温暖化が進む大阪湾
漁業と生物の今・未来
日 時:平成30年12月1日
14:00~16:00
会 場:大阪市立総合生涯学習センター 第1研修室
講 師:鍋島 靖信
(大阪市立自然史博物館外来研究員・同館友の会会長)
参加者:48名
主 催:一般財団法人 環境事業協会
協 力:大阪市立総合生涯学習センター
平成30年度
地球温暖化講演会
実施レポート
第1部
大阪湾はどんな海?今どうなっているの?
講師の鍋島 靖信 先生異常気象の増加
今年は相次ぐ大型台風の通過による災害や、夏の記録的な 猛暑と豪雨、2~3月頃の厳冬など、これまで経験したことが ないような異常気象が続いた大変厳しい年でした。 温暖化の進行はただ暑くなるだけではなく、逆に冬が寒く なるなど気候の振れ幅が大きくなることでもあります。今後 もこうした異常気象は毎年のように続いていくものと覚悟し なければならないでしょう。大阪湾ってどんな海?
大阪湾には元々時計回りの還流があり、湾奥の河川からの栄養が緩 やかに湾全体に広がっていくことで環境の傾斜が出来て、様々な生物 が生息することが出来る豊かな海でした。 しかし埋立てが進み、大阪湾(とくに大阪府側)では自然の海岸線 のほとんどが失われました。さらに関空など沖に出来た埋立地によっ て湾内の流れが変わり、富栄養化や赤潮の増加、青潮の発生など、大 阪湾は人間で言えば「メタボ」の状態になっていました。 最近は下水処理などが進んだことで大阪湾に流入する栄養分が少な くなってきており、冬場は養殖海苔の色落ちが起きるなど栄養不良の 海域も出てきています。 地球規模で進む温暖化の影響で私たちに身近な大阪湾にも変化が起きているようです。 今回は大阪湾の漁業と生物の調査研究を長年続けてこられた鍋島 靖信先生をお招きし、 温暖化が進む大阪湾の現状と未来についてご講演いただきました。 台風21号の高潮で港の護岸へ 乗り上げてしまったヨットアナゴとハモから見る大阪湾
大阪湾でよく獲れていたマアナゴの漁獲量が1990年代後半からどんど ん減少しています。漁獲サイズの制限や休漁日の設定などの資源管理を 行っていますがなかなか回復しません。逆に暖水性のハモは近年漁獲量 が増加しています。どちらも夜行性のため、ハモがアナゴを食べている 例も多いようですが、マアナゴ減少の原因はそれだけではないようです。 マアナゴの産卵場所は長い間謎でしたが、最近のニホンウナギの産卵 場所の調査中にマアナゴの卵が見つかり、大阪から南に2,000kmの海域 まで泳いで行き産卵することが2012年にようやく明らかになりました。 アナゴは葉形仔魚(ノレソレ)の姿で海流に乗って日本へやってきます が、産卵場の付近には複雑な海流があり、北赤道海流に上手く乗れない と日本へやってこれないものが多く出てしまいます。 日本の近くまでやってこれたとしても、日本沿岸の海水温の上昇に よって、これまでよく獲れていた関東以西の地域よりも北の東北地方や 北海道の沿岸へ葉形仔魚が多く流れていってしまうことが起きています。 温暖化による大阪湾に入ってくる葉形仔魚の減少が漁獲量にも関係して いるようです。海水温の上昇による漁業生物の変化
大阪湾の水温は1980年代は低く、1990年代以降は高くなって きています。それに合わせるように漁獲される魚介類にも変化 が起きています。とくに昔たくさん獲れていた冷水性種である マコガレイ、アイナメ(あぶらめ)、イカナゴは近年の漁獲量 が大きく減少しています。マコガレイやイカナゴは高水温の期 間が長くなることによって産卵や夏眠のタイミングがずれてし まい、生存率が下がることが大きな原因だと考えられます。 マコガレイ イカナゴ マアナゴ ハモ マアナゴの葉形仔魚(ノレソレ)暖水性種の増加とその影響
漁業生物では暖水性のタチウオ・クマエビ(足あかえび)の 漁獲量が増加しています。以前は獲れる季節が限定されていま したが、最近は冬でも海水温があまり下がらず紀伊水道に南下 しないなど、周年獲れるようになっています。またクロマグロ やノコギリガザミなどの南方種が獲れる事も増えてきました。 大阪湾南部の海岸では高水温によってホンダワラ類やワカメ などの海藻藻場が衰退し、岩の表面を硬い石灰藻が覆うことで 他の海藻が生えなくなってしまう「磯焼け」が起きています。 大阪湾では海苔・ワカメ・コンブの養殖も行われていますが、 南方種のアイゴなど藻類を食べる魚が居ついており、養殖藻類 に深刻な食害が発生しています。 温暖化に伴いイタチザメ・ダツ・ヒョウモンダコなどの危険 生物の発見例が増えていて、漁業や海岸でのレジャーの際にも 注意が必要です。岬町の深日港では3年前からミナミハンドウイ ルカ1頭が居着いており、大阪湾ではハセイルカの群れなどの目 撃も相次いでいます。こうした生物は外洋からの暖水の流入と 一緒に大阪湾へ入ってくるのでしょう。人類が生きのびていくためには?
地球温暖化による農作物の不作や漁獲物の不漁は、飢餓など食糧問題 にも直結します。さらに異常気象によって災害が多発するなど、地球温 暖化は私たちの暮らしに大きな影響を与えます。人類が生き延びていく ためにも、身近な環境の変化を感じ、健康に生存できる環境を守り、温 暖化を防止する策を考えていかなければなりません。水辺や生物に親し み、自然を知ることが、地球の生命と環境を守ることに繋がります。 タチウオ マコンブの食害 イタチザメ ヒョウモンダコ 講演の様子 深日港のイルカ第2部:これからどうなるの?大阪湾
Q.大阪湾の漁業者の数は減っているのか?今後の漁業をどうしていくのか? A.漁獲量の減少などに伴い大阪府でも漁業者は減っていますが、他県に比べ るとまだ若い漁業者もおり、それほど減ってはいないようです。冷水種な ど減っている魚介類は今後も適切な資源管理を行っていき、逆に近年増え ている魚介類はどんどん食べて有効利用していくことも大切でしょう。 第2部では会場からいただいた質問を環境事業協会の和田がとりまとめ、鍋島先生に お話を伺いながら大阪湾の未来について考えました。いくつか質問を紹介します。 Q.琵琶湖のウナギはどこで産まれているのか?海と陸の関わり、川の改良工事については? A.琵琶湖のウナギも太平洋の沖で産卵し、稚魚が淀川を遡り琵琶湖まで行くのでしょう。ウナ ギは養殖場のような狭くて高密度な環境で育つとすべてオスになり、自然の川を遡っていき 低密度で良い環境で育つと8割がメスになります。河川の改修や堰の存在がウナギの生息や 遡上を妨げており、山~海までのつながりが良好な川の環境を保つことがウナギの資源保護 にもつながります。 協会職員 和田 太一 質問に答える鍋島先生 Q.泉南アナゴ(近大アナゴ)の将来性は? A.泉南市・岡田浦漁協と近畿大学が協力して大阪湾で獲れたアナゴを水槽 で大きく育てて売る「泉南アナゴ(近大アナゴ)」の取り組みが始まっ ています。ただし温暖化などの影響で大阪湾で獲れるアナゴの確保が難 しくなっている事が将来性のネックとなりそうです。 Q.温暖化でプランクトンの種類も変わるのか?貝毒はなぜ発生するのか、無くす方法は? A.貝毒プランクトンの増減は珪藻など他のプランクトンとの競合もあり、大阪湾に流入する栄 養塩が減っている問題もありますが、水温によって生息するプランクトンの種類が変化した り、分裂の速度が遅くなると貝毒プランクトンが持つ毒性が強くなることもあるようです。 今後も貝毒は発生していくものと予想されますが、その効果的な対策はまだ無いようです。〈参加者のアンケートから〉 • 温暖化問題を「大阪湾」「海洋生物」という切り口で考えるよい機会になりました。 • 昔よく釣ったマコガレイやアイナメが今釣れなくなっているのには驚いた。 • 実際に漁業に従事されている方との交流の中からのお話は貴重だと思いました。官民 の連携による対策に力を入れてほしいと思いました。 • 身近な生物の詳しい生態等を教えていただき、温暖化に対する危機感が強まりました。 漁業関係者の方も漁業のことを鑑み、漁をされていること等知ることが出来ました。 私たちもさらに理解を深め、取り組んでいかなければと実感しました。