博士課程用(甲)
- 1 -
( 様 式 4)
学 位 論 文 の 内 容 の 要 旨
細 貝 真 弓 印
( 学 位 論 文 の タ イ ト ル )
Genotypic Analysis of Human Cytomegalovirus Resistance to Ganciclovir Using Aqueous Humor of Immunocompetent Patients with Cytomegalovirus Anterior Uveitis
( 免 疫 正 常 者 に 発 症 す る サ イ ト メ ガ ロ ウ イ ル ス 前 部 ぶ ど う 膜 炎 の 前 房 水 を 用 い た ガ ン シ ク ロ ビ ル 耐 性 遺 伝 子 変 異 の 検 索 )
( 学 位 論 文 の 要 旨 )
サ イ ト メ ガ ロ ウ イ ル ス ( CMV) は 、 多 く の 成 人 に 不 顕 性 に 潜 伏 感 染 し 、 免 疫 不 全 状 態 な ど で 再 活 性 化 し て 日 和 見 感 染 症 を き た す 。 ガ ン シ ク ロ ビ ル ( GCV) や プ ロ ド ラ ッ グ で あ る バ ル ガ ン シ ク ロ ビ ル を 中 心 と し た 抗 CMV 療 法 は 、 CMV感 染 症 の 予 後 を 改 善 さ せ た 一 方 で 、 数 ~ 38% に GCV耐 性 CMV の 検 出 が 報 告 さ れ て い る 。 GCVは CMVの UL97( リ ン 酸 化 酵 素 ) で リ ン 酸 化 さ れ 、 UL54( DNA合 成 酵 素 ) を 阻 害 し て CMVの 増 殖 を 抑 制 す る た め 、 こ れ ら の 遺 伝 子 異 常 は GCV耐 性 に 関 与 す る 。 従 来 は 、 患 者 検 体 か ら CMVを 分 離 し て GCV感 受 性 を 測 定 し て い た が 、 近 年 は 、 UL97と UL54領 域 の DNAシ ー ケ ン ス 法 で GCV耐 性 に 関 与 す る 遺 伝 子 変 異 が 解 析 さ れ て い る 。 免 疫 不 全 者 の 血 液 や 尿 を 用 い た デ ー タ が 多 く を 占 め る が 、 CMV網 膜 炎 で 硝 子 体 液 や 前 房 水 な ど の 眼 内 液 か ら GCV耐 性 CMVが 検 出 さ れ た と い う 報 告 も わ ず か に あ る 。
近 年 、 眼 科 領 域 で は 、 「 免 疫 正 常 者 」 の 前 部 ぶ ど う 膜 炎 に CMVが 関 わ る こ と が 明 ら か と な り 注 目 さ れ て い る 。 虹 彩 毛 様 体 炎 、 眼 圧 上 昇 、 角 膜 内 皮 細 胞 密 度 の 減 少 を 含 む 臨 床 症 状 に 加 え 、 PCRで 前 房 水 か ら CMVを 検 出 す る こ と で 診 断 す る 。 病 態 は 不 明 で 、 標 準 的 治 療 法 は 確 立 さ れ て い な い が 、 前 房 水 中 CMVコ ピ ー 数 と 臨 床 所 見 の 重 症 度 が 相 関 す る こ と か ら 、 GCV 療 法 の 有 用 性 が 報 告 さ れ て い る 。 慢 性 ・ 再 発 性 で あ る た め 長 期 間 の GCV 療 法 が 必 要 だ が 、 本 疾 患 に お け る GCV耐 性 に つ い て は 不 明 で あ る 。 そ こ で 今 回 、 GCV療 法 前 と GCV療 法 中 に 採 取 し た 前 房 水 を 用 い て 、 CMV UL97と UL54の 遺 伝 子 型 解 析 を 試 み 、 GCV耐 性 に 関 与 す る 変 異 の 有 無 と 臨 床 経 過 を 検 討 し た 。
10例 の 臨 床 経 過 を 後 ろ 向 き に 検 討 し 、 臨 床 所 見 と 前 房 水 中 CMVコ ピ ー 数 の 増 減 よ り 、 GCV療 法 へ の 反 応 性 を 判 定 し た 。 診 断 後 す ぐ に 全 例 で GC V点 眼 ( 9例 : 0.5% GCV点 眼 、 1例 : 0.15% GCVゲ ル [Virgan®]) が 開 始 さ れ 、 0.5%GCV点 眼 に よ る 維 持 療 法 を 受 け た 。 そ の う ち 2例 は バ ル ガ ン シ
博士課程用(甲)
- 2 -
ク ロ ビ ル 内 服 を 、 1例 は GCV硝 子 体 内 注 射 を 併 用 し て い た 。 診 断 時 と GCV 療 法 中 に 採 取 さ れ た 前 房 水 は 合 計 27検 体 で 、 診 断 時 の 平 均 CMVコ ピ ー 数 は 、 2.62×106 コ ピ ー / mL( 4.72×102 ~ 2.09×107コ ピ ー /mLだ っ た 。 8例 は GCV療 法 に 対 す る 反 応 が 良 好 で 、 特 に こ の う ち 3例 は 、 0.5%GCV点 眼 の 継 続 に よ っ て 、 そ れ ぞ れ 点 眼 開 始 2、 3、 11ヶ 月 後 に 前 房 水 か ら CMV が 検 出 さ れ な く な っ た 。 一 方 、 2例 は GCV点 眼 を 開 始 後 も 前 房 水 中 CMVコ ピ ー 数 が 低 下 せ ず 、 1 例 は 進 行 性 に 角 膜 内 皮 細 胞 密 度 が 低 下 し 、 1 例 は 眼 圧 が 下 降 せ ず 緑 内 障 手 術 ( 線 維 柱 帯 切 除 術 ) を 要 し た 。
GCV療 法 開 始 後 に 前 房 水 か ら CMVが 検 出 さ れ な か っ た 3例 の 4検 体 を 除 く 23検 体 を 用 い て 、 CMV UL97と UL54の 遺 伝 子 解 析 を 試 み た 。 UL97は 18 検 体 ( 78.2%) 、 UL54は 19検 体 ( 82.6%) が PCRで 増 幅 さ れ 、 こ れ ら の PC R産 物 す べ て か ら ABI 3130xl Genetic Analyzerで 塩 基 配 列 デ ー タ 得 る こ と が で き た 。 文 献 的 に GCV耐 性 に 関 わ る と さ れ る 変 異 は な か っ た が 、 全 て の 検 体 の UL97と UL54に 、 GCV感 受 性 に 関 与 し な い 変 異 ( 多 型 ) 、 も し く は 未 報 告 の 変 異 が 検 出 さ れ た 。
UL97の 解 析 で は 、 全 例 の 全 検 体 に D605E変 異 が 検 出 さ れ た 。 D605E変 異 は 、 多 型 と 解 釈 す る 考 え に 加 え 、 M460Vま た は A594Pと 共 に GCV耐 性 に 関 与 す る こ と や 、 免 疫 正 常 者 で 頻 度 が 高 く 、 東 ア ジ ア の CMVマ ー カ ー で あ る 可 能 性 も 指 摘 さ れ て い る 。
UL54の 解 析 で は 、 全 検 体 に 2つ 以 上 の 変 異 ( 多 型 ) が あ り 、 V355A( n
=19, 100 % ) 、 A688V( n=19, 100% ) 、 T1122A( n=17, 89.5% ) が 高 頻 度 で み ら れ た 。 GCV点 眼 療 法 へ の 反 応 が 不 良 で あ っ た 2例 の 検 体 か ら T 691S変 異 が 検 出 さ れ た 。 T691S変 異 も 多 型 と 考 え ら れ て い る が 、 他 の 変 異 と 共 に GCV耐 性 へ 関 与 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る 。 T691Sが 検 出 さ れ た 2例 は GCVの 全 身 投 与 や 硝 子 体 内 注 射 の 併 用 に よ っ て 臨 床 所 見 が 改 善 し た 可 能 性 は 否 め な い が 、 T691S変 異 が GCV感 受 性 に 影 響 を 与 え た 可 能 性 も 考 え ら れ る 。
既 報 の GCV耐 性 に 関 わ る 変 異 デ ー タ は 、 多 く が 免 疫 不 全 者 の 血 液 や 尿 か ら 分 離 さ れ た CMVを 用 い て 得 ら れ た も の で あ る 。 CMV前 部 ぶ ど う 膜 炎 は 免 疫 正 常 者 に 発 症 す る こ と か ら 、 CMV網 膜 炎 な ど の 日 和 見 感 染 症 と は 異 な る 特 殊 な 病 態 で あ る と 推 測 さ れ て い る こ と や 、 CMV網 膜 炎 の 検 討 で 、 血 液 か ら 検 出 さ れ た CMV株 と 異 な る GCV耐 性 CMV株 が 前 房 水 や 硝 子 体 液 か ら 検 出 さ れ た と い う 報 告 も あ り 、 前 房 水 を 用 い た 免 疫 正 常 者 に お け る C MV前 部 ぶ ど う 膜 炎 の 検 討 で は 、 既 報 の デ ー タ を 参 照 と し た 結 果 の 解 釈 に 注 意 を 要 す る と 考 え る 。 CMV前 部 ぶ ど う 膜 炎 で は 、 前 房 水 か ら の CMV 分 離 や 、 血 液 か ら CMV抗 原 ・ ゲ ノ ム が 検 出 さ れ た と い う 報 告 は な い た め 、 本 研 究 の よ う な 前 房 水 を 用 い た 遺 伝 子 解 析 に よ る デ ー タ の 蓄 積 が 求 め ら れ る 。
今 回 、 免 疫 正 常 者 に お け る CMV前 部 ぶ ど う 膜 炎 の 微 量 な 前 房 水 を 用 い て 、 GCV耐 性 変 異 CMV株 の 有 無 を 検 索 す る こ と が で き た 。 こ の 手 法 は 、 難 治 症 例 の 補 助 診 断 や 病 態 解 明 の 一 助 と な り う る と 考 え る 。