第 章 特異点
展望:
複素解析の目的は、正則関数の性質を知ることあるいは複素関数の正則領 域での性質を知ることである。関数の正則領域における性質は、関数の正則 でない領域あるいは点の性質と密接に結びついている。したがって正則領域 での性質を知ることは、複素関数が正則でない点や正則でない領域の近傍に おける性質を知ることでもある。複素関数の正則である点を正則点といい、
正則でない点を特異点(
singularpoint)という。
既に学んだように、複素関数が正則であるとは、その点
zで関数が微分可 能であることである。微分不可能であるときには、その点で微分操作の極限 が無限大に発散する場合だけでなく、分岐点のように関数の値が不定になり その微分係数の値が定まらない場合もある。このような場合も含めて関数の 性質を理解する上でリーマン面の構造が重要であり、 逆にリーマン面はこの ような関数の性質を理解しやすくするように構成されている。本書では詳し く触れないが、特異点は一般に孤立しているとは限らない。無限個の特異点 が集積している
cosec(1=z)における
z=1=(n)のような点もある。
複素関数を特異点の近くでベキ級数で表すと特異点の違いによってベキ級 数の形が全く異なってくる。なるべく多くの例に触れることによって特異点 の形になれるようにこころがけることにしたい。ベキ級数の形については第
7
章で詳しく述べる。
66 第4章 特異点
4.1
孤立特異点
定義
26孤立特異点:
z平面上
z =aの近傍
0<jz0aj <Rで
1価正則な関 数
f(z)が、
z =aで正則でないとき、
z =aを
f(z)の孤立特異点(
isolatedsingularity
)という。
孤立特異点を次の
3つに区別する。
4.1.1
除き得る特異点
定義
27除き得る特異点:
f(z)が
1点
z = z0を除いて一価正則かつ絶対値
jf(z)j
が有界である場合には、これを除き得る特異点という。
この時には、あらためて
f(z
0
) lim
z !z
0
f(z) (4.1)
と定義しなおすことによって、
f(z)を
z =z0を含む領域で一価正則にするこ とができる。すなわち特異点
z =z0を除くことができる。
例
24f(z)= sinz
z
(4.2)
は
z =0では定義されないが
lim
z !0
f(z)=1 (4.3)
であり、
f(z)は
z =0を除いて有界かつ一価正則である。このとき
f(z)= (
sinz=z z 6=0
1 z =0
(4.4)
と定義しなおしてやれば、
f(z)は
z =0を含む有限の領域で一価正則となる。
4.1.2
極
定義
28極:
f(z)が
z =z0の近傍で一価正則で、
z !z0の近づけ方によ らず
lim
z!z
0
jf(z)j=1 (4.5)
である場合、
z =z0を極(
pole)という。
たとえば、
z0を除いて
z =z0の近傍で
f(z)= a
0k
(z0z
0 )
k
+111+ a
01
z0z
0 +a
0 +a
1 (z0z
0
)+111 : (a
0k
6=0) (4.6)
である場合、
z = z0を
k位の極という。実際多くの関数は式(
4.6)の様に展 開される。べキ級数の形の一般的論については
7章
7.3で説明する。孤立特 異点が極である場合、極の位数は重要である。
4.1.3
真性(孤立)特異点
定義
29真性(孤立)特異点:
f(z)が
z =z0を除いてその近傍で一価正則 であり、
z = z0近傍で有界ではないが
z = z0が極でもないとき(
z !z0の 極限のとり方により
1を含めていろいろな値をとる) 、
z =z0を
f(z)の真性
(孤立)特異点という。
z
0
が真性(孤立)特異点である場合、
z0に収束する数列
fzngを適当にと ると
f(zn)は無限大を含めて任意の複素数値をとる( ワイエルシュトラス
(Weierstrass)
の定理) 。真性(孤立)特異点の具体例としては、例えば
z0を 除いて
z =z0の近傍で
f(z) = 1
X
n=01 a
n (z0z
0 )
n
= 111+ a
n
(z0z
0 )
n
+111+ a
01
z0z
0 +a
0 +a
1 (z0z
0
)+111 (4.7)
と書けて、
a0n 6=0(n > 0)となる負べき項が無限にあるときの
z0がこれで ある。真性(孤立)特異点がいつも式(
4.7)のように書けることの一般論は
7
章
7.3で行なう。
ここでワイエルシュトラスの定理を証明しよう。
68 第4章 特異点
定理
19ワイエルシュト ラスの定理:
z = z0が
f(z)の真性(孤立)特異点 なら、
z0の近傍の任意に小さい領域
0<jz0z0j <内で、
f(z)は任意の複 素数値
にいくらでも近い値をとる。
を任意の複素数とすると、任意の正数
"に対して適当な正数
が存在し、
0<jz0z
0
j<
に対して
jf(z)0j<"となることを示せばよい。これを否定し てみよう。
0<jz0z0j<であるとき、ある値
m>0に対して
jf(z)0jmであるようなある複素数値
が存在するとする。このとき
(z) 1
f(z)0
(4.8)
は領域
0 <jz0z0j <内で
j(z)j 1=mである。すなわち
(z)は
z = z0を除くその近傍で正則で有界である。故に、
limz!z0(z)
は有界な値に収束 する。ここで
f(z)=+ 1
(z)
(4.9)
を考える。
(1) (z) ! 0 (z ! z0)なら
jf(z)jは無限大に発散、また
(2)(z)!
(
0でない有界値)
(z !z0)なら
f(z)は収束する。
z0は 第
1の場合 は極、第
2の場合には除き得る特異点となる。よって真性(孤立)特異点の 定義と矛盾する。 ( 証明おわり)
証明なしでワイエルシュトラスの定理よりさらに厳しい定理をあげてお こう。
定理
20ピカール
(Picard)の定理
: f(z)が
0 <jz0z0j <で
1価正則で、
z =z
0
が真性(孤立)特異点であるならば、
f(z)は高々
1つの値を除きすべ ての有限な複素数値をこの領域内で無限回とる。
例
25f(z)=exp(
1
z
) (4.10)
を考えよう。これは
z =0の近傍で
f(z)=1+ 1
+ 1
2
+111+ 1
n
+111 (4.11)
と展開されるから
z = 0は真性( 孤立)特異点である。
aを任意の複素数値 とする。
f(z)=aとする
zは
z
n
= 1
loga
=
1
lnjaj+i(arga+2n)
(4.12)
となる。すなわち点列
fzng上で
f(z)は値
aをとる。
n!1とすると
zn !0である。ただし
f(z)は
0となることだけはない。したがって
exp(1=z)は
z =0の近傍で
0を除いた任意の複素数値を無限回とる。
例
26 ez; sinzなどでは
z =1は真性(孤立)特異点になっている
上に述べた真性(孤立)特異点以外にも真性特異点が存在することを付け 加えておく。たとえば
f(z)=cosec 1
z
(4.13)
の特異点は
z = 1=n (n =61;62;111)で、これは
nが有限の値であれば
1位の極である。
z =0の近傍にこれらの特異点は無数に存在する。
z =0を中 心として特異点を内部に含まないような円を考えることはできない。このよ うな点
z =0を集積特異点といい、やはり真性特異点の
1つに数える。集積 特異点の近傍では(
4.7)のような展開はできない。
4.2
分岐点
関数
w = f(z)を考える。べき乗根あるいは対数関数で見てきたように、
複素
z平面上で
z =z0の周りを
2だけ周って元の点に戻っても、
wが元の値 に戻らない点
z0を分岐点(
branchp oint)という。もう少し詳しく分岐点を 見てみよう。
例
27 w = f(z) = z1=2を考える。
z = 1の点を始点として
zを動かす( 図
4.1
) 。この関数は
2価関数だから、
z =1の偏角としては
0と
2を考えるこ とができる。したがって
11=2は
1( 偏角
0)か
01(偏角
)である。
(
1)まず
z =1のとき
z1=2の偏角は
0と決める(
A点) 。 (これは
z =1といっ
た時、偏角
0の方を選んだことを意味している。)
z =eiと書いて
を
0から
増していく。
70 第4章 特異点
図 4.1 z1=2の切断とリーマン面
(
2)
zが原点の周りを
だけ周り、
argz =となると
(01)1=2 =(ei)1=2 =e i =2
=i
となる(
B点) 。
(
3) さらに
zが原点の周りを
だけ廻って
argz = 2, z = 1となると
(1) 1=2
= (e i2
) 1=2
= e i
= 01
である(
C点 )。ここで、
z = 1であるが
(1) 1=2
=01
である方(
D点)につながった。
(
4) さらに原点の周りを一回り廻って
argz =4, z =1とすると
(1)1=2 =(e i4
) 1=2
=e i2
=1
となり(
F点) 、出発の値(
A点)に戻る。
上の例、
z1=2では
z =0の周りを
2回廻って関数値が元の値に戻った。ここ で
zの偏角は
0から
4まで変化したが、
0<argz 2の点と
2<argz4の点は
z平面上で同じであっても関数値
f(z)=z1=2は違う。この
2組の
zを 別のものと考えて、
0 <argz 2に対応する
z平面と
2 <argz 4に 対応する
z平面の
2つの
z平面を考えるのがリーマン面である。
z1=2では
z平面が
2つあるから
2葉リーマン面と呼ぶ。
z1=2の分岐点は
z=0と
z =1がある。
2つの
z平面で、
2つの分岐点
z =0と
z=1の間に切り込み(切
断
= branch-cut)を入れる。今は実軸の右半分を切断とするが、原点から始
まり無限遠に至るどのような曲線であっても構わない。関数の値は第
1の
z平面の
argz = 2と 第
2の
z平面の
argz =2では同じであるからここは
のりづけする。さらに第
2の
z平面の
argz =4と 第
1の
z平面の
argz =0でも関数値は同じであるからここものりづけする。このようにして
zと
z1=2を
1対
1に対応づけるリーマン面が得られる。
図 4.2 (a)w =(z01)1=2(z02)1=2のリーマン面, (b) w=(z01)1=2(z02)1=3の リーマン面.
例
28分岐点がもっと沢山ある場合にはさらに複雑である。
w=(z01) 1=2
(z02) 1=2
と
w=(z01) 1=2
(z02) 1=3
を考えてみよう。
第
1の場合
w = (z01)1=2(z02)1=2は
z = 1は分岐点ではなく、
z =1; z =2
のみが分岐点である。なぜなら
z =1=とすると
w=( 1
01)
1=2
( 1
02)
1=2
= 1
(10) 1=2
(102) 1=2
であり、
=0 (z =1)は分岐点ではなく極になっている。したがって切断
としては
z =1と
z =2をつなぐ 曲線を選べばよい。
72 第4章 特異点
第
2の場合
w=(z01)1=2(z02)1=3は分岐点は
z =1; 2; 1である。そ のために切断は
z =1と
z =1を結ぶ曲線(
z =1から出て左側に延びる半 直線)と
z =2と
z = 1を結ぶ曲線(
z = 2から出て右側に延びる半直線)
の
2つを選ぶ。
z =1および
z =2の周りはそれぞれ
2回あるいは
3回廻る と元の値に戻る。
z =1の周りは
6回廻らないと元の値には戻らない。それ をもう少し直接に見てみよう。
z =1=と変数変換すると、
w=( 1
01)
1=2
( 1
02)
1=3
= 1
5=6
(10) 1=2
(102) 1=3
となる。
=0つまり
z =1は分岐点となり
=0の周りでは
6回廻って 関数
wの偏角は元に戻る。したがって
6枚の
z平面が必要になり、それらを 切断の部分でつないでゆく。
上の
2つの場合のリーマン面をそれぞれ図
4.2に示した。第
1の場合と第
2
の場合では似ているようだが分岐点は異なり、切断の入れ方がまったく違っ てくる。
べき関数のべき指数が有理数であるとき、リーマン面を作る
z平面は有限
枚である。この場合の分岐点を代数的分岐点という。べき指数が有理数でな
いときおよび対数関数
w=logzなどでは無限多価関数となり、無限枚の
z平
面がリーマン面を構成する。このような分岐点を対数的分岐点と呼ぶ。対数
的分岐点の場合、リーマン面上で閉じた閉曲線を作るには分岐点を反対方向
に同じ回数だけまわらなくてはならない。
4.3
第
4章問題
問
1. w=tanzの特異点を調べよ。
問
2. w=sinzの特異点を調べよ。
問
3. w=sin(1z
)
の特異点を調べよ。
問
4. w=1=sin(1z
)
の特異点を調べよ。
問
5. w=(z01)1=2(z+1)01=2の分岐点を調べ、リーマン面の構造を述べよ。
z
平面は
w平面のどのような領域に写像されるか。
問
6. w=z+(z201)1=2の分岐点を調べ、リーマン面の構造を述べよ。
問
7. w = (z01)1=2+(z +1)1=2の分岐点を調べ、リーマン面の構造を述
べよ。
74 第4章 特異点