九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
コロナ禍における研究の継続について
菊地, 君与
九州大学医学研究院 : 講師
https://doi.org/10.15017/4400027
出版情報:決断科学. 8, pp.109-111, 2021-03-23. 九州大学持続可能な社会のための決断科学センター バージョン:
権利関係:
Essay(エッセイ)
コロナ禍における研究の継続について
菊地君与
九州大学医学研究院 講師新型コロナウイルス流行により、人々の日常は大きく変わった。教育機 関は休校となり、通常の形態で研究が行えなくなった。感染拡大により研 究を中断せざるを得なくなった事態も発生している。臨床研究は再調整が 行われ、とりわけ高齢者や既往症のある人など、新型コロナウイルスに脆 弱とされている人々が対象となる研究では、継続の是非が検討されてい る 1。私が関係しているバングラデシュの母子遠隔健診研究では、同国の ロックダウンが 3 月中旬から始まり、継続的な健診による介入が半年間 ストップした。カンボジアで行っている介入研究では、同国の感染者数は 比較的少ないものの、調査員が新型コロナへの感染を恐れ再開が困難な状 況にある。研究の中断や計画の変更は、今回の新型コロナの問題に限らず、
研究協力者や予算の都合などで、いつだって起こりうることではある。し かし、コロナ禍においては再開の目処を立てるのが困難だ。再開の準備を 始めたところで、再び流行が始まり中断する流動的な状態であり、ワクチ ンが開発され一般に普及するまでこの状態は続くものと考えられる。
このような中、研究の継続についてどう考えたらいいだろうか。研究に は多くの人が関与し、研究が宙ぶらりんな状態が続けば、その人たちの負 担や意欲にも影響する。ランダム化比較試験では、介入を受ける介入群と それを受けない対照群に属する人々がいる。負担を伴う介入であれば、介 入を受ける群にとって不利益を被る期間が長引き、特定の利益を与える介
1. Van Dorn A. COVID-19 and read justing clinical trials. 2020. Lancet. 396: 523-524.
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入であれば、対照群にとってメリットを受けられない期間が長引くわけで ある。改めて本当に継続していくべきか決断が必要になる。McDearmott らは、このような中であっても、研究を終了させてしまうより、中断を経 ても、敢えて再開し継続していく重要性を語っている。新型コロナの流行 がいつ終わるかはわからない。しかし、この流行が終わったときに多くの 人にとって必ずや重要になるであろう、健康上の利益の実現に研究が貢献 するからである 2。この意見は、決断に迷う研究者にとって大変勇気づけ られる言葉である。今、まず考えるべきことは、第一選択肢として研究を 継続するための再計画にあらゆる努力を捧げるべきなのであろう。
では、どのように再計画を検討したらいいのか。McDearmott らはこの 場合に考えるべきいくつかの項目を挙げている。その中から重要と思われ るものを紹介したい。第一に、結果に優先順位をつけることが重要である。
まずは主要な結果を求めることを最優先に計画を組み直し、二次的かつ探 索的な結果は排除することが検討されるべきである。次に、主要な指標デー タが直接収集できない状況にある場合、代替として評価できる指標データ を考える必要がある。この場合、それに伴う研究プロトコルの変更が必要 になるが、速やかな対応が求められることになるだろう。さらに、もとも との研究プロトコルでは決められていなかったであろう、遠隔でのデータ 収集も検討する必要もある。状況を見極めた適切な決断が求められ、今後 発表される多くの論文で、新型コロナウイルスの影響により研究が計画か ら変更されたことが限界に示されることになるだろう。
このようにコロナ禍における研究は事態を一変させたが、悲観的なもの だけではない。今回の経験を踏まえ、想像もしなかった事態が起こる可能 性を見据え、研究アウトカムを分散させるなど、今後の研究計画はより慎 重で精密な配慮が加えられる精度の高いものになるであろう。また、コロ ナにより事態が変化したということは、研究の前後で予想もしていなかっ た新しい発見があるかもしれないということでもある。場合によっては、
この新たな状況が加わったことにより見つかったことが、研究者としての
2. McDearmott MM, Newman AB. Preserving clinical trial integrity during the coronavirus pandemic.
2020. JAMA. 323(21):2135-2136.
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業績を大きく変えるものになるかもしれない。この未知の出来事を経験し たからこそ得られる貴重な結果や経験を生かすことが重要である。