環境国家・日本における自動車税のあり方
伊 藤 悟
はじめに 1 自動車税制の質的転換 2 電気自動車への自動車税課税 3 環境自動車税構想 4 自動車税のグリーン化 結語はじめに
21 世紀が環境の時代と言われて久しく、地球全体、当然に国 家においても環境保全1が重要視されている。国家の機能として、 かつて 20 世紀において消極的夜警国家から積極的福祉国家へとの 転換が希求され、多くの国家が福祉国家を目指したのと同様、20 世紀末から 21 世紀の今日までにおいて、多くの国家は、環境保 全を国家目的とすることを憲法に規定し2、いわゆる「環境国家」1 「 環 境 保 護(environmental preservation)」 と「 環 境 保 全(environmental conservation)」とは区別される。両者の英語訳からみて、環境保護は自然環境 などの原状回復を意味するが、環境保全は自然を人間都合や一定基準に従い守 ることを意図している。環境基本法は、環境保全の語句を使用している。 2 1992 年地球サミット以後、憲法に環境に関する条項を規定する国が多くなっ ている(たとえば、大韓民国憲法 35 条、スペイン憲法 45 条、フランス環境憲章、 ロシア憲法 42 条など、那須俊貴「環境権の論点」シリーズ憲法の論点⑭(国立 国会図書館調査局及び立法考査局、2007 年 3 月)6 頁以下、国立国会図書館ホー ムページ(http://www.ndl.go.jp) に掲載(> 国会サービス関連情報 > 立法調査 資料 > 調査資料 > 平成 19 年刊行分)の PDF 資料を参照)。日本は、「環境権」 をめぐる論争や憲法改正手続もあり、未だ憲法に環境条項を有していない。
3 の実現を目指していると言える。 国家の環境主義への志向は、その環境政策・施策の経済的裏付け である税財政分野においても具現化されようとしている。それが 「税財政のグリーン化」である。日本においても、環境税の論議 が盛んになされ、地方税としてはいくつかの成果もすでに見られる が4 、国税での環境税目も望まれてはきたが、その創設は、財界か らの否定的意見もあり、実現されてこなかった。財政グリーン化に 呼応して、リサイクル物品などの環境物品購入に関して、いわゆる 「グリーン購入法(国等による環境物品等の調達の推進等に関する 法律・2000(平成 13)年 5 月 31 日法律 100 号)」が制定され、国 等による物品購入という財政支出面での環境対応がなされている。 ところで、日本は、かつて四日市ぜんそく事件等に代表されるよ うに、工場等の固定発生源からの大気汚染にまみれていた。しかし、 今日の日本における大気汚染原因は、固定発生源である工場等の排 ガスにあるというよりは、むしろ移動性発生源である自動車からの 3 環境国家という造語は、日本租税理論学会第 12 回大会(2000 年 9 月)にお いて筆者が提示したものである(拙稿「環境と税法学―新たな税法原則「環境 主義」」日本租税理論学会編『環境問題と租税』(租税理論研究叢書 11)41 頁)。 環境時代の国家は、福祉国家の延長として自由権、平等権、生存権、社会権お よび環境権を市民に保障し、共生循環経済と参加型社会を基盤として、環境リ テラシーを有する市民・企業・官により、人類の生存基盤である環境を保護・ 保全していく地球市民の一つでなければならないと考える。 国家機能の環境国家までの展開を示すと、次のように考えている(上記拙稿 で示したものを若干補正している)。 18世紀 19世紀 20世紀 21世紀 経済 封建体制 産業資本主義 修正資本主義等体制 共生循環経済 社会 身分社会 個人主義に基づく契約社会 ←公共の福祉 参加型社会 国家機能 君主国家 夜警国家 福祉国家 環境国家 4 三重県産業廃棄物(2002 年)など、道府県の地方法定外目的税として産業廃 棄物(処理)税は、現在、多くの道府県で採用されている。また、市町村にお いても岐阜県多治見市一般廃棄物埋立税(2002 年)が廃棄物排出抑制税として 制定されている。これら廃棄物税のほかにも、水源涵養のために高知県森林環 境税など、森林環境税が多くの自治体で採用されている。
排ガスにあるとされる5 。1970(昭和 45)年アメリカの自動車排ガ ス規制(マスキー法)を日本のホンダが CVCC エンジンにより世 界最初にクリアして以来、日本の自動車メーカーは、環境性能の優 れた自動車を世界に提供してきている。その後、日本では、1978 (昭和 53)年に日本版マスキー法(自動車排出ガス規制)6が策定 され、排ガス規制が強化され、国内自動車メーカーによる環境配慮 の自動車開発が進展してきた。その後、環境施策として、グリーン 税制が 2001(平成 13)年に創設され、いわゆるエコカー減税やエ コカー補助金が実施されてきた。今では普通に見られる自動車の車 体に貼付されているステッカー、排出ガス基準達成車にはブルース テッカー、燃費基準達成車にはグリーンステッカーが貼付されてい る。エコカーも、当初の低燃費車、低排出ガス車から、電気自動車 のようなものまで、発展してきている。これは、いわゆる環境経 済学で提示されている「バッズ課税、グッズ減免税」7原則の適用、 実現立法であるといえる。 2009(平成 21)年 9 月、国連気候変動首脳会合での鳩山元首相 5 環境白書 2010 年度版は、その第 2 部第 2 章第 1 節2大気環境の現状において、 窒素酸化物について、「環境基準達成率は、一般局 100%、自排局 95.5%であり、 一般局では近年ほとんどすべての測定局で環境基準を達成し、自排局では平成 19 年度と比較するとほぼ横ばいであった」とし、自排局(自動車排出ガス測定 局)での環境基準達成が未だになされていないことを報告している(環境省ホー ムページ http://www.env.go.jp/ 掲載を参照)。 6 道路運送車両法に基づく道路運送車両の保安基準による規制であり、基準に 達しない車両の新車登録をさせない(登録できなければ製造・輸入・販売もで きない)という単体規制である。自動車排出ガス規制としては、単体規制のほ かに、基準未達の車両の新車登録のみでなく移転および更新登録もしない車種 規制、関東圏自治体で行われたディーゼル車規制条例や自然保護のために行わ れるマイカー規制などに代表される運行規制がある。
7 アメリカにある世界資源研究所(World Resouces Institute:WRI)のロバート・ C・レペット(Robert C.Repetto)氏らが提唱している環境経済原則の一つである。 この原則は、WRI 編、レペットほか著『緑の料金―税制変更によってどれほど 環境と経済に影響を与えられるか』(飯野靖四監訳、中央法規、1994 年)により 論述されている。同氏の著述としては、ほかに『地球環境と経済』(黒坂美和子・ 栗原武美子訳、岩波ブックレット No.225、1991 年、岩波書店)がある。
の 25%削減目標(鳩山イニシアチブ)演説を受けて、2011(平成 23)年税制大綱は、2009 年民主党マニフェストで明示された「地 球温暖化対策税」の実現を目指そうと、石油関連税の増税を企画し ていた。増税はバッズ課税である。これの中和、中立措置として、 エコカー減税の拡大が意図されていたとも見受けられる。いずれに せよ、民主党政権になり、自動車関連税をめぐる議論の展開が急ピッ チで進行した。特に、2009(平成 21)年 4 月 22 日成立、30 日公布・ 施行された「道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法 律等の一部を改正する法律」(2009 年法律 28 号)により、道路特 定財源制度が廃止され一般財源化され、また 2010 年に総務省が「自 動車関係税制に関する研究会報告書」をまとめ、さらに 2011(平 成 23)年税制改正にむけて「環境自動車税」構想を「環境自動車 税(仮称)に関する基本的考え方」として公表したことにより、車 体課税に関する新たな展開がなされようとした。しかし、周知のと おり、3 月 11 日の大震災により、2011 年税制改正は、大幅な改正 遅滞となり、これら構想も実現せずに終わった。しかし、2012(平 成 24)年税制大綱(2011 年 12 月 10 日閣議決定)は、この環境自 動車税構想を具体化し、自動車税の改正に着手した。また、同税制 改正大綱は、石油石炭税を 2012 年 10 月より、「地球温暖化対策の ための税」として特例を設定し 1.5 倍の増税を実施し、その増税分 を環境税として位置付けるものとしている8。 本稿は、激動の中にあるともいえる自動車関連税について、特に 道府県普通税である自動車税に着目して、その性質に関する歴史展 開を踏まえて、自動車税の諸問題を検討し、環境時代の環境国家を めざす日本における自動車税の改革のあり方を提言するものである。 8 平成 24 年度税制改正大綱(平成 23 年 12 月 10 日閣議決定)59 − 60 頁
1 自動車関連税制の質的転換
(1)財産税としての自動車税制 自動車が日本に初めて登場したのは、諸説あるが、明治時代であ ることは確かである。 全国的に自動車税が整備されたのは、1940(昭和 15)年に自動 車税が法定道府県税となったことからである。それ以前にも、明治 時代からの国税としての車税(馬車、人力車、自転車に課税)があっ た。自動車税の前身は、この車税である9。また、1958(昭和 33) 年に、自動車税から軽自動車税の対象となる自動車(道路運送車両 法 2 条、3 条および同法施行規則別表第一に定める原動機付自転車、 軽自動車、小型特殊自動車、二輪の小型自動車)が除かれ、今日の ような自動車税制度が整備された。 自動車税は、自動車という財産を所有することに対して、その車 のエンジン排気量に応じて課税する地方税・法定道府県税(地方税 法(以下、「地税法」と略す)4条②九)である。 自動車の保有率が低く、富裕層の持ち物としての自動車に対する 自動車税は、まさに奢侈品課税であり、財産(資産)税であった10 。 1960 年代半ばのいざなぎ景気のとき、新三種の神器として 3C(カ ラーテレビ、クーラー、カー)時代になり、自動車は、財産から耐 久消費財となり、普及していった。現在、日本では、運転免許の取 得率も伸び、また自動車登録保有台数も 7500 万台を超え、二人に 一人は自動車を保有していることになる11 。このような状況におけ る自動車税は、財産税として妥当であるのか疑問とされ始めた。自 9 前川尚美、臼井守、小川徳治『地方税(各論Ⅰ)』(ぎょうせい、1978(昭和 53)年、現代地方自治全集 19)627 − 628 頁。 10 同上 629 − 630 頁。 11 財団法人自動車検査登録情報協会ホームページ(http://www.airia.or.jp)掲 載「保有台数統計データ」より「車種別(詳細)保有台数表」四輪車(軽自動 車を含む)合計は、平成 23 年 7 月末現在において 75,334,569 台とされる。動車という財産を有することが、毎年度の自動車税の課税根拠とす ることには、現在の自動車の財産価値というものが昭和初期より大 きく減じていることに鑑みると、疑問が寄せられる。 (2)道路特定財源制度と自動車税 自動車の普及は、道路の整備という社会資本整備を要求した。日 本の道路事情は、1950 年代まで最悪であった。1949(昭和 24)年 揮発油税が復活し、当時、田中角栄議員らによる議員立法として 1953(昭和 28)年に道路整備費の財源等に関する臨時措置法が制 定され、1954(昭和 29)年から第1次道路整備五箇年計画が開始 され、揮発油税が道路特定財源とされた。その後、同法は、1958 年に道路整備緊急措置法、2003 年に道路整備費の財源等の特例 に関する法律へと継承改題された。また、1966 年に石油ガス税、 1968 年に自動車取得税、1971 年に自動車重量税が創設され、道路 特定財源税制が展開されてきた。民主党政権下の 2009 年に道路整 備事業にかかる国の財政上の特別措置に関する法律等の一部を改正 する法律が成立し、道路特定財源税収の一般財源化がなされている。 なお、地方道路譲与税制度は、現在も存続している。 道路特定財源制度は、道路経費をその道路使用者である自動車利 用者に負担させるという受益者負担の考えに基づいていた。しかし、 この制度に自動車税は含まれなかった。自動車税は法定地方普通 税、財産税として存続した。そのため自動車取得税(道府県目的税、 2009 年より普通税)と自動車重量税(国税)が道路特定財源税と して創設された。これら税は、自動車税が財産税的税であるのに対 して、消費税的性格を有する。 道路特定財源制度との関係において、自動車税は、道路損傷負担 金としての性格をも有するとされる12 。しかし、自動車税は、基本 設計として、都道府県普通税=一般会計財源であり、目的税=特定 12 前川ほか前掲書『地方税(各論Ⅰ)』629 頁。
支出目的財源ではない。したがって、2009 年度より自動車取得税 が都道府県普通税となったことにより、自動車購入者は、初年度に 自動車取得税と自動車税の 2 税を自動車所有に起因して課税される。 このような課税は二重課税の問題であると指摘されるべきである13 。 さらに、消費税との二重課税も問題となるであろう。 (3)大気汚染移動性発生源自動車への課税 日本における自動車登録台数の上昇は、大気汚染の移動性発生源 の増大拡散であり、社会資本である道路の拡張延長と既存道路施設 の劣化にもつながる。道路特定財源の確保は、自動車利用者に自動 車関連税と燃料である石油関連税とを駆使してなされてきた。しか し、環境の時代が叫ばれ、新たな自動車課税の時期に入ってきた。 エコカーへの減税、その取得に対する補助金が先行し、エコカー でない自動車への重課が遅延している。ただし、エコカー普及の裏 で、旧式自動車の廃棄が増大し、廃棄による環境保全上の問題もあ ることを指摘できる。 自動車税については、環境時代における環境国家税制として、従 来の財産税としての性格から、環境税としての性格と地位を得よう と改革を進行させているところである。この自動車税の質的転換を、 どのように現実の税制として集約し、定着させるかが課題である。 13 生命保険年金二重課税訴訟において最三小判平 22.7.6(判時 2079 号 20 頁、第 一法規データ判例データ ID:28161817)は、「相続税法(平成15年法律第8号 による改正前のもの)3条1項1号の規定によって相続により取得したものと みなされる生命保険契約の保険金で年金の方法により支払われるもの(年金受 給権)のうち有期定期金債権に当たるものにおいて,当該年金受給権に係る年 金の各支給額のうち被相続人死亡時の現在価値に相当する金額として相続税法 24条1項1号所定の当該年金受給権の評価額に含まれる部分は,相続税の課 税対象となる経済的価値と同一のものとして,所得税法(平成22年法律第6 号による改正前のもの)9条1項15号の規定により所得税の課税対象となら ない」と判示し、被相続人死亡年度の相続税課税後の所得税の課税を二重課税 とし、所得課税を否認した。 自動車購入年度の自動車取得税と自動車税の課税は、まさに同様なものといえる。
2 電気自動車への自動車税課税
(1)自動車税の課税対象 現行の自動車税は、自動車(軽自動車税の課税客体である自動車 その他政令で定める自動車を除く。以下自動車税について同じ。) に対し、主たる定置場所在の道府県において、その所有者に課する 地方普通税(一般財源税)である(地税法 145)。 自動車税の対象となる自動車は、軽自動車税の課税客体である自 動車その他地方税法施行令 44 条で定める自動車(道路運送車両法 第 3 条にいう大型特殊自動車)を除く自動車である。自動車の定義 は、自動車税の条項にはなく自動車取得税に関する条項において「自 動車」とは、「道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号) 第二条第二項に規定する自動車(自動車に付加して一体となつてい る物として政令で定めるものを含む。)をいい、同法第三条の大型 特殊自動車及び小型特殊自動車並びに同条の小型自動車及び軽自動 車のうち二輪のもの(側車付二輪自動車を含む。)を除くものと」 される(地税法 113、自動車取得税の納税義務者等)。これら法令 から、自動車税の課税対象となる自動車は、基本的には、自動車登 録ファイルへの登録が済んでいる登録自動車である。その納税義務 者は、所有者として登録されている者である。そして、地方税法で は、軽自動車など一部の車種を自動車税の課税対象から除外してい る。また、自動車は、固定資産税の課税客体である償却資産からも 除外される(地税法 341 第 1 項 4 号ただし書き「ただし、自動車税 の課税客体である自動車並びに軽自動車税の課税客体である原動機 付自転車、軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く ものとする」)。道路運送車両法 第二条 この法律で「道路運送車両」とは、自動車、原動機 付自転車及び軽車両をいう。 2 この法律で「自動車」とは、原動機により陸上を移動さ せることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用い ないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的 として製作した用具であつて、次項に規定する原動機付自転車 以外のものをいう。 3 この法律で「原動機付自転車」とは、国土交通省令で定 める総排気量又は定格出力を有する原動機により陸上を移動さ せることを目的として製作した用具で軌条若しくは架線を用い ないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させることを目的 として製作した用具をいう。 4 この法律で「軽車両」とは、人力若しくは畜力により陸 上を移動させることを目的として製作した用具で軌条若しくは 架線を用いないもの又はこれにより牽引して陸上を移動させる ことを目的として製作した用具であつて、政令で定めるものを いう。(中略) (自動車の種別) 第三条 この法律に規定する普通自動車、小型自動車、軽自 動車、大型特殊自動車及び小型特殊自動車の別は、自動車の大 きさ及び構造並びに原動機の種類及び総排気量又は定格出力を 基準として国土交通省令で定める。 このように自動車税の課税対象は、すべての車ではない。歴史的 にも、自動車税は、国の登録自動車の所有者に対して課税されてき た。道路運送車両法に規定する登録制度と自動車関係税は、密接に 関係している。かつて旧物品税の課税においてレース専用車が「小
型普通乗用四輪自動車」に該当するかが問われ14 、登録車でもない フォーミュラーカーが課税された。現行の自動車関連税は、自動車 登録・車検制度を前提としており、したがって、登録自動車以外に 対する課税には疑義がある(何が自動車かは自動車車検と登録によ り確定するのであり、登録前の自動車メーカー等が製品・商品とし て所有する自動車などは課税対象外である)。ただし、道路運送車 両法 2 条が自動車とは「原動機により陸上を移動させることを目的 として製作した用具で軌条若しくは架線を用いないもの又はこれに より牽引して陸上を移動させることを目的として製作した用具」と 規定していることから、自動車税は、自動車が現実に稼働するか否 かを問わず、自動車の保有事実に課税するとも解することができる。 しかし、自動車税の課税は、自動車を営業用と自家用に分け、それ ぞれ排気量により税額が決定されていることから、これらは自動車 車検・登録と密接な関係があるものであり、登録車以外への自動車 関連税の課税には疑問であり、現実的にもないものと言える。自動 車関連税は、ナンバープレートを有する自動車に限り課税すべきも のと解する。 (2)エコカー登場と自動車税 自動車税の標準税率は、課税対象自動車を営業用と自家用とに区 分し(ただし、道路運送車両法施行規則 35 条の 3、自動車検査証 の記載事項では「自家用」と「事業用」と区分、同法 61 条(自動 車検査証の有効期間)では「旅客を運送する自動車運送事業の用に 供する自動車、貨物の運送の用に供する自動車及び国土交通省令で 定める自家用自動車」と 3 つに区分)、総排気量に応じた1台あた りの年税額を定めている(地税法 147)。たとえば、自家用乗用車(三 輪の小型自動車であるものを除く)の自動車税の標準税率は、次の 14 最 三 小 判 平 9.11.11( 判 時 1642 号 71 頁、 第 一 法 規 デ ー タ 判 例 デ ー タ ID:28022346)。
とおりである。 ①総排気量が一リットル以下のもの 年額 二万九千五百円 ②総排気量が一リットルを超え、一・五リットル以下のもの 年額 三万四千五百円 ③総排気量が一・五リットルを超え、二リットル以下のもの 年額 三万九千五百円 ④総排気量が二リットルを超え、二・五リットル以下のもの 年額 四万五千円 ⑤総排気量が二・五リットルを超え、三リットル以下のもの 年額 五万千円 ⑥総排気量が三リットルを超え、三・五リットル以下のもの 年額 五万八千円 ⑦総排気量が三・五リットルを超え、四リットル以下のもの 年額 六万六千五百円 ⑧総排気量が四リットルを超え、四・五リットル以下のもの 年額 七万六千五百円 ⑨総排気量が四・五リットルを超え、六リットル以下のもの 年額 八万八千円 ⑩総排気量が六リットルを超えるもの 年額 十一万千円 この標準税率に対しての特例として、地方税法附則に自動車税の 税率特例が定められている(同 12 条の 3)。特に、一定の排ガス規 制基準を達成した自動車などを「エコカー」と呼び、自動車税の優 遇税制の対象とし、自動車税の減免をしている。エコカーには、ハ イブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車、バイオ燃料自動車、 次世代ディーゼル車(クリーンディーゼル車)などが挙げられてい
る15 。 エコカーに対する優遇税制の詳細16は省略するが、この地方税 法改正により、自治体は、自動車税の減収となった。たとえば、前 記の自家用乗用車の場合の自動車税の標準税率は、次のようにほぼ 半額の特例税率となっている(地方税法附則 12 条の 3 ②)。 ①総排気量が一リットル以下のもの 年額 二万九千五百円⇒一万五千円 ②総排気量が一リットルを超え、一・五リットル以下のもの 年額 三万四千五百円⇒一万七千五百円 ③総排気量が一・五リットルを超え、二リットル以下のもの 年額 三万九千五百円⇒二万円 ④総排気量が二リットルを超え、二・五リットル以下のもの 年額 四万五千円⇒二万二千五百円 ⑤総排気量が二・五リットルを超え、三リットル以下のもの 年額 五万千円⇒二万五千五百円 ⑥総排気量が三リットルを超え、三・五リットル以下のもの 年額 五万八千円⇒二万九千円 ⑦総排気量が三・五リットルを超え、四リットル以下のもの 年額 六万六千五百円⇒三万三千五百円 15 地方税法は、自動車税の税率特例により減税される自動車として、「電気自動 車(電気を動力源とする自動車で総務省令で定めるものをいう。第三項及び第 四項において同じ。)、天然ガス自動車(専ら可燃性天然ガスを内燃機関の燃料 として用いる自動車で総務省令で定めるものをいう。第三項及び第四項におい て同じ。)、専らメタノールを内燃機関の燃料として用いる自動車で総務省令で 定めるもの及びメタノールとメタノール以外のものとの混合物で総務省令で定 めるものを内燃機関の燃料として用いる自動車で総務省令で定めるもの並びに バス(一般乗合用のものに限る。)及び被けん引自動車」としている(同法附則 12 条の 3 ①カッコ書)。 16 国土交通省が発表している平成 22 年度特例「環境性能に優れた自動車に対す る自動車重量税党の減免について」(同省ホームページ内掲載されているものを 参照 http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr1_000005.html)。
⑧総排気量が四リットルを超え、四・五リットル以下のもの 年額 七万六千五百円⇒三万八千五百円 ⑨総排気量が四・五リットルを超え、六リットル以下のもの 年額 八万八千円⇒四万四千円 ⑩総排気量が六リットルを超えるもの 年額 十一万千円⇒五万五千五百円 このような税制改正は、エコカーに対する自動車税を減額するこ とで、エコカー普及を意図する施策に経済的手法である「環境税」 として自動車税を位置づけようとするものである。しかし、これ は、一般財源であった自動車税の減収となり、結果として、道府県 の財政を疲弊させているともいえる17。環境税論において、環境税 は、環境保全目的を主要な課税目的とするものであり、収入目的を 副次的目的としているとされる。この意味において、環境目的に合 致した自動車税の減収は、環境税としての成功ともいえる。しかし、 アメとムチの施策として、エコカーに関する自動車税の減免措置は、 一方的なアメの提供であり、ムチの部分として標準税率への若干の 上乗せがされているが、制限税率(地税法 147 ④)である標準税率 の 1.5 倍までではない。たとえば、自家用乗用車の場合、自動車税 17 自動車取得税の減収については、2008 年 10 月「地方税等減収補てん臨時交付 金に関する法律」(平成 20 年 10 月 22 日法律第 84 号)による措置がある。同法 律 3 条は、「自動車取得税減収補てん臨時交付金は、地方税法 等改正法が平成 二十年四月一日後に公布されたことにより生じた自動車取得税の収入の減少(第 三項において「自動車取得税の減収」という。)に伴う都道府県及び市町村の減 収を補てんするため、都道府県及び市町村に交付する。」とし、また同 2 項は「自 動車取得税減収補てん臨時交付金の総額は、百十六億八千五百万円とする。」と 規定した。 エコカー減税での自治体減収が 100 億を超えたことを明示している。 また、あるネット記事では 4 年間で 900 億円の減収となったともいわれる。自 動車税に対する措置はなされていない。 なお、今回の東北大震災での自動車紛失・滅失による自動車税に関する特例、 また被災地での自動車税減免が実施され、全国的には更なる自動車税の減収が 続いている。
の特例税率は、次のようになる(地税法附則 12 条の 3 ①)。 ①総排気量が一リットル以下のもの 年額 二万九千五百円 ⇒三万二千四百円 ②総排気量が一リットルを超え、一・五リットル以下のもの 年額 三万四千五百円 ⇒三万七千九百円 ③総排気量が一・五リットルを超え、二リットル以下のもの 年額 三万九千五百円 ⇒四万三千四百円 ④総排気量が二リットルを超え、二・五リットル以下のもの 年額 四万五千円 ⇒四万九千五百円 ⑤総排気量が二・五リットルを超え、三リットル以下のもの 年額 五万千円 ⇒五万六千百円 ⑥総排気量が三リットルを超え、三・五リットル以下のもの 年額 五万八千円 ⇒六万三千八百円 ⑦総排気量が三・五リットルを超え、四リットル以下のもの 年額 六万六千五百円 ⇒七万三千百円 ⑧総排気量が四リットルを超え、四・五リットル以下のもの 年額 七万六千五百円 ⇒八万四千百円 ⑨総排気量が四・五リットルを超え、六リットル以下のもの 年額 八万八千円 ⇒九万六千八百円 ⑩総排気量が六リットルを超えるもの 年額 十一万千円 ⇒十二万二千百円 バッズ課税という環境経済の論議からみて、この程度の上乗せ課 税は、何ら環境目的も達成しえない程度のものと理解する。エコカー 普及は、自動車関連税の減免税と補助金支給というアメの効果であ り、非エコカーへの自動車税増額によるものとは推量できない。 (3)電気自動車への対応 自動車税は、エンジンの大きさ容量により、税額が上昇するとい
う制度設計を採用してきた。すなわち、地方税法に規定された自動 車税の乗用車の税率(年間)は、総排気量により、営業用が1リッ トル以下 7500 円から 6 リットル超 40,700 円まで 10 段階、自家用 が 1 リットル以下 29,500 円から 6 リットル超 111,000 円までの 10 段階に区分されている。そのため、電気自動車が登録、市販される に至り(日本の電気自動車では、日産のリーフや三菱のi−MiE Vが有名)、排気ガスが全くない電気自動車に対する課税問題が実 務的に問題とされた。 総務省は、2010 年 4 月 1 日付で各都道府県に出した地方税法の 施行に関する取扱い通知の中で、「電気自動車である乗用車に係る 税率については、総排気量 1 リットル以下の区分の税率によること が適当」としている 18。 電気自動車は、ガソリン・エンジン等の燃焼機関を有しないこと から、排ガスがゼロであるから、総排気量1リットル以下の自動車 と解することはできる。総務省通知は解釈論から一見妥当ともいえ る。しかし、この解釈は、自動車税の自動車を燃焼機関(エンジン) 付き自動車のみに限定してきた地方税法令の限界を示すものであり、 自動車の多様化に伴う自動車税の法令条項の改正が追いついていな いと評するべきである。そもそも自動車税制は、エンジンのない電 気自動車を自動車の範疇として想定していない(ただし、登録自動 車でなければ道路走行ができないことも事実であり、市販の電気自 動車は登録されている自動車である)。それを電気自動車をゼロ排 気自動車とし、総排気量1リットル以下の自動車に該当すると解し、 自動車税の課税をすることは、法解釈の乱用、拡大解釈ではなかろ うか。 今日の自動車は、自動車税が想定していないものへと進化してい 18 総務省ホームページ(http://www.soumu.go.jp)内 > 所管法令等 > 通知・通 達に掲載されている平成 22 年 4 月 1 日通知総税都第 16 号「地方税法の施行に 関する取扱について(道府県税関係)」152 頁第 10 章自動車税を参考にした。
る。電気自動車など、いわゆる「想定外」の自動車に対する車体課 税としての自動車税は、ガソリン車、ディーゼル車を前提とした自 動車税条項のままでは、法解釈適用上の限界があると言わねばなら ない。 この法解釈上の限界に対応するか否かは不明であるが、総務省を 中心に、政府は「環境自動車税」構想を提起している。
3 環境自動車税構想
(1)環境自動車税構想の背景 2009(平成 21)年 8 月 30 日衆議院議員総選挙の結果、民主党が 政権政党になり、また鳩山元総理の温暖化ガスである二酸化炭素 CO225%削減提言を受け、地球温暖化対策としての自動車関連税の 改正が検討されはじめた。2010 年(平成 22)年度税制改正大綱(2009 年 12 月 22 日)において、「車体課税については、エコカー減税の 期限到来時までに、地球温暖化対策の観点や国及び地方の財政の状 況も踏まえつつ、今回、当分の間として適用される税率の取扱いを 含め、簡素化、グリーン化、負担の軽減等を行う方向で抜本的な見 直しを検討」するとし(第4章11.検討事項 [ 国税・地方税共通 ] (2))、改正税法附則 149 条において同趣旨を明記した。 この政府と財務省の動きに対応し、総務省は、2010(平成 22) 年 3 月 30 日に第 1 回「自動車関係税制に関する研究会」を開催した。 これより前、3 月 26 日の報道資料(自治税務局)19 が以下のとお りである。 19 総務省ホームページ(http://www.soumu.go.jp)、広報・報道>報道資料一覧 > 2011 年 3 月 26 日>「自動車関係税制に関する研究会」の開催を転載。平成 22 年 3 月 26 日 「自動車関係税制に関する研究会」の開催 1.趣 旨 地球温暖化対策を推進するためには、地域において主体的な 取組を進め、地球環境に貢献することが求められています。平 成 22 年度税制改正の議論の過程においても、自動車関係諸税 について環境への負荷に応じた措置を行うことが必要とされて います。 また、「緑の分権改革」においては「地域の自給力と創富力 を高める地域主権型社会」を実現するための柱として低炭素型 の社会構造への転換を進めることが求められており、環境へ の負荷に応じた自動車に対する課税のあり方を研究することは、 この点にも資することとなります。 これらを踏まえるとともに、納税者の視点から、CO2の排出 抑制に寄与する自動車に対する簡素な課税のあり方等を検討す るため、総務大臣の指示により研究会を開催します。 2.研究項目 地球温暖化対策や「緑の分権改革」に資する観点から CO2 の排出抑制に寄与する車体課税のあり方を検討するとともに、 複雑な自動車関係諸税の簡素化等について検討します。 3.構 成 員 別紙のとおり。 4.開催日程 平成 22 年 3 月 30 日(火)に第 1 回研究会を開催します。 研究会は、半年間で 7 回開催されている(2010 年 3 月 30 日∼ 2010 年 9 月 10 日)。研究会の成果は、短い期間で、十分なものを 出しえたかは疑問である。関係各省の調整と学識経験者との意見交
換の場でしかなく、総務省としての結論ありきの研究会であったと も評することができる。 2009 年民主党マニフェストは、今日提示されている事項の基礎 的なものについて指摘している。自動車関連諸税の暫定税率の廃止、 自動車重量税と自動車税の一本化、自動車取得税の消費税との二重 課税回避として廃止、などが提起されていた。 (2)「自動車関係税制に関する研究会報告書」と環境自動車税構想 2010(平成 22)年 9 月 10 日、総務省は、「自動車関係税制に関 する研究会報告書」(座長・東京大学名誉教授・神野直彦)をとり まとめ発表した20 。 報告書は、第 1 章研究会の目的、第 2 章現行の自動車関係税の概 況、第 3 章環境自動車税の性格、第 4 章保有段階における自動車へ の課税、第 5 章取得段階における自動車への課税を構成内容として いる。研究会報告書のポイントは、現行の自動車税、軽自動車税、 自動車重量税および自動車取得税について、個別の財産に対する課 税である車体課税として、車体の保有に着目する課税および車体の 所有権移転(取得)に着目する課税へと整理するものである。研究 会は、自動車税と自動車重量税をまとめ「環境自動車税」とし、自 動車取得税を現行のまま維持するものと研究成果を報告した。 これを受けて、総務省は、2010(平成 22)年 11 月、環境自動車 税(仮称)に関する基本的な考え方を発表した。総務省としては、 2012(平成 24)年度地方税制改正に組み入れ、2011(平成 23)年 度税制改正大綱において周知期間として前倒しで決定し認知させて おきたかったようである。しかし、政府税制調査会は、大綱での結 論を見送った。 20 総務省ホームページ内で「自動車関係税制に関する研究会報告書」で検索し PDF フ ァイル報告書(http://www.soumu.go.jp/main_content/000082119.pdf) を参照。
この環境自動車税は、従来の財産税的性格を残した地方税として、 自動車の保有課税を抜本的に改組し、CO2排出量と税額が連動する 仕組みを導入しようとするものであった。自動車関連税の課税標準 等に CO2排出量を連動する動きは、ヨーロッパ自動車関連税の動 向とも一致し、これを基礎としていると考えられる。すなわち、環 境自動車税は、自動車の財産価値に着目した財産税と、CO2排出量 を勘案した環境損傷負担金的性格をあわせもったものと構想されて いた。 (3)環境自動車税の頓挫 2010(平成 22)年 11 月 19 日、2010 年度第 12 回政府税制調査会 は、環境自動車税に関する審議において、結果として、環境自動車 税を 2011 年税制改正の検討事項にせず、2012 年へと先送りした21 。 これを Web 上、レスポンス自動車ニュースでは、つぎのように 報道していた22 。 21 内閣府ホームページ(http://www.cao.go.jp)、内閣府の政策>施策紹介、そ の他、税制調査会>会議資料>税制調査会> 2010 年 11 月 19 日第 12 回、議事録、 会議資料を参照。 22 レスポンス自動車ニュース(http://response.jp)内、「環境自動車税、政府税 調は議論を先送り(2010 年 11 月 21 日(日) 22 時 40 分、椿山和雄) ( http://response.jp/article/2010/11/21/148281.html)を転載。
19 日開催の政府税制調査会では、総務省が基本構想を公表し た「環境自動車税」について審議がされた。税制調査会では、 2011 年度税制改正の検討対象とはしない方針とし、12 年度改 正に議論を先送りした。 環境自動車税は、自動車重量税(国税)と自動車税・軽自動車 税(地方税)を一本化し、地方税とするもの。導入が実現する と、軽自動車は増税となる。 片山善博総務大臣からは、環境自動車税について「環境負荷に 比例して課税することで環境への負荷を低減させる。複数の税 を一本化することにより納税者視点で簡素化につながる。地方 税とすることで地域主権改革に寄与する」と、3 つのポイント が示された。 総務省の政務官から説明 ●導入の出発点は民主党のマニュフェストによるもの。 ●目的は車体課税の簡素化、グリーン化、負担の軽減。 ●運輸部門の自家用車では 2007 年に 1990 年比 41.6%増加して おり、抑制の取り組みは不可欠。 ●対象は新規新車登録されたもの、既存の車には旧税制を適用 する。 ● CO2の課税基準としは JC08 モードを採用。 ●負担の水準は、自動車税と自動車重量税をあわせたもの。 ●特例として“エコカー減税”に相当する減税を期限付きで実 施する方向。 ●徴収方法は年 1 回。 ●軽自動車は、小型自動車と同負担とするものではない。 ●導入時期は 2012 年度の導入を目標としてはどうか
議論のなかで指摘された主なポイント ●「燃料課税があるなか、車体にも課税するのはいかがなもの か」 ●「公害健康被害者への保証金の財源について不安を与える」 ●「新車と中古車で税制が変わるのは不公平感がある」 ●「軽自動車の特質を薄めるもので、将来的に軽自動車を廃止 しようという流れなのか?」 ●「環境を名目にするにするのであれば、なぜ運輸部門のにお ける CO2排出量に焦点をあてたのか説明があるべき」 総務省政務官の答弁 ●「軽自動車は地域の足として重要、位置付けは変わらない」 ●「軽自動車に小型車と同等の税負担を求めるものではなく、 税率については今後十分議論するポイントである」 ●「軽自動車と小型車で税負担の不公平感があるのは事実、軽 自動車と 1000cc の小型車で 3.5 倍の開きがあることをどう見る かがポイント」 ●「C02 排出量は、運輸部門で見ると自家用が 48.2%を占めて いるので重要なポイントとなる」 ●「健康被害者への保証金については、旧税制の車も 15 年後 に 10%程度は存続する。財源調整で国税から出すことは可能」 環境自動車税に関する審議時間は約 48 分であった。議論の詳 細は内閣府税制調査会のウェブサイトに掲載された動画で確認 できる。
(4) 2012 年税制改正 2010(平成 22)年 9 月 10 日「自動車関係税制に関する研究会報 告書」から始まった「環境自動車税」論義は、様々な意見(下表参 照)23 が出され、2012(平成 24)年度税制改正として、ひとつの 結論にたどり着いた。それは従来のエコカー減税を延長するという ものであり、これを含む 2012 年度税制改正法案が 2012 年 3 月 30 日に可決成立した。 2012 年度税制改正に向けた主な発言をまとめました。 日時 発言者 内容 2010.9.15 総務省 自動車関係税制に関 する研究会 自動車税と自動車重量税をまとめて [ 環 境自動車税 ] とする 自動車取得税については現行制度を維持 2011.10.29 経済産業省 政府税制調査会ヒアリングにて、自動車 重量税・取得税とエコカー減税の強化を 要望 2011.11.1 川端総務大臣 自動車取得税に変わる財源が出てこない かぎり、自動車取得税は廃止すべきでは ない 2011.11.7 自動車メーカー 5 社 のトップ 自動車関連団体 自動車取得税・自動車重量税の廃止を含 む税の軽減と簡素化を求める。 2011 年度末に終了する [ エコカー減税 ] に代わる環境対応車の税の優遇措置を求 める。 2011.11.7 五十嵐財務副大臣 自動車重量税と取得税の廃止は代わりの 財源が見当たらないため難しい。 自動車課税の改正についての議論は必要。 [ エコカー減税 ] の延長は有力な検討案 2011.11.14 民主党税制調査会 消費税率の引き上げと同時期に自動車取 得税を廃止することを検討。 23 2012 年度税制改正に向けた自動車関連税に関する発言をまとめたものとして は、自動車税 info(http://www.jidoushazei.info/2012zeisei.html)にて掲載され いてるものが有益である。
2011.11.15 民主党税制調査会 エコカー減税を 2013 年度以降も継続す ることで調整 2011.11.21 藤井裕久民主党税制 調査会長 自動車取得税は「明らかな二重課税」 2011.11.28 民主党税制調査会 2012 年度税制改正での自動車重量税・自 動車取得税の廃止・抜本的見直しを重点 要望とすることをまとめる。 2011.11.29 安住財務大臣 2012 年度税制改正での自動車重量税・自 動車取得税の廃止・見直しは難しい。 2011.12.10 12 年度税制改正大綱が決定。 自動車重量税の減税、エコカー減税の延 長、エコカー補助金の復活が決まる。 2011.12.20 経済産業省 エコカー補助金の概要を発表 2012.1.27 政府 2012 年度税制改正法案を閣議決定 (自 動車重量税の 1500 億円軽減やエコカー 減税の延長などを含む) 2012.3.30 2012 年度税制改正法案が参議院本会議で 可決し、成立。 (自動車税 info: http://www.jidoushazei.info/2012zeisei.html より引用) 改正自動車税は、一定の燃費基準と排ガス基準24 を達成した新 車登録車に対して翌年度自動車税の減額(概ね 50%または 25%) を実施するものとし、平成 24 年 4 月 1 日から平成 26 年 3 月 31 日 24 自動車税の減免措置は、2015(平成 27)年度(一部の自動車には 2010(平成 22)年度)燃費基準と、2005(平成 17)年度排ガス基準の達成車に対してなさ れている。燃費基準を一定以上達成している自動車には、グリーンのステッカー が貼付される。また排ガス基準を達成している自動車には、ブルーのステッカー が貼付される。平成 24 年度税制改正では、一般的に知られている 10.15 モード ではなく、より実際の走行に近いとされる JC08 モード(1 リットルでの走行距 離で測定、2011 年 4 月 1 日以降に形式認定を受ける自動車は義務的に、それ以 前の自動車についても 2013 年 2 月までには燃費値表示が義務化されている)で 測定される基準を採用した。これは、省エネ法(エネルギーの使用の合理化に 関する法律)の改正に基づくものである。新登録自動車は平成 27 年度燃費基準 達成以上、JC08 モード走行燃費未取得車は平成 22 年度燃費基準 +25%以上、か つ平成 17 年基準値低排出ガス 75%低減が要請されるる。
までの新車登録車を対象としている。結果、自動車税の改革は、議 論はしたが、従来制度を若干厳格化し延長したものとなった。自動 車税と自動車重量税と合体した環境自動車税は、始動できずに消滅 した感がある。
4 自動車税のグリーン化
(1)税財政のグリーン化と自動車税 21 世紀環境の時代において、国家も環境国家として維持運営さ れなければならないと考えている。税財政のグリーン化が叫ばれ、 すでに久しい。環境基本法が成立し(1993(平成 5)年)、日本の 環境政策は、本格的にスタートした。環境保全施策の経済的裏付け としての税財政制度は、単に裏方施策ではなく、環境保全の経済的 手法の一環として積極的に環境施策の舞台上にて活用されることが 期待されてきた。環境税が、その代表である。 環境保全に良いものには、従来より、公害対策施設に対する特別 償却など、またその施設取得等への補助金支出など、様々な税財政 措置が講じられてきた。しかし、環境負荷行動に対する課税は、経 済界からの反発もあり、北欧諸国の 1990 年代における炭素税導入 に比して、日本では国レベルでの創出を見なかった。地方自治体で は、廃棄物問題との関係で、いくつかの産業廃棄物処理税などが採 用された(三重県など多数)。また、森林がもつ水源涵養の観点から、 また CO2のシンクとして、森林保全のための森林環境税などの税 制も登場している(高知県など多数)。 税財政のグリーン化は、今日では、一般的事項とされる。「バッ ズ課税、グッズ減免税」という環境経済原則の実践としては、バッ ズに対する課税拡充を図る必要がある。しかし、課税拡充 = 増税 に対する反対は容易に想定され、環境税という響きのよい税目では あるが、日本における国レベルでの環境税の創設は、環境省からの 創設要請が繰り返しなされてきたが、成果が得られないでいた。しかし、2012(平成 24)年度税制改正は、石油石炭税の改正として の「地球温暖化対策のための税」(2012 年 10 月より施行)を国税 環境税として創設した。 しかしながら、「環境自動車税」構想は、結果として、従来の税 制を延長するという政治的判断に一蹴され、事実上、頓挫した。こ れは、問題解決の先延ばしでしかない。今日の大気環境汚染の原因 が移動性発生源である自動車にあるとすれば、環境自動車税構想は、 早期実現をすべきものであったといえる。自動車関連税制における 税財政のグリーン化は、エコカー購入・保有への減免税および補助 金支給というアメ施策のみでなく、ムチ施策としての環境自動車税 の展開をも要請される。特に、日本での初めての CO2排出量と税 額が連動する仕組みを導入しようとする環境自動車税構想は、今後 も実施を検討すべき税制の一つである。 (2)耐久消費財エコカーへの課税 環境税としての自動車税を構築することは、税財政のグリー化に とって必須事項である。環境税としての自動車税を構築するに際し て、税法学の視点から、まず課題となるのは、自動車税の課税対象 である自動車を資産・財産とするか消費財とするかである。すなわ ち、自動車税は、資産・財産税とするか、消費税とするかである。 結論から言えば、今日の日本における自動車は消費財であり、それ に対する課税は原則として消費課税の一つとして構成すべきである。 自動車の普及により、自動車は、一部富裕層の財産ではなく国民 的消費財となった。財産税的自動車税制は、この社会情勢変化をも とに、変革されなければならない時期にある。今回の自動車関連税 制の変革提示は、時代的潮流ともいえる。 公害防止型排ガス規制車の発展としての環境保全型のエコカーの 登場は、環境時代における環境問題の解消を視覚的現実として人々 に経験させている。環境保全施策の成果として、エコカー減税・補 助金は、成功例である。
環境効率を考慮してのエコカー課税は、現行の通り、従来の税負 担の減免という制度設計に陥る。総務省研究会での審議結果として、 自動車取得時の課税と保有時の課税をどうするかが問われたように、 エコカーばかりが取得・保有されると、自動車関連税制は、衰退し ていくだけである。これでは、自動車関連税制の存在意義から検討 しなければならない。そこで、自動車関連税を財産的性格と環境損 傷負担金的性格を合わせた税制として構築しなければならないとす る総務省の環境自動車税構想も、一つの改革案として採用しうる。 しかし、自動車が消費財であるとすれば、自動車に対する財産税 は必要であろうか。消費課税としての自動車関連税を構成すると、 先の1(3)でも指摘したように、自動車購入年度での自動車取得 税と自動車税の二重課税、またこれら税と消費税との二重課税問題 が発生する。 自動車は、富裕層のみが取得する財産ではなく、国民的消費財で あるが、事業者が取得する場合には減価償却資産である。この場合、 事業用減価償却資産は基本的には固定資産税の課税対象となるとこ ろ、現行の日本税制は、自動車については自動車税の課税対象とし 固定資産税の課税から除外している。このことから、自動車が消費 財であるとしても、自動車税に資産課税としての性質を持たせるこ とは、税制的にも許されるものと考える。しかしながら、消費財で ある自動車への課税は、減価償却資産への資産課税とは異なるもの として構成すべきである。自動車の保有にかかる自動車税は、自動 車の耐用年数期間(減価償却資産の耐用年数等に関する省令では乗 合自動車の耐用年数は 5 年とされる)ではなく、所有期間において 課税されるものである。自動車購入年の自動車取得税や消費税との 二重課税を回避し、翌年度以降の耐久消費財自動車の保有に対して、 自動車税は、基本的に、環境損傷負担金的性格を有した消費財課税 とすべきである。 自動車の普及が進むにつれ、自動車が財産であるとの認識から消 費財との認識へと自動車に対する認識も変更されてきている。今後
は、自動車が生活・事業上の消費財であり、大気環境汚染の移動性 発生源であり、社会資本である道路損傷の主体であると認識したう えで、自動車税制を総合的に再検討し、自動車の取得時、所有期間 および廃棄処分時における自動車にかかる税制を環境税として構築 されるべきと考える。自動車関連税制は、取得時における車体課税 と、保有期間における消費される燃料に対する石油関連税などとも 合わせての改革が要請される。 (3)CO2排出量に応じた課税 次の課題は、CO2排出量に応じた自動車税構想である。 地球温暖化ガスとして CO2の削減が叫ばれている。ガソリンで 走行する自動車は、低燃費が求められている。低燃費 =CO2削減、 地球温暖化対策に最適と考えてよいのか。地球温暖化については、 科学的にも様々な議論がある。議論はあるが、環境問題があるのも 事実であり、1993 年地球サミットのリオ宣言第 15 原則で確認され た「環境を保護するための予防的方策の広範な適用」に鑑みても、 CO2排出量に応じた自動車税は、早々に実現すべきである。 ヨーロッパ各国で先行的に導入されている CO2排出量に応じた 自動車関連税の改革25は、日本の今回の改革に影響を与えている。 日本での CO2排出量に応じた自動車税構想は、今回、見送られた。 しかし、今後とも、自動車税論議の中では、このことは重要な事項 となるといえる。 政府は、自動車税での CO2排出量に応じた課税を断念したが、 石油関連税制では、環境税として石油燃料の中の炭素量を基にし ての CO2排出量を試算しての改革「地球温暖化対策のための課税 の特例」を実施しようとしている。これは、石油石炭税において 2012(平成 24)年 10 月 1 日から、地球温暖化の原因となる温室効 果ガスの約 9 割を占めるエネルギー起源 CO2の排出を抑制する観 25 ドイツは 2009 年より自動車税の税率基準に CO2基準を採用した。
点から「地球温暖化対策のための税」として上乗せ税額を 3 年間に 段階的に実施し、原油・石油製品には現行 1 キロリットル当たり 2,040 円である税額に 760 円を上乗せ税額とするものである26 。 CO2排出量に応じた課税は、結局、炭素消費量、すなわち石油石 炭消費量に基づくものである。自動車税でこれを実行するには、各 自動車の燃費性能基準を確定する必要がある。自動車の CO2排出 量は、基本的には、エンジン排気量に応じて上昇変化するものと考 え得るが、自動車の燃費性能の善し悪しでも変化するものといえる。 今回の税制改正により、従来の 10.15 モードから JC08 モードへと 切り替え、より実際の走行時の燃費に近い自動車の燃費性能の確定 が進行している。これに基づく各自動車の燃費が確定すると、自動 車税は、従来のエンジン排気量に基づく課税から、燃費効率、CO2 排出量に応じた課税が実行できるものとなると予想される。 当然、CO2排出量に応じた自動車税は、単に燃費(1 リットル当 たりの走行距離)ばかりでなく、個々の自動車の年間走行距離をも 考慮にいれなければならない。燃費と走行距離に応じた自動車税が 21 世紀の自動車税となると考える。
結語
大気汚染公害の発生源であり、社会資本道路の拡充恩恵を最大限 に受ける自動車を取得・保有する者は、何らかの環境費用負担を強 いられるべきであると考える。ここでの環境費用には、社会環境と しての道路整備費用ばかりでなく、自然環境、特に大気環境を汚染 する原因ともなる自動車排ガスによる自然環境保全費用を含むもの である。これらを考慮すると、自動車関連税は、21世紀環境の時 26 財務省パンフレット『平成 24 年度税制改正』7-8 頁「環境関連税制」参照(財 務省ホームページ http://www.mof.go.jp/ にて、トップページ>税制>出版物に て参照可能)。代においても存続すべき税制の一つであり、大気環境整備財源の重 要なものの一つとして位置づけられる。 かつて一部富裕層のみが取得保有していた自動車が誰でも取得保 有する耐久消費財となり、環境保全に国民・市民的関心も高まり、 自動車関連税制は、財産税、道路特定財源税としての税制から新た な環境税として展開されることが期待されている。 それは、総務省構想のような財産的性格と環境損傷負担金的性格 を合わせた税制も一つである。しかし、自動車が財産でない時代に 財産税的性格を残す必要はなく、自動車取得保有者に対する公的負 担は、環境損傷負担金的性格のものとして構築されるべきである。 なぜなら、自動車が大気汚染の移動性発生源であり、社会資本であ る道路を最も利用するものである以上、その取得保有者は、自然環 境保全のため、また社会環境保全のための環境経費を負担すべきで あるからである。そして、その負担基準の測定は、各自動車の CO2 排出量基準を採用した燃費と走行距離に応じたものとなるべきであ る。 現在、エコカー減税と補助金が先行し、自動車税の課税が軽減さ れ、都道府県財政に大きなマイナス影響となっている。これに道路 特定財源税の一般財源化もあり、自動車取得税等の地方税等減収補 てん臨時交付金の創設があったとしても、自治体財政にはマイナス となっている。環境税は、環境配慮型の税財政措置であるが、自治 体財政を圧迫するものであってはならないのは言うまでもない。 環境税としての自動車税は、自然環境への配慮のみでなく、社会 環境への配慮も十分になすものでなければならない。環境問題の解 決は、税財政法にとっても、21世紀の課題である。しかし、それ が財政そのものを崩壊させるものであってはならないのも事実であ る。基本的ではあるが、環境問題の解決と健全自治体財政の確立が 両立しなければならない。 本稿は、自動車税を中心に検討した。しかし、自動車税制は、自 動車の取得時の自動車重量税と自動車取得税および消費税(地方消
費税を含む)、保有期間の自動車税と軽自動車税、ならびに処分時 における自動車廃棄処理費用などを総合的に検討しなければならな い。また、その燃料である石油関連税制とも連携した自動車ユーザー の税負担を考慮しなければならない。日本の自動車税は、諸外国に 比べて高いとの批判もある。この点は、消費財である自動車にかか る税負担のあり方として検討しなければならないと考え、今後の課 題とする。 [補足] 本稿は、自動車が財産でなく耐久消費財であり、自動車税が消費 課税として構築されるべきことを主張した。 しかし、本稿執筆後、札幌で発生した生活保護費不正受給事件が 報道され、生活保護費受給者の自動車保有が問題とされた。これを 全面的に否定する法令はないが、法令運用として、これらの者の自 動車保有は制限されているようである。その理由としては、自動車 は贅沢品ないし財産というものが想定される。しかしながら、かつ て、テレビやクーラーがそうであったように、自動車も財産から耐 久消費財へと転換してきている。公共交通機関の発達等や地域的普 及状況を勘案して、生活保護費受給者の自動車保有も認められるも のである。国鉄民営化により市民の足としての公共交通も十分でな くなり、多くの地域で自動車の必要性が認められ、中古車販売も全 国的に展開され、もはや自動車は財産ではなく消費財である。 自動車税は、消費課税として、大気汚染の移動性発生源である自 動車に対する環境保全対策税制として展開されることが期待されて いる。