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亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定

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Academic year: 2021

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(1)

─ ─95 ( )41 リング孔を用いた調査は,地下深部の地質環境のデータ を直接取得できることから有効な手法である。岩盤中の 地下水流動を把握するための水理調査のうち,1 本の ボーリング孔を用いた水理試験は,ボーリング孔を中心 とした領域の平均的な岩盤の水理パラメータや流れの場 を推定することが可能である。しかしながら,地下水流 動を規制する不連続構造などの位置を把握することは容 易ではない。一方,複数のボーリング孔を利用する孔間 水理試験では,観測孔の水圧応答の分布や大きさの違い などから,孔間に存在し地下水流動に影響を与える水理 地質構造の位置など概略的な把握が可能と考えられる。 孔間水理試験については,これまでに多くの実施例が 報告されており,孔間の透水性や貯留性の把握,水みち や遮水性構造など水理地質構造の分布の把握を目的とし た調査・解析が実施されている3),4),5),6),7)。さらに水み 1.はじめに 地下深部における地下水流動を適切に把握すること は,エネルギー資源の地下備蓄や放射性廃棄物の地層処 分などの分野において必要不可欠である。このような分 野ではプロジェクトが長期にわたって実施されることか ら,段階的に取得される調査データに基づいて地下水流 動のモデル化解析が実施されることになる。地下水流動 を明らかにするためには,調査データに基づく地下水流 動の概念モデルの構築と流動概念に影響を与える水理地 質構造を適切に表現された水理地質構造モデルに基づ き,地下水流動解析を実施することが必要である1),2) また,このプロセスは段階的な調査の進展にしたがって 繰り返し修正・改良が行われることになる。 地下水流動を明らかにするための調査としては,表層 水文調査やボーリング調査などがある。このうち,ボー

竹内 真司

・竹内 竜史

**

・安藤 賢一

***

The compartment structure of a fractured granite rock has been investigated using long-term pressure monitoring and cross-hole interference tests. The boreholes used ranges from several hundred meters to over 1000 meters in depth. A site scale compartment structure has been estimated based on observations of natural pressure changes, including earthquakes, and the characteristics of the interference test observed drawdown. Following the removal of tidal and baro-metric pressure effects, clear pressure responses were identified at a monitoring well located about 1km away from the pumping well. Remarkable high hydraulic diffusivity has been estimated from fractional dimensional analysis and this cor-relates with the velocity indicator. The methods applied in this study appear effective in estimating the hydrogeological conceptual model for the site.

Keywords : Fractured rock, Cross-hole hydraulic test, Compartment structure, Water-conducting feature

亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定

Study on Hydrogeological Conceptualization in a Fractured Rock

Based on the Cross-Hole Hydraulic Test

Shinji TAKEUCHI

, Ryuji TAKEUCHI

**

and Ken-ich ANDO

***

(Accepted November 14, 2012)

  * Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3−25−40 Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo, 156−8550 Japan

** Tono Geoscientific Research Unit, Atomic Energy Agency: 1-64, Yamanouchi, Akeyo-cho, Mizunami-shi, 509-6132 Japan

***Nuclear Waste Technology Department, Obayashi Corporation: Shinagawa Intercity Tower B, 2-15-2, Konan, Minato-ku, Tokyo, 108-8502 Japan * 日本大学文理学部地球システム科学科: 〒156−8550 東京都世田谷区桜上水3−25−40 ** (独)日本原子力研究開発機構東濃地科学研究ユニット: 〒509−6132 岐阜県瑞浪市明世町山野内1−64 *** (株)大林組原子力本部: 〒108−8502 東京都港区港南2−15−2 品川インターシティB棟 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.48 (2013) pp.95−110

(2)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─96 ( )42 ちの連続性については,数値解析により仮想の水理場を 構築し,水圧の応答性を示す水頭拡散率と水みちにおけ る流量や水圧応答時間などとの関係を検討した事例があ る8),9)。しかしながら,これらの事例は,数メートルか ら百メートル程度の孔間距離で実施されたものが多く, また水みちの連続性に関して水頭拡散率の詳細な検討に ついては,現場データに基づく詳細な検討事例は存在し ないのが現状である。地下深部に坑道などの地下施設を 建設する際には調査や評価の対象範囲が数キロメートル 四方におよぶことから,広い領域を対象とした地下水流 動場の把握が重要となる。孔間水理試験においては,孔 間距離が長い場合や透水性が高い場合,観測孔での水圧 応答が小さくなり,応答を確認することが困難となる。 このため,圧力センサーの精度を向上させたり,取得さ れたデータから地球潮汐や気圧変動などのノイズを除去 したりすることにより,微小な水圧応答を抽出すること が必要となる。また,得られた水圧データに基づいて, 地下水流動の境界条件や透水性の割れ目および遮水性構 造などの水理地質構造を推定する手法を確立することが 必要である。本論では,地下数百メートルから千メート ルを超える長さの深層ボーリング孔に設置した複数区間 での水圧観測が可能な装置を用いて実施した孔間水理試 験の結果と,これに基づいて推定した水理地質構造の概 念モデルおよびその推定手法について論ずる。 2.研究実施領域の地質およびボーリング孔の概要 研究実施領域は,岐阜県瑞浪市にある超深地層研究所 用地(以下,研究所用地)とその周辺である。この地域 図 1 研究実施領域周辺の地質図

36

図 - 1 研 究 実 施 領 域 周 辺 の 地 質 図

(3)

─ ─97 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 43 の主な地質は,白亜紀後期の花崗岩(土岐花崗岩)を基 盤とし,これを新第三紀中新世の堆積岩(瑞浪層群)が 不整合で覆っている10)(図 1)。瑞浪層群は,下位より土 岐夾炭累層,明世累層,本郷累層および生俵累層に区分 される。花崗岩は,深度約300 ∼ 500m 程度の間の領域 に水平方向から30 °以下の低角度傾斜を有する割れ目が 卓越する岩盤領域(以下,上部割れ目帯)とその下位の 比較的割れ目密度が低い領域(以下,下部割れ目低密度 帯)が分布する。さらに,上部割れ目帯中には低角度傾 斜を有する割れ目の集中帯(以下,LAFZ)が存在するこ とが推定されている11)。また,上記以外の主要な構造と して,北北西走向で高角度傾斜を有する断層(NNW 断 層)が研究所用地中央部に分布することが予測されてい る1) 研究所用地には深度1,000m 以深までの地質環境を把 握するために掘削された,掘削長約1,300m のボーリン グ孔(MIZ−1号孔),および主として堆積岩中の地質環 境を把握するために花崗岩上部まで掘削した掘削長約 100 ∼ 200m の浅層ボーリング孔(MSB − 1 ∼ MSB − 4 号孔)が存在する。さらに今回は,広域の地下水流動を 把握するための技術開発を目的として掘削されたボーリ ング孔(DH−2号孔とDH−15号孔)の水圧モニタリン グデータも活用した。DH − 2 号孔は研究所用地の南側 境界の外側に位置する深度約500m のボーリング孔であ り,またDH−15号孔は研究所用地から約500m南東方向 に掘削された深度1,000mのボーリング孔である(図 2)。 上記ボーリング孔のうち,MIZ − 1 号孔以外には,パッ カーによって多区間の間隙水圧計測や地下水採水が可能 な長期モニタリング装置が設置されている。これまでの 各ボーリング孔における調査やモニタリング装置を用い た観測により研究所用地中央部を通るNNW 断層と瑞浪 層群中の本郷累層の基底礫岩付近の泥岩層が低透水性を 有する地質・地質構造としてそれぞれ存在することが確 認あるいは推定されている12) ,13) 3.試験概要 孔間水理試験は, MIZ − 1 号孔の深度 191 ∼ 226m お よび深度662 ∼ 706m の区間に存在する割れ目帯を対象 にダブルパッカーによる揚水試験を行い(以下,それぞ れ試験1 および試験 2 ),その水圧応答を周辺のボーリ ング孔で観測した。それぞれの試験区間は,事前の孔内 調査(流体検層や水理試験)により高い透水性を有する ことが分かっており14),研究所用地周辺に広く分布する と予測される比較的規模の大きな割れ目帯や断層を含む 区間である。試験1 は,研究所用地周辺に広く分布する ことが予測されている上部割れ目帯中のLAFZ に相当す る区間である。また,試験2 は MIZ − 1 号孔と DH − 2 号孔の間で連続性が予測された透水性の割れ目帯であ

37

図 -

2 調 査 位 置 図

図 2 調査位置図

(4)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─98 ( )44

38

図 - 3 試 験 区 間 (

M I Z - 1 号 孔 ) の 透 水 性 割 れ 目 の 分

布 ( 下 半 球 投 影 )

N=4 N=8 試験1 試験2

39

図 -

4 地 質 の 概 要 お よ び 試 験 区 間 の 配 置

図 4 地質の概要および試験区間の配置

Test no ( drilling depth :m )Test section Pumping rate( L/min ) Pumping time( day ) Total volume( m3 ) 1 191.00- 226.41 10.8 10.2 157.6 2 662.20- 706.23 5.2 14.8 110.9

図 3 試験区間(MIZ−1号孔)の透水性割れ目の分布

(5)

─ ─99 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 45 4.試験結果 4.1 水圧応答の概要 2 回の試験において明瞭な水圧応答が確認された区間 を図 4 中に黒丸で示した。測定値の変動幅は 2kPa 程度 (水頭換算で約20cm)で地球潮汐の変動幅に相当する量 であり,水圧応答の有無の判断が困難なことから,得ら れたデータから地球潮汐や大気圧などのノイズ成分など を除去16)した。この結果,図 5 に示すように,揚水試 験に同期した水圧応答を明瞭に抽出することができた。 2 回の試験で水圧応答が確認できたのは MSB − 1 号孔 の5 つの観測区間のうち,深部の 3 つの区間および DH −15 号孔の 10 の観測区間のうち,センサーの不具合等 があった数点を除くほぼ全区間であった。観測された水 圧応答の特徴として,揚水中の水圧低下挙動が直線的で あることや回復過程での水圧が試験開始前の圧力まで回 復しない傾向が認められた。一方,NNW 断層の西側お よび堆積岩中の本郷累層の基底部付近に存在する低透水 性の層よりも上位に観測区間があるDH − 2 号孔や MSB −3号孔およびMSB−1号孔の上部の 2 区間では水圧応 答は確認されなかった(図 6)。 なお,上述の水圧観測孔では日本近海などで発生した 規模の大きな地震(北海道十勝沖地震,紀伊半島沖地震, る。流体検層(電気伝導度検層15))によって抽出したそ れぞれの試験区間に分布する透水性割れ目の走向傾斜を 図 3にステレオプロットで示す。試験 1 の区間では 4 箇 所の透水性割れ目が抽出され,低角度および高角から中 角度の割れ目が分布する。このうち,低角度の割れ目が LAFZ に相当すると推定される。また,試験 2 の区間で は8 箇所の透水性を有する割れ目が抽出され,そのうち 6 箇所は高角度の 2 箇所は低角度の傾斜を有する割れ目 が分布する。 揚水試験の開始に先立ち,本ボーリング孔を掘削した 際に使用した泥剤が孔壁および孔近傍の透水性割れ目を 閉塞し,岩盤本来の透水性を低下させていることが懸念 されたことから,これを除去する目的で100m 程度の大 きな水頭差によるパルス試験,スラグ試験および短時間 の揚水試験を事前試験として実施した。MIZ − 1 号孔で の 揚 水 に と も な う 水 圧 応 答 の 観 測 はMSB − 1 号 孔, MSB − 3 号孔,DH − 2 号孔および DH − 15 号孔で実施 した。試験区間および観測区間の位置関係と主要な地 質・地質構造の概要を図 4 に示す。また,揚水試験の試 験条件を表 1 に示す。試験1,試験 2 における平均揚水 流量は,ぞれぞれ10.8(L/min),5.2(L/min),揚水時 間は,それぞれ約10日,約15日である。

41

図 -

5 観 測 孔 に お け る 水 圧 応 答 ( D H - 1 5 区 間 5 の

ノ イ ズ 除 去 の 例 )

Y/M/D

Pressu

re

kP

a

 

85.0

85.5

86.0

86.5

87.0

87.5

88.0

88.5

89.0

89.5

90.0

2004/12/1

2004/12/21

2005/1/10

2005/1/30

2005/2/19

ノイズ除去後

ノイズ除去前

Pre test Pumping

Test 1

Test 2

Recovery

Before filtering

After filtering

(6)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─100 ( )46 スマトラ島沖地震)に同期した水圧変動が観測された (図 6)。図 6 の下半部には花崗岩最上部に設置した観測 区間の水圧変化を示した。これによると,MSB−3号孔 やDH − 2 号孔では地震発生直後に急激な水圧の上昇が 認められるのに対し,MSB−1号孔や不定期に水圧計測 を実施しているMSB − 4 号孔では地震に動機した水圧 変動は認められない。このことから,用地中央部の NNW 断層を境として北東側と南西側の観測区間で挙動 が異なることが推定される。 4.2 流れの次元を考慮した水理パラメータの検討 今回試験の対象とした花崗岩に代表される亀裂性岩盤 の亀裂は,水平方向の孔間距離が100 ∼500m程度であっ たり,割れ目面上には凹凸があることなどを考慮する と,一枚の平行平板で連続しているとは考え難い。すな わち,平行平板で代表される二次元放射状流れ以外の流 れの形態を呈していることが想定される。そこで,観測 区間の圧力変化データに基づいて,流れの形態を理論解 を用いて一次元から三次元で近似するタイプカーブマッ チングにより,流れの次元および透水量係数と貯留係数 の比(T/S)である水頭拡散率(η)を求めた。水頭拡散率 は水頭の変化が周辺にいかに速く及ぶのかを示す一つの 尺度として考えることができる18)。すなわち,水頭拡散 率が大きい区間は水みちとしての連結性が良い区間とみ なすことができる。 また,流の次元は水理試験結果に基づく圧力の時間 微分プロットの傾きの形状から推定することが可能で ある19),20)

Barker(1988) 21)やDoe and Geier(1991) 22)は流れの

次元を評価する際の流動面積を,流動方向に直交する面 の面積として表現した。すなわち,一次元はパイプ状の 管路の両端の断面積,二次元は平行平板状の円筒の周長 と平板間の幅との積,三次元は球の表面積として定義さ れる。流動面積(A)は,放射距離の関数として以下に定 義される23)

( )

[

( )

]

1 1 2 3−

2

π

2

Γ

− −

=

b

n n

r

n

r

A

n ...( 1 ) ここでb は試験区間長,Γ はガンマ関数,n は流れの 次元である。上式で一次元(n =1)の時の流動面積( A )2b2となる。これは,b2の断面積を有する管路を流れ

42

図 -

6 揚 水 試 験 に よ る 観 測 孔 の 水 圧 応 答

MSB-1 shallow DH-2

Mizunami city map (1:2,500)

MSB-1 deep

X

Sum atra

Jan 2003 July 2003 Jan 2004 July 2004 Jan 2005 156 157 158 159 Pi ez om et ric le vel , m MSB - 2 MSB - 3 DH-2 Open System DH-2 Closed Kii Tok achi X’ Tok

achi KiiSumatra

Jan 2003 July 2003 Jan-04 July 2004 Jan 2005

151 152 153 154 Pi ez om et ric L evel , m MSB - 4 MSB - 1 DH-15

Response to earthquakes

T1-P T1-R T2-R 249 245 Pr es su re ( kPa ) 247 2808 2796 Pr es su re ( kPa ) 2802 Earthquake 1037 Pr es su re ( kPa ) 1035 85 Pr es su re ( kPa ) 87 89 Main shaft Ventilation shaft 154 151 159 156 Pre ss ure (m) Pre ss ure (m) T2-P Nov. 27 Dec . 25 Jan. 22 Feb. 19 Mar . 19 Nov. 27 Dec . 25 Jan. 22 Feb. 19 Mar . 19 Nov. 27 Dec . 25 Jan. 22 Feb. 19 Mar . 19 Nov. 27 Dec . 25 Jan. 22 Feb. 19 Mar . 19 1033 T1-P T1-RT2-P T2-R T1-P T1-RT2-P T2-R

T1-P: Start for test 1 pumping T1-R: Start for test 1 recovering T2-R: Start for test 2 recovering T2-P: Start for test 2 pumping T1-P T1-RT2-P T2-R

(7)

─ ─101 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 47 の時間微分プロットへのタイプカーブマッチングを実施 した(図 8)。同図に示すように,解析値は実測値をよく 再現していることが分かる。表 2 にタイプカーブマッチ ングに基づいて得られた透水量係数(T )と貯留係数(S ) および両者の比である水頭拡散率(η),流れの次元(FD) を示す。この結果,流れの次元については二次元よりも 低い値を示した。さらに水頭拡散率については,試験1 ではDH − 15 号孔が MSB − 1 号孔に比べて高い値を示 した。さらにDH−15号孔では,区間 5 が他の区間に比 べて特に高い値(8.11)を示すことが分かる。一方,試 験2 では試験 1 のようなボーリング孔間による水頭拡散 率に大きな違いは認められないものの,DH − 15 号孔の 区間3 が他の区間に比べて特に高い値(14.41)を示した (表 2)。 る形態として表現される。また,二次元(n =2)の時の流 動面積(A )は 2πrb となり,半径 r の円周長と幅 b の積 として表現される。さらに三次元(n =3)の時の流動面積A )は 4πr2となり,球の表面積として表現される21) さらに流れの次元を考慮した一般式は以下のように示さ れる21)

)

,

(

4

)

,

(

/22 3

v

u

Kb

qr

t

r

p

=

nn n

Γ

π

...( 2 ) ここで,K は透水係数,ν=1 - n/ 2,u=r2/4ηt である。 Mishra(1992) 24)は ν が圧力と時間を軸とした両対数グ ラフにおける,圧力の時間変化曲線の時間微分プロット の後半部分の傾きとなることを示した。これに基づく と,一次元流れでは時間微分の傾きが+1/2 に,二次元 流れでは傾きは0(すなわち水平)に,三次元流れの場 合は-1/2 の傾きとなる。図 7 に示すように,一次元流 れは割れ目内の単一チャンネル状の流れ,あるいは割れ 目の交差部でのパイプ状の流れの形態として概念化でき る。また,二次元流れはボーリング孔に直交する単一割 れ目,あるいは割れ目がネットワーク状に平面的に分布 した流れの形態として概念化できる。さらに,三次元流 れは割れ目のネットワークが三次元的に密に連結して広 がった球状の形態として概念化される。 観測区間での水圧応答データに基づき,圧力変化とそ

43

図 -

7 圧 力 変 化 と 時 間 微 分 , お よ び 流 れ の 次 元 の 概

念 ( 上 か ら

1 次 元 流 れ , 2 次 元 流 れ , 3 次 元 流 れ )

図 7 圧力変化と時間微分,および流れの次元の概念(上から1 次元流れ,2 次元流れ,3 次元流れ)

(8)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─102 ( )48

44

図 -

8 流 れ の 次 元 を 考 慮 し た タ イ プ カ ー ブ マ ッ チ

ン グ ( 横 軸 は 時 間 (

h ), 縦 軸 は 圧 力 変 化 と 時 間 微 分

k P a ) 上 : 試 験 1 , 下 : 試 験 2 )

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 1.0E-03

1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_1 DH-15_2 DH-15_3 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_5 1.00E-03 1.00E-02 1.00E-01 1.00E+00 1.00E+01

1.00E-01 1.00E+00 1.00E+01 1.00E+02 1.00E+03

DH-15_7 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_8 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_9 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

MSB-1_3 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

MSB-1_4 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

MSB-1_5

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_1

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_2

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_3

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_5

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03

DH-15_7

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 DH-15_8

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 DH-15_9

1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00

1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 DH-15_10 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 MSB-1_3 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 MSB-1_4 1.0E-03 1.0E-02 1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01

1.0E-01 1.0E+00 1.0E+01 1.0E+02 1.0E+03 MSB-1_5

(9)

─ ─103 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 5.2 大局的な水理地質構造の推定 孔間水理試験の結果に基づく大局的な水理地質構造 の推定方法に関しては,Andersson et al. 25)が,スウェー デンエスポ島の亀裂性岩盤を研究対象とするハード ロック研究所で掘削された複数のボーリング孔を用い て実施した,15 ∼ 100m 程度の区間距離における孔間水 理 試 験 の 評 価 に お い て 適 用 し た 水 圧 応 答 プ ロ ッ ト (Pressure response plot)による方法がある。これは,

孔間水理試験で水圧応答が観測された区間を対象に,水 圧の伝搬時間(水圧応答時間)と観測区間における水圧 低下量を対数軸上にプロットしたものである。グラフ上 のプロットの分布傾向に基づいて水圧応答の形態をネッ トワーク型,コンパートメント型,水理バリア型,不均 質型の4 つに分類することにより,大局的な水理地質構 造を推定する。図 9 に Poteri et al. 26)がハードロック研 究所で実施した孔間水理試験に基づく水圧応答プロット の観測結果と,水理地質構造モデルに基づく孔間水理試 験の数値解析による水圧応答プロットを分布の形態ごと に示す。ここでネットワーク型は水みちがお互いに連結 したモデルであり,グラフでは応答時間の経過にした がって(すなわち距離が遠いほど)水圧低下量が小さく なる右上がりの直線状を示す(図 9( a ))。コンパートメ ント型は,応答時間(すなわち,揚水区間と観測区間 の区間距離)に無関係にほぼ一定の水圧低下量を示す (図 9( b ))。この場合,水位低下量の値の最小値から最 大値の幅は2 倍から 4 倍程度の幅に入る。この水圧応答 のパターンとしては,水理境界との連結性が弱い単一の 高透水性割れ目の中で水圧応答が生じるモデルが考えら れる。水理バリア型は,水圧応答時間によらずに,水圧 5.考 察 5.1 遮水性構造の推定 2 回の試験によって得られた NNW 断層を境とする水 圧応答の有無の分布傾向は,日本近海で発生した地震に 同期して観測された水圧応答の分布の有無の分布傾向と 整合的な結果を得た(図 6)。すなわち,孔間水理試験で は当該断層を境にその北東側では明瞭な水圧応答が確認 されたのに対して,南西側では確認されなかった。一方, 地震に同期した水圧変動については,NNW 断層の北東 側では応答が確認されなかったのに対して,南西側では 明瞭な応答が確認された。さらに,MSB − 1 号孔では, 研究所用地周辺で確認されている泥岩層付近を境とし て,これより浅部では水圧応答が確認されなかったのに 対して,深部では明瞭な水圧応答が確認された。以上の ことから,研究所用地付近の地下水流動は低透水性を有 する地質・地質構造に規制されていることが推定され た。さらに試験2 で対象とした高透水性の割れ目帯は, 当初,MIZ−1号孔とDH−2号孔に連続すると予測した が,DH − 2 号孔においては水圧応答が確認されなかっ た。このことは,この割れ目帯はNNW 断層によって DH − 2 号孔への連続を断たれているか,もしくは割れ 目帯の透水性が高く連続性が良いためにDH − 2 号孔で 水圧応答が観測されなかったと解釈される。しかしなが ら,規模の大きな地震に同期したNNW 断層を境とした 水圧応答の違い13)や,孔間試験での水圧低下の直線性, および初期値に対して不十分な水圧回復などの現象を考 慮すると,前者のNNW 断層で連続性を断たれている可 能性が高い。 49 表 2 タイプカーブマッチングに基づく水理パラメータ T S η(Diffusivity) FD T S η(Diffusivity) FD 1 1.07E-02 2.79E-03 3.83 1.7 1.86E-03 1.07E-03 1.73 1.9 2 2.86E-02 6.33E-03 4.52 1.6 3.14E+00 1.40E+00 2.24 1.25 3 1.22E-02 6.00E-03 2.03 1.7 2.35E-02 1.63E-03 14.41 1.8 4

5 1.75E+00 2.15E-01 8.11 1.25 9.69E+01 3.03E+01 3.20 1 6

7 9.06E-03 2.21E-03 4.10 1.7 1.07E-02 1.36E-02 0.79 1.7 8 3.83E-04 6.93E-05 5.52 2 8.89E-03 2.50E-03 3.56 1.8 9 1.06E-03 1.78E-04 5.98 1.9 1.58E-01 4.03E-02 3.91 1.5 10 7.36E-02 9.86E-02 0.75 1.5 3 2.51E-03 1.14E-02 0.22 1.8 3.01E-02 1.98E-02 1.52 1.6 4 8.20E-04 5.55E-03 0.15 1.9 1.28E-02 1.03E-02 1.25 1.7 5 8.15E-04 4.77E-03 0.17 1.9 7.23E-04 4.01E-04 1.80 2 DH-15

MSB-1

Test 1 Test 2

PRB No Borehole

(10)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─104 ( )50 時の最大水圧低下量が潮汐変動と同程度の場合,透水性 が高い区間では水圧低下に時間を要し,この基準に達し ない場合は応答なしと判断されることが考えられる。こ のため,ここでは水圧低下が十分に認定できる値として 最大水圧低下量の10%に達するまでの時間とした。図 10 で横軸は水頭拡散率の逆数に相当する次元で表され, このグラフの左側ほど相対的に水圧の伝搬性が良いこと を示す。また,縦軸の規格化した水圧低下量はそれぞれ の試験で,試験区間の距離にかかわらずほぼ一定の値を 示すことが分かる。このことと,水圧応答が観測された 区間の水圧の低下傾向が直線的であることや初期の水圧 に回復しない傾向があることなどから,水圧応答が認め られた区間が低透水性の水理地質構造に囲まれた領域に 存在していることが推定される。これは図9b に示した コンパートメント型に相当すると考えられる。また,試 験1においては,横軸の水圧の伝搬性を示す指標がMSB −1 号孔と DH − 15 号孔では異なる領域にプロットされ ることが分かる。揚水区間からの区間距離はMSB − 1 号孔のほうがDH − 15 号孔よりも 1/5 程度短いことか ら,MSB−1号孔の水圧の伝搬性が相対的に悪いことが 分かる。このことは,MIZ − 1 号孔の試験 1 の揚水区間 とMSB − 1 号孔の水圧応答が観測された区間との間に 低下量がわずか,もしくは水位低下が観測されない水理 地質モデルが考えられる(図 9(c))。また,水圧低下量 の最小値から最大値の幅は2 倍程度の幅の中に収まって いることが分かる。この応答パターンでは,水みちの水 理的な連結性がない,もしくは水みちと固定水頭境界と の高い連結性がある場合が考えられる。不均質型は,相 関性のない分布形態を示すもので,いくつかの水みちは 揚水区間と高い連結性がある一方で,連結性がない水み ちも存在するような水理地質構造を示す(図 9(d))。 今回の試験において水圧応答の認められた区間を対象 に,上述の水圧応答プロットを作成した(図 10)。図の縦 軸は,ノイズ成分の除去後のデータから読み取った水位 低下量(Sm)を揚水区間の揚水量(Q)で除して規格化し たものである22)。また横軸は,揚水開始時間を基準とし て観測区間において総水圧低下量の10%の水圧低下が 観測されるまでの時間(t arr )を応答時間とし,これを揚 水区間と観測区間の直線距離の二乗(L2 )で規格化した ものである(図 10)。Andersson et al. は上述のスウェー デンのハードロック研究所における孔間水理試験25), 26) では,横軸の水圧応答時間を初期からの水圧低下量が 0.1kPa(約 1cm)に達するまでの時間と定義した25)。し かしながら,絶対値を基準とすると,今回のように応答

Fig.9a

Fig.9c

Fig.9b

Fig.9d

図 9  スウェーデンハードロック研究所で実施された孔間水理試験による水圧応答プロットの実測値と解 析値.9a ∼dの分布形態から大局的な水理地質構造の推定が可能.9aはネットワーク型,9bはコン パートメント型,9cは水理バリア型,9dは不均質型を示す.

(11)

─ ─105 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 51 れたNNW 断層の他,北方には遮水性の機能を有するこ とが確認されている月吉断層29)が存在する。さらにこ れらの構造の南東側には複数の不連続構造が予測されて いることから(図 11),このような不連続構造のうち低透 水性を有する構造で囲まれた領域で主要な水圧低下が生 じていることが想定される。このようなコンパートメン ト構造は,ハードロック研究所30)や釜石鉱山31)などに おける研究事例があるが,いずれも数十メートルから数 百メートル規模の構造であり,今回のようなキロメート ルにおよぶ領域のコンパートメント構造が推定された事 例はない。以上のことから,今回実施した孔間水理試験 で得られた水圧データからのノイズ除去や水圧応答プ ロットによる大局的な水理地質構造の推定,ならびに総 揚水量や水理学的有効空隙率などに基づく水圧低下領域 の推定手法は広い範囲の水理地質構造の概念化に有効と 考えられる。また,今回適用した手法は,地上からのボー リング調査により,主要な水圧低下領域を詳細に把握す るための調査計画を策定する上で,有効なアプローチの ひとつと考えられる。さらに,このようなコンパートメ ント構造が存在する場合は,地下施設の建設に伴う水圧 低下領域が限定されることになるため,周辺への影響の 広がりが限定されるという点で優位性を有する。一方 で,このようなコンパートメント構造の内部では,水圧 低下量が著しく大きくなると想定される。断層が多いと されている我が国のような地質環境では遮水性や低透水 水圧の伝搬を遅らせる水理地質構造などが存在する可能 性を示唆する。 5.3 水圧低下の範囲の推定 上述のように,今回の孔間水理試験において水圧応答 が認められた領域が低透水性の構造で囲まれ,その領域 全体が一様の水圧低下量を示していると考えられる場合, その領域の面積(Ad )は試験時の総揚水量(V )と観測孔 での水圧低下量(Sm )および水理学的有効空隙率( ne )を 用いて次式により算定可能である。

A

d

=

V × n

e

× S

m- 1 ...( 3 ) ここでV および Sm は今回の試験で得られた値,ne は 10−3を用いた。この n e は報告事例が少ないものの,ス ウェーデンハードロック研究所の花崗岩を対象に実施さ れたトレーサ試験から算出された例27)や,澤田ほか28) が研究所用地近傍のDH − 2 号孔のボーリング調査の結 果に基づいて推定した花崗岩中の平均的な水理学的有効 空隙率の値である。その結果,水圧低下領域の面積 Ad は1 回目の試験では 1.2km2,2 回目の試験では 1.1km2 と算出される。これらは断層で囲まれた正方形の領域を 仮定すると,およそ1km四方の領域となる(図 11)。調 査領域の周辺には,今回,低透水性であることが推定さ

47

図 -

1 0 水 圧 応 答 時 間 と 水 位 低 下 量 に 基 づ く 水 圧 応

答 プ ロ ッ ト

図 10 水圧応答時間と水位低下量に基づく水圧応答プロット

(12)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─106 ( )52 解析により明らかにされている8),9)。しかしながら,水 みちの連結性と水頭拡散率の関連について原位置の試験 において明らかにされた事例はなく,地下深部までの地 下水流動のモデル化における重要な課題のひとつであ る。以下では,原位置で取得したパラメータに基づき水 圧伝搬速度と水頭拡散率との関係を検討した。水圧の伝 搬性の指標は,見かけの伝播速度を用いた。これは,揚 水区間と観測区間の中点の直線距離を,観測区間におけ る水圧応答時間(揚水に伴う最大水圧低下量の10%に達 するまでの時間)で除したものである。 図 12(a)に水頭拡散率と見かけの伝播速度の関係を 示す。これより,試験1 では両者に正の相関があること が分かる。また,試験1 では揚水孔と観測孔間の区間距 離は,MSB−1号孔の方がDH−15号孔に比べて短いに もかかわらず伝播速度が遅くなっている(図 12a にMSB −1(3−5)と表示)。このことから,揚水区間と観測区 間の間に伝播速度を低下させるような水理地質構造が存 在する可能性が考えられる。また試験2 では,両者に弱 い正の相関性が認められる。ここで速度の指標には直線 距離を応答時間で除した値を用いているが,実際の伝播 経路は直線的ではなく,むしろ屈曲していることが考え 性の断層が形成するコンパートメント構造が普遍的な水 理地質構造である可能性が考えられる。したがって,今 回適用した水理的なインパクトを周辺観測孔におけるモ ニタリングデータに基づいて解析する手法は,コンパー トメント構造の存在と広がりを把握する有効な手段と考 えられる。 5.4 水みちの連結性の推定 試験1 において MSB − 1 号孔の水頭拡散率が DH − 15 号孔と比べて低いことは,図 10 に示した水圧応答プ ロットの横軸の水圧伝搬性を示す指標の値が低いことと 整合的である。このことは,MIZ − 1 号孔の試験 1 の区 間とMSB − 1 号孔の間に水圧の伝搬を低下させる水理 地質構造が存在する可能性を示唆する。また,2 回の試 験で揚水区間とDH−15号孔の観測区間の中に特に高い 水頭拡散率を有する区間が存在することは,揚水区間と 観測区間の中でも特に水みちの連結性が良い区間が存在 することを示唆していると考えられる。 水みちの連結性は,応答性の指標である水頭拡散率で 評価され,水みちにおける水圧伝搬の速さや流量と相関 性があることが仮想的に構築された水理場において数値

48

図 - 1 1 研 究 所 用 地 周 辺 の リ ニ ア メ ン ト と 水 圧 低 下

領 域 の 概 念 的 な 広 が り

N

N

1km x 1km area

図 11 研究所用地周辺のリニアメントと水圧低下領域の概念的な広がり

(13)

─ ─107 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 53

R

i

=

2 (η t

a r r

)

0.5 ...( 4 ) ここでRi は影響半径,η は水頭拡散率である。図 12 (a)より,水頭拡散率が大きいほど両者の比は大きい傾 られる。次式(4)に示す水頭拡散率と応答時間を用いて 求めた影響半径(Ri )32)と直線距離(L)の比(Ri /L)を図 12( a )中の括弧内に示す。

49

図 -

1 2 水 頭 拡 散 率 と 伝 播 速 度 の 関 係

( a ) は 直 線 距 離 に 基 づ く 速 度 ( ( a ) の 括 弧 内 の 数 字

は 影 響 半 径 と 直 線 距 離 の 比 ),(

b ) は 屈 曲 を 考 慮 し

た 補 正 後 の 速 度 . 破 線 は 試 験

1 の 回 帰 直 線 を , 点 線

は 試 験

2 の 回 帰 直 線 を 示 す .

( a )

( b )

0.0E+00 5.0E-03 1.0E-02 1.5E-02 2.0E-02 0 5 10 15 (1.25) (1.39) (1.04) (1.08) (1.88) (1.40),(1.30),(1.34) (1.43) (3.43) (1.46) (1.52) (3.61) (2.37) (1.31) (1.67) (1.11) (0.80) (2.01) (1.56) MSB-1(3-5)

Diffusivity (m

2

/s)

Ve

lo

cit

y (

m

/s

)

Test 1

Test 2

Test 1

Test 2

Test 1

Test 2

Test 1

Test 2

0.0E+00 5.0E-03 1.0E-02 1.5E-02 2.0E-02 2.5E-02 0 5 10 15

Diffusivity (m

2

/s)

図 12  水頭拡散率と見かけの伝播速度の関係 ( a )は直線距離に基づく速度(括弧内の数字は影響半径と直線距離の比),( b )は屈曲を考慮した補正後の速度 図 13 DH−15号孔の水みちのステレオプロット

50

図 -

1 3 D H - 1 5 号 孔 の 水 み ち の ス テ レ オ プ ロ ッ ト

( 下 半 球 投 影 )

DH15-2

DH15-3

DH15-4

DH15-5

DH15-6

DH15-7

DH15-8

DH15-9

DH15-10

(14)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一 ─ ─108 ( )54 割れ目が卓越していることと整合的であり(図 13),当 初想定した水みち(LAFZ や,MIZ − 1 号孔と DH − 2 号 孔との間の割れ目帯)とは異なる結果となった。このこ とから,今回の孔間水理試験で適用した解析手法は,亀 裂性岩盤における孔間の水みちの連結性を詳細に把握す る上で有効な手法であると考えられる。 上記の結果を基に,孔間試験で水圧応答が確認された 領域の水理地質構造の概念的なモデルを図 14 に示す。 同図に示すように,周辺を低透水性の不連続構造で囲ま れた領域の中に,MIZ − 1 号孔と DH − 15 号孔の孔間で 一次元 ∼ 二次元の流れの形態を有する,伝搬性の良い 水みちが存在するような場であることが推定される。 6.まとめ 本研究では深度数百メートルから千メートルを超える 深層ボーリング孔を用いて,数百メートルから約1km の区間距離での孔間水理試験を実施し,その領域におけ る水理地質構造を推定した。本研究によって得られた知 見は以下のとおりである。 今回実施した孔間水理試験による水圧変動は小さく, 揚水に伴う観測区間での水圧変動は潮汐変動の範囲に入 る程度の小さな応答であった。このデータから大気圧や 地球潮汐などのノイズ成分を除去することにより水圧応 向があることが分かる。これは区間距離が長いほど屈曲 した経路を通って水圧が伝播していることを示唆してい る。また図 12( a )の縦軸の伝搬速度に上記の比(Ri /L) を乗じることにより,屈曲した経路を水頭が伝搬した時 間(伝搬速度)と水頭拡散率との関係を示したものが図 12( b )である。これより,2 回の試験において両者の相 関性は,図12( a )と比較して向上していることが分かる。 さらにタイプカーブマッチングにより得られた流れの次 元は,二次元よりも低次元が多く(表 2),パイプ状に近 い流れであると推定される。以上のことから,水みちは, 割れ目面内のチャンネルもしくは複数の割れ目ネット ワークが構成するパイプ状でかつ屈曲した透水経路から 形成されていることが推定される。 以上のことから,今回の試験において水頭拡散率は水 圧伝播速度との相関性が高いことが確認された。すなわ ち,高い水頭拡散率で示される水みちの連結性は水圧伝 搬速度が大きい区間を示していると考えられる。 これらの高い水頭拡散率を示した観測区間が揚水区間 と高角度の位置関係にあることを考慮すると,孔間で連 結した水みちはMIZ − 1 号孔と DH − 15 号孔間の高角度 傾斜の割れ目が寄与していることが推察される。このこ とは,DH − 15 号孔において実施した流体検層(電気伝 導度検層)の結果33)から得られた水みちに高角度傾斜の

51

図 -

1 4 孔 間 試 験 に 基 づ く 水 理 地 質 構 造 の 概 念 図

図 14 孔間試験に基づく水理地質構造の概念図

(15)

─ ─109 ( ) 亀裂性岩盤を対象とした孔間水理試験に基づく水理地質構造の推定 55 低次元が多く,水みちの連結性は,割れ目面内もしく は複数の割れ目のネットワークなどからなるパイプ状 で,屈曲した透水経路を形成していることが推定され る。 ・ 水圧応答プロットの横軸に用いた応答時間を直線距離 の2 乗で規格化した指標や図 12 の横軸の指標に用い た水頭拡散率は,区間距離とは比例しない(短い距離 でも時間がかかる,もしくは応答性が鈍い)区間が存 在することを示した。この指標により,孔間の水圧伝 播を妨げるような水理地質構造の存在を推定すること が可能と考えられる。 ・ 今回の試験により地上からのボーリング調査に基づい て,キロメートル規模のコンパートメント構造(比較 的広域の水理的な境界)やその内部の水みちの連結性 などの水理地質構造を理解する上で,水圧応答プロッ トや流れの次元を考慮して算出した水頭拡散率に基づ く解釈が有効と考えられる。 答の有無が明瞭に判断できたことから,変動量の小さい データにおけるノイズ成分の除去の有効性が確認され た。 ・ 揚水にともなう水圧応答時間と水圧低下量を指標とし た水圧応答プロットや,地震に同期した水圧変化の分 布傾向から,低透水性の構造で囲まれたコンパートメ ント構造の存在が推定された。 ・ 研究所用地周辺に分布する花崗岩などを対象に推定さ れた水理学的有効間隙率と孔間水理試験時の揚水流量 に基づいて,試験にともなう顕著な水圧低下が発生し た領域の範囲を1 平方キロメートル程度と推定した。 このことは,この領域を境にして水圧低下量が大きく 異なることを示しており,本手法によって地下施設の 建設による周辺環境への影響範囲とその程度を把握す ることが可能であることを示した。 ・ 流れの次元に基づくタイプカーブマッチングにより得 られた水頭拡散率は,水圧の伝播速度と良い相関を示 すことが分かった。さらに流れの次元は二次元よりも 1) 核燃料サイクル開発機構(2005):高レベル放射性廃棄 物の地層処分技術に関する知識基盤の構築−平成17 年 取りまとめ− −分冊 1 深地層の科学的研究−.核燃料 サイクル開発機構,JNC TN1400 2005-014. 2) 長谷川琢磨(2006):地下水流動解析のガイドラインに 関する調査,地下水学会誌,48(2),pp75−86.

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(16)

竹内 真司・竹内 竜史・安藤 賢一

─ ─110 ( )56

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図  3 試験区間(MIZ−1号孔)の透水性割れ目の分布
図 5 観測孔における水圧応答(DH−15 区間 5 のノイズ除去の例)
図 6 揚水試験による観測孔の水圧応答
図 8 流れの次元を考慮したタイプカーブマッチング(上:試験 1,下:試験 2 )

参照

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