どうしようもなく国語科が苦手な少年だった。
宿題として課される本読みや意味調べには真面 目に取り組んだが、試験でよく出題される「抜 き出し問題」はまさに天敵の一つであり、恥ず かしながら正解した記憶がほとんどない。漢字 の読み書きや選択問題でなけなしの点数を稼ぐ ものの、配点が比較的高い記述問題には高校卒 業まで足を引っ張られ続けた。国語科の成績は 持って生まれた才能で決まると言い聞かせ、い くら本を読もうとも試験の点数は伸びないと勝 手に拗ねていたものである。
ただその割に、子どもの頃から図書館にはよ く足を運んだ。小学生のときは『ぼくは王さま』
が特にお気に入りで、学校の図書室にあった同 シリーズの本はすべて読んだのではないかと思 う。しかも一回読んで終わりになるのは珍しく、
同じ本を飽きもせず何度も繰り返し読んでいた。
表紙や挿絵の愛らしい王さまの姿は、色褪せる ことなく今でも脳裏に焼き付いている。
そう言えば、当時図書室で本を借りるには、
裏表紙の内側のポケットにある貸出カードに名 前や日付を鉛筆で記入し、受付で手続きをして いた。そのため、このカードを見れば、自分よ りも前にいつ誰が本を借りたのかが一目瞭然 だったのである。今では考えられないが、貸出 カードを見ると、そこには読書好きの常連とも 言える子たちの名前を目にすることができた。
『ぼくは王さま』のカードにも貸出履歴があった ことから、常連たちには尊敬と羨望が入り交じっ た複雑な感情を抱いていた。いつしか本を探す という本来の目的を見失い、貸出カードの一番 上に自分の足跡を残そうと躍起になっていた気 がする。また、放課後には上級生の図書委員が 受付によくいた。小学1 ~ 2年生の頃は、優しい お姉さん委員に気に入られようと、むやみやた らと本の貸し借りを繰り返し、読書好きをアピー ルすることに余念がなかった。ひょっとすると、
高校卒業まで「抜き出し問題」に足を引っ張ら れた原因は、この辺りにあるのかも知れない。
国語科の神様に見られていたのだろうか。
それはともかく、大学生になってからも図書 館は常に身近な存在だった。変わったのは、そ こが貸出冊数を競い合う場所でも、お姉さん委 員に自分を知ってもらう場所でもなかったこと である。大学図書館に惹きつけられ、足繁く通 い詰めた理由は、海外の書籍や新聞・雑誌が平 然と置かれていたことだった。いまでこそ外国 にある書店のサイトからたやすく本を注文した り、海外のニュース番組をリアルタイムで視聴 できたりするが、自分の学生時代はそれほど手 軽なものではなかった。日本では入手困難もの が目の前にあるというだけで心躍らされ、数日 遅れて届けられる新聞や雑誌のページをめくり ながら、そのうち一部はコピーして持ち帰り授 業の課題よりも真剣に読解しようと取り組んだ ものである。
一方で、ほろ苦い思い出も告白しておかねば ならない。大学院に進学して図書館の利用回数 が大幅に増えた頃、退館しようと出口に近づく と、両サイドから例の黒いバーが勢いよく閉ま り出られないことが頻繁にあった。ある時には
「ちょっと鞄の中を・・・」と言われたことさえあ る。バーに嫌われた原因はついぞ分からなかっ たが、図書館からしばらく足が遠のいた時期も あった。
教員になって以来、学生時代ほど大学図書館 には行かなくなったものの、いつでも頼りにな るという安心感は変わらない。昨年度はゼミの 時間を使って図書館利用ガイダンスを申請し、
職員の方々には大変お世話になった。あれから ゼミ生の中に、書庫を利用している人がいるこ とをこの場を借りてお伝えしておきたい。
きべ まさゆき(専任講師、ブラジル文学)
学生時代と図書館 102
「思い出ほろほろ」
岐部雅之
4
研究者と図書館