デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
著者
繁成 剛
著者別名
SHIGENARI Takeshi
雑誌名
工業技術
巻
39
ページ
9-23
発行年
2017
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00009556/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja本**講演会から本事事
デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
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繁成
剛
本
はじめに 金属ノfイプと布製シートで構成された現代の車椅子が特許出願されたのは、1933年であることから、近代的な車椅子 の歴史はまだ80年ほどしか経っていない。しかし古代中国の石棺には車輪のついた椅子に老人が乗っている線刻画が描 かれており、自分の足で歩けなくなった人のために作られたパーソナルモビリティーとしての車椅子の歴史は古代まで遡 ることが可能である。本稿では車輪の発明から人類が重量物の運搬や戦車などの機動性のある移動手段を獲得するまでの 歴史を概観し、 20世紀に入って急速に発展した車椅子の技術的発展過程をデザインの視点から概説する。 1 . 車輪の発明 車輪は人類が古代に発明した最も重要な道具もしくは機械要素の一つで、ある。もともとは査などの陶器を生産する道具 として使われていた糠櫨(ろくろ)が原型だと類推されているが、車輸の起源はBC5000年紀のメソポタミアまで遡る。 車輪のある乗り物の絵は BC3500年ごろの査に描かれているので、それ以前に車輪付きの荷車が発明されていたはずで ある。車輪はBC4000年期には西南アジアからヨーロッパ、 BC3000年紀にはインダス文明、そしてBC2000年には中 国大陸に伝播したことがわかっている。メソポタミア南部でシュメール文明が栄えた BC2500年頃の都市ウルの主墓で、 発見されたモザイク画には多くの歩兵と共に複数の戦車が描かれている(図1)。戦車には武装した兵士が乗っているが、 車輪は半円の木材を合わせた中実車輪であることから戦闘ではなく主に移動に使われたと思われる。しかし BC2000年 頃のメソポタミアを攻めたアッシリアの戦車は、軽量化されたスポーク付きの車輪を使っており、御者と射手が乗って走 りながら攻撃できるように進化した(図2)。 図1 ウルのモザイク画に描かれた戦車 図2 アッシリアの戦車 2 車椅子の歴史 車椅子の原型となる個人用移動補助器具は、 BC250年の古代ギリシアの査に描かれた車輪のついた子供用の寝台と考 *ライフデザイン学部人間環境デザイン学科 ハ 吋 dデザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望 The Historyand prospects ofthe wheelchairsfrom a design viewpoint 繁 成 剛 えられている(図3)。重い病気の子供を移動するときに用いたと推測されるが、現在のストレッチャーに近いデザイン であり、家具と車輸を最初に組み合わせた例といえる。 図3 ギリシアの査に描かれた車輪付き寝台 図4 古代中国の車椅子 椅子と車輸を組み合わせて車椅子の形態をした最古の例として、南北朝時代の中国の石棺に線刻された絵が著名である (図4)。この石棺はAD525年に作られており、スポーク付きの大車輪を取り付けた椅子に、高貴な身分と思われる老 人が胡座を組んで乗っている様子がわかる。前輪は1輪、後輪は 2輪のようだが、椅子の幅が広く、車輪は手が届かない 位置にあるので、外出用の介助型車椅子の原型と見ることができる。 ヨーロッパの車椅子として文献に登場する最古の例は、晩年に痛風を患っていたスペイン国王のフェリベ2世を描いた 絵である(図5)0 1595年に描かれた絵を見ると、パックサポートとフットサポートはラチェット機構によって段階的に 角度調整ができたようだ。ゆったりと幅の広いアームサポート、リクライニングした時に頭部を支えるヘッドサポート、 足を載せるフットサポートを取り入れているデザインにも注目したい。椅子の脚の先端に取り付けられた車輪は自在輪 (キャスター)のようにも見えるが詳細は明らかでない。 図5 フエリペ 2世が使用した車椅子 図6 ファーフラーの自走式車椅子 両手を使って自力での移動を可能にした最初の車椅子は、 ドイツの時計職 人ステファン・ファーフラー (Stephan Farfler)が 1655年に製作した3輪車である(図6)。ファーフラーは当時 22歳で両下肢麻庫だ、ったことから、自分が -10一
デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望 The History and prospects of the wheelchairs from a design viewpoint 繁 成 剛 一人で外出して移動できるように、この自走式3輪車を作ったといわれている。現在のハンドサイクルの原型といっても よいだろう。図からわかるように前輪の側面に平歯車が見えることから、クランクのシャフトにはピニオンギアが付いて いて、直接前輪の歯車を回す構造であることが推測できる。 18世紀のイギリスにはすでに車椅子メーカーが起業しており、 JohnDawsonは当時流行っていた温泉治療のために温 泉地で使う車椅子を 1783年に開発し、販売した。これらは一般にパスチェア (Bathchair)と呼ばれていた(図7)。 後部2輪、前方1輪の3輪車であるが、前輪には方向操舵ができるステアリングレバーが付いており、使用者が方向を変 えることができる機構を採用している。前後輪共にサスペンションらしき構造が見られ、幌が付いているの機種もあり、 利用者の快適性を重視した設計思想、が伺える。 図7 Dawsonのパスチェア 図8 シーティングを考慮した車椅子 車椅子の座りやすさを考慮したシーティングseatingの考え方を採用した初期の車椅子は、 18世紀にイタリアで考案 された(図8)。しっかりとした作りで幅の広いパックサポート、 アームサポート、フットサポートに加えて小さいなが らテーブルも装備している。車輪は前方2輪、後方1輪の小径キャスターである。図9は1811年にイギリスで発表され た車椅子で左右のアームサポート前端に取り付けられたクランクを回すことによって前輪が駆動するメカニカルな機構 を採用しているが、あまり効率の良い駆動方式とは言えない。ただし折りたたみ式のフットサポートは移乗を楽にし、ラ ンパーサポートらしいクッションは快適な座位を提供するだろう。 図9 自走用メカニカル車椅子 図10 コネチカット車椅子 -E A 1 E A
デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望 The Historyand prospectsof thewheelchairs from a design viewpoint 繁 成 剛 図10はアメリカのコネチカット州で1871年に製造された車椅子で、木製のフレームと車輪、篠で編み込まれたシー トとパックサポートが特徴である。軽量化と通気性を兼ね備え、デザインもシンフ。ルで、優雅さがある。ただまだ空気入り タイヤが発明されていなかったので、乗り心地は良くなかっただろう。ちなみに1888年にダンロップが自転車用の空気 入りタイヤを発明している。 現在の車椅子の原型となったのは、 1933年にアメリカの鉱山技師であったハーパート・エベレス ト (HerbertA. Everest) が特許を取得した図 11左の前輪駆動式車椅子である。エベレストは落盤事故で、下半身不随になった友人のジ エニングスにために、小径の鉄パイフ。を使って折りたたみのできるフレームを設計し、前輪をベルトで駆動できる機構を 考案した。 1947年には現在の車椅子と全く同じ後輪のハンドリムを駆動する折りたたみ式の車椅子で特許を取得してい
る(図11右)。その後、二人はEverest& Jennings (E&J)社を創設し、本格的な車椅子の製造と販売を始めた。 この モデ、ルが現在の車椅子の原型となった。 Oct. 12, 1937. n z d 守 t 5 e 9 柏 町 刊 百 2 t e 由 3 L a “ h U 4 U 山 開
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町 匹 比 E m R 納 b E e M 附 F E 町 同 A 陥 m H Nov. lS, 1947. H. A.EVEREST ET AL 。 阻-ARl!町四fOR1t1IEEL CllAlRS Filod Oet.1, 194~ 2,431,112 画 3タ
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一句
図11 エベレス卜が特許をとった 1937年と 1947年の車椅子 3 日本の車椅子 古来、日本では車輪付き輸送機関は普及しなかった。日本の険しい地形や雨が多くすぐにぬかるむ道路事情が荷車や馬 車の発達を遅らせる一因となった。武土は騎馬での移動が許されていたが、一般民衆は徒歩、駕籍、または船での移動に 限られていた。唯一の例外は平安貴族で、都大路を牛車で移動していた。しかし、牛は去勢していなかったので制御が難 しく、 多くの従者を伴った移動であった。確実な理由はわからないが、日本ではヨーロッパのように馬車が発達すること はなかった。-
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-デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
The History and prospects of thewheelchairsfrom a design viewpoint
繁 成 剛 質 事 図12
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腰代勝覧の中のいざり車 図13 北斎漫画のいざり車 l~g代勝覧(きたいしようらん)という 1805 年頃の江戸日本橋を克明に描いた長大な巻物がドイツで発見された。 その 中にいざり車に乗った町人が雑踏の中を移動している様子が描かれている(図12)。道行く大勢の町民はいざり車に目を 止めることもなく通行している。また北斎漫画にも足の不自由な人がいざり車に乗っている絵がある(図13)。車輪を 4 個付けた箱に乗った人が棒で地面を直接突いて進む方式で、シンフ。ルだ、がかなり効率は悪かっただろう。 明治になると西洋文明が一気に圏内に導入され、鉄道がまず全国に敷設された。道路事情が悪いため自動車の導入と普 及は遅れたが、庶民の足として人力車が普及した。自転車は明治の初期に外国人が日本に持ち込んでいたようであるが、 日本のメーカーでは1890年に宮田製銃所(後の宮田製作所)がセーフティー型自転車を最初に試作した記録が残ってい る。 日本で最初の車椅子は廻転自在輪という名称で1921年に製造された記録はあるが、現物は残っていない。図を見ると 椅子の左右に取り付けられた大車輪を左右のクランクを回してギヤとチェーンを介して駆動する方式で、自転車の技術が 応用されている(図14)。日本で最初に量産化され、病院などで実際に使用された車椅子は、北島藤次郎商庖(現ケイア イ)の製作した箱根式車椅子であろう(図15)。この車椅子は1940年頃から傷疾軍人の療養所として箱根にあった廃養 院(現・国立療養所箱根病院)で使用されていたため、この名称がついている。木製のしっかりとした椅子の下に鉄製の フレームを装着し、前2輪、後 1輪キャスターの 3輪車である。パックサポートとレッグサポートは角度調整機能が付い ており、乗り心地は良かったと思われる。ただし重量は32kgもある。日本独自の特徴を持つ車椅子として手働チェーン 駆動車椅子が1940年頃から生産され、主に屋外での移動に利用された(図 16)。自転車と同じように手でクランクを回 して後輸を駆動するので、効率が良くスピードも出たので最近まで、使っている人がし、たようである。また1977年には福 島更生義肢が手働と電動が兼用できるチェーン駆動式車椅子を開発した(図17)。 円 ぺ d t E よデザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
The History and prospectsof thewheelchairsfrom a design viewpoint
繁 成 剛 図
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廻転自在輪 図1
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手働チェーン駆動式 3輪 車 図1
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箱根式車椅子 図1
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手動電動兼用式車椅子 第2次世界大戦後、敗戦固となった日本はアメリカから大量の物資が投入された。病院などで使用する車椅子もほとん どがアメリカのE&J社の輸入品で、あった。これらの車椅子はアメリカ人の身体寸法を基準に設計されているため、日本 人の体型には大きすぎ、て合わなかったが、この傾向は今でも残っている。敗戦後に奇跡の復興を遂げた日本は、1964年 に東 京 オリンピックを開催した。その閉会後、世界で初めてパラリンピックの名称が使われた身体障害者のための国際ス ポーツ大会が東京で開催された。この時、日本の選手は日常生活で使っている標準型の車椅子で競技に参加したが、西欧 諸国の選手はすでにスポーツに特化した車椅子を使用していることに、日本の選手や関係者は衝撃を受けたとしづ。しか し入場行進を見る限りは、各国選手も標準型車椅子を使っていたことが判る (図18)。 A 吐 1E よデザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望 The History and prospects of the wheelchairsfrom a design viewpoint 繁 成 剛 鯵
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図18 東京パラリンピックでの入場行進 4. 電動車椅子の歴史 障害者を対象とした電動車椅子は 1912年にイギリスで開発されたが、駆動機関はモーターではなくエンジンだ、った。 電動車椅子が民衆に広く知れ渡ったのは、 1915年にサンフランシスコで開催されたパナマ太平洋万国博覧会において会 場内の移動に使用された二人乗りの電動カー卜だと言われている(図19)。詳細は不明だが現在のゴ、ルフカートのような 構造だったと思われる。嬢で編み込まれたボディーが目を惹く。 標準型車椅子を電動化することに成功したのは、カナダの国立科学技術研究所に勤めていた GeorgeKleinである(図 20)。彼は第2次大戦の傷撲軍人のために 1953年に電動車椅子を開発したが、 他にも患者の用途に合わせた車椅子を数 多く開発している。令
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逼~...i~ 図19 パナマ太平洋博覧会の電動車椅子 図20 KI巴In氏と電動車椅子 その後、カナダやアメリカに電動車椅子を製造するメーカーが続出し、現在も世界をリードする技術開発が進められて いるが、最新の技術については後述したい。 日本では 1973年に今仙電機が操縦梓式の電動車椅子(図 21)を開発している。また鈴木自動車(現スズキ)は1978 年にローラー圧接触式の電動車椅子(図 22) を製品化しているが、ローラーとタイヤが空回りすることが多く、ベルト 駆動式を経て現在のようにモーターとギヤを介して後輪の車軸を回すダイレク トドライブ式に改良された。この今仙技研 と鈴木自動車に加えヤマハ発動機が国産の電動車椅子の開発と製造を牽引している。 ﹁ 同 U 噌 E iデザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
The Historyand prospectsofthe wheelchairs from a design viewpoint
繁 成 剛 図21 今仙電機の電動車椅子 図22 鈴木自動車の電動車椅子 1980年代には当時の通産省の福祉機器開発助成金制度を使って中小企業がユニークな電動車椅子を開発したが、その 多くは実用化されなかった。その一つが1983年に公友興産が開発した、真横や斜め方向にも移動ができる全方向型電動 車椅子である (図 23)。アメリカの NASAも球形車輪を使った全方向型車椅子を開発しているが、製造やコスト、使用 環境が限られるなどの理由で市販化されていない。 鈴木自動車が1985年に販売を開始したハンド、ル型3輪電動車椅子(セニアカー)は、アメ リカで爆発的に売れていた 高齢者用の電動カートがベースだが、その後の日本の電動車椅子の主流となった製品である(図24)02000年から4輪 電動車椅子が販売された年の販売台数は、3輪型が約1万台、4輪型が約1万 9千台であり、以降は4輪型が主流となっ た。 図23 全方向型電動車椅子 図
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鈴木自動車のセニア力一 5 現代の車椅子 5. 1 手動型車椅子 1960年代まではE&J社が特許を持つ折りたたみフレームが世界的な車椅子の主流であった。1970年代からアルミ製 のフレームや折りたたみ機構のないリジッドフレームなどが登場し、フレームの軽量化と岡IJ性が一気に向上した。1980 年代には日本でもチタンやカーボンを使った軽量フレームが試作されたが、製造が難しく高額になるため普及には至らな かった。 しかしその後カーボンフレームの製造技術は自転車のロード、バイクによって量産化が可能になり、超軽量の車椅 子が製造販売されるようになった。まだ高額ではあるが、スウェーデンのパンテーラから総重量が5.1kgの車椅子が販 一16-デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
The History and prospectsofthe wh巴elchairsfrom a design viewpoint
繁成 剛 売されている(図 25)。またチタンフレームを中心に製造販売している TIGなどのメーカーもあり、ユーザーの選択肢 は増えている。 図25 カーボン製車椅子 図26 チタン製車椅子 海外の車椅子ユーザーはリジッドフレームを好んでー使っているが、日本のユーザーの多くは現在でも圧倒的に折りたた みフレームを利用している。これは海外のユーザーは体重が100kgを超えることもあり、車椅子で高い段差を越えたり、 階段を降りることがあるため強度と剛性のあるフレームが必要とされ、日本人は軽量のユーザーが多いため、フレームの 剛性よりも車や住居の中に入れる時にスペース効率のよい折りたたみ式を選ぶからと考えられる。 1990年代にはモジュラー型車椅子を製造する圏内のメーカーが増えてきた。従来の車椅子はフットサポートの高さし か調整できなかったが、モジュラ一式は後輸の車軸の位置調整、シートやアームサポートの高さ調節、パックサポートの 張り調整、車輪のクイックレリーズ機構などを採用して、ユーザーの身体寸法や操作能力に合わせて調整ができるように なった。圏内の車椅子メーカーはニッシン医療機器、松永製作所、ニック、カワムラサイクルなどが老舗で大手になるが、 オーエックスエンジニアリング‘は陸上やテニスなどのスポーツ用車椅子メーカーとして国内外で著名で、フレームのカラ ーやモジュラー化した部品をユーザーが選ぶことによって好みにあった仕様にできるセミオーダーシステムを採用し、ス ポーティなデザインが人気を集めている(図
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)
。 図2
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オーエックスエンジニアリングの車椅子 5. 2 小児用車椅子 1980年代は子供用の車椅子が急速に発展した時代でもある。1980年代の初めまでは子供用の車椅子で市販されている 国産製品はリラックスパギーとしづ 、簡単に折りたためる布製シートの手押し型車椅子しかなかった。そこで全国工房会 議のメンバーが集まり、車椅子上で良姿勢を保て、寸法や角度の調整ができるパギーの開発に取り組み、1985年頃に「工 房パギー」という名称で販売できるようになった。フレームは車椅子メーカーに製作を依頼し、子供の体を支えるシート、 ヴ t ' E Aデザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望 The History and prospectsofthe wheelchairs from a design viewpoint 繁 成 剛 パックサポート、ヘッドサポートなどは各工房が対象児似合わせて個別製作する方式で全国に普及した。現在は福岡県の きさく工房から PC、P Wという名称で販売されている(図 28)。その後、より軽量で折りたたみしやすいパギーとして RVポケットが開発され、使いやすさと適合のしやすさで国産の障害児用の手押し型車椅子としては最も普及している (図29)
。
図 28 PWとPCのフレーム 5. 3 電動車椅子 図29 RVポケット 現在の車椅子を大別すると、人間の力で駆動する手動式とモーターとバッテリーで駆動する電動式がある。手動式は自 分のカで駆動輪を回す自走用と介助者が後ろから押す介助用がある。駆動輸のフレームへの取り付 け 位置によって後輪 駆 動、前輪駆動、中輪駆動がある。現在の自走式車椅子は操作のしやすい後輪駆動が主流で、子供用に前輪駆動、 小回りの 効く室内用に 駐輪駆動が市販されている。電動車椅子は国産の製品は後輪駆動がほとんどだが、アメリカでは中輪駆動が 主流になっている。スウェーデンのPermobile社のように前輪駆動を主力製品にしているメーカーもある(図30)。 ま た砂地、砂利道、 雪道でも走行が可能な 4輪駆動の電動車椅子も製品化されている。1999年にアメリカの発明家であるDean Kamenが開発し、 Johnson&Johnson社から販売が予定されていたiBOTは、 4輪駆動であるが、そのうちの2
輪だけで立ち上がって走行が可能で、2輪が交互に回転する独自の機構によって階段昇 降もできる画期 的な車椅子であっ た(図31)0 2000年にはホワイトハウスでクリントン元大統領に紹介され話題になったが、FDAの許可が下りず販売で きなかった。 しかし今年に入ってトヨタが参入してiBOTの再開発を支援する計画である。 円 δ 司4A
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繁成 剛 図 30 前輪駆動式電動車椅子 図31 i BOT 5. 4 簡易型とパワーアシスト型 手動と電動が兼用できる車椅子として手動兼用型があり、手動でも電動でも使え、簡易型とも呼ばれている。そのフレ ームの多くは折りたたみでき、車輪のハブの中にモーターとギヤを組み込んだ、ヤマハ発動機のJW-1 (図 32)が代表的 なモデルである。同社は坂道などで、ハンドリムにかかる負荷を軽減するパワーアシス ト付きのモデルJW-IIを世界に先 駆けて開発し、頚髄損傷や筋ジス トロフィーなど筋力の弱いユーザーに適用されている。コンビュータ制御でアシスト量 を微 調整できる最新モデ、ルのJW-X(図33)は、 2015年のGoodDesign Awardの金賞を受賞し、プロダク トデザイン の面からも評価されている。 -園町 図32 簡易電動車椅子JW1 国33 電動アシスト車椅子 JWスウイング 6 今後の車椅子の展望と課題 6. 1 手動車椅子 (1)素材 現在、手動車椅子のフレームはアルミ合金製が主流である。廉価な車椅子は鉄ノfイプのフレームもあるが重く耐久性に 劣る。軽く錆びないチタン製のフレームは加工性が悪く高価になるので普及はしていない。カーボン製のフレームはさら に軽量で自由なデザインが可能だが高価になるので、競技用や一部のアクティブユーザーに限定される。大型の3Dプリ 日 ﹃ υ 噌 E よ
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The History and prospectsof thewheelchairs from a design viewpoint
繁 成 剛 ンターを使って、フレームとシート、パックサポート、フットサポートを一体化した車椅子も試作されているが、
ABS
樹脂だけでなくアルミなどの金属が3Dプリンターで自由に成形でき、実用的な強度が確保できるようになれば、ユーザ ーの身体や噌好にあったデザインを短時間で提供できる可能性がある。 ( 2)車輪 段差や傾斜が大きければ走行できないだけでなく危険が伴い、砂利道や砂地などのオフロードも通常のタイヤでは走破 できない。幅広の低圧タイヤにすることでオフロードの走行や大きな段差も乗り越えられるが、自力での走行は困難であ るG 階段昇降や大きな段差乗り越えを可能にした多輪式やキャタピラ式も開発されているが、通常の走行に支障があるの で普及していない。あらゆる路面状況に対応するには、車輪による走行から脱却した発想の転換が必要だろう。 ( 3 )シーティング 日常の移動手段として車椅子を使うユーザーは1日10時間以上をシートに座って過ごしていることが多い。そのため 脊髄や頚髄に損傷があるため下半身麻療があると、樗癒を発生する確率が高まる。祷療を予防するためには、体圧分散の 良好なシートクッションを常用すること、定期的にプッシュアップや姿勢変換によって坐骨部や仙骨部に圧が集中しない ように姿勢管理をすること、移乗の際に発生する衣服と皮膚の摩擦に気をつけるなどの細心の注意が必要である。自立し た座位保持が困難な利用者に対して、車椅子のパックサポートを倒すリクライニング機構は必要であるが、パックサポー トを倒すと啓部に前方へのずれ応力が発生し、パックサポートを起こすとシート布地と背中に大きな摩擦力が発生し、結 果的に智部をさらに前方へ押し出してしまう。これらの問題を解決するためにリクライニングの中心軸を股関節に近付け てオフセットする方法や坐骨部よりも前方のシートパイプにジョイントを設定する方法が採用しているメーカーもある。 また脳性麻痩や筋ジス トロフィーのように先天的な疾患のため自力での座位保持が困難で、脊柱などに変形が生じている ケースには、身体の形状に合わせてシートやパックサポートを成形し、必要に応じてヘッドサポートや体幹サポート、胸・ 腰・肩へのベルトなどを付加するシーテイングシステムを提供している。このように対象者の障害と身体の状況あるいは 使用する環境によって、最適な座位を提供するための方法およびその技術を総称してシーティング (seating)と称し、 車椅子を使用する際の重要なファクターと して認識されている。今後の課題として、高い座圧が継続し、 祷矯などの危険 性が高まった時にユーザーや介助者に通知するシステム、あるいは自動的に車椅子がテイル卜して、座圧を低減させるシ ステムの開発、車椅子とベッド、トイレ、自動車や飛行機の座席への移乗を容易にするトランスブァー機構の開発が望ま れる。 6. 2 電動車椅子 ( 1 )駆動方式 前述したように現在の国産電動車椅子は後輪駆動が大半を占めるが、アメリカでは中輪駆動が主流になり、ヨーロッパで は前輪駆動も少なくない。またオフロードも走行できる4輪駆動も市販化されているが常用しているユーザーはまだ少な い。それぞれ一長一短あり、ユーザーの使用目的や使用環境などによって選ぶことが重要で、ある。Kamen氏が開発した iBOTは市販化できなかったが、彼が発明したセグウェイは使用する場所が限られているが、国内でも警備や観光などに 使われている。アメリカでは5年ほど前から障害者がセグウェイを改造して電動車椅子として使用している。体重移動だ けで走行可能であるため、両手が解放され雪かきや勇定など、の作業を車椅子で、行っている。このようなジャイロによる姿 勢制御装置を使った車椅子は国際福祉機器展にも出展されており(図34)、今後の電動車椅子の潮流になる可能性がある。 国産の4輪駆動車椅子として 2004年から販売している関東自動車のパトラフォー (Patrafour)は前輪に全方向型車輪 -20-デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
The Historyand prospects of the wheelchairs from a designviewpoint
繁 成 剛 を採用した世界初の車椅子として注目を集めた。さらに日本の若手の工業デザイナー達がアメリカで起業したメーカーか ら、スマホでスピードや加速度などが設定できる最新の制御機構と斬新なデザインを融合させたWILL(図 35)を発売 し、高評価を得ている。 図
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ジヤイロ制御装置付き車椅子 図35 4輪駆動式車椅子W
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( 2 )バッテリー 電動車椅子の最大の課題はバッテリーである。自動車のように走行中はジェネレーターで補充電しないため、走行距 離はバッテリーの種類によって差があるが、平地で7km-30kmで、またバッテリーの交換期間も 2-7年と短い。普通 型車椅子に使用されている鉛バッテリーは硫酸を使っているため飛行機に乗せられないことが多い。簡易電動型はニッケ ル水素またはリチウムイオン電池が使われている。ニッケル水素は比較的安価だ、がメモリー効果などがあるため管理が難 しく、リチウムイオンは高価なのが難点である。ソーラーバッテリーはパワーが不足しているので電動車椅子には実用化 できていない。リチウムイオンに代わるコンパクトで容量の大きなバッテリーの開発と走行中の充電機能の開発が今後の 課題といえる。 ( 3 )制御方法 現在の電動車椅子の制御方法は、ジョイスティックやレバー操作によって加速、減速、方向操舵ができる方式が主流に なっている。手で操作できない場合は、足や顎で操作できるようにコントローラーを設置する。ジョイスティックでの操 作が困難なケースでは、 1入カスイッチや 4ポジションスイッチを使って、ディスプレイの方向指示のアイコンをクリッ クすることで、進行方向やスボードを制御する方法をとっている。また最近は視線や脳波や血流量の変化で車椅子を制御 する技術が開発されている。まだ実験段階の制御技術だが、車椅子の利用者が考えるだけで方向やスピードを制御できる 方法と自動車では実用段階に入っている自動運転の技術が融合し、最初に設定すれば目的地まで電動車椅子を安全に走行 できる時代がもうすぐ到来するかもしれない。 (4)デザイン 車椅子に限らず福祉機器全般に言えることだが、機能や安全性が最優先されているため一般の工業製品のように洗練さ れたデザインが少ない。ニューヨークの近代美術館(MOMA)
に1
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年からパーマネントコレクションとして収蔵さ れている CARNA(図 36) は、 川崎和男氏がデザインした車椅子である。ご自身が車椅子ユーザーで、ある川崎氏は、今 - E ょ っ 臼デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望
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繁 成 剛 までの車椅子にない美しい製品として細部までこだ、わったデザインを提示している。ヤマハ発動機は2014年の超福祉 機 器展において、ファッションデザイナーの庚川玉枝氏と共同で開発した i02GENTaursJを発表した(図37)。モータ ーサイクルを手がける企業と最新のファッションを手がけるデザイナーがコラボレートした製品は、福祉機器としづ既成 概念を超えた車椅子の新たな可能性を提案している。 図36オーザック CARNA 図37YAMAHA02GEN Taurs 今後は自転車やモーターサイクルのようにパーソナルビークルとして、ユーザーの多様なニーズや価値観に対応できる ような新しい車椅子のデザインが登場することを期待したい。 (5 )多様なニーズ、への対応 車椅子ユーザーの行動範囲が広がると、日常生活の移動手段だけでなくレジャーやスポーツなどを楽しむために多様な ニーズが生まれている。たとえば車椅子に乗ったまま自転車のように効率良くスピードを楽しむことのできるハンドサイ クルの愛好者が国内でも増えている。筋力の弱いユーザーや坂の多い地域でも楽しめるように電動アシスト付きのハンド サイクルも販売されている(図
3
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)
。また車椅子で乗り込んでモーターサイクルのように操縦できるYDS
のホイールチ ェアビークルWCVS01(図39)は、公道でも走ることができ、すでに通勤に利用している頚髄損傷者もいる。 図3
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電動アシスト式ハンドサイクル 図39 YDSホイールチェアビークル ワ ム ワ ムおわりに デザインの視点から見た車椅子の歴史と今後の展望 The History and prospects ofthe wheelchairs from a design viewpoint 繁 成 問IJ 7000年前に車輪が発明されて、陸上での移動手段として車輪付きの輸送機関は人の移動や物流になくてはならない存 在になった。歩行が困難な障害者に対して古代から椅子に車輸を取り付けた移動補助具が使われてきたが、近代的な車椅 子としてのデザインが確立してからは80年しか経っていない。その問にチタンやカーボンのような新素材、コンビュー タの小型化による制御技術の進歩によって車椅子は飛躍的な変遷を遂げ、これまで見てきたように革新的な機構やデザイ ンが続々と発表されている。しかし今後の課題でも言及したように、車輪の上に乗って移動している限り、階段やオフロ ードのような路面状況では走行が困難である。車椅子に関する今後の展望として、ベビーカーでも支障なく走行できるバ リアフリーな環境整備をさらに進めることと共に、車輪から脱却した移動方法が開発され、実用化されることを期待した い。筆者の長年の夢は魔法の械訟である。 参考文献
1) J.M.Roberts, Prehistry and The First Civilizations, Editrial Debate SA,1998
2) Bonnita Sawatsky
,
Wheeling in the New Millennium: The history of the wheelchair and the driving forces inwheelchair design today,2002
3) HermanL.Kamenetz:The WhelchairBook, CharlesC.Thomas、1969
4) 自転車産業振興協会編『自転車の一世紀』自転車産業振興協会、ラティス、 1973 5) 自転車産業振興協会編『自転車実用便覧第3版』自転車産業振興協会、 1977 6) 高橋義信、車椅子の安全・快適技術、 IATSSReview、27(2)、2002 7 ) 中村禎里、回転する円のヒストリア、朝日新聞社、 1979 8) 高坂謙次、「し、ざり車J とその周辺、椙山女学園大学研究論集、第 35号、 2004 9) 日本車椅子シーティング協会編、車いす・シーティングの理論と実践、はる書房、 2014 10) 日本リハビリテーション工学協会SIG姿勢保持編、小児から高齢者までの姿勢保持、医学書院、 2012 謝辞 本論に掲載した写真の中で、図 15、図 17、図 21、図 22、図 23は西九州大学の米国郁男教授が本学の教員で、あった 時に、提供していただいたものです。また国内の車椅子の歴史に関しては高橋義信氏に多くのご助言をいただきました。 この場をお借りして両氏に感謝申し上げます。