<作成日:2006/4/9> <石油・天然ガス調査グループ:野神 隆之>
原油市場:イラン及びナイジェリア情勢、そして米国ガソリン需給逼迫懸念を反映し原油
価格が上昇傾向
(IEA Oil Market Report、米国 DOE/EIA、OPEC 他) ① 米国では、製油所の大規模メンテナンスにより、原油受入量が低下したことに伴い、原油在庫が増 大。 ② 一方で、米国ガソリン需要が比較的堅調な反面、製油所での生産が低迷したことからガソリン在庫が 減少。 ③ 市場は、イランの核開発問題を巡る西側諸国との緊張やナイジェリアにおける原油生産停止に加 え、米国でのガソリン在庫の減少から夏場のドライブシーズンに向けガソリンの需給が逼迫するので はないかとの懸念が増大し、原油価格に影響、4 月初めには 1 バレル当たり 68 ドルを突破する場面 も見られた。 ④ 今後も引き続きイランやナイジェリア情勢等に伴う供給途絶懸念と夏場の需要期に向けたガソリン需 給に係る懸念が材料視され、原油価格が左右されるものと考えられる。 ⑤ また、2006 年も 2005 年ほどではないにしろ、平年を上回るハリケーンが発生するとの予報もあり、 2005 年同様夏場に向けたガソリン増産期に冬場の留出油需給逼迫懸念が増大、石油製品価格が上 昇するとともに原油価格が影響を受けることも予想される。 1. 石油市場を巡るファンダメンタルズ 世界における主要石油消費国である米国では、2005 年のハリケーン「カトリーナ」や「リタ」で被害を 受け操業を停止したメキシコ湾岸地域における製油所での石油製品生産減少を穴埋めすべく、被害を 受けなかった製油所の多くが秋季のメンテナンスを延期したりして石油製品の生産に努めたが、これに より、当時延期されたメンテナンスを春季にまとめて大規模に実施することとなったため、製油所の操業 が低迷した(図 1 参照)。これに伴い、製油所での原油受入量が低下したことで、同国の原油在庫は総 じて増加、平年水準の上限近くを維持している(図 2 参照)。ただ、米国で原油在庫が豊富になったこと もあり、WTI とブレントの価格差が縮小している(図 3 参照)ことから、今後米国への原油輸入が低迷す るとともに、製油所メンテナンスが終了に伴い原油受入量が増加してくることから、この先原油在庫は減 少するか、ないしは増加したとしても低い水準に留まることが予想される。
図1 米国の原油精製処理量(2005~6年) 12 13 14 15 16 17 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 日量百万バレル 2005-6 2004-5(参考) 出所:米国エネルギー省 図2 米国原油在庫推移( 2 0 0 3 ~6 年) 250 270 290 310 330 350 370 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 百万バ レル 1997-2002実績幅 2003-2006 出所: 米国エ ネルギ ー 省 図 3 W T I- B r e n t テ ゙ ィ フ ァ レ ン シ ャ ル ( 2 0 0 6 年 ) - 3 - 2 - 1 0 1 2 3 4 5 6 1 2 3 ト ゙ ル / ハ ゙ レ ル 4 また、米国においては、ガソリン需要が比較的堅調である(図 4 参照)一方で、製油所のメンテナンス に伴う操業低下で、ガソリンの生産量が低迷(図 5 参照)、結果として 5 週間連続して合計 1,400 万バレ ルの大幅なガソリン在庫の減少となった(図 6 参照、但し依然として平年並み水準は維持している)。こ
のことが最近市場において夏場のドライブシーズン(5 月最終週のメモリアル・デーによる週末連休から 9 月第一週のレイバー・デーによる週末連休まで)に伴うガソリン需要期に向けた需給逼迫懸念を生み 出すことになった。 図4 米国のガソリン需要(2005~6年) 8.4 8.6 8.8 9.0 9.2 9.4 9.6 9.8 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 日量百万バレル 2005-6 2004-5(参考) 出所:米国エネルギー省 図5 米国のガソリン生産量(2005~6年) 7 .4 7 .6 7 .8 8 8 .2 8 .4 8 .6 8 .8 9 9 .2 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 2 3 日量百万バレル 2005-6 2004-5(参考) 出所:米国エネルギー省 図6 米国ガソリン在庫推移(2003~6年) 180 200 220 240 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 百万バレル 1997-2002実績幅 2003-2006 出所:米国エネルギー省
OECD 諸国においては、引き続き原油在庫は豊富にある(図 7 参照)他、石油製品在庫も平年並みの 水準となっている(図 8 参照)。 図 7 O E C D 原 油 在 庫 推 移 ( 2 0 0 5 ~ 6 年 ) 8 9 1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 億 ハ ゙ レ ル 1 9 9 5 - 2 0 0 4 2 0 0 5 - 6 出 所 : I E A 図8 OEC D石油 製品在庫の推移( 2 0 0 5 ~6 年) 12 13 14 15 16 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 億 ハ ゙ レル 1995-2004 2005-6 出 所 :IE A 2. 3 月中旬から 4 月上旬にかけての原油市場等の動き 3 月中旬から 4 月上旬にかけての原油市場は総じて上昇傾向で推移した(図 9 参照)。3 月中旬には、 ウラン濃縮活動を継続しようとするイランと西側諸国との間で緊張が高まる中で、イランからの原油輸出 に支障が生ずるのではないかとの不安感が市場で増大したことに加え、米国独立系石油会社 Amerada Hess とベネズエラ国営石油会社PDVSA との合弁会社である Hovensa の米国ヴァージン・アイランドにお ける St. Croix 製油所のガソリン生産装置が 3 月 11 日に停止(これは予定外のものであった)し、復旧に 2 週間を要するとの報告がなされたことから、夏場に向けたガソリン需給の逼迫化懸念が発生、ガソリン 価格が 5 ヶ月ぶりの高値になったことを受け、原油価格は 3 月 10 日の WTI で 1 バレル当たり 60 ドル割 れ(終値)の状態から、3 月 16 日には一時 1 バレル当たり 63.90 ドルにまで上昇した。しかし 3 月 17 日に は OPEC が 2006 年に係る世界石油需要の増加量を日量 11 万バレル下方修正したことや、既に高水準
となっている米国での原油在庫がさらに増大しているのではないかとの観測が、イランに関する原油供 給停止懸念やナイジェリアで 3 月 18 日に発生した、武装勢力によるイタリア石油会社 Agip の Tebidaba-Brass パイプライン(日量 7.5 万バレルを輸送すると言われている)の爆破に伴う同国からの原 油供給量のさらなる低下に係る不安感を上回り、3 月 20 日には 1 バレル当たり 60 ドル台にまで下落し た。 図9 原油価格の推移(2003~6年) 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 ドル/バレル
WTI Brent Dubai
ただ、3 月23 日には、ナイジェリアにおいて Agip がパイプラインを爆破されたことに伴い Brass 石油輸 出ターミナルからの日量 20 万バレルの原油輸出につき同社が契約を履行できなくなったとの情報で同 国からの原油供給途絶懸念が再燃、原油価格は 1 バレル当たり 63 ドル台へと上昇した。さらに同国にお ける原油生産停止が長引くのではないかとの観測や、米国ガソリン需要が比較的堅調なこともあり、市場 関係者が夏場の米国でのドライブシーズン(そしてガソリン需要期)やハリケーンシーズンに注目、ガソリ ンといった石油製品需給につき不安視し始めたことを背景として、米国ガソリン在庫が引き続き減少を続 けるのではないかといった予想、そして実際 3 月 29 日には米国石油統計発表でガソリン在庫が 530 万 バレルの減少と市場の予想(150 万バレル程度の減少)を大幅に上回っていたことや、国連安全保障理 事会がイランに対して 30 日以内にウラン濃縮活動を停止するようにとの議長声明を採択した一方で、モ ッタキ(Manouchehr Mottaki)イラン外務大臣がウラン濃縮活動を継続する旨表明するなど事実上国連の 決定を拒否する姿勢を示したことから、イランを巡る情勢について不透明性が増大、原油価格を押し上 げ、3 月 30 日には 1 バレル当たり 67.30 ドルとなった(終値は 67.15 ドル)。 4 月に入ってからは、イランやナイジェリアに係る原油供給途絶懸念や供給停止長期化に係る不安を 背景に、米国ガソリン在庫減少予想(150~200 万バレルの減少)と、実際それを大幅に上回る 440 万バ レルの減少が判明していたことにより、米国の夏場におけるガソリン供給不安が再燃、投機筋による活発 な資金流入もあり、4 月 6 日には取引時間中に 1 バレル当たり 68 ドルを突破する場面も見られた(商品
市場は全般的に投機資金の流入が活発であると言われており、4 月 6 日には金価格が約 25 年ぶりに 1 オンス当たり 600 ドルを突破した他、銅価格も最高値記録を更新したと伝えられる)。ただ、4 月 7 日には Shell から、ナイジェリアの現場が安全になり次第被害状況につき調査を開始し、生産修復に向け必要な 措置を講ずる旨のコメントが出されたことから、ナイジェリアでの石油生産が回復するかもしれないとの期 待や、利益確定による売りが出て、原油価格は若干下落し、1 バレル当たり 67.39 ドルで取引を終了して いる。 3. 天然ガス市場の状況 米国天然ガス先物価格(NYMEX)は、引き続き豊富な天然ガス地下貯蔵量を背景として(図 10 参照) 100 万 Btu 当たり 6~7 ドル程度で推移している(図 11 参照)が、最近では原油や石油製品の価格高騰 により、製造業者や発電所が割安な天然ガスに燃料を転換していることから天然ガスの需要が増大、価 格に影響を及ぼす場面もあると伝えられている。 図 1 0 米 国 天 然 ガ ス 貯 蔵 量 の 推 移 ( 2 0 0 5 ~ 6 年 ) 0 . 5 1 . 0 1 . 5 2 . 0 2 . 5 3 . 0 3 . 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 2 3 兆 c f 2 0 0 0 - 4 2 0 0 5 - 6 出 所 : 米 国 エ ネ ル ギ ー 省 図11 天然ガス先物価格の推移(2005~6年) 5 10 15 20 8 9 10 11 12 1 2 3 4 ドル/百万Btu NYMEX IPE 他方、英国では、もともと北海地域での天然ガス生産量が減少していた(英国では 2004 年に天然ガス
の純輸入国に転落したと言われている)ことに加え、同国最大の Rough 天然ガス貯蔵施設(天然ガス貯 蔵量1,000 億 cf)で 2 月 16 日に火災が発生し操業が停止、その後の調査で少なくとも 5 月 1 日までは操 業が再開できないと伝えられたこと、またノルウェーの Troll A プラットフォームにおける技術的問題で同 プラットフォームからの天然ガス生産量(通常の生産量は日量 35 億 cf)が 3 月 10 日から 10%低下したこ と、フランスにおいて Suez と Gaz de France との合併に反対した労働者が、3 月 13 日に同国における 2 ヶ所の LNG ターミナルの他、12 ヶ所の天然ガス貯蔵施設のうち 8 ヶ所を占拠したことから、天然ガス供給 に支障が生じ、近隣諸国の卸売市場から天然ガスを購入する必要に迫られたことや、欧州地域で気温 が低下したこともあり、ベルギーと英国を結ぶインタコネクター(Interconnector)パイプラインの天然ガス 輸送量が低迷(稼動率は半分以下と言われている)したことから、一時的に英国内の天然ガス需給が逼 迫、3 月 13 日に配給会社 National Grid が国内天然ガス需要を減少させる必要性がある旨警告を発した ことから、同日英国天然ガススポット価格は一時百万 Btu 当たり 43.4 ドルと平常時の数倍に跳ね上がる 場面もあった。ただ、IPE での天然ガス先物取引価格自体は 3 月中旬時点で 100 万 Btu 当たり 9~10 ド ル程度、その後は 7~8 ドル程度で推移している。 4. 今後の見通し 今後の原油相場は、イランやナイジェリアでの政情不安に加え、米国での夏場のドライブシーズンに 向けたガソリン等石油製品の需給状態とそれに対する市場の観測、懸念の大小により左右されていくこ とになるものと思われる。米国では 6 月までにニューヨーク及びコネチカット両州を除く東部諸州及びテ キサス州において夏用ガソリンの添加剤が MTBE からエタノールへ転換される予定であるが、これに伴 う製油所等の設備転換が間に合わないことからガソリン価格が上昇する場合がありうると一部の市場関係 者の間では考えられている他、エタノールが水分を吸収しやすいため製油所でガソリンと混合しパイプ ラインで輸送することができず(パイプラインで輸送した場合には、そのガソリンに含有されるエタノール が品質変化を起こして規格外となる可能性がある)、エタノールを別途鉄道貨車ないしはトラックで油槽 所に持ち込んだ上でガソリンと混合しなければならないことから、輸送上のボトルネックが生じ、それによ って地域的にガソリン需給が逼迫、ガソリン価格の高騰が原油価格に飛び火する場合も予想される。ま たそのような事態が実際に発生しなくても、発生する可能性から夏場に向けガソリン需給逼迫懸念が増 大、そのような懸念を材料とする投機筋による大量の資金流入と相俟って、ガソリン価格、そして原油価 格が上昇する恐れもある。ただ、今後米国における大規模な製油所メンテナンスがピークを過ぎ、ガソリ ンの生産が回復してくるとともにガソリン在庫が増大してくれば、ガソリン価格、ひいては原油価格にとっ て下方圧力となる可能性もある(もっとも、前述の通り他方で原油在庫が減少する可能性もあることから、 この下方圧力が相殺されることもありうる)。
また、4 月 5 日には、2006 年の大西洋圏におけるハリケーンシーズン(6 月 1 日から 11 月末まで)に、 2005 年並みとはいかないまでも、平年を上回る 9 個のハリケーンが発生(因みに平年は 6 個のハリケー ンが発生するとされ、2005 年は 15 個のハリケーンが発生した)する可能性があるとの予報が出されてお り、このことから夏場を前にして冬場の留出油(米国の留出油在庫水準は現在のところ平年に比べると豊 富な状況にある(図 12 参照)が、それでも 2005 年 8 月の時点に比べれば低い状態にある)の手当てに 市場が動く可能性もあり、そうなると製油所がガソリンを増産しなければならない時期に留出油まで増産 しなければならず(2005 年のハリケーン「カトリーナ」来襲時には国際エネルギー機関(IEA)が緊急時石 油備蓄の放出を実施したが、米国戦略石油備蓄(SPR)は原油のみであり、石油製品は欧州等からの輸 入に頼らざるを得なくなったことから、2006 年については、この点において、市場での懸念が一層増大 する可能性もある)、従って石油製品価格の上昇から、原油価格が上昇することも考えられる。 図12 米国留出油在庫推移(2003~6年) 80 100 120 140 160 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 91011121 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 百万バレル 1997-2002実績幅 2003-2006 出所: 米国エネルギー省 原油生産に関してはナイジェリアで依然相当量が停止している(図 13 参照、3 月中旬には同国のダウ コル石油大臣が、2 月 18 日の Shell の Forcados 輸出ターミナル攻撃に伴い、Shell 以外の石油会社によ る約10万バレルの石油生産も停止した旨明らかにしている)。また、3月27日には武装集団ニジェール・ デルタ解放運動(MEND:The Movement for the Emancipation of the Niger Delta)が 2 月18 日に誘拐した まま解放されていなかった 3 名の非ナイジェリア人(米国人 2 名、英国人 1 名)を解放したが、MEND は 引き続きニジェール・デルタにおける石油関連施設への攻撃を継続する旨明らかにしており、今後も同 国の原油生産に影響が出る可能性がある。 一方、ベネズエラの原油生産量が西部油田地帯を中心として、2005 年後半より日量約 10 万バレル程 度減少してきている(図 14 参照)。これが、最近市場で噂される同国での石油産業上流部門に対する投 資不足によるものなのかどうかについては現在のところ明らかになっていないが、ベネズエラにおける 今後の原油生産動向についても留意していく必要があるものと思われる。
図 1 3 最 近 の ナ イ ジ ェ リ ア で の 主 な 攻 撃 等 に 伴 う 原 油 生 産 停 止 量 ( 2 0 0 5 ~ 6 年 、 推 定 ) 0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 1 2 1 2 3 4 日 量 万 バ レ ル 出 所 : 各 種 資 料 よ り 作 成 図 1 4 ベ ネ ズ エ ラ原 油 生 産 量 ( 2 0 0 5 ~ 6 年 ) 2 .6 2 .7 2 .8 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 1 1 1 2 1 2 日 量 百 万 ハ ゙ レ ル 出 所 : I E A