深礎基礎に埋め込まれた送電用鉄塔脚の 引抜定着耐力に関する研究
Uplift Capacity of Anchor Embedded in Caisson Type Foundation of Transmission Tower Leg
2008 年 10 月
齋藤 修一
1. 序論---1
1.1 本研究の背景---1
1.2 本研究の目的--- 13
1.3 本論文の構成--- 16
2. 深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力--- 19
2.1 はじめに--- 19
2.2 模型実験--- 21
2.3 実験結果--- 24
2.4 割裂耐力の算定式 --- 27
2.5 数値解析--- 34
2.6 耐力算定式のまとめ--- 42
2.7 まとめ--- 43
3. 引張場に定着された鉄筋のスパイラル筋補強--- 45
3.1 はじめに--- 45
3.2 実験概要--- 46
3.3 実験結果の検討 --- 50
3.4 耐力算定式の提案 --- 54
3.5 耐力算定式のまとめ--- 59
3.6 まとめ--- 60
4. 鋼管に拘束されたコンクリートに埋め込まれた鉄塔脚の
引抜き定着耐力--- 62
4.1 はじめに--- 62
4.2 模型実験--- -64
4.3 破壊モード--- 69
4.4 鋼管が降伏した試験体の考察--- 79
4.5 付着せん断破壊した試験体の考察--- 86
4.6 耐力算定式のまとめ--- 97
4.7 まとめ--- 98
5. 設計式の提案--- 100
5.1 深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力--- 100
5.2 引張場に定着された鉄筋のスパイラル筋補強--- 101
5.3 鋼管に拘束されたコンクリートに埋め込まれた 鉄塔脚の引抜き定着耐力--- 102
5.4 設計式の計算値と実験値の比較--- 103
6. 結論--- 105
6.1 深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力--- 105
6.2 引張場に定着された鉄筋のスパイラル筋補強--- 107
6.3 鋼管に拘束されたコンクリートに埋め込まれた 鉄塔脚の引抜き定着耐力--- 108
あとがき--- 109
謝辞---110
研究業績---112
1. 序論
1.1 本研究の背景
(1) 送電用鉄塔の特徴
最も送電容量の小さい66kVからUHVと呼ばれる国内で最も送電容量が大き
い 1000kV までの送電線が使用されている.それらを支持する送電用鉄塔の高
さは主に地上と電線の絶縁距離によって決まり,30m程度から100mを超える ものまで様々である1)2).
送電用鉄塔は図 1-1 に示すような 4 本の主柱材(最下節の主柱材を主脚材ま たは脚材とも呼ぶ)と腹材などからなるトラス構造をしている.したがって,
鉄塔重量は比較的小さいため,地震時に基礎に伝達される荷重によって基礎形 状が決定されるケースは少ない.しかし,鉄塔高さが 30~100m もあるため,
図に示すように台風などによる風を鉄塔が受けるため,鉄塔全体に転倒モーメ ントが生じる.よって,鉄塔の主柱材から基礎には圧縮荷重や引揚荷重が伝達 される.圧縮荷重が作用する構造物は一般的に多く存在するが,送電用鉄塔は 基礎に作用する引揚荷重が卓越した構造物としての特徴を有している.
鉄塔の規模によって主柱材から基礎に伝達される荷重は異なり,引揚荷重は
66kVで数百kN,電圧1000kVの超高圧送電線UHV(Ultra High Voltage)な
どの大型鉄塔では20000kNとなっている.
図 1-1 送電用鉄塔と荷重の関係
風
引抜き荷重
風
引揚荷重 圧縮荷重
主柱材
(脚材)
鉄塔高さは 30~100m程度
(2) 鉄塔基礎と定着方式の特徴
基本的な基礎と脚材定着方式を図 1-2,図 1-3に示す.
平野部に建設する場合,図 1-2(a)に示すように脚材を 4 本の杭に支持された フーチング基礎が適用されることが多い.脚材定着の方法は図 1-2(b)のような 十字型のアンカーを埋め込むいかり材定着が適用されている.
大型重機の搬入ができない山岳地に建設される場合,図 1-3(a)に示すように 小型機械や人力で建設できる深礎基礎と呼ばれる杭が適用されることが多い.
脚材を基礎の躯体に直接定着させるため,図 1-3(b)に示すように脚材に節状の リブを取り付けて基礎に埋め込む形式の支圧板定着方式が適用されている.
(a) 杭基礎(4本杭) (b) いかり材方式 図 1-2 代表的な送電用鉄塔基礎
(a) 深礎基礎(1本杭) (b) 支圧板方式 図 1-3 代表的な基礎と定着方式
G L
G L
(3) 送電用鉄塔基礎の定着形式の歴史
図 1-4 に脚材定着設計法に関する研究および設計法の検討経緯を示す.過去 には,脚材に H 鋼を筏状に組み,主脚材に結合する鋼材基礎 3)が使用されてい た.その後,コンクリートの床板と柱体を有する逆 T 字基礎 3)が主体となり,
主脚材の先端に鋼材を取り付けてコンクリート中に埋め込んだ定着方式であっ た.これらの基礎は引揚荷重に対する支持力小さいために,鉄塔規模が小さく 基礎に生じる引揚荷重が小さいものに適用されていた.
鉄塔規模が次第に大きくなり,基礎に作用する荷重も大きくなり,引揚支持 力の大きい杭によって支持されるフーチングを有する形式が採用され始めた.
杭によって支持されたスラブにおいて鉄塔脚材部が破壊した事故が 1974 年に 生じ,「杭基礎のスラブ部分の破壊により工事中の鉄塔が倒壊する事故があり,
その原因は工事工法のミスではあったが,基礎体の破壊状況から従来の定着に 関する設計を早急に見直すことが必要になった.」と記され,脚材定着に関する 設計法の確立が求められた.それまで使用されてきたいかり材定着の設計方法 確立のため,「送電用鉄塔基礎としての4本杭に支持されたRCスラブの設計法 に関する研究」1)が実施され,4本杭支持床板への定着設計法が提案された.
その後,国内最大級のUHV送電線を建設するにあたり,鉄塔規模が大きくな り,基礎に作用する荷重も大きくなった.平野部では杭に支持されたフーチン グ基礎が適用されるようになり,山岳地では深礎基礎が使用されるようになっ た.そこで,模型実験を多数実施した「大型送電用鉄塔基礎への脚材定着手法 に関する研究」2)が行われ,いかり材定着設計法と支圧板設計法を確立した.
このように 4 本杭に支持されたフーチングに主脚材をいかり材定着させる方 式は確立されたが,基礎形式の多様化を目指し,鉄塔・基礎接合部の多様化も 指向された.特に設計荷重が小さくなると必要な杭本数が少なくなり,小数本 杭へいかり材定着方式を適用した場合の設計法が必要になった.そこで「送電 用鉄塔基礎の多様な要求形態に対応した鉄塔・基礎接合部の耐力設計法に関す る研究」3)が実施され,1,2 および3 本杭からなるフーチングにいかり材定着さ せた場合の設計式を確立した.
本研究は,深礎杭などの 1 本杭基礎に適用している支圧板定着方式の多様化 について検討するものである.
深礎基礎にいかり材を適用した定着方式は,数十基からなる送電用鉄塔基礎 の幹線建設を行うことを想定し,コストダウンの観点から海外で鉄塔材を調達 する場合に適用する.深礎基礎に鋼管で拘束した場合の定着方式は,緊急工事
図 1-4 脚材定着設計法の研究の流れ (a)4本杭支持床板へのいかり材定着設計法の開発
(b)大型送電用鉄塔を対象 にいかり材定着設計法の 適用範囲拡大
(c)深礎基礎を対象とし た支圧板設計法の開発
(d)1,2,3 本 杭 支 持 床 板へのいかり材定着
手法範囲拡大 (g)深礎基礎(1 本 杭)へのいかり材定 着設計法の開発
(i)鋼 管 で 補強 し た 深礎 基礎を対象 と した 支圧板設計 法 の開発
(e)直接支持床板への いかり材定着手法範 囲拡大
(f)4 本杭支持床板へ のいかり材定着押し 抜きせん断設計法の 開発
(h)引張場に定着し た 鉄筋の スパ イラ ル筋による補強 前田の研究1)
吉井の研究2)
田邉の研究3) 本研究
(4) 深礎基礎の基礎設計
a) 設計手順
深礎基礎の設計手順を図 1-5 に示す.送電用鉄塔基礎の設計は,設計荷重を 求め,その荷重に対して深礎基礎の安定計算を実施し基礎形状を決定する.決 定された基礎形状に対して構造計算を行い,主鉄筋量や帯鉄筋量を決定する.
次に脚材定着設計を実施し,必要な定着耐力となるように支圧板の定着長さを 決定する.構造計算や脚材定着設計による検討が安定計算で決定した形状で満 足しない場合,基礎形状を再設定し安定計算から再度設計を行う.
送電用基礎設計は上記で述べた手順で実施されているが,このうち脚材定着 設計に着目して本研究を行った.
START
設計荷重の算定
安定計算
脚材定着設計 構造計算
基礎形状の決定
基準風速(地上15m)40m/s の平均風速で求められる 基礎へ作用する荷重 圧縮支持力
引揚支持力 水平支持力
コンクリート部の検討 主鉄筋量の検討 帯鉄筋量の検討 定着耐力
END
図 1-5 深礎基礎の設計手順
b) 設計荷重の算定
送電用鉄塔に加わる荷重は地震力より風圧力が支配的であるので「電気設備 に関する技術基準」ならびに「送電用鉄塔設計標準」11)には風をもととした諸荷 重,すなわち,鉄塔風圧力,架渉線風圧力,不平均張力などが定められている.
これらの荷重が鉄塔を介し,図 1-6 のように上部構造の最下部より基礎頂部に 引揚力と水平力または圧縮力と水平力が同時に加わる.9)
風圧力に関して支持物毎の風圧が電気設備の技術基準 11)で定められており,
概念的には,高温期(夏から秋にかけての季節)において風速 40m/s の風があ るものと仮定した場合に生じる荷重,氷雪に多い地方における低温期(冬から 秋にかけて一般的に強風のない季節)において架渉線に氷雪が付着した状態で 高温期の1/2の風圧を受けるものとした荷重などが提示されている.
地震の荷重についても十分考慮しなくてはならないが,電気共同研究9)におい て,「水平震度法によって設計した場合,送電用鉄塔並びに基礎は風圧力による 応力の方が大きいため,地震時の荷重についてはその検討を省略している」と 記されている.
また,上記で求めた設計荷重は 1 年に数回も生じる荷重ではなく設計荷重の 10~60%程度の荷重が継続的に生じており,特に疲労は問題とならないことが 多い.
以上のことから,対象とする荷重は風を対象とした風圧力によって生じる基 礎荷重を対象とすることとした.風による荷重は多少の変動はあるものの最大 荷重がほぼ一定に作用するため,静的荷重として取り扱うこととした.
c) 安定計算
図 1-6 に示したように安定計算は,鉛直安定(圧縮,引揚)と水平安定につ いて検討を行う.
圧縮の検討では深礎基礎底面に生じる圧縮荷重による反力が先端の許容支持 力以内に入っていることを確認する.
引揚の検討では,基礎周面の許容周面摩擦力が引揚荷重以内であることを確 認する.水平安定は,許容水平支持力が水平荷重より大きいことを確認してい る.許容支持力は極限支持力に対して安全率を3.0としている.
引揚支持力は基礎周面で抵抗しているため,基礎を拘束していると考えられ るが,一般に地盤は下部が強く上部が弱いため,下部ほど引揚荷重に抵抗する ための周面摩擦力が大きい.以上のことから,定着部の実験的な検討は深礎基 礎の下部を固定することとした.
地表
設計地盤
表層 圧
縮 荷 重
引 揚 荷 重
水平荷重
水平地盤バネ
先端支持力
周面摩擦力
図 1-6 深礎基礎の荷重,抵抗力の概要
d) 構造計算
引揚荷重と水平荷重により生じた深礎基礎に作用する曲げモーメント,軸力,
せん断力などの断面力に対して,図 1-7(a)のように円形RC断面の検討を行い,
鉄筋量を求める.
設計荷重に対して許容応力度を満足する.許容応力度はコンクリートのおい ては安全率3.0,鋼材においては安全率1.5である.
e) 脚材定着設計
図 1-7(b)のように支圧板定着方式の設計を行う.支圧板定着はコンクリート の割裂破壊モードであるため,コンクリートの安全率である3.0を適用する.
f) 形状決定
安定計算で決定した形状に対して,構造計算,脚材定着設計を満たさない場 合は形状を変更し安定計算から再検討し形状を求める.
地表
設計地盤
表層 圧
縮 荷 重
引揚荷重 水平荷重
軸方向 主鉄筋
帯鉄筋
地表
設計地盤
表層 圧
縮 荷 重
引揚荷重 水平荷重
割裂抵抗領域
(a) 構造計算 (b) 定着設計 図 1-7 構造計算と定着設計の概要
(5) 送電用鉄塔脚材定着既往の研究
a) 4本杭支持床板へのいかり材定着設計法の研究
送電用鉄塔の基礎への定着方式として 4 本杭に支持された床板にいかり材定 着させる方式について前田1)による実験的検討が行われ,引抜きせん断・押抜き せん断の破壊モードに対する基本的ないかり材定着設計法を提案した.
b) 大型送電用鉄塔基礎への脚材定着に関する研究
4本杭によるいかり材定着の実物大の模型実験が吉井らによって行われ,いか り材定着設計方法が見直された2).また,山岳地に建設される基礎として深礎基 礎へ定着させるための支圧板定着方式の模型実験が実施され5),さらに数値解析
6)による検証を踏まえて設計方法が提案された.これらの研究により,図 1-2, 図 1-3 に示すように 4 本杭に支持されたいかり材定着設計法と深礎杭への支圧 板定着設計法が確立された.
c) 送電用鉄塔基礎の多様な要求形態に対応した鉄塔・基礎接合部の耐力設 計法に関する研究
田邉 3)は多様な基礎形式に対応した鉄塔と基礎の接合部に関する研究を行っ た.そのうち,図 1-8に示すように1本杭支持床板7),2本杭支持床板,3本杭 支持床板にいかり材定着した方式の引抜きせん断設計法および曲げの設計法を 提案している.それらの設計方法は 4 脚一体型のマット基礎やロックアンカー 基礎や5本杭支持床板,6本杭支持床板などに適用できることを示している.ま た,4本杭支持床板の押抜きせん断破壊試験を実施し,引抜きせん断耐力との違 いに言及し,押抜きせん断耐力式8)を提案している.
1本杭支持基礎
OR
2本杭支持基礎 3本杭支持基礎 4本杭支持基礎
(6) 他基準の定着に関する研究
「風力発電設備支持物構造設計指針・同解説」では,主に曲げモーメント荷 重に対して,図 1-9(a)に示すようなアンカーボルトによる定着方式や図 1-9(b) に示すようなアンカーリングによる定着方式による設計法は提案されている.
「鉄道構造物等設計標準・同解説」では柱鋼管を杭鋼管に差し込んで定着さ せる図 1-9(c)に示すようなソケット方式の設計法が示されている.いずれの設 計法も対象とする荷重は主にモーメント荷重である.
(a)アンカーボルト定着方式
(b)アンカーリング方式
(c)ソケット方式 図 1-9 ソケット方式
アンカーボルト M
アンカーリング M
M 柱鋼管
杭鋼管
(7) 新たな要求
本研究は深礎基礎への定着方式に関しする新たな要求に対して,主に 3 つの 内容に分類して検討したものである.
a) 定着方式の統一に関する要求
鋼材の価格高騰によるコスト低減の要求を満たすために国外から鉄塔を調達 することが求められている.国内での調達時間に較べて鉄塔材自体は安価であ るが鉄塔の納期が長い.一般には,基礎設計を実施してより安価な基礎形状が 採用されるが,資材の納入に関する工期を考えると基礎設計実施前の鉄塔設計 が終了した時点で鉄塔材の発注を行う必要が生じる.例えば,100kmに亘る 送電線を建設する場合,鉄塔間隔を1kmとすると100基程度の鉄塔が必要と なる.全鉄塔箇所について地質調査を行い,詳細設計を行えば基礎型が確定す るが,概略調査を行って基礎形状を決めなければならないこともある.施工段 階になると当該鉄塔の地盤調査を実施していない箇所では,地盤が異なり基礎 型を変更しようとした場合,すでに発注した脚材(いかり材や支圧板)を変更 することは困難である.
そこで,深礎基礎にいかり材定着した場合の検討を行うこととし,基礎材が 変更できない事象に対応する.
b) 鉄筋定着長に関する要求
送電用鉄塔の引揚脚は引張場へ定着させなければならない.図 1-10に示した 定着方式の中で,(a)のいかり材定着方式ではフーチングと杭の接続部の定着方 法として杭鉄筋をフーチング内部に必要定着長を確保することで対応させてい る.しかし,杭鉄筋の必要定着長をフーチング内に確保させることが困難な場 合がある.例えば,杭鉄筋の必要定着長よりフーチングが薄い場合,フーチン グを厚くするあるいは杭鉄筋にフックを設けて対応をすることが一般的であっ た.場所打ち杭で外フックにするとケーシングが引抜けなくなることやフーチ ングを厚くすると経済的で無くなるなどの課題があった.
(b)に示す支圧板定着方式では深礎基礎の躯体部は引張場の状態になってい る.したがって,深礎基礎の軸方向に配置している主鉄筋の必要定着長算定位 置の特定は難しい.今までの深礎基礎は軸方向主鉄筋かぶりが 50cm であり,
かぶりが大きいため鉄筋の定着破壊は生じなかった.しかし,躯体径を小さく するとかぶりも小さくなり付着破壊が生じる可能性がある.
これらの要求に対応する方法として,杭や深礎基礎の軸方向主鉄筋のまわり
G.L.
G.L.
全断 面 引っ 張 り状 態な た め定 着 長算 定位置が不明 引 張 場 へ杭 等 鉄筋
の定着長を確保
(a)いかり材方式 (b)支圧板方式 図1-10 大型送電用鉄塔基礎の脚材定着方式
c) 支圧板定着方式の高耐力化に関する要求
送電用鉄塔の深礎基礎の躯体径は3.0m~5.0mを基本として考えられてきた.
施工方法の改善により 1.0m~2.5m のものも可能となっている.さらに,鉄塔 脚 1 本に場所打ち杭で支持させる方法も考えられている.しかし,躯体径(杭 径)が小さいため,支圧板の定着耐力を大きくさせるためには定着長が長くな り,深礎杭では躯体長を伸ばす必要が生じたり,場所打ち杭では杭の打設後に 定着部分を再掘削する必要が生じたりするので,施工性が悪い.
そこで,定着部の耐力を高めることで,深礎杭の長さが支圧板の定着長で決 定しない設計が求められた.
深礎杭の支圧板定着部の耐力を高めるために,定着部を鋼管によって拘束す る方法を検討した.
1.2 本研究の目的
本研究は,前節で述べた深礎基礎への定着に関して主に 3 つの要求の検討を 目的とした.第1に深礎基礎へいかり材定着方式適用するための検討,第2に 軸方向鉄筋のまわりをスパイラル筋で補強した定着耐力の検討,第3に,深礎 基礎への支圧板定着方式の鋼管によって拘束効果に関する検討である.
(1) 深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力
深礎基礎へは支圧板定着方式を採用することが基本となっている.そのため,
深礎基礎にいかり材定着した場合の破壊モードや定着耐力は明らかになってい ない.そこで,図 1-11に示すような深礎基礎にいかり材定着させた場合の模型 実験を実施して破壊モードや定着耐力を求めることとした.
試験体のパラメータは,支圧板定着方式と同様に躯体径,いかり材の埋め込 み深さをとした.
模型実験結果をもとに,深礎基礎にいかり材定着させた脚材定着方式の耐力 算定式を提案する.
図 1-11 深礎基礎へのいかり材定着方式
(b)上面図
固定 固定
いかり材 軸力筋 荷重P
脚材
Le
φ
(a)正面図 取付板
D いかり材
軸力筋
la
le
(2) スパイラル筋による補強
鉄筋の定着に関する補強方法はフープ鉄筋を配置するあるいは端部にフック をつけるなどが考えられる.フーチングに杭鉄筋を定着させる場合などフック を設けると場所打ち杭の場合にはケーシングを抜くために不都合となる.
ここでは,簡易に定着耐力を上昇させることを目的に軸方向鉄筋にスパイラ ル筋で補強した鉄筋の定着耐力について検討した.スパイラル筋は主鉄筋を配 置した後に挿入することができ,施工が簡易なことも考慮した.
図 1-12に主鉄筋にスパイラル筋を配置した状況を示す.スパイラル筋の径や 間隔などをパラメータとして模型実験を実施することとした.引張場は,2本の 固定鉄筋で固定し中央に配置した 1 本の鉄筋を引き抜くことでコンクリート場 は引張状態であるものと考えた.これらの検討により求め,スパイラル筋によ り補強した軸方向主鉄筋の定着耐力算定式を提案する.
図 1-12 スパイラル鉄筋の補強方法
軸力筋
スパイラル鉄筋
間隔x
円周の径φ2
スパイラル筋の径φ1
定着長 L
かぶり C
D 環内径 ピッチ
S
固定 荷重P
固定
スパイラル筋 鉄筋(φ26)
104 71
71 104
単位[mm]
《上面図》
《前面図》
(3) 鋼管に拘束されたコンクリートの埋め込まれた鉄塔脚の引抜き定着耐力 深礎基礎へは支圧板定着方式による定着方式が用いられている.近年,大口 径場所打ち杭の施工が可能になり,1.0mの場所打ち杭でも支圧板定着方式の適 用が求められている.しかし,躯体径が大きいことを前提に開発されてきた支 圧板定着方式では,小口径になると定着長を長くしないと躯体径が大きい基礎 と同じ定着耐力を確保することができない.小口径では人が杭の中に入って作 業を行うことができないので,脚材定着長を短くさせることが施工性上よい.
したがって,支圧板定着方式の定着耐力を高める方法として図 1-13に示すよ うな鋼管によって拘束する方式について検討することとした.鋼管内にコンク リートを埋め込んだ構造に対しては圧縮荷重が作用する場合の耐力向上や水平 荷重が作用した場合のじん性能向上などの研究は行われているが,埋め込まれ た鋼管を引き抜く研究は見られない.
そこで,鋼管に拘束されたコンクリートの埋め込まれた鉄塔脚の引抜き実験 を行い,破壊モードおよび定着耐力を求め,耐力算定式の提案を行った.
脚材
リブ 支圧板
鋼管 コンクリート
図 1-13 鋼管拘束の適用方法
1.3 本論文の構成
本論文は次のフローに示す構成となっている.まず,第 1 章で送電用鉄塔基 礎の現状と研究の背景について述べた.主に,3つの課題について研究したこ とを説明した.第 2 章では深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力につい て述べた.第 3 章では鉄筋の定着耐力を高めるためのスパイラル筋による補強 の検討について述べた.第 4 章では鋼管に拘束されたコンクリートに埋め込ま れた鉄塔脚の定着耐力について述べた.第5章では第 2章~第4章で提案した 耐力算定式を設計に適用する場合の提案式を示した.最後に第 6 章で本論文の 結論を述べた.
本論文は,全6章で構成されており,各章の構成を図 1-14に示し,構成およ び概要は以下のとおりである.
第1章 序論
第2章 深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力 第3章 引張場に定着された鉄筋のスパイラル筋補強効果
第4章 鋼管に拘束されたコンクリートに埋め込まれた鉄塔脚の定着耐力 第5章 設計式の提案
第6章 結論
序論
深礎基礎への いかり材定着
引張場に配置 された軸力筋 のスパイラル筋
による補強
第1章
第2章 第3章 第4章
結 論
鋼管により拘束 された支 圧板定着方式
第6章
設計式の提案
第5章
図 1-14 研究全体のフロー
第1章は序論である.1.1で本研究の背景を示している.1.2では本研究の目 的について述べ,1.3では本論文の構成を示している.
第 2 章は深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力について論じている.
深礎基礎には支圧板定着方式が適用されてきたが,深礎基礎にいかり材を定着 した場合の破壊モードや定着耐力について検討した.この定着方式は 4 本杭支 持床板などのように従来から考えられていた引抜きせん断破壊でなく割裂破壊 モードになることが明らかとなった.また,支圧板定着方式に較べて,いかり 材が剛な構造であること,いかり材が脚材の最下部に埋め込まれることなどを 考慮した,新たな耐力算定方法についての検討結果を述べた.
第 3 章は引張場に定着された鉄筋のスパイラル筋補強効果について論じてい る.鉄塔材の基礎への定着に加え,反力として作用する深礎基礎の主鉄筋かぶ りが小さくなると定着耐力の増加が必要である.また,杭に支持された基礎で は杭鉄筋の必要定着長を確保するための定着長によって基礎の厚さが増加する などの弊害が生じる.そこで,定着長を少しでも短くするために鉄筋のまわり にスパイラル鉄筋を配置した場合の定着耐力の検討結果を述べた.
第 4 章は鋼管に拘束されたコンクリートに埋め込まれた鉄塔脚の定着耐力に ついて論じている.従来は深礎基礎などの太径杭に埋め込んでいたためコンク リートのみの定着耐力で躯体長を超えることは少なかった.しかし,小口径の 場所打ち杭や小口径の深礎杭に適用する場合,定着長が長くなるなど建設費に 影響を及ぼす.そこで,鋼管によってコンクリートを拘束することによって,
定着耐力を増大させた検討結果について述べた.
第5章は設計式について述べた.
第6章は結論であり,本研究を総括した.
参考文献
1) 前田弘:送電用鉄塔基礎としての4本杭に支持されたRCスラブの設計法に関する研究,土木学会論文 集,No.360/V-3, pp.101-110, 1985.8
2) 吉井幸雄:大型送電用鉄塔基礎への脚材定着に関する研究,東京大学学位論文, 1998.5
3) 田邉成:送電用鉄塔基礎の多様な要求形態に対応した鉄塔・基礎接合部の耐力設計法に関する研究,東 京大学学位論文, 2002.9
4) 吉井幸雄,田邉成,松島学,三島徹也:送電用鉄塔基礎のいかり材方式による脚材定着手法に関する研 究,土木学会論文集,No.606/V-41, pp.111-128, 1998.11
5) 吉井幸雄,飯島政義,齋藤修一,松島学:送電用鉄塔基礎の支圧板定着方式による脚材定着手法に関す る実験的研究,土木学会論文集,No.606/V-41, pp.129-140, 1998.11
6) 吉井幸雄,飯島政義,齋藤修一,松島学:送電用鉄塔基礎の支圧板定着方式による脚材定着手法に関す る解析的研究,土木学会論文集,No.606/V-41, pp.141-149, 1998.11
7) 田邉成,小宮山茂樹,齋藤修一,三島徹也:送電用鉄塔基礎の1本杭支持床板におけるいかり材定着手 法に関する研究,土木学会論文集,No.732/V-59, pp.47-62, 2003.5
8) 田邉成,齋藤修一,三島徹也,安雪暉:送電用鉄塔基礎の4本杭支持および直接支持床板における押抜 きせん断耐力に関する研究,土木学会論文集,No.739/V-60, pp.1-13, 2003.8
9) 電気共同研究 第25巻第2号,社団法人電気共同研究会,昭和44年6月 10) 電気共同研究 第30巻第3号,社団法人電気共同研究会,平成14年10月 11) 解説 電気設備の技術基準 ,経済産業省 原子力安全・保安院編,平成18年3月
2. 深礎基礎に埋め込まれたいかり材の定着耐力
2.1 はじめに
山岳地の送電用鉄塔は,主に図 2-1に示すような深礎基礎が多く適用されてき た.深礎基礎への鉄塔脚材の定着は図 2-2に示すように支圧板と呼ぶリング状プ レートを節状に取り付ける方法を適用している1).一方,鉄塔脚材を杭基礎等の フーチングに定着する場合は図 2-3 に示すように脚材の先端に十字型に配した いかり材を取り付ける方法を適用している2).しかしながら,十分な現場調査が 困難な場合,基礎型を施工時に変更できることが望まれている.このような場 合,脚材定着の方法が統一されていることが望ましい.
異形鉄筋の付着は,ふしからの支圧反力による円周方向の引張力により割裂 ひび割れが発生するメカニズムであることが明らかであり,Tepfersらにより理 論的な解が提案されている3).筆者らは,今までにも深礎基礎の支圧板定着方式 の実験を行い,Tepfersらが提案した上述の付着強度のメカニズムの理論を参考 に,内圧を受けるコンクリート部材として割裂破壊をモデル化し,設計手法を 開発している1).さらに,深礎基礎にいかり材を取り付けた定着方式の実験も行 い,割裂破壊をすることも示している4).上記の観点からフーチングにも深礎基 礎にも鉄塔脚の定着が可能なように,深礎基礎へのいかり材による定着手法の 適用性について検討を行った.
本章は,深礎基礎の躯体径および脚材の埋込み深さを因子として模型実験を 行い,定着耐力に与える影響について検討し,耐力算定式を提案した.さらに,
破壊モードを明らかにするために,破壊力学に基づいた数値解析も実施し,算 定式のメカニズムを明らかにした.
図 2-1 構造物と基礎形状
図 2-2 支圧板方式による定着
図 2-3 いかり材によるフーチングへの定着
躯体コンク
水平ひび割れ 割裂ひび割れ
支圧板 脚材(鋼管)
引抜き荷重
リート
脚材 いかり材
いかり材 風
引抜き荷重
引抜き荷重
風
2.2 模型実験
(1) 使用材料と配合
試験体は配筋が容易となるようにモルタルを用いて作成した.目標強度を
20N/mm2とし,各試験体で強度がほぼ同一となるよう早強ポルトランドセメン
トを用いて載荷時材齢としては 1 ヶ月以上とした.モルタルの配合を表 2-1 に 示す.
表 2-1 モルタルの配合
水セメント S/C 水 セメント 細骨材
(%) W C S
A,B,F 75 4.8 270 360 1720
C,D,E,G,H,I,J 75 4.6 270 360 1656 単位量(kg/m3) 試験体
スランプフロー:200±10mm
(2) 試験体及び試験方法
試験体の概要を図 2-4 に示す.図のように,深礎基礎を模擬した円筒形モル タル中にいかり材を取り付けた脚材を埋め込み,軸力筋として躯体円周上に D13 鉄筋を 16 本等間隔に配置した.脚材およびいかり材の鋼材は 780 および 590相当材,軸力筋はSD345を用いた.すべての軸力筋の先端を試験装置下部 に固定し,脚材を上部に引き抜くように載荷した.軸力筋の部分で付着破壊が 生じないように,軸力筋は付着耐力を高めるためにらせん筋で補強した.試験 体の因子は躯体径D およびいかり材の埋込み深さLeであり,図 2-4 に示した.
本因子により設定した各試験体を図 2-5 に示す.図に示すように,D は 200~
400mm,Leは50~400mmに変化させた.試験体の因子の詳細寸法を表 2-2に
示す.取付板の長さleは,脚材径と同一である.試験体は全10体である.試験 体の載荷状況を写真 2-1に示す.
一例として,試験体 G の計測機器の位置を図 2-6に示す.試験体上面のコン クリートと脚材の相対変位を 2 箇所測定した.割裂ひび割れの発生を確認する ために,試験体上面には 4 ヶ所にコンクリートひずみゲージを貼付した.軸力 筋の軸方向ひずみ分布を確認するために,軸力筋にひずみゲージを試験体長さ に応じて数段貼付した.
表 2-2 試験体一覧
いかり材
試験体 躯体径 躯体長 埋込深さ 径 長さ 厚さ 長さ
D L Le φ le tp la
A 200 200 50 36 36 9 51
B 200 250 100 36 36 9 51
C 200 350 200 36 36 9 51
D 200 450 300 36 36 9 51
E 300 300 150 42 42 9 57
F 300 350 200 36 36 9 51
G 300 450 300 42 42 9 57
H 300 550 400 42 42 9 57
I 400 350 200 42 42 9 57
J 400 450 300 42 42 9 57
(単位:mm)
鋼管 取付板
(a)正面 (b)上面 (c)軸力筋補強 図 2-4 試験体の概要
E
D B
A
F G H
C
J I
100 200 300 400
0 100 200 300 400
埋込み長Le(mm)
躯体径D(mm)
図 2-5 試験体因子一覧
固定 固定 いかり材 軸力筋
荷重P 脚材
Le
φ
取付板
D 軸力筋 いかり材
la
le
L
軸力筋
らせん鉄筋
写真 2-1 載荷状況
20 110 110 110 60
42
635 377
295 120
取付治具
変位計
鉄板
D13×16
300 42
30 a
b
c d
(a) 正面 (b)上面
2.3 実験結果
実験結果を表 2-3 に示す.本実験で得られた破壊モードはすべて割裂破壊で あった.この破壊モードの模式図を図 2-7 に示す.図に示すように,初めアン カー底部付近から水平に引張ひび割れが発生し,その後脚材中央から放射状に 割裂ひび割れが発生し,破壊に至った.水平ひび割れはすべての試験体で発生 したのではなく,比較的埋込み深さが大きいもので生じる傾向があった.割裂 ひび割れの本数は2~4本で,4本が最も多かった.
試験体F,H,Iの荷重-相対変位関係を図 2-8に例として示す.相対変位は,
図 2-4に示したように脚材頂部と躯体上面間の相対変位である.図から,3体と も最大荷重までほぼ弾性的な挙動を示し,脆性的な破壊に至ったことがわかる.
他の試験体も同様の挙動を示した.
水平ひび割れ発生荷重 Pcrを躯体コンクリート断面積 A で除した引張強度 fcr
(=Pcr/A)と躯体径 D の関係を図 2-7 に示す.一般に,引張強度は試験体寸法 の1/4~1/2乗に反比例して低下するといわれている5),6).本試験体でも同様の傾 向を示した.破壊時の終局耐力は割裂ひび割れに支配されることから,モルタ ルの引張強度が重要である.そこで,終局耐力 Puを引張強度 ftで除した Pu/ft
と本実験因子である埋込み深さLeと躯体径Dとの関係を図 2-10および図 2-11 に示す.ここで,上記で示した引張強度 fcrは寸法効果の影響を含んでいること や脚材および軸力筋の分担力も含まれているため絶対値の信頼性には問題があ る.そのため,コンクリート強度の補正に用いる引張強度 ftは圧縮強度 f’cから の推定値を用いた.図 2-10から,Leが増加すると終局耐力も増加している.図 2-11 から,躯体径が大きくなると終局耐力が増加するものもあるが,終局耐力 の増加が見られないものもある.
図 2-7 割裂破壊のひび割れ性状
水平ひび割れ
脚材
割裂ひび割れ
表 2-3 実験結果
躯体径 埋込み深さ 圧縮強度 引張強度 水平ひび割れ 引張強度 割裂ひびわれ終局耐力 D Le f'c ft 発生荷重Pcrfcr(Pcr/A ) 本数 Pu (mm) (mm) (N/mm2) (N/mm2) (kN) (N/mm2) (kN)
A 200 50 19.7 1.96 ---- ---- 4 37.5
B 200 100 20.1 1.99 ---- ---- 4 78.4
C 200 200 16.1 1.72 130 2.67 3 186
D 200 300 17.3 1.80 140 2.88 2 240
E 300 150 21.8 2.10 125 1.43 4 123
F 300 200 20.3 2.00 179 2.04 3 179
G 300 300 19.8 1.97 130 1.48 3 348
H 300 400 20.7 2.03 ---- ---- 4 390
I 400 200 21.0 2.05 ---- ---- 3 193
J 400 300 21.4 2.08 190 1.33 4 285
実験因子 試験体
実験結果
※ftはf’cから推定(ft=0.264×f’c2/3)
0 100 200 300 400 500
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 変位δ (mm)
荷重P(kN)
試験体F 試験体H 試験体I
図 2-8 荷重Pと相対変位量δの関係
G J E F DC
Pcr/A = 11.2×D-1/4
Pcr/A= 23.7×D-1/2 0.0
1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
fcr(=Pcr/A) (N/mm2)
A B
F
D
E I
G
H
C
J
0 50 100 150 200 250
0 100 200 300 400 500
埋込み深さLe(mm)
Pu/ft (kN/(kN/mm2))
D=200mm D=300mm D=400mm
図 2-10 Pu/ftと埋込み深さLeの関係
A B
E F
C I
G D J
H
0 50 100 150 200 250
0 100 200 300 400 500
躯体径D(mm)
Pu/ft (kN/(kN/mm2))
Le=50mm Le=100mm Le=150mm Le=200mm Le=300mm Le=400mm
図 2-11 Pu/ftと躯体径Dの関係
2.4 割裂耐力の算定式
(1) 割裂耐力と既往の割裂耐力算定式
既往の支圧板定着方式の研究 1)における割裂耐力算定式モデルの考え方を図 2-12(a)に示す.脚材に付けられた各支圧板から均等に応力を伝達し,その水平 分力により円周方向に引張力が発生し,割裂破壊することが明らかとなってい る.各支圧板からコンクリートに伝達される応力方向を45°とし,図に見られ るように斜線部のコンクリートが内圧に抵抗するとして,式(2.1)の割裂耐力Pc
の算定式が提案されている.1)
θ π
tan ) 2 / (
2 1 t
c
f a D
P ⋅L ⋅ − ⋅
= (2.1) ここで,L1:定着長さ(cm)
D:躯体径(cm)
θ:支圧力の方向(=45°)
ft:コンクリートの引張強度(kgf/cm2)
a:ひび割れが進展し,内圧を伝達するだけの部分(=0.289D)(cm) 本研究におけるいかり材定着方式では,いかり材の支圧力によって荷重が伝達 されると考え,支圧板方式の破壊メカニズムに準拠し,図 2-12(b)のようにいか り材から荷重が伝達される耐力モデルを仮定した.式(2.1)における L1をいか り材の埋込み深さLeとし,得られた耐力算定値 Pcと実験による耐力値Puの比 Pu/Pcと因子Le,Dの関係を図 2-13および図 2-14に示す.図 2-13から,同一躯 体径でのPu/PcとLe/φの関係はほぼ一定値となっている.一方,図 2-14に見ら れるように,Pu/PcとD/φの関係は,べき乗的に低下している.この点において 本いかり材定着方式は,既往の支圧板定着とは異なり,躯体径が耐荷力に大き く影響することがわかる.
(a)支圧板定着方式 (b)いかり材定着方式 図 2-12 算定式の考え方
B D A
C
G E F
H I J
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0
Le/φ
Pu/Pc
D=200mm D=300mm
D=400mm Ave=1.64(D=200mm)
Ave=1.15(D=300mm)
Ave=0.88(D=400mm)
図 2-13 Pu/PcとLe/φの関係 φ a
a=0.289D
D
σt=ftで破壊
引張力に抵抗する部分 ひび割れが進展して内圧を 伝達するだけの部分 2σt
σt
θ θ
L1 θ
F I C
G
J D
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
4.0 6.0 8.0 10.0 12.0
D/φ Pu/Pc
Le=200mm Le=300mm
Le=200の回帰
Le=300の回帰線
図 2-14 Pu/PcとD/φの関係
(2) アンカー定着における提案モデル
一般に,ディープビームなどのせん断スパン比が小さな構造物は,荷重作用 点からの力の流れが支点に向かう.本構造では明確な支点が存在しないが,い かり材からの反力はあるゾーンで軸力筋に伝達すると考え,支点的な状態にな ると想定される.反力の伝達域の中心点を支点と考え,その位置を鉄筋の上端 から Laの距離としてモデル化した.力の伝達モデルを図 2-15 に示す.Laの大 きさは不明なため La=0 と考え,式(2.2)に示すように各試験体の形状から軸力 筋先端へ向かう角度θ1を求めた.式(2.1)を式(2.3)に変形し,実験での終局耐 力値Puを用いて耐力算定式から推定した角度θ2を求めた.躯体径D とθ1,θ2 の関係を図 2-16に示す.
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
= −⎛ y
1 x
1 tan
θ (2.2)
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛ ⋅ ⋅ − ⋅
= −
u
t
P
f x D
L ( /2 ) tan 1 2 1
2
θ π (2.3)
図 2-16から,躯体径が大きくなるとθ1,θ2のどちらも大きくなる.従って,
躯体径が大きくなると反力の角度が水平に近くなるので,耐力が上昇しない原 因と考えられる.La=0ではθ2よりもθ1が小さいことから,実際の反力は鉄筋 の頂部ではなく頂部から下方向に長さLaだけ離れた位置に向かっていることが わかる.従って,図 2-15からLaは,式(2.4)で計算できる.
θ tan y x
La = − (2.4)
θ2から求めた長さLaと埋込み深さLeとの関係を図 2-17に示す.図に見られ るように埋込み深さ Le が大きくなるにつれて La が大きくなっている.Le が
100mm 以下の場合 Laは負となり,反力方向は躯体コンクリートの上面を越え
るようになり,本理論から逸脱するため除外した.図中の Le=200mm および
300mm の試験体は,躯体径が異なるにも関わらず Laはそれぞれほぼ一定の値
となっており,LaはLeに依存することがわかる.Laと埋め込みまでの鉄筋長y の比La/yと無次元化した埋込長Le/φの関係を図 2-18に示す.図に見られるよ うにyでLaを無次元化しても,埋込み深さによってLa/yが線形に増加している.
Le/φが無限に小さければ,破壊モードは割裂破壊でなく引抜きせん断破壊とな り,無限に大きければいかり材から水平に分断される引張破壊になると考えら
れる.従って,割裂破壊になるLe/φは上限値と下限値が存在すると考えられる が,本試験範囲内で上限値は確認できなかった.下限値はLa/y=0として設定す ることとした.Le/φによりLa/yが異なるために,両者の関係を求めると式(2.5) が得られる.
( )
0.0915 0838.
0 × −
= e φ
a y L
L (2.5)
式(2.5)からLaを求め,式(2.4)を用いると反力の角度θは式(2.6)から求め ることができる.
⎟⎟⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
= − −
La
y
1 x
θ tan (2.6)
上記の手順で得られたθを式(2.1)に代入することによって,新たに耐力計算 値Pc2を求めることができる.その値Pc2と実験値Puの比Pu/Pc2とLe/φ,D/φ の関係を図 2-19および図 2-20に示す.図 2-19および図 2-20には適用範囲外 のデータも黒印で併記した.適用範囲のデータの平均値0.99,変動係数8.3%で あり,比較的良い精度で耐力を推定することができる.
図 2-15 力の伝達モデル 荷重P
φ
θ La y
x Le
拘束 拘束
F C
I F
I
C J
D
G
J
D G
H H
0 10 20 30 40 50 60
0 100 200 300 400 500
躯体径D(mm)
反力方向θ1,θ2(°)
Le=200mm:θ1 Le=200mm:θ2 Le=300mm:θ1 Le=300mm:θ2 Le=400mm:θ1 Le=400mm:θ2
図 2-16 躯体径Dと反力方向θ1,θ2の関係
I
A B
D
E
H
G F
J
C
-100 -50 0 50 100 150 200 250 300
0 100 200 300 400 500
埋込み長L e(mm) 鉄筋頂部から支点までの距離 La(mm)
D=200mm D=300mm D=400mm
図 2-17 Laと埋込み深さLeの関係
A:-1.98
B:-0.15
D
C F
G
H
E I
La/y = 0.0838×(Le/φ) J
- 0.0915
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0 2 4 6 8 10
L e/φ
La/y
D=200mm D=200mm D=300mm D=400mm
図 2-18 La/yとLe/φの関係
C
D H
E F G
I J
A:3.05
B
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0 2 4 6 8 10
Le/φ
Pu/Pc2
D=200mm D=300mm D=400mm D=200mm
Ave=0.99 COV=8.3%
図 2-19 Pu/Pc2とLe/φの関係
A:3.05
B
E C
F I
G
D H J
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
5 6 7 8 9 10
D/φ
Pu/Pc2
Le=50mm Le=100mm Le=150mm Le=200mm Le=300mm Le=400mm
Ave=0.99 COV=8.3%
図 2-20 Pu/Pc2とD/φの関係
2.5 数値解析
(1) 解析手法
図 2-15の力の伝達モデルを設定することにより,割裂耐力が精度良く算定で きることが判明した.本モデルではいかり材からの反力が,θ方向に向かって 支点まで伝達されると仮定した.そこで破壊力学に基づき,モルタルのひび割 れ幅と引張応力の関係を割裂ひび割れに用いた数値解析を実施し,仮定した支 圧反力の方向の妥当性を検証することとした.
本実験結果より躯体の軸方向に数本の割裂ひび割れが発生し,いかり材定着 耐力を決定している.このひび割れはほぼ均等に発生するため,既往の支圧板 定着手法による解析7)と同様に,躯体周方向に割裂ひび割れを考慮して平均化し た応力-ひずみ関係の構成則を導入することで,3次元現象を軸対称解析モデル を用いて擬似的に表現することが可能と考えた.
コンクリートはひび割れ発生後に急激に応力を解放するのではなく,ひび割 れ開口とともに徐々に解放することが知られている6).本研究では,ひび割れ幅 と引張応力の関係に図 2-21(a)に示すような2直線モデル6)で表されるひずみ軟 化モデルを面内・面外のひび割れに適用し,躯体モルタルの引張軟化特性を表 現することとした.
本解析では分布ひび割れモデルを用いた.ひずみ軟化モデルとして図 2-21(a) の軟化特性を仮定すると,平均応力-平均ひずみの関係は,図 2-21(b)に示す3 直線でモデル化される7).図中の式より周方向の平均応力と平均ひずみの関係は,
半径 r に応じて与えられる.本解析では,躯体を半径方向に幅がほぼ等間隔と なるような複数のゾーンに分割し,各ゾーン毎の重心の値を代表半径として用 いた8).実験では円周方向で4本の割裂ひび割れ発生が最も多かったことから,
n=4とした.また,除荷時には,図 2-21(b)に示すように原点に向かう剛性を与 えた.
(2) 割裂ひび割れに対する構成式
2 次元平面内の割裂ひび割れと直交する方向の構成式を用いて,ひずみは図 2-21(a)に示した引張応力-ひび割れ幅関係から要素幅を介して得られる.模型 実験結果の破壊形態4)から,2次元平面外(円周)方向の割裂ひび割れが終局耐 力を支配していると考えられる.従って,割裂ひび割れの構成式では,ひび割 れ幅を全モルタル要素の平均要素幅で除してひずみを求め,図 2-21(b)に示した 応力-ひずみ関係に適用した.
(3) 解析ケース
埋込み深さおよび躯体径を本研究範囲内で幅広く網羅できるため,試験体F, H,Iの3体の解析を行った.解析の一覧表を表 2-4に示す.
躯体径D,埋込み深さLeの標準的な試験体Fの解析ケースをCase1,埋込み 深さLeの大きい試験体HをCase2,躯体径Dの大きい試験体IをCase3とし て選定した.
(a)軟化特性 (b)平均応力-平均ひずみ関係 図 2-21 構成則のモデル化
表 2-4 解析ケース一覧
試験体 解析ケース 躯体径 埋込み深さ
F Case1 300 200
H Case2 300 400
I Case3 400 200
ft
ft
E ft
平均ひずみε
平均応力σ
E f r nw1 t1
2 +
π
n:ひび割れ本数 r:半径
ft
ft1
w1 wc
開口変位w
引張応力σ
w1=0.75Gf/ft
wc=5.0Gf/ft
ft1=ft/4
Gf
(4) 解析モデル
全体の解析モデルを図 2-22(a)に示す.実験で脚材およびいかり材は降伏して いないことから,弾性体とした.弾性係数とポアソン比は E=200kN/mm2,ν
=0.3 とした.いかり材の形状は軸対称解析のため円形と仮定されることから,
実構造のいかり材と等価な曲げ剛性を持つように弾性係数を調整した.換算し たいかり材の弾性係数は試験体FでE=540kN/mm2,試験体H,Iで750kN/mm2 となった.
軸方向鉄筋はトラス要素を用いてモデル化し,鉄筋の引張試験結果から得ら れた弾性係数を用いE=183kN/mm2,ポアソン比はν=0.3とした.
図 2-22(b)のように軸力筋と躯体モルタルの界面は滑りを表現するため付着 要素を配した.この要素ではせん断方向のひび割れによる非線形性のみ考慮し た.図 2-22(c)のように脚材およびいかり材とモルタルの界面には,力の伝達と 変形による拘束がないようにE=100 N/mm2,ν=0.1,せん断剛性G=5 N/mm2 の接合要素を設定した.本設定値は試解析を行い,脚材からの伝達力が小さく 収束性が比較的良い結果となったものである.
躯体モルタルはDrucker-Pragerの弾塑性モデルを適用し,材料定数は各試験 体の管理供試体の実験結果を参考に定めた.モルタルの材料定数を表 2-5 に示 す.
図 2-22 数値解析モデル
表 2-5 モルタルの物性値
解析ケース 弾性係数 圧縮強度 引張強度 破壊エネルギー
(kN/mm2) (N/mm2) (N/mm2) (N/mm)
Case1 17.3 20.3 2.00 0.10 Case2 17.6 20.7 2.03 0.10 Case3 17.9 21.0 2.05 0.10
(a)全体 D Le
φ C.
モルタル
いかり材 脚材 接合要素
(c)いかり材近傍
接合要素
軸力筋
いかり材 モル タル
(b)鉄筋近傍
鉄筋 厚さゼロ
モルタル
付着要素