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著者 荒井 悦代

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Academic year: 2022

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新刊紹介 ‑‑ 樋口まち子著『もうひとつの島国・ス リランカ ‑‑ 内戦に隠れた文化と暮らし』 (ブック シェルフ)

著者 荒井 悦代

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジ研ワールド・トレンド

巻 131

ページ 50‑50

発行年 2006‑08

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00047355

(2)

BOOK SHELF

アジ研ワールド・トレンドNo.131(2006.8)─50

BOOK SHELF

51─アジ研ワールド・トレンドNo.131(2006.8)

著者は︑JICAの青年海外協力隊員の保健婦として一九九○年代初めにスリランカに赴任し︑以降様々な形でスリランカに携わってきた︒本書は二部から構成されている︒第一部は﹁スリランカから見たニッポンの貧困﹂として主に協力隊員としての視点から︑活動内容を軸として描かれている︒第二部の﹁スリランカ通信﹂は生活者の視点から語っている︒一部でも二部でも著者はもちろんスリランカでの体験と生活を描くのであるが︑本書のタイトルでもう一つの島国とスリランカを表現していることから︑著者がほかでも

新刊紹介 樋 口 ま ち 子 著 ﹃ も う ひ と つ の 島 国 ・ ス リ ラ ン カ

̶

内 戦 に 隠 れ た 文 化 と 暮 ら し ﹄

荒井悦代

ない日本という島国を意識していることが分かる︒著者は日本人であることを常に意識し︑スリランカという異文化を理解しながら︑日本を相対化しようとしている︒しかし相対化といっても単に比較しているのではない︒著者は読者に対して︑疑うことなく日常を過ごしているようだけれども︑それは絶対的なものでなく︑なんの根拠もないことだと手厳しく事実を突きつける︒だから読者は気が抜けない︒さらに著者は非常に意志が強い︒タフで︑意識も高い︒自分と出身地︑出自もそれほど違わないこの世代でこんな熱い人がいたのかと失礼ながら驚嘆した︒だから自分の至らなさに恥じ入ってしまった︒著者は読者にそんな負い目を感じさせるパワーの持ち主だ︒第一部の初めの方は正直ページをめくる手が重かった︒彼女のすごいところは︑アジア特有の濃密な人間関係や仕組みに軽々と順応してしまった点である︒著者は濃い関係に甘く浸ることができた︒それは著者が︑幼い日々の原風景とスリランカの日常を重ねて︑懐かしく感じたからだ︒乏しい体験と貧困な想像力では︑濃い人間関係はかなりきつい︒お節介と感じるのだ︒旅行者としてつきあうならまだしも︑毎日のことである︒実際のところ︑彼女のように容易に馴染めるものではない︒普通は距離の取り方などに戸惑う︒アジアに関わろうと志す方々よ︒皆が彼女のようにうま く順応できるわけではないので安心してもよい︒まさに開発に関わる人間の鏡のような著者であるが︑さすがの彼女でも太刀打ちできない過酷な環境に直面する︒スリランカの保健衛生環境は指標的には優れているが︑見過ごされてきた分野もあり︑彼女はまさにそのような施設に送り込まれた︒そこで人間関係でへこたれたり︵癒してくれるのも人間である︶︑焦りもがき︑失敗して落ち込んだりする︒読み進むにつれて彼女の弱さが見えてくる︵弱さといっても︑あくまで直面する問題の大きさに比しての話である︶︒すると著者を身近に感じ︑応援せずにはいられなくなってくる︒彼女らが主体となったプロジェクトが一段落した記述は我がことのように嬉しく感じた︒しかし︑すぐに気がつく︒彼女がスリランカで直面した問題や矛盾を通じて見えてくるのは︑我々が日常で見えないふりをしている問題かもしれないと︒我々は︑身近にある問題に対して︑全力で体当たりする著者のように少しは真剣に向き合った方が良いのかもしれない︒著者は帰国して違和感や居心地の悪さに戸惑ったという︒これは矛盾や問題を見ないふりをしている日本人に対する違和感なのだろう︒異国で強烈な異文化体験をしなくても︑ちょっと想像力があれば感じる疑問や問題に対して︑彼女が﹁﹃富める国﹄の貧しい国民﹂で言 うように日本人一人一人が考えてなにがしかのアクションを起こしていかねばならないと気づかされる︒

第二部では︑人物や日常の一コマが丁寧に描かれている︒こうした本にありがちなのが︑彼の地の生活を極端に美化し︑ノスタルジーに浸る傾向である︒著者はスリランカを愛し︑言葉も堪能で︑古き良き日本も知っているので︑等身大の普通のスリランカの人々の生活を余すところなく描写している︒今ではすっかりスリランカの生活に欠かせなくなった弁当屋︑パン屋︑三輪タクシーなどについて導入の歴史と綿密なコスト計算がバランス良く共存している︒食物に関する記述もいい︒何でも食べることができるから︑どんな環境でも生活できると豪語する著者だが︑食物に関する記述は︑それはそれは美味しそうである︒旺盛な好奇心と堪能な語学・コミュニケーション能力のなせる技である︒辛いことで有名なスリランカのカレーだが︑辛さ以外の風味や味わいが伝わってくる︒主食以外の食物についても洞察が深い︒人物に関する記述も興味深い︒家族や恋愛のあり方︑女性の社会進出なども細やかに描かれており︑著者のスリランカの人々への愛情が伝わる︒︵あ らい えつよ/アジア経済研究所地域研究センター︶

ぶなのもり 2006 年

参照

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