第8巻第1葛L(1956) 15
甘藷のカロチノイ・ド類色素の存在様式及びカロチン含有量
桑 田 晃,山 本 著 皮
The form of existence of carotenoid pigments and the volume of carotenein sweet pdtatoes
Hikaru K17WADA and KiyoshiY瓜IAMOrO(LaborIatOry Of Plant Breeding)
(Received August17,1956)
Ⅰ 緒
服部(7)によると,一膳に眉直物体におけるカpチ′イド弊色素ほ結晶状として現れる以外ほすべて原形質内におけ るリポイド中に膠状に溶解するか,叉ほ脂肪質と混じている.甘藷のカロチノイド数色素に就いての研究は歩く, 特にこれが存在様式についての研究ほ殆んどない..併し カpチソの含有盈に就いてほ杉山,高橋(13)及び藤田(8) の研究があり,前者の研究に依ると,品種に依り相当の差異が認められる岬 整者等は召肇のカpチ・/イド顆色葦の存在様式,即ちこの綴の色素が結晶状に.なって存在しているか否かを,更 に生育中及び貯顔中における訪色素の生成,含有盈の消長を,その品種及び組鹿毛の酪類,部分との関係において観 察実験を行い,=若干の新しい知見を㌧得たので報賃する. 本稿を草するに当り,御指導を賜った前京都大学教授者川冬夫博士に.対し,深甚の謝意を表する次第であるけ‡実験村料及び方法
供試材料は嘩人,九州12号,ナシシー・ホール,兼六及び袋林6号の5品種で,1951年春に,農林省九州農業試験場作 物第二部指宿試験地より分譲を受けたものである.これ等を普通の男法を放て栽培し,収軽し,以後慣行沫に倣り貯 歳したものにつき観察,契験を■行った..色素類の存在様式の飼察ほ収挺した翌年の1月より2月に亘って貯蔵した材 料について行った.生育とカロチソの生成との関係の実験ほ3月24日に簡床に伏込み,6月22日に定植した材料につ き,窯栢後約20日毎に,即ち7月12日,8月1日,8月21日,9月10日及び9月30日の5回に貰って,貯蔵申のカロチソ含 有盈の契験は貯蔵の中間と終り,即ち夫々翌年の1月15日と3月10日に行った.上記の観察,契験に使用した個体は 各品種何れも,正常に発育したもので,使用の藷はその個体の申で鰐準の大さ及び型を呈したもの,文一つの帝の 供韓個所はその藷の中央の3分の1の所である..この個所につき,更に皮層の桑繍胞と形成層より内部の組織の英紙 胞及び維管束との2部分に分けて夫々親察,契験を・行った..観察の■方法は上記材料及び部分より絶芋にでできるだ け蒋い切片を作り,直ちに.スライドに載せ,グリセリソにて封入して朗鏡した..而して多少の色素の流出も考えら れるが,10×10の視野の下で観察したい使用侭体数及び切片数はできるだけ多い方が望ましいが,前者ほ3”5偲, 後者は1個体10切片以上とした..カロチノイド紫色莱が発赤色の結晶として存在している場合にはすぐに観察で きるが,念のため,新教化学的試験をも加味した1.即ちアルコールに不溶,クロロホルムに可溶,濃硫酸に依って 温習色を呈するものを以て,蚊下結晶のものと呼ぶ審にする.結晶状でなく,而も原形質内にリポイドなどに溶け て黄色を差しているものについては麒放射こよりすぐに判明するが,ズーダソ刀‖こよる染色,濃硫酸に・よる濃菅藍 色の反応により検定した.以下かかる状態のものを非結晶と呼ぶ事にする..カロチソ及びキサソトフィルの分析の 男法は菅原(12)の方法匿従った。備,甘藷の組紐に.ついてはAluSCHWAGER(1),EAlfS,DANIETJb(3),HAYWARI)(8) 及びバ、倉(11)を参考にした.圧 実験結果及び考察
(1)嘩 人 炭層車の東経胞の殆んど全部に亘って黄赤色の結晶が著しく沢山存在し,非結晶のものは黄色を量し,維胞内をOLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
香川大学顔学東学術感賃 16 滞し,僅かの細胞に存在するのみである.形成層より内部の組織の薬細胞中にも黄赤色の結晶のものは相当沢山存 在し,非結晶のものほ黄昏を呈し,極く少く,主に維管束中に多く見られた. (2)九 州12 ‖号 皮層申の柔細胞に.黄赤色の結晶は殆んど認められず,非結晶のものが鮮明な黄色としで比較的多く認められた. 形成層より内部の組織の柔細胞には黄赤色の結晶は著しく沢山存在し,非結晶のものは黄色を呈し,やはり,主に 維管束中に見られた. (8)ナシシー・ホー■・ル 炭層申の柔′偶胞には巽赤色の結晶は殆んど認められず,非結晶のものは鮮明な黄色として,比較的沢山認められ たり形成層より内部の組織の柔細胞には黄赤色結晶が比較的沢山存在し,非結晶のものも黄色を重し,やほり,主 に維管束中に見られた. 佳)兼 皮層中の柔細胞及び形成層より内部の柔和胸中には巽赤色の結晶は殆んど認められないか,或ほ低かに存在する のみで,非結晶のもの少量二存在するのみ.であった. (5)畏 林 6 号 皮層中の柔鱒胞呵責赤色の碍晶は殆んど認められず,非結晶のものも僅少であった・形成層より内部の組織では 黄赤色の結晶は柔細胞中には殆んど見られないが,維管束中には存在していた山非繹晶のものも主に紐管乗車笹見 られた. 玖上の結果を表示すれほ第1表の如くである..即ち品穏により,叉同一点線でも組蹴の種類,部分笹よりカロチ ノイド類色素の存在様式を異にし,同時にその盈的差異も当然考えられる.カロチノイド顔色素の存在を結晶の場 第1表 甘藷5品種のカロチ/イド黄色莱の存在様式
Tablel The form of existence of carotenoid pigment and the tissues
COntaining themin five varieties of sweet potatoes
【 部面て砺 \ご、\\\ \ \ 皮 層 (CoTteX) 内 部 組 織(Inne工Tissue) 結
ns) (Crystal)
晶\\、存在様式(Foご五) −∴
、‥、 非 結 晶 (Non−C工yStal) 結 晶 (Crystal) 嘩 人(Hayato) 九州12号(Kyushu−No12) ++・ −ト++ +十 一トト T + + + ナソシーホール(Nancy寸Iall) 土 兼 六(’KenTOku) 農林6号(Norin−No6)〔註〕〔no吟〕+++ 著しく沢山存在 Extremely abundant トト 比較的沢山存在 Comparatively abundant + 少盈存在 Few j= 趣く少いか,殆んどない Scarce or non 合でも非結晶の場合でも,これを盈的に示す司封ま,その形状,太さ等の差異に依り困難であるが,敵役疏の同一・視 野内において,結晶もしくは非結晶のものが著しく沢山存在する場合にほ」→十+,比較的多い場合に.は十、+,少藍 の場合には+,殆んど存在しないか,或ほ存在しても極く僅かの場合を士として表した.本表に.依ると,5品種中, カロチ′イド猥色素が藷全体に比較的多いのほ琴人であり,少いのは新大,農析6号で,九州12等..ナシシーホ− ルは夷等の中間と云えよう. 生育中及び貯蔵中におけこる該色素の生成,含有放の消長を各品種に.つき,文組織,部分につき分析した結果は第 1図に示す如くである‖挿秋後20日冒であるプ月12日においてほ.,組織の範類別に窯放する事はできなかったが, 5品種共に該色素は著しく少いが,中でも九州12号が最も多いようであった.以後20日毎に屈鼓し,9月30日まで の結果をみると,7月12日より8月24日までの間では九州12琴の内部練馬如こカロチソが最も多いが,全体としてほ, 皮層部及び内部組織共にカチロ∵/の最も多いのは鐸人である,.次は曳閻部と内部組織により異なるが,九州12号と ナノシーホールで,最も少いのは兼六と農林6琴である.叉皮層都と内部粗相とでは,各晶櫛何れも後者のカが前
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第8巻第1号(1956) 者よりカPチy含有盈ほ多い. 17 貯蔵申のカpチノ含有蕊の消長をみると,皮層 部及び内部組織共に率人が最も多く,而も貯蔵中 に増加を来す..九州12号も内部組織では貯蔵申は カロチンほ増加し,而も嘩人に次いで多い。.次は ナyシー−ホールで,兼六及び肇杯6弓ほ.カロチソ 含有急が比較的少いためか,皮層部,内部組織何 れも,貯蔵中に特に大きな変化は認められなかつ た. 筒,キサ・ソトフィルは各品種,各組障共に何れ も痕跡程度にすぎなかった. 以上の結果よりすれば,各晶榎間のカロチノイ ド顔色素の顧徴鏡観察の結果とカPチソの定盈と の間に相似た傾向が見られる.カロチンの定盈は 杉山,高橋(13)及び藤田(6)の実験があり,前者は 甘藷20余品種に就き一行い,その中,九州12号, ナyシーホール及び腰杯6骨に.就いての成績ほ.な いが,嘩人,兼六については夫々4470γ−,927†と いう成摂を得,後者は供試品種ほ不明であるが, 唯甘藷のカロチソは10†で,キサソトフィルは0と いう成績を得ている∴而して杉山,高橋は藤田の 方法を使用しているが,薙契験との間に.精々大き な結果の差異があり,両品種共に本実験の成折の 方が倍近い数値を京している.この事ほ次の諸事 実からもある程度諸く番ができる..即ら,西田, 市来(10)に・依ると,甘藷のカpチyほ熱,光線, 客気及び酸素に依り破壊されるし,又Ez乱L, W∫LCoX(4)及びEz軋L(りは甘蘭貯蔵中の温度がカ ロチソ及びカロチノイドに及ぼす影響を研究し, 貯蔵中の温度及び品種によりこれ等に差異のある 事を認めている∴叉生育の段帽に依り,談色素の 生成に差異のある事も当然である..従って,本実 験笹用いた各品種に、就いても,貯蔵中の転々の条 件に・より,文鎮育の硬度,試料採取個所等に依り 各品種共にカロチソ含有盈に幾分変化のあった事 は当然で,上述の杉山,高橋及び聾者等のカロチ ソ含有盈の差異も,かかる点より生じたものと恩 内剖i組錘 成 層 1SOOO 】4000 13000 12000 11000 / / グ ダ !nI王erl「isslユe 嘩 へ Hayat(ヽ ‘− ̄…‘鵡○月 九 州12 琴 Kyus量Iu・No12爛■■■加■■− サソシ」−ホ十・几 Nan町叫・Hall針 ̄ ̄ ̄ Cortex 飛 KenIOku 農林 6 卑 Nofi乃・−No6 ●▲=○■■●■=■
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カ。チン含有党︵嘩仕丁︶ ●1.. り”/.. ′ 。。。 98。。 \●. ●.′ノ/ \V ′/
g J ♂ g J ∫ J J J 12用 2/Yl篭 24/Ⅷ ⊥0用 30/Ⅸ 15/110/Ⅱ 生 育 中 貯 蔵 中 第1図 生育中及び貯蔵中の甘藷5品種のカロチン 含有盈の消長(100gr中のγ盈)Fig“1The volume of carotenein five Varieties of sweet p9tatOeS at VafJious $tage Of gr0Ⅵrtil alld StOrage(7perlOO gr..) われる‖ しかしその含有盈の大小の関係は同じ傾 向を示している“ 侍,甘藷のカロチソの寄掛こ就いては香川(9)ほ患初白色体に.おいて行われ,後,結晶化するであろうと述べ,又 最近BoNがER(2)はカロチノイド顔色真の形成,蕃穣についてほ詳細は鏑不明であると述べている.今後はカロチノ イド類色素の形成,蓄穏及び結晶のものと非結晶のものとの関係,:並びに組織の種類,部分によるこれ等の盈的差 異を甘藷の各品種に就き研究し,更にこれが生理学的性質との閑聯について研究を行わなければならない小
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18 香川大学農学部学禍報告
Ⅳ 摘
要 (1)甘藷のカロチノイド顛色素の存在様式を,更に生育中及び貯蔵申における該色素の動乱含有盈の消長を, その品種及び組織の種類,部分との関係に.おいて比較観察,英鹸を行った. 但)供試品種ほ辱人,九州12号,ナソシーホール,兼六及び腰林6号の5品種である. (3)カpチ′イド顔色莱は第1表に示す如く,結晶状及び非結晶状の2つの様式で存在し,その盈は晶橿及び組 樟の宿類,部分により異にする 佐)生育中及び貯蔵中のカロチソ含有盈の消長ほ第2因に示す如く,−・部の例外を除き,各品穣,細線共に生育 に伴い増加する・・貯蔵申では大きく変化サる晶軽,組織と然らざるものと.が見られた..筒,カロチソ含有温は皮層 臥内部組織何れも嘩人が一番多く,次は九州12号,ナシシ←ホールで,兼六と農林6琴は最も少ない.Ⅴ 引
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(5)q ‥ Pre−Iand past−harvest changesin
CarOtene,tOtalcarotenoids and ascorbic
acid content of sweet potatoes,Pl.Ph.γS. 27(2)(1952) (6)藤田秋治:ビタミソの化学的窯豊沃,誠文堂新党
用 文 献
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potatoe$atVarious stage of growth and storage weTe madein relation to the varieties and SOrtS Of tissues.
(2)Materials used were five varieties;Hayato,Kyushu−No..12,Nancy−Hall,Kenroku and
Norin−No小6.
(8)The resultsobtained were showninTablelandFig.1.
佐)Thecarotenoidpigments existsin twoforms,namelyin crystaland non−CryStalstates,and their amounts are different according to the var・ieties and sorts of tissues
(5)With $Ome eXCeptions,the volume ofcaroteneincreased withthegrowthineachvariety and tissue,althoughitwas changedremar・kably or slightly according to thevariety andtissue
Withthe stage of storage.