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ー 第
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章ー=
現代近江の企業とその経営風土
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中小企業の経営をめくやる現在の問題
(1) 中小企業における企業家職能 企業経営の活動は,基本的には生産要素の結合として行われる。生産要素と なるのは,労働・資本・物財,いわゆるヒト・カ不・モノである。しかし,こ れらの生産要素の結合について,同じだけの質と量の労働・資本・物財が投入 されても,個々の企業によっては,それぞれに産出される経営価値の大きさは 必ずしも等しいものとはなってこない。むしろ,企業ごとにそれぞれに異なっ た経営価値が産出されるのがより一般的である。その理由は,同じだけの質・ 量の生産要素が投入されても,その結合に対して作用する企業家職能,組織, 技術および情報の力がそれぞれに異なってくるからである。そして,生産要素 の結合に対して触媒ともいつべき役割を果たすこれらの諸要因こそが,実は, 個々の企業経営にとって,そのアイデンティティを形成する最も重要な戦略要 因になってくるのである。 一般的にいって,中小企業にとっては,規模の経済性を有効に利用すること のできる大企業に比較して,その組融カを十分に活用できないことは明らかで ある。しかし,その他の戦略要因である企業家職能,技術および情報について は,中小企業においても,その有効な利用の可能性は大企業に比較して必ずし も劣るものではない。その中でも, とくに,企業家職能についていえば,むし ろ中小企業にとってこそ,その活用の機会がより大きく与えられているということが‘できる。 しかし,歴史的に見るならば,わが国の中小企業は,これまで戦略要因と し ての企業家職能を十分に発揮してきたということはできない。その最も大きな 理由の
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つは,わが国の中小企業の多くが大企業中心の生産分業体制のもとに 系列化されてきたことに求められる。 (2) 企業関係の系列化と中小企業 昭和43年 (1968年)に通産省によって提示された「国際競争に対応する生産分 業体制の確立」のための諸方策は,高い技術水準と生産性をもち近代的な生産 分業体制を確立した企業グループのみが国際競争に対応できること,そのため には発注元の大企業とその外注先の中小企業の聞に協力的な系列化を推進する ことが不可欠で、あることを桓い上げていた。そして, 日本企業の多くはこの「合 理的な生産分業体制」の方策を着実に実行し,そこに形成された大企業と中小 企業との聞の強力な系列関係によって,例えば,自動車産業に典型的に見るよ うな国際的な市場競争力を獲得していくことになっていった。 系列化は,企業聞の関係の「市場から組織への移行」といわれるように,そ こに参加する各企業が全体と して,支配企業である大企業のもとに経済的・技 術的な一個の組織的関連を形成することを意味する。したがって,個々の企業 にとって,それぞれの戦略要因である企業家職能,組織,技術および情報は, 支配的な大企業の主導のもとに,全体として一体化された関連の中に組み込ま れることになる。その結果,個々の企業は,法的あるいは制度的には独立して はいるものの,戦略的にはもはやその自律性を維持し続けることはできないの であり,自律性とアイデンティティを中心的に担う企業家職能の発揮できる余 地はほとんど失われることになる。 このように,これまで系列化された分業的生産体制のなかに強力に組み込ま れてきたわが国の中小企業にとって,今日,再びその企業家職能を発揮するた めの機会が求められるよつになってきた。そのきっかけとなったのは, 日本企 業の系列化による分業的生産体制とそれに基づく効率化の追求に限界が見えて第 l章 現代近江の企業とその経営風土 3 きたこと,そしてまた,系列化によって市場経済のもつ本来的な競争のメカニ ズムが封じこめられたこととそれに対する内外からの批判の高まりであったの である。 (3) 21世紀をめざす中小企業の謀題 「中小企業は市場経済そのものだ」といわれることがある。このことは2つの 意味をもっている。その
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つは,中小企業は大企業と異なり,市場を内部組 織 化することはできず,それぞれの企業家職能によって リスクを担っていかなけ れは、ならないことである。その 2つは, したがって,中小企業の経営戦JII各は本 来的にすべて市場の動態的な変化に対応しながら,その発展と革新を試みてい かなければならないことである。 平成3年度 (1991年)および平成4年度 (1992年)の『中小企業白書jによれ ば,これまで長期間にわたって日本の発展を支えてきた大企業主導型の経済体 制が系列関係を含めて根本的に見直しを迫られている現在, 21世紀をめざして, 中小企業とその企業家にこそ「リスクを克服して自ら事業を起こし,あるいは 新たな事 業を展開していく」本来の企業家職能の発揮が求められているとする。 市場経済の活発なシステムを作り上げてきたのは,企業家の自由な責任のある 行動であり,その革新的な職能の発揮であった。世界の各国・各地域において, すでに2
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年を超える歴史の中に成熟し,成長の止まってきた企業社会と市場経 済を新たに蘇らせることのできるのは,すでにその組織的な活力に衰えを見せ て い る 大 企 業 で は な し 企 業 家 職 能 を 中心的な戦略要因とし,企業家精神が未 だ活力を失っていない中小 企業を措いてないというのである。 白書の指摘をまつまでもなく,今日, 日本国内の各地域における企業社会の 実態を見るならば,いわゆるバブル経済の期間に,多くの大企業が実体のない 皮相な経営戦略の展開によって自らの経営基盤を危うくさせていった中にあっ て,バブルの原資である余剰資金を持ち合わせない多くの中小企業とその企業 家たちが,革新的な事業展開と堅実な経営努力とによって,その下支えを行っ てきたことが明らかに認められる。本書によって紹介される溢賀県下における中小企業とその企業家のとってきた経営戦略と行動は,まさにその lつの典型 でもあったということができる。
2 滋賀の経済と中小企業,
その
基本
的特徴
(1) 滋賀県経済の現況 滋賀県は,平成2
年(
1
9
9
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年)の国勢調査時における人口が1
2
2
万人(全国比0
.
9
8
%)
,総面積が琵琶湖を含めて4
,0
1
6
附(全国比1.0
6
%
)
の小きな規模の県で あるo この全国比が1%
という割合は,滋賀県に関する基本的な経済指標の多 くについても当てはまってくる。例えば, 15歳以上の就業人口,事業所数,従 業者数,あるいは名目県民総生産のいずれもが,平成2年現在, 全国比1%
前 後の数字を示しているのである。 しかし,その反面において,同じ経済的な指標についても,それぞれの単位 当たりの数値を見るならば,滋賀県経済のもつ相対的に高い水準がおのずと浮 かび、上がってくる。すなわち,同じく平成2年現在,県民総生産の経済成長率 は実質6%
で全国水準を大きく上回っていること,従業者1
人当たりの工業製 品出荷額は全国47都道府県中5位,従業者1人当たりの付加価 値額は同1位と なっていること,そして l人当たりの県民所得は同5位となっていることがそ れである。ちなみに 1人当たりの県民所得について,上位4位までが東京・大 阪・神奈川・ 愛知といずれも政令指定都市をもっ大都市圏であることからすれ ば,地方圏では滋賀県が第l位の経済的な豊かさを示す地域と評価することが できる。 (2) 滋賀の大企業と中小企業 滋賀県の企業の全体について,その産業別事業所数および従業者数を全国と の割合によって見るならば,次頁の表1-1のようになっている。 表1-1からも明らかなように,滋賀県の場合,産業構成の上では全国に比較 して第2次産業とくに製造業の割合が高いことが特徴的である。その反対に第第1章 現代近江の企業とその経営風土 5 表1-1 産業別事業所数と従業者数 滋 賀 県 全 国 事 業 所 数 従 業 者 数 事 業 所 数 従 業 者 数 全 産 業 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 第 l次産 業 0.3 0.4 0.3 0.5 第 2次 産 業 29.0 49.2 22.4 37.0 第 3次 産 業 70.7 50.4 77.4 62.5 (平成元年版 I滋賀県の商工業J) 3次産業の割合が低いことは,県内商業の年間販売額が全国比0.36%の数字か らも示されている。 第2次産業とくに製造業について,県内の大企業と中小 企業の規模別構成の 割合を全国と比較するならば,次表のようになる。 表1-2 製造業における規模別構成 滋 賀 県 全 国 従業者規模 事 業 所 数 従 業 者 数 事 業 所 数 従 業 者 数 1- 9人 50.0% 8.8% 55.5% 13.2% 10- 99人 43.2 35.6 40.9 42.1 100-299人 5.2 23.3 2.8 17.5 300-999人 l.3 17.6 0.7 14.2 1,000人以上 0.3 14.8 0.2 13.1 (平成元年版 『滋賀県の商工業j) 表1-2によって示されるように,滋賀県の場合,製造業企業における従業者 規 模300人未満の中小企業の割合は事業所数で"98.4%,従業者数で67.7%と,全 国におけるそれぞれの99.2%,72.8%に 比 較 し て 相 対 的 に 低 し そ れ だ け 大 企 業および中堅企業の占める割合が高くなっている。事業規模の大きいことは必 ずしも経済的な発展の高さを示すものとはいえないが, しかし一面において, それが工業製品出荷額を引き上げるとともに効率的な生産を可能にし,従業者 1人当たりの付加価値額を高くするために貢献していることも明らかであるo 製造業企業の業種構成については,滋賀県自体が内陸部に立地している関係 から,鉄鋼業や石油化学などの装置型産業は適しておらず,隣接する京阪神工
業地帯とも関係の強い電気機器・繊維品・輸送機器などの内陸立地型の産業が 中心となる。中でも電気機器の生産は,かつて滋賀の代表的な産業であった繊 維生産に替って,現在では,県内工業製品出荷額の3分のlを占めるまでに至 っている。 (3) 滋賀の地場産業と中小企業 伝統的にその地域の中小企業と経営風土をこれまで最もよく特徴づけてきた のは,地場産業であったといわれる。地場産業とは,その地域に伝えられる固 有の原材料・製品・生産技術・生産方法あるいは市場を継承しながら,多様な 分野にわたって独自の事業展開を行ってきた企業群を意味する。個々の企業の 規模は相対的に小きいが,それぞれに一定のまとまった集合的な企業群を形成 し,現在まで地域の産業基盤の一角を支えてきたのである。 ちりめん しカてらき 滋賀県内の地場産業は,いわゆる 8大産地に立地する長浜縮緬・信楽陶器・ 高島綿織物・彦根ノ〈ルブ・湖東麻織物・甲賀日野薬業・彦根縫製・彦根仏壇を 中心に,昭和62年 (1987年)の工業統計によれば, 22業種,事業所数1,011,従 業者数12,047人,製品出荷額1,550億円となっている(ちなみに事業所はすべて従 業者300人未満の中小企業である)。これを製造業における県内の中小企業の全体と の割合で見るならば,事業所数23.7%,従業者数11.7%,製品出荷額7.0%とな っている。これらの数字は, しかし数年来,事業所・従業者・出荷額のいずれ においても絶対数および割合ともに減少傾向にあり,次第に地場産業が県内の 中小企業を代表するものではなくなっていることを表しており,それに対して, 地場産業以外の多様な型の中小企業の割合が高くなっているということができ る。 地場産業以外の中小企業について,それを経営形態および中心的に用いられ ている生産技術と生産方法を基準に分類するならば,例えば, ・主として湖南・湖東の都市部を中心とする人口集積地域・交通利便地域に集 中的に立地し,加工・組立型の生産に従事し,大企業との聞の系列化によっ て継続的な取引関係と分業的生産体制を形成する企業
第 I言. 現代近江の企業とその経営風土 7 -都市部・郡部にこだわらず各地域に立地し,規模的には相対的に小さいが, 高収益を達成しているハイテク技術を用いた研究開発型あるいは情報関連型 の事業展開を行っている企業 -主として郡部に立地し, 日常的な生活と産業活動に必要な個別製品あるいは 部品の生産に従事してきた企業であり,本来的に大規模な市場を期待できな いことから,家業的な形態をとっている企業 等が上げられる。 これらの類型の企業については,今日,いずれの場合も,県内各地 域に一定 の量的な集積をもってその存在を確認することができる。昭和62年現在,地場 産業を除くこれらの各類型に属する中小企業の事業所数3,249従業者数90,521 人,製品出荷額220,228億円となっている。そして,伝統的に地域経済を特徴づ けてきた地場産業に替って,次第にその担い手としての地歩を固めてきている のである。 しかし,それらの企業において,その企業家職能あるいは戦略的な事業展開 はどのように行われているか,未だ十分には明らかになってはいない。商工業 統計あるいは事業所統計によって得られる基礎的なデータによっては,それら の中小企業におけるそれぞれの企業家たちの行動と予想される独自のアイデン ティティについて,その特徴的な姿は浮かび、上がってはこないからである。本 書の次章以下において紹介される実態調査は,まさに,地場産業を含めて県内 に立地するこれらの多種多様な中小企業の企業家たちが,それぞれにどのよう にその本来の企業家職能を発揮し,未来に向けての創造的な経営戦略を展開し ていこうとしているのかを明らかにすることを課題としている。 なお,実態調査の対象には県内の流通業における中小 企業も含まれる。流通 業の場合,中小企業として分類されるのは従業員規模50人未満の企業である。 昭和63年現在,その事業所数18,167,従業者数75,064人,年間j仮売額19,124億 円となっている。
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実態調査から見た滋賀の中小企業とその戦略
(1) 調査対象企業の基本的性格 溢賀県下の中小企業に関する今回の実態調査は,滋賀大学経済学部経営学科 に所属する 8人の研究スタッフと経済学科産業経済論講座に所属する 1人によ って組織された「滋賀大学中小企業経営研究会」によって行われた。調査は, 平成3年 (1991年) 7月から 8月にかけて,滋賀工業会および県内各商工会議 所・商工会の会員企業の中から無作為抽出によって338社を選びだし,それらの 企業に対して,今日の中小企業経営における企業家職能と経営戦略のあり方に ついて10分 野324項目にわたるアンケート調査を行い,その後,集計と分析の過 程において随時インタビューによる補充調査を実施したものである。 実施したアンケート調査に対する回答企業は, 138杜であった。その業種別 構 成は,製造業90社 (67.2%),流通業33社 (24.6%),その他15社 (8.2%) で、あっ た。これを従業者数による規模別に分類すると,表1-3のようになる。 表1-3 調査企業の規模別構成 従業者規模 事業所数 1- 9人 7 ( 5.2%) 10-99人 86 (63.7%) 100-299人 37(27.4%) 300人以上 5 ( 3.7%) 調査企業の従業者規模の平均は82.1人となっている。調査企業には製造業以 外の企業が事業所数で3分の1含まれており,そのまま単純には比較できない が,表1-2における県内製造業全体の規模別構成に比べて,相対的に規模の大 きい中小企業が対象となったことになる。また,その事業規模について見るな らば,平均的な調査企業としては,年間売上高10億円以上,過去5年間の平均 売上高の伸び率5 %から 10%の比較的に業績の安定した企業であるということ ができる。(
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企業家職能に関する調査と分析 調査の内容は,大きく分類するならば, 第l章 現代近江の企業とその経営風土 9 中小企業における企業家職能のあり方に関する調査,ならびに ・その基本的な経営戦11悔の展開に関する調査 の2つの部分からなっている。 第1
の企業家職能に関する調査としては,個別的にはさらに,調査対象企業 における企業家たちのプロフィールと性格 ・意識・能力,経歴と属性 ・起業家 としての経験 ・事業展開における役割,および後継者とその育成・事業継承の あり方等の問題が取り上げられる。 その具体的な調査内容と分析の結果については,本書における4
つの章(第2 章から第 5 掌)にわたって展開されるが, そこから浮かび、上がってくる~型的な 滋賀の中小企業にとってのあるべき企業家の姿は次のように要約することがで きる。すなわち, ・創業者あるいはその直系として,資質的にはなおすぐれた洞察力と革新的 な意欲を保持しながら,経営戦略全体の展開に強い影響力を及ぼし続けて いること -事業展開に対しては本業を重視し,みだりに事業の拡大を試みず,最適規 模を追求しながら,堅実な経営を維持することをもって企業家職能の本義 としていること,そして ・後継者の育成に際しては,血縁関係を重視しながらも,その第lの課題は 事業の継承 ・発展にあるとして,能力主義を最重視すること てやある。 ここに描き出される滋賀の企業家の姿は,先に見た『中小企業白書』の中に 指摘される来るべき2
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世紀をめざす中小企業の企業家とその基本的な部分で完 全に一致している。大規模な資本と組織およびそれに基づく量的な効率化のシ ステムを活用できない中小企業にとって,企業家職能こそが決定的な力をもっ 要因であり,経験的にもその求められる姿の収数してくるところは大きく変わ ることはないのである。(
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経営戦時の要因に関する調査と分析 第2の経営戦略に関する調査としては, 個別的には, ・成長と維持・技術と環境 ・経営規模等の基本的な戦略 .労使関係および経営 参加体制の展開 -研究開発・技術開発に対する京阪神企業との提携戦略 -生産システムとくに工 業団地の形成と大企業との生産分業体制 .流通業における固有の経営戦111各の問題 -海外地域への事業進出に対する取組み,そして 等が取り上げられる。その具体的な調査内容と分析の結果については,また, 本書における 6つの章(第 6撃から第 11章)にわたって展開されている。 経営戦UI各の具体的な展開に関する調査と分析について,その多岐にわたる多 様な内容を簡潔に要約することは容易ではない。ただ,実態調査によって得ら れた個別的な多くのテータから読み取ることができるのは,それぞれにおいて, 他のいずれの戦略的な要因にも比して,企業家職能の要因が最も大きなウェイ トを占めていることである。 滋賀の中小企業にとって,その市場は京阪神の大規模な市場領域の中に包含 されていること,県内企業の多くが関連する事業分野における大企業との聞の 長期的な供給取引関係と分業的生産体制のもとに結合されていること,あるい はまた,技術的な開発能力に対する県内の科学的技術教育環境の整備の立ち遅 れていたことから,それぞれの独立した企業としての自律的な経営戦略の展開 に対しては必ずしも十分に可能な条件が整備されてはいない。そのような制約 条件を考慮するならば, 滋賀の中小 企業における事業展開にとって,それにも かかわらず,それぞれに全国比において相対的に高水準の業績の達成が検証さ れることは,企業家職能の要因がもっ意味の大きさが決定的なものであったと いわざるをえないのである。第 l章 現代近江の企業とその経営風土 11
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近
江商
人
の伝
統と
現
代近江の企
業家
たち
(1) 滋賀の中小企業と近江商人の伝統 実態調査から得られたデータのlつに,事業経営に及ぽす環境的な影響要因 として,道路事情や自然環境とならんで,固有の経営風土としての近江商人の 伝統が挙げられている。周知のように,近江商人とは,近世経済の歴史の中に あって,文字どおり全国を股にかけて活躍し,その後の日本の経済と企業経営 の発展に大きな足跡を残した近江出身の企業家たちのことである。その近江商 人の残した伝統が, 今日の滋賀の中小企業の企業家たちにとっても,その事業 展開に大きなメ リットとしての固有の意味をもち続けているというのである。 ひとくちに近江商人といっても,その出身地によって八幡商人, 日野商人, 湖東商人あるいは高島商人等に分けられ,また,その起源も渡来人説,武士起 源説,農民起源説, 市座説あるいは交通要衝説等さまざまである。あるいはま た,その事業の方法も,例えば「八幡の大届」といわれるように大都市に拠点 となる大庖を構えた八幡商人と,I
日野の千両庖」といわれる各地に規模の小さ な多くのチェーン屈を作っていった日野商人のように,それぞれに異なった展 開を見せていたのである。 しかし,今日,I
近江商人」として総称する場合,それらの商人たちによって 用いられ,その後の歴史のなかに治い影響力を残した固有の企業家職能と経営 戦略のあり方について,共通して理解される 1つのイメージがある。それにつ いて,江戸時代の中期から後期にかけて最も活躍した代表的な近江商人であり, 今日までその資料がほとんど完全なかたちで保存されている中井家における経 営'を紹介したい。ちなみに中井家の経営のシステムについては,かつて滋賀大 学経済学部の教授として活躍された江頭恒治博士 (r近江商人中井家の研究J1965 年)および、小倉栄一郎博士(f江州中井家11山合の法J1962年)によって詳細に研究 され,それぞれの業績は近世日本の経済史および経営史の研究に大きな貢献を したことで知られている。(
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近江商人の経営戦略 近江商人中井家における豊かな内容の事業展開を精確に紹介するためには多 くの紙幅を必要としなければならない。し か し そ の 個 別 的 な 経 営 戦 略 の 主 要 な内容を簡潔に要約するならば,以下のように示すことができる。すなわち, -拠点となる事業統括本部としての本庖を中心に,それぞれに独立性の高い 事業経営を行う各支庖からなるネットワーク組織づくりを全国規模で展開 していたこと -水準の高い完成された複式簿記の方法を用いることによって,正確な会計ー 帳簿を作成し,遠隔地に分散している各支屈の事業内容を統一的に掌握す るとともに,また,企業全体としての財務システムを総合的に管理できて いたこと -経営家族主義に基づいた年功序列lljjl・終身雇用制を軸にして,今日の日本 的経営方式の原型となる従業員管理の組織と人材育成システムを構築して いたこと そして,これらの個別的な経営戦略を展開するための基礎となる経営理念と して, -事業経営にあたるものは積極的に倹約 ・勤勉・禁欲を守り,食欲を捨てる ことと,さらに,その事業を継承し,発展させるために2代 3代とすぐれ た後継者を育成していかなければ、ならないこと が挙げられる。 中井家に代表される近江商人のこのような経営のあり方について,そこに明 らかな時代的な制約によ る限界を認めることはできるが,その内容の多くにお いて,今日の近代的な企業経営のルーツとなるべき合理的な計算思考と効率的 な組織管理の思考が貫かれていたことは,多くの歴史家や研究者の共通して認 めるところである。そして,近江商人たちの残したこれらの経営戦略は,明治 維新ののち今日にいたるまで直接的あるいは間接的に継承されなから, 日本的 経営の系譜の中に生き続けていくことになるのである。第l章 現代近江の企業とその経営風土 13 (3) 近江商人と現代近江の企業家 近江商人の残した経営とそこに貫かれている合理的な計算思考や効率的な組 織管理の思考は, しかし,今回の調査対象となった滋賀の中小企業に見られる 個別的な経営戦略と必ずしも直接的には関連してはこない。むしろ,中井家に 代表される近江商人の具体的な事業展開のシステムは,直接的には,中小企業 よりも現在の大企業における経営戦略により適合しているのであり,事実, 日 本的経営を代表する多くの大企業の経営の中にその系譜の跡を認めることがで きるのである。 それでは,近江商人の後喬としての現代近江の企業家たちは,中小企業にお ける事業経営のメリットとして,近江商人の先祖のもたらした伝統の意味をど こに見い出そうとしているのであろうか。直接的な回答は明確で、はない。しか し,多くの項目に対する回答の中から推測することのできるのは,展開された 個別的な経営戦略の