ソリトン系の基本パターン Part 3
黒木 玄
2001
年6
月14
日∗
目 次
1 Poisson
構造の一般論2
2 Lie algebra
のdual space
上のPoisson
構造5
2.1 g
∗ 上のPoisson bracket
の座標表示. . . . 5
2.2 S(g)
とU (g)
の関係. . . . 6
2.3 g
∗ 上のPoisson bracket
の他の表示. . . . 6
2.4 g
∗ 上のHamiltonian vector field
とLax
方程式. . . . 7
3
ソリトン系のLie algebra
レベルでのHamiltonian
構造9 3.1
ソリトン系の基本パターンの復習. . . . 9
3.2 Lie algebra
レベルでのHamiltonian
構造が存在するための十分条件. . . . 11
4
前節の方法が使えない場合について13
5
群レベルでのHamiltonian
構造を考えることの必要性15
∗これはプレインテキスト版
http://www.math.tohoku.ac.jp/∼kuroki/Hyogen/Soliton-3.txt
の日付け.TEX
版は2002
年1
月17
日に菊地哲也によって作成された. この版はさらにそれに筆者が追加・修正を加 えたものである. 筆者の疑問や意見は2001
年6
月14
日時点のものであり,現在では解決や変化している場 合がある.Date: Thu, 14 Jun 2001 21:39:24 +0900 (JST) From: Kuroki Gen <[email protected]>
Message-Id: <[email protected]>
Subject:
ソリトン系の基本パターンPart 3
これはhttp://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Hyogen/Soliton-1.0.txt http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Hyogen/Soliton-1.1txt http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Hyogen/Soliton-2.txt
の続き. ソリトン系について専門家であればよく知っていることはずの事柄をメールに書 いて送っています.
このメールの内容はソリトン系の
Lie algebra
レベルでのHamiltonian
構造に関する解 説です. 簡単のために基礎体は実数体R
または複素数体C
であるとする.1 Poisson 構造の一般論
一般に可換環
A
のPoisson
構造とはLie algebra
の公理を満たすlinear map { , } : A ⊗ A → A
で任意のf, g, h ∈ A
に対して,{f, gh} = {f, g}h + g{f, h}
を満たすもののことである. この条件は,
{f, · }
がA
に作用するderivation
であること を意味している. このとき,{ , }
はPoisson bracket
であると言う.よって,
A
が多様体M
上の函数環C
∞(M )
であるならば,{f, · }
はM
上のベクトル 場であることを意味している. Poisson bracketはLie algebra
の公理を満たしているので,{ · , f} = −{f, · }
であるから,{ · , f }
もM
上のベクトル場になる. このことから,M
のlocal coordinate x
i を取るとき,M
上の函数f, g
のPoisson bracket
は次のように計算さ れる:{f, g} = X
i,j
{x
i, x
j} ∂f
∂x
i∂g
∂x
j.
よって, 局所的に
Poisson bracket
は局所座標x
i たちのPoisson bracket
によって決定さ れる. Poisson bracketに対して,B = X
i,j
{x
i, x
j} ∂
∂x
i⊗ ∂
∂x
jを
Poisson bivector
と呼ぶ.B
は次のようなT
∗M
からT M
への写像と同一視される:B Ã X
j
A
jdx
j!
= X
i,j
{x
i, x
j}A
j∂
∂x
i.
すなわち, Poisson bivectorを通して, 1-form から
vector field
が得られる.例
1.1 (symplectic structure
のPoisson
構造)
座標q
i, p
i(i = 1, . . . , n)
において,次の公式は
Poisson
構造を定める:{q
i, p
j} = δ
i,j, {q
i, q
j} = {p
i, p
j} = 0.
一般の函数
f, g
に対しては,{f, g} =
X
ni=1
µ ∂g
∂p
i∂f
∂q
i− ∂g
∂q
i∂f
∂p
i¶ .
以下
M
はPoisson
構造が定められた多様体(それを Poisson
多様体と呼ぶ) であるとし,
x
i は局所座標系であるとする.このとき, 上で注意したように
M
上の函数H
に対して,M
上のベクトル場{ · , H } = B(dH) = X
i,j
{x
i, x
j} ∂H
∂x
j∂
∂x
iが定まる. これを
Hamiltonian H
から定まるM
上のHamiltonian
ベクトル場と呼ぶ. そし て, Hamiltonianベクトル場から決まるフローを記述する次の常微分方程式をHamiltonian H
に関するHamilton
の正準運動方程式(Hamilton’s canonical equation of motion)
もし くはHamilton
方程式と呼ぶ:dx
idt = {x
i, H } = X
j
{x
i, x
j} ∂H
∂x
j.
この方程式の解を
M
上の函数F
に代入したものをF
と略記すると,F
もx
i と同じ形 の次の方程式を満たしている:dF
dt = {F, H }.
実際,
左辺
= X
i
dx
idt
∂F
∂x
i= X
i,j
{x
i, x
j} ∂H
∂x
j∂F
∂x
i=
右辺.例
1.2
例1.1
の状況のもとで, HamiltonianH
に関する正準運動方程式は次の形になる:dq
idt = ∂H
∂p
i, dp
idt = − ∂H
∂q
i(i = 1, . . . , n).
例えば,
n = 1, (q, p) = (q
1, p
1)
でH = H(q, p) = 1
2m p
2+ U (q)
のとき,正準方程式は次の形になる:dq dt = p
m , dp
dt = − ∂U
∂q .
この微分方程式は左の式と同値な
p = m dq/dt
を右の式に代入することによって次と同 値であることがわかる:m d
2q
dt
2= − ∂U
∂q .
これは, ポテンシャル
U
の中での質量m
の質点に関するNewton
の運動方程式である.例えば,バネ定数
k
の調和振動子のポテンシャルはU = U(q) = k
2 q
2の形になる. 調和振動子の正準運動方程式と
Newton
の運動方程式は次の形になる:dq dt = p
m , dp
dt = −kq; m d
2q
dt
2= −kq.
古典力学における多くの
Hamiltonian
は上のような形をしている. Hamiltonianの物理的 意味は系の全エネルギーである. 例えば上の場合においては,K = 1
2m p
2= (運動エネルギー),
U = U (q) = (ポテンシャル・エネルギー), H = K + U = (全エネルギー).
定理
1.3 Hamiltonian H
に関するHamiltonian
ベクトル場から決まる流れに沿って函数F
がconstant
であるための必要十分条件は恒等的に{F, H} = 0
が成立すること, すなわち
F
がH
とPoisson
可換であることである.証明.
x(t) = (x
i(t))
がHamilton
方程式の解であるとすると, 上で述べたように,dF
dt (x(t)) = {F, H }(x(t))
が成立している. よって,
F
がx(t)
に沿ってconstant
であるための必要十分条件は{F, G}(x(t)) = 0
が成立することである. よって, 任意の解曲線x(t)
に沿ってF
がconstant
であるための必要十分条件は恒等的に{F, H } = 0
が成立することである.定義
1.4 Hamiltonian H
に関する保存量とはH
とPoisson
可換な函数のことである. 例 えば,H
自身は保存量である. 上の定理より保存量とはHamilton
方程式の解に沿ってconstant
な函数のことである.互いに
Poisson
可換なHamiltonians H
j は互いに可換なHamiltonian
ベクトル場を定める. 互いに
Poisson
可換なHamiltonians
の系を見付けることは古典力学における基本的な問題である.
参考
1.5 Poisson
多様体とsymplectic
多様体(定義は省略)
の間には以下のような関係がある:
(1) Poisson
多様体M
がsymplectic
になるための必要十分条件は任意の局所座標系で行列
({x
i, x
j})
i,j=1,... ,n が任意の点で可逆になることである.(2) Poisson
多様体M
上の点x
から,幾つかのHamiltonian
ベクトル場に沿ってたどり 着ける点の全体N
はx
を含むsymplectic
部分多様体である.この結果は
constant rank
の場合が• A. A. Kirillov, “Local Lie algebras”, Russian Math. Surveys, 31, (4), (1976), 55–75.
で証明され, 一般の場合は
• A. Weinstein, “The local structure of Poisson manifolds”, J. Diff. Geom. 18, (1983), 523–557.
で証明された. 上のような
N
をM
のsymplectic leaf
と呼ぶ.例えば, Lie 群
G
のcoadjoint orbits
の全体はLie
環g
のdual space g
∗ におけるsymplectic leaves
の全体に一致している.2 Lie algebra の dual space 上の Poisson 構造
g
はLie algebra
であるとき,そのdual space g
∗ には自然にPoisson
構造が入ることを 説明する.2.1 g ∗
上のPoisson bracket
の座標表示任意の
X ∈ g
はg
∗ 上のlinear
な函数とみなせ,g
のbasis
はg
∗ のlinear
な座標系と みなせる. よって,g
∗ 上のPoisson
構造はg
の元たちのPoisson brackets
から一意に決定 される.g
∗ 上の標準的なPoisson
構造とは,{X, Y } = [X, Y ] (x, y ∈ g)
によって決まる
Poisson
構造のことである. ここで, 右辺の[ , ]
はg
のLie algebra
構造 である.g
のbasis E
i に対応するg
∗ 上のlinear
な座標系をx
i と書くとき,g
∗ 上の函数F, G
のPoisson bracket
は前節に書いたように次の形になる:{F, G} = X
{x
i, x
j} ∂F
∂x
i∂G
∂x
j= X
[E
i, E
j] ∂F
∂x
i∂G
∂x
j.
例
2.1 g = gl(n)
であるとし, そのbasis
として行列単位E
ij を取る.g
にinvariant nondegenerate symmetric bilinear form ( , )
を(X, Y ) := trace(XY ) (X, Y ∈ g)
と定め, これを用いて
g
∗= g
と同一視しておく. このとき, 行列単位E
ij はg
∗ 上の次の ような函数と同一視される:X → x
ji= (E
ij, X ) (X = (x
ij) ∈ g = g
∗).
すなわち,
E
ij は行列の(j, i)
成分を与える函数x
ji と同一視される. 行列単位は[E
ij, E
kl] = δ
jkE
il− δ
liE
kjを満たしているので,
g
∗= g
上のPoisson
構造はi
とj, k
とl
を交換した次の公式で決 定される:{x
ij, x
kl} = δ
ilx
kj− δ
kjx
il.
この式の右辺はちょうど行列単位の関係式の
−1
倍の形になっている. これが,gl(n)
の場 合のPoisson bracket
の公式である.2.2 S(g)
とU (g)
の関係g
∗ 上のPoisson
構造とg
のuniversal enveloping algebra U(g)
は密接に関係している.g
から生成されるsymmetric algebra S(g)
はg
∗ 上の多項式函数全体のなす可換環と同一 視され, Poisson 構造を持つ. 一方,U (g)
にincreasing filtration U
n をU
0= C, U
n+1= U
n+ gU
n と定めると, 以下が成立することがわかる:(1) U
mU
n∈ U
m+n, (2) [U
m, U
n] ∈ U
m+n−1,
(3) S
n(g) = gr
nU (g) := U
n/U
n−1.
P ∈ U
n− U
n−1 に対応するS
n(g)
の元をσ
n(P )
と書き,P
のsymbol
と呼ぶ. このとき,P ∈ U
m− U
m−1, Q ∈ U
n− U
n−1 に対してσ
m+n−1([P, Q]) = {σ
m(P ), σ
n(Q)}.
すなわち,
S(g)
のPoisson bracket
はU (g)
のcommutator
のsymbol
で表わせる. この 結果より,S(g)
のPoisson bracket
がLie algebra
の公理を満たしていることがすぐにわ かる. このことから,U (g)
はg
∗ 上の函数環S(g)
の量子化になっていることがわかる.U (g)
とS(g)
の関係と同様の関係が多様体M
上の微分作用素環とcotangent bundle T
∗M
上の函数環のあいだにある.以上の話に関しては,
•
谷崎俊之,『環と体3
非可換環論』, 岩波講座現代数学の基礎17,
岩波書店 の第3
章が詳しい.2.3 g ∗
上のPoisson bracket
の他の表示g
∗ とg
のあいだのpairing
をh , i
と書くことにする.g
∗ 上の各点でのtangent space
はg
∗ 自身と同一視されるので, cotangent space はg
と 同一視される.g
のbasis E
i をg
∗ 上のlinear
な座標系x
i と同一視する:x
i(X) = hX, E
ii (X ∈ g
∗).
例えば, 例
1.2
によればg = gl(n)
のとき, 行列単位E
ij と行列X
に対してその(j, i)
成 分x
ji を対応させる函数が同一視されるのであった.このとき,
g
∗ 上の1-form
とg
∗ 上のg-valued function
が次のように同一視される:X f
i(x)dx
i= X
f
i(x)E
i.
よって,
g
∗ 上の1-form
にはg
のLie algebra
構造を用いて,自然にbracket
が定義される:[dx
i, dx
j] = [E
i, E
j].
定理
2.2
以上の準備のもとで,g
∗ 上の函数F , G
に対して, そのPoisson bracket
は以下 のような表示を持つ:{F, G}(X) = hX, [dF (X), dG(X)]i.
証明
.
第2.1
節より,{F, G} = X
[E
i, E
j] ∂F
∂x
i∂G
∂x
j であるから,左辺
= X
hX, [E
i, E
j]i ∂F (X)
∂x
i∂G(X)
∂x
j=
¿
X, X
[E
i, E
j] ∂F (X)
∂x
i∂G(X)
∂x
jÀ
=
¿
X, ·X ∂F (X)
∂x
iE
i, X ∂G(X)
∂x
jE
j¸À
=
右辺.もちんん, この定理の公式を
g
∗ 上のPoisson
構造の定義だと思っても良い.2.4 g ∗
上のHamiltonian vector field
とLax
方程式前節の記号をそのまま用いる.
H
はg
∗ 上の函数であるとする. 実際には,g
∗ 上の1-form dH = X
f
idx
i, f
iはg
∗ 上の函数が与えられていれば良い.
dH
に対応するg
∗ 上のg-valued function
をA(X) = X
f
i(X)E
i∈ g (X ∈ g
∗)
と書くことにする.このとき,
g
のbasis E
i のdual basis
をE
i と書くと,L = X
hL, E
iiE
i= X
x
i(L)E
i(L ∈ g
∗).
{L, H }(L) ∈ g
∗ を次のように定める:{L, H }(L) := X
{x
i, H }(L)E
i.
要するに,
{L, H }(L)
はL
の“行列成分”
のそれぞれに{ · , H }
を作用させることによっ て得られる“行列”
である. この記法を用いると, Hamiltonの方程式をまとめて次のよう に書ける:dL
dt = {L, H }.
定理
2.3
以上の記号のもとで次が成立している:{L, H }(L) = ad
∗(A(L))L (dH(L) = A(L) ∈ g).
よって, Hamilton 方程式は次のように書ける:
dL
dt = ad
∗(A(L))L.
証明
.
定理2.2
より,{x
i, H }(L) = hL, [dx
i(L), dH(L)]i
= hL, [E
i, A(L)]i
= had
∗(A(L))L, E
ii = x
i(ad
∗(A(L))L).
よって,
{L, H}(L) = X
x
i(ad
∗(A(L))L)E
i= ad
∗(A(L))L.
g
のinvariant nondegenerate symmetric bilinear form
によって,g
∗= g
と同一視され ている場合を,簡単のため以下g
∗= g
の場合と呼ぶことにする.系
2.4 g
∗= g
のとき,ad
∗(A)L = [A, L]
が成立しているので,{L, H}(L) = [A(L), L] (dH(L) = A(L) ∈ g).
よって, Hamilton 方程式は次のような
Lax
方程式で書ける:dL
dt = [A(L), L].
以上の結果より,
g
∗ 上のHamilton
方程式は本質的にLax
方程式であることがわかっ た. よって,g
∗= g
と同一視されているとき,g
∗ 上に互いにPoisson
可換なHamiltonians H
i が与えられたならば,g
∗ 上の互いに可換なフローを生成するLax
方程式系dL
dt = [B
i(L), L], B
i(L) = dH
i(L)
が得られる.注意
2.5 g
∗ 上のHamiltonians
としてcoadjoint invariant functions
を取ると, それらはPoisson
可換になるだけではなく,g
∗ 上のあらゆる函数とPoisson
可換になってしまう.よって, coadjoint invariant function から得られる上の
Lax
方程式はdL/dt = 0
という自 明な方程式しか与えない. Coadjoint invariant functions 非自明なLax
方程式を得るため にはg
∗ 上のPoisson
構造としてg
上のもう一つのLie algebra
構造“r-bracket”
によって 定められたものを考えなければいけない. 次の節を参照せよ.3 ソリトン系の Lie algebra レベルでの Hamiltonian 構造
この節ではある条件を満たしているソリトン系の
Lie algebra
レベルでのHamiltonian
構造について説明する.3.1
ソリトン系の基本パターンの復習一般にソリトン系は抽象的には以下のような設定で定式化されるのであった.
g
はLie algebra
であり, linear mapr
+, r
−: g → g
で以下の条件を満たすものが与えら れていると仮定する:(1) r
+− r
−= 1.
(2) A ∈ g
に対して,A
+:= r
+(A), A
−:= r
−(A)
と置く.(3) r-bracket
を[A, B]
r:= [A
+, B
+] − [A
−, B
−] (A, B ∈ g)
と定める.(4) g
にr-bracket
を入れたものをg
r と書く.(5) g
r はLie algebra
である.(6) r
+, r
− はg
r からg
へのLie algebra homomorphism
である.実は
(6)
は本質的にr
+, r
− に関するclassical Yang-Baxter equation
であり, (5)は(6)
を 仮定すればいつでも成立している. 詳しい解説についてはhttp://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Hyogen/Classical-r-1.txt
古典r
行列入門Part 1
の「2. classical
r-operator
およびr-matrix
の一般論」を参照せよ.ポイントは
g = g
r に二つのLie algebra
構造[ , ], [ , ]
r が定められていることである.よって,
g
∗= g
∗r にも二つのPoisson
構造{ , }, { , }
r が定められていることになる. 実 はソリトン系のlinear Poisson bracket
は{ , }
r の形をしている.g, g
r のcoadjoint
表現をそれぞれad
∗, ad
∗r と書くことにする. それらのあいだには以 下のような関係がある.補題
3.1 A ∈ g, L ∈ g
∗ がad
∗(A)L = 0
を満たしていれば,ad
∗r(A)L = ad
∗(A
+)L = ad
∗(A
−)L.
g
∗= g
の場合に対応する結果は, [A, L] = 0 のとき,[A, L]
r= [A
+, L] = [A
−, L].
ソリトン系の
Lax
方程式の右辺はこの形をしていることに注意せよ.証明
. B ∈ g
とすると,had
∗r(A)L, Bi = hL, [B, A]
ri
= hL, [B
+, A
+] − [B
−, A
−]i
= had
∗(A
+)L, B
+i − had
∗(A
−)L, B
−i.
ここで, ad∗
(A)L = 0
より, ad∗(A
+)L = ad
∗(A
−)L
であるから,had
∗r(A)L, Bi = had
∗(A
+)L, B
+− B
−i = had
∗(A
+)L, Bi, had
∗r(A)L, Bi = had
∗(A
−)L, B
+− B
−i = had
∗(A
−)L, Bi.
よって, ad∗r
(A)L = ad
∗(A
+)L = ad
∗(A
−)L.
g, g
r に対応するsimply connected
なLie
群をG, G
r と書き, Lie algebra homomor-phisms r
+, r
−: g
r→ g
に対応するLie group homomorphisms
もr
+, r
−: G
r→ G
と書 く.g ∈ G
r に対して,g
+:= r
+(g), g
−:= r
−(g)
と書くことにする.G
r はG
に右から次のように作用する:x ∗ g = g
−−1xg
+(x ∈ G, g ∈ G
r).
このとき,
I : G
r→ G
をI(g) := g
−−1g
+(g ∈ G
r)
と定めると,
I
はG
r の単位元の近傍で微分同相写像になっている. よって,単位元の近傍 に含まれるG
の元x
は単位元の近傍に含まれるg ∈ G
r によって,x = g
−1−g
+と一意的に表わされる. 以下, このような
x ∈ G, g ∈ G
r のみを考える. 以上の結果に関 してはhttp://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Hyogen/Classical-r-1.txt
の「3. factorizable Lie algebraに関係した各種factorizations」を参照せよ.
ここでさらに, 互いに可換な
P
i∈ g (i ∈ I)
が与えられていると仮定する:[P
i, P
j] = 0 (i, j ∈ I).
x(0) = g
−(0)
−1g
+(0) (g(0) ∈ G
r)
を初期値とするP
i たちのの左作用によるフローをx(t)
と書く:x(t) = exp ³X t
iP
i´ x(0).
この
x(t)
を次のように分解しておく:x(t) = g
−(t)
−1g
+(t) (g(t) ∈ g
r, g
±(t) = r
±(g(t))).
このとき,
∂
i:= ∂/∂t
i と置くと,(1) L
i:= ∂
i(g)g
−1∈ g
r,
(2) B
i:= r
+(L
i) = (L
i)
+∈ g,
(3) B
ic:= r
−(L
i) = (L
i)
−∈ g
と置くと,(4) ∂
i(g
+)g
+−1= B
i, (5) ∂
i(g
−)g
−−1= B
ci,
(6) L
i= g
−1−P
ig
−= B
i− B
ic, (7) [L
i, L
j] = 0
(8) ∂
iL
j= [B
i, L
j] (Lax
方程式),(9) [∂
i− B
i, ∂
j− B
j] = 0 (零曲率方程式).
などが成立する. 以上の結果に関しては,
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Hyogen/Classical-r-1.txt
の「4. factorizable Lie algebraに付随した
soliton system」を参照せよ. (具体的なソリト
ン系について知っている人はそれを思い浮かべでも良い.)3.2 Lie algebra
レベルでのHamiltonian
構造が存在するための十分 条件以下,
g
にはinvariant nondegenerate symmetric bilinear form ( , )
が定められている と仮定し,g
∗= g
と同一視されているとする.問題は前節の
Lax
方程式∂
iL
j= [B
i, L
j]
をHamilton
方程式で表わすことである.そのために,ここで新たに以下の条件を仮定する:
(A) g
はあるassociative algebra A
に埋め込まれており,g
のbracket
はA
におけるcommutator
に一致している.(B)
あるΛ ∈ A
と1 ∈ I
が存在して,P
1= Λ
であり, 全てのP
i が次のように表示可能 である:P
i= Λ
di(d
i∈ Z
>0, i ∈ I).
(C) g
∗= g
上の函数H
i でdH
i(L) = L
di∈ g
を満たすものが存在する.注意
3.2
前者の条件(A)
は大抵の場合に成立している. ここで本質的なのは後者の(B)
と(C)
の条件である. (B)はKP
系やKdV
系などでは満たされているが, NLS 系では満 たされてない. 多くの例において,全てのP
i を表わすために複数のΛ ∈ A
が必要である.そのような例では
(B)
は成立してない. 条件(C)
については次の例を参照せよ.例
3.3 g = gl(n, C) = M (n, C)
の場合. (A, B) = trace(AB) によって,g
∗= g
とみなせ る. この同一視によって, 行列単位E
ij と行列に対してその(j, i)
成分を対応させる函数x
ji とdx
ji が同一視される. このとき,H
d(L) = 1
d + 1 trace(L
d+1)
と置くと,dH
d(L) = trace(L
ddL) = X
(L
d)
ijdx
ji(L) = X
(L
d)
ijE
ij= L
dである. よって条件
(C)
が成立している. 一般に,trace(A(L)dL) = X
A(X)
ijdx
ji(L)
= X
A(L)
ijE
ij= A(L).
が成立している. よって,
dH(L) = trace(A(L)dL)
を満たすようなHamiltonian H
関す るHamilton
方程式はLax
方程式dL/dt = [A(L), L]
になる.例
3.4 g, g
∗ のdual bases E
i, E
i を取り,E
i に対応するg
∗ 上のlinear function x
i をx
i(L) := hL, E
ii (L ∈ g
∗)
と定める. このとき,
L = X
hL, E
iiE
i= X
x
i(L)E
i(L ∈ g
∗).
さらに,
A ∈ g
に対して,A
i:= hE
i, Ai
と定め,
g
∗ 上のg-valued function A(L)
に対して,g
∗ 上の1-form ω
A を形式的に次のよ うに定義する:ω
A:= hdL, A(L)i = X
dx
ihE
i, A(L)i = X
A(L)
idx
i.
これは
dx
i とE
i を同一視すれば,A(L)
と同一視される. よって, もしもg
∗ 上の函数H
でdH = ω
A を満たしているならば,H
に関するHamilton
方程式はdL/dt = [A(L), L]
の形になる. そのような
H
が存在するための条件dω
A= 0
が成立するための必要十分条件は
∂A(L)
i∂x
j= ∂A(L)
j∂x
i が成立することである.上の仮定
(A), (B)
のもとで,L = L
1 と置くと,L
i= L
di が成立するので,L
j に関するLax
方程式∂
iL
j= [(L
i)
+, L
j]
はL
に関するLax
方程式∂
iL = [(L
di)
+, L]
から導かれる. よって, この方程式を
Hamilton
方程式で表わせば良い.定理
3.5
仮定(A), (B), (C)
のもとで,g
∗= g
上のr-bracket
に関するPoisson bracket
を{ , }
r と書くと,{L, H
i}
r(L) = [L
di, L]
r= [(L
di)
+, L] = [(L
di)
−, L].
特に,
{ , }
r に関するH
i に関する時間変数t
i のHamilton
方程式は∂
iL = [(L
di)
+, L] = [(L
di)
−, L]
と書ける.
証明. 仮定
(C)
よりdH
i(L) = L
di が成立しているので, 系2.4
より,{L, H
i}
r(L) = [L
di, L]
r が成立している. よって, 補題3.1
より,{L, H
i}
r(L) = [(L
di)
+, L] = [(L
di)
−, L]
が成立することがわかる.
4 前節の方法が使えない場合について
前節では全ての
Lax operators
が1
つのLax operator L = g
−Λg
−−1 の多項式で表わさ れている場合には適用できるが,そうでない場合には適用できない.この節ではその理由を説明するために次の場合について考える:
• g = gl(n, C) = M (n, C).
• Λ
a∈ g (a = 1, . . . , S )
は互いに可換である.• P
i= Λ
i= Λ
i11· · · Λ
iSS(i ∈ Z
S=0).
• g
+, g
− はg
のsubalgebra
であり,g = g
++ g
−(線形直和).
• g
からg
+ へのprojection
をr
+ と書き,g
− へのprojection
の−1
倍をr
− と書き,X ∈ g
に対して,X
+:= r
+(X), X
−:= r
−(X)
と置く.• g
にr-bracket
を[X, Y ]
r:= [X
+, Y
+] − [X
−, Y
−]
と定める.g
にr-bracket
を入れた ものg
r はLie algebra
をなし,r
+, r
− はg
r からg
へのLie algebra homomorphism
をなす.S = 1
の場合は前節の仮定が全て満たされている. しかし,S = 2
ならば一般に前節の仮 定は満たされない.上の設定のもとで,
L
a= g
−Λ
ag
−−1 と置くと,i ∈ I
に対して,L
i= L
i= L
i11…LiSSであるから, 全ての
L
i(i ∈ I)
に関するLax
方程式は,L
a(a = 1, . . . , S)
に関するLax
方程式∂
iL
a= [(L
i)
+, L
a] = [(L
i11· · · L
iSS)
+, L
a] (4.1)
に帰着される. 問題はこのLax
方程式をHamilton
方程式の形で書けるかどうかである.S
個のg
の直積Lie algebra
をp
と書くことにする:p := g
S= (S
個のg
の直積Lie algebra).
p = g
Sr と見ることによって,p
にはr-bracket
が定義される.X = (X
a) ∈ p
に対して,X
+:= ((X
1)
+, . . . , (X
S)
+), X
−:= ((X
1)
−, . . . , (X
S)
−)
と書くと,
p
のr-bracket
はいつものように[X, Y ]
r= [X
+, Y
+] − [X
−, Y
−]
と表わされる.p = M (n, C)
S 上にtrace
とinvariant nondegenerate symmetric bilinear form ( , )
をtrace(A) := P
Sa=1
trace(A
a) (A = (A
a) ∈ M (n, C)
S), (A, B) := trace(AB ) = P
trace(A
aB
a) (A = (A
a), B = (B
a) ∈ p = g
S)
と定める. これによって,p
∗= p
とみなす.p
の部分多様体M
を次のように定義する:M := ©
L = (L
a) ∈ p = g
S¯
¯ [L
a, L
b] = 0 (a, b = 1, . . . , S) ª .
例えば,L
a= g
−Λ
ag
−1− の場合はL = (L
a) ∈ M
である.補題
4.1 p
上のg
に値を持つ函数A(L)
を任意に取り,p
上のベクトル場V
をV (L) = ([A(L), L
1], . . . , [A(L), L
S])
と定める. このとき,
V
はM
に接している. (上のLax
方程式(4.1)
に対応するベクトル 場はこの補題の条件を満たしていることに注意せよ.)証明.
L = (L
a) ∈ M (i.e. [L
a, L
b] = 0), ε
2= 0
に対して,L
εa= L
a+ ε[A(L), L
a]
と置いて, [Lεa
, L
εb] = 0
を示せば良いが, それは次のように示される:[L
εa, L
εb] = ε([L
a, [A(L), L
b]] + [[A(L), L
a], L
b])
= ε([[L
a, A(L)], L
b] + [[A(L), L
a], L
b])
= ε(−[[A(L)
+, L
a], L
b] + [[A(L)
+, L
a], L
b]) = 0.
p
のbasis E
a;kl をE
a;kl= (0, . . . , E
kl, . . . , 0) = (a
番目が行列単位E
kl で他は0)
と定め,p
∗= p
上のlinear function x
a;lk をx
a;lk(L) = (L, E
a;kl) (L = (L
a) ∈ p
∗= p)
と定める.
x
a;lk(L)
は行列L
a の(l, k)
成分である.p
∗ 上の1-form
とp
∗ 上のp-valued
function
を次のように同一視しておく:X f
a;kl(L)dx
a;lk= X
f
a;kl(L)E
a;kl.
命題
4.2 L ∈ p
∗= p
のH
i とp-valued function A
i(L)
を次のように定める:H
i(L) := trace(L
i) = trace(L
i11· · · L
iSS), A
i(L) = (A
i,1(L), . . . , A
i,S(L)),
A
i,a(L) = i
aL
i11· · · L
iaa−1· · · L
iSS.
このとき,
L ∈ M
ならばdH
i(L) = A
i(L)
が成立する. よって,L ∈ M
において,H
i に関 するr-bracket
に関するHamilton
方程式は∂
iL
a= [A
i,a(L), L
a]
r= [A
i,a(L)
+, L
a]
の形になる. (この方程式に対応するM
上のベクトル場V
i,a(L) = ([A
i,a(L)
+, L
a])
Sa=1には補題
4.1
が適用できないことに注意せよ. よって,V
i,a は一般にM
に接してない.)証明
. L = (L
a) ∈ M
とL
a が互いに可換なことは同値であるから,dH
i(L) =
X
Sa=1
tr(A
i,a(L)dL
a)
= X
a,b,k,l
x
b;kl(A
i,a(L))dx
b;lk= X
a,b,k,l
x
b;kl(A
i,a(L))E
b;kl= (A
i,1(L), . . . , A
i,S(L)) = A
i(L).
Hamilton
方程式の形に関する結果は系2.4
と補題3.1
から導かれる.この命題
4.2
はHamiltonians H
i に関するHamilton
方程式は,S = 2
ならば, ソリトン系の
Lax
方程式(4.1)
を含んでないことを意味している. このような理由で前節では条件
(B)
を仮定したのである.5 群レベルでの Hamiltonian 構造を考えることの必要性
前節ではソリトン系のフローを生成する
P
i が一つのΛ
の多項式で表わせない場合はHamiltonian
構造を簡単に与えることができない理由を説明した.その困難の原因は
g
の直積をphase space
として採用したことにある.L-operators L
i はソリトン系の基本設定では, 共通のg
−(t)
によって,L
i(t) = g
−(t)P
ig
−(t)
−1と定義されるのであった. よって, 基本的な従属変数は
L
i ではなく,g
− の方である.前節の困難の原因は基本的でない従属変数である
L-operators
のレベルでHamiltonian
構造を考えようとしたことにあると考えられる.この困難はもしも
g
− のレベルでのSato-Wilson
方程式∂
ig
−= (L
i)
−g
−= (L
i)
+g
−− P
ig
−の
Hamiltonian
構造がとらえ切れれば解決されると考えられる.以上のような理由から, Lie algebraレベルではなく, 群レベルで