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【総 説】

第 91 回日本感染症学会総会・学術講演会/第 65 回日本化学療法学会学術集会合同学会 招請講演 2「薬剤耐性(AMR)問題に対する日本の取り組み」(厚生労働大臣 塩崎恭久)

はじめに

東京慈恵会医科大学 柴 孝也

 会に先立ち来賓として厚生労働省 医薬・生活衛生局長 武田俊彦さん,大臣官房審議官 医薬担当 森 和彦さんを紹 介した。塩崎恭久大臣については以下のように紹介した。

 愛媛県第一区小選挙区選出,自由民主党 衆議院議員 厚生労働大臣 塩崎恭久様をご紹介申し上げます。

 都立新宿高校から東京大学に進学し,卒業後日本銀行に入行され,ハーバード大学行政大学院に留学し,修了後,

日本銀行に復職されております。

 その後,お父様が経済企画庁長官,総務庁長官に就任した際に,秘書官を務め,政治の道を志し,1993年に衆議院 議員に初当選しました。

 何と申しましても,2006

9

月,第一次安倍内閣の官房長官,拉致問題担当大臣に就任し,注目されました。2014

9

月,第二次安倍改造内閣で,現在の厚生労働大臣に就任され,ご活躍されております。

 昨年

9

月,ニューヨーク国連総会において,日本の厚生労働大臣として

AMR(薬剤耐性)国連ハイレベル会合で

世界に向けてスピーチされました。われわれ学会員にとっても興味深い問題であり,岩田・草地両学会長名で本日の ご講演を依頼いたしました。

 現職の大臣の公務多忙のなか,本日おいでいただけることになりました。学会員にとりまして,これ以上の喜びは なく,誇りとするものであります。

 「薬剤耐性(AMR)問題に対する日本の取り組み」と題してのご講演であります。

(2)

「薬剤耐性(AMR)問題に対する日本の取り組み」

 座長の柴先生からご丁重なるご紹介をいただきました,厚生労働大臣の塩崎恭久です。今日は日本感染症学会と日 本化学療法学会の合同の学会,3日間あるそうですが,最終日にこのようなかたちで,講演をさせていただく機会を 頂戴しまして誠にありがとうございます。日本感染症学会は

90

年の歴史があり,日本化学療法学会も

AMR

の問題を 含めてご熱心に活動されていると聞いています。二つの学会の合同の学会にお呼びいただきまして,岩田会長,草地 会長に心から感謝申し上げます。

 皆様方は普段から抗菌薬の使用がもたらす問題について研究し,行動に至る考えを纏めていただき,また,抗微生 物薬適正使用推進委員会が中心になって作り上げておられるということで,入院患者へのガイドラインの作成などで も頑張っていただいていると聞いております。

(3)

 資料

1

に,国際的にどういうことが議論されてきたかということを年表にまとめています。一言でいえば

AMR

まだ新しい問題で認知度はあまり高くありません。両学会の会長からの今回の講演依頼のお手紙でも「社会的にもな かなか認知されていない状況」と書かれていました。これは日本だけでなく,世界ではもっと遅れていると感じさせ られるところが沢山あります。

 典型的には,資料

2,3

にありますが,日本と世界の抗菌薬の使用量です。日本全体の抗菌薬の使用量(資料

2),

これがいつの時点のデータかというと

2011

年です。

2011

年というと

6

年前です。今どうなっているかがわからなかっ たら,先のことは決められないでしょう。

 一方,世界の抗菌薬の使用量は家畜に対するデータですが(資料

3),2010

年ですから

7

年前です。7年前のことし かわからない中で,去年初めて国連でハイレベル会合が開催されました。これでも,医療分野では三回目のハイレベ ル会合です。最初は「エイズ」,次は「非感染性疾患」,そして今回の「AMR」です。

○ 抗菌薬の普及に伴って、病原体は、様々に変質し、抗菌薬に対する耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)を獲得し、まん延。

何も対策を取らず、現在のペースで増加した場合、2050年には1,000万人の死亡が想定され、現在のがんによる死亡者数を超え ることになるという指摘もある。 (英国薬剤耐性に関するレビュー委員会(オニール委員会) 第一次報告(2014年12月) )

○ 抗菌薬については収益性の低さ等から研究開発が停滞しており、薬剤耐性菌がこれ以上まん延すると、ペニシリン開発以前 の「抗菌薬が存在しない世界」に戻ってしまうとの懸念が国際社会で表明されている。

AMRに対する懸念

国際社会の動向

抗菌薬に対する耐性(AMR)の現状と今後に向けた取り組み

平成29年4月8日 厚生労働大臣 塩崎恭久

WHO総会:WHO世界行動計画の採択(2015年5月)

G7エルマウ・サミット首脳宣言(2015年6月8日)

G7伊勢志摩サミット(2016年5月26日-27日)

世界経済フォーラム(ダボス会議)(2017年1月19日)

国連第71回総会ハイレベル会合(2016年9月21日)

○ 世界的に重大な影響を与えるエボラ出血熱等のワクチン開発を推進するCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が発足。

○ 「全ての国に対し、世界行動計画の採択から2年以内に、国家行動計画を策定し、行動する」ことが決議された。

※WHOでは井上肇事務局長補(厚生労働省出身)が2016年11月よりAMR対策の責任者。

○ 保健分野に関する声明に薬剤耐性菌対策に取り組む方針が盛り込まれ、ベルリン保健大臣会合(2015年10月8日)宣言文に、

AMR対策が掲げられた。

○ 国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョンでは、AMRの対応強化と研究開発の推進が掲げられた。神戸保健大臣会合(2016年 9月11日-12日)ではAMRの対応強化と研究開発の推進の議論をさらに掘り下げ、神戸コミュニケを採択した。

○ AMRに関する政治宣言が採択された。AMRに関する組織間連携委員会が設置され、第1回会合が2017年5月に開催予定。

アジアAMR東京閣僚会議(2016年4月16日)

○ アジアで初めての閣僚レベル会合。アジア各国の取り組みの経験を共有するとともに、今後のAMR対策を議論。

資料1

(4)

 日本では抗菌薬がどこに使われているのか,2011年のデータですが,人間には

3

割しか使われていません。主に家 畜,そして一部が農業に使われています。私は愛媛県出身ですが,養殖漁業にも使われています。動物用医薬品の中 に養殖漁業も入っています。これと同じようなものを各国別に,あるいは世界全体で,どれだけの量が何に使われて いるのか,WHOに聞いて調べて欲しいと厚生労働省事務方に尋ねると,人間に対するものだけはわかるかもしれな いが,多分わからないでしょうと言うのです。おそらく家畜に使われているもの,農業に使われているものも抗菌薬 の使途別使用量内訳の統計は世界的にもなかなかないと思います。

 AMRはひとつの国にじっとしているわけではなく,国際的な問題ですが,先進国ですら

6

年前のデータを見て考 えているのです。私たちはそのことを深刻に考えなければいけないと思います。

 AMRがどこでグローバルな深刻な課題として正式に認知されたかというと(資料

1),2015

5

月の

WHO

の総会 です。

One Health Approach

との考え方が明確に打ち出され,世界行動計画が採択され,各国がアクションプラン を作るべし,ということになりました。その年にドイツで

G7

のエルマウサミットがあり,そこでメルケル首相,グ レーエ保健大臣が一生懸命努力して議題として取り上げました。その当時は,日本の厚生労働省のこの問題の重要性 に関する認識は,率直に申し上げて,現在に比べれば十分と言える状態ではなかった,と思います。

 エルマウサミットが同年

6

月にあり,10月にベルリンで

2

回目の

G7

保健大臣会合が開催され,私は再任された夜 に羽田空港を発ち,参加しました。そこでイギリスやドイツなどが翌年(2016年)の伊勢志摩サミットで

AMR

を主 要議題に取り上げて欲しいと提案してきました。

 G7保健大臣会合の最初のセッションは

AMR

でした。驚いた事に,冒頭のドイツの保健大臣の次にプレゼンテー ションを行ったのは農林大臣でした。その後,マーガレット・チャン

WHO

事務局長が話をする,との組み合わせを みても明らかなように,人間の保健医療の担当者だけが関わる問題ではない,との位置づけには,いささか驚かされ ました。

 国別アクションプランを作ることが

WHO

総会で決議されていましたが(資料

1),ちなみに G7

で他にどの国がま だ作っていないかを調べますと,実は日本だけが作っていない,ということが判明しました。

 ベルリンから帰国後,伊勢志摩サミットには間に合うよう,大車輪で制作にかかり,2016年の

3

月の終わりにアク ションプランができあがりました。厚生労働大臣としては,これまで遅れていたのは仕方がない,しかし,これから は世界最先端になろうではないかと決意し,アクションプランを仕上げました。当然のことながら,今後はアジアに おける,AMRの問題は日本が中心になって対処しようと思いました。

 アジアには

WHO

のオフィスが二つあります。マニラに

WPRO(WHO

西太平洋地域事務局),ニューデリーに

SEARO(WHO

南東アジア地域事務局),その両方でアジア全体をカバーしています。従って,両事務所との共催で

AMR

に関するアジア保健大臣会合を東京で開催することを提言し,4月にアジア

AMR

東京閣僚会議を開催しまし ヒト用

医薬品

578

トン

(33%)

農薬

148トン (9%)

動物用 医薬品

787

トン

(45%)

資料2

日本全体の抗菌剤の使用量 (2011年)

動物向けの使用 が全体の58%を占める

飼料 添加物 234トン (13%)

出典:農林水産省統計、農薬要覧、IMS医薬品販売量統計

中国 23%

米国 12%

ブラジル 9%

インド3%

ドイツ3%

日本1.7%

その他 51.3%

資料3

家畜(牛・豚・鶏)に対する抗菌剤使用量の 国別内訳(2010年)

出典: Van Boeckel TP, Proc Natl Acad Sci. 2015; 112: 5649–5654.

*日本については、農林水産省統計による2011年データを使用し推計。

使用量が第6番目というわけではない。

日本全体および国別の抗菌剤の使用量

(5)

た。厚生労働省としては,今までで最大の国際会議をホストし,沢山の保健大臣が参加,非常に良い会議になりまし た。資料

4

の創設宣言に基づき,すべての国に対し,AMRが多分野による協調的な

one health approach

を必要とす る国際開発及び健康安全保障上の課題であるという認識を持つよう要請しました。

 そして

5

月の伊勢志摩サミットを迎えることになりました。ここで「保健に関する伊勢志摩ビジョン」がまとめら れ,その中の三つの大きなテーマの一つとして

AMR

を入れ込むことになりました。前年の秋には伊勢志摩サミット

AMR

を議論するという話は全くなかったのですが,結果としては世界をリードするかたちで「伊勢志摩ビジョン」

に入れ込むことが出来ました。

 ご承知のようにイギリスで「オニールレポート」が出ました。去年の国連総会にもオニールさんは来ていましたが,

その後すぐ辞任してしまいました。もともと

BRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国の頭文字)という言葉をつ

くったエコノミストですが,AMRのレポートを作った人でもあります。彼の結論は,研究開発が遅れている中で,

このままの抗菌薬の使い方を続けると,アジア・アフリカを中心に

1

年で

1000

万人が亡くなる。その数は,今世界で 癌で亡くなっている数よりも多いというショッキングなレポートです。これは

2014

年に中間報告があって,2016

5

月に最終報告書が出ています。これが大きな警鐘になりました。

 イギリスにはサリー・デイビスさんというチーフ・メディカル・オフィサーがいます。私はかねてより,チーフ・

メディカル・オフィサーは日本も作ったほうが良いと思っていましたが,今回,医務技監といって,医系技官の次官 級ポストを作ります。この国会で法律が通れば,この夏から医務技監が誕生します。サリー・デイビスさんは

AMR

の本も出しておられますし,去年の国連総会でハイレベル会合を開催したのも,彼女が何度もニューヨークに足を運 び,国連を口説いたからです。本件に関し,イギリス人は本当に熱心だなと思いました。

 ハイレベル会合で私が申し上げたのは,一つは臨床ガイドラインや医療専門家の研修をしっかりやり,AMRに関 するデータを各国で共有しようということです。抗菌薬がどこでどういう風に使われているかもわからないから,

AMR

に関するデータをきちんとしようと提言しました。

 もう一つは研究開発です。今から

50

年前の

1966-75

年の

10

年間で,日本において新規開発された抗菌薬の数は

36

でした。次の

1976-85

年は

51,1986-95

年は

41

でした。ところが

1996-2005

年は

18

になって,2006-15年は

9

しかな いのが現状です。このように開発がどんどん細ってきております。抗菌薬は耐性菌が出てくるものですから,耐性菌 に勝つためには次々と作っていかなければならないのですが,研究開発が追いつかない。結局,ペイしない,研究開 発が追いつかないということで,いわば「市場の失敗」が起きているわけです。

 これについて,我々としてはきちんとしたことをやらなければならないと考え,幾つかの具体的な提案をしていま すが,そのひとつが

GHIT  Fund(公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金)という新薬研究開発促進の構想で

す。主に

Neglected Tropical Diseases

と呼ばれている熱帯病等を研究対象としています。「市場の失敗」対策として

GHIT

に対し,官民,すなわち外務省,厚生労働省,製薬メーカー,ゲイツ財団,ウェルカム・トラストなどが出資

AMR に関するアジア太平洋 one health ini�a�ve の創設宣言

①サーベイランス・システムと検査機関 ネットワーク

②医療マネジメント

③抗微生物剤のアクセスと規制

④研究開発

資料

4

厚生労働省ホームページ

アジア

AMR

東京閣僚会議 共同声明(仮訳)より抜粋

h�p://www.mhlw.go.jp/s�/seisakunitsuite/bunya/0000121628.html

(6)

をし,新薬開発をするということを行っております。

 今年

1

月にダボス(スイス)で,CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:感染症流行対策イノ ベーション連合)という新たな組織が立ち上がりましたが,日本はここには当初から参加しています。厚生労働省の 皆さんも頑張ってくれて,去年の夏の概算要求時には影も形もなかったものが,当初予算で二十数億円ついています。

基本的には

5

年間,同じように予算がつきますので,日本から

100

億円を超える出資をします。ここで新しいワクチ ンの開発支援を行います。

 今年,私もダボスに参りましたが,グローバルファンドは理事と理事代理は外務省から出ていましたが,今度は外 務省に加え厚生労働省の医療についての専門的知識を活用するため,理事代理は厚生労働省から出してより一層貢献 できるようにしました。CEPIでも厚生労働省から理事を出し,しっかり貢献しながら感染症対策としてのワクチン イノベーションをきちんと実現できるように応援していこうとの方針です。CEPIのトップはアメリカの

NIH(アメ

リカ国立衛生研究所)の

BARDA(米国生物医学先端研究開発局)で活躍したハチェットさんです。

 ちなみに武田薬品工業はジカ熱のワクチン開発のために

BARDA

から

3

1200

万ドルの資金提供を受けています。

日本円で

300

億円ですから,アメリカは桁違いに大きなお金を提供して,ジカ熱のためのワクチンを武田薬品工業に 作って欲しいということです。日本は技術があるけれども,それを活かす力が十分ないのではないか,と私は心配し ていて,そうした仕組みを我々政治がしっかり作っていかなければいけないと思っています。

 日本も

AMR

に関するアクションプランをつくりました(資料

5,6)。医療分野と畜産分野の数値目標を掲げてい

ます。それはこの表にある通りですが,ヒトは抗菌薬全体の

3

割しか使っていなくて,家畜が

6

割,農業が

1

割です

(資料

2)。家畜に使っているのは中国が圧倒的に多く,その半分ぐらいがアメリカ,そしてブラジル,インド,ドイ

ツと来て,日本は

6

番目です(資料

3)。

レセプトデータベースを活用した全国の抗 菌薬使用動向の把握と抗微生物薬の適 正使用の推進

動物とヒト以外の要因(食品、環境等)

に関するサーベイランスデータがない又 は連携されていないため、正確な分析 が困難

ヒトにおける耐性菌の出現率と抗微生 物薬使用量との関連などのデータが把 握されていない

生産量が小さい水産動物等の場合、ワ クチン開発が望まれていたとしても市場 規模が小さい等の理由で開発が進まな

ヒトと動物の両分野で数値目標を設定

動物用抗菌剤使用量については、今 後、具体的な行動計画とともに数値目標 を設定

日本独自の先進的な取組

ヒト、動物、環境等の多分野の薬剤耐性 情報を統合したワンヘルスサーベイラン スネットワークの構築

動物用抗菌剤の慎重使用の徹底と動物

(水産含む)用ワクチン開発の推進

他の

G7

のアクションプランではヒトと動 物の両分野の数値目標を定めていない

アジアにおける

AMR

対策では、サーベイ

ランス等の体制が不足している

• AMR

アジア保健大臣会合等を通じたアジ アを中心とした国際協力の推進 現状と課題

資料5 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016.4.5)のポイント

(7)

 大事なことは,ヒトに対する抗微生物薬の使用については数値目標を掲げていて,2020年までに今の

3

分の

1

カットする。つまり今の使用量の

3

分の

2

にすることです(資料

6)。日本の医師は経口セファロスポリン系,フルオ

ロキノロン系,マクロライド系の

3

種類が有効だ,としてよく使われます。抗菌薬の使用量全体では世界各国と比べ ても低い方ですが,この

3

系統だけを見ると日本は世界で

2

番目です。これをどう考えるのかというのは大事なこと です。

 医療政策として,いかにして臨床医に抗菌薬の慎重な使い方をしてもらうのか,という問題があって,これについ て我々はいろいろ工夫していかなければならないと思います。これまで手引きやガイドラインではやっていますから,

これはこれで徹底的にやっていただいて,臨床医の行動をどう変えるのかということになります。

 国連総会でハイレベル会合と並んで,AMRについてのサイドイベントが

12

ありました。私もいくつか参加しまし たが,どこに行っても英国のサリー・デイビスさんがいて,この人が仕掛けたなというのがよくわかりました。私ど もから多くのイベントに参加した山本尚子審議官からの報告によれば,

12

のサイドイベントの中で議論が集中したの は,どのようにして医師の行動を変えるか,との事でした。

 現在,厚生労働省はデータヘルス改革を推進しています。その中心のひとつは支払基金改革で,医療の質向上のた めにレセプト審査をどううまく活用していくか,ということです。審査は本来誰がやるべきかといったら,保険者で す。その手前で医療機関も自らを省みることをやってもらわなければいけないけれども,現時点で,自らの被保険者 がどのくらい抗菌薬を投与されているかに関心を持って見ている保険者がいるかと言ったら,殆どいないのではない かと思います。こういうところをどう変えるかというのは,厚生労働省がこれから真剣に考えなければいけないこと です。保険者の発想を変えるには,審査についても,抗菌薬の使い過ぎの基準は先生方に決めてもらわなければいけ ない事だろうと思いますが,どう見てもおかしい過剰な使い方を抑制するにはどうしたら良いのか,我々は臨床医の 行動を自然なかたちで変えていくことを考えていかなければいけないだろうな,と思っております。

 何よりも指摘しなければいけないのは,家畜に使われている抗菌薬についても抑制してもらわなければいけないと 思っております。

 もう一つは,研究開発の問題で我々は頑張らなければいけないのですが,去年,化学及血清療法研究所(化血研)

の問題がありました。我々は,化血研の問題を一つのきっかけに大きな反省をしました。護送船団方式で製薬メーカー あるいはワクチンメーカーを守っていっても発展性はないのです。ワクチン使用による疾病予防を途上国で進めてい

GAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)という国際機関がありますが,ここで使われている日本製のワク

チンはゼロです。実は,最早世界ではメガファーマしかワクチンを作っていないのです。日本は一番大きなところで,

家畜の分も合わせて

400

億円少々の売上の化血研です。向こうは何兆円という売上の企業がワクチンを作っています が,日本は,化血研以外も

100

億円単位の売上げしかなく,このレベルの企業体力では新たなワクチン開発リスクを

0 5 10 15 20 25 30 35

Japan NetherlandsCzech Rep.GermanyLithuaniaDenmarkHungarySloveniaBulgariaSlovakiaSwedenNorwayEstoniaAustriaFinlandPolandLatvia United KingdomLuxembourgRomaniaPortugalBelgiumCroa�aIcelandGreeceIrelandCyprusFranceMaltaSpainItaly

人口1000人あたりの平均一日抗菌薬使用量

セファロスポリン、その他のβラクタム キノロン マクロライド等 ペニシリン その他

15.8

抗菌薬使用量は抗微生物薬 適正使用

(AMS)

の指標になる。

日本は使用量自体は多くはないが、幅広い細菌に有 効であるものが多いセファロスポリン、キノロン、

マクロライドの使用割合が極めて高い。

適正使用の推進により、これらの使用量および 使用割合を減らすことが重要

抗微生物薬について、2020年までに、経口セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドの 使用量を半減させ、全体の使用量を

33

%減とする。

医療分野における抗菌薬使用量

資料6 薬剤耐性(AMR)対策アクションプランにおける数値目標

(8)

負いきれません。

 「ワクチン・血液製剤産業タスクフォース」顧問からの提言が去年

10

月に出ています。厚生労働省のホームページ でぜひ読んでいただきたいと思います。一言でいえば,護送船団方式はやめる,世界で通用するワクチンメーカーを 日本も持とう,そして世界に貢献しよう,ということを決めて頂いています。世界に本当に貢献できるワクチンを日 本は作る,という明確な方針を,すでに厚生労働省は去年

10

月に明らかにしているわけです。

 我々はワクチンを開発するために,市場の失敗の克服策も併せてやろうと思っていますが,世界のワクチン産業も 日本がリードできるように,立派な企業として育つようにしていきたい。ローカル企業で満足するようなことでは,

世界に全く貢献できない。「千に三つ」のような成功率の低い開発をやっていかなければいけない時に,売上げが数 百億円しかないような企業ではとても体力的に無理だと思います。

 あまり注目されなかった

AMR

の問題ですが,先生方のこれまでの地道なご努力によって,国連総会でも取り上げ られるようになったわけです。これからは先生方にインプットしていただいて臨床医の行動も変え,新たなワクチン の開発も進むようにお知恵を出していただいて,我々と一緒に

AMR

の問題の解決に向けて頑張っていただければあ りがたいと思います。引き続いてご指導いただけますようにお願い申し上げて終わりたいと思います。ありがとうご ざいました。

※  本講演は,平成

29

4

8

日(土)に京王プラザホテルにて開催された第

91

回日本感染症学会総会・学術講演会/第

65

日本化学療法学会学術集会合同学会で,現職の厚生労働大臣(当時)として初めて講演されたものです。 

厚生労働大臣

(9)

おわりに

65

回日本化学療法学会学術集会会長 草地信也

 厚生労働省塩崎恭久大臣におかれましては国内出張のご出発直前の大変お忙しい時間帯にもかかわらず,ご講演を 賜り心より感謝申し上げます。

 耐性菌対策,抗菌薬の適正使用は日本化学療法学会がその社会的使命として掲げている活動の中心的な題材であり,

関係諸学会とともに取り組んでいるテーマです。

 今回,厚生労働大臣のご講演をいただき,学会員一同,新たな決意で社会に貢献できるよう活動していく所存です。

参照

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