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共同市場と工業立地-香川大学学術情報リポジトリ

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共同市場と工業立地

石 原 照 敏

Ⅰ はじめに。 Ⅱ Rotbscbild説とそれに.対するGieIsCbの批判。 Ⅲ Giersch説とLeurquin説。 Ⅳ 若干の批判的検討。 I 「共同市場と工業立地」というテーマの研究に.おいてほ,共同市場の形成 が,工業立地紅対して,いかなる影響ないし効果を及ぼしたか,また及ぼすで あろうか,という観点からアプローチすることが必要である。そして,このら とを研究するためにほ共同市場構成国問の関税の撤廃,資本や労働などの移動 に対する障害の撤廃,対外共通関税の実施,及びその結果形成された大市場など が,工業立地紅対して−,いかなる影響ないし効果を及ぼしたか,また及ぼすで あろうか,ということを研究することが重要である。 ところで,関税や国境と工業立地との関係については,すでにか−リン,1) レッシ,ユ.,2)フ、−ザァ−・,$)ボンサール4)など紅よって研究されてきた。これら の人々に.よる研究は,「共同市場と工業立地」というテ−マの研究に,貴重な 示唆を与えるものでほ.あるが,生産物,資本,労働などの移動に対する障害と しての関税や国境が工業立地に.及ぼす影響の研究であって,生産物,資本,労 働などの移動に対する障害の撤廃と,その結果生ずる共同市場という大市場の 形成が,工業立地に対して及ぼす影響の研究ではない。後者のような研究が, 1)Ohlin,B:InteIregionalandinternationaltrade,1933,third printing,1957, pp298−299,pp322−324.

2)L8sch,A:Die r畠umliche ordnung der wirtschaft,1939.The economics of location.,tranSlated by WilliamH.Woglom.1954,pp13−14,pp382−388,pp445

−451巾

3)Hoover,E.M:Thelocation of economic activity,1948,pp215−−237. 4)Ponsard,C:豆conomie et e印aCe,1955,pp307−310“

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共同市場 とエ業立地 − 6J− 本格的に開始されたのほ,第二次大戦も終りに近づいた頃,計一口ッパの復興 が,日程にのぼり始めた頃からである。そして,このような研究のうち,主と して理論的な側面の研究は,連邦(経済)ブロックに.おける工業立地に対する 独占の影響に,関するRothschildの問題提起,これに・対して,オーソドックスな 産業立地論の流れをくむGierschからの批判,そして,Gierschの命題に・対して, オ−・ソドックスな産業立地論を批判した,LeuIquinの見解の対置という塾で発 展してきた。 さて−,このような理論的研究の学説史的検討ほ,いまだなされていない。筆者 ほ,このような現状を認識しながら,本稿でほ,「共同市場と工業立地.」というテ ーマに関する学説と論争を紹介し,比較考察し,論争のよって来たる論拠を明 らか紅するとともに、いくつかの学説に対して若干の批判的検討をくわえたも のである。筆者のカ鼻の不足から,もとより十分な成果はあげられなかったが, 共同市場に関する研究ほ内外ともに.多いにもかかわらず,共同市場が工業立地 に及ぼす影響に関する学説の批判的検討は,はとんどなされていないという現 状のもとでは,筆者の研究も,何はどかの意味があれば,と考えて−,あえて発 表することに.したのである。 なお,共同市場とか経済連合という概念は,論者に・よって−必ずしも同じでは ないが,論争を比較・検討する場合に.ほ.,共同市場とか経済連合というものの 概念については,かなり類似しておりながら,エ巣立地に.対する,共同市場と か経済連合の影響の面で,臭った見解のみられる論争を,比較・検討したつも りである。 Ⅱ 1 Rotbschild 説

K.W.Rothschild(Glasgow University)が,1944年に,発表した論文5)の主

要な結論は,次のようなものである。大きな連邦ブロックの創設と,その構成 国の間の関税の撤廃ほ,独占的・寡占的要素が優勢なところでは,それ自身, 産業の最適立地(optimumlocation)に.導かないであろう。もし自由放任主義 5)Rothschild,K。W:Thesmal1nationandworldtrade,TheEconomicJournal, No。213.vol.LIV,Apri11944,pp26−40.

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香川大学経済学部 研究年報 7 J967 ・−62− 政策が遂行されるならば連邦連合の創説ほ.,その構成国の経済構造を強化し, 永続させる傾向があるであろう。いっそう大きな工業諸国ほ,重工業や他の工 業の独占センタ−となり,より小さい諸国は小規模工業や農業に機会をみつけ ざるをえないであろう。後進諸国ほ,以前に.おくれていたが故紅,まさしく後 進的に.とどまるであろう曾 次に.,Rothschildがこのような結論をうるにいたったプロセスを詳述して よう。Rothschildは次のよう紅述べている。ニつの近隣諸国の各々において, −・定の商品が独占老に.よって生産されていること,および二つの国が,この商 品に関して,はなはだ高価な関税に.よって分離されていることを仮定すると, 二つの独占者の各々ほ,利益を最大限にするために.,国内市場に.おける需要 に.,生産高を適合させるであろう。さて,ニつの国の間の関税が撤廃されること を仮定すると,共同市場の下で複占(あるいは寡占)が成立する。−・つの帰結 として,より広い市場の開放の結果ほ,相違した経済力の牽引力の間の適当な 均衡に.ではなくて−,ポ」−カ−のbluffグームのようなものや,妥協や,政治的 術策などに依存するであろう。一つの非常にありそうな解決は,しばらくの策 略の後紅,肇十・の独占があらわれるということである。これは全く容易に一・方 のプラントの閉鎖,他方のプラントにおける生産の集積に.−たとえそれらが 両方とも効率的であるとしてもー帰着するであろう。両国に.おいて,需要条 件が全く類似して.∵いるならば,残存しているプラントの生産高ほ.,以前よりも いっそう大きいとほいえ,関税の撤廃以前の両方のプラントの全生産高よりも 少ないであろう。その結果,商品の価格ほ,両国において上昇するであろう。 一つの商品に対する関税の撤廃が,その価格の低下をひきおこすことは,もは や必ずしも真実ではないであろう。一・般に,いっそう大きな連邦地域に.おける 独占的あるいに.寡占的な環境の持続を意味する諸条件の下で,諸工業が経営さ れている場合に.ほ.,関税の撤廃ほ,たしか紅,エ業立地の古いパタ−ンの,新 しいパタ−ン紅よる代替に導ぐであろう。保護関税の背後に,より多数の小独 占工業中心が存在していたところでは.,関税の撤廃後,高度に.集積した巨大独 占的な企業結合の出現が予想されるであろう。7) 6)Rothschild,K.W:ibid“,p31。 7)Rothschild,K。W:ibid,pp29−30.

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共同満場と工業立地 − 6β・・† これらの新しい工業中心は,いかなる地点にひきつけられるであろうか9 こ の問題について,Rotbschildは次のように.述べて\いる。生産の経済的有利性が 最大である之ころの地点にひきつけられるであろうか。いや必ずしもそうでは ない。共同市場に.おける覇権のための争いに.おいて,勝利は,商品の生産にお いてもっとも効率的な会社の手に帰するのでは.なく,もっともよい戦略的地政 を占め,ポー・カ−・・ゲ−−ムの策略の適用に.おいてもっとも巧みな会社の手に.帰 するであろう。そして−,生産ほ,連邦ブロックの形成以前紅大きな国内市場を 備えていた工業諸国に.集中される傾向がある。このdislocationの問題は,暗が たつに.つれて悪くさえなるであろう。というのほ,もし産業立地に.影響を及ぼ す因子が変化して,独立の生産者がこれらの変化した事情を考慮しようとすれ ば,強力な企業体は,新来の企業体の設立をさまたげるために.,カの及ぶ限り あらゆることを試みるであろうからである。そして−,連邦地域の巨大企業体 は,これをなし遂げるために.,もとの独立国におけるより小さい独占者よりも いっそう強力であろう。しかしながら,独占老自身ほ,問題になっている商品 の生産のために.いっそう有利になった場所に,たやすく移動しないであろう。 資本装備の価値を維持したいという独占者の希望が,もとの生産場所に.独占者 を縛りつけるであろう。8) それでは,Rothschildがこのような主張をなした理論的根拠はどこに・あるの であろうか。この点を明らか紅すれば,Rothschildの主張の意味がいっそう明 らかにされるであろう。自由貿易の大きな利益は,貿易制限のないことによっ て,絶対的・相対的に生産費の低い場所にエ業の立地が可能にされるであろう という事実に基づいて−いる。9)しかし,この推論が員実であるために・は,ニつ の条件がみたされなければならないとRotbscbildは考える。すなわち,第一・に 生産費ができるだけモ轟の、費用をあらわさなければならない。第二に価格が 生産費に.等しいか,あるいは,少なくとも比例していなければならない。ただ その時だけ,自由貿易が工業の最適立地に・導くであろう。だが,独占地代や独 占利潤の存在に.よって価格構造がゆがめられているならば,貿易制限の撤廃 ほ,よりよいエ業立地K,必ずしも導くものではなく,differentなエ兼立地に導 8)Rothschild,K.W:ibid.,p30・ 9)Rothschild,K.W:ibid.,p27り

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J967 香川大学経済学部 研究年報 7 −64 −・ くであろう。10) 2 Rothschild説に.対するGierschの批判

Rothschildの論文が発表されてから数年後に,Ⅱerbert Giersch(Miinster

andLondon)はRothschildの,以上のような説紅対して批判をくわえて∵いる。11) ただし,Gierschの批判は,Rothschild説を全面的紅否定しているわけではなく, 関税障壁や貿易制限の撤廃が,それ自身,産業の最適立地紅導くものではない という点や,独占がエ兼立地をゆがめるという点でほ,Rothscbild説を支持し ながら,次のような点で,部分的な批判をくわえているもの■であることを最初 に一述べておこう。 Rothschildに対するGierschの批判の主な点ほ.,関税障壁によって分離され た,ニつの異なった国に.,ニつの独占が存在する場合に.,関税障壁の撤廃は複 占をつくりだすが,二つの独占の争いの結果,連邦地域における一つ独占の発 生となるであろうというRothschildの説に関するものである。Gierschは,こ の場合に.,一つの独占の発生ということはありそうな結果であることは真実で あるが,必然的な結果でほない,そして,ある条件の下では,ありそうな結果で すらないというのである。Gierschは,その論拠として,輸送費に.換静した距 離因子の存在を重視している。二つの会社が二つの異なった国に.,それ故,連 邦の異なった地域紅立地していると仮定ざれているからである。そこで,二つ の会社の各々ほ.,輸送費のマL−ジンによって,ライバルとの競争から,ある程 度保護されているところの−・定の市場地域をもつこと紅なる。生産費を輸送す る費用がたかければたかいはどこのマージンは大きい。これほ二つの独占の斗 争をいっそ・う困難に.し(とくに雷工業に.おいて),たしかに.協定の可能性を生ぜ しめる。苗場を分割することがありそうな解決である。こ.れは必ずしも以前の 状態への復帰を意味するものではない。Ro比scbildは,もし両方のプラントが 等しく効率的であるとしてもーつのプラントほ閉鎖されると述べているが,こ の点についてGiersc血は疑問を感ずる。われわれが,距離と輸送費を無視す るのでなければ,結果ほそんなに.簡単なものではないというのが,GieI・scbの 10)Rothschild,K”W;ibid.,p28・

11)Giersch,H:Economic union between nations andthelocation ofindustries, The Review of Economic St11dies,VOlume XVII,1949−50,pp87−・97.

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共同苗場とエ兼立地 −65− 考え方である。閉鎖された会社の購買者たちほ.,もし彼等が残存している会社 から購入しなければならないならば,追加輸送費を支払わねばならないという ことを考慮しなければならない。F・0・B価格7把.おいて−,会社の各々が数嵐 100を売り,F・0・B価格8に.おいて,数豊90を売ることができ,銅鏡された 会社の顧客にとって,追加輸送費が平均して1であるという非常に.単純な例を とると,F・0・B価格7の総需要ほ,総最200ではなくて−,190である。追加輸 送費の存在によって,多くの場合に.,残存して.いる会社の総利益が,.以前の各 々の会社の利益の2倍以下であるこ、とを意味する。だから,この場合把.,プラ ントほ閉鎖されないであろう。しかし,プラントの効率に.おいて,大きな相違 が存在すれば,効率の低いプラントが閉鎖されるであろう。ここで,Gierscb は,立地問題に.関して,効率の低いプラントの立地上の費用不利益と,非立地 上の費用不利益とを区別して,以上の問題を深めている。ニつのプラントのう ち,・一ルつがこの両種類の不利益をもっているならば㌧ =生産ほよりよい立地に (社会的費用においてでほ.なく,私的費用においてよりよい立地にう集中する であろう。この場合紅ほ,後述するように.,Giei’sCb.のいう集積論議ととの独 占論議とが−激することになる。一つのプラントの非立地上の利益が,第二の プラントの立地上の利益よりも著しく大きいならば,仮定上の独占の成長は, 連合の主な重心の外側のいくつかの生産中心を強固に.するであろう。そして, 若干の条件の下でほ.,後述する,Gierscbのいう国際的集積を中和するであろ う,12)とGief、SCbほ考え.ているのである。 Ⅲ 1 Gie工・sCh説 これまで,Rothschild説に.対するGierschの批判を紹介してきたが,それで ほ,Gie工SCbほ,いくつかの国民経済の経済連合,例えば西欧連合が,工業立 地に対して,どのような影智を及ぼすであろうか,という問題をいかに.解明し ているであろうか。 Gie工・SChは,経済連合における空間の影響の差に.よる立.地効果を,もっとも 強い形態に.おいて認識するために.,貿易や要素移動への法律上の障害が少しも 12)Giersch,H:ibid..,pp95−96.

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J967 香川大学経済学部 研究年報 7 −66− 存卑しない灘端な,単純化された経済連合のモデルをつくっ ルでは,完全な自由放任主義が仮定されて−おり,政府の存在が無視されて言い る。そして,GieISChほ,次のような仮定紅基づいて,境界の立地効果を孤立 させようとしている。 (1)輸送費が距離に.比例している大せな平野がある(これほ輸送組織の影響卑 除くためである) (2†天然資源,人口,および生産単位が,いたるところで均等に分布してし、 る。生産単位ほ,規模の等しい,自給自足の農場のみであることが仮定されて ヤ、る○ (3)そ・の平野ほ,一つの圏であり,.外部の世界から圏を孤立させるところの砂 換鱒・よって囲まれている。砂漠ほ国際貿易や要素移動に対する国境や障害の代 替物とみなされるであろう。 かくして,GieISChのいう平野経済は,立地均衡(locationalequilibrium) の状態に.ある。この立地均衡の状態紅ある平野経済のなかに・,ダイナトソクな 要素たる資本の成長を導入するならば,この均衡はいかに変えられるか,と Gierschほ問う。農民のだれもが自分自身の必要をこえで市場に・売るために,一 つの生産物例えばど−ルを生産するこ.とを決定していると仮定し 略,彼の利董を最大限にすることを望むならば,生産物をいたるところで売る ことができるので軋なくて,買い手に生産物を輸送する費用が,大規模生産の 経済よりも大きくない,一定の市場地域(mar女et area)の内部でのみ生産物を 売ることをまもなく発見するであろう。他の農民達は同じビジネ・スを試みるで あろうが,彼等は既存のど−ル醸造所の市場地域の外で,彼等の立地を選ぶで あろう。だから,ビ−ルのための市場の網状組織(六角形)が生ずるのであ る。ピ」−ルに.あてはまることは,必要な修正をくわえれば,生産者の必要をこ えて生産されるあらゆる他の商品に.あてこほまる。それ故,あらゆる商品‘に・とっ て−,市場の網状組織がえられる。生産物の輸送費が低く,大規模生産の内部経 済が大きければ大きいはど市場地域ほ大きくなり,あらわれる会社はより少数 になるであろう。13) 13)GieI−SCb,H:ibid,pp87−88

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共同摘場 と エ兼立地 −・67− Gierschは,つづいて,次の点を強調して:いる。「われわれに.とって重要な ことは次の点である。市場地域が大きければ大きいほど,企業者はフロンティ アの近くの位置を選択することがより少ないであろう。その市場地域が金平野 をおおっているところの一つあるいほそれ以上の商品があるであろう。それら の商品の理想的な立地は,平野の中心にある。だから,市場地域の中心は,他 のどの位置に.おけるよりも多くの企業によって選ばれるであろう。もしわれわ れが種々の商品の網状組織を重なっているものと考えるならば,網状組織の全 組織が末端においてよりも中心においていっそう欄密になる傾向があることを 容易に.よみとることができる。.」14)「この集積(agglomefration)傾向は累積的で ある。一」15)さらに,外部経済やレ∵ント・ラグ(r・enト1ag)と関連した資本の成長は, 経済活動の集積を生ぜしめるであろう。Gier’SChほ,上記のモデルにおける砂 漠と国境との差異ほある程度のものにすぎないとみている。16)これまでのとこ ろ,GieISCbの分析ほ.,工.Oscbの分析に.類似しているが,L/ント・ラグという概 念を導入している点ほ異なっている。、とくに,レント・ラグという概念の産業 立地論への導入は,新しい試みと思われる。GiersChほ,レント・ラグとい う概念の理論的なバックグラウンドゐ仕上げほこの論文の範囲をこえるとして あまり詳しく説明していないが,レント・ラグと集積との関係七次のように述 べている。恵まれた地域において−ほ,地価や地代が上昇することは追突である が,これが初期の段階において,集積への当初の傾向を抑制しうると論議する こと,あるい隠集積過程を停止させうると論議することほ,非常に非現実的で あろう,何故なら,それにもかかわらず,集積ほわれわれの世界の轟実の現象 であるからである。他の側面でほ.,超高層ビルやビルディングの物理的限界に 達する前に,集積ほしばしば停止する。これを説明するためにほ,土地を買 い,建物を借りる企業者の決定は,期待される利益に基づいているのに,地代 は将来の利益を期待して上昇するというよりもむしろ与えられた利益に応じ て上昇することを仮定することが適切であるよう紅みえる。期待される利益 が,現存の利益よりも大きい限り,集積過程は継続する。山方,追加的利益がも 14)Giersch,H:ibid.,p88 15)Giersch,H:ibidい,p88. 16)Giersch,H:ibid.,pp89−−90

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ブタ67 香川大学経済学部 研究年報 7 一 6ざ − ほやありそうでなくなるや否や,集積の過程は,確実に停止するはずである017) Gie‡sC血の,この考え方は興味がある。ウェーバーが述べているように,従来, 地代の高騰は,集積の減退に.導く因子と考えられてきた。18)これほ.一つの兵実 であるが,地価や地代が,集積の進行や集積の停止に及ぼす役割を,レント・ ラグという概念を用いて説明しているGierschの考え方も有効なもののように 思われる。 Gierscbは,以上把.おいて分析された現象ほ,国境によるものであるから, 国内的集積(natiQnalagg18meration)と呼ばれるであろうと述べており,それ とほ別に,,国際的集積(internationalagglomeration)なるものを論じている。 経済連合の形成の立地効果が,むしろこ.の点にあらわれるとGierschが考えて いることほいうまでもない。Gie鱒Cbは次のように考え.ている0 国内的集積の 原因は,経済連合の形成によって「廃止される」(abolished)であろうが,国際 的集積ほ影響をうけないであろう。Gierschは国際的集積を説明するために, 最初のモデル(国内的集積のモデル)における砂漠の仮定をおろし,地域を indefiniteなものとみなすか,あるいは,それに,,全世界を含めようと述べてい る。GieIscbは,資源の均等な分布のかわりにり 特別の地域が確実な有利性 一つまり,鉱物埋蔵塁」熟練労働力,工業化過程の第1段階にとって一重要な 有利な気候−をもっていることを仮定している。Gier・schの最初のモデルに おいては,恵まれた立地たる蛋心は,砂漠に.よってのみ決定されたが,このモ デルでほ明白に.仮定されている。このモデルに.,資本の成長,内部経済と外部 経済,レント・ラグなどが導入されると,恵まれた立地の有利性は累積し,集 積中心が必然的に.生じ,経済活動の空間分布は,最初のモデルと同じように・な る。 GieIsCbは,さらに,国内的集積と国際的集積との間の関係について,次の ように.述べている。国際的集積の中心に・横たわっている諸国はさでおきしそこ では,国内的集積と国際的集積とが同じ方向紅作用する),国内的集積ほ,国際 的集硫とは反対に作用している。国内的集積ほ国際的なdeglomerationの一形 17)GieI・SCh,H:ibidりp89.

18)WebeI,A:Uber denStandort derIndustrien,1909・江沢譲爾監修日本産業構造研 究所邦訳,「工業立地論」,1966,p148

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共同苗場と工兼立地 −−69・− 態である。欧州でほ,関税障壁,貿易制限,政治的国境,および経済的ナ・ショ ナ・リズムによる国内的集積ほ,過去紅おいては,工業のより広い範囲に.わたる 分布を指向しているかのように.作用してきた。ところが,西欧連合の形成の立 地的結果は,次のようになるであろう。つまり,ヨ一口ッパ内貿易と要素移動 とに.対する障害の撤廃ほ,国内的集積を弱め,かくして−,国際的集積,より正 確にはヨーロッパ内集積を強めるであろう。それは,高度にエ業化された中心 の,労働力と資本とに.対する牽引力を強めることに.なろう。国内的集積によっ て一人為的な有利性を有していた都市や地域ほ不利になるであろう。これに.対し て,国境の重苦しい影響の下で苦しんでいたところの工業中心の近くの特別の 地域ほ,そのかわりとして,利益をう′るであろう。19)以上述べたGieISChの国際 的集積のモデルや,国内的集積と国際的集積との間の関係の分析は,経済連合 における工業立地の研究において従来,閑却されていた分野についての新しい 研究である。 2 GieISCh説とLeurquin説 共同市場の事例を分析したPhilippe Leurquin(Universit6Catholique de Louvain)は,西欧連合の形成ほ,国内的集積を弱め,国際的集積を強めるであ ろう,という上記のGierschの命題を必ずしも支持しているわけでほない。20)次 に,Leurquinの研究結果を考察したうえで,GierschとLeurquinとの相違を指 摘してみよう。 Gierschは,前述したように,経済連合に.おける空間の影響の差による立地 効果を,もっとも強い形態に應いて認識するために.,貿易や要素移動への法律 上の障害が少しも存在しない,極端な,単純化されたモデルをつくり,いくっ かの仮定に基づいて,いわば演繹的に,問題にアブロ−チ・した。これ紅対し て,LeuIquinほ,共同苗場の事例,すなわち,Zollverein(ドイツ連邦間の関 税同盟),アメリカ合衆国の経済統合,ヨ−ロッパ石炭・鉄鋼共同体,≡ト一口ッ パ経済共同体(EEC)などの結果を,経験的・帰納的に分析して,工業立地に対 する共同摘場の影響ほ,次の三つに分けられると述べている。 (1)外部経済の恩恵に浴して−いる既成の工業中心の維持とその外延性の拡大 19)Giersch,H:Op.Cit;pp90−91 20)Leurquin,P:March色Commun et Localisations,1962,ppl−307

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香川大学経済学部 研究年報 7 J967 − 7()一 (2)共同市場の境界地帯匿おけるエ禁足地の発展 (3)かつて国境の存在によってハンディキャップをうけて−いた地帯に應けるエ 兼立地の発展 この点を詳述しよう。 (1)共同市場に.設立された新しい企業の正確な立地は,経済的メトロポーリレ や,古くからの大工業地帯の,エ美紀対する牽引力を確証している。そして, 新しいエ業立地の発展ほ.,大部分,これらの地帯の周囲に.指・向している。これ ほブ共同市場の拡張に密接に.関連した投資の方向を決めるところの外部経済の 支配的影響を物語っているものである。21) (2)共同市場の外側に位置した産業家たちほ,共同市場という非常に大きな市 場の魅力に.ひきつけられて,共同市場紀子会社を設立する。Zollvereinの創設 後,ドイツのバ−−ゲンにおけるスイス工業の設立とか,EECの形成後,アント ワ」−プやロッテルダムのような共同苗場の境界地帯の荷揚港に.おけるア.メッカ エ業の立地がこれである。2=∃) (3)関税障壁の内部でほ,共同市場構成国の共通の国境に位置した地帯でほ, 関税障壁によって分割されていたnaturalmarketが復活する。共同市場の形成 は,これらの国境地帯を,いっそう不利でないものとし,エ業の分布における空 白を消滅させる傾向がある。EECのなかの二つの大きな市場(ドイツとフラン ス)の接触点たるアルザスとバ−デンにおける工業立地の発展がこれである。28) Leurquinほ,工業立地紅対する共同市場の影皆の上記の三つの型のうち,(1)の 型の工業立地が,支配的潮流であったし,今後とも支配的潮流となるであろう, とみている。共同市場に.よってひきおこされた生き生きとした競争は,外部経 済のすべての利益の恩恵に浴している経済的メトロポールや,古くからの大工 業地帯の,エ業に.対する牽引力を増加させるであろう,24)というLeurquinの結 論は,このことを確証するものである。結局,工業立地に対する共同市場の役 割ほ.,外部経済を通じて∴工業立地紅作用するという間接的なものである,と :ibid.,pp277−278. :ibidりpp270−271. 21)Leur・quin, 22)LeuIquin, 23)Leu【quin, 24)Leur・quin, P P P P ibid.,p271,p278,p281… :ibid.P281.

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共同満場とエ巣立地 −・7J− Leurquinは考えているのである。 それでほ,GierschとLeurquinとの相遵ほ,どこK,あるのであろうか。すなわ ち,これはいくつかの国民経済の下で形成されてせたエ兼立地形成の基本的方 向が,経済連合ないし共同市場の形成の結果,変化するか否かという問題紅つい て■,GierschとLeurquinがいかに.考えたか,ということである。Gierschほ, 経済連合の形成の結果,国内的集積の弱化と,国際的集積の強化とが生じ,国 際的集積の中心とならなかった諸国でほ,すで紅形成されていた国内的集境も 開化すると考えたのに・対して,LeuI・quinは,外部経済の恩恵紅浴している経 済的メトロポールや,古くからの大工業地帯の,エ業紅対する牽引力が,共同 市場によってひきおこされた競争紅よって維持され,共同市場における工業立 地の支配的潮流となるであろう,と考えたのである。両者の術語の相違を除外 すると両者の分析結果め相違ほ次のように.なる。Gie指Chの分析結果ほ,経済 連合の形成の結果,そのエ業中心における工業集積が強まるが,連合の工業中 心とならなかった諸国では,工業集積が弱まる,ということを意味している。 これに.対して1LeuIquinの分析結果ほ,古くからの工業諸中心に.おいて,依 然として,エ業集積が強まるということを意味している。療局,Gie工・sCbは,

いくつかの国民経済の下で形成されてきた工業立地形成の基本的方向が,経済

連合の形成の結果,変化するとみているの紅対して,Le“・quinは変化しないと みているのである。 ところで,この相違ほ,いかに.して生じたのであろうか。これほ,基本的紅 は,現在から未来紅かけての工業立地発展についての考え方の相違把.,主とし て,関連するものということができる。Gie工・SCbのモデルほ,エ兼立地発展に ついての,彼の考え方から生まれたものであるからであり,Leurquinの分析 も,現状分析紅基づいて,未来への工業立地発展の方向という判断を含んでい るからである。このよう紅考えると,GierschとLeurquinの相違は,前述した ように,GieI・SCbが,エ業立地の基本的因子を,距離と輸送費紅おいているの に.対して,Leurquinが,エ業立地の基本的因子を外部経済においていること紅由 来するのである。次紅,この点を理解するために,工業立地についてのLeuI’9や の考え方を考察しよう(GieI・SCbの考え方については前述した)。 LeuIquinは,立地因子として,輸送費の因子を重んずる,古典的・演繹的な

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香川大学経済学部 研究年報 7 ヱ967 Ⅶ 72 ■− 産業立地論を批判している。Leurquinほ.,次のように述べている。演繹的な古典 的産業立地論ほ,はとんど,現実紅密着していない。古典的理論が輸送費に.執 着していることが,そ・の主要な理由の一つである。クェ−バ−・の時代に」は,重 工業の立地鱒・おいて,距離が主要な役割を演じていた。技術がかなり単純であ ったからである。製鉄業のような若干の工業部門ほ.,生産過程の途中で消観サ る重患のある原料に依存している。そこで,歴史的に.多くの立地が,輸送因子 から説明きれた。今日でも,いまなれ 若干の工業立地ほ,輸送因子から説明 される。しかし,多くの工業に.とって−,エ兼立地の問題は,ほるかに複雑であ る。今日,工業の大部分にとって,輸送因子は,間接的な重要性しかもたなく なっている。技術進歩の効果の下で輸送費が低下したからである。−・方,輸送 因子紅かわって,他の因子,すなわち,労働力費用,資本費胤 用水費用など の因子,とりわけ労働力費用と資本費用の因子がますます患要性を帯びてい る。かぐて,エ兼立地にとって重要な因子ほ,古典的な輸送1天王子ではなく,外 部経済という因子である,と工.eu工・quinは考えているのである。古くからの工 業の放置のうえに.だんだん蓄積された外部経済の総塁のおかげで,エ共に.とっ てほ,古くからの位置を去るよりも,現存の工業を,漸次,外延的に拡大するは うが,一般紅,いっそう有利である。フランスにおいて,工業のinfrastructure の費用が濾二按投資費用の4∼5倍と評価されていることほ,国が莫大な援助を 与える場合を除いて−,工業が古くからの位置からはなれないことを意味するも のである。25)LeuI′quinは,以上のような意味で,エ業立地に対する外部経済の 役割を強調しているのである。Leurquinほ,工業の大部分において,工業立地 に対する輸送費の役割は間接的なものであるとみなし,そのかわりに,外部経 済を,エ兼立地に.おける基本的因子とみなすわけで,これは古典的な産業立地 論とほ異なって1、る。共同市場紅おける工業立地が,経済的メトロポ−ルや,古 くからの大工業地帯またはその周辺に‥おいて発展するのは既成の外部経済の 集積に牽引されるためである,とするLeurquinの研究結果ほ,以上述べたよう な,産業立地論についての彼の考え方と密接に関連している。 25)Leurq11in,P:ibid・,pp265−269・

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共同相場と工業立地 −7∂−− ⅠⅤ これまで,筆者は,「■共同市場と工業立地」紅関する学説と論争を紹介し,比 較考察するとともに.,論争のよって来たる論拠を明らか紅してきたが,ここで は.,前述した「共同市場と工業立地」というデ「マに関する学説紅対して,若 干の批判的検討を行ないたい。 とはいえ,Rothschildの命題に対するGierschの批判紅ついては,独占に∴つ いての概念規定において−,両者が血致しているように.みられる点と,そうでな い点とがあるので,26)ここ.で,それ紅ついて,紅わかに.批判的検討を行なうの を差し控えて,GierschのモデルとLeurquin説について若干の検討をくわえて みよう。 まず,Gierschのモデルについて,検討してみよう。Gierschの国内的集墳の モデルは,必ずしも、ユ‥ニークなものでほなく,前述したよう紅,すでに・L6sch などが考えた市場地域モデルを祖述しているものと考えられる。しかし,Gie・ Ⅰ・SCbの国際的集積のモデルは,かなり、ユニークなものと考えられる。 とこ.ろで,Gie工SC血の国際的集積のモデルは,工兼立地に.対する経済連合の 影響を分析するため紅有効なものであるといえるであろうか。われわれは,こ の点を考察するために,この国際的集積のモデルに.おける仮定の設定の仕方 が,果たして妥当であるか否か,つまり,工業立地に.対する経済連合の影響を 分析するに.あたって二本質的な要素を,モデルのなかに.仮定として導入している か否かということを問わねばならない。この点は,国内的集硫と国際的集積と の関係把ンついてのGierschの分析を検討すれば明らかになるであろう。Giersch ほ,国際的集積の中心紅横たわっている諸国はさておき(そこでは,国内的集 積と国際的集積とが同じ方向紅作用する),国内的集積は,国際的集積とは反対 に作用しているという。そしてまた,GieISCbほ,西欧連合の形成の立地的結 26)Ro仇schildほ,「わたくレは,独占者によって,全生産高の相当の部分をコントロー ルしているところの,影響力のある,何らかの会社を意味している」(Rothscbild,Ⅸ・ W;Op.Cit.,p29)とかなり明確に規定している。これに対してGierschほ,独占概念 を規定レていない。もっともG雲eI■SCbの叙述のなかには†方では,独占というものを, Roth亭C!lildのそれと同じように考えている側面が見受けられるとともに,他方でほ, 独占というものを,独占競争の仙層としての空間競争との関連において考えている側面 が見受けられるのである。

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呑川大学経済学部 研究年報 7 J967 −−74 − 果ほ,次のよう紅なるであろう,つまり,ヨ㌧−・ロッパ内貿易と要素移動とに対 する障害の撤廃ほ,国内的集積を弱め,かくして,国際的集積,より正確紅 ほ,ヨーロッパ内集積を強めるであろう,というのである。Gierschのモデル に.おける,このような帰結ほ,いうまでもなく,彼の国際的集積のモデルに・お ける当初の仮定と密接紅関連している。彼の国際的集積のモデルにおける当初 の仮定ほ,次の二つの特色をもっている。その一つは,国内的集砥のモデルに おいてほ,地域が砂漠(国境)に.よって明確華.境界づけられていたのに,国際 的集積のモデルにおいては,地域がindefiniteなものとみなされているか,あ るいほ,それに全世界が含められているということである。いま一つほ,国内 的集積のモデルにおいてほ,資源の均等な分布が仮定されていたのに,国際的 集積のモデルにおいてほ特別の地域が碑実な有利性一鉱物埋蔵巌;熟練労働 力などwを有することが仮定されているということである。このような仮定 が設定された,Gierschのモデルにおいて,国際的集積の中心に.横たわる国と いうのほ.,確実な有利性をもった特別の地域を有する国である。ところで,国 内的集積のモデルにおいて仮定されていた,輸送費が距離に㌧比例している大き な平野がある,という仮定は,この国際的集積のモデルにおいて−もおろされて はいないわけであるから,資本の成長,内部経済と外部経済,レント・ラグな どが導入されれば,確実な有利性をもった特別の地域を有する国に,国際的集 積の中心が形成されることになるのほ,けだし当然である。これに対して, GieI・sCbのモデルにおいて,このような国際的集積の中心に横たわらなかった 国では,国内的集積の効果が菊化することに・なるというのほ,このような国に ほ,確実な有利性をもった特別の地域が存在しないと仮定されているからであ る。Gierschの,このようなモデルは,経済的紅高度に発展した諸国(確実な 有利性をもった特別の地域が存在する)と低開発国(確実な有利性をもった特 別の地域が存在しない)との経済連合の形成の立地効果を考察する場合紅は有 効であろうが,EECのように・,経済的に高度紅発展した諸国間の経済連合 (共同市場)の形成の立地効果を考察する場合にほ有効で挙るとほ考えられな い。何故なら,このような場合払おいては,経済連合(共同市場)構成国のい ずれに・おいても,確実な有利性は例えば熟練労働力ーをもった特別の地域 が存在するから,構成国のいずれにおいても,国内的集敬の効果が強化される

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共同市場 とエ兼立地 丁=−75− とともに,国内的集積のうえに,国際的集積が累積する脚・もちろん,国内的 ・国際的集積の発展の仕方において,構成国間の不均等発展は存在するで卒ろ う鵬ほずであり,国内的集積と国際的集積とが相反して作用することは.ない はずであろうからである。 このように考えると,経済連合(共同市場)の立地効果を考察するため紅ほ, GieI■SChのモデルのような,一腰的な,←一つの国際的集績モデルの設定では不 十分なのであって−,①経済的紅高度に発展した諸国と低開発国との経済連合 (共同市場)の形成の立地効果についてのモデルと,②経済的に高度に・発展し た諸国間の経済連合(共同市場)の形成の立地効果紅ついて−のモデル,という ように.,地域類型的に.,少なくとも二つの国際的集積のモデルを設定すること が必要であると,筆者ほ考えるものである。 次紅,Leurquin説を検討してみよう。Leurquinの場合にもっとも問題疫・な るのほ,彼が,輸送費を,工業立地の基本的因子とみなす古典的産業立地論を批 判して,外部経済を,工業立地の基本的因子とみなし,この観点から,エ業立 地に対する共同市場の影響をも考察して1、る点であろう。前述したよう紅,外 部経済の恩恵に.浴している経済的メトロポ−ルや,古くからの大工業地帯の, 工業に対する牽引力が,共同市場に.よってひきおこされた競争によって維持さ れ,共同市場における工業立地ゐ支配的潮流となるであろうというLeurquin の考え方ほ,共同市場に.おける工業史地形成の現実に.裏付けされているととも に,上述したような産業立地論砿ついての,彼の考え方とも決して無関係では ないのである。 ところで,Leurquinの,このような考え方の論拠は技術進歩の効果の下で, 輸送費が低下したことに求められているが,この点ほ果たして適切であろう か。たしかに.,技術進歩の効果の下で,輸送費が低 ̄下したことは,この場合 に.,重要な論拠となりうる。だが,若干の問題点はのこっている。というの は,そ・もそも,クェ.−バ−が,輸送費を,工業立地の基本的因子とみなしたの は,産業の立地点に.よって,輸送費の差が大きく異なるということであったか らである。27)だから,「輸送費に.執着した」古典的産業立地論を批判するために 27)Weber,A;Uber denStandort derIndustrien,1909= 江沢譲爾監修日本産業構

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香川大学経済学部 研究年報 プ ヱ967 − 76− は,技術進歩の効果の下で,輸送費が低下したことが,産業の立地点による輸 送費の差の大きさにいかなる影療を及ぼしたのか,そして≠そのことが,産業 立地匿いかなる影響を及ぼしているのかというととを論ザるならば,よりいっ そう適切であったと考えられる。もっとも,技術進歩の効果の下で,輸送費が 低下したことは,産業の立地点に.よる簡送費の差の縮少を予想させうるであろ うし,そのことほまた,工業立地紅対する輸送費の役割の低下を予想させうる であろう。それ故,L釦血qdi血の考え方ほブ 方向としてほ妥当なものであると 筆者ほ考える。しかしながら,burquinの考え方が,技術進歩の効果があまり 強くない低開発国に.おいても,−・般的紅妥当しうるか否かということに.ついて は,若干の疑問の余地がある。この点を,「共同市場とエ業立地」というテふマ との関連に.おいて考えれば,Leurquinは,彼の考え方を,「共同市場と工業立 地」の叫・般論とみなそうとしているよう紅みられるが,この点は,若干の疑問 の余地がある。むしろ,われわれほ,「共同市場とエ業立地」についての,彼の 考察の帰結をi技術の進歩した,経済的に.発展した諸国間紅おける共同市場の 形成の立地効果として一つまり,共同市場の形成の立地効果の叫つの地域 類型として−把捉すべきであると考えるものセある。このよう紅考えればブ LeuI・quimの研究は,貴重なものであるということができるであろう。 本稿ほ.,1968年2月17日,経済地理学会(関西支部)例会において発表したものである。 その発表の際,御教示をいただいた大阪市立大学の川島蓉郎教授,春日茂東助教授,山名 伸作助教授,古賀正則助教授紅対して,謝意を表する次第セある。 本稿を草するにあたり,西欧に.おける都市と産業の実情に.ついては,大阪市立大学の 村松繁樹教授から,国際経済学における共同市場研究の動向についでは,本学の宮田亘朗 助教授から,御教示をいただいた。記して■謝意を表する次第である。

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