生はおさ まります。稲わらや麦桿、木質系の素材を使ったもの
炭素率が高く未熟なものを施用すると、チッソが稲わら等の分解に利用されチッソ飢餓 が起こりますので注意してください。堆肥の種類別特性
生ふん
文字どおり、飼育舎からでたままのふんです。含水率は70%以上あり、悪臭が強く不潔感があります。 農作物の栽培に生ふんの施用は、衛生上もまた作物にとっても好ましくありません。成分は、含水率が高いために含量が低くなっています。畑に施用するときは、有機酸等による障害 を避けるために、施用後すぐに土壌と混和し、1ヵ月以上経過して作付けします。
乾燥ふん
堆肥のなかの微生物活性は、含水率が30%以下になると、ほぼ停止します。この状態まで含水率を低 下させたものを乾燥ふんといいます。乾燥ふんは、一般にはハウス内や加熱により乾燥したものをい います。 成分は、含水率が低くなったために含量が高くなっています。施用にあたっては、生ふん と同様に、施用後1ヵ月以上経過して作付けします。堆肥化物
堆肥化物は、家畜ふんに特別な水分調節材を添加することなく、家畜ふんを主体に堆積発酵したも ので、乾燥ふんを堆肥化したり、水分調節として戻し堆肥を使用したものを示します。従来はきゅう 肥と呼ばれていたものです。 どんな作物にも安心して使用することができますが、混ぜものが少ない分、ふんの成分含量が反映 されて、牛ふん堆肥では養分が少なく、鶏ふん堆肥では養分が多くなっています。安心して使用する ためには、最低1ヵ月以上堆積発酵しなければなりません。木質混合堆肥化物
木質混合堆肥は、水分調節のために、オガクズなどの木屑を混合し、堆積発酵したものです。木屑 が多く含まれるために、牛ふんも、豚ぷんも、鶏ふんも窒素含量が低下し、類似した値になります。 木質が混合したものは、いずれの家畜ふんを使用しても窒素が少なく炭素率が高くなるので、ふん の種類を問わず、ほぼ同じ使い方ができます。木質を多く含む資材は、堆積発酵がじゅうぶんでない と紋羽病や虫害の可能性があります。このため、6ヵ月以上のじゅうぶんな期間を堆積発酵した資材 を使用することがたいせつです堆肥の使い方は両極化
土づくりのための低養分堆肥 鉢物生産者や施設栽培農家では、堆肥を純粋に土づくり資材として使うことがあり ます。堆肥を土づくりだけの目的で施用する場合には、有機物(炭素)の補給だけを考え て、肥料成分を考慮しないことになります。極言すれば、この時に堆肥に含まれる養分は、 有機物が微生物により分解するときに必要とする養分だけを含んでいればよいことになり ます。 低養分堆肥は牛ふんで できるだけ低養分の堆肥をつくるためには、牛ふんが適しています。肥料成分の高い鶏 ふんや豚ぷんは適しません。牛ふんにワラなどの植物質の資材を混合して堆積発酵してつ くります。このとき、尿を混合しないようにすることと、戻し(返送)堆肥を多量に混合 しないでつくることです。尿を混合すると、窒素だけでなくカリやナトリウムの濃度が高 くなるので、尿を分離したふんを使います。また、完成した堆肥を水分調節材として使用 する返送法では、養分濃度が濃縮されていきますので、低養分堆肥にはむきません。 水分調節材には植物質資材を使用し、とくにイネ科植物の茎葉をよく乾燥させて使用す るとよいでしょう。植物は若いうちは窒素が多く炭素率が低いのですが、成熟して乾燥し たものは炭素率が高くなります。しかし、成熟して乾燥させたものは分解に長い期間を必 要とするので、3ヵ月以上の堆肥化する期間が必要です。水分調節材として木屑を混合し てもよいのですが、木屑を混合したときは、6ヵ月以上かけてゆっくりと熟成させること が必要です。 また、家畜ふんの養分を減少させるために、堆積中に雨水に打たせて流亡させることも 考えられますが、これは周辺環境や地下水を汚染するため、やってはいけません。堆肥の養分の積極的活用方法
堆肥の有効成分量の推定
堆肥は、微生物により分解されて肥料効果を発現するため、含まれる成分の100%が供 給されるわけではありません。とくに窒素は、微生物の体に取込まれやすいため、炭素率 の高い堆肥では窒素の供給力が低下します。堆肥に含まれる肥料成分のうち、作物に吸収 される割合を、その成分の有効化率といいます。 有効化率の例を表-1に示しましたが、原料の種類や堆肥化の条件により異なります。 有効化率は、窒素30~70%、リン酸60~70%、カリ90%ですが、木質混合堆肥化物は家畜 ふんの種類にかかわらず窒素の有効化率を30%としました。これは、木質が多量に入ると 炭素率が高くなるために有効化率が低下するためです。 表-1 畜種別肥料成分有効化率 畜 種 窒素 リン酸 カリ 石灰 苦土 牛ふん 30 60 90 100 100 豚ぷん 50 60 90 100 100 鶏ふん 70 70 90 100 100 (注)神奈川県の試験事例および草地試資料より作成 この数字を用いて家畜ふんとその処理物の有効成分量を表-2に示しました。ただし、 副資材の混合割合や堆積期間の違いによって肥料成分量や有効化率は異なります。その結 果、条件により有効成分量は違ってきますので、この表はあくまで参考程度として下さい。 表ー2 家畜ふんおよび家畜ふん堆肥の有効成分量(現物kg/t) 処理形態 畜 種 含水率 窒素 リン酸 カリ 石灰 苦土 生ふん 牛ふん 80.1 1.3 2.1 3.2 3.4 1.6 豚ぷん 69.4 5.5 10.2 4.1 12.6 4.8 鶏ふん 63.7 15.7 13.2 10.1 39.9 5.3 乾燥ふん 牛ふん 28.0 5.0 11.0 15.7 16.1 7.6 豚ぷん 24.3 13.0 27.4 13.6 33.0 12.0 鶏ふん 18.9 20.7 36.4 22.0 91.6 11.5 堆肥化物 牛ふん 66.0 2.1 4.2 6.7 7.9 3.4 (厩 肥) 豚ぷん 52.7 6.8 11.6 9.5 18.7 6.4 鶏ふん 38.5 12.5 22.1 14.9 69.6 8.4 木質 混合 牛ふん 65.4 1.7 3.3 5.3 6.6 2.6 堆肥 化物 豚ぷん 55.7 2.8 8.9 7.4 14.8 4.8 鶏ふん 52.4 2.8 13.7 9.2 43.4 4.6 (注)成分は草地試1983、農産課資料1982を参考にし、表-1の係数を利用して算出。堆肥を使った施肥設計の方法
堆肥を多量に使ってもと肥にする場合、表-2を参考にして施肥設計を行います。例を あげると、もと肥窒素15kgを家畜ふんで代替しようとすると、牛生ふん(水分80%)では 12t、牛ふん堆肥(水分66%)では7t、乾燥鶏ふん(水分19%)では0.7tが必要というこ とになります。牛ふん堆肥7tが入った場合、全窒素は50kg含まれており、その30%にあたる15kgが有 効化すると、35kgが土壌中に残ることになります。残存量のかなりの部分が次の年に有効 化するわけですから、翌年以降は堆肥を減らす必要があります。 鶏ふんでは初年目70%であったものが、連年施用すると4年目には100%の窒素が有効 化することになり、豚ぷんでは初年目50%であったものが7年目に、牛ふんでは初年目70 %であったものが12年目に、それぞれ100%の窒素が有効化することになります。 このように、連年施用により年をおって肥料成分が多量に溶出するようになるため、土 壌診断等により、土壌中に含まれる養分量を正確に把握することがたいせつです。化学肥 料にたよらない栽培をする場合でも、もと肥のすべてを家畜ふんでまかなうのではなく、 堆肥由来の窒素をもと肥窒素量の2/3程度までに抑え、残りは化学肥料で補うべきです。
作物の養分吸収特性に適した堆肥
農作物は種類により養分の吸収量だけでなく吸収時期も異なります。野菜の例3)を図 -1に示しましたが、ここでは栄養特性を、尻上がり型、コンスタント型、先行逃切り型 の3つの型に分けて説明します。 図-1 野菜の栄養特性と施肥のポイント 尻 上がり型は、初期にゆっくり育て、根や果実の肥大期から収穫期までに養分を必要とする 野菜で、ダイコン、ニンジン、スイカ、カボチャなどがこれに属します。 コンスタント型は、生育全期間にわたって養分を必要とする野菜で、トマト、キュウリ、 ナス、ネギなど、生育期間の長いものがこれに属します。 先行逃切り型は、生育初期から生育させることが大切な野菜で、ホウレンソウ、コカブ、 サツマイモ、ジャガイモなど、生育期間の短いものがこれに属します。 家畜ふんの肥料効果をみると、鶏ふんは速効性で牛ふんは遅効性です。この特性を組合わせれば、養分吸収の3パターンをつくることができます。すなわち、尻上がり型は牛ふ ん主体、コンスタント型は鶏ふんと牛ふんの組合わせ、先行逃げ切り型は鶏ふん主体とい うようにあてはめることができます。このような野菜の栄養吸収特性に合った堆肥を作れ ば、野菜栽培が楽になります。
これからの堆肥の使い方
ぼかし肥としての利用
有機肥料と土を混合してつくる「ぼかし肥」というものがあります。これは昔から肥料 を有効に利用するために使われていたものですが、近年、有機農業実践家の間でひろまっ てきています。 ぼかし肥の作り方はいろいろありますが、一般的には、土に鶏ふん、米ぬか、油粕、魚 粕などを混合して、比較的小さな規模で1~2ヵ月間、50℃以下の低温で発酵させたもの です。(図-2)発酵が すすんでいるの で、無機態窒素含 量が多く肥料効 果は高いのです が、土となじませてあるため施用後の農作物の植えいたみが少なく、安心して使えます。 図-2 ぼかし肥のつくり方の例 ぼ か し 肥 の 窒 素 成 分 の 大 部 分 は 微 生 物 に 取 込 ま れ 有機態となっているか、または混合された土や有機 物に吸着されているため、肥料成分はゆっくりと溶 け出し、雨などで流亡することも少なく、作物が肥 料を利用するので適しているのです。 また、ぼかし肥は局所施用されるのが基本であり、 肥料成分が土壌中に部分的に分布します。ぼかし肥 の周囲は有機物や養分に富むため、各種の微生物が 生育しやすい環境ができるといえ、このことが根の 発達を促すことが考えられます。 (藤原:1990)現場で行うよい堆肥の評価法
評点法
外観上の性状や堆積状態からみた腐熟の程度を評点で表し、基準化するものです。生産 現場で経験的に行われていることを数値化するもので、地域により色々な方法が行われて いますが、ここでは原田がまとめたものを紹介します。 ア.必要な器具類 なし イ.方 法 堆肥の状態を現場で評価する基準を表-1に示しました。この基準にしたがって採点し ます。表-1 現地における腐熟度判定基準(原田:1983) 色 黄~黄褐色(2)、褐色(5)、黒褐色~黒色(10) 形 状 現物の形状をとどめる(2)、かなりくずれる(5)、ほとんど認めない(10) 臭 気 ふん尿臭強い(2)、ふん尿臭弱い(5)、堆肥臭(10) 水 分 強く握ると指の間からしたたる70%以上(2) 強く握ると手のひらにかなりつく…60%前後(5) 強く握っても手のひらにあまりつかない…50%前後(10) 堆積中の 50℃以下(2)、50~60℃(10)、60~70℃(15)、70℃以上(20) 最高温度 堆積期間 家畜ふんだけ 20日以内(2)、20日~2ヵ月(10)、2ヵ月以上(20) 作物収集残渣 20日以内(2)、20日~3ヵ月(10)、3ヵ月以上(20) との混合物 木質物との混合物 20日以内(2)、20日~6ヵ月(10)、6ヵ月以上(20) 切返し回数 2回以下(2)、3~6回(5)、7回以上(10) 強制通気 なし(0)、あり(10) 注:( )内は点数を示す これらの点数を合計し、未熟(30点以下)、中熟(31~80点)、完熟(81点以上)とする ウ.腐熟の評価 合計点が30点以下は未熟、31~80点は中熟、81点以上は完熟と評価します。各項目を適 切に評価できれば、信頼のおける結果が得られます。
品温評価法
堆肥化の過程では、堆積発酵中に温度が上昇した後低下しますが、切返しを行えば再び 上昇します。この傾向は、腐熟がすすむにつれて変化が小さくなります。この現象を利用 して評価する方法です。 ア.用意するもの 温度計(深さ50cm程度まで測れるもの。電気式自記記録方式が良いが、棒状温度計のと きは、周囲を金属で覆い破壊防止加工のなされているものを使用します) イ.測定方法 堆積している山の、上部(20~30cm)と下部(50~60cm)の2ヵ所について、毎日測定 し、記録します。自記記録方式温度計の使用が便利です。 ウ.腐熟の基準 測定例を図-1に示しました。切返しをしても温度の上昇がみられなくなると、完熟状 態になっていると考えられます。しかし、切返しの時に、水分含量の過湿や乾燥があった 場合や、堆積の規模を小さくしたりした場合は、温度上昇が妨げられるので注意が必要で す。 図-1 牛ふんの堆肥化過程における温度変化(原田:1983)ミミズ試験法
ミミズは腐熟した栄養分の多い堆肥に生息しますが、未熟な未分解有機物の中に含まれ るフェノール類やアンモニア等のガスを嫌う傾向があります。このミミズの行動を観察す ることにより堆積物の腐熟度をみる方法です。 ア.必要な器具類 容器(プラスチック製の透明でないコップがよい)、黒い布(遮光用)、ミミズ数匹(体 長50mm以上のシマミミズが望ましい) イ.測定方法 (1)堆積物をコップに1/3程度入れる。水分条件は60~70%程度(手で強く握ると水を感 じる程度)とします。 (2)ミミズをコップの中に落した直後、および1日後のミミズの行動、色調の変化を観 察します。 (3)容器を黒布で被覆するか、または遮光した室内で試験します。室温は20~25℃が適 当です。 ウ.腐熟の基準 未熟:入れた直後に逃亡しようとする。1日後死滅する。 中熟:入れた直後、多少いやがる。1日後、色が変化したり動きが悪くなる。 完熟:入れた直後、すぐもぐる。1日後も変化なく、元気でいる。 ミミズは、過剰気味に湿った堆肥に放たれると、その瞬間、これを降雨と間違えて、は い出そうとすることがありますので水分条件には注意します。また、ミミズは中性~弱酸 性を好むので腐熟度とは別に試験紙等でpHを記録しておきます。 試験しようとする堆肥が、ミミズのもとの生息環境と酷似している場合には、未熟物で あってもミミズはそれを好むことがあるため、できればあらかじめ人工培土で飼育し、一 定の生息環境にならしてから使用するとよいでしょう。 堆肥を施用するのは、作物生産の向上が目的であり、施用によって作物生育や土壌環境に 障害があってはいけません。しかし、堆肥化が不十分な場合は、堆肥の施用により作物生 育が阻害されることがあります。これは、堆肥の原料由来、または分解中間代謝物やガス が、作物の発芽や根の生育に異常を起こす原因となっています。このようなことを防ぐた め、堆肥化過程における有機物の分解程度(腐熟度)を把握し、評価することが必要にな ります。上記を参考にしてください。参考 作物別施肥法の事例 (1)水 稲 水稲は、窒素肥料が多いと倒伏したり米の品質が低下するため、窒素の多い鶏ふんや豚 ぷんは適しません。また、水田は水を張るため、土壌環境が畑とは大きく異なります。水 田は水の影響により乾田と湿田に分けられますが、堆肥の分解は、乾田では順調ですが、 湿田では嫌気分解により分解が遅れます。このため、水田の状態を確認したうえで、なる べくよく腐熟した牛ふん堆肥を施用することが望まれます。 堆肥の施用量は、水はけの良い乾田では、1t/10aを基準とし、水はけの悪い半湿田では 0.5t/10a、年中水のある湿田では施用しないほうが良いでしょう。湿田では、堆肥を施用 することによって土壌還元が進行し、水稲の根系障害が発生する恐れがあるからです。 生家畜ふんは牛ふんに限り、乾田が2.5t/10a、半湿田には1t/10aを目標として秋期から 冬期にかけて施用し、土の中での分解を促進させます。鶏ふんと豚ぷんは肥料成分が高く 水稲の生育が不安定となりやすいので使わない方が安全です。 (2)普通作 畑で栽培する普通作は露地野菜に準じますが、麦や大豆などの普通作物は窒素肥料が少 なくて良いものが多いため、野菜より施用量をやや減らします。畑に普通作物を栽培する 場合は牛ふん堆肥l~2t/10aを基準とし、豚ぷんおよび鶏ふん堆肥では半量の0.5~1t/10a とします。 乾燥牛ふんは0.5t、生牛ふんは2~3t程度であり、豚ぷんおよび鶏ふんでは牛ふんの 半量にします。 (3)野 菜 野菜は、いも類のように肥料成分が少なくてよいものからキュウリやセロリのように多 量に必要とするものまで多様な種類があり、作物によって施用量を変えることもあります が、ここでは土づくりのために必要な一般的な量について紹介します。 露地野菜は、牛ふん堆肥1作当り1t/10aを基準とします。同じ畑に年に2作とする場合 は1tを2回、すなわち年に2t入ることになります。生ふんは1作当り2t/10a、乾燥ふん では0.5t/10aを基準とし、全面散布をした後、耕起して分解を促進させます。豚ぷんおよ び鶏ふんでは牛ふんの半量にします。 施設栽培は集約栽培となるので、土の物理性の改良と保全を図かる意味から良質の完熟 堆肥を施用します。施設野菜では堆肥1作当り2t/10aを基準として施用します。この場合 も、年2作栽培する場合は2tが2回、計4t入る計算になります。また、施設栽培では圃 場の空き期間が少ないので生ふんの施用は適しません。夏場に長期間作付けしない場合は、 その時期に4~5t/10aの生牛ふんまたは、2t程度の乾燥ふんを施用して、土壌と混合して 腐熟させた後に栽培することもできます。豚ぷんや鶏ふんは塩類集積の原因になりやすい ので施用しないほうがよいでしょう。 (4)果 樹
果樹類の葉は冬にはなくなる(落葉樹)のが普通ですが、ミカンのように年中葉のある もの(常緑果樹)もあります。土壌管理上は落葉樹も常緑樹もそれほど大きな違いはあり ませんが、落葉して次の年に新しい葉が生えてくる養分を補うためにも、落葉樹にはやや 多めにします。 果樹は窒素成分が必要以上に供給されると、果実の色付きや糖度に悪影響を及ぼすこと がありますので、果樹に対しては肥料成分の少ない牛ふん堆肥が適しています。また、未 分解の木質があると病原菌や虫が増殖し、紋羽病の原因となったりコガネムシが発生する ことがあるため、木質を多く含む堆肥はじゅうぶんに腐熟させたものを施用することがた いせつです。 果樹には、稲ワラを表面にマルチとして0.5~1t/10a施用することが多く、この場合は 牛ふん堆肥2t/10aを基準にします。稲ワラマルチを施用しないときは堆肥をやや多めの3t /10a施用します。機械により堆肥を鋤込むときには、果樹の根を切断することになります が、少量の根の切断は根の更新のために役立ちます。 乾燥ふんは1~2t/10a施用しますが、できるだけロータリを使って鋤込んでください。 鋤込むことが困難な場合は、表面にマルチ施用することになりますが、傾斜地では、急激 な雨により流亡することがあるので、注意しましょう。生ふんでは不潔になり圃場環境を 悪化させるので使わない方が良いでしょう。 乾燥豚ぷんや乾燥鶏ふんを施用する場合は牛ふんの半分以下にします。なお、乾燥豚ぷ んや鶏ふんを0.5t以上施用する場合には、ふん中の有効成分量を計算して化学肥料を減ら すように注意してください。 (5)茶 茶園では、10a当り年間1t程度の葉や枝が土壌還元されるため有機物の供給は少なくて 良く、牛ふん堆肥1~2t/10aを基準とし、豚ぷんおよび鶏ふん堆肥では半量の0.5~1t/1 0aとします。施用場所は畝間であり、落葉に堆肥を混合することにより落葉の分解を促進 する役割もあります。茶園では窒素肥料が多量に施肥され、環境汚染が懸念されているた め、肥料成分の多い堆肥を多量に施用することがないよう注意しましょう。 茶園では、畝間に施用するため、作業性や衛生上の問題から生ふんは使用してはいけま せん。乾燥牛ふんは0.5~1t/10aを使用します。豚ぷんおよび鶏ふんでは牛ふんの半量に します。 (6)桑 桑園には、家畜ふんに含まれる窒素として60kg/10aに相当する量(牛ふん堆肥で10t以 上)が適量とされてきましたが、桑の年間窒素施用量30kgからみてこの値は異常であり、 堆肥2~3t/10aを溝施用することが望ましいといえます。また、生牛ふんでは4~5t/1 0a、乾燥牛ふん1~2t/10aが適正施用量といえます。これ以上施用する場合は、施肥量 を減少させる必要があります。乾燥豚ぷんや乾燥鶏ふんを施用する場合は牛ふんの半分以 下にします。 (7)飼料作 飼料作畑には、処理の意味もあって多量の生ふん尿が施用されることが多く、それが窒
素の過剰蓄積や養分のアンバランスとなって、かえって土壌環境を悪化させる原因となっ ていました。硝酸態窒素の蓄積や養分のアンバランスは、土壌環境の悪化だけでなく、そ れを食べた家畜にも障害を及ぼすことがあります。地力維持からみれば堆肥2t/10a程度 でよいのですが、飼料作は養分吸収力が大きいため、やや多めの3~4t/10aが基本にな ります。 作物によっても施用量が異なり、イタリアンライグラスや飼料用ムギは比較的少な目に、 青刈トウモロコシやソルガムは比較的多く施用します。 生牛ふんでは6~8t/10a、乾燥牛ふん2~3t/10aが適正施用量といえます。これ以上 施用する場合は、施肥量を減少させる必要があります。また、乾燥豚ぷんや乾燥鶏ふんを 施用する場合は牛ふんの半分以下にします。 (8)観賞樹 観賞樹は、同じ畑で長期間栽培するため果樹に準じますが、数年後には土と一緒に出荷 するので、果樹よりやや多めにします。牛ふん堆肥2~3t/10aを基準とし、豚ぷんおよ び鶏ふん堆肥では半量の1~1.5t/10aとします。乾燥牛ふんは1~2t/10a、生牛ふんは 4~5t/10a程度とし、豚ぷんおよび鶏ふんでは牛ふんの半量にします。 以上の施用量は連年施用を前提としたものであり、苗木では3年栽培して出荷するもの が多いため、3年生苗の出荷を前提に3ヵ年分の堆肥を1回にまとめて、牛ふん堆肥を6 ~9t/10a施用することもあります。生ふんや乾燥ふんもこれに準じた施用方法ができま すが、未熟有機物が多量に施用されるため、作付け1ヵ月以上前に施用し、ふんの分解に 伴う障害を下げることがたいせつです。 (9)花き 露地花きは露地野菜に、施設花きは施設野菜にそれぞれ準じます。 露地花きは、牛ふん堆肥1作当り1t/10aを基準とします。生ふんは1作当り2t/10a、 乾燥ふんでは0.5t/10aを基準とし、全面散布をした後、耕起して分解を促進させます。豚 ぷんおよび鶏ふんでは牛ふんの半量にします。 施設花きでは堆肥1作当り2t/10aを基準として施用します。施設花きには生ふんの施 用は適しません。夏場に長期間作付けしない場合は、その時期に4~5t/10aの生牛ふん または、2t程度の乾燥ふんを施用して、土壌と混合して腐熟させた後に栽培することも できます。豚ぷんや鶏ふんは塩類集積の原因になりやすいので施用しないほうがよいでし ょう。 種類によっても有機物の施用量は異なります。バラは、改植時に牛ふん堆肥を5~6t/ 10a施用し、翌年度以降は、春秋に各2t/10aずつ、年間4t/10aの施用を基準とします。