関数体上の Langlands 予想について
東京大学大学院数理科学研究科博士課程
1年 三枝 洋一
(Yoichi Mieda) Graduate School of Mathematical Sciences, The University of Tokyo0 はじめに
本稿の目標は,
Lafforgueによってなされた関数体上の
Langlands予想の証明を解説する ことである.直接関係のある論文
[Laf1], [Laf2], [Laf3]だけで
600ページ近くあることから 分かるように,Lafforgue の証明はかなり大規模なものであり,そのすべてを数十ページの 講究録で完全に扱うのはもちろん不可能である.その一方で,
[Laf4]や
[Lau]など,証明の 全体的な流れを概観した優れた解説は既に存在する.そこで本稿では,
Lafforgueの証明の
うち
Lefschetz跡公式の部分のみに焦点を当て,詳細な解説を行うことにした.証明の数あ
るステップのうち
Lefschetz跡公式を選んだのは,筆者が比較的詳しいこともあるが,
• Langlands
予想に関わる論文ではほとんど見られない議論が行われており,
Lafforgueの独自性が発揮されていると思われる
• Lafforgue
の仕事の解説を行った文献において(筆者の知る限り)まだ扱われていない
などの理由によるものである.
このようにテーマを狭く絞り込んだため,Lefschetz 跡公式以外の部分についての扱いは かなり軽いものにせざるを得なかった.特に
shtukaのレベル構造・Hecke 対応の定義やモ ジュライスタック
ChtrNの性質を始めとする基本的な事柄,コンパクト化の構成やその境界 の記述などの興味深いトピックに全く触れられなかったのは心残りである.また,解説記 事としては触れるべきであろう,関数体の
Langlands予想の解決にいたるまでの歴史も紙 数の関係で割愛した.これらについては
[Laf4], [Lau]などの解説記事などを参照されたい.
最後に,本稿の全体的な構成について簡単に述べておく.まず第
1節では,
Langlands予 想の正確な主張を述べ,非常に大雑把な証明のあらすじを紹介する.第
2節では,shtuka とそのモジュライスタックについて必要最低限の説明を行う.第
3節は
Lefschetz跡公式 の概説に充てられている.Lefschetz 跡公式は数論幾何において極めて重要な位置を占める ものだと思われるが,そのまとまった解説記事はあまりないようである.そのため第
3節 では,Lefschetz-Verdier 跡公式および
Deligne予想について細かい解説を行い,可能な限 り証明をつけることにした.第
4節では,Lafforgue による
Lefschetz跡公式について証明 付きで詳しく述べる.最後に,第
5節では,第
4節の内容をいかにして
shtukaのモジュラ イスタックのコホモロジーの計算に応用するかを概観する.
謝辞 筆者に講演および講究録執筆の機会を与えてくださった渡部隆夫氏(阪大理) ,なら
びに筆者を推薦してくださった織田孝幸氏(東大数理)に深く感謝する.また,伊藤哲史
氏(京大理)には,本原稿について多くの有益なコメントをいただいた.ここに感謝の意
を捧げる.
記号
Fqを有限体とし,ℓ を
qを割らない素数とする.C を
Fq上
proper smoothかつ幾 何学的に連結な曲線とし,F を
Cの関数体とする.F を
Fの分離閉包,G
F = Gal(F /F)を
Fの絶対
Galois群とする.また,F の素点
x∈ |C|に対し,F
xを
Fの
xにおける完備 化とし,その整数環を
Ox,剰余体を
κxと書く.κ
xの
Fq上の拡大次数を
xの次数と呼び,
degx
と書く.
AF
を
Fのアデール環とし,O
AF =∏x∈|C|Ox
をその整数環とする.a
= (ax)x∈|C|∈Aに対し,deg
a=∑x∈|C|degx·vx(ax)
とおく(これは本質的には有限和である) .ただし,
vx
は
Oxの正規化された離散付値とする.
コホモロジーといえば常に
ℓ進エタールコホモロジーを指すものとする.
1 Langlands 予想とは
よく知られているように,
Langlands予想とは
GFの
r次元
ℓ進表現と
GLr(AF)の保型表 現が対応するであろうという予想である.ここではまず両者の設定を明確にし,
Langlands予想を定式化する.
1.1 ガロア表現
r≥1
に対し,G
ℓr(F)を
GFの連続な既約
r次元
ℓ進表現
σ:GF −→GLr(Qℓ)で,条件
•
有限個の素点を除いて不分岐である
• detσ
が有限位数,すなわちある
n̸= 0に対して
(detσ)⊗nが自明な指標となる を満たすものの同型類の集合とする.
σ∈ Gℓr(F)
はある開集合
V ⊂C上の
smoothな
ℓ進層,あるいは
C上の構成可能な
ℓ進 層とみなすことができる.
定義
1.1x∈ |C|
に対し,F 上の埋め込み
F ,−→Fxを
1つ固定し,Gal(F
x/Fx)⊂GFとみな す.σ の
Gal(Fx/Fx)への制限を
σxとする.また,x における惰性群を
Ixと書く.この とき,σ の
xにおける局所
L因子を,
Lx(σx, Z) = 1 det(
Id−Frobx·Zdegx;σIx)
と定める.ただし,Frob
xは
xにおける幾何的
Frobenius元である.これは上で固定した 埋め込みによらない.また,σ の大域的
L関数を
L(σ, Z) = ∏
x∈|C|
Lx(σx, Z)
と定める.
注意
1.2L(σ, Z)
は
Zの有理式であり,関数等式をもつことが
ℓ進コホモロジーの一般論を用い ることにより証明される(合同ゼータ関数の有理性,関数等式の証明と全く同じである) .
x∈V
のときは,
σxの
Ixの制限は自明なので,
σx(Frobx)の固有値を
z1(σx), . . . , zr(σx)と書くと,次が成立する:
Lx(σx, Z) = ∏
1≤i≤r
1
1−zi(σx)Zdegx
.
1.2 保型表現
写像
φ: GLr(AF)−→Cで次の
4条件を満たすもの全体を
Autrcと書く:
i) φ
は
GLr(F)の作用で左不変.
ii) φ
はある
GLr(AF)の開部分群の作用で右不変.
iii) dega̸= 0
となる
a∈A×Fが存在して,任意の
g∈GLr(AF)に対して
φ(ag) =φ(g).iv) GLr
の標準的放物部分群
Pに対して,
∫
NP(F)\NP(AF)
φ(nPg)dnP = 0
が成り立つ.ここで
NPは
Pの羃単根基であり,dn
Pは
NPの
Haar測度である.
Autrc
は
GLr(AF)の表現,あるいは
GLr(AF)の
Hecke環
HrF上の加群になるが,これを 既約表現に分解したときに現れる表現を尖点的保型表現という.GL
r(AF)の尖点的保型表 現で中心指標が有限位数であるもの全体を
Ar(F)と書く.
π∈ Ar(F)
に対して,局所
L因子
Lx(πx, Z)および大域的
L関数
L(π, Z)が定義され,
解析接続と関数等式をもつ.さらに,π が
x∈ |C|で不分岐ならば,z
1(πx), . . . , zr(πx)を
Hecke
固有値とすると,次が成り立つ:
Lx(πx, Z) = ∏
1≤i≤r
1
1−zi(πx)·Zdegx
.
1.3 Langlands 予想
定義
1.3σ∈ Gℓr(F)
と
π∈ Ar(F)が「 (Langlands の意味で)対応する」とは,次が成立するこ とをいう:
σ,π
がともに不分岐である素点
x∈ |C|において,
σxの
Frobenius固有値と
πxの
Hecke固有値が(順序を除いて)一致する,すなわち
Lx(σx, Z) =Lx(πx, Z)が成り立つ.
注意
1.4strong multiplicity one theorem
より,σ に対応する
πは高々
1つである.また,Cheb-
otarev
密度定理より,π に対応する
σは高々
1つである.
次が
Lafforgueの主定理である:
定理
1.5(Fに対する
Langlands予想)
次が成り立つ:
i)(Langlands
対応)
π∈ Ar(F)
に対して,対応する
σπ ∈ Gℓr(F)が定まり,π
7−→σπは全単射である.
さらに,π
xが不分岐である素点の集合と
(σπ)xが不分岐である素点の集合は一致 する.
ii)(局所因子の一致)
任意の
x∈ |C|,π∈ Ar(F),π′∈ Ar′(F)に対して,次が成り立つ:
Lx(πx×π′x, Z) =Lx(
(σπ)x⊗(σπ′)x, Z) , εx(πx×πx′, Z, ψx) =εx(
(σπ)x⊗(σπ′)x, Z, ψx)
. ここで左辺は「pair の局所
L因子」 「pair の局所
ε因子」を表す.
iii)(Ramanujan-Petersson
予想)
π∈ Ar(F)
と
πxが不分岐である素点
x∈ |C|に対し,
zi(πx)= 1.1.4 証明の方針
ここでは定理
1.5の証明の方針について簡単に述べる.
まず注意すべきことは,定理
1.5は
rについての帰納法で証明されるということである.
すなわち,r についての定理
1.5の主張を
MTrと書くと,次が成り立つ:
命題
1.6i) r′ < r
について
MTr′が成立するならば,σ
∈ Gℓr(F)に対してそれと対応する
πσ∈ Ar(F)が存在し,x
∈ |C|に対し,σ
xが不分岐ならば
(πσ)xも不分岐である.
ii)
さらに,全ての
π∈ Ar(F)に対して,それと対応する
σπ ∈ Gℓr(F)で,π
xが不分 岐ならば
(σπ)xも不分岐であり,かつ重さ
0であるものが構成できるなら,MT
rは 従う.
この命題の本質的な部分はガロア表現から対応する保型表現を構成する部分であるが,
ガロア表現の大域的
L関数は解析接続および関数等式をもつので,逆定理([C-P], [Laf1]
Appendice B)を用いることによってそれと同じ大域的L
関数をもつ保型表現が得られる
(より正確には,ε 因子の積公式も必要である) .これは代数体の場合とは著しく異なる部 分である.
したがって,保型表現
π∈ Ar(F)から出発してそれに対応するガロア表現を構成する方
法を与えればよい.Langlands 予想に関する多くの仕事と同様に,数論幾何学的な構成を
行う.すなわち,Hecke 環
HrFが作用する
F上のモジュラー多様体
Chtを考え,その
ℓ進
コホモロジー
Hc∗(ChtF,Qℓ)を
GFおよび
HrFの作用で分解することによって対応を構成 するのである.これが
Langlandsの意味での対応になっていることは,Selberg 跡公式と
Chtについての
Lefschetz跡公式を比較することによって得られる.
この方針は現在
Langlands対応を構成するアプローチの
1つとして広く用いられており 特に珍しいものではないが,
Lafforgueの証明において用いられるモジュラー多様体
Chtは 有限型ではなく,したがってコホモロジーの次元や固定点の個数などが無限になってしま うため,その取り扱いに著しい困難が生じるのである.
2 shtuka とそのモジュライスタック
ここでは,shtuka の定義について簡単に復習する.[Laf4] や
[Lau]など,優れた解説が 少なからず存在するので,詳細はそちらをご覧いただきたい.
shtuka
の定義 定義
2.1S
を
Fq上のスキームとする.S 上の階数
rの
shtukaとは,次の条件を満たす図式
Ee= (E ,−→ Ej ′←−t -τE)のことである:
• E,E′
は
C×S上の階数
rの局所自由
OC×S加群層である.
• τE= (Id×FrobS)∗E.ただしFrobS
は
q乗
Frobenius射である.
• j,t
は単射であり,その余核はある射
∞,0 :S −→Cのグラフ上にサポートをもち,
グラフ上では可逆
OS加群層である.
関手
S7−→(S上の階数
rの
shtuka)は
Deligne-Mumfordスタックになる.これを
Chtrと書く(Cht は
shtukaのフランス語表記
chtoucaの頭文字である) .shtuka の定義より,射
(∞,0) : Chtr−→C×Cが定まる.これは
smoothであり,相対次元は
2r−2となる.
レベル構造
N ,−→C
を
Cの有限部分スキームとするとき,shtuka のレベル
N構造を考えることが できる.ここでは簡単のため,∞
, 0が
Nと交わらない場合のみ定義する.
S
上の
shtukaEe= (E ,−→ Ej ′←−t -τE)のレベル
N構造とは,
Eの
N×S上の自明化
u:E ⊗OC ON =E ⊗OC×S ON×S ∼=O⊕Nr×Sであって,次の図式を可換にするものである:
E ⊗OC ON
∼= //
u
&&
NN NN NN NN NN
N E′⊗OC ON
τE ⊗OC ON
∼=
oo
τu
wwppppppppppp
O⊕Nr×S
レベル
N構造つき
shtukaのモジュライスタックを
ChtrNと書く.また,レベル構造を
忘れる自然な射
ChtrN −→Chtr×C×C(C\N)×(C\N)は表現可能であり,Galois 群が
GLr(ON)である有限
Galois ´etale被覆となる.
Hecke
対応
KN = Ker(GLr(OAF)−→GLr(ON))
とし,K
Nで両側不変な
Hの元全体を
HNとお く.
HNは
ChtrNに
correspondenceの線型和として作用する.より正確に述べると,次の ようになる:
f ∈ HN
に対し,
fxが
GLr(Ox)の特性関数
1GLr(Ox)
の定数倍でないような素点
xの集合 を
Tfと書く.f は
gi∈∏x /∈TfGLr(Ox)×∏
x∈TfGLr(Fx)
を用いて
f =∑iλi1KN·gi·KN
と表すことができる.各
giに対して,
´etaleな
correspondenceΓrN(gi)−→(ChtrN ×C×CChtrN)×C×C(C\Tf)×(C\Tf)
を定めることができ([Laf2], I.4c, Proposition 3 参照) ,f の作用はこの線型結合とする.
truncation
shtukaEe= (E ,−→ Ej ′←−t -τE)
のうち,deg
E=dを満たすものを分類する代数スタック を
Chtr,dと書く.このとき,Cht
r=⨿d∈ZChtr,d
である.
Chtr,d
は,
r≥2のとき有限型ではない.これは階数
2以上のベクトル束のモジュライ空 間が有限型でないことに起因する.そこでベクトル束のモジュライの場合に倣い,shtuka に対して
Harder-Narasimhanフィルトレーションの類似物を用いることで,Cht
r,dを有限 型の開部分スタックの合併として書くことを考える.
k
を
Fq上の代数閉体とすると,k 上の
shtuka Ee= (E ,−→ Ej ′ ←−t -τE)に対して,その
Harder-Narasimhanフィルトレーションと呼ばれる
Eeのフィルトレーションと,
canonical polygonと呼ばれる上に凸な折れ線写像
pEe: [0, r]−→R(pEe(0) =pEe(r) = 0)を対応させ ることができる([Laf2] II.2b, Th´
eor`eme 8).p
Eeは
pと略記することも多い.
p: [0, r]−→R
を
p(0) =p(r) = 0を満たす折れ線写像とするとき,
Chtrの開部分スタッ ク
Chtr,p≤pで次の条件を満たすものが唯一存在する:
k
上の
shtukaEeについて,p
Ee≤pであることと
Eeで決まる射
Speck−→Chtrが
Chtr,p≤pを経由することは同値である.
さらに,Cht
r,d,p≤p = Chtr,d∩Chtr,p≤pは
Fq上有限型になる.これにより,Cht
r,d =∪
pChtr,d,p≤p
と有限型開部分スタックの合併で書くことができる.
レベルつきの場合も同様にして
Chtr,pN ≤p, Chtr,d,pN ≤pを定めることができ,後者は有限型 になる.
注意
2.2ここで定めた
Chtr,p≤pは
Hecke対応では保たれない.後にまた述べるが,これが
Lefschetz跡公式の適用を困難にする
1つの要因である.
固定点の個数
a∈ A×F
で
dega= 1となるものを固定する.このとき,Cht
rN/aZ =⨿0≤d≤r−1Chtr,dN
である.このスタックのコホモロジー層(C
\N×C\Nへの自然な射による高次順像)の 交代和として得られる
HN/aZ×π1(C\N×C\N)の
virtual表現
VN =
4r∑−4
ν=0
(−1)νHcν(
ChtrN/aZ)
を考える.V
Nを分解することで,
π∈ {π}rN =
(N の外で不分岐な尖点的保型表現全体)
に対応する
σπを構成したい.このためには,f
×Frobnx ∈ HN ×π1(C \N ×C \N)の
VNへの作用のトレースを求めることが重要なステップである.以下では,幾何学的点
x∈(C×C)(Fq)でのファイバー
(Chtr,pN ≤p/aZ)xにおける
f ×Frobnxの固定点の個数(よ り正確には,Γ
rN(gi)×Frobnxの固定点の個数の線型和)
# Fixr,px ≤p(f×Frobnx)
を表す式を紹介する.この式と
f×Frobnxの
VNへの作用のトレースを
Lefschetz跡公式に よって結びつけるのが次節以降の目標になる.
∞,0∈ |C\Tf|
に対し,s を
deg∞と
deg 0の公倍数とし,s
= deg∞ ·s′= deg 0·u′と 書く.また,
∞,0∈C(Fq)を
∞, 0の上にある幾何学的点とし,
x= (∞,0)∈(C×C)(Fq)とする.このとき,次が成り立つ:
定理
2.3f ∈ HN
を固定する.折れ線写像
pが十分上に凸であるとき,有限個の実数
cι, λι ≥0,整数
mι ≥0, 0< rι, rι′ < rと
GLrι(AF), GLr′ι(AF)
の尖点的保型表現
πι, π′ιが存在し て,deg
∞, deg 0,sが十分大きいとき,周期関数
n7−→# Fixr,p≤p
Frobn(∞),0
(f×Frobs/degx
Frobn(∞),0
)
の平均は次の式で与えられる:
∑
π∈{π}rN
Trπ(f)q(r−1)s(
z1(π∞)−s′+· · ·+zr(π∞)−s′)(
z1(π0)u′+· · ·+zr(π0)u′)
+∑
ι
cιsmιλsι(
z1(π∞′ι)−s′+· · ·+zr′
ι(π′∞ι)−s′)(
z1(πι0)u′+· · ·+zrι(π0ι)u′)
.
この定理は,
i) (Chtr,pN ≤p)x
の
f ×Frobnxによる固定点のアデール表示
ii) GLrについての
fundamental lemmaiii) Arthur-Selberg
跡公式
の
3つをまとめて書いたものであり,[Laf2] の主定理である.i), ii) については,Drinfeld
や
Laumonらの仕事がほとんどそのまま拡張できるため,さほど難しくはない.iii) は,
shtuka
の
Harder-Narasimhanフィルトレーションによる
truncationと
Selberg跡公式に
おける
Arthurの
truncationが対応していることを証明する必要があり,かなり難解なも
のとなっている.
3 Lefschetz 跡公式の復習
ここでは,k を分離閉体とし,すべてのスキームは
k上有限型であり,直積は
k上のファ イバー積を指すものとする.スキーム
X1,X2に対し,proper な射
a: Γ−→X1×X2を
X2から
X1への
correspondence(代数的対応)と呼ぶ.ai= pri◦aとおく.
proper
な射
f:X2 −→X1は
γf =f×Id :X2−→X1×X2によって
X2から
X1への
correspondenceとみなせる.また,第
1成分と第
2成分を入れかえる射
X1×X2−→X2×X1を
a: Γ−→X1×X2に合成したものは
X1から
X2への
correspondenceになる.これを
ta
と書き,a の転置と呼ぶ.
3.1 最も簡単な場合
まず,位相幾何学などでもよく出てくる, 「普通の」Lefschetz 跡公式を紹介する(後の 都合上,少し一般化した形で述べる) .X
1,X2を
k上
properかつ
smoothなスキームとす る.d
i= dimXiとする.a
: Γ−→X1×X2を(X
2から
X1への)correspondence とし,
Γ
は
k上
smoothかつ
d2次元であると仮定する.このとき,a は
Xiの定数層係数コホモ ロジー
Hν(Xi,Qℓ)間に次のように準同型を誘導する(これも
aで表すことにする) :
Hν(X1,Qℓ) a
∗
−−→1 Hν(Γ,Qℓ)−−→a2∗ Hν(X2,Qℓ).
ここで
a2∗は
a∗2:H2d2−ν(X2,Qℓ(d2))
−→H2d2−ν(
Γ,Qℓ(d2))
の
Poincar´e双対である.
また,cl(Γ) =
a∗(1)∈H2d1(X1×X2,Qℓ(d1))
を
Γの
cycle classとすると,projection
formulaより
a2∗(a∗1(x))
= pr2∗(
a∗a∗(pr∗1(x)))
= pr2∗(
pr∗1(x)∪cl(Γ))
を得る.
定理
3.1a: Γ1−→X1×X2,b: Γ2−→X1×X2
を
correspondenceとする.Γ
1, Γ2はそれぞれ
d2次元,d
1次元で
smoothであるとするとき,次が成り立つ:
Tr(t
b◦a;H∗(X1,Qℓ))
=⟨
cl(Γ2),cl(Γ1)⟩
X1×X2
. ここで
⟨, ⟩X1×X2はカップ積による
pairingを表し,Tr
(tb◦a;H∗(X1,Qℓ))
はトレース の交代和
∑2d1ν=0(−1)νTr(t
b◦a;Hν(X1,Qℓ))
を表す.
注意
3.2上の定理において
X1 =X2, a =γf, b = ∆X = γIdX
とすると,
tb◦a =f∗であり,
⟨cl(Γ2),cl(Γ1)⟩
X×X
は重複度を込めた
fの固定点の個数であるから,上の定理は位相幾何 学などでよく知られている
Lefschetzの固定点定理に他ならない.
この定理は
Poincar´e双対定理と
K¨unneth分解定理から形式的に従う.
注意
3.3より一般に,u
∈ H2d1(X1 ×X2,Qℓ
)
は
x 7−→ pr2∗(pr∗1(x)∪u)
によってコホモロ ジー間の写像
u∗: Hν(X1,Qℓ) −→ Hν(X2,Qℓ)を定める.v
∈ H2d2(X1 ×X2,Qℓ
)
は
x7−→ pr1∗(pr∗2(x)∪v)
によって
v∗:Hν(X2,Qℓ)−→Hν(X1,Qℓ)を定める.これらにつ いても,次の跡公式が成立する:
Tr(
v∗◦u∗;H∗(X1,Qℓ))
=⟨ u, v⟩
X1×X2
3.2 Lefschetz-Verdier 跡公式
上に述べた定理
3.1では,X
iおよび
Γiの
smoothnessという強い仮定がついていたが,
Poincar´e
双対定理の代わりに
Verdier双対定理を利用することで
Lefschetz跡公式を大きく 一般化することができる.それがここで述べる
Lefschetz-Verdier跡公式である.
3.2.1
圏
Dctfb (X,Λ)と
6つの関手
以下では
Λを
Z/ℓk,Zℓ,Qℓ,Qℓのいずれかとする.スキーム
Xに対し,
X上の
Λ加群層 の複体でコホモロジーが有界かつ構成可能層であるもののなす導来圏を
Dbc(X,Λ)と書く.
また,そのなかで
torsion次元が有限である複体のなす充満部分圏を
Dctfb (X,Λ)と書く.
Dctfb (X,Λ)
は
6つの関手で保たれる.すなわち,有限型である射
f:X −→Yに対し,f
∗, f!は
Dctfb (X,Λ)から
Dctfb (Y,Λ)の関手になり,
f∗,f!は
Dbctf(Y,Λ)から
Dbctf(X,Λ)の関手 になる.また,L
1, L2∈objDbctf(X,Λ)に対し,R
Hom(L1, L2), L1⊗LL2∈objDctfb (X,Λ)である.
K ∈ Dctfb (Speck,Λ)
は射影的
Λ加群の有界複体と同型であり,したがって
Kの自己 準同型のトレースを考えることができる.この事実は主に
L∈Dbctf(X,Λ)であるときに,
RΓ(X, L)
あるいは
RΓc(X, L)に適用する.
X
をスキームとし,構造射を
f:X −→Speckとする.このとき,
KX =f!Λとおく.ま た,D
X(L) =RHom(L, KX)とおく.上に述べたことから,D
Xは圏
Dbctf(X,Λ)を保つ.
以下で用いる
K¨unneth同型を復習しよう.f
1:X1−→Y1,f2: X2−→Y2を有限型であ る射とし,f
=f1×f2:X1×X2−→Y1×Y2をその直積とする.L
i ∈Dctfb (Xi,Λ)に対 し,L
1L L2= pr∗1L1⊗L pr∗2L2∈Dctfb (X1×X2,Λ)と定める.
命題
3.4Li∈Dbctf(Xi,Λ),Ki∈Dbctf(Yi,Λ)
に対し,次が成り立つ:
i) f∗(K1LK2)∼= (f1∗K1)L (f2∗K2).
ii) f!(K1L K2)∼= (f1!K1)L (f2!K2).
iii) f∗(L1LL2)∼= (f1∗L1)L (f2∗L2).
iv) f!(L1LL2)∼= (f1!L1)L(f2!L2).
3.2.2 cohomological correspondence
定義
3.5X1, X2
をスキームとし,L
i ∈objDctfb (Xi,Λ)とするとき,Hom(pr
∗1L1,pr!2L2)の元 を
L1から
L2への
cohomological correspondenceという.その全体を
Coh-corr(L1, L2)と書くことにする.
注意
3.6上の設定において,
DX1L1L L2=RHom(L1, KX1)LRHom(Λ, L2) =RHom(L1L Λ, KX1LL2)
=RHom(pr∗1L1,pr!2L2)
である(最後の等号に命題
3.4 ii)を用いた)から,
cohomological correspondenceは
DX1L1L L2の
X1×X2上の
sectionとみなすこともできる.
定義
3.7a: Γ −→ X1 × X2
を
correspondenceとするとき,Hom(a
∗1L1, a!2L2)の元を
aに
サポートをもつ
L1から
L2への
cohomological correspondenceという.その全体を
Coh-corr(a;L1, L2)と書くことにする.
自然な写像
Coh-corr(a;L1, L2) = Hom(a∗1L1, a!2L2) = Hom(pr∗1L1, a∗a!pr!2L2)
= Hom(pr∗1L1, a!a!pr!2L2)−→Hom(pr∗1L1,pr!2L2)
= Coh-corr(L1, L2)
により,Coh-corr(a;
L1, L2)の元は
Coh-corr(L1, L2)の元を定める.
RHom(a∗1L1, a!2L2) =a!RHom(pr∗1L1,pr!2L2) = a!(DX
1L1L L2)
であるから,a にサ ポートをもつ
cohomological correspondenceは
a!(DX1L1L L2)
の
Γ上の
sectionとみな すこともできる.
3.2.3
押し出し
fi:Xi−→Xi′
を射とし,a: Γ
−→X1×X2, a′: Γ′ −→X1′ ×X2′を
correspondenceと し,下図左のような可換図式が存在するとする.このとき,Γ
′′= (X1′×X2′)×X1×X2Γと おき,下図右の通りに
i,a′′,g′を定める:
X1×X2
f1×f2
a Γ
oo
g
X1′×X2′ oo a′ Γ′,
X1×X2
f1×f2
Γ′′
a′′
oo
g′
Γ
vv a oo i
g
X1′ ×X2′ a Γ′ oo ′
そして,L
1, L2∈objDctfb (X′,Λ)に対し,押し出し
(f1×f2)∗: Coh-corr(a′;L1, L2)−→Coh-corr(a;f1!L1, f2∗L2)
を次で定める:
Coh-corr(a;L1, L2) =H0(
Γ, a!(DX1L1L L2))
=H0(
Γ′′, i!i!a′′!(DX1L1L L2))
−−→adj H0(
Γ′′, a′′!(DX
1L1L L2))
=H0(
Γ′, g′∗a′′!(DX
1L1L L2))
∼=H0(
Γ′, a′!(f1×f2)∗(DX
1L1L L2))∼=H0(
Γ′, a′!(f1∗DX
1L1L f2∗L2))
∼=H0(
Γ′, a′!(DX′
1(f1!L1)Lf2∗L2))
= Coh-corr(a′;f1!L1, f2∗L2).
注意
3.8特に
X1=X2= Speck,a=a′= IdSpeckのときは,上の構成によって
Coh-corr(L1, L2)−→Hom(RΓc(X1, L1), RΓ(X2, L2))