SuperKEKB へのビーム輸送路と ダンピングリング
1 はじめに
SuperKEKB加速器(以下、SuperKEKB)は、大 きく分けて2種類の加速器で構成されている。一つ は円形加速器(以下、リングと呼ぶ)で、これは、周 長約3 kmの主リングであるHER(電子リング、エ ネルギーは7 GeV)、LER(陽電子リング、エネル ギーは4 GeV)、および周長約135 mの陽電子ダンピ ングリング(Damping Ring(DR))のように円形に近 い形に設置された真空パイプ内に電子や陽電子ビー ムを周回させる物。もう一つは線形加速器(以下、
LINACと呼ぶ)(長さ約600 m)で様々なリングの上 流に位置し、各リングの要求するパラメーター(ビー ムのエネルギー、1回に入射する電荷量、エミッタ ンス等々)のビームを作り、ビーム輸送路(Beam Transport line (BT))を通して入射する。エミッタン スに関しては後で詳しく述べるが、一般に1塊(バ ンチ(bunch))内の粒子の集団(ビーム)の運動の秩 序・揃い方を言う。エミッタンスが小さいと、ビーム サイズが小さく、また各粒子の運動量広がりが小さ いビームになる[1]。どちらの加速器も構成機器はほ ぼ同じで、ビームが通る真空パイプ、加速装置であ る加速空洞、ビームを制御する電磁石、ビームをモ ニターする位置モニターやプロファイルモニター、
安全装置、それらに指令を与える制御系である。
SuperKEKBは、設計検討中の2008年頃は蓄積 ビームを大電流にする事で、高いルミノシティを 目指していた。しかし検討を進めていくうちに、そ の設計は大電流で問題になるCoherent Synchrotron Radiation(CSR)等の影響が無視できないことがわ かってきたために、比較的小電流で高いルミノシ ティが達成できるナノビーム・スキームという衝突 方式に方向転換した。これは末次 祐介氏、森田 昭夫 氏の講義[2], [3]にある通り、衝突点での砂時計効果
(hour grass effect)を逆転の発想で克服したイタリア の加速器研究者P. Raimondi氏のアイディア[4]で、
リング内のビームをできるだけ低エミッタンスにし 衝突点でのベータ関数を小さくして、さらに電子と 陽電子のビームを水平方向に角度をつけて衝突させ
るという画期的な方法である。この方法だと、入射 はリングのビームのバンチに入射ビームを継ぎ足す 時に、以下の2つの点が入射ビームに要求される。
(1) 電荷量が多いこと
(2) 低エミッタンスであること
SuperKEKBリング内の蓄積ビームが低エミッタン
スということから、バンチ内の粒子間距離が近くなっ てクーロン散乱が起こりやすくなり、バンチの寿命 が短くなる(タウシェック(Touschek)効果)。そ のために入射ビームは高電荷であることが要求され る。また、リング内のビームが低エミッタンスであ る事から、入射ビームも低エミッタンスであること が要求される。KEKBとの比較を図1に示す。この
図1: SuperKEKBリングへの入射ビームの要求値
ように電荷量は3〜5倍も大きいにも関わらず、エ ミッタンスが一桁以上小さいビームを、それを保持 しつつLINAC、BT合わせて約1kmにもわたって 輸送することは、後で述べるように実際は大変困難 なことである。これらのビーム性能は、衝突性能の 向上に応じて徐々に最終要求値に近づけていく。現 在の達成値に関しては、後で述べる。
電子ビームに関しては、周 翔宇氏の講義[5]にあ るようにRF電子銃という特別な電子銃を用いて大 電流・低エミッタンス電子ビームを作ることができ る。しかし陽電子は榎本 嘉範氏の講義 [6]の通り、 ある程度高いエネルギーかつ高電荷の電子ビームを
目 次
SuperKEKBへのビーム輸送路とダンピングリング
1 はじめに … ……… …7-1 2 LINAC とビーム輸送路……… …7-2
3 粒子の位相空間運動…… ……… …7-3 3.1 Longitudinal…Dynamics……… …7-4 3.1.1 エネルギー圧縮システム(ECS)… ……… …7-5 3.1.2 バンチ圧縮システム(BCS)… ……… …7-6 3.1.3 アーク(Arc)とシケイン(Chicane)… ……… …7-7 3.1.4 ウェイク場……… …7-7 4 入射と出射…… ……… …7-8
5 ビーム輸送路の設計…… ……… …7-9 5.1 陽電子キャプチャーセクションからDR入射まで……… …7-10 5.1.1 LTR… ……… …7-11 5.2 ダンピングリングのビームロス… ……… …7-12 5.2.1 キャプチャーセクションのRF位相… ……… …7-12 5.2.2 キャプチャーセクションのRF周波数… ……… …7-13 5.3 DR出射からLER入射まで… ……… …7-14 5.3.1 RTL… ……… …7-14 5.3.2 RTLからLER… ……… …7-15 5.3.3 進行方向のエミッタンス増大……… …7-15 5.3.4 横方向のエミッタンス増大……… …7-16
6 ダンピングリング(DR)……… …7-18 6.1 ダンピングリングの目的… ……… …7-19 6.2 リングのエミッタンス… ……… …7-19 6.2.1 シンクロトロン放射と放射励起……… …7-20 6.2.2 ベータトロン振動の放射減衰……… …7-21 6.2.3 平衡エミッタンス……… …7-21 6.3 リングでの減衰時間… ……… …7-22 6.4 DRのラティス……… …7-22
7 DRの立ち上げ……… …7-24 7.1. LTRの立ち上げ… ……… …7-24 7.2. DRの減衰測定… ……… …7-24
8 LINACとBTにおけるエミッタンス増大……… …7-24 8.1. エミッタンス増大のメカニズム……… …7-25 8.2. エミッタンス保存のための努力……… …7-26 9 SuperKEKBへの入射……… …7-27 References…… ……… …7-28