光と電波による地球環境計測への
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光と電波による地球環境計測への
IT
活用事例
活用事例
活用事例
活用事例
IT Applications in Global Environment Observation Using Light and
Radio Waves
あ ら ま し
現在,地球温暖化,オゾン層破壊,酸性雨,海洋汚染など,地球規模での環境問題が危 惧されている。
独立行政法人通信総合研究所(CRL:Communications Research Laboratory)では,こ れら地球環境問題の現象を理解し解明するため,光と電波を用いた地球環境のリモートセン シング技術の開発,および計測した環境情報の有効利用にIT(情報技術)を活用し,大き な成果を上げている。 著者らは,1998年からこれらの研究に参画し,地球環境観測データの処理,および高速 ネットワークを利用した実験システムの構築において,その一翼を担ってきた。 本稿では,地球環境の計測と環境情報利用におけるIT活用事例として,北極域大気環境 計測,および宇宙ステーション搭載サブミリ波による大気微量成分計測の概要と構成,基礎 技術などを紹介する。 Abstract
Recently, there has been rising concern about global-scale environmental problems such as global warming, ozone-layer depletion, acid rain, and marine pollution. To understand and resolve these problems, the Communications Research Laboratory (CRL), an independent administrative corporation, has developed a remote environment-sensing system. The system uses light and radio waves to monitor the environment and uses information technology (IT) to make effective use of the environmental data it generates. The system has been in operation since 1999 and has already produced significant results. The authors have been participating in environmental studies at CRL since 1998 and have helped process global environment observation data and construct experimental systems using a high-speed network. This paper describes some applications of IT technology in global environment observation and the use of environmental data. First, we describe air quality measurements that are conducted in the Arctic region. Then, we describe the configuration and base technology of a system for measuring minor constituents of the atmosphere by using submillimeter radar from a satellite station.
谷口弘智(たにぐち ひろとも) 富士通エフ・アイ・ピー(株)環境 サイエンスシステム事業部環境シス テム部 所属 現在,地球環境・科学のシステム開 発に従事。 松本哲也(まつもと てつや) 富士通エフ・アイ・ピー(株)環境 サイエンスシステム事業部環境シス テム部 所属 現在,地球環境・科学のシステム開 発に従事。 高橋千賀子(たかはし ちかこ) 富士通エフ・アイ・ピー(株)環境 サイエンスシステム事業部環境シス テム部 所属 現在,地球環境・科学のシステム開 発に従事。
光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
ま え が き
現在,人間活動に起因した地球環境の変化により, 気候変動が発生し多くの影響が現れるであろうと予 測されている。すでにオゾンホール,温暖化,酸性 雨,砂漠化など地球規模での環境変化が発生し,人 類共通の問題となっている。 これらの地球環境問題に対処するためには,地球 環境の理解と解明により,地球環境変動の影響を長 期予測し有効な対策を講じる必要がある。とくに高 度10∼100 kmの大気層は中層大気と呼ばれ,オゾ ン層破壊で知られるような重要な領域であり,この 中層大気のダイナミックな振る舞いを正確に把握し なければならない。 独立行政法人通信総合研究所(Communications Research Laboratory,以下CRL)では,地球環境 の理解と解明のため,光や電波を用いた遠隔計測 (リモートセンシング)技術による地球環境の計測 に取り組み,地球環境にかかわるデータや情報を人 類の共有財産として,有効に利用できるための技術 開発を行っている。 本稿では,光と電波による地球環境計測へのIT 活用事例として, (1) CRLの地球環境計測への取組みの概要 (2) 日米科学技術協力協定のもと,アラスカ大学 と共同で行っている「アラスカにおける地球環 境のための北極域大気環境計測技術に関する日 米 共 同 研 究 」 の た め の シ ス テ ム SALMON ( System for Alaska Middle atmosphereObservation data Network)
(3) 宇宙開発事業団(注)と共同で行っている宇宙ス
テーション搭載の超伝導サブミリ波放射サウン ダ ( JEM/SMILES : Japanese Experiment Module/Superconducting Submillimeter-Wave Limb Emission Sounder ) の た め の シ ミ ュ レータ について紹介する。
CRL
の地球環境計測
成層圏オゾン層の減少の問題は,とりわけ極域で 顕著である。この傾向に対する世界的な警戒心の高 (注) 平成15年10月1日に宇宙科学研究所,航空宇宙技術研究 所とともに,宇宙航空研究開発機構として統合した。 まりとともに,1985年にはオゾン層保護のための ウィーン条約が,また1987年にはモントリオール 議定書が採択されるなど,国際的な協力の枠組みが 整備されてきた。 このようなオゾンホールの発生や高緯度地域で予 想される急激な温暖化を見ても分かるとおり,極域 は地球環境変動の影響が特に顕著に現れる場所とし て知られている。CRLでは,この地球環境変動を 監視し,メカニズムを解明するために地上および人 工衛星を用いた極域観測など地球環境計測体制を強 化してきた。さらに極域に限らず気候変動の解明の ため世界の降雨分布,とくに降雨において重要な熱 帯地方をカバーする熱帯降雨観測衛星搭載レーダを 宇宙開発事業団と協力して開発するなど大きな成果 を上げている。SALMON
ここでは,光と電波による地球環境計測へのIT 活用事例として,SALMONの概要,データ転送実 験,およびSALMONから得られる観測データ表示 を紹介する。 CRLでは,1997年国連環境開発特別総会で採択 された「21世紀に向けた環境開発支援構想」の行 動計画の一つである地球環境保全に対する情報通信 の積極的な活用の趣旨に沿って,ネットワークなど の情報通信技術の地球環境計測とそのデータ利用分 野における活用を目的とした研究を行っている。こ の研究システムはSALMONと呼ばれ,日米科学技 術協力協定のもと,アラスカ大学地球物理研究所な どとの共同研究による北極域大気計測実験として推 進している。現在,CRLでは9種類にも及ぶ地球環 境計測装置を開発し,アラスカにおいて地表付近か らオーロラの発光する高度約300 kmまでをカバー している(表-1)。(1) これらの観測装置は日本国内か らの遠隔操作や完全自動観測が可能で,オゾン層な どの大気の組成や,気温,風向・風速,大気発光層 での発光強度(オーロラ強度)などの多岐にわたる データを連続的に取得している。当然のことながら, 表-1に示す観測装置が観測するデータ量は膨大であ り,そのサイズは1日あたり数ギガバイトにも及ぶ が,この大容量データを定常的に安定して転送処理 することが困難であった。しかし,極域の有用な観 測データを世界の地球環境問題の理解と解明のため光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
表-1 SALMONの観測装置概要 観測装置 観測項目 観測高度 観測形態 イメージ ングリオ メータ 下部電離層 による銀河 電波輻射の 吸収(CNA) 下部熱圏(80∼90 km) 水平分布, 昼夜 ミリ波 ラジオ メータ 大気微量成 分濃度 成層圏,下部中間圏 (20∼70 km) 高度分布, 昼夜連続 レイリ・ ライダ 風向・風 速,気温 成層圏,下部中間圏 (30∼80 km) 高度分布, 夜間 ファブリ ぺロー干 渉計 大気発光層 高度の水 平・鉛直風 速,中性大 気温度 上部中間圏,下部熱圏 (静穏時:85,95,250 km) (オーロラじょうらん時: 85,120,250 km) 水平分布, 夜間(新月 期間) 分反射 レーダ 風向・風速 上部中間圏,下部熱圏 (60∼100 km) 高度分布, 昼夜 FTIR 大気微量成 分濃度 対流圏・下部成層圏 (10∼30 km) 高度分布, 昼間 多波長 ライダ 大気中浮遊 粒子 対流圏上部・下部成層圏 (5∼40 km) 高度分布, 夜間 電離層電場 中部熱圏(∼250 km) 水平分布, 昼夜 Super DARN HFレーダ 風向・風速 熱圏(80∼110 km) 高度分布, 昼夜 大気光イ メージャ 大気発光層 の発光強 度,大気波 動撮像 上部中間圏,下部熱圏 (静穏時:85,95,250 km) (オーロラじょうらん時: 85,120,250 km) 水平分布, 夜間 図-1 SALMONネットワーク概要 Fig.1-Outline of SALMON Network.に役立てるため,CRLでは,アジア太平洋地域や 北米で進められている超高速インターネット接続実 験APAN(Asia Pacific Advanced Network:参加 機関=CRL,KDDI,早稲田大学,産総研,ほか), TransPAC ( 代表 : インデ ィ ア ナ大 学),vBNS (very high speed Backbone Network System:全 米科学財団)に参画し,これらの次世代インター ネット研究と地球環境計測研究を融合させた世界初 のデータネットワークシステム(SALMON)を実 現させた(図-1)。 ● SALMONの構成 SALMONは,図-2に示すように以下の五つの サーバとバックアップ装置から構成されている。 (1) 米国アラスカ州に設置した各種観測装置から 得られた中層大気を中心とする地球観測データ を準リアルタイムに受信するサーバ(アラスカ サーバ) (2) アラスカサーバから観測データを受信し,日 本側データサーバに伝送するサーバ(第2アラス カサーバ) (3) 第2アラスカサーバから高速ネットワークを介 して伝送される観測データを受信し,整理・分 類した上でデータベースに登録を行うサーバ (日本側データサーバ) (4) 観測データを解析し可視化するアプリケー ションサーバ (5) 大画面マルチディスプレイシステムおよび データを必要とする研究者に,配布を行うWeb サーバ (6) アラスカにおいてデータを確実に保存するた め,1台が故障しても正常な1台によりデータの 保存,転送を継続するためのバックアップ装置 著者らは,SALMONのハードウェア導入,シス テム構築,およびアラスカ現地でのテストなどを実 施し,現在,観測データの解析および運用支援を 行っている。 ● SALMONの特徴 本システムは以下の大きな特徴を持つ。 (1) 次世代インターネットを用いた遠距離ネット ワークシステムでのデータ安定転送 (2) 極域において地表付近から高度約300 kmまで をカバーする各種地球環境計測機器の全自動ま たは遠隔操作による省力化運用 (3) 観測データの準リアルタイム処理(観測から 一定時間のタイムラグを持った処理) (4) 処理データの即時公開への取組み とくに,大量のデータを取りこぼしなく遠距離間 を転送するため,各種転送パラメタおよび転送間隔 の最適化,監視ツールの充実などを行った。これら
光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
バックアップ 装置(DLT) 一般ユーザ 参照要求 POKER FLAT実験場 日本側データサーバ インターネット Micro-Wave 1.5 Mbps (アラスカ大学自営回線) S-7/400U S-7/400U S-7/400U S-7/400U×2 ディスクアレイ SH850 ディスクアレイ SH7000 CRL各種観測装置 アラスカサーバ バックアップ装置 (DLT) 100-BASE/T 構内LAN 100-BASE/T 構内LAN 第2アラスカサーバ 観測データ転送 アプリケーション サーバ GP-400S model80 計算結果データまたは画像 (リアルタイム表示) Webサーバ マルチディスプレイ デ ー タ 中 継 デ ー タ 受 信 Web 公開 表示 QL処理 複合解析 Web化 データ 公開 アラスカ大学(Fairbanks) 100-BASE/T 構内LAN 通信総合研究所(小金井) 図-2 SALMONシステム構成 Fig.2-SALMON System configuration.表-2 実験パラメタ アラスカサーバ 日本側サーバ 試験環境 OS: Solaris2.6 FTP: native (/usr/sbin/in.ftpd) OS: Solaris2.6 FTP: native (/bin/ftp) 変更 パラメタ “TCP_xmit _hiwat” Send buffer “TCP_recv _hiwat” Receive buffer “TCP_xmit _hiwat” Send buffer “TCP_recv _hiwat” Receive buffer ケース1 8 Kバイト 8 Kバイト 8 Kバイト 8 Kバイト ケース2 8 Kバイト 8 Kバイト 8 Kバイト 64 Kバイト ケース3 16 Kバイト 16 Kバイト 16 Kバイト 64 Kバイト の機能により現在順調にデータの取得を行っている。 また,ここで得られた技術は,汎用化されて,亜熱 帯大気海洋の運動の観測,大気海洋循環の変動をモ ニ タするための システムである CRL沖縄向けの 「亜熱帯環境計測ネットワーク・データシステム」 にも適用し,大きな効果を上げている。 ● アラスカ−日本間データ転送実験(2) APAN,TransPACなどの実験ネットワークと協 力したデータ転送実験は1999年10月から開始した。 本 実 験 で は , TCP ( Transmission Control Protocol)パラメタを変更した場合の転送レートを 測定し,遠距離の高速ネットワークシステムにおけ る最適なパラメタを導き出すことを目的とした。実 験は表-2に示す三つのケースのTCPパラメタの設定 条 件 で そ れ ぞ れ に つ い て 2 時 間 内 に FTP ( File Transfer Protocol)によるデータ転送を繰り返し実 行する形で,同室内の同セグメント(一つのスイッ チングハブ)に接続されたサーバ間でのデータ伝送 実験およびアラスカサーバと日本側サーバを用いた 伝送実験を実施した。実験で使用したソフトウェア はSolaris 2.6 OSの標準FTPデーモンとクライアン トで,日本側でクライアント,アラスカ側でサーバ デーモンをそれぞれ起動させた。 転送したファイルは毎回同じものとして,経路上 でデータ圧縮などがあっても,圧縮率などによって 転送レートが左右されないようにした。ケース1で はすべてのTCPパラメタはデフォルト値のまま, ケ ー ス 2 で は ク ラ イ ア ン ト 側 ( 日 本 側 ) の TCP_recv_hiwatの み を デ フ ォ ル ト 値 の 8 倍 ( 64 K バ イ ト ) に , ケ ー ス 3 で は サ ー バ 側 TCP_xmit_hiwat,TCP_recv_hiwat,クライアン ト側のTCP_xmit_hiwatを更に2倍の16 Kバイトに 増やして行った。これらの3ケースについて,約 1 Mバイトのファイルと小さな約1 Kバイトのファ
光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
図-3 オゾンの観測データ表示例(FTIR) Fig.3-Display of ozone observation data (FTIR).
図-4 大気光イメージャによるオーロラと大気光のイ メージの例
Fig.4-Aurora and airglow images via All-Sky Imager.
イルとを定期的にFTPでアラスカ側より取り込む 操作を行った。実験結果からは,サーバ間接続が良 好な場合にはデフォルト値が最適値に近いと考えら れるものの,アラスカ−日本のような長距離のIP 接続についてFTPによるデータ転送を行う場合, TCP通信時に用いられるバッファサイズを大きく することによって,より最適な伝送レートが得られ ることが期待される。とくに大きなサイズのファイ ル伝送に見られるバースト的な連続伝送については, 1.3倍程度のスループットの向上が期待できること が分かった。小サイズ(1 Kバイト)データ転送実 験ではパラメタを変えても転送速度の変化は見られ なかった。こまぎれの転送プロセスのため,FTP 接続に伴うオーバヘッドなどが転送速度を抑えてい る可能性が考えられる。 ● 観測データの表示例 観 測後 ,準リア ルタイム に 高速ネッ トワ ーク で 転送し ,処理さ れた観測 データ を紹介す る。 これ ら観測 データ は処理後 す ぐに Webサイ トに よ り公開 され,研 究用デー タとし て活用さ れる (http://salmon.crl.go.jp)。 (1) フーリエ変換型赤外分光計(FTIR)
FTIR(Fourier Transform Infrared Spectrometer) は太陽光を用いてオゾンなどの上空の大気微量成分 を測る装置で,アラスカにおいては太陽が短時間し か出ない冬季間以外の春から秋にかけて観測するこ とができる。FTIRによって観測された2001年3月 から2002年9月にかけての2年分のアラスカ上空で のオゾン層の観測データ表示例を図-3に示す。 (2) 大気光イメージャ(ASI) ASI(All-Sky Imager)は,大気光と呼ばれる超 高層大気中の微弱な発光を撮影するための装置であ り,視野180°の範囲を観測することができる。ASI によって観測されたオーロラと大気光のイメージ例 を図-4に示す。この図中のa∼fは,ほぼ同時に観測 されたオーロラで,活発なオーロラに特有のすじ状 の模様が見える。 CRLでは,そのほか,数多くの観測データを準 リアルタイムで解析し,Web上で表示している。こ れらSALMONで観測したデータは,多くの利用者 からアクセスされ,地球環境問題のメカニズムを理 解し解明するためのアプローチとして,将来の地球 環境変化を予測する上で重要度を増している。
JEM/SMILES
シミュレータ
ここでは,電波による地球環境計測へのIT活用 事例として,JEM/SMILESや地上局システムの開 発に必要なJEM/SMILESシミュレータの概要,開 発状況を説明する。 CRLでは,宇宙開発事業団と共同で,宇宙から のサブミリ波帯による上部対流圏から成層圏の微量 大気成分の観測技術実用化を目的とした,超伝導サ光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
宇宙開発事業団提供
図-5 JEM/SMILES観測概要 Fig.5-Outline of JEM/SMILES observation.
擬似観測データ作成処理 リトリーバル処理 レベル1データ処理 (輝度温度算出処理) Forward Model 逆行列の計算 レベル2データ処理(高度プロファイルの算出処理) 放射輝度温度 weighting function 収束判定 SMILESから 得られる信号 レベル1データ a priori プロファイル プロファイル リトリーバル 結果 (プロファイル) true プロファイル 大気 地球 放射伝達式 装置 SMILES内部の シミュレーション 放射伝達の シミュレーション 図-6 JEM/SMILESシミュレータ概要 Fig.6-Outline of JME/SMILES Simulator.
ブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)の開発を 進 め て お り , 国 際 宇 宙 ス テ ー シ ョ ン ( ISS : International Space Station)日本実験モジュール (JEM)曝露 ば く ろ 部へ搭載される予定である(図-5)。 SMILESではリム放射観測手法により3 km∼ 3.5 km程度の高度分解能が得られ,軌道傾斜角 51.6°の宇宙ステーションに搭載することにより, 赤道・中緯度帯の大気観測に重要な役割を果たすこ とが期待されている。 ● JEM/SMILESシミュレータ開発の目的 一般に宇宙空間で観測を実施する機器(以下,セ ンサ)は,宇宙空間という特殊性からハードウェア の修理,保守を行うことが非常に困難である。また 新しい技術へのチャレンジも多く存在するため,で きる限りの試験を地上で実施する。そのためセンサ が観測を行った場合,どのような信号を出力するか を模擬するシミュレータ,およびセンサから出力さ れた観測データを用いて大気成分の物理量を算出す るシミュレータの開発が重要である。 著者らは,国際宇宙ステーションに搭載される SMILESから得られるスペクトルデータの推定や, そのスペクトルデータを用いて大気中の微量分子の 濃度分布やその誤差などを導出することができるシ ミュレータをLinux上で動作するソフトウェアとし て開発した。このシミュレータは,センサ設計時に そのセンサの要求されるべき性能を評価し設計に役 立てることや,センサの打ち上げ前に観測対象分子 の観測誤差などの詳細な検討や地上局データ処理の アルゴリズム開発などに役立てることを目的として いる。 ● JEM/SMILESシミュレータ概要(3) JEM/SMILESシミュレータは図-6に示したよう なシミュレーションを行う。処理機能としては大き く以下の二つに分けることができる。
光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
(a)リトリーバル処理の比較 (b)シミュレータによる擬似観測データの比較
図-7 オゾンのリトリーバル結果 Fig.7-Ozone retrieval result.
(1) 擬似観測データシミュレータ 擬似観測データ作成処理の部分では,SMILES から得られるデータを作成する。この部分では,ま ずLimb方向(大気周縁方向)の観測径路での放射 伝達式の計算を行いペンシルビームに対する輝度温 度を求める。そして,その輝度温度にアンテナパ ターンに対応する重みを掛けて積分し,アンテナ温 度を求める。つぎに,アンテナ温度に対して,装置 による影響(定在波,ノイズ,増幅など)を付加し, SMILESから地上に送られてくる信号を作成する。 (2) リトリーバル処理 SMILESが測定するのは電磁波のスペクトルで あり,分子濃度の高度分布を「直接」測定するわけ ではない。そのため,スペクトルから分子濃度の高 度分布を算出するのには,特別な処理を行う必要が ある。 大気中の分子はその分子特有の周波数の電磁波を 放射または吸収する。その放射(または吸収)スペ クトルの形状は,分子の種類や温度,圧力および濃 度分布などに依存する。したがって,電磁波のスペ クトルにはLimb方向の観測経路における,分子濃 度や温度などの分布情報などが含まれる。スペクト ルからこれらの情報を取り出し,分子濃度の高度分 布などに変換する処理をリトリーバル処理という。 ● シミュレーション結果例(3) ODIN(スウェーデンのサブミリ波天文・地球観 測衛星)の観測データを用いて本シミュレータと MOLIERE(フランスの大気観測シミュレータ)で 行ったシミュレーション結果の比較を図-7に示す。 この比較結果では,擬似観測データは非常に良く 一致しており,擬似観測データ作成処理部の計算に 関して間違いはないと考えられる。一方,リトリー バル処理部の比較では,情報量の多い20 kmより高 い高度では両者の結果は良く一致しているが,高度 が低い部分(14 kmあたり)で値が増幅されている。 この低高度で増幅される原因はまだ解明されてい ないため,今後更に検討し開発を進めていく予定 である。 ● JEM/SMILES地上局システム SMILESで観測されたデータを処理し,研究に 広く役立てるための地上局システムを図-8に示す。 本システムはSMILESの運用要求からデータ取得, 高次処理(プロダクトの生成),データアーカイブ および配布までを一貫して行うものである。また本 システムの基幹となるデータ高次処理部は,前述の シミュレータで検討したリトリーバルアルゴリズム
光と電波による地球環境計測へのIT活用事例
JEM 米国中継衛星 TDRS 国際宇宙ステ ーシ ョ ン 用 専用回線 JEM 運用 システム SMIL ES 地上システ ム (TK SC内研究処理設備) SM IL ES 観測 データ ブ レ ーメ ン大学 レベル0,1,2 EORCレベル3 利用者 国際宇宙ステ ーシ ョ ン (ISS) DRTS N ASA 主と し て 利用 レベル1 (媒体) レベル2 (注) 米国側の経路は利用し な い予定で ある 。 観測データ 観測データ 観測データ 観測データ 宇宙開発 事業団 観測データ 宇宙開発事業団 地球観測データ解析 研究センタ 通信総合 研究所 CRLレベル3 図-8 JEM/SMILES地上局システムの概要 Fig.8-Overview of JEM/SMILES Ground System.がベースとなる。この地上局システムは 2007年 SMILES打ち上げに向け今後整備を行う予定であ り,とくに本システムでは,大量データの安定かつ 高速な転送,処理速度の高速化および低コスト, データ利用のためのインタオベラビリティの向上を 念頭において開発を行う予定である。