35 369 1 古河機械金属株式会社研究開発本部ナイトライド事業室(〒 3238601 栃木県小山市若木町 12315) 2 金沢工業大学光電相互変換デバイスシステム研究開発センター (〒9218501 石川県石川郡野々市町扇が丘 71) 35 369 ―( )― Vol. 54, No. 6, 2011
解
説
ハイドライド気相成長法による高品質 GaN 結晶の育成
碓井
彰
1・砂川
晴夫
1・鷲見
紀彦
1山本
一富
1・耿
慧遠
1・山口
敦史
2Growth of High Quality GaN by Hydride Vapor Phase Epitaxy
Akira USUI1, Haruo SUNAKAWA1, Norihiko SUMI1, Kazutomi YAMAMOTO1,
Huiyuan GENG1and Atsushi A.YAMAGUCHI2
1Nitride Semiconductors Department, R&D Division, Furukawa Co.Ltd., 12315 Wakagi-cho, Oyama, Tochigi 3238601, Japan 2Optoelectronic Device System R&D Center, Kanazawa Institute of Technology, 71 Ohgigaoka, Nonoichi, Ishikawa 9218501, Japan
(Received October 25, 2010, Accepted December 23, 2010)
Hydride vapor phase epitaxy (HVPE) is currently used as a practical method for preparing GaN substrates. However, the reduction of dislocation density and the minimization of wafer curvature are dispensable from device application point of view. To reduce the dis-location density, the authors proposed facet -initiated epitaxial lateral overgrowth (FIELO) method. This method makes it possible to bend and reduce threading dislocations in GaN by forming GaN facet structures near the initial growth stage on foreign substrate, such as sapphire. In addition to the use of stripe-type mask pattern in the FIELO method, a novel FIELO method starting from random-is-lands having facet sidewalls of GaN formed at relatively low temperature is studied. It is shown that this method is superior to the con-ventional FIELO for reducing both of dislocations at the hetero-interface and the curvature of freestanding GaN crystal.
. は じ め に 白色発光ダイオード(LED)をはじめ,Blu-ray ディスク 用ピックアップ光源などに窒化ガリウム(GaN)結晶を用 いたデバイスが日常的に使用されるようになってきており, GaN の特徴を生かした高効率のパワートランジタなど電子 デバイスにも期待が集まっている.これらのデバイスの実現 の要が高品質なエピタキシャル層であり,その実現のために は格子整合した高品質 GaN 基板結晶が不可欠である.GaN は融点付近における窒素の解離圧が極めて大きく,Si 結晶 のように引き上げ法によるバルク結晶の作製が困難なため, GaN 基板の作製にはハイドライド気相成長(HVPE)法が 実用的に用いられている.GaN 成長に対する HVPE 法の歴 史は古く,GaN 結晶で半導体として評価できるレベルの GaN 結晶を最初に作製できた手法は HVPE 法である1).そ の後,GaN 結晶成長の主流は,薄膜構造作製のためにより 精 密 な 膜 厚 制 御 等 が 可 能 な 有 機 金 属 熱 分 解 気 相 成 長 (MOVPE)法に移ったが,数100mm/h と極めて大きな成長 速度が得られることから,基板としての GaN 結晶育成手法 として用いられている. ところで,HVPE 法では,通常サファイア基板や GaAs 基板などのヘテロ下地結晶上に GaN を積層するので,成長 界面で格子定数の不整合が生じ,多量の転位や積層欠陥が入 る.デバイス作製用基板として用いるためには,これらの欠 陥の削減がまず必須となる.筆者らは,これらの転位削減の ために,FIELO(Facet-Initiated Epitaxial Lateral
Over-growth)法を提唱した2).これは,GaN 結晶表面に SiO
2マ スクを施し,開口部のみから成長をスタートさせて,側壁に 低次元指数からなる結晶安定化面(ファセット面)を出現さ せ,成長表面に向かって貫通する転位を横方向に曲げる,と いうものである.また,マスクを施すことで,その下の部分 に存在する転位は結晶上部には伝達しないという効果もあ る.これにより,貫通転位を大幅に削減することが可能とな った.この手法に加えて,最近筆者らはマスクを施すことな く,特殊なバッファ層を用いることで,ファセット面を有す る島状結晶を成長させて転位を削減する手法も開発した3). ここでは,以上のような HVPE 法による高品質 GaN 結晶 の育成の試みに関して紹介する. . HVPE法 HVPE法は気相成長の一種であり,H2や N2などのキャ リアガスとともに,原料ガスを輸送して,下地結晶上に目的 とする結晶を成長させる.IIIV 族化合物半導体の HVPE 成長では,原料ガスとしては,III 族元素の塩化物,V 族元 素の水素化物(ハイドライド)が用いられ,GaN 成長の場 合には,塩化ガリウム(GaCl)とアンモニア(NH3)が原 料となる.HVPE 法は別名ハロゲン輸送法とも呼ばれる. 反応装置としては,高温で塩化物を扱うことから,ガスと 直接触れる部分は石英や,カーボンが用いられる.反応装置 は,ソース領域と成長領域に別れ,ソース部には Ga を入れ た容器が設置され,この Ga 上に HCl を供給することで(1) 式のように GaCl を発生させている. Ga+HCl⇔GaCl+1/2H2 (1) GaCl への変換効率は高く,750°C以上であればほぼ95以 上が得られる.成長領域で(2)式のように GaCl と NH3の反 応により GaN が析出する. GaCl+NH3⇔GaN+HCl+H2 (2) GaN成長温度は通常1000-1100°Cに設定される.GaN 成 長のための下地結晶として本報告ではサファイア(0001)面 を用いた.
Fig. 1 Dependece of HVPE-GaN growth rate on GaCl partial pressure.
Fig. 2 SEM images of facet structures formed on the stripe mask pattern by HVPE. (a) bird's-eye view of facet struc-tures (stripe direction:〈1120〉for GaN), (b) cross-section-al view of facet structure consisting of {1101} sidewcross-section-alls.
GaN 結晶の析出の駆動力は,GaCl 分圧と NH3分圧に依
存する.Fig. 1 は,GaCl 分圧に対する GaN 成長速度の変
化を示しているが,この実験は成長温度1060°Cで,気相中 の V/III 比(NH3分圧と GaCl 上に供給する HCl 分圧の比. (1)式の GaCl への変換効率を100と仮定)を10として行っ た結果である.GaCl 分圧の上昇に伴い,成長速度はほぼ直 線的に上昇し,最大1.1 mm/h という成長速度が得られた. このような大きな成長速度は,基板結晶を作製する上で大き な利点となる. . 転位密度低減 . バッファ層技術 サファイア基板を用いた GaN 成長の結晶性が飛躍的に向 上したのは,低温バッファ層技術のおかげである4).それま では,サファイア基板上に均一な成長が困難であり,また欠 陥も多く,バックグラウンドキャリア濃度も非常に高いもの であった.この技術の詳細は他の文献を参照して頂くとし て5),要約すると,サファイア基板上に,MOVPE 法を用い て低温でアモルファス状の AlN あるいは GaN を堆積させ, 成長温度まで昇温させる段階で,微細な結晶粒が密度高く形 成され,高温成長段階では,それが核となり横方向につなが って平坦な膜が形成される,というものである.この技術に より,成長界面で発生した高密度の転位が,膜厚数100 nm という比較的成長初期の段階で,急激に減少していくことが, Kuwano らにより報告されている6).しかしながら,数mm 程度 GaN を成長した後の表面での転位密度は依然として 108109cm-2と 高 く , デ バ イ ス 応 用 , 特 に , レ ー ザ ダ イ オード(LD)や電子デバイスの実用化のためには,さらな る転位の低減が必要であった. . 横方向成長 著者らは転位低減手法として,横方向成長(ELO: epitax-ial lateral overgrowth)に注目した.この技術は IIIV 族化
合物半導体では Ujiie らによって報告されたが7),Si 基板上 の GaAs 液相成長において,結晶面を結晶が成長しにくい SiO2マスクで覆い,マスクに設けた開口部からマスク上に 横方向成長させたところ,その横方向成長部分で転位密度の 非常に少ない結晶が成長できるというものである.GaN で 同様なことが実現するためには,マスク上に結晶が析出せ ず,開口部からのみ成長が進むという,選択成長が実現され なければならない.HVPE 法による GaN の選択成長に関し ては ,当時報 告例がな かった が,HVPE 法で 試したと こ ろ,比較的簡単に実現することができた.そこで,3.1の手 法で 作製 したサ ファ イア基 板上 に MOVPE 法で成 長し た GaN 層上に,SiO2によるストライプマスクパターンを施し, HVPE 法による横方向成長を試みた2).その結果,Fig. 2 に 示したように開口部に断面が三角形状したファセット構造が 出現した.ここではマスクストライプを,GaN の〈1120〉 方向に形成しており,現れたファセット面は主に{1101} 面から成っている.成長初期にはこのような特有な構造が出 現するが,成長時間とともに横方向成長が進み,隣り合うフ ァセット同士が会合し,10mm 程度の厚さに成長させると表 面は平坦化する.その後は c 面成長が継続した. . 横方向成長による転位の低減 このような成長による転位低減効果を調べるために,エッ チピット観察を行った.エッチピットは成長した表面を240 °Cの H2SO4と H3PO4混合溶液中で処理することで出現させ たが,エッチピットは転位部分のエッチング速度が周囲より 速いために生じる細かな凹凸である.Fig. 3 に GaN 成長膜 厚に対するエッチピット密度(EPD)の変化を示した.3.1 の手法で作製した MOVPE による1.5mm 厚の GaN 層には 109cm-2台の大量の転位が含まれていたが,横方向成長に より成長した10mm 程度の GaN 層においては107cm-2程度
37 371 Fig. 3 Dependence of etch pit density (EPD) on GaN
thick-ness. GaN layers were grown on MOVPE-grown 1.5 mm-thick GaN layer (EPD: 1.5×109cm-2)with stripe-mask pat-tern.
Fig. 4 Cross-sectional TEM image showing dislocation be-havior (dark lines) with the proceeding of facet growth along lateral direction8).
Fig. 5 Schematic diagram indicating the propagation of type A and type B dislocations on opening window and mask by stripe FIELO method9).
37 371 ―( )― Vol. 54, No. 6, 2011 までに EPD は下がった.ここで気をつけなければならない のは,60mm 程度の厚さまでエッチピットの分布は表面で均 一ではなく,ファセットの会合部上に集中していることであ る.従って,Fig. 3 に示した EPD 値は,60mm 程度までは 平均した値である.しかしながらそれ以上の膜厚ではエッチ ピットの分布はほぼ均一化し,例えば100mm 程度の成長に より 2×107cm-2いう低い値が得られた. Fig. 3 の結果は,横方向成長と,後述する膜厚の厚さによ る両方の効果を含んだ結果になっている.しかしながら,次 に述べるように断面 TEM 観察でマスク領域の転位の挙動が 明らかとなり,横方向成長により,確かに転位が大幅に削減 されていることがわかった. . 横方向成長による転位の挙動 Sakai らによって行われた断面 TEM 観察の代表的結果を
Fig. 4 に示す8).MOVPE で成長した GaN 層中では,c 面
に平行な〈1120〉方向のバーガスベクトル(b)を有する 刃状転位(以後タイプ A と呼ぶ)が転位全体の約70程度 を占める.残りが〈1123〉方向の b を有する混合転位(以 後タイプ B と呼ぶ)で,らせん転位はほとんど存在してい ない.そして,タイプ A の転位はマスク開口部上で横に曲 ることが観察されている.さらに詳しく調べると,Fig. 5 のように,マスクの端に沿った転位が観察され,転位線の上 側に extra-half 面を有して小傾角粒界を形成していることが わかった9).また,マスク中央部には,マスク端とは逆に, 転位線に対して下側に extra-half 面を有した小傾角粒界が認 められた.この type A の転位は,結晶の c 面に交差横滑り して,小傾角粒界を形成してマスク端部付近でストライプ方 向に沿って伝搬し(D2 欠陥),さらに,ファセット同士が 会合するところで,マスク端での伝搬とは逆方向に進む (D1 欠陥)という,やや複雑な挙動することが明らかにな った.結果的にこの転位は,結晶の側面に達して,成長初期 の段階で,大幅な転位低減に寄与することになる.一方,c 軸に対して斜めのバーガースベクトルを有するタイプ B の 転位は,選択成長で形成された三角構造の斜めのファセット 面({1101}面)で水平方向に向きを変え,基板面と水平 に進んだ後,ファセットの会合部で上昇し,再び c 軸に沿っ て上昇する現象が観察された.ファセット構造が出現するこ とで,このような転位の挙動が生じることから,著者らは, この手法を FIELO(facet-initiated epitaxial lateral over-growth)法と名づけた. . 膜厚効果 Fig. 3に EPD の成長膜厚依存性を示したが,さらに厚い GaN 結晶を成長させて調べた結果を Fig. 6 に示す.この図 には,前述したストライプマスクパターンを用いた FIELO (s-FIELO)法と,後述する r(random-islands)FIELO法の 両方の結果について示した.s-FIELO 法の結果に着目する と,当初107cm-2台であった転位密度は,膜厚の増加とと ともに減少してミリメートル単位の厚さになると106cm-2 台にまで減少して,この転位の減少効果はその後も継続して いる. ところで,転位の減少するのは,転位が曲がり,結晶の外 に到達するか,相反する b を有して,傾きを持って近づい た転位同士が反応してダイポールを形成して消滅するか,あ るいは,2 つの転位から一本の転位が生じて減少するか,の いずれかと考えることができる.これらの現象が生じるため
Fig. 6 Dependence of etch pit density (EPD) on GaN thick-ness for thick GaN samples grown by s-FIELO(◆) and r-FIELO(●) methods.
Fig. 7 SEM image of GaN random islands formed on a buŠer layer.
Fig. 8 Cross-sectional TEM image from the interface region between GaN and sapphire substrate. Bottom edge cor-responds to the interface.
には転位線の方向が c 軸に沿った方向から曲がることが必要 になってくる.GaN基板界面で発生した刃状転位が貫通転 位として,成長方向と平行に進む場合には,会合の機会が少 ないので,成長の変調や,異物質を堆積させることで転位線 の方向を c 面に対して傾けてやることが効果的である10). しかしながら,ここでの結晶成長においては,特に異物質を 堆積させていないので,転位が曲がる原因としては,結晶中 に内在する歪の影響や,意図しない成長変調が生じたこと, などが考えられる. . random-islands FIELO 法 次に,パターン化したマスクによるファセット構造を用い る s-FIELO 法に対して,ランダムに発生したファセット面 を有する島状結晶を起点として成長させる手法について紹介 する.この手法では,s-FIELO のようにパターニングなど のプロセスが必要ないので工程的に短くなり,GaN 基板の コスト低減にもつながる. この成長手法では,最初にサフィア基板上に GaN と比較 的格子定数が近いある種のバッファ層の成長を行っている. この層は GaN とサファイアの格子定数差を緩和すると同時 に,GaN にエピタキシーの情報を伝達する役割を有してい る.この層上に950°C程度の比較的低い温度で GaN 層を成 長させる(以後 LTBGaN と呼ぶ).SEM 観察から,最初 は薄い GaN 膜が堆積しており,その後島状成長モードに変 わる様子が観察された.いわゆる Stranski-Krastanove(SK) モード成長が生じている.このような結晶上に,昇温して通 常の1050°C付近で GaN 膜を成長させると,Fig. 7 のような 大きな島状結晶が発達する.このような島状結晶をよく観察 すると側壁にはファセット面が形成されていることがわか る.この上に成長を続けることで凹凸の大きな三次元的な成 長(以後 3D 成長と呼ぶ)を200300mm の厚さまで発達さ せることがこの手法の特徴である. Fig. 6 にこの手法による EPD を示した.膜厚が100mm 程度ではすでに 5×106cm-2 以下まで低くなっており,s-FILEO法と比較した場合,同じ膜厚で一桁程度転位密度を 小さくできることがわかった.この手法での成長初期の転位 の動きを断面 TEM で調べた結果を Fig. 8 に示す.成長界 面付近から10mm 程度までは c 軸に沿って転位や積層欠陥と 思われる高密度の欠陥が伸びているが,その後は急速に減少 していることがわかる.斜めや,横方向に曲がる転位も観察 され,これは島状成長の発達によってファセットが形成され たことに起因しているもの考えられる. この成長を random-islands FIELO(r-FIELO)法と名づ けた.
39 373 Fig. 9 Radius of curvature versus three-dimensional layer thickness for freestnading GaN crystals obtaind by r-FIELO method.
Fig. 10 Typical 4 K re‰ectance spectrum of a r-FIELO GaN sample. The spectrum shows sharp exiton structures (A, B and others). 39 373 ―( )― Vol. 54, No. 6, 2011 . 結 晶 の 歪 . 曲率半径 HVPE による自立基板には,ヘテロ下地結晶に成長させ ることに起因して転位の発生と同時に,結晶面の反りの問題 が生じる.通常,自立結晶は Ga 面を上にして凹状に反って おり,研磨加工しても,結晶の c 軸の傾きが残存する.例え ばデバイス用に InGaN 結晶をその GaN 基板上にエピタキシ ャル成長させる場合,反りによって In の取り込み方が異な るなどの問題を引き起こすことが報告されている11).結晶 の反りは,内部歪みを緩和させるために生じる現象であり, その歪みを減少できれば反りも低減できることになる. 自立化した s-FIELO 法による GaN 結晶の曲率半径は通常 23 m と大きな反りが観察される.この反りは,GaN とサ ファイアの熱膨張係数差から生じる反りとは方向が逆であ り,成長中に導入された歪みに起因するものである.すでに 述べたように s-FIELO 法はマスクパターンを介して HVPE 法で横方向成長を行ったものである.もし,このような操作 を施さず,MOVPEGaN 層上に直接 HVPE で20mm も成 長させると結晶中にはクラックが入る.単に低温バッファを 介して島状成長からスタートした MOVPE 層中には,大き な引っ張り歪みが内在しており12),臨界膜厚を超えるとク ラックが発生すると考えられている13).ところが,s-FIELO 法では,この膜厚を大きく超え,300mm 厚に成長させても クラックは入らない.すなわち,このような横方向成長を行 うことで,MOCVD 層に内在していた歪をかなり緩和する ことができたと考えられる.前述したように,s-FIELO で はマスク近傍で下地結晶中に存在していた刃状転位が大幅に 低減されているので,マスクでの選択成長,横方向成長が進 む中で,再度グレインが大きく発達して14),その合体によ る歪は下地結晶のそれと比較して小さくなったことが考えら れる.それでも,曲率半径は,34 m 程度であり,さらに低 減する必要があった.
この s-FIELO 法の結果に対して,Fig. 9 に r-FIELO 法を 用いた場合の曲率半径を示したが,前述した 3D 層の厚さと 曲率半径には一定の関係が認められ,3D 層厚が厚くなるに 従って反りは低減した.実際には,3D 層を変化させるため には LTB 層の島状成長の条件を変えている.すなわち, LTBGaN 層の島状成長の初期の段階の上に高温 GaN 成長 を行うと 3D 層が厚くなり,島状成長が発達して島同士が合 体した段階で高温 GaN 成長を行うと 3D 層厚が薄くなる傾 向を示すことがわかっている.r-FIELO の島状結晶の大き さは数mm 程度であり,MOVPE による低温バッファ層か ら発達した数10 nm 程度の高密度の微結晶とは比較すると極 めて大きく,密度も小さい.比較的大きな径を有する島状結 晶同士が合体することで,合体に伴う歪みが結晶全体として は小さくなることが期待される.Fig. 8 の断面 TEM 観察で は10mm 程度までは欠陥の多い層が成長するが,20 mm 程度 の膜厚のところで,すでに転位密度は107cm-2まで低下し ている.さらに100mm のところでは106cm-2台まで EPD が低下しており,その後膜厚増加に伴う変化は s-FIELO に 比較して小さいことから,結晶の歪みの変化も小さくなり, r-FIELO法が比較的大きな曲率半径を有する原因ではない かと考えている. . 歪分布測定 そこで,s-FIELO と r-FIELO 法で作製した自立結晶の膜 厚方向の歪みを測定してその違いを確かめた.試料はいずれ も サ フ ァ イ ア 基 板 か ら 完 全 に 分 離 し た GaN 結 晶 で , s-FILEO 法におけるストライプ構造や r-FIELO 法における 3D 成長層も除去しており,厚さ方向に均一な結晶である. また,意図的なドーピングは行っていない.実験には断面顕 微反射スペクトル測定を用いた3,15).Fig. 10 は,r-FIELO 法による典型的な GaN 結晶の低温での反射スペクトルであ るが,A 励起子や B 励起子の鋭い構造が観察されている. これらの励起子エネルギーは歪みに対して非常に敏感である ため,GaN 結晶断面上に30mm 径の小さなスポット状の光
Fig. 11 Depth proˆles of A and B exciton energies along the growth direction for s-FIELO(a) and r-FIELO(b) samples. The straight lines show energies in unstrained case.
Fig. 12 Depth proˆles of the intrinsic biaxial strain in the s-FIELO(▲) and r-FIELO(●) crystals.
Fig. 13 4 K photoluminescence spectrum of an undoped GaN sample grown by r-FIELO method. I2and A indicate donor-bound excition peak and A exciton peak, respectively.
Fig. 14 GaN wafers.
を照射し,その反射スペクトルの励起子エネルギーを正確に 測定することにより,GaN 断面の任意の位置での歪み成分 を調べることができる.Fig. 11は s-FIELO および r-FIELO 試料に対して,断面上で深さ方向に測定したデータである. A 励起子,B 励起子のエネルギー位置が深さによって少し変 化していることがわかる.これを用いて GaN 結晶の各位置 の歪みを導出した.ところで,実際の結晶の歪みは基板の反 りによって緩和している.そこで反りの起源となっている歪 みを考察するため,反りが生じる前の歪み(以後 IS(intrin-sic strain)と呼ぶ)を曲率半径と実測された歪みから見積 った.Fig. 12は,そのようにして計算された s-FIELO と r-FIELOの IS の深さ分布である.この結果を見ると,確かに s-FIELOよりも r-FIELO の方が IS の深さ方向の変化が小 さいことがわかる. . GaNウエファの作製 r-FIELO 法を用いて 作製している GaN ウエファでは , EPD から求めた表面の転位密度は 3×106cm-2以下と少な く,全面に均一に分布している.また,結晶は透明であり, Si ドープ(~1×1018cm-3)した試料(厚さ400mm, Ga 面,N 面とも CMP 研磨)の透過率測定を行ったところ, 385 nm と500 nm における吸収係数としてそれぞれ 9 cm-1, 7.7 cm-1と い う 値 が 得 られ た . こ の 算 出 に当 た っ て は 表 面,裏面における反射を考慮していないので,実際の GaN 結晶自体の吸収係数はさらに小さいものと考えられる.また, Fig. 13には低温(4K)ホトルミネッセンス(PL)測定結 果を示した.この試料はアンドープ試料であり,Ga 面で測 定したものである.スペクトルでは,I2と呼ばれるドナーに 束縛された鋭い励起子発光が現れているが,その半値幅は 0.8 meV と極めて狭く,また A 励起子発光も観察されてい る.Fig. 10に示した鋭いエキシトンによる反射スペクトル も含めて,GaN ウエファが優れた光学的特性を有している ことを示している.N 型ウエファに関しては,SiCl2H2を原 料ガスとした Si ドーピングで,キャリア濃度として 1×1018
41 375 41 375 ―( )― Vol. 54, No. 6, 2011 cm-3,比抵抗として0.010.03V cm を得ている. Fig. 14には,r-FIELO 法を用いて製造している当社の 2 インチ GaN ウエファの写真を示す. . ま と め GaN 基板作製においては,HVPE 法以外の成長方法も盛 んに開発されているが16),実用化になっている 2 インチ基 板を含めて,今後の 4 インチといった大口径化においても, HVPE 法は当分主たる製造方法として用いられるものと思 われる.しかしながら,高性能なデバイスの実現のために, さらなる転位密度の削減や内在歪みの低減などが必要となっ てくる.ここでは,これまで HVPE 法で我々が取り組んで きた横方向成長を主とした転位削減手法を紹介し,特に,フ ァセット構造による転位の曲がりが大きな役割を果たすこと を示した.また,成長初期段階で欠陥を低減することで,歪 みの少ない結晶を育成できることも明らかにした.今後は, これらの結果をもとに,新たな知見を得て更なる高品質の結 晶を育成させ欠陥の低減を目指したいと考えている. 〔文 献〕
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