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メキシコ経済の動向

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No.312 2017 年 12 月 7 日 メキシコ経済の動向 ~NAFTA 交渉と大統領選が不透明感をもたらす~ 経済調査部 上席研究員 森川 央 morikawa@iima.or.jp

1. 2017 年の成長率は 2.0%の見込み

2017 年のメキシコ経済は、隣国である米国で反メキシコ的なトランプ大統領が就任 し不安と共に始まった。1 月の消費者景気信頼感指数(2003 年 1 月を 100 とした指数) は 70.2 に急落したが、その後シリアや北朝鮮情勢の悪化により、米国が安全保障上の 課題を優先せざるを得なくなったことで、米国の対メキシコ政策はしばらく先送りされ た観があった。そのためメキシコ側の警戒感もひとまず後退し、消費者信頼感指数もト ランプ大統領当選前(2016 年 10 月 84.7)を上回る水準まで回復してきた(図 1)。 企業も比較的冷静な対応をしていたと思われる。実質設備投資のうち機械設備をみる と、月々の変動はあるものの基本的には増加基調であると認められる(図 2)。建設工 事が停滞しているのは、公共事業が削減されているためで、企業の先行き期待とは無関 係と思われる。 2017 年前半の実質 GDP 成長率は前年比 2.5%と、ほぼ潜在成長率並みの成長率と思 われる。年間では 2.0%程度の成長率になる見込みである。年初のコンセンサス予想が 1.5%前後であったことを考えると、メキシコ経済は比較的堅調であったといえよう。

2. インフレは峠を越し、景気は再加速へ

直近 7-9 月期の実質成長率(速報)は前年比 1.6%に低下し、前期比年率(季節調整 60 65 70 75 80 85 90 95 100 105 09 10 11 12 13 14 15 16 17 図1:消費者センチメント (資料)メキシコ統計・地理情報院 (2003/1=100) (年) 90 95 100 105 110 115 120 125 130 12 13 14 15 16 17 図2:実質設備投資の内訳 建設 機械設備 (2008=100) (年) (資料)メキシコ統計・地理情報院

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いは衰えている。もっとも、この減速は景気の踊り場に過ぎず、早晩景気は勢いを取り 戻すと思われる。 というのも、足元まで景気の勢いを削いでいたのはインフレ率の上昇により、家計の 実質所得が減少したためと考えられるからだ。 為替レートの下落により、メキシコの生産者物価は 2016 年に入ると大きく上昇し、 2017 年 1 月には前年比 12.5%になった。インフレは時間差をもって消費者物価段階に も波及してきており、2017 年 8 月には消費者物価も前年比 6.7%に上昇していた(図 3)。 そして消費者物価が上昇するに連れ、小売売上(数量)は伸び悩み、2017 年はほぼ 横ばいからやや減少となっていることが図からみてとれる(図 4)。 しかし幸いにも、生産者段階のインフレは終息に向かっており(図 3)、消費者物価 の上昇もピークを迎えた観がある。中央銀行であるメキシコ銀行は、インフレ率の上昇 がインフレ期待を引き上げることを恐れ、2015 年 12 月から 2017 年 7 月にかけて累計 4.0 ポイントの利上げを実施したが現在は据え置き期間に入っており、更なる利上げの 可能性は遠のいたとみられる。 雇用情勢に目を転じると、失業率は 3.3%に低下している(9 月)。正規雇用も増加 しており、インフレ率さえ低下すれば、家計を取り巻く環境は良好である。 メイン・シナリオとしては、インフレが低下していくことで消費が回復し、2018 年 の成長率は加速し、2.5%へ接近していくと期待できる。 -2 0 2 4 6 8 10 12 14 13 14 15 16 17 図3:物価動向 消費者物価 生産者物価 (年) (資料)メキシコ銀行 (前年比、%) 90 95 100 105 110 115 120 125 130 13 14 15 16 17 図4:小売売上(数量) (年) (資料)メキシコ統計・地理情報院 (2008=100) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 11 12 13 14 15 16 17 図5:正規雇用増減 フルタイム パートタイム (前年差、万人) (年) (資料)メキシコ統計・地理情報院

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3. 大統領選が波乱要因になる可能性も

こうした回復シナリオに水を差す可能性があるのが、外交を含めた政治の動きである。 NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉は、米加メキシコ間で断続的に実施されている が、難航が伝えられている。当初計画された 2017 年内の大筋合意は絶望的であり、今 では 2018 年 3 月に目標を延期している。 トランプ政権は自動車関税ゼロの条件として、メキシコ、カナダに①原産地ルールの 引き上げ(62.5%→85%、米製品 50%以上を新設)、②貿易規制禁止の撤廃(チャプタ ー19)等、強気の要求をしている。 しかしアメリカ国内にも決裂を心配する声が少なからずある。特に、メキシコと国境 を接する州選出の議員は、州経済へのダメージを恐れている。またトランプ大統領自身 も NAFTA より税制改革を優先すると発言しており、NAFTA 交渉を南部州選出の議員 との取引材料にし、いずれはトーンダウンする可能性がある。 一方、メキシコ側も交渉を全否定しているわけではなく、縮小ではなく拡大均衡で米 メキシコ間不均衡を是正するという、建設的な交渉には応じるとしている。 交渉の決裂はどちらの利益にもならないとみられ、合理的に行動するとすれば、どこ かで妥協は可能と思われる。決裂をメイン・シナリオとすることはできない。 ところがここにきて波乱要因として浮上してきたのがメキシコの大統領選挙である。 現職のペニャ・ニエト政権(制度的革命党 PRI)は、選挙戦中のトランプ候補に対し毅 然とした態度をとれなかったことが響き、支持率は低迷している。本命かと思われた中 道右派 PAN(国民行動党)は、候補者を一本化できず事実上の分裂状態となり大統領 選は混沌としてきた。 最近の世論調査によると、最も高い支持を得ている候補者は、ロペス・オブラドール 国家再生運動(Morena)党首である。Morena は民主革命党(PRD)から分派した左派 政党で、今回の大統領選挙の台風の目になっている。メキシコの大統領選は決選投票が ない一回限りの選挙であり、3 分の 1 程度の得票率でも勝機があるが、最新の調査(11 月 23-27 日)でオブラドール氏の支持率は 31%となっている。 オブラドール候補の NAFTA 交渉への姿勢はまだはっきりしていない。しかし、大統 (資料)各種報道等 図6:メキシコの主要政党 国家再生運動 (Morena) ・左派 ・カリスマ性高いオブ ラドール党首が率い る新党 ・世論調査では支持 率筆頭 民主革命党 (PRD) ・中道左派 ・党内有力者で国民 的人気のあるオブラ ドール氏が離脱、新 党を結成 ・党勢衰え、独自候 補擁立断念か 国民行動党 (PAN) ・中道右派 ・党内での権力闘争 激しい ・有力者のサバラ元 下院議員(カルデロ ン前大統領の夫人) が大統領選への立 候補を表明 ・アナヤ党首も立候 補へ 制度的革命党 (PRI) ・現与党 ・支持率低迷 ・後継はオソリオ内務 相だが、ミード財務 公債相が大統領選 でPRIからの出馬を 目指すことを表明

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にじませている。また、現政権下で進められた石油産業への民間参入についても見直す 意志を表明していることから、やはりビジネス寄り、自由化推進路線を踏襲することは 期待できないだろう。外資系企業への姿勢はまだ明らかではないが、外資系企業として は慎重にならざるを得ないだろう。 懸念されるのは、こうした様子見姿勢が企業の投資意欲に水を差すことである。図 2 で確認したように今のところメキシコ設備投資に変調はみられない。またメキシコに流 入する直接投資にも大きな変化はみられないが、今後の選挙戦の展開によっては様子見 姿勢が強まる可能性があり、注視していく必要がある(図 7)。1994 年の NAFTA 締結 以来、外資企業による直接投資がメキシコの発展を支えてきたが、外資依存の高さはメ キシコ経済の弱点にもなっている。 メキシコのもう一つの弱点は、金融面でも海外投資家への依存が高いことである。外 国人投資家が保有するメキシコの金融資産は、株、国債ともメキシコの GDP の 40%前 後に相当する。メキシコの将来への不安が高まると、海外勢が一斉に回収に走る可能性 がある。 投資家がペソ資産を短期間に売却する際には、外国為替市場でペソ/ドルの売買スプ レッドが拡大する。近年の売買スプレッドをみると、0.01 ペソ以下で安定していたが、 トランプ大統領が当選した 2016 年 11 月には、0.02 ペソまで上昇することがあった。最 近も 0.015 まで上昇したことがあり、NAFTA 交渉が影響していることをうかがわせる。 今後、選挙関連でメキシコ経済の不安を意識させられることがあれば、スプレッドが拡 大することも考えられる。 現在、世界経済は順調であり、基本的にはリスクを積極的に取りにいく「リスク・オ ン」の時期といわれるが、メキシコには独自のリスク要因があることに留意が必要だろ う。 0 100 200 300 400 500 600 12 13 14 15 16 17 図7:メキシコ向け直接投資(4四半期累計) (億ドル) (資料)メキシコ銀行 (年)

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以 上

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