別添3 厚生労働科学研究費補助金研究報告書
厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)
総括研究報告書
カーニー複合に関する疫学調査と診断基準の普及に向けた調査研究
研究代表者 向井 徳男 旭川厚生病院小児科部長
研究要旨:
希少疾患であり、難病指定を受けたカーニー複合に関して、我が国における患者数の把握と疾患認知につい て全国調査を実施した。有効回答率は23.5%であったが、診断確定患者を32例把握し、有する病変や遺伝子診 断の有無などについて検討した。また、本疾患を認知していたのは回答者の15.6%と低率に留まり、認知して いた回答者においても本疾患が難病に指定されたことを知っていたのは33.2%とおよそ1/3にすぎなかった。
今回の調査において本疾患の概要や診断基準を文書で送付しており、多少なりとも本疾患の認知および難病 指定疾患である事実を広げるきっかけになったものと推察された。
研究分担者
西川 哲男 横浜労災病院名誉院長 西條 泰明 旭川医科大学医学部教授 棚橋 祐典 旭川医科大学医学部講師
3 A.研究目的
カーニー複合(CNC)は粘液腫、皮膚色素斑、内分 泌機能亢進状態を合併した症例をまとめて名付けら れた比較的新しい疾患概念で、合併する内分泌疾患 から診断に至ることが多いとされる、多発性の家族 性腫瘍症候群である。罹患率は不明だが、2001 年に 海外から診断基準が提唱され、これまで世界で 700 例以上の報告や症例登録がある。約7割が常染色体 優性遺伝で、残りは散発例とされ、連鎖遺伝子座位 として 17q2 (type1)と 2p16 (type2)とが示され、本 疾患には異質性がある。type1 の原因遺伝子として PRKAR1Aが同定されたが、type2 は未だ不明である。
治療法は、内分泌異常に対する対症療法以外は、腫 瘍に対する手術しかないのが現状である。
本邦における実態把握を目的に実施した平成 22 年度の全国調査(回答率 57.2%)では 26 症例を把握 することができ、本邦には約 40 例程度存在しうるこ とを初めて明らかにした。また、本邦における臨床 像を海外の報告と比較しても大きく異なる点はなか ったが、診断基準に示されているPRKAR1A 遺伝子異 常の有無を検討したのは7例(27%)に留まり、そ の中で遺伝子異常を同定した症例は 4 例(15%)に 過ぎなかった。
平成 27 年 7 月、新規に難病指定されたこともあり、
疾患概念については以前よりも普及が図られたと考 えられる。そこで、改めて全国調査を実施して CNC 患者の本邦における実態把握を行い、診断基準の整 合性・有用性を再検討し、診断基準の一層の普及を 図り、多彩な症状を呈するが故に診断が遅れる可能 性のある本疾患の認知をより一層広めて早期の診 断・治療・長期管理など、本邦における CNC 診療レ ベルの向上を目指す。
B.研究方法
資料に示した文書を、疾患との関連が深いと考え られる内科、循環器内科、内分泌内科、皮膚科、小 児科、循環器(胸部)外科、形成外科を標榜する全国 の医療機関を対象に調査票を送付し、郵送形式で回 答を得た。調査内容は、①CNCという疾患についての 認知ついて、②難病指定された事実に関する認知に ついて、③診断症例の有無について、というように 単純化して実施した。
また、診断確定に関連して遺伝子変異の解析を依 頼されたのが5例あった。5例すべてについてPRKAR1A 遺伝子解析をこれまで通りのダイレクトシークエン ス法で実施した。
(倫理面への配慮)
疫学研究に関する倫理指針を遵守して全国調査を 実施した。患者数把握のみの一次調査、患者臨床情 報収集のための二次調査ともに倫理指針を遵守して 行った。研究対象者の個人の尊厳及び人権を尊重し て研究を実施することは勿論、研究対象者に関わる 情報を適切に取り扱い、その個人情報を保護するこ とを徹底する。そのため、調査票はカギ付きの書類 庫などを用いて厳重に保管することとし、また、得 られた個人情報管理のために用いるコンピューター はインターネットなど外部に接続することのないパ スワードのついたものを使用した。
また、遺伝子解析に際しては研究対象者からは文 書によるインフォームド・コンセントを得ることを
原則とした。
なお、当該研究の実施に当たっては研究代表者の 所属機関における倫理委員会の審査・承認を事前に 得てから実施した。
C.研究結果
調査対象となった送付先は合計 16,629 で、このう ち有効な回答が得られたのが 3,907(23.5%)であ った。
① 疾 患 の 認 知 度 に 関 し て 回 答 が 寄 せ ら れ た 3,907 のうち CNC を疾患として知らなかったの は 3,296(84.4%)にのぼり、疾患として知っ ていたのは 611(15.6%)に過ぎなかった。
② また、疾患として認知していた 611 のうち難病 に 指 定 さ れ た こ と を 知 っ て い た の は 203
(33.2%)で、知らなかったのは 384(62.9%)、
不明 24(3.9%)であった。
③ CNC 症例に関して把握できたのは診断確定例 32 例(男 13 例、女 16 例、不明 3 例)、疑い 例 3 例であった。診断確定 32 例のうち遺伝子 診断されていたのは 15 例(46.9%)、難病認 定を受けているのは 13 例(40.6%)であった。
32 例のうち病状について把握できた 29 例(男 13 例、女 16 例)についてまとめると、実年齢 は 4〜70 歳(中央値 30 歳)で、診断時年齢は 1〜56 歳(中央値 23 歳)であった。比較的多 い病変としては、心粘液腫 58.6%、成長ホル モン産生腺腫による先端肥大症 51.7%、点状 皮膚色素沈着 44.8%、皮膚粘液腫 41.4%、ク ッシング症候群 37.9%、原発性色素性結節状 副腎皮質病変(PPNAD)31.0%、甲状腺病変 27.6%、乳房粘液腫 17.2%、乳管腺腫 13.8%
などがあり、これまでの報告に比して皮膚病変 がやや少ない割に、心病変が多い傾向であった。
内分泌病変については既報と同様、合併例が多 い傾向であった。その他、精巣超音波検査での 石灰化像が男性患者の 23.1%に、卵巣嚢腫が 女性患者の 12.5%に認められた。家族歴を有 する症例が 44.8%、遺伝子診断を行ったのは 44.8%であった。
次に、PRKAR1A遺伝子解析を実施した5例のうち変 異を同定できたのが3例、変異を同定できなかったの が2例であった。同定した遺伝子変異は以下の通りで ある。
1)c.446‑5insT (IVS4‑5insT) 2)c.815delC (p.E272N fx25) 3)c.190C>T (p.Q46X)
D.考察
今回の調査で得られた本邦におけるCNCの実態に ついては、難病情報センター等に情報提供を行って いく。また、本疾患に関係が深いと予想される診療 科の医師においても、疾患への認知度は高くないこ とが判明した。本疾患の疾患概要・診断基準を今回 の調査で送付しており、回答を返送した医師は当然 のことながら、返送しなかった医師の中にも疾患概 要・診断基準を読んだ可能性があり、希少疾患であ り、難病にも指定されている本疾患に対する認知は 確実に高まったことと想像できる
E.結論
カーニー複合に関する全国調査を実施した。有効 回答率は23.5%と低かったが、診断を確定している 症例を少なくとも32例把握することができた。また、
希少疾患という事情もあって疾患認知度については 回答者の15.6%とやはり低い結果であったが、疾患 概要や診断基準を送付したことで疾患としての認知 は高められたものと察せられた。
原因遺伝子であるPRKAR1A遺伝子解析を5例に実施 し、うち3例に遺伝子変異を同定して診断を確定した。
今後は、本疾患の診断確定のための遺伝子解析を 継続的に実施していく体制を整えることが重要だと 考えられた。
F.研究発表 1. 論文発表 特になし 2. 学会発表 特になし
全国調査の結果に関して平成30年度以降に 全国学会にて発表予定
G.知的所有権の取得状況 1. 特許取得:
特になし 2. 実用新案登録
特になし 3. その他
特になし
5 資料 (1)
232 カーニー複合
○ 概要
1.概要
カーニー複合(Carney 複合)は、粘液腫、皮膚の色素斑、内分泌機能亢進状態を合併した症例をまとめ、1985 年に名付けられた疾患概念であり、このうち2つ以上の症候があれば臨床的に診断されてきた。クッシング症候 群、先端肥大症、女性化乳房、思春期早発症、内分泌腺腫瘍など内分泌疾患の合併が多く、それらを契機とし て診断に結びつくことが多いのも特徴とされる、多発性腫瘍症候群である。
2.原因
報告症例の約半数が常染色体優性遺伝形式で、残りは散発例である。原因遺伝子座位として 2p16 (CNC type2)あるいは 17q2(CNC type1)との連鎖が示唆されており、本疾患には異質性がある。さらに、CNC type1 の 原因遺伝子としてPRKAR1A (protein kinase A regulatory subunit 1-α )が 2000 年に同定されているが、CNC type2 の原因遺伝子は未だ同定されていない。
3.症状
症状、徴候は生下時に出現していることもあるが、診断時の平均年齢は 20 歳過ぎとされる。
1) 皮膚病変
a.点状皮膚色素沈着 b.皮膚粘膜粘液腫
c.青色母斑、類上皮性青色母斑(多発性)
2) 心病変 心粘液腫 3) 内分泌病変
a.原発性色素性結節状副腎皮質病変(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD)
b.成長ホルモン(GH)産生腺腫による先端肥大症 c.甲状腺腺腫・癌
4) 乳房病変
a.乳房粘液腫症 b.乳管腺腫 5) 男性性器病変
大細胞石灰型セルトリ細胞腫(large-cell calcifying Sertoli cell tumor:LCCSCT)
6) 末梢神経病変
砂腫状黒色神経鞘腫(psammomatous melanotic schwannoma:PMS)
7) 骨病変
骨軟骨粘液腫
4.治療法
多様な腫瘍の発生に注意し、早期発見に努めることが重要である。通常、心粘液腫に対しては外科的切除、
PPNAD によるクッシング症候群に対しては両側副腎摘除、皮膚及び乳房粘液腫に対しては外科的切除、GH 産 生下垂体腺腫に対しては外科的切除もしくはソマトスタチンアナログの併用が行われる。
5.予後
診断時の平均年齢は 20 歳とされ、多発性腫瘍の治療に奏効すれば通常の寿命を全うできるものと思われる が、一部は若年死する。また、罹患男性では妊孕性が低下している可能性があるが、明らかではない。
○ 要件の判定に必要な事項
1. 患者数 100 人未満 2. 発病の機構
不明
3. 効果的な治療方法
未確立(外科治療などの対症療法のみ。)
4. 長期の療養
必要(進行性で、年齢が進むにつれて合併症が増えていく可能性がある。)
5. 診断基準
あり(研究班作成の診断基準。)
6. 重症度分類
1)又は2)に該当するものを対象とする。
1)手術適応者及び術後1年間以内の患者。
2)下記の中等症以上を対象とする。
○ 情報提供元
「Carney 複合の全国調査ならびに診断指針等の作成に関する調査研究」
研究代表者 旭川厚生病院 小児科部長 向井徳男
7 資料 (2)
<診断基準>
カーニー(Carney)複合の診断基準
A.主要徴候
1.点状皮膚色素沈着(口唇、結膜、眼角、外陰部)* 2.粘液腫(皮膚、粘膜)**
3.心粘液腫**
4.乳房粘液腫症**、または脂肪抑制 MRI で乳房粘液腫症を疑わせる所見。
5.原発性色素性結節状副腎皮質病変(PPNAD)**、またはデキサメサゾン負荷試験(Liddle 法)における尿 中グルココルチコイドの奇異性陽性反応。
6.成長ホルモン産生腺腫**による先端肥大症。
7.大細胞石灰型セルトリ細胞腫**、または精巣超音波検査での石灰化像。
8.甲状腺癌**、または若年者における甲状腺超音波検査での低エコー多発結節。
9.砂腫状黒色神経鞘腫**
10.青色母斑、類上皮性青色母斑(多発性)**
11.乳管腺腫(多発性)**
12.骨軟骨粘液腫**
(*点状皮膚色素沈着については、診断に際し、当該疾病に関する十分な経験が必要であるため、皮膚科専門医 による診察が望ましい。)
(**病理診断で確定したもの)
B.補足診断項目
1.一親等以内にカーニー(Carney)複合罹患者の存在 2.PRKAR1A遺伝子の不活化変異
<診断のカテゴリー>
(1)又は(2)を満たすこと。
(1)A 項目のうち2つ以上。
(2)A 項目の1つと、B 項目の1つ以上。
<重症度分類>
1)又は 2)に該当するものを対象とする。
1)手術適応者及び術後1年間以内の患者。
2)下記に示す項目のうち最も重症度の高い項目を疾患の重症度とし、中等症以上を対象とする。
軽症:血清 GH 濃度 1ng/mL 未満
血清 IGF-1 濃度 SD スコア +2.5 未満 治療中の合併症がある。
中等症:血清 GH 濃度 1ng/mL 以上 2.5ng/mL 未満 血清 IGF-1 濃度 SD スコア +2.5 以上
臨床的活動性(頭痛、発汗過多、感覚異常、関節痛のうち、2つ以上の臨床症状)を認める。
重症:血清 GH 濃度 2.5ng/mL 以上
血清 IGF-1 濃度 SD スコア +2.5 以上 臨床的活動性及び合併症の進行を認める。
※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項
1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの 時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能な ものに限る。)。
2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、
直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
3.なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続するこ とが必要なものについては、医療費助成の対象とする。
9 資料 (3)
「カーニー複合」に関する全国調査:調査票 A
<ご所属の診療科を代表してお答えください>
施設名 診療科名 記入者氏名
連絡先(E-mailアドレス)
記入日
201 年 月 日
(1)「カーニー複合」という疾患について
□ (a) 以前より知っていた
□ 1) 難病に指定されたことを知っていた
□ 2) 難病に指定されたことは知らなかった
□ (b) これまで知らなかった
(2)診療の有無について
□
(A) 診断を確定した症例がいる ( 例)
このうち遺伝子診断を行った症例 ( 例)
難病認定を受けた症例 ( 例)
□
(B) 診断を疑っている症例がいる ( 例)
□
(C) 症例はいない
(A)または(B)の場合は「調査票B」への記入もお願いします。
ご協力ありがとうございました。返信用封筒に入れてご返送ください。
資料 (4)
「カーニー複合」に関する全国調査:調査票 B
施設名
診療科名
記入者氏名
連絡先(E‑mailアドレス)
記入日 201 年 月 日
(記入日の時点における状況について記入してください)
年齢: 歳 性別:□男、 □女 診断時年齢: 歳
指定難病(特定医療費)の受給:□有、 □無、 □不明
1)皮膚病変
点状皮膚色素沈着:□有(口唇、結膜、眼角、外陰部)、 □無、 □不明 粘液腫:□有(皮膚、粘膜)、□無、 □不明
青色母斑、類上皮性青色母斑(多発性):□有、 □無、 □不明 カフェオレ斑:□有、 □無、 □不明
毛巣瘻:□有、 □無、 □不明 2)心臓病変
心粘液腫:□有、 □無、 □不明 心筋症:□有、 □無、 □不明 3)内分泌病変
原発性色素性結節状副腎皮質病変(PPNAD):□有、 □無、 □不明
デキサメサゾン負荷試験(Liddle法)における尿中グルココルチコイド 奇異性陽性反応:
□有、 □無、 □不明 副腎皮質腫瘍:□有、 □無、 □不明
クッシング症候群:□有、 □無、 □不明
成長ホルモン産生腺腫による先端肥大症:□有、 □無、 □不明 甲状腺癌:□有、 □無、 □不明
甲状腺腫瘍:□有、 □無、 □不明
甲状腺超音波検査で低エコー多発結節:□有、 □無、 □不明 4)乳房病変
乳房粘液腫:□有、 □無、 □不明
脂肪抑制MRIで乳房粘液腫症を疑わせる所見:□有、 □無、 □不明 乳糖粘液腫:□有、 □無、 □不明
乳管腺腫(多発性):□有、 □無、 □不明 5)精巣病変
大細胞石灰型セルトリ細胞腫(LCCSCT):□有、 □無、 □不明 精巣超音波検査で石灰化像:□有、 □無、 □不明
ライディッヒ細胞腫瘍:□有、 □無、 □不明 副腎皮質遺残腫瘍:□有、 □無、 □不明 6)末梢神経病変
砂腫状黒色神経鞘腫:□有、 □無、 □不明 傍神経節腫:□有、 □無、 □不明
7)骨病変
骨軟骨粘液腫:□有、 □無、 □不明 8)その他の病変
卵巣嚢腫:□有、 □無、 □不明 膵臓腫瘍:□有、 □無、 □不明 肝臓腺腫:□有、 □無、 □不明 9)補足項目
一親等以内にカーニー複合罹患者の存在:□有、 □無、 □不明 PRKAR1A遺伝子の不活化変異 :□有、 □無、 □不明