博 士 ( 工 学 ) 蟹 江 俊 仁
学 位 論 文 題 名
水中浮遊式トンネルの解析手法と動揺特性に関する研究 学位論文内容の要旨
わ が 国 は 、4っ の 本 島 と 多 数 の 島 嶼 で 構 成 さ れ る 島 国 で あ る こ と か ら 、 従 来 よ り 海 峡 横 断 、 海 域 横 断に 対 す る 社 会 的 ニ ー ズ が 高 い 上 、 狭 い 国 土 と 広 い 海 域 を 今 後 さ ら に 有 効 に 利 用 す るた め 、 身 近 にあ り な が ら これ ま で 利 用 さ れ て こ な か っ た 海 域 の 利 用 が 必 須 と な ろ う 。 こ う し た 背 景 か ら 、 より 効 率 的 、 経済 的 に ネ ッ トワ ー ク を 構 築 す る 渡 海 技 術 の ひ と っ と し て 、 従 来 の 渡 海 技 術 に は な い 特 徴 を 有 する 水 中 浮 遊 式ト ン ネ ル の 有用 性 が 注 目 さ れ て い る 。 水 中 浮 遊 式 卜 ン ネ ル は 、 自 身 の 重 カ を 上 回 る 浮 カ を 有 する チ ュ ー ブ 形状 の 構 造 体 を、
テ ン シ ョ ン レ グ 等 の 係 留 索 に よ り 海 中に 安 定 化 さ せた 新 規 渡 海 構 造物 で あ り 、 橋梁 や 卜 ン ネ ルと 同 じ よ う に、
鉄 道 、 新 交通 シ ス テ ム 、道 路 、 歩 道 など 、 幅 広 い ニー ズ に 対 応 で きる 新 し い 構 造形 式 の 土 木 構造 物であ る。し か し 、水中 トンネ ルと同様、大水深域でその効果を発揮する同種構造物、フローテインック゛フ゛9ッシ゛(浮橋)は1980年 頃 か ら 実 用 化 さ れ 始 め た の に 対 し 、 水 中 浮 遊 式 ト ン ネ ル の 方 は 未 だ 実 現 に は いた っ て い な い。 そ の 理 由 とし て 、 水 中 に 完 全 に 没 水 し て い る こ と に よ り 、 波 浪 や 地 震 に 対 し て よ り 複 雑 な 挙動 を 示 す 可 能性 が あ り 、 必要 と さ れ る 高 度 な 解 析 的 あ る い は 実 験 的 な 手 法 と 設 備 の 環 境 が 整 っ て い な か っ たこ と 、 万 一 の事 故 や 災 害 を想 定 し た 利 用 者 の 心 理 的 な 課 題 へ の 対 応 策 が 欠 如 し て い た こ と 、 ま た 経 済 面 で の他 の 渡 海 構 造物 に 対 す る 優位 性 が十分 に証明 されて こなか った こと、 等が挙 げれら れる 。
水 中 浮 遊 式 ト ン ネ ル の 最 大 の 特 徴 は 、 適 切 な 浮 カ と 重 量 の バ ラ ン ス で 支 持 構 造 物 へ の 荷重 を 軽 減 す るこ と と 、 そ れ に よ り 生 じ る 動 揺 を 制 御 し つつ 許 容 で き る構 造 と す る こ とで あ る 。 こ のた め 、 動 揺 の挙 動 を 把 握 し、
支 持 構 造 物 に 作 用 す る 荷 重 を 予 測 し 、 変 位 や 発 生 外 力 ・ 反 カ を 制 御 す る 技 術 が不 可 欠 と な る。 特 に わ が 国沿 岸 域 で の 適 用 を 考 え た 場 合 、 今 後 期 待 さ れ る 渡 海 部 は 少 な く と も 数km以 上 と 広 く 、 ま た 厳 し い 波 浪 や 地 震 に 対 す る 安 全 性 も 評 価 し な け れ ぱ な ら な い 。 し か し な が ら 、 波 浪 な ら ぴ に 地 震と い う 支 配 荷重 に 対 す る 動揺 問 題 を 、 一 貫 し た 手 法 論 で 全 体 モ デ ル で の 解 析 に ま で 拡 張 し て 体 系 的 に 研 究 した 例 は こ れ まで の と こ ろ 見あ た らず、 本研究 の重要 な意義 がそ こにあ る。
本 研 究 は 、 水 中 浮 遊 式 ト ン ネ ル の 支 配 荷 重 で あ る 波 浪 や 地 震 に 対 す る 解 析 手 法 を 確 立 し、 そ の 動 揺 特性 を 明 ら か に す る こ と 、 そ し て 水 中 浮 遊 式 卜 ン ネ ル の 成 立 条 件 に っ い て 検 討 し 、 特徴 を 活 か す ため の 構 造 諸 元等 は どうあ るべき かに答 えを導 くこ とに目 的があ る。
ま ず 第2章 に お い て 、 構 造 の モ デ ル 化 の 中 で も 特 に 重 要 な 、 テ ン シ ョ ン レ グ に よ る 係 留 復 元 カ の 評 価を 行 っ た 。 水 中 浮 遊 式 ト ン ネ ル の 場 合 、 従 来 式 構 造 物 よ り も 大 き な 変 位 を 許 容 す るこ と を 前 提 とし て い る た め、
非 線 型 性 を 示 す 大 変 位 時 の 係 留 索 の 復 元 力 評 価 そ の も の が 課 題 と な る 。 こ こ では 、 そ の 疑 似線 形 化 を 図 り、
非 緑型性 を考慮 した厳 密解と の比 較を通 じて妥 当性を 検証 した。
渡 浪 に 対 す る 解 析 的 研 究 は 、 第3章 に お い て 断 面 二 次 元 モ デ ル を 、 ま た 第4章 に お い て 三 次 元 の 全 体 モ デ ル を 取 り 上 げ て 行 っ て い る 。 波 浪 動 揺 の 場 合 、 最 大 の 関 心 事 の ひ と っ は 流 体 カ の 評 価 手 法 で あ る 。 第3章で の 断 面 二 次 元 の モ デ ル に 対 し て は 、 流 体 の 非 圧 縮 、 非 回 転 の 条 件 下 で 慣 性 カ が卓 越 す る 場 合、 水 中 で の 剛体
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運動や流体カを極めて良く再現できるとされている回折波理論に基づぃて行った。このモデルを用いて、水 深、水中浮遊式トンネルの設置位置、係留索の形状などを様々に変化させてその影響を定量的に評価し、水 中トンネルが具備すべき条件等が調査・検討された。その結果、係留索の形状やトンネルの比重がもたらす 影響が動揺特性に与える影響のきわめて大なることが判明した。
第4章では、水中浮遊式トンネルの延長が長大であるがために特に重要となってくる全体系での動揺につ いて考え、長大水中浮遊式トンネルの動揺を経済的かつ効率的に解析できる全体解析モデルを提案した。こ れは、波浪による流体カを修正モリソン式により評価し、剛体ーバネ系モデルで表現した全体モデルに導入 したものであり、回折波理論による単一あるいはごく少数の剛体を対象にした従来の係留浮体の動揺問題の 解法に比べ、剛体の連続体で表現される長大構造物への拡張性ならぴに適用性に優れている。この解析手法 の適用に当たっては、3章で用いた断面二次元モデルを用いて回折波理論による解との差異を検証した。こ の比較検討により、修正モリソン式による解法の適用性を確認し、全体動揺解析問題に拡張して解析を行っ た。その際、構造側からは函体間の継手構造の剛性、作用荷重側からは波浪の入射角などをバラメータとし、
これらが全体挙動を支配する要素であることが解明された。
一方、支配荷重として重要なもうひとつの外力、地震に対しても、第5章において断面二次元モデルでの 解析を行った。地震の場合は、造波減衰や回折効果の影響があまりでない高周波小変位の問題のため、解析 手法論的には修正モリソン式に絞って解析研究を行ったが、鉛直方向震動時の流体の圧縮性評価にっいては、
方法論にっいての提案を加えた。解析は、波浪の場合と同様に、水深や設置水深、係留索の形状などを変化 させながら、地震時の基本動揺特性の解明を行い、水平方向挙動と鉛直方向挙動との間に大きな違いがある ことが明らかにした。
第6章では、地震時の全体動揺問題を扱った。地震時全体動揺の課題は、水中浮遊式トンネルが長大な場 合に生じる、伝播位相差の影響の評価である。本研究では、トンネル軸に沿った多数の地震入力点を通じて 位相差が評価できるよう、全地震入力点を独立な絶対変位で表現できるモデルに拡張した。解析に当たって は、まず正弦パルス波による伝播位相差の影響を調査し、さらに人工地震波を伝播速度を変化させながら導 入して全体動揺を解析した。これにより、伝播位相差の違いが応答変位や発生断面カに与える影響などが定 量的に評価された。
第7章では、これら一連の研究成果を受けて、水中浮遊式トンネルの構造にっいての具体的な検討を行っ ている。すなわち、設計手法論についての提案とそれに基づく試設計の実施である。設計手法論の提案にお いては、限界状態設計法を適用することとし、その限界状態の定義と設計理念を示した。また、波浪や地震 の厳しい環境条件を想定して試設計を行い、設計を通じてクリティカルとなる構造条件等が分析された。
本研究により、水中浮遊式トンネルの支配荷重である波浪や地震による動揺特性が明らかになったと同時 に、変位や加速度、発生断面カを制御する上で重要な因子にっいても解明された。さらに、試設計を通じて、
未だ実例のない水中浮遊式トンネルの構造が具体化され、実現化に向けての具体的な研究課題や開発指針が 得られたものである。
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学位論文審査の要旨 主 査
教 授
三 上
隆 副査 教授 角田興史雄 副 査
教 授
佐 伯
浩 副 査
教 授
佐 藤 浩一 副 査
教 授
石 山 祐二
学 位 論 文 題 名
水中浮遊式トンネルの解析手法と動揺特性に関する研究
水中浮遊式トンネルは,自重を上回る浮カを有するチュ―ブ状の構造体(函体)を,テン ションレグ等の係留索により海中に安定化させる新規渡海構造物であり,従来の渡海技術 にない特徴を有し,幅広いニーズに対応できる構造物として注目されているが,水中に完 全に没水しているため,波浪や地震に対してより複雑な挙動を示す可能性があること,こ の動揺特性を把握するのに必要となる解析的・実験的手法が確立されていなかったこと等 のために,未だ実現されていない。
本論文は,水中浮遊式トンネルの延長が長大であるがために特に重要となってくる全体 系での動揺問題を取上げ,まず従来の係留浮体の解法に比べ,長大構造物への拡張性・適 用性に優れている実用的解析法を開発し,ついで地震・波浪下の動揺特性を明らかにし,
さらに設計手法論を提案し,試設計を通じて未だ実例のない水中浮遊式トンネルの構造を 具 体 化 し た も の で あ る 。 そ の 主 要 な 成 果 を 要 約 す る と 以 下 と な る 。
(1 )全体構造に対する実用的解析法として,大きな変位を許容する構造物のモデル化にお いて重要となる非線形性を示す係留索の復元力評価では疑似線形化によって計算の効率化 に成功し,作用流体カを修正モリソン式,トンネルを剛体―ばね系モデルで表現し,周波 数 領 域 お よ び 時 間 領 域 の い ず れ の 場 合 も 解 析 で き る 解 法 を 提 案 し た 。
(2 )波浪時の動揺特性は,係留索形状,波浪の入射角と周期,構造物の固有周期,函体間 のジョイント剛性等に大きく依存し,特に波浪周期に近い周期成分を高次モ―ドに持つ係 留夕イプでは,ジョイント剛性の差異による応答の違いが顕著に出ることを明らかにした。
(3 )地震時の動揺の制御は,水中浮遊式トンネルの場合には,係留索形状の選択によって かなり可能になることを指摘し,また構造物の固有周期と地震波の卓越周期か近接する係 留夕イプは,地震波の伝播速度が曲げモーメント等の発生断面カに大きな影響を与えるこ とを明らかにした。
(4 )設計手法論の提案では限界状態設計法を適用し,その限界状態の定義と設計理念を示 し,さらに波浪や地震の厳しい環境条件下での試設計を行い,構造設計上の留意点を明確 にした。
これを要するに,著者は,水中浮遊式トンネルの支配荷重である地震や波浪に対する簡 便な解析手法を開発し,その動揺特性と成立条件を明らかにしたもので,構造力学および 構造設計学の発展に寄与するところ大である。
よっ て著者 は,北海 道大学博 士(工 学)の学 位を授与される資格あるものと認める。
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