静岡大学環境負荷モニタリングシステムの開発と導入
峰野
博史
†a)松尾
廣伸
††黒木
秀和
†††荻野
司
†††長谷川孝博
††††Development of Environmental Monitoring System in Shizuoka University
Hiroshi MINENO
†a), Hironobu MATSUO
††, Hidekazu KUROKI
†††, Tsukasa OGINO
†††,
and Takahiro HASEGAWA
††††あらまし 温暖化防止の観点から,大幅な省エネ・CO2排出量の削減が求められているのみならず,省エネ 法の改正や大学の運営コスト削減の観点からも省エネが必要となっている.このような中,静岡大学では2010 年3 月の情報基盤システムの更新に合わせ,エネルギー使用量の「見える化」による省エネを目的としたキャン パス環境負荷モニタリングシステムの開発と導入を実施した.本環境負荷モニタリングシステムは,静岡・浜松 キャンパスの電力805 箇所,ガス 71 箇所,水道 3 箇所の計測値を 1 分周期で自動収集しており,グループ設定 も含めると計1,324 箇所の計測値を表示可能な大規模なものである.本論文では,この静岡大学環境負荷モニタ リングシステム開発にあたっての要求仕様と詳細設計についてまとめ,本システム導入によって期待される見え る化の効果について考察する. キーワード 環境負荷モニタリングシステム,見える化,省エネルギー,Green by ICT
1.
ま え が き
「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(以下, 「省エネ法」)は,燃料資源の有効な利用の確保やエ ネルギーの使用の合理化を総合的に進めることを目的 に,1979年6月に制定された.その後,2002年6月 の改正により,第一種エネルギー管理指定工場の指定 対象がそれまでの製造等5業種から大学を含む全業種 に規制が拡大された.更に,2008年5月の改正によ りキャンパスごとのエネルギー管理に加え,大学単位 でのエネルギー管理が導入され,法規制の強化が行わ れている(2010年4月施行).電力・ガス・重油など の年間使用量に基づく原油換算値3,000 kL以上(電力 †静岡大学情報学部,浜松市Faculty of Informatics, Shizuoka University, 3–5–1 Johoku, Naka-ku, Hamamatsu-shi, 432–8011 Japan
††静岡大学工学部,浜松市
Faculty of Engineering, Shizuoka University, 3–5–1 Johoku, Naka-ku, Hamamatsu-shi, 432–8011 Japan
†††(株)ユビテック,東京都
Ubiteq Inc., 1–18–9 Nishigotanda, Shinagawa-ku, Tokyo, 141–0031 Japan
††††静岡大学情報基盤センター,浜松市
Center for Information Infrastructure, Shizuoka University, 3–5–1 Johoku, Naka-ku, Hamamatsu-shi, 432–8561 Japan a) E-mail: [email protected] 1,200万kW以上)の工場・事業所・キャンパスは第 一種エネルギー管理指定工場に指定され,原油換算値 1,500 kL以上(電力1,200 kW以上)の工場・事業所・ キャンパスは,第二種エネルギー管理指定工場に指定 される.静岡大学の2009年度の原油換算値は,静岡 キャンパスが2,577 kL,浜松キャンパスが2,444 kLで あるため,両キャンパスが第二種エネルギー管理指定 工場に指定され,エネルギーの使用の合理化に関する 努力義務が課せられている. 静岡大学では,施設・環境マネジメント委員会を中 心に「静岡大学教育・研究活動における環境配慮計画」 に基づいて,温室効果ガスの排出量を積極的に削減す る取組みを進めている[1].特に,電気・都市ガス・水・ 重油・灯油の使用量と温室効果ガス排出量(CO2換算) について,京都議定書第一約束期間の最終年度である 2012年度までに,2003∼2012年度平均値を2002年 度実績に対し10%削減する目標(年平均1%削減)を 掲げている.NEDOが過去に実施した事業報告書よ ると,一般家庭においてエネルギー使用量の見える化 による省エネ効果は,約5.2∼14.6%と分析されてい る[2].大学のエネルギー使用の特徴は一般家庭とは異 なるが,大規模施設などでの定常的な電力消費の把握 と見直しによる効果などを期待し,仮に効果的な見え
る化によって約8%の省エネ効果が得られると想定し てみる.環境負荷モニタリングシステム導入前の2009 年度の静岡大学全体の電力使用量は16,948千kWで あったので[1],約8%の省エネ効果が期待できたとす ると約15,592千kWの電力消費に抑えられる可能性 がある.これは,当大学の掲げる2012年度までに総エ ネルギー使用量を2002年度実績の10%削減(年平均 1%)を達成するという目標に対し,電力使用量だけで 考えれば,2002年度の電力使用量実績17,327千kW の10%削減値である15,594千kWを達成可能である ことを示す.大学のような複合施設での見える化によ る省エネ効果は予測しがたいが,全学規模で同一シス テムによる定量化を進めるために環境負荷モニタリン グシステムの導入に踏み切った. 本論文では,2010年3月に導入され,大規模な省 エネと運用コスト削減の実現を期待する新情報基盤シ ステムSUCCES (Shizuoka University Cloud Com-puting Eco System) [3] のサブシステムの一つであ る環境負荷モニタリングシステム開発にあたっての要 求仕様と詳細設計についてまとめ,本システム導入に よって期待される見える化の効果について考察する.
2.
内外の状況
大学は,一般的に多くの施設があり活動時間も長く, エネルギー密度が低いため他業種と比較しても多くの エネルギーを消費している.また,施設の新築,増改 築,大規模改修,温暖化に伴う新たな空調導入,情報 通信機器の増加,研究内容の高度化など,エネルギー の消費量は増加する傾向にあるといえる.大学運営の 厳しさが増す中,施設運営面の効率化がよりいっそう 求められており,省エネルギー対策を推進して,エネ ルギー消費量増加に伴う光熱水費を抑えることによる 運営コストの適正化が重要である.このような背景の もと,多くの大学で環境マネジメントシステムや省エ ネルギーへの取組みが活性化しており,特に環境負荷 モニタリングシステムによる見える化の実現や,エネ ルギー管理システム(Energy Management System:EMS)による住環境制御の導入などが注目されている. 東京大学では,2008年6月にグリーン東大工学部 プロジェクトを発足させ,「させられる環境対策からや りたくなる環境対策へ」を掲げている[4].工学部2号 館を用いて,ファシリティマネージメントシステム技 術の検証と評価,更に,運用技術の確立を目指してお り,マルチベンダ環境下でポイント数330箇所(電力 135箇所,ガス5箇所,水道12箇所,温度28箇所, 湿度28箇所,制御122箇所)で実証実験を進めてい る.産学連携型コンソーシアムという体制でファシリ ティ通信規格の標準化活動にも力を入れており,2010 年5月には,東大グリーンICTプロジェクトとして 工学部から全学へと規模を拡大させ注目を集めている. 北海道工業大学では,2009年12月に「見える化モ ニタリングシステム」の運用を開始している[5].キャ ンパス内12施設の260ポイント(電力147箇所,油 流量5箇所,温度108箇所)へ計測器を設置し,得ら れた計測データを学内LANを介してサーバへ蓄積し ている.これらのデータを用いて,棟別または全体の 消費電力,消費油量,一次エネルギー消費量,気温, 湿度,CO2排出量を,30分,1日,1週間及び1か月 単位で24時間閲覧できる. 九州大学では,2010年4月に日本アイ・ビー・エム (株)と(株)ジールの協力によって,伊都キャンパス のCO2排出量の見える化を実現している[6].消費電 力,ガス,水道,CO2排出量を,1時間ごとに更新し て表示でき,学内LANやカフェテリアに設置された ディジタルサイネージ(電子看板)で閲覧できる. 東京農工大学では,全キャンパスのエネルギー使用 量見える化システムの運用準備が進められている[7]. プロトコルが異なる複数の計測装置から「農工大標準 プロトコル」に変換することで,異なるメーカの計測 器から送られる信号の統合を実現する研究が進められ ており,学内5箇所に設置されたディジタルサイネー ジでも閲覧できる. 一方,海外の大学ではビル管理システム(Building Management System:BMS)の導入事例が多い.例 えば,英ブリストル大学では,BMSの導入を済ませ, 環境マネジメントシステムの段階的実施に関する指 針であるBS 8555と呼ばれる規格のフェーズ3まで 達成し,2010年12月までにフェーズ5の達成を目 指している[8].英ダラム大学でも,自動検針(Auto Meter Reading:AMR)システムやBMSを導入し, 適正な制御によって15∼25%の省エネ実現を目指し ている[9].豪アデレード大学や米ミネソタ大学では, 分散するキャンパスのBMSで利用されるBACnetや Lon,OPCといった様々な通信プロトコルを大規模に 相互運用する統合BMSの実現を進めている[10], [11]. これにより,異なるBMSの連携モニタリングや主要 な電気設備の制御などが実現でき,大幅な省エネの達 成を目指している.
その他にも多数の事例を見つけることができる.例 えば,国内では文部科学省が大学等における省エネル ギー対策を推進するための方策を検討して手引きや事 例集などを作成している[12].海外では米エネルギー 省が,学校におけるエネルギー利用の効率化を支援す るためにEnergySmart Schoolプログラムを実施し, 充実した情報を公開している[13].
3.
静岡大学環境負荷モニタリングシステム
3. 1 要 求 仕 様 大学は一般企業と異なり,多種多様な特性をもつ施 設や設備があるだけでなく,運用方法も部局や季節に よって様々である.そこで,全学規模で環境負荷モニ タリングシステムを導入して多数の計測ポイントを設 定しエネルギー使用量の見える化を実現することで, これまで不明確だった詳細なエネルギー使用量内訳を 把握することができると考える. 例えば,新情報基盤システムSUCCESの導入に伴っ て学内50箇所へ導入されたディジタルサイネージへ, 電力使用量の推移や内訳,分析結果などを効果的に提 示することができれば,学生や教職員に対して何気な い大学生活の中でエネルギー使用量の実情を感じさせ るだけでなく,省エネに対する関心を高めていけると 考える.また,大学の施設管理の観点では,適切な省 エネ行動の促進や,高圧トランス等の設備効率を把握 することが可能になり,施設運営面の効率化を図るこ とができると考える. 開発コストの上限額も関係するが,以上の目的を達 成するための要求仕様を以下にまとめる. (1) サーバ運用の効率化を図るため,環境負荷モ ニタリングサーバは,焼津市にあるデータセンターに 設置された静岡大学プライベートクラウドセンター (PRivate Cloud Center:PRCC)で稼動させる.末 端の計測ポイントとして,静岡キャンパス及び浜松 キャンパス内の電気室(全28棟)の二次側幹線の電 力805箇所,主たるガスメータ71箇所,浜松キャン パスの水道メータ3箇所に関して遠隔から計測できる ものとする.また,将来の計測粒度の詳細化に伴い, 計測ポイントの追加を行うことができるものとする. (2) エネルギー使用量の見える化によって詳細な 分析ができるよう,各計測ポイントに関して1分間隔 で自動的にデータを取得できるものとする.計測ポイ ント数の増減に柔軟に対応でき,仮に計測ポイントか ら正常にデータを取得できなくてもシステム全体に不 具合を発生させないものとする. (3) 様々なデータ表示要求に対して即時性をもた せるため,各計測値から1分,30分,1時間,日,月 ごとの積算値を算出し保存しておく.また,遠隔から の自動計測ポイントとして対象から外された使用量の 少ないガスメータ24箇所,水道メータ88箇所に関し ても,手動によるデータ入力ができるものとする.保 存されたデータはバックグラウンドでバックアップ及 びレストアできるものとする. (4) 電力使用量の警告を通知するためのしきい値 を設定できるものとする.電力使用量がこのしきい値 を超えた場合は,現状況を通知するアラートメール (予測,実測,復帰)を複数の登録者へ送信できるも のとする. (5) 保存されたデータは,Webブラウザを介して 各種グラフ(棒グラフ,折れ線グラフ,積算グラフ,円 グラフ等)で表示及び過去のデータと比較できるもの とする.各計測ポイントだけでなく,キャンパス,部 局,建物,用途,負荷名称といった階層構造でグルー プ化したポイントも含め合計1,324箇所のデータを表 示できるものとする.電力においては,各相の電流, 電圧,力率を含む瞬時値を表示できるものとする.外 部アプリケーションが保存されたデータを参照できる ようなWeb APIを提供するものとする. 以上,五つの要求仕様を満たす静岡大学環境負荷 モニタリングシステムの概要を図1に描く.ここで, 図 1の左下に本システムで遠隔計測する計測ポイン ト数の内訳を示す.大まかな機能として,PRCC内の 環境負荷モニタリングサーバは,学内VLANを通じ てパナソニック電工(株)製のKS1信号変換器[14] (以降,KS1)を介し,多回路エネルギーモニタ[15] (以降,エネモニ)で計測された電力,ガス,水道の使 用量データを収集する.ここで,エネモニには,CT (Current Transformer)ケーブルや電圧ケーブル,パ スルケーブルで計測器が接続されている.収集された データは,環境負荷モニタリングサーバ内の種々の機 能モジュールで処理され,学内LANに接続されたパ ソコン等のWebブラウザで閲覧可能となる.また,計 測値が,環境負荷モニタリングサーバに設定された特 定の値を超えた場合には,その状況をメール等で通知 するデマンド通知機能や,収集データをネットワーク を介してFTPサーバへバックアップする機能を実装 する.図 1 静岡大学環境負荷モニタリングシステム概要
Fig. 1 Overview of environmental monitoring system in Shizuoka university.
3. 2 設 計 概 要 前述の要求仕様を満たすために,環境負荷モニタリ ングサーバ内部に大きく以下のような機能モジュール が必要になると考えた.ここで,各番号は前述の要求 仕様の番号に対応する. (1) 仮想シリアル通信機能 (2) データの取得機能 (3) データの保存機能 (4) デマンド通知機能 (5) 見える化と外部連携機能 これらの機能の開発を効率良く進めるため,既存 製品の活用を検討した結果,(株)ユビテックで省エ ネソリューション向けに開発された統合ゲートウェイ 製品BX-Office [16]をベースとすることにした(注1).
BX-Officeは,本来Cisco ISRシリーズ(Cisco AXP
内蔵)にて提供され,照明設備や監視設備といった様々 な設備制御システムを連携可能とするが,当環境負荷 モニタリングシステムの要求仕様を満たすためにエ ネルギー管理機能の強化が必要だったため,汎用的な Linux OSで動作する形に修正している.その中心的部 分をBX-Coreと呼ぶこととした.また,(株)ユビテッ クでは,BX-Officeと連携するアプリケーションの一 つとしてBX-Energyを製品化している.BX-Energy は,Web2.0テクノロジーを駆使してエネルギー使用 量をより汎用的かつ柔軟に見える化する機能であり, 当環境負荷モニタリングシステムの要求仕様を満たす ような改良を加えやすいという特徴をもっていた. そこで,BX-Core及びBX-Energyに手を加えるこ とで,限られた予算内で前述の要求仕様を全て満たす ような環境負荷モニタリングシステムを設計した.図2 に当環境負荷モニタリングサーバの機能モジュールの 詳細とBX-Core及びBX-Energyとの関係を示す. (注1):BX-Office自身には,部屋ごとの照明機器制御,空調機器制御, 人感センサ連動,スケジューラ連携,IPカメラ接続等を行う機能も備え ているが今回は使用していない.これら機能に関しては,(株)ユビテッ ク五反田オフィスや東大グリーンICTプロジェクトにてデモ及び実証 実験が進められている.
図 2 環境負荷モニタリングサーバの機能モジュール詳細 Fig. 2 Functional detail of environmental monitoring server.
環境負荷モニタリングサーバは汎用的なLinux OS上 に構築し,WebサーバであるApache httpd + PHP, データの収集・蓄積・表示を行うBX-Energy,Linux OSのシリアルデバイスノードを介して接続される測 定機器の状態取得を行うBX-Core等で構成される. BX-Coreは,BX-Energyからのリクエストに応じ て,測定機器とシリアル通信を行い状態取得を行う. BX-Energyは,BX-Coreを介して取得した電力,ガ ス,水道使用量をデータベース(以降,DB)に格納 するとともに,格納したデータを基にキャンパス,建 物,フロア単位,及び1分,10分,30分,1時間,1 日,1月単位の電力,ガス,水道使用量として集計す る.これら集計結果のグラフは,一般利用者画面を介 して学内LANからWebブラウザで自由に閲覧でき る.また,Web APIを介して集計結果の各種データ を取得することもできる.以降,各機能モジュールの 詳細を説明していく. 3. 3 仮想シリアル通信 環境負荷モニタリングサーバは,KS1及びエネモ ニ(注2)を介して,電力,ガス,水道使用量の測定を行う. 具体的には,Cyclades-serial-client [17]を用いて仮想 シリアルポートを作成し,KS1配下にシリアル接続さ れているエネモニと通信を行う.途中,環境負荷モニ タリングサーバとKS1の間は,シリアル通信をカプセ リングするRFC2217 [18]準拠のTCP/IP通信を行っ ている.KS1は,RS-485といったシリアル通信データ をイーサネットフレームに変換する信号変換器で,環 境負荷モニタリングサーバは,Cyclades-serial-client によってTCP/IP接続されたKS1を介して,エネモ ニと通信可能となる. 環境負荷モニタリングサーバとエネモニとの通信は, PLC(プログラマブルロジックコントローラー)用の (注2):パナソニック電工(株)製BT3720(本体ユニット),BT3722 (増設ユニット).
通信プロトコルとして開発されたMEWTOCOL [19] で行われ,エネモニに接続された計測器,例えば,ク ランプ式CTの状態取得並びにデータ取得を行う. 全エネモニと,エネモニに接続された全計測器の状 態取得(エネモニ接続チェック)は,環境負荷モニタ リングサーバの起動時だけでなく,毎日1回(午前5 時)実行され,正常な状態を取得できた計測器に対し てのみ,その後1分周期でのデータ取得を開始する. 本システムでは,静岡及び浜松キャンパスの計48拠 点にKS1が設置されており,各KS1と環境負荷モニ タリングサーバの通信は互いに独立しているため,異 なるKS1配下のエネモニからのデータ取得は並列で 実施することができる. 3. 4 データの取得 環境負荷モニタリングサーバは,データ収集,デー タ集計,電力使用量チェック,エネモニ接続チェックを 行う.各処理は,Unix系OSにおいてジョブを自動実 行するためのデーモンプロセスであるcronによって, 定期的に自動実行される. エネモニ接続チェックは,管理者画面から手動実行 することもできるが,定期的にエネモニの状態取得を 行うことで,エネモニ自体だけでなくエネモニに接続 された計測器が正常動作しているかの確認も兼ねてい る.エネモニ接続チェックによって,正常動作の確認 できなかったエネモニや計測器は,BX-Coreに記録さ れ,その後,不要なデータ取得を発生させないように する.これは,正常動作していないエネモニや計測器 に対してリクエストを送信すると,レスポンスを得ら れないため,レスポンス取得処理がタイムアウトする までシリアル通信を長時間占有してしまうのを避ける ためである. 図3上部に示すように,1台のKS1には,RS-485 ケーブルで最大31台のエネモニ本体ユニットを接続 できる.各エネモニ本体ユニットには増設ユニットを 最大3台接続でき,各エネモニ本体ユニット及び増設 ユニットには各4台の計測器を接続できる.各エネモ ニ本体ユニットには1∼31までのIDを,各計測器に は1∼16までのIDを設定でき,それぞれエネモニア ドレス,クランプアドレスと呼ぶことにする.以上を 整理すると,1台のKS1配下に最大496個の計測器 を接続できる. 本システムでは,計測ポイントとして設定された全 ての計測器から1分周期でデータ収集を行えることを 要求仕様としている.1分周期でのデータ収集を実現可 図 3 データ取得時間
Fig. 3 Round-trip time for data acquisition.
能とするための分析を行った.1台の計測器からデータ を収集するには,図3下部に示すように20 [Byte]の データ収集要求メッセージと,17 [Byte]のデータ収集 応答メッセージが生じる.PRCC内に設置された環境 負荷モニタリングサーバから,静岡・浜松キャンパスに 設置されたKS1までの往復通信時間は,実測値で最大 約300 [ms]であった.また,KS1のシリアル通信では, データサイズ8 [bit]に対し,ストップビット1 [bit], パリティビット1 [bit],区切りビット1 [bit],通信速度 38,400 [bit/s],レスポンス受信タイムアウト500 [ms] を設定している.そのため,20 [Byte]のデータ収集要求 メッセージの通信に20 [Byte]× 11 [bit]/38,400 [bit/s] = 5.8 [ms],17 [Byte]のデータ収集応答メッセージの 通信に17 [Byte]× 11 [bit]/38,400 [bit/s] = 4.9 [ms]
を要する.データ収集要求に対しエネモニが正常に応 答を返さなかった場合,KS1のシリアル通信に設定さ れた500 [ms]で受信タイムアウトとなるため,エネモ ニでのレジスタ読出し処理時間は最大500 [ms]とな る.ここで,エネモニに接続された異なる計測器の値 は,エネモニの仕様上1回のデータ収集要求でまとめ て取得することはできない.また,連続してデータ収 集要求メッセージを計測器へ送信する際は,KS1での シリアル通信方向切換に約2 [ms]要する.以上より, 1分周期でデータ収集可能な1台のKS1配下の最大の 接続計測器数nは,(300 [ms] + 5.8 [ms] + 500 [ms] + 4.9 [ms] + 2 [ms])× n < 60 [s] より,n < 73.83 と求めることができる. よって,1台のKS1で1分周期でデータ収集可能な 計測器の最大接続数は73個となる.本システムでは,
ネットワークの負荷変動やシリアル通信異常処理にお ける再送処理の発生なども考慮し,約70%である50 個を最大接続数として構築する.実際,1台のKS1に 接続されている計測器は,平均19個,最大47個,最 小1個となった.各KS1で計測器の接続数にばらつ きがあるのは,配電盤,ガスメータ,水道メータなど の物理的な設置場所とKS1設置場所までのケーブル 長によるものである. 3. 5 データの保存 環境負荷モニタリングサーバは,1台のKS1につ き仮想シリアルポート一つを割り当てており,仮想シ リアルポートを介してKS1配下にシリアル接続され るエネモニから積算値データを取得している.KS1を 介したデータ取得は,複数の仮想シリアルポートを介 して並列処理でき,前述したように全てのエネモニ からのデータ取得を通常1分以内で終了する.ただ し,仮想シリアルポートの通信速度(38,400 bit/s)よ りも,KS1に接続されたイーサネットの通信速度(数 Mbit/s∼数十Mbit/s)が十分に高速であることを前 提とする. 環境負荷モニタリングサーバで1分周期で取得され た積算値データは,1分データとしてDBに保存され, この1分データから,10分,30分,1時間,1日,1 月の積算値データを生成してDBに保存している.保 存される積算値データは,計測器で測定される箇所 のデータであり,グラフ表示における個々の接続機器 データに対応し,上位階層の部局,建物,用途などに 対応する合算値データとしての保存はしない. なお,何らかの異常により,1台のKS1配下の全 計測器から1分以内にデータ取得を完了できない場 合は,環境負荷モニタリングサーバで多重にデータ取 得プロセスを起動させるのではなく,タイムアウトに よって異常状態から復旧させた後に再度データ取得プ ロセスを開始するようにする.データを取得完了でき なかった時刻のデータは,前回取得したデータと再開 したデータ取得プロセスによって取得したデータとで 1分間の使用量の平均値を求めて補完した値をDBへ 保存する.データ保存時のタイムスタンプは,環境負 荷モニタリングサーバがデータを受信した時刻を基準 とするが,秒数を0秒に調整し,それに合わせた補正 データを保存する. 本システムの要求仕様であるデータ管理機能として, データのバックアップ・レストア機能を標準装備する DBシステムであるPostgreSQLを採用することとし た.ここで,バックアップ対象のデータとして,電力, ガス,水道の各積算値データ(1分,30分,1時間,1 日,1月),手入力データ(1月),ポイント表データ がある.環境負荷モニタリングサーバは,本システム を約5年間運用した場合に想定される数百GByte程 度のデータを保存できるディスクサイズをもつことと し,tar+gzで圧縮して数十GByte/年程度に抑えてか ら学内LANを介してFTPサーバへバックアップで きるようにする.もちろん,バックアップ中でもデー タ取得と保存は可能である.また,管理者画面を介し て,バックアップファイルからデータをレストアする ことも可能とする. 次に,DBの構造について検討する.DBは,(1)1 分データテーブル,(2)10分データテーブル,(3)30 分データテーブル,(4)1時間データテーブル,(5)1 日データテーブル,(6)1月データテーブル,(7)使用 量しきい値テーブル,(8)通知アドレステーブル,の8 種類のテーブルで構成することとする.このうち(7) 及び(8)は,電力使用量チェックによって使用され, 各キャンパスの総電力使用量のしきい値と,しきい値 を超えた場合の通知先となる電子メールアドレスを格 納する.(1)∼(6)はデータ収集(1分データ収集) 及びデータ集計によって更新され,一般利用者画面, 管理者画面,Web APIから参照される. データ集計では,10分データ集計,30分データ集 計,1時間データ集計,1日データ集計,1月データ 集計を行う.1分ごとに1分データ収集を実行するこ とによって,BX-Coreから受け取った計測ポイントご との電力,ガス,水道の各積算値データを,図2内の 矢印で示すように1分データテーブルへ格納する.ま た,10分データ集計を10分ごとに実行し,計測ポイ ントごとに1分データテーブルから10分ごとのデー タを取得し,10分間の電気,ガス,水道使用量を集 計して10分データテーブルに格納する.他のデータ 集計も同様である.ただし,1時間データ集計は10 分ごとに実行し,30分データテーブルではなく10分 データテーブルからデータを取得する.これは,一般 利用者画面に表示されるグラフの更新を10分ごとに 行って,利用者が電力,ガス,水道使用量の増加を把 握しやすくするためである.DBに格納される(1)∼ (6)の各テーブルのレコード数は,それぞれ1分,10 分,30分,1時間,1日,1月ごとに全計測ポイント 数と同数ずつ増加する.このためDB全体で,毎日 (60×24+6×24+2×24+24+1)×939 = 1, 555, 923
レコード以上増加し,1年で(1, 555, 923×365+939× 12) = 567, 923, 163レコード以上増加することになる. 3. 6 デマンド通知 本システムの特徴的な機能であるデマンド通知につ いて説明する.電力使用量があらかじめ設定されたし きい値を超えた場合などに,その状況を通知するア ラートメールは,学内メールサーバを介して配信され るよう設定し,メール本文には,所定のURL,時刻, 直前1分間の平均電力(kW)などの情報を含めること にする.また,管理者画面で,全アラートメールの送 信ログを確認できるようにする. アラートメールには,予測アラートメールと実測ア ラートメール,アラート復帰メールの3種類がある. 各アラートメール送信の流れについて図4に示す.本 システムでは,毎時0分と30分の電力使用量を起点 として,起点から5∼29分後まで1分ごとに,直近1 分間の電力使用量増加分を基準として,起点から30分 間の電力使用量を予測することにする.もし次の起点 までにこの予測値が設定されたしきい値を超過する場 合は,予測アラートメールを送信する.ただし,既に 予測アラートメールを送信済みの場合は,予測アラー トメールが頻繁に送信されるのを防ぐため送信しない (図4 (a)). ここで,起点から1∼4分後までの期間に関しては 予測アラートメールの処理を実行しない理由を述べる. 図 4 アラートメール送信の流れ Fig. 4 Flow charts of sending alert mails.
通常しきい値が適切な値であれば,起点から1∼4分 後までの間に起点からの消費電力量がしきい値を超え ることはない.しかし,直近1分間の電力使用量が瞬 間的に増加する場合があり得るため,予測値が容易に しきい値を超えることで予測アラートメールが送信さ れてしまい,以後起点から30分後までの間に予測ア ラートメールが送信されないという事態が発生する. そのため,起点から1∼4分後までの期間に関しては 予測アラートメールを送信しないようにしている. また,起点から現在までの電力使用量の実測値が, 既に設定されたしきい値を超過していた場合,予測ア ラートメール送信の有無にかかわらず実測アラート メールを送信する.ただし,既に実測アラートメール を送信済みの場合は,実測アラートメールが頻繁に送 信されるのを防ぐため送信しない(図4 (b)). 最後に,アラート復帰メールは,予測アラートメー ルを送信後に,直近1分間の電力使用量増加分を基準 として,起点から30分間の電力使用量の予測値が,設 定されたしきい値の95%未満である場合に送信する. つまり,アラート状態から回復したことを表す通知で ある.ただし,既にアラート復帰メールを送信済みの 場合は,アラート復帰メールが頻繁に送信されるのを 防ぐため送信しない(図4 (c)).ここで,しきい値の 95%としているのは,アラート復帰メールを受信した ユーザが,安心して一斉に電力使用を再開することで,
図 5 一般利用者画面 Fig. 5 General user menu.
図 6 管理者画面 Fig. 6 Administrator menu.
すぐにアラート状態に戻ってしまうことを防ぐためで ある. 3. 7 見える化と外部連携 Webサーバ(Apache httpdとPHP)は,一般利 用者または管理者のリクエストに応じて,一般利用者 画面(図5),管理者画面(図6),Web APIを呼び出 し,その出力をレスポンスとして返す.一般利用者画 面,管理者画面及びWeb APIは,DB及び設定(ポイ ント表)にアクセスして画面出力に必要な情報を取得 し,一般利用者画面におけるグラフ画面や,管理者画 面におけるシステム設定,エネモニ接続チェック(手 動)などの設定画面を出力する.一般利用者画面では, 静岡・浜松キャンパスにおける電力,ガス,浜松キャ ンパスの水道使用量を確認できる. ポイント表にて階層的に設定されたグループ設定に よって,キャンパスごとに部局・建物等,用途,負荷名 称,といった階層で詳細グラフ表示させられるように する.実際に開発した静岡キャンパスにおける電力使 用量のグラフ表示例を図7に示す.各棟における計測 器の設置粒度にも依存するが,現時点で各棟各階(東 図 7 電力使用量の表示例 Fig. 7 Power consumption chart.
図 8 グラフ表示形式例 Fig. 8 Example of several charts.
西南北で区切っている棟もある)での三相実験動力と いった粒度の電力使用量を,選択した表示期間・表示 形式に従って表示させられる.表示期間は,電力,ガ ス,水道の各グラフにおいて,時間,日,週,月単位 で選択できる.図8に示すようにグラフ表示形式とし て,(a)棒グラフ,(b)折れ線グラフ,(c)積算グラフ, (d)円グラフ,を選択できる.比較表示として日付を 指定し,棒グラフ,折れ線グラフ,積算グラフ形式で 日付比較グラフを表示できるだけでなく,項目を指定 し,棒グラフ,折れ線グラフで項目比較グラフを表示 できる.また,図9に示すように,電力の各負荷名称
表 1 Web APIの詳細 Table 1 Detail of web API.
フォーム名 説明 入力例
point id, group id 取得ポイント ID or グループ ID(同時指定はエラー) group id=EA starttime データ取得開始日時(yyyy/mm/dd hh:mm 形式) starttime=2010/02/26%2012:00
endtime データ取得終了日時(yyyy/mm/dd hh:mm 形式) endtime=2010/02/26%2013:00 interval 取得するデータの間隔 (1 m, 10 m, 20 m, 1 h, 1 d, 1 M) interval=1 m
図 9 瞬時値表示例
Fig. 9 Display of instantaneous values.
に対して別ウィンドウで瞬時値を確認できる.
次に,本システムのDBに保存された計測データ
を利用した外部アプリケーションを構築するための外 部連携機能であるWeb APIについて説明する.Web APIは,外部アプリケーションが本システムのDBに 蓄積された計測データを取得するためのインタフェー スを提供する.外部アプリケーションは,このインタ フェースを介して,指定した期間の1分,10分,30 分,1時間,1日,1月ごとの電力・ガス・水道使用量 を取得できる.ただし,サーバ負荷を低減するため, 1分ごとのデータ取得の場合は,データ取得期間(取 得開始日時から取得終了日時までの期間)を24時間 以内の指定に制限し,10分ごとでは10日以内,30分 ごとでは30日以内,30分ごとでは30日以内,1時 間ごとでは60日以内,1日ごと及び1月ごとでは制 限なしとしている.Web APIのURLは,http://(環
境負荷モニタリングサーバのIP アドレスもしくはホ スト名)/webapi/getDataで,HTTPメソッドとして GETまたはPOSTによって以下の5種類をフォーム 値として与える.フォーム値の詳細を表1に示す. 出力は,「(日時),(電力,ガス,水道使用量のいずれ か)」のCSV形式で,HTTPレスポンスのHTTPボ ディに出力される.出力は,日時の昇順にソートされ たもので,電力使用量は0.01 kWを1とする小数点 以下第2位までの実数とし,ガス,水道使用量は1立 方メートルを10とする小数点以下第2位までの実数 としている. ここで,ポイントIDは計測している各ポイントに 対して個別に割り当てられている一意なIDであり, グループIDは複数のポイントIDをまとめた一意な IDで,電力,ガス,水道という種別や,用途,キャン パス,建物,フロア単位であらかじめ定義している. 後から任意のグループ定義を追加することも可能であ る.グループIDを指定した場合は,そのグループID に含まれる全てのポイントの電力,ガス,水道使用量 の合算値が出力される.このWeb APIを用いること で,外部アプリケーションはDBを直接操作すること なく,本システムに保存されたデータを自由に取得で きる.
4.
見える化の効果
以上の機能をもつ静岡大学環境負荷モニタリングシ ステムを開発し運用を開始している.本環境負荷モニ タリングシステムの開発目的であるエネルギー使用量 の見える化の効果について,施設管理の面から考察を 行った. 学内に設置された高圧変圧器(高圧トランス)は, 6,600ボルトの電圧を100ボルトや200ボルトに変換 して,照明,空調機などの電気使用負荷設備に電力を 供給する装置である.照明や空調などの負荷設備の使 用の有無にかかわらず,変圧器自体は常時通電される ため,無負荷損・負荷損と呼ばれる損失が生じている. この変圧器の損失は製造年の古い変圧器ほど大きく, 最新のトップランナー変圧器や超高効率型変圧器へ交 換するだけで,格段に損失を小さくできる.実際,本 学でも30年を経過して,かなり老朽化した高圧変圧 器が学内7箇所の電気室に残っており,2012年度ま でに高効率なものへ更新することで省エネを図ろうと している[1].この際,高効率な変圧器への交換だけで なく,実際に学内二次側幹線で利用されている二次側消費電力に合わせ適切な容量の高圧変圧器を適切な数 だけ運用することができれば,より効果的な施設運用 を実現できると考える. 環境負荷モニタリングシステムのWeb APIを活用 することで,高圧変圧器ごとの二次側幹線での消費電 力を見える化できる.一例として,2010年7月にお ける浜松キャンパス工学部3号館電気室に設置された 工学部3,4号館分の変圧器4台について分析した. 表2に現在運用中の変圧器の損失をまとめる.また, 図10に各変圧器の下にある全計測ポイントについて, 環境負荷モニタリングシステムで計測された1時間 ごとの電力使用量を集計した時積算消費電力量の推移 を示す.三相,単相ともに各変圧器の容量に比べ実際 の二次側消費電力はかなり小さく,三相変圧器RA-T
100 kVAとRA-T 150 kVAのピーク時二次側消費電 力を単純に積算しても70 kW以下である.一方,単 相変圧器SF-T 150 kVAとSF-T 300 kVAのピーク 時二次側消費電力を単純に積算しても150 kW以下で あることが分かる.仮に力率80%と考えても,三相 変圧器RA-T 150 kVAで120 kW,単相変圧器SF-T 300 kVAで240 kWの二次側消費電力を許容可能であ る.つまり,三相,単相ともに容量の大きい変圧器一 つで現在の二次側消費電力を許容でき,変圧器容量の 縮小もしくは変圧器数の削減ができることをうかがわ 表 2 工学部 3 号館のトランスと損失 Table 2 Transformer losses in building no.3 at
faculty of engineering. 変圧器 容量 無負荷損 負荷損 型名 P [kVA] Pi[W] Pc[W] 三 RA-T 100 376 1711 相 RA-T 150 390 2291 単 SF-T 150 354 1903 相 SF-T 300 456 3763 図 10 二次側消費電力の推移(7 月) Fig. 10 Secondary-side power consumption in July.
せる(注3). この変圧器数の削減を実際に実施した場合,どれほ どの消費電力削減につながるかを分析してみた.一般 に変圧器の効率η及び全損失PLは,二次側消費電力 Wt,鉄損Pi,銅損Pc,定格電力Pとして次式で表 される[20]. η = Wt/(Wt+PL) (1) PL=Pi+Pc× (Wt/P )2 (2) 図11に,現状の三相変圧器を2台利用した場合,容 量の大きい三相変圧器RA-T 150 kVAのみを利用し た場合,現状の単相変圧器を2台利用した場合,容量 の大きい単相変圧器SF-T 300 kVAのみを利用した場 合について,変圧器での全電力損量の推移を示す.こ の結果から,変圧器の効率を月積算で算出すると,現 状の三相変圧器を2台利用した場合は624 kW/月で効 率97.37%,容量の大きい三相変圧器RA-T 150 kVA のみを利用した場合は375 kW/月で効率98.40%,現 状の単相変圧器を2台利用した場合は753 kW/月で効 率98.69%,容量の大きい単相変圧器SF-T 300 kVA のみを利用した場合は560 kW/月で効率99.03%とな る.したがって,現在稼動中の4台の変圧器を,三相
変圧器RA-T 150 kVAと単相変圧器SF-T 300 kVA
の2台に集約したとすると,442 kW/月の損失削減を 実現できる.この月の工学部3,4号館の消費電力量 は,浜松キャンパス全体の消費電力量の約1/10であ り,一方,浜松キャンパス全体のこの月の消費電力は, おおよそ浜松キャンパス全体の年間消費電力の約1/10 図 11 変圧器数削減と損失量の推移(7 月) Fig. 11 Transformer losses in July.
(注3):実際は,より時間分解能を細かくしたピーク時二次側消費電力 で分析しなければならないが,分析手法の一例として示す.
であることから,浜松キャンパス全体の年間消費電力 を約44千kW/年削減できる可能性があるという試算 が得られる. 更に,以上のような検討によって削減された変圧器 を移設し,老朽化の進む変圧器を適切な容量の変圧器 と交換することで効果的な施設管理を実現できる.ま た,トップランナー以上の性能をもつ変圧器への交換 によってエネルギー消費効率の更なる向上を実現でき ると考える.
5.
む す び
本論文では,静岡大学環境負荷モニタリングシステ ム開発にあたっての要求仕様と詳細設計についてまと め,本システム導入によって期待される見える化の効 果について考察した.継続して本システムの長期運用 を進めることで,設備効率やエネルギー使用量の長期 傾向を把握することが可能となり,既存設備の能力を 最大限に活かす適切な設備の組合せや運用方法の見直 しに活用できると考える. 今後とも開発事例や研究成果を地域社会に還元し, 社会をリードする先導的役割を担って教育・研究を進 めていく.例えば,センサネットワークを活用した計 測データの拡充や計測ポイント数の増強を進めるこ とで,見える化による省エネ効果をより詳細に定量的 に分析していく.また,膨大なデータを効率良く管理 する分散管理手法の適用や,得られたデータから状況 を推測し,自然と人工を効果的に利用した共生住環境 制御へつなげる仕組みなど,スマートキャンパスやス マートシティの実現に向けて教育と研究を連携させた モデルキャンパスを目指していく.本事例が,類似シ ステム開発の参考になれば幸甚である. 謝辞 本論文を執筆するにあたり,(株)ユビテック 西塔隆二様,白木道人様,西日本電信電話(株)静岡 支店北川誠人様,山崎國弘様,パナソニック電工エン ジニアリング(株)野澤俊一様に感謝の意を表します. また,本システムの本格運用をサポート下さった静岡 大学伊東幸宏学長をはじめ,今枝晶彦様,鈴木律文様, 学内推進者の皆様に感謝致します. 文 献 [1] 静岡大学,“静岡大学環境報告書 2010,” http://www.shizuoka.ac.jp/facilities/Emanagement/ Em2010.pdf(2010/11/03 確認) [2] 住環境計画研究所,“平成 17 年度一般家庭における HEMS 導入実証試験による省エネルギー効果の評価解析成果報告 書,” 2006. [3] 井上春樹,長谷川孝博,八巻直一,水野信也,山崎國弘, 吉田仙良,戸部剛男,クラウドコンピューティング全面適 用のインパクト,静岡学術出版,2010. [4] 東京大学,“東大グリーン ICT プロジェクト,” http://www.gutp.jp/(2010/11/03 確認) [5] 北海道工業大学,“見える化モニタリングシステム,” http://www.hit.ac.jp/info/activity/ environmental.html(2010/11/03 確認) [6] 日本アイ・ビー・エム(株)プレスリリース(2010 年 4 月 26日),“九州大学,建物の CO2 排出量を見える化,” http:// www-06.ibm.com/jp/press/2010/04/ 2602.html(2011/01/10 確認) [7] パナソニック電工(株)『建築・設備設計』REPORT84 2010, “東京農工大学,” pp.13–16, http://denko.panasonic.biz/report/archi/84/ index.html(2011/01/10 確認)[8] University of Bristol, “Environmental Management System,” http://www.bris.ac.uk/environment/ems/ (2010/11/03 確認)
[9] Durham University, “Monitoring and Targeting,” http://www.dur.ac.uk/greenspace/energy/ monitoringandtargeting/(2010/11/03 確認) [10] University of Adelaide, “Environmental
Manage-ment,” http://www.adelaide.edu.au/ps/services/ environmental.html(2010/11/03 確認)
[11] University of Minnesota, “Building recommission-ing,” http://www1.umn.edu/italladdsup/
recommissioning.php(2010/11/03 確認)
[12] 文部科学省,“大学等における省エネルギー対策の手引き及 び事例集,” http://www.mext.go.jp/a menu/shisetu/ green/1292005.htm(2010/11/03 確認)
[13] U.S. Department of Energy, “EnergySmart Schools,” http://www1.eere.energy.gov/buildings/ energysmartschools/o-and-m guide.html(2010/11/ 03確認) [14] パナソニック電工(株),“KS1 信号変換器,” http://panasonic-denko.co.jp/ac/j/fasys/eco/cmd/ ks1/index.jsp(2010/11/03 確認) [15] パナソニック電工(株),“多回路エネルギーモニタ,” http://denko.panasonic.biz/Ebox/takairomon/ (2010/11/03 確認) [16](株)ユビテック,“BX-Office,” http://www.ubiteq.co.jp/products/bxoffice.html (2010/11/03 確認) [17] Cyclades-serial-client, http://sourceforge.net/ projects/cyclades-serial/(2010/11/03 確認) [18] G. Clark, “Telnet Com Port Control Option,” IETF
RFC2217, 1997. [19] パナソニック電工(株),“MEWTOCOL 通信仕様説明書,” http://panasonic-denko.co.jp/ac/download/fasys/ plc/plc/manual/mewtocol spec f11-1.pdf (2010/11/03 確認) [20] 宮入庄太,“大学講義最新電気機器学,” pp.98–99,丸善, 1979. (平成 22 年 11 月 4 日受付,23 年 1 月 12 日再受付)
峰野 博史 (正員) 1999静岡大学大学院理工学研究科計算 機工学専攻博士前期課程了.同年日本電 信電話(株)入社.NTT サービスインテ グレーション基盤研究所を経て,2002 年 10月より静岡大学情報学部助手.2006 九 州大学大学院システム情報科学府博士(工 学).2011 年 4 月より,静岡大学情報学部准教授.モバイルコ ンピューティング,センサネットワーク応用に関する研究に従 事.情報処理学会,IEEE,ACM 各会員. 松尾 廣伸 1997豊橋技術科学大学大学院博士後期 課程総合エネルギー工学専攻了.博士(工 学).同年静岡大学工学部電気電子工学科助 手.現在,同大学助教.自然エネルギーの 利活用及び省エネルギー化に関する研究に 従事.電気学会,太陽エネルギー学会,建 築学会,応用物理学会プラズマエレクトロニクス分科会各会員. 黒木 秀和 (正員) 1998東京工業大学大学院修士課程了. 2009静岡大学創造科学技術大学院博士 課程了.博士(情報学).2003(株)イン ターネット総合研究所入社.2004(株)IRI ユビテック(現(株)ユビテック)入社,現 在に至る.情報処理学会,IEEE 各会員. 荻野 司 (正員) 1986長岡技術科学大学大学院修士課程 了.同年キヤノン(株)入社.2000(株)イ ンターネット総合研究所入社.2003 TAU 技研(株)(現(株)ユビテック)代表取締 役社長,現在に至る.現在,静岡大学創造 科学技術大学院アドバイザー. 長谷川孝博 1997九州工業大学大学院博士後期課程 情報科学専攻了.博士(情報工).同年静岡 大学工学部システム工学科助手.現在,同 大学情報基盤センター副センター長,准教 授.大学情報基盤の導入構築及び大学にお ける ISMS (ISO27001) の運用を推進中. 情報基盤,数値計算,WEB データベース,情報セキュリティ に関する研究に従事.