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Academic year: 2021

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

滝口明祥著『太宰治ブームの系譜』

廖, 韋娜

九州大学大学院地球社会統合科学府 : 修士課程一年

http://hdl.handle.net/2324/1903749

出版情報:九大日文. 29, pp.113-116, 2017-03-31. 九州大学日本語文学会

バージョン:published

権利関係:

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滝口明祥

著『

太宰

治ブ

ーム

系譜』

Ryo u I n a 目次 はじ め に 第一 部 〈太 宰 治 〉 と 戦後 の 十 五年 第一 章 第一 次太 宰ブ ー ム

一九四八年 第二 章 戦後 の 編 集 者 た ち 第三 章 戦後 の 若 者 た ち 第四章 第二次 太 宰ブ ー ム

一九 五五年 第二部 『太 宰 治 全集』 の 成立 第一 章 八雲 書店 版 『 太宰治 全 集』 第二 章 筑摩 書 房 版 『 太 宰 治全集 』 第三 章 検閲 と本文 第三 部 高度 経 済 成 長 の な か で 第一 章 〈太宰治 〉 と 読者 たち 第二 章 第三 次 太 宰 ブ ー ム

一九 六 七 年 前 後 第三 章 「か ら っ ぽ 」 な 心 を か か え て 終章 その後の 〈 太 宰治〉 本書 は 出 版 側 の視 点 か ら 出 発 し 、入 水 自 殺 に よる 第一 次ブ ー ムか ら現 在まで 、 〈太 宰 治 〉 と いう 作家の受 容 の 有り様及び変 遷を 時 代 の流 れ に 沿 い ながら考察してい る 。 滝口 氏によ る と、 著書の 発 行部数から す れ ば 、 生 前の太 宰 治 は 本当の意味 で 人 気 作 家 であっ た とは言い 難いという 。 そ れ は現在の太宰治という 作家イ メ ー ジ とは 大 き く 異 な っ て い ると 言え る。 彼 は 如 何 に 人 気 作 家 に な っ た の か。 そ こ に は 作 品 の 優 劣以 外 に 要 因 が あ る の では ない だろ う か 。 目 次に 示さ れ て いるように 、 滝 口 氏は 歴史 的な 視 座 をもち、 〈太宰治〉と いう作 家 イメージ の形 成過程及 び各時代 の 受 容状 況 を 追 遡 している。 こ こで構想 されているの は、太宰治 個 人の受容 史であると 同 時 に 、戦後 日 本の経済発 展 や政 治 状 況 が 絡 ん だ文 学 史 でも あ る 。 第一 部は入水自殺 の一 九 四 八年と 筑 摩書房版 の『 太宰治全 集』第一巻の 刊行の 一 九 五 五年 とい う二 つ の 時点に 巻 き 起 こっ た太 宰ブームを対 象として 、 〈 太 宰 治 〉 が人気作 家と して定着 して い く 経緯 や 要 因を検 討 して いる。 一 九 四 八 年 、 戦 争 未 亡人 の山崎冨栄 と の入水 自 殺という事件をき っかけに、当時のエリ ート を中心 と する少 数 の 愛 読 者 しか 持たな か っ た 太宰 治 は 、そ の 名 が急 速 に 全国 に知 られる よ う になっ た 。尤も、知 名 度が大 きく高ま ったとは い え 、 実 際は そ の スキャンダラス な 事 件 、及 び 太 宰の死因だけに興味 を 持っ て い た人が多勢であった と指摘 されてい る 。 し か し 、 ス キ ャンダル へ の 社会 的 な 関 心 は 一 時的 なも の で あり 次第に 薄 く な って いく 。 没 後の 太宰が 人 気 作 家 へ と登 り つ め て い く 過程 には 、 太 宰及 び太宰 文 学と 深く関わ って

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いた戦後の編 集者たちの 果 たし た役 割が 大 き か っ た。彼ら の多 く は 戦時 中から の 太宰 作品の愛読 者 であっ た 。中でも 、筑摩書 房社主 で ある古 田 晃の存在 に よ っ てこ そ、一九五五年 の 筑 摩 書 房版『太 宰治全集 』 の 誕生が あ ったことを滝口 氏 は明 らかに し てい る 。 それを 端 緒 と して 、ス キャ ンダラス な話題 か ら離 れた 第二次太 宰ブーム も始 ま っ た。 終戦の頃に、 表 面 的には 太 宰に 反発 し つ つ も 言及を繰 り返 し た 三島 由紀 夫 や 、本 格的 な太 宰 研 究を 開い たと い え る 奥 野 健 男ら、さ らに 「第三 の 新 人 」 に 代表 される 「 戦 中 派 」 な ど、 当 時 の 二 十代 の 若 者 た ち が 、太 宰及 び 太宰文学 への注目を大きく呼び 起 こ した存在 であ る 。 滝 口 氏は 中で も、 一番 の 戦 争 犠 牲 者 と呼ば れ る「 戦中 派 」 に 代 表 さ れる 若者 たちを取り 上 げ、 その無気力 や ニヒ リス ティッ ク な 姿 勢が、 太宰文学 にお ける虚 無 やデカ ダ ン ス に 生 きている青 年の姿と共 通 し ている と 述べ て い る。第二次 の 太宰ブ ー ムは実にそ う した 戦中派を 中核 として 展 開し た と 指 摘 さ れ てい る 。 第二部 は 第 一 部 と ほぼ同じ時期を扱って いるが、主に〈太 宰治 全 集 〉を 中心に 展 開 さ れて いる。一九四 八 年 に 八 雲 書 店 か ら刊 行 さ れ た 『太宰治全 集 』の中絶 や、創藝社から刊 行された 近代 文庫版 の『 太宰 治全 集 』 の 不 完全 さ を へて、 一 九五五 年 に本格 的 な『 太宰 治 全 集 』 が 筑 摩書房に よって刊行 開 始 さ れ、 さ ら に第 十一 次 ま で 続 い て いっ た 。 それ ぞ れ の底 本 が 異 な り、 どの 版本 が 作 者 の 真 意 を 表 して い る の か と い う 問 題 が 指 摘 さ れ ている。 これについて、第 三章では、太宰文学 と 検閲との関 係 が詳し く 論じられている 。 一般的 に は 、 検閲を被 る 前 の本 文、 つまり 改 稿され る 前の 本文が 「 正 し い」 とさ れ て い る 。そ れ故 に、 作者 の「真の姿」を 現 すために 、 筑 摩書房 版 の『太 宰 治全 集』はその「正し い」本 文 を 採 用し た 。 しかし、滝 口 氏はその 「正 し さ 」に 疑 問 を 呈 す る 。 戦 時 下 に い る作者 は 自分 の 作 品 を 流通さ せ る た め 、 意識的に 、あ るいは無意 識 的に検閲に 配 慮 し なが ら 創 作を 続 け て い た か ら で あ る 。 し かし 一 方 で そ の こ とが 、 太宰 文学 の 原 稿 と 改 稿 をめ ぐ る 研究に 多 彩な可 能 性を もた らし てき たと いう 側 面 もあると 考え られ る 。 続いて、 一九六〇年代から一 九 七〇年代に か け て 、本格 的 な 高 度経 済成長期に入る と 同 時 に、第一 次ベ ビー・ブームや 急 速な都 市 化、マスプロ教育 などの社会状 況も現 れ てきた。 そ の 背景に お い て 、 太 宰 ( 文学 ) が教 科書 や卒論 に 登場 し 、 太 宰 研 究 をめぐ る 批評の 視 点も作家 の思 想か ら作 品の 文体へと転換し た。 一九 六〇 年 代 後 半 の 第 三 次 太 宰 ブー ムに 、 太 宰 に 関 す る演 劇が 公開 され、山崎富栄のイ メ ージが変化 し 、 「 無頼派」も 再 評 価 され る こ とにな っ た。 さ ら に、全共 闘運動下 にお ける太宰 の若い 愛 読 者 たち、当時、文壇の中 心 と な っ て い た「 第三の 新 人 」 と の 比 較 、読 書 感 想 文 にお ける 太宰治 な ど 、 様々 な 面 で太 宰 に ま つ わる新たな動 向が 生 じ 、 再 び太宰 フ ァ ン が大 量に出 現 し て くる ようになった こと が第三 部 に詳しく論 じ られ てい る 。 終章 は第三 次 太宰ブームから現在にか け ての〈太宰治 〉 を 取り上げてい る 。 一九七 〇 年代以 来 、 各 出版社の 文 庫 への 参 入 、 個 人 全集における「作 者」という概 念の稀 薄 化など、出版 業界 及び読者層の新たな 傾 向 が 出てきた。 一 九九八年の第十一次ま

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でに 続いた 筑 摩書房 版 の 『 太宰 治全 集』 の刊 行 や 、文 庫 版 やア ン ソ ロジ ー版とい う新 たな読 書 形 態 の浸 透 を 背景 に、 〈 太 宰治 〉 の読者層も ま た 拡 大さ れていく。そし て サ ブ カ ル チ ャ ー・ポス トモダ ン など が 注 目さ れるよ う に な る八 〇年代 以 降 、〈太宰 治 〉 という 作 家のイ メ ー ジ も「滑稽 」や「かる み 」 、 或い はポスト モ ダ ン の 作 家 と し て 捉 え直 される よ う にな っていく 。特 にゼロ 年代 以 降 、 映 画や 漫画 、アニ メ 、ケ ー タ イ 小 説 な ど の 多様 な メ ディア形 式 と 繋がって現わ れ、 〈 太 宰治 〉は また 多 彩 な 側 面 を 見せて い る 。 以上の 滝 口 氏 の論 説から 、 太宰治 は 如何 に人気作 家 へ と辿 り 着 い て い く かと いう ことの経緯 が 明らか に され てい ると同時 に、 その作 家 イ メ ージ が大 きく 変 わ っ て き た こ と も伺 える 。特 にゼロ 年 代に入ってから、二〇〇七年、 集 英 社文庫版『人間 失 格』の カ バー を 「 デ ス ノ ー ト」 で 知 られ る漫 画家・ 小 畑 健 によ るイ ラ ス トに 替え た こ とを 端 緒 に 、 様 々 な表 紙の 付 さ れた 『 人 間 失 格』 及びそ れ に 伴 って 現 れ て く る名 作の 「ジャケ 買 い 」 、 ケ ー タ イ 小 説 や漫画としての再 版 、 同名映画の 全 国公開など、 太 宰 治と いう作家はとりわ け『人間失格』 に 拘わ って再登 場し てく るといえ る。 さ ら に 、 太宰 自身 も 漫 画 の キ ャ ラクター とし て登場し た 。 ラ イ トノベルや 漫 画 が 文 化 におい て 担うと こ ろの 大き い 現 代 に お い て 、 時代 を 問 わ な い 普 遍 的 な 作 品性 のみ な ら ず、 作 家 の人 物 像 が 再 評 価 の対 象と なった の で あ る。生前 から 一九 七 〇 年代 に か け て 、 エ リ ー トで あ る 旧制 高 校 の 学 生 を 中 心 とし た 文 学 青 年 た ちと いう 最初の〈 太 宰 〉 フ ァ ン から、感想 文 で太 宰作品 を 取り上 げ る 学 生た ち に 至り、 多 彩 な 形 で 話 題 とな った 〈 太 宰〉 は 段 々と人 気 作家 の 座 へ と 辿り 着 い て い く。 しか し歴史の 影 を 帯び ながらも 変 わ る こ とが ないのは 、やは り その 読 者 層 が 若 者 たち を 中 心 と している という 点 であろ う 。一 番の 戦争犠 牲 者であ れ 、 「 から っぽ」の 〈現代 的 不幸者〉 で あ れ、 太宰文学にお ける登 場 人物のイ メー ジには、 共通して汎時 代 的 な無 力 感 や 弱 さ 、 空虚 感が つ き ま と っ て い る 。 そ うい った 登 場 人物 への 共感や 、 或 い は 太 宰と いう 作家 自身の 〈 誠 実 〉 や 〈純 粋さ 〉 が 、若 い読者を引きつ け 続け て い ると いえよ う 。 し かし 一方 、第三 次 太 宰 ブーム以 来、 ポストモダン作家から、 「 戦時 下の ラ イ ト ノ ベ ル ズ 作 家 」 (大塚英志 『 更新 期の文学 』、 春秋 社、 平十 七) を経 て、 今 や 〈 イ ケメ ン 〉 〈萌 え 〉 キ ャ ラ ク タ ー と し て の 〈文豪〉へ 、 と太 宰治 の 作 家イ メー ジ も 時代に 応 じて 大 き く変 わってき たと い え る。 漫 画 家 ・ 古屋 兎丸によ る『人 間 失 格 』や 青い 文学 シ リ ーズによ る テ レ ビ アニ メ『人 間 失格 』 、 漫画『文 豪 ス トレ イドッグス 』 に登場 す る 「 太宰 治 」 など の よ う に 、 地 域振興 の 切 り 札とな っ ている事例 が 本書 で も 紹介され ている が、 小 説 作 品 が漫画 化 やア ニメ 化さ れ 、 作 家 がキャラ ク タ ー化 され るな ど、 〈太 宰治〉 が 〈 現 役 作 家〉であると同 時 に 、 商品 と し ての性格を 持 っている ことは特 に注目 さ れ て よい 。 ハ イ カ ルチ ャーか ら サ ブ カル チャー へ の 流 れの 中で、ま た「 作者」 と いう概念が 段 々と稀 薄 化してい く時代において 、 〈太宰治 〉の イメー ジ は既にただの〈 作 家〉 と は 言えないであ ろ う 。 滝 口 氏 の論説は主に高度経 済 成長期ま でを取り 上げ て い る が 、 終 章で

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紹介 される にとど ま っているゼ ロ 年 代 以降 の サ ブカル チ ャーの 文脈に お ける現 在 進 行 形の 受容 動向 が 、 今後 〈 太 宰治 〉 像 研究 の新た な 課 題 となると 思われる 。そし て 、 様 々 な 媒体 で多 様に 展開される 〈 太 宰 〉 の姿 を拾い 上 げ て いく に あ たっ ては 、太宰 作品 の中 で も 漫画や映画 で の登場頻 度 が 飛び抜け て高い小 説 『人間 失 格』にか かわる 動 向 が 、特に重要な切り 口 と な る で あ ろう。 本書 は太宰治 にまつ わ る 作 家論 や 作 品論から 飛び 出し、歴 史的 な地平 を 導入するこ と により、経済や政治 の 発展、文壇の 動 向 、メ ディア言 説、国語教 育 な ど 、全 社 会 の状況 を 統括する 歴史 的な 各情 報を 盛 ん に 絡 み こ ま せ なが ら、 各時 代 に お け る 太 宰治の 作 家イメー ジ及 びその 形 成原因を 浮き彫 り にしてい る。 太宰研究にと って非 常 に 有 益な研究書である。 (二〇 一 六年 六 月 ひつ じ書 房 三三 七 頁 三四 〇〇 円+ 税) (九州 大学大 学院 地 球 社会 統合科学 府修士 課程 一 年 )

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