一般化三角関数に対する Mitrinovi´c-Adamovi´c 不等式
Mitrinovi´c-Adamovi´c’s inequalities for the generalized trigonometric functions
シ ス テ ム 理 工 学 専 攻 MF15013
お お ば
大場
たかのり孝 則
非 線 形 解 析 研 究 指導教員 竹内 慎吾
1 研究背景と目的
三角関数は
,数学のみならず物理学や工学など様々 な場面で登場する重要な道具である. 一方, 一般化され た三角関数に関する研究は未だ十分に進んでいない
.研究の起点となったのは, 次の非斉次固有値問題
{
(|u′|p−2u′)′+λ|u|q−2u= 0, 0< x < L, u(0) =u(L) = 0
である
.この固有値問題の解の存在自体は
Otani(1984)ˆにより示されていた. その結果を受けて, D´
rabek- Man´asevich(1999)は一般化三角関数
sinp,qxの導入に より, 固有値と固有関数の組に対し具体的な表示を与え ることに成功した. 結果として
sinp,qxと
n∈N, R∈ R\{0}を用いて, 固有値
λn,Rと固有関数
un,Rは次の ように表される:
λn,R=(p−1)q p
(nπp,q
L )p
|R|p−q, un,R=Rsinp,q
(nπp,q
L x
) .
一般化三角関数を応用したこのような研究は多数存 在する. しかし, それらは主に
p =qの場合の研究で あって
, p̸=qの場合についてはまだ応用の余地があ ると思われる
([1],[3]などを参照). よって, 研究が進ん でいない部分も多くある
sinp,qx自体の性質を求める ことに, 十分な意義があると考えられる.
本研究ではその一環として, 三角関数に対して知ら れている
Mitrinovi´c-Adamovi´c不等式を一般化し
,さ らに従来の研究では得られていなかった評価式を導く.
以下では, 1
< p <∞, 1< q <∞とする.
2 一般化三角関数
一般化三角関数の導入の準備として, 関数
Fp,q(x)を 次のように定義する:
Fp,q(x) :=
∫ x 0
1
(1−tq)1/pdt, 0≤x≤1.
区間
[0, πp,q]上の非線形
Dirichlet問題:
{
(|u′|p−2u′)′+|u|q−2u= 0,
u(0) =u(πp,q) = 0 (1)
について考える.
πp,qは次の値とする:
πp,q:= 2Fp,q(1) = 2
∫ 1 0
1 (1−tq)1/pdt.
式
(1)を満たす解
u(x)を一般化三角関数
sinp,qxとし て定義すると, sin
p,qxは
Fp,q(x)の逆関数と一致する.
すなわち,
sinp,qx=Fp,q−1(x).
p=q= 2
のとき, sin
p,qxと
πp,qはそれぞれ
sinxと
πと一致する
.また
p=qのときは
, sinp,pxを
sinpxとして,
πp,pを
πpとして表記する.
3 一般化三角関数の性質
関数
cosp,qxを以下のように定義する:
cosp,qx:= d
dxsinp,qx, 0< x < πp,q 2 .
逆関数の微分により,
cosp,qx= (1−(sinp,qx)q)1/p
となるので次の関係式が導ける.
定理
3.1 (一般化三角関数の相互関係式).cospp,qx+ sinqp,qx= 1.
p=q= 2
の場合, よく知られた
cos2x+ sin2x= 1という等式と一致する
.また, それぞれの微分について確認する.
定理
3.2 (一般化三角関数の微分).(sinp,qx)′= cosp,qx,
(cosp,qx)′ =−qpsinqp,q−1x·cos2p,q−px, (cospp,q−1x)′ =−q(pp−1)sinqp,q−1x.
通常の三角関数を扱う場合と異なり
, cosp,qxの微
分で余計な項が出現するため計算が複雑になる場合が
多い.
4 Mitrinovi´ c-Adamovi´ c 不等式
Mitrinovi´c-Adamovi´c(1965)
は次の定理を示した.
定理
4.1 (Mitrinovi´c-Adamovi´c不等式
). a≤3のと き, 任意の
x∈(0, π/2)に対して,
cosx <
(sinx x
)a
.
a >3
のとき,
aにより決まる
ξ∈(0, π/2)が存在して,
cosx >(sinxx)a, 0< x < ξ, cosξ= (sinξξ)a,
cosx <(sinxx)a, ξ < x <π2.
Kl´en-Vuorinen-Zhang[2]
は
sinpx, cospxについて
,定理
4.1に対応する結果を得ている. 彼らの結果では, 境目の
a = 3に対応する値が
a= 1 +pであり
,特に
a >1 +pのとき,
a, pにより決まる
ξ∈(0, πp/2)が存 在して, 上記と同様に大小が反転することがわかって いる
.本研究では, 一般の
sinp,qx, cosp,qxについて定理
4.1に対応する次の結果を得た
. p=qの場合は
[2]の 結果と一致することに注意しておく.
定理
4.2 (一般化
Mitrinovi´c-Adamovi´c不等式
). a≤ 1 +qのとき, 任意の
x∈(0, πp,q/2)に対して,
cosp,qx <
(sinp,qx x
)a
. (2)
a >1 +q
のとき,
a, p, qにより決まる
ξ∈(0, πp,q/2)が存在して,
cosp,qx >(sinp,qx x)a, 0< x < ξ, cosp,qξ= (sinp,qξ ξ)a,
cosp,qx <(sinp,qx x)a, ξ < x < πp,q2 .
(3)
証明の概要を述べる.
f(x)を以下のように定義する:
f(x) :=x−sinp,qx·(cosp,qx)−1/a.
特に
a= 1 +qとすると,
f′′(x)<0が示せて, かつ
f′′(x)<0⇒f′(x)< f′(0) = 0⇒f(x)< f(0) = 0.のような順序で,
cosp,qx <(sinp,qx x
)1+q
が導ける. さらに
(0, πp,q/2)区間では
0<sinp,qx/x <1
であるので,
a≤1 +qに対して
(2)を得る.
一方,
a >1 +qのとき,
f′′(x)の符号が
cospp,q(ζ)− (1−a+ap)q(a−1)(ap−q)
の符号と一致することがわかる. いま,
0< (1−a+ap)q(a−1)(ap−q)<1
であるので, cos
pp,qxの単調性から,
cospp,q(ζ) = (1−a+ap)q
(a−1)(ap−q) (4)
となるような
ζ ∈(0, πp,q/2)が一意に存在する
.これ を受けて
f′′(x)の符号が定まり, 各範囲で以下の通り となる.
f′′(x)>0, 0< x < ζ, f′′(ζ) = 0,
f′′(x)<0, ζ < x < πp,q2 .
さらにこの結果により,
f′(x)は
f′(0) = 0から
f′(ζ)まで増加して, それ以降は
f′(πp,q/2−0) =−∞まで単 調に減少する. このとき
f′(x)の零点を
η∈(ζ, πp,q/2)とすると
,各範囲での
f(x)の傾きが判明する
.同様に して,
f(x)は
f(0) = 0から
f(η)まで増加して, それ 以降は
f(πp,q/2−0) = −∞まで単調に減少する. こ のとき
f(x)の零点を
ξ∈(η, πp,q/2)として, 各範囲で 変形を行うと
(3)の結果を得ることができる.
定理
4.2の結果から
, cosp,qxと
(sinp,qx/x)aの大 小関係が反転する境目は
a= 1 +qであり, 2 個のパ ラメータ
{p, q}のうち
qのみによって定められること が判明した. このことで
Kl´en-Vuorinen-Zhang[2]の境 目
a= 1 +pに現れる
pが, パラメータ
{p, p}におけ る 後
˙者の
˙ pであることがわかった. これは従来の研究 ではわからなかった興味深い結果である.
定理
4.2の
ξの評価に関する考察は
, p=q= 2の ときでさえも明記されている文献は見当たらなかった.
これについて,
ζ < ξ < πp,q/2であることと
(4)から, 次の評価を得る.
命題
4.1 (ξの評価式).
a >1 +qのとき,
∫ ((a−1)(ap−q)ap(a−1−q) )1/q
0
dt
(1−tq)1/p < ξ <πp,q 2 .
参考文献
[1] D.E. Edmunds, P. Gurka and J. Lang,Properties of generalized trigonometric functions, J. Approx.
Theory 164 (2012), 47–56.
[2] R. Kl´en, M. Vuorinen and X. Zhang,Inequalities for the generalized trigonometry and hyperbolic functions, J. Math. Anal. Appl. 409 (2014) , 521–
529.
[3] S. Takeuchi, Multiple-angle formulas of general- ized trigonometric functions with two parameters, J. Math. Anal. Appl. 444 (2016) , 1000–1014.