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菌核に反映される雪腐小粒菌核病菌の生活史戦略

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は じ め に 寒冷積雪地帯では,牧草や秋播コムギ等の越年性作物 はしばしば越冬に失敗する。植物は冬期間,積雪下にあ るため,我々は被害の発生過程を見ることができず,融 雪後しばらくして萌芽の遅れや枯死等の被害に気づく。 その原因は,冬の寒さで凍死する(非生物的要因)こと よりも,雪腐病(生物的要因)によることのほうがはる かに一般的である。 雪腐病菌は,積雪下で植物に加害する病原菌の総称 で,分類学的に特別なグループの菌を示すものではな い。雪腐病菌は,活動を積雪下に限定される絶対的雪腐 病菌と積雪がなくとも活動できる条件的雪腐病菌に分け られる。絶対的雪腐病菌の活動は積雪条件に大きく影響 される。雪腐小粒菌核病菌は代表的な絶対的雪腐病菌 で,雪腐黒色小粒菌核病菌 Typhula ishikariensis および 雪腐褐色小粒菌核病菌 T. incarnata を併せた名称である。 雪腐小粒菌核病菌の生活史は以下の通りである。 ①春∼秋:病原菌は,融雪直後の被害植物体上に形成 された菌核で植物の生育期を休眠して過ごす。菌核は休 眠中に種々の菌寄生菌の侵害を受け,これらによる菌核 の生存率低下程度には,両種の繁殖戦略が反映されてい る(MATSUMOTO and TAJIMI, 1988)。

②晩秋:菌核は休眠から覚め発芽し子実体を形成す る。雪腐褐色小粒菌核病菌の担子胞子は感染源として機 能するが,雪腐黒色小粒菌核病菌の担子胞子に感染性は ほとんどない。このような担子胞子の機能性の違いは, 両種における菌核の生存率の違いとも関係している (MATSUMOTO and TAJIMI, 1985)。また,菌核をいつ発芽さ

せるかも重要な問題である(MATSUMOTO et al., 1995)。 ③初冬:古くなった子実体や菌核から菌糸が伸長し, 感染源となる。雪腐黒色小粒菌核病菌においては,この よ う な 菌 糸 が 特 に 重 要 で あ る(CUNFER and BR UEHL, 1973)。なお,雪腐褐色小粒菌核病菌は積雪前に担子胞 子により植物に感染していることもある(MATSUMOTO and ARAKI, 1982)。 ④冬:積雪下という特異的な環境下で,雪腐病菌は休 眠中の植物を加害しながら増殖し,融雪までには菌核が 形成され休眠に備える。 I 積雪の予測性 積雪下環境は雪腐小粒菌核病菌の活動に必要な条件を すべて満たしているので,積雪期間が長ければ長いほど 活動期間は延長され,好都合となる。一方,根雪がいつ 始まりいつ終わるかという問題も,積雪期間の長さ同 様,雪腐病菌にとって重要である。ほとんどの雪腐病菌 は夏の間休眠し,活動すべき冬に備える。そのためには, 秋∼初冬までには,覚醒し活動できるようにしておく必 要がある。いつ活動を再開するかは,積雪期間の長短に かかわらず,どのような生息場所においても重大な問題 である(松本,2005)。この問題に対しては,ジェネラ リストの雪腐褐色小粒菌核病菌でさえ根雪予測性の高低 に対応した分化を示している(MATSUMOTO et al., 1995)。 一方,雪腐黒色小粒菌核病菌はスペシャリストを輩出す ることで,各生息場所における積雪期間の長短に対応し てきた(MATSUMOTO and TAJIMI, 1990)。菌核サイズの多 様性は,積雪条件の違いに対して顕著に反応している。 1 菌核の発芽 MARAITE et al.(1981)は,雪腐褐色小粒菌核病菌にお いては菌核の発芽速度に変異があることを報告してい る。さらに,MATSUMOTO et al.(1995)は,本菌の個体群 ごとの菌核発芽に関する閾値の微妙な違いがそれぞれの 生息場所における積雪の予測性と関連していると結論し た。彼らは,年間積雪日数の異なる名寄,札幌,富山, および山口からそれぞれ 6 菌株採集して,人工環境下(10 時間日長・昼 8℃/夜 6℃),あるいは野外で菌核の発芽 速度を比較した。菌核発芽におよぼすサイズの影響を除 くため,中程度の菌核(2 mm の篩を通過し,1 mm の 篩の上に残ったもの)を用いた。いずれの個体群におい ても,人工条件下の菌核は,約 2 週間後より発芽し始め, 23 日後には半数の菌核が発芽した(図―1 左)。本実験条 件下においては,各生息場所における積雪条件の違い は,発芽速度に反映されなかった。しかし,つくば市に おいて,晩秋に菌核を屋外の日陰(気温は− 4 ∼ 14℃ で変動)に放置したところ,生息場所の違いは菌核発芽 速度の違いとして明らかになった(図―1 右)。積雪期間 が長く予測性の高い名寄と札幌の個体群は,積雪期間の

菌核に反映される雪腐小粒菌核病菌の生活史戦略

松  本  直  幸

北海道大学 農学研究院 造林学研究室

Life Histor y Strategies of the Pathogenic Species of Typhula Refl ected in the Sclerotium.  By Naoyuki MATSUMOTO

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短い富山や積雪のほとんどない山口の個体群よりも,早 く発芽し,実験を終了した 45 日目にはほぼ半数が発芽 した。一方実験終了時における富山個体群の発芽率は 40%,山口個体群では 20%であった。以上の結果から, 雪腐褐色小粒菌核病菌個体群における菌核発芽の最適条 件は同じであるが,最低条件は個体群により異なること が示唆された。すなわち,山口や富山の個体群は,菌核 発芽のための閾値が北海道の個体群よりも高いと推定さ れる。このように,本州の雪腐褐色小粒菌核病菌個体群 では菌核が一斉に発芽しないことには,適応的な意義が ある。北海道では,わずかな環境シグナルにより一斉に 菌核が発芽しても,その後は確実に根雪が始まるので, 早く発芽したほうが有利である。一方,本州においては, このようなわずかなシグナルに反応し発芽しても,その 後の生存は保証されない確率が高い。富山や山口では, 札幌や名寄に比べ,根雪がいつ始まるか予測が困難であ るので,本州の個体群は菌核発芽に関して慎重になった といえる。 2 菌核のサイズ マメ科植物などで知られる硬実は,水分環境に対する 適応である。硬い種皮は水分を容易に吸収しないため, 発芽に時間を要する。一方,雪腐大粒菌核病菌(Sclero-tinia borealis)においては,直径 1.5 mm 程度の小さい 菌核は発芽しづらい(MÄKELÄ, 1981)。同様に,雪腐黒 色小粒菌核病菌生物型 B の小型菌核フォームも発芽し づらい(MATSUMOTO and TAJIMI, 1990)。このような菌核 発芽のしやすさに関しては,少なくとも雪腐病菌におい ては,種皮に相当する外皮層(rind)ではなく,大きさ が関連している。しかも植物種子と異なる点は,菌核は 発芽して子実体を形成する(生殖成長)場合と,菌糸を 伸長させる(栄養成長)場合とがあることである。 菌核サイズに関する変異についても,積雪予測性に対 する適応戦略が反映されている。安定した多雪地帯にの み局在する雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 A の菌核サイ ズは一定で,生物型 B と雪腐褐色小粒菌核病菌では多 様である。しかし,後 2 者の多様性の内容は対照的であ る。雪腐褐色小粒菌核病菌では一つの菌株内(遺伝子型) における菌核サイズが多様で,どのようなサンプルに基 づいているかは不明であるが IMAI(1937)によれば,そ の直径は 0.5 ∼ 4.5 mm と変異が大きい。その範囲は雪 腐黒色小粒菌核病菌生物型 B の種としての変異幅をし ばしば凌駕する(図―2)。これに対し,雪腐黒色小粒菌 核病菌生物型 B では,個々の菌株の菌核サイズは比較 的そろっているが,一つの分類群としてはかなりの変異 を示す(MATSUMOTO and TAJIMI, 1990)。

( 1 ) 雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 B

MATSUMOTO and TAJIMI(1990)は,積雪日数の異なる 七つの生息場所より 9 菌株ずつ採取し,菌核サイズ,病 原力および菌核発芽について個体群ごとの比較を行った (表―1)。表からは,積雪日数が多いほど菌核が大きくな ることが読み取れる。しかし,年間積雪日数が 120 日前 後とほぼ等しい北海道の八雲,網走,札幌および秋田県 の大曲の中で,大曲個体群の菌核が小さいことは積雪日 数では説明できない。そこで,積雪日数を変動係数で割 40 41 42 43 44 45 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 0 10 20 30 40 50 60 Ya To Sa Na Ya To Sa Na 培養日数(日) 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 0 10 20 30 40 50 60 70 発芽率︵ % ︶ 図−1  雪腐褐色小粒菌核病菌菌核の人工環境下(左)あるいは屋外(つくば市)における子実体形成(MATSUMOTO et al., 1995) 中程度の菌核(2 mm のメッシュを通過し,1 mm のメッシュに残ったもの)を用い,柄が少しでも出現したら, 発芽したと見なした. 各個体群 6 菌株ずつ供試した. 個体群,Na:名寄,Sa:札幌,To:富山,Ya:山口.

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った積雪指数を比較した。積雪指数が高いと,長期の根 雪が毎年変わらず存在することを示す。積雪指数は大曲 で際だって小さい。すなわち,平均年間積雪日数が同じ でも,大曲では多雪年と少雪年の格差が大きく,根雪が いつ始まりいつ終わるかを予測することは困難になって いる。 積雪期間が長いと菌核が大きくなることは直感的に理 解できる(図―3)。活動期間が長いとその分菌核に多く 小 菌核サイズ 大 A B in 図−2  雪腐黒色小粒菌核病菌生物型と雪腐褐色小粒菌核 病菌における菌核サイズに関する変異(松本(2005) を大幅に改変) 個々のバーは一つの菌株における菌核サイズの範囲 を示す. 雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 A(A)は安定した多雪 地帯にのみ局在し,より広範に分布する生物型 B(B, 中の五つのバー)は一つの分類群としてはかなりの 変異を示すが,菌株内変異は小さい. 一方,分布範囲の広い雪腐褐色小粒菌核病菌(in)の 菌株内変異は大きく,一つの菌株だけで雪腐黒色小 粒菌核病菌生物型 B の変異に匹敵する. 表−1  積雪条件の異なる生息場所における雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 B 個体群の特性比較a) 特性 浜頓別 八雲 網走 札幌 大曲 盛岡 仙台 積雪日数b) 146.1 (8.5) 117.8 (6.9) 120.5 (9.3) 122.2 (10.2) 119.6 (18.7) 95.7 (20.6) 41.5 (34.0) 積雪指数c) 17.2 17.1 13 12.0 6.4 4.7 1.2 菌核サイズd) 1.09 (23.0) 0.79 (19.4) 0.87 (15.8) 0.80 (10.5) 0.62 (18.5) 0.70 (12.8) 0.42 (13.6) 病原力e) 4.2 (10.5) 4.99 (10.2) 4.60 (14.8) 4.21 (13.5) 4.56 (13.3) 4.56 (12.2) 5.53 (6.5) 菌核発芽f) 1.18 1.24 0.39 0.65 0.62 0.48 0.05

a)MATSUMOTO and TAJIMI(1990)より抜粋.各個体群 9 菌株供試した. b)年間平均積雪日数(変動係数). c)年間平均積雪日数/変動係数:積雪の予測性を示す. d)平均直径 mm(変動係数). e)平均病原力(変動係数):0 =植物被害なし,6 =枯死. f)0 =菌核発芽せず,3 =子実体形成.8℃ 10 時間日長/ 6℃ 14 時間暗黒 条件下で培養 35 日後調査. 図−3  雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 B における子実体形

成(MATSUMOTO and TAJIMI(1991))

積雪期間が長いと菌核は大きくなり,その子実体も 大きい(下段,浜頓別産菌株). 積雪の不安定な生息場所に優占する小型菌核フォー ム(上段,仙台産菌株)はほとんど不稔で,その小 型の菌核からは,子実体は容易には形成されず,担 子胞子の生存力も低い. 中段は札幌産菌株.

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の貯蔵養分を蓄えることができる。それでは,菌核の小 さい個体群は,積雪予測性の低い生息場所において,ど のような方法で適応しているのであろうか。その適応戦 略を明らかにするヒントが,1984 年仙台平野の湿田の 水田転換畑コムギに雪腐黒色小粒菌核病が発生したこと で得られた(HONKURA et al., 1986)。1983 ∼ 84 年にかけ ての冬は厳しく,通常積雪は 1 週間以内に消え,年間積 雪日数も少ない仙台平野にあって,積雪日数はこの年 60 日にもなった。この雪腐黒色小粒菌核病菌は生物型 B 小 型 菌 核 フ ォー ム と 同 定 さ れ た(MATSUMOTO and TAJIMI, 1991)。小型菌核フォームは当初生物型 C として 別 の 分 類 群 と 考 え ら れ て い た が(MATSUMOTO et al., 1982),菌核サイズに関して種内変異が大きい生物型 B のエコタイプとみなされた。すなわち,生物型 B と C は相互交配が可能で,交雑後代も十分な病原力と稔性も ある。生物型 B 小型菌核フォームにより枯死したコム ギは,地下部の葉鞘が侵され立枯症状を示し,ときおり 地際の葉身基部まで病斑が進展していた。菌核は主に地 下部に見られた。さらに春先の水田では,イネ切株の葉 鞘基部内側に菌核が形成されているのが観察された。 このようなことから,雪腐黒色小粒菌核病菌生物型 B 小型菌核フォームは典型的な土壌伝染性病原菌であるこ とが示された。地中は日射がなく,地表に比べ温度が変 動せず,湿度も高く保たれる。また,冬期間は土壌微生 物の活動も低下している。生物型 B 小型菌核フォーム は,仙台平野にあって次善の生息場所として地下を選ん だのであろう。その菌核は小さく,子実体形成はまれで, 実質的に不稔で,交配不和合性因子が機能していない (表―2)。小型菌核フォームは,積雪の有無にかかわらず 地温が低下し活動に好適になると,植物の衰弱を待つこ となくその強い病原力により侵害し始め,小さい菌核を 早く成熟させることで,急速に生活環を閉じることがで き る(MATSUMOTO and TAJIMI, 1988;本 藏,1991)。も と もと小型菌核フォームは,仙台平野において湿地に生え るカヤツリグサ,スゲ等単子葉植物の地下部を利用して いたのであろう。やがて水田が開発され,収穫後のイネ 切株に寄生することで命脈を保った。本来多年生のイネ は,秋に刈り取っても切株はある程度生存できるので, 本菌の利用できる生きた組織は残っている。1984 年大 雪の後に,仙台平野の転作コムギに発生した雪腐黒色小 粒菌核病は,極度に特殊化したエコタイプが極端な環境 にどのように適応しているかを理解するきっかけとなっ た。また,ゴルフ場のグリーンも極端な環境の代表で, 毎年雪腐病防除のため農薬が散布される。ゴルフ場では かつて平米当たり 1 l もの農薬が散布されたが,これで も降水量に換算すると 1 mm にすぎない。散布された農 薬が土壌中に深く浸透することはない。したがって,地 下部の菌は残るので,ゴルフ場でも土壌伝染性の小型菌 核フォームが選択される傾向にある。 ( 2 ) 雪腐褐色小粒菌核病菌 徳 島(田 杉,1936)や 山 口(MATSUMOTO et al., 1995) にも存在する雪腐褐色小粒菌核病菌の分布域の広さは, 一つの菌株における菌核サイズの変異が雪腐黒色小粒菌 核病菌の種内変異に相当することからもうかがえる。大 きい菌核からは,そこに十分蓄えられたグリコーゲン, ポ リ ペ プ タ イ ド 他 の 貯 蔵 養 分(NEWSTED and HUNER, 1988 ; WILLETTS et al., 1990)を利用して子実体ができる。 子実体には,感染能力のある担子胞子(MATSUMOTO and ARAKI, 1982)が多数形成されるので,子実体を発芽させ る方法は,遠く離れたところまで次代を拡散するために 有 効 で あ る。た だ し,担 子 胞 子 の 感 染 ポ テ ン シ ャ ル (inoculum potential)は低いので,その後積雪が確実に 見込まれるなど環境条件がよくないと成功しない。一 方,小 さ い 菌 核 は 子 実 体 を 形 成 す る こ と が で き ず (TRÄNKNER and HINDOR F, 1982),直接発芽して菌糸を伸長 させる。菌糸は近くの植物に感染するだけであるが,感 染ポテンシャルが高い。したがって,環境条件が十分に 表−2  生物型 B における菌核サイズの変異と交配不和合性因子 の共有a) 菌株 No. 菌核サイズ b) 産地 不和合性因子 c) A B 11 61 64 48 35 55 58 3 8 21 23 25 大型 B B B B 中間 中間 中間 中間 中間 ssB ssB ssB 浜頓別 八雲 八雲 網走 札幌 大曲(大仙) 大曲(大仙) 盛岡 盛岡 仙台 仙台 仙台 1 3 5 7 9 10 1 12 5 5 6 2 2 4 6 8 10 11 4 13 11 nd nd nd 1 3 3 6 8 10 9 5 5 10 3 10 2 4 5 7 9 11 11 12 13 nd 10 nd

a)MATSUMOTO and TAJIMI(1991)を改変.

b)浜頓別のように長期の積雪が安定しておこる生息場所ではし ばしば菌核の直径が 2 mm を超える一方,仙台のように予測性の 低いところは ssB(小型菌核フォーム)というエコタイプを生じた. c)交配不和合性因子 A と B は任意に決めた.アンダーライン したものは複数回検出された.nd:不規則な交配結果により, 小型菌核フォームでは因子を決定できなかった.また,その担子 胞子の生存力も乏しく,小型菌核フォームは有性生殖機能をほぼ 失いつつあり,クローン的な増殖にほぼ完全に頼っていることを 示す.

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整わなくても,有効な感染手段となる。このように,雪 腐褐色小粒菌核病菌は一つの遺伝子型の中で,大きい菌 核は生息地の拡大,小さい菌核は最低限の生存保証と, 菌核の役割について二股がけ(bet-hedging)を行って いるといえる。 一方,小型の菌核のみを形成する雪腐褐色小粒菌核病 菌が雪の少ないポーランド・ワルシャワ近郊から発見さ れた(HOSHINO et al., 2004)。これらの菌株の生育適温は 10℃で他のものと変わらないが,菌糸の生育が早く,ま た 10℃で培養すると菌核は通常の大きさのものが多く 形成されるようになった。この系統は積雪期間の短さに 適応したと考えられるが,詳細は不明である。 II 休眠期の戦略 雪腐褐色小粒菌核病菌では,担子胞子が感染源となる ので,有性生殖は機能しており,その結果新しい個体(遺 伝子型)が生じる。CAVELIER(1986)は野外に接種して おいた担子胞子由来のモノカリオン(一核菌糸体)が空 気伝染してきた担子胞子によりダイカリオン(二核菌糸 体)を生じることを確認している。一方で,菌核の死亡 率が高いことが,菌核の生存パターンを調べることで明 らかになった(MATSUMOTO and TAJIMI, 1985)。野外にお ける菌核生存率を 5 ∼ 11 月にわたって調べたところ, 7 月下旬には土壌表面に置いたもので 24.2%,深さ 1 cm の土壌中に埋めたものでは 5.0%であった。生存率は, その後さらに低下することはなかった。菌核からは様々 な菌寄生菌が分離され,これらが菌核の死亡原因になっ ていることが,実験的にも明らかになった。 雪腐褐色小粒菌核病菌は,典型的な多産多死の戦略を もった可塑性の高い菌である。その可塑性は腐生生活も できる生態的万能性によりもたらされ,新しい生息場所 を開拓するうえで有用である。また,多産多死の戦略は 世代間隔を縮め,新しい環境に適応した遺伝子型を残す ために機能していると考えられる。世界中の雪腐褐色小 粒菌核病菌は,交配不和合性因子システムを共有してお り,生殖的に隔離された集団は現在まで見つかっていな い(RØED, 1969 ; BRUEHL and MACHTEMS, 1978)。おそらく, 生態的万能性が菌群の分化を妨げ,それぞれの生息場所 で様々な能力を使い分け生存しているのだろう。このこ とは,特殊化へと向かった雪腐黒色小粒菌核病菌とは対 照的である。 雪腐黒色小粒菌核病菌においては,地域的な菌群分化 が推進される理由の一つとして,異系交配を積極的に行 わず,むしろクローン的な増殖をする性質に基づくこと が挙げられる。その担子胞子は,感染源としてほとんど 機能しない。担子胞子が感染源として機能しなくても, 古くなった子実体から直接伸長した菌糸により感染する ことで,菌核の貯蔵養分は有効利用される。また,雪腐 黒色小粒菌核病菌の二つの生物型はともにモノカリオン 化 す る こ と で 病 原 力 は 著 し く 低 下 す る の で(松 本, 1989),担子胞子由来のモノカリオンは交配しダイカリ オンにならないと生き残れない。すなわち,担子胞子の 散布体(propagule)としての機能は低く,菌核あるい は子実体から生じた菌糸がその役割を果たしている。こ のような意味でも,本菌は土壌伝染性であるといえる。 とくに生物型 B の土壌伝染性は顕著で,通常の農薬茎 葉散布で防除効果が安定しない原因は,土壌中の菌核が 感染源となっているためである(SAITO, 1988)。 お わ り に 生物の形や大きさには必然性があることは疑う余地が ないが,その必然性を説明することは多くの場合困難で ある。雪腐小粒菌核病菌の菌核はこうした疑問を解くう えで,最良の材料である。積雪のあることが生存のため の必須条件であるが,積雪は年により,地域により一定 しない。菌核を研究することで,一見同じように見える 雪腐黒色小粒菌核病菌と雪腐褐色小粒菌核病菌におい て,両者の生活史戦略の違いが明らかになった。 菌核は肉眼で見え数えることもできるので,対象とす る生物を直接観ることができないという微生物生態学上 の難点は,菌核を形成する菌を研究することで軽減され る。また,微生物は実験的な材料としては他の生物に比 べ極めて取り扱いやすい。このような観点からも,今後 菌核菌の研究者が増えることを期待したい。 引 用 文 献

1) BRUEHL, G.W. and R. MACHTEMS(1978): Phytopathology 68 : 1311

∼ 1313.

2) CAVELIER, M.(1986): Med. Fac. Landbouww. Rijkasuniv. Gent 

51 : 547 ∼ 555.

3) CUNFER, B. M. and G. W. BR UEHL(1973): Phytopathology 63 :

115 ∼ 120.

4) IMAI, S.(1937): Japan. J. Bot. 8 : 5 ∼ 18.

5) HONKURA, R. et al.(1986): Trans. Mycol. Soc. Japan 27 : 207 ∼

210.

6) 本藏良三(1991): 宮城農セ研報 57 : 35 ∼ 50.

7) HOSHINO, T. et al.(2004): Czech Mycol. 56 : 1 ∼ 2.

8) MÄKELÄ, K.(1981): Ann. Agric. Fenn. 20 : 102 ∼ 131.

9) MARAITE, H. et al.(1981): Med. Fac. Landbouww. Rijiksuniv.

Gent 46 : 831 ∼ 840.

10) 松本直幸(1989): 北海道農試研報 152 : 91 ∼ 162.

11) (2005): 日本微生物生態学会誌 20 : 13 ∼ 19.

12) MATSUMOTO, N. et al.(1995): Mycoscience 36 : 155 ∼ 158.

13) and Y. ARAKI(1982): Res. Bull. Hokkaido Natl. Agric. Exp. Stn. 135 : 1 ∼ 10.

14) and TAJIMI, A.(1985): Can. J. Bot. 63 : 1126 ∼

1128.

15) and (1988): ibid. 66 : 2485 ∼ 2490.

(6)

17) and (1991): Trans. Mycol. Soc. Japan 

32 : 273 ∼ 281.

18) et al.(1982): Ann. Phytopath. Soc. Japan 48 :

275 ∼ 280.

19) NEWSTED, W. J. and N. P. A. HUNER,(1988): Protoplasma 147 :

162 ∼ 169.

20) RØED, H.(1969): Acta Agric. Scand. 10 : 74 ∼ 82.

21) SAITO, I.(1988): Abstract 5thICPP : 202.

22) 田杉平司(1936): 日植病報 6 : 155 ∼ 156.

23) TRÄNKNER, A. and H. HINDOR F(1982): Med. Fac. Landbouww. Rijkasuniv. Gent 47 : 847 ∼ 853.

参照

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